Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Title
糖尿病と歯周病との関わり∼疫学および介入研究∼
Author(s)
片桐, さやか
Journal
日本口腔検査学会雑誌, 8(1): 8-14
URL
http://hdl.handle.net/10130/3983
Right
糖尿病と歯周病との関わり~疫学および介入研究~
片桐 さやか
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯周病学分野
*:〒 113-8549 東京都文京区湯島 1-5-45
TEL 03-5803-5488 FAX 03-5803-0196
e-mail: [email protected]
1.はじめに
糖尿病は、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠性糖尿病、
その他の糖尿病の四種類に分類されるが、特に 1 型、
2型糖尿病と歯周病との関係が注目されている。糖
尿病患者は、生体防御機能の低下により、歯周病原
細菌に対し易感染性となり、歯周病に罹患しやすく、
治癒しにくいと考えられている。歯周病は糖尿病の
合併症のひとつであり、糖尿病と歯周病は相互に影響
する疾患であると広く認識されつつあり、日本糖尿病
学会診療ガイドラインも歯周病を取り上げている。
慢性感染症である歯周病と慢性代謝性疾患である
糖尿病は、発症メカニズムこそ異なるが、相互に影
響を及ぼしている。糖尿病は、歯周病を悪化させる
リスクファクターであり、糖尿病の改善によって歯
肉の炎症が軽減することが報告されている。歯周病
を進行させないために、糖尿病患者は血糖コントロー
ルを改善する必要がある。また逆に、2013 年には米
国歯周病学会と欧州歯周病学会の共同のコンセンサス
として、軽度から中等度の歯周炎は糖尿病の進行のリ
スクを上昇させ、重度歯周炎は血糖管理を悪化させる
と結論付けられており、歯周病の治療により血糖コン
トロールが改善する可能性が注目されている。
本稿では、文献や私どもの研究結果を交えながら、
糖尿病と歯周病に関する疫学、歯周病を治療した際
の糖尿病への効果、および糖尿病を治療した際の歯
周病への効果について説明する。また、糖尿病にお
ける様々な合併症と歯周病との関連についても検討
する。
2.歯周病と糖尿病に関する疫学
<糖尿病患者における歯周病罹患>
糖尿病患者では歯周病罹患率は健常者と比較して
増加し、さらに血糖コントロールが不良な糖尿病患
者では歯周病の発症および進行のリスクが上昇する
1)。糖尿病の発症率が高い民族として知られるピマ・
インディアンを対象とした研究で、2 型糖尿病群は年
齢、性別をマッチさせた非糖尿病患者群と比較して
歯周病罹患率が 2.6 倍であり、より重症であったと
報告されている
2)。1 型糖尿病患者においても同様に、
年齢、性別がマッチした非糖尿病患者群と比較して
歯周病の罹患率や重症者の割合が高いことが明らか
になっている
3)。
糖尿病から歯周病への影響を考えるうえでは、血
糖コントロールの程度が重要である。糖尿病患者に
おける高い歯周病罹患率と重度な歯周組織破壊は、
血糖コントロールが不良な糖尿病患者にのみ観察さ
れたと報告されている
4)。同様に、アメリカでの大
規模疫学調査である National Health and Nutrition
Examination Survey Epidemiologic Ⅲ (NHANES Ⅲ )
では、血糖コントロールが不良な糖尿病患者では、
非糖尿病患者と比べて糖尿病罹患率が 2.9 倍高い
5)と報告されている。さらに、血糖コントロールが良
好な糖尿病患者では、歯周病のリスクの有意な上昇
は認められなかったことも報告されている
6)。
<歯周病患者における糖尿病罹患>
一方、歯周病罹患者における糖尿病の罹患率につ
いては NHANES Ⅲの分析によると、歯周病患者の
12.5%が糖尿病に罹患しており、歯周病でない患者
では 6.3%であったと報告されている
7)。これは歯周
病患者の糖尿病になるリスクが歯周病でない者の約
2倍であり、歯周病患者では糖尿病罹患率が高くな
る可能性を示唆している。
血糖コントロールと歯周病罹患との関係について
は、重度の歯周病に罹患している 2 型糖尿病患者で
は血糖のコントロールが難しく、増悪することが明
日本口腔検査学会雑誌 第 8 巻 第 1 号: , 2016
らかになっている。ピマ・インディアンを含む 2 型
糖尿病患者を対象とした研究では、HbA 1c が 9.0%
以下の被験者を重度の歯周病に罹患した歯を有する
か否かによって分類したところ、重度の歯周病罹患
歯を有する被験者では、有さない被験者と比較して
2年後に血糖コントロールが悪化している割合が 3.2
倍であったと報告されている
8)。また、別の研究では、
進行した歯周病に罹患した糖尿病患者の血糖コント
ロールの状態が、2 ~ 3 年前の状態よりも悪化して
おり、一方進行した歯周病のない糖尿病患者の血糖
コントロールの状態は悪化していないことが報告さ
れている
9)。このように、重度の歯周病を放置して
いると2糖尿病患者の血糖コントロールが増悪する
危険があることから、歯周病は糖尿病のリスクファ
クターになる可能性が示唆されてきた。一方、1型
糖尿病患者では歯周病罹患による血糖コントロール
への影響は認められていない。
3.歯周病と糖尿病が相互作用するメカニズム
糖尿病と歯周病は相互に影響しながら増悪すると
考えられている(図1)。以下にそのメカニズムにつ
いて解説する。
<歯周病が糖尿病に影響するメカニズム>
歯周病は歯周病原細菌の感染による炎症性の疾患
であるが、歯周ポケット内に存在する歯周病原細菌
が全身に影響を与える経路は、大きく分けて二つあ
ると考えられている。ひとつは歯周病変局所の慢性
的な炎症反応で産生された炎症性メディエーターが
血中に入り、そのレベルが上昇することによるもの、
もうひとつは細菌が直接血液中に侵入する菌血症に
よるものである。これらの詳細に関しては、同時に
講演を行った青山先生が寄稿しているので割愛する。
TNF- α、IL-6 などの炎症性サイトカインはインス
リン抵抗性を上昇させる分子である。なかでも
TNF-αは古くより注目されている。細胞実験において、
TNF- α は、Insulin receptor substrate1 (IRS1) の セ
リン残基をリン酸化し、通常のインスリンシグナル
に必要である IRS1 のチロシンリン酸化を阻害するこ
と
10)、細胞内のグルコース輸送体である GLUT-4 の
mRNA を抑制すること
11)、細胞内へ過酸化水素を誘
導することにより、IRS1 のチロシンリン酸化を抑制
すること
12)などが報告されている。また、TNF- αノッ
クアウトマウスに高脂肪食を与えて肥満を誘発して
も、インスリン抵抗性は認められないことなどから、
TNF- αが直接的にインスリン抵抗性を引き起こすこ
とが示されている
13)。
また、近年、炎症性サイトカインではなく、脂肪
細胞から分泌されるアディポサイトカインで、イン
スリン感受性を高める作用のあるアディポネクチン
も注目されている。アディポネクチンは、血漿グル
コース濃度を減少させ、筋細胞における脂肪酸燃焼
不規則な食生活
歯の喪失 / 咀嚼機能の低下
TNF- α、IL-6 等の産生亢進
インスリン抵抗性
白血球の機能障害
血管障害
肥 満
糖尿病
歯周病
高カロリー / 高脂質 / 低食物繊維
図 1 歯周病と糖尿病において考えられる相互関係(文献 21 より改変引用) 8 - 14を増大させる
14)。また、アディポネクチンは、炎症
と負の相関があるとされ、アディポネクチンの血清
レベルの上昇がインスリン抵抗性を改善するといわ
れている
15)。実際に、血液中のアディポネクチンレ
ベルが、歯周病患者では低下する傾向があること
16)、
また低下していたアディポネクチンレベルが、歯周
治療によって上昇すること
17)が報告されている。
このように、糖尿病に罹患した歯周病患者には、
上記の分子を介して、インスリン抵抗性の上昇ある
いはインスリン感受性の低下が起こり、血糖コント
ロールが悪化すると考えられている
18)。
マウスを用いた研究では、LPS を持続的に皮下に埋
め込むと、肝臓と脂肪組織に脂肪の沈着が起き、体
重が増加すると報告されている
19)。無菌動物に高脂
肪食を与えても体重の増加は起こらず、LPS を体内
に入れることによって初めて肥満が起こることも報
告されている。実際、多くの歯周病原細菌は嫌気性
細菌であり、LPS を産生する。口腔内で産生された
LPS が循環し、脂肪の蓄積に影響している可能性も
考えられる。以上のことから、歯周病原細菌の LPS が、
肥満を引き起こし、耐糖能異常を経て、糖尿病の発
症に影響を及ぼす可能性も考えられる。
そして、検討は未だ不十分であるが、進行した歯
周病による歯の喪失、咀嚼機能の低下が、間接的に
血糖コントロールに影響することも考えられる。咀
嚼機能は栄養摂取に強く影響する。咀嚼機能が低下
すると、肉や食物繊維の多い固い食物を避け、軟ら
かい脂肪の多い食物を好むなど食行動の異常が起こ
り、摂取する栄養が偏る可能性が示唆されている
20)。
咀嚼機能の低下による食行動の異常は、糖尿病のリ
スクファクターである肥満を促進させる可能性もあ
る
21、22)。
<糖尿病が歯周病に影響を与えるメカニズム>
糖尿病患者が有する歯周病の引き金となる原因細
菌の種類は、正常者と比べ差異はないが
23)、糖尿病
において歯周病が悪化するメカニズムとして、1)
高血糖による脱水傾向のために口腔が乾燥し、唾液
の働きが悪くなり、歯肉に炎症が起こりやすくなる
こと、2)血糖値が高いと歯肉溝滲出液中の糖分も
高くなり、歯周ポケット内の歯周病原細菌が繁殖し
やすくなること、3)高血糖が続くと白血球の遊走
能・貪食能・殺菌能などの機能が低下し、歯周病原
細菌に対する抵抗力が低下すること、4)過剰な血
高 血 糖
アルドース還元酵素経路
AGE 経路
ROS 調節経路
PKC 経路
反応性糖 代謝物
細胞シグナル分子の活性化
(PKC、MAPK、NF- κ B など)
タンパク質合成の変化
遺伝子発現の変化
細胞障害と組織への損傷
血管新生の異常
細胞の過透過性
血流の異常
細胞の収縮
細胞の分化・発育異常
基底膜の肥厚 白血球接着因子の上昇
血管新生の異常
図 2 糖尿病における細小血管障害発生メカニズム(文献 36 より改変引用)日本口腔検査学会雑誌 第 8 巻 第 1 号: , 2016
中ブドウ糖とタンパク質とが結びつき生成される糖
化最終産物 AGE(Advanced Glycation Endproducts)
が、I 型コラーゲンやラミニンなど、歯周組織に
とって重要な基質分子が有する機能的な性質を変
化させること、などが挙げられる。その他に糖尿病
患者では、マクロファージの感染菌に対する反応、
Lipopolysaccharide (LPS) に対する反応が、正常者と
比較して、過剰になることなども挙げられる
1、24、25)。
AGE は上述したように、歯周組織における基質
分子に対して、直接的かつ不可逆的に構造変化を
引き起こす
26)だけでなく、AGE の受容体との結合
を介した細胞応答によっても障害を引き起こす
27)。
AGE の受容体は複数あるが、なかでも Receptor for
AGE(RAGE) に注目した研究が進められている。
RAGE は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属
し、AGE のほかにも S-100 タンパクや high mobility
group box 1 (HMGB1) とも結合し、様々な細胞シグ
ナル系に関与する
28)。 RAGE は健康な状態での発現
は低いが、AGE が蓄積している病的部位において発
現が上昇する
29)と考えられており、ヒト歯肉にお
いても、糖尿病に罹患した歯周病患者では、糖尿病
に罹患していない歯周病患者と比較して AGE の発現
が有意に上昇していること
30)が明らかになってい
る。Lalla らは、
Porphyromonas gingivalisを感染させたマ
ウスモデルを作成し、糖尿病マウスの歯肉での AGE、
RAGE および MMP の上昇を観察し、非糖尿病マウ
スと比較した
31)。さらに、RAGE の反応を阻害する
soluble RAGE
を同マウスに用いることにより、TNF-α、IL-6、MMP の減少および骨吸収を抑制できるこ
とを示した
32)。これらにより、AGE-RAGE 系に歯周
病原細菌の感染が加わることによって、炎症の持続
と悪化、および修復能の障害がおこり、歯周組織破
壊が促進されることが考えられる
33)。
また、AGE の組織での過剰蓄積も関与している糖
尿病性細小血管症では、高血糖が毛細血管細胞に生
化学的な分子構造の変化を引き起こし、やがて網膜
症や腎症、神経障害などの合併症へと進行し、これ
らが重度歯周疾患の合併のリスクを高める可能性が
報告されている
34)。歯周病は高血糖を伴わない肥満
のみでもリスクが上昇すると考えられていることか
ら
22、35)、高血糖による影響を大きく受ける細小血管
障害と同じく、大血管障害としての影響も同様に受
け、重度歯周疾患の合併のリスクが高まると考えら
れる
36)。網膜症や腎症においては、高血糖がアルドー
スレダクターゼ経路、AGE 経路、ROS 経路、PKC 経
路などを経て細小血管の傷害が起きることも明らか
になってきており(図2)、同様のメカニズムが歯周
組織に対しても起きているかを検証することも必要
である。
血管の基底膜の肥厚は、糖尿病による細小血管障害
において特徴的であり、基底膜の肥厚が網膜症・腎症・
神経障害・歯周病に関連していることが報告されて
いる
37)。基底膜の構成要素は未だ完全には解明され
ていないが、タイプⅣコラーゲン、フィブロネクチ
ン、ラミニンなどが主な構成成分となっていること
が明らかになっており、高血糖状態ではこれら構成
成分の合成が促進され、結果として基底膜が肥厚す
る。糖尿病で血糖コントロール不良の状態が続くと、
歯周組織における毛細血管にも同様な変化が惹起さ
れると考えられている。基底膜の肥厚・リモデリン
グは主に Matrix Metalloprotease (MMPs) と、MMPs
を 阻 害 す る Tissue Inhibitors of Metalloproteinase
(TIMPs) によって制御されているので
38)、糖尿病で
はこのバランスが乱れ、歯周組織にも影響を与えて
いる可能性がある。
様々な疾患と Reactive Oxygen Species (ROS) の関
連が報告されているが、高血糖状態は ROS を上昇さ
せることが明らかになっている
39)。ROS の上昇は、
cytochrome C の上昇や caspase-3 の活性化などを経
て、アポトーシスを促進させる
40)。従って、糖尿病
における過剰な ROS 産生は糖尿病での歯周組織破壊
につながると考えられる。
上記のように様々な因子が関与して高血糖状態は
糖尿病における細小血管障害の発症と進展を助長し、
様々な細胞の変性を引き起こすと理解されている。
これらの高血糖による細小血管障害因子の機序は、
糖尿病における歯周組織変化に影響し、歯周病罹患
のリスクを高めているものと考えられる。糖尿病の
歯周病易感染にはどのようなメカニズムが主要な役
割を果たしているかを検証することが重要な課題で
ある。
4.歯周病と糖尿病の介入研究
<歯周治療による糖尿病への効果>
歯周病が糖尿病のリスクファクターであるとする
と、歯周治療で血糖コントロールが改善できるだろ
8 - 14うか。特に注目を集めているのは、2型糖尿病患者
では、適切な歯周治療により血糖コントロールの指
標である HbA1c の値が改善する可能性があることで
ある。古くは、1型糖尿病患者で同年代の非糖尿病
患者と比べて顕著に歯周病罹率が高かったことから、
1型糖尿病患者に対する歯周治療の影響について検
討されてきたが、血糖コントロールへの影響はない
との報告が多数を占めていた
41)。一方、2型糖尿病
患者に対する歯周治療の影響に関しては歯周治療の
効果を認める報告が多くなってきている。Grossi ら
は、113 人のピマ・インディアンの2型糖尿病患者
を糖尿病の罹病期間や治療法が均等になるように 5
群に分けて、異なる方法の歯周治療を行った。この
研究では、抗菌薬であるドキシサイクリンの全身投
与を併用した歯周治療を行った場合にのみ、3 か月後
に HbA1c が有意に改善している
42)。本邦においては、
2型糖尿病患者に抗菌薬の局所投与を併用した歯周
治療を行ったところ、血清中の TNF- αレベルおよび
HbA1c が低下したと報告されている
43)。この際にイ
ンスリン抵抗性の指標となっている HOMA-IR が改善
していることから、インスリン抵抗性が改善するこ
とによって HbA1c が改善すると考えられている。私
たちは、歯周病と糖尿病との関係を検討するために
多施設介入試験を行った。2 型糖尿病患者に抗菌薬と
局所投与を併用した歯周治療を行ったところ、血清
中の CRP レベルの減少に伴って HbA1c が減少するこ
とを報告している
44)。
2010 年には、639 の介入研究から信頼出来る研
究を 5 つ選定し、2 型糖尿病患者に対する歯周治療
の効果についてのメタアナライシスが検討された
45)。
このメタアナライシスにおける解析対象論文は、歯
周治療の効果を 3 か月以上追跡していること、また、
歯周治療を行わないコントロール群を設定している
ことという基準が設定されている。この研究では、2
型糖尿病患者に歯周治療を行った際に、0.4%の有意
な HbA1c の減少が認められた、と結論付けている。
2013 年には、広島県の歯科医師会が中心となり、歯
周病に罹患した糖尿病患者を CRP レベルによって群
分けし、歯周治療の介入が血糖コントロールに与え
る影響を報告した
46)。歯周治療前に高感度 CRP の値
が 500ng/ml 以上を示していた被験者群では歯周治
療によって有意な CRP の減少とともに HbA1c の減
少が認められた。よって、CRP が高値を示す中等度
から重度の歯周病に罹患した糖尿病患者に対し歯周
治療を行うと、HbA1c の値が減少することが示され
た。しかしながら、同年にアメリカにおいて報告さ
れた 514 人を対象にした歯周治療の介入研究では、
非外科の歯周治療による HbA1c の改善効果は認めら
れないと結論付けられた
47)が、この研究は重度歯周
炎患者を対象としており、非外科治療のみでは歯周
組織の炎症のコントロールが十分にできていないこ
と、被験者の血糖管理が歯周治療前から良好であっ
たこと、被験者に肥満者が多いことが問題点として
挙げられている
48)。5000 名以上を対象とした糖尿病
患者の HbA1c と歯周治療の関係を検討した報告では、
歯周外科処置を受けた者は歯周外科処置を受けていな
い者に比べて HbA1c が有意に低いと報告されている
49)。
<糖尿病治療による歯周病への効果>
私たちは歯周病と糖尿病との関係を検討するため
に、歯科治療を行わず、血糖コントロールに対する
内科的治療の介入が糖尿病患者の歯周病病変に与え
る影響を検討する多施設介入試験を行った
50)。研
究対象は 45 歳から 70 歳の血糖コントロール不良
(HbA1c 7.4%以上)の糖尿病患者 35 名とした。内
科介入による糖尿病の治療としては、食事指導、経
口血糖降下薬、インスリンの投与あるいはこれらの
増強治療を各糖尿病担当内科医の管理の下に行った。
内科治療開始前、治療開始 2 か月後、6 か月後に歯
周病の検査として、歯周ポケットの深さの測定(PPD)
及び歯周ポケット検査時の出血の有無(BOP)の検
査を行った。
全被験者における解析では、内科的な糖尿病治療
のみの介入により、糖尿病血糖コントロール状態は
HbA1c が平均 9.5% から 8.3% に有意に低下した。そ
れに伴い、BOP 率は 34% から 25% の有意な減少が
認められた。PPD の値には有意な変化は認められな
かった。血糖コントロールの改善が BOP の減少につ
ながっていることを確認するために、内科治療介入
期間において、HbA1c の減少が認められた被験者群
(HbA1c 減少群;25 人)と HbA1c の減少が認めら
れないか、もしくは上昇した被験者群(HbA1c 非減
少群 :10 人)に分けたサブ解析を行った。HbA1c 減
少群では、BOP は 43% から 27% の有意な減少が認
められた。一方、HbA1c 非減少群では、BOP の有意
日本口腔検査学会雑誌 第 8 巻 第 1 号: , 2016
な変化は認められなかった。どちらの群においても、
PPD の有意な変化は認められなかった。この結果は、
HbA1c の減少が BOP の改善に寄与していることを示
している。
歯周病治療が血糖コントロールに影響するかどう
かを検討した介入研究は多数存在するが、糖尿病治
療が歯周病に影響するかどうかを、ヒトを対象に検
討した研究は世界的にも初めてであり、今後より大
規模な介入研究の計画が期待される。
5.おわりに
歯周病は歯周病原細菌で起こる口腔内の慢性感染
症であり、糖尿病は糖代謝の異常によって起こる代
謝疾患で、両者は病態の異なる疾患である。しかし
糖尿病患者で歯周病が高頻度に発症し、重症化した
歯周病が歯牙nの喪失や栄養摂取の障害となり、さ
らに糖尿病の病態を悪化させる悪循環を招くことが
考えられる。このように、糖尿病と歯周病はお互い
に密接に関連している。歯周病は糖尿病、心筋梗塞、
動脈硬化の発症と進行のリスクを上昇させる軽微な
慢性炎症のもととなることから、歯周病の予防と治
療は、口腔内の健康だけでなく、糖尿病の合併症の
予防のためにも必要であると考えられる。
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