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コンテキストを中心とするゴール整合方法の提案

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Academic year: 2021

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コンテキストを中心とするゴール整合方法の提案

2008MI252 津川 夏海 2008MI261 和田 百世 指導教員 青山 幹雄

1. はじめに

1.1. 研究の背景 情報システムの日常生活やビジネスへの浸透に伴い, 情報システムに関わるステークホルダが多様化し,情報シ ステムに対する要求も複雑化している.そのため,要求に 対するステークホルダ間の解釈の一致が重要となってい る. 1.2. 研究課題 ステークホルダの多様化に伴い,要求も複雑化し,要求 に対するステークホルダ間の解釈のずれが発生する.した がって,要求に対する解釈を整合させる必要がある. 本研究では,現実世界と要求を関連付け,要求の理解を 深め,ステークホルダ間の要求に対する解釈を一致させる とともに,問題解決となるシステム構築へと導くゴール指向 要求工学プロセスを提案する.

2. 要求工学の技術

2.1. ゴール指向要求工学 ゴール指向要求工学とは,課題解決に向けたゴールの 抽出,さらに,ゴールを達成するための手段の抽出を行う 手法である[1]. 2.2. Jackson 問題フレーム Jackson の問題フレームとは,情報システムが解決すべ き問題の存在する,情報システムの外の世界と情報システ ムとを区別し,認識するために用いる.さらに,問題の構造 化と分析に利用する[3]. 2.3. ユースケース図 UML の図の 1 つであるユースケース図は,ユーザに対 するシステムの機能と,それを取り巻くコンテキストを表現し た図である[2].要求分析段階で,開発者がユーザに機能 要求を確認するために用いられている[5].

3. 関連研究

3.1. B-SCP(Business-Strategy Context Process)

B-SCP は,ビジネス要求からシステム要求を導く方法で あり,ゴールモデルとJackson 問題図を統合したものと役割 活動図(RAD: Role Activity Diagram)で構成されている[7].

3.2. ミスユースケース図 ミスユースケース図とは,ユースケース図を拡張した図 であり,セキュリティ要求などの確認に用いられている[2]. ユースケース図に新たに加わる要素は,システムに危害を 加えるミスユースケースと,それを回避する対策ユースケー スと,敵対的なミスアクタである. 本研究では,ユースケース図とミスユースケース図をゴ ールへの関連付けに用いる.また,ミスユースケース図で は,ゴールを満たせない原因をミスユースケースとし,解消 方法を対策ユースケースで表現することで,情報システム の必要性を示す.

4. アプローチ

本研究では,現実世界の問題点を踏まえた要求分析, さらにゴール整合に向けたゴール指向要求工学プロセスを 提案する. ゴール指向要求工学の詳細なプロセスを定義し,それ に対応する表記法を提案する.用いる表記法の1 つである コンテキスト図は,問題領域を定め問題点を洗い出すこと でステークホルダの要求を正確に把握し,要求のスコープ を整合することで,トップゴールと整合のとれたゴールのみ を抽出する役割を持つ.

5. ゴール整合方法

本研究では,要求分析からシステム要求定義までの各 プロセスにおいて段階的にゴールを整合させ,ゴールに対 するステークホルダ間の解釈を一致させるゴール指向要求 工学プロセスを提案する. 5.1. 前提条件 1) ステークホルダは特定されている. 2) 特定されたステークホルダから要求は抽出されてい る. 3) 抽出された要求からトップゴールは定められている. 4) 顧客の事業におけるビジネスユースケースは抽出さ れている. 5.2. 提案プロセス 提案するゴール指向要求工学プロセスを図1 に示す.

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(4)   戦略の確認 (5) 戦略ゴール木の分析と コンテキストとの関連付け (1)   ビジネス分析 (3)   戦略ゴールの決定 ビジネスユースケース図 ゴール木 戦略ゴール木 戦略パッケージ (2)   トップゴールの分析 プロセス 成果物 戦略ゴール木, ユースケース図,ミスユースケース図 図 1 ゴール指向要求工学プロセス (1) ビジネス分析 ビジネスユースケースから事業計画などに基づきビジネ スユースケース図を作成し,現実世界を把握する.さらに, 問題領域を定め問題点を洗い出す. (2) トップゴールの分析 前述の(1)で抽出された問題点の解決に向け,トップゴ ールをゴールモデルで分析し,ゴール木を作成する.ゴー ル木のモデル図を図2 に示す.ゴール木の要素は i* に基 づき構成されている.構成要素は,ソフトゴール,ハードゴ ール,タスクである.リンク間の関係はAND,ORで示し,各 ゴール間の依存関係は図2 のように表記する. ゴ | ル の 詳 細 化 ソフトゴール タスク タスク タスク ハードゴール OR タスク タスク ハードゴール トップゴール ハードゴール ソフトゴール タスク タスク AND 図 2 ゴール木のモデル図 (3) 戦略ゴールの決定 前述の(2)で生成されたゴール木の最下位に存在するタ スクはステークホルダが選択すべき戦略となる.ステークホ ルダは話し合いにより,各ソフトゴールからタスクまでが持 つトップゴールへの影響度を評価し,値を付ける.この値を 評価値とする.その後,その評価値を参照して戦略とするタ スクを決定する.評価値x の範囲はサブゴールが n 個とす ると,1≦x≦n である.影響度の高いゴールに対し,点数を 高く付ける.決定したタスクと,そのタスクからトップゴール まで繋がれたゴールを戦略ゴールとし,戦略ゴールのみで 生成されたゴール木を戦略ゴール木とする. (4) 戦略の確認 前述の(3)で決定した戦略ゴールをユースケースパッケ ージ(以下パッケージと略記)で表記する.これを戦略パッ ケージとする.戦略パッケージを用いて戦略ゴール間の依 存関係に関する理解を深め,戦略の確認をする. (5) 戦略ゴール木の分析とコンテキストの関連付け 戦略ゴール木を再度ゴールモデルにより機能要求が抽 出されるまで分析し,詳細化する.同時に,ゴールはコンテ キスト毎にグループに分けられ,コンテキスト図を各グルー プに関連付ける.ここで用いるコンテキスト図は,ユースケ ース図とミスユースケース図である.システムが達成すべき ゴール層では,システムの実現目的となる問題点をミスユ ースケースで表記し,ゴールと照合するため,ミスユースケ ース図を関連付ける.ゴールを達成するための手段となる ゴール層では,ユースケース図を関連付ける.ゴールとコ ンテキスト図の関連付けを図3 に示す. トップゴール ミスユースケース 図 3 ゴール木とコンテキスト図の関連付け ゴールにコンテキスト図を関連付け,ゴール整合や問題 領域を明確にする.これにより,要求に対するステークホル ダ間の解釈の不一致を防ぎ,問題解決となる要求獲得を図 る.

6. 例題への適用

6.1. ビジネス分析 喫茶店の例を用いて提案プロセスを説明する.また,ト ップゴールを「喫茶店は顧客を増やす」とする. 本研究では,現実世界の問題点を解決させることがステ ークホルダの要求に着目した.そこで,現実世界を構造化 して図示するため,ビジネスユースケース図を用いた.喫 茶店におけるビジネスユースケース図を図4 に示す. 珈琲豆を製造する 喫茶店を開業する 珈琲豆を提供する 店舗の管理 珈琲を 提供する 人を雇う 従業員(喫茶店) 従業員(工場) <<include>> 従業員(本店) FC店 顧客 喫茶店 工場 本店 店長 店員 図 4 ビジネスユースケース図 問題領域を定め問題点を洗い出すことで,要求を抽出 した.定められた問題領域は塗りつぶされている.

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6.2. トップゴールの分析と戦略ゴールの決定 6.1.で抽出された問題点の解決となるゴール獲得に向け, 前提条件にあったトップゴールをゴールモデルで分析する. 戦略を決める目的であるため,機能要求となるタスクまで分 析する必要はない.各ソフトゴールからタスクまでが持つ影 響度を評価値で示す.評価値を参照し,ステークホルダの 話し合いにより戦略とするタスクを決定する.トップゴールを 分析し,評価値を付加したものを図5に示す.選択すべきタ スクは塗りつぶし,決定したタスクを破線で示す.決定した タスクと,そのタスクからトップゴールまで関連するゴールを 戦略ゴールとし,戦略ゴールのみで生成されたゴール木を 戦略ゴール木とする. 宣伝 する 不満を 減らす 低価格 で提供 する メニュー を増やす 利益を 還元する 店を リニュー アルする 顧客の意見 を聞く 営業時間 を調節する 空調を 調節する 業者に依頼する HPを 作成する チラシを 作成する チラシ を配る 原料を 変更する 取引先に 価格交渉する 業者に 依頼する 回覧板ノート を作成し、 顧客の意見 を共有する 店内を 快適 にする 一品の量を減らす クーポン を実施 する 呼び込み をする スタッフで アドバイス し合う アンケート を実施する コンセプト を決定する 看板で 宣伝する エアコンを 利用する レシピ を作成 する 新商品を 開発する ネットで宣伝する 発売時期を 決定する 喫茶店の 顧客を増やす 原価を 抑える +4 +3 +5 +3 +2 +1 営業時間 を長くする 図 5 戦略ゴール木のモデル 6.3. 戦略ゴールの確認 戦略ゴールは戦略パッケージを用いて,図6 のように表 記する.戦略パッケージは戦略ゴールの依存関係を示し, 戦略に対するステークホルダの理解を深める役割を持つ. <<import>> 宣伝する 店内を快適にする アンケートを実施する 低価格で提供する 顧客の意見を聞く 喫茶店の顧客を増やす 利益を還元する クーポンを実施する ネットで宣伝する HPを作成する <<import>> 図 6 戦略パッケージ 6.4. 戦略ゴール木の分析とコンテキストの関連付け 戦略ゴール木を再びゴールモデルを用いて分析し,詳 細化する.戦略ゴールは塗りつぶしている.また,システム が達成すべきゴール層では,ミスユースケース図を関連付 ける.ゴール達成の手段となるゴール層では,ユースケー ス図を関連付ける. ゴール木とコンテキスト図は,達成目 的からシステムの操作の流れへと詳細化する. ミスユースケース図の構成手順は,トップゴールを具体 化した「顧客を呼び込む」をユースケースとして表記する.ト ップゴールを阻害するミスユースケースは,ステークホルダ の話し合いにより決定し,「喫茶店に来店しない」をミスユー スケースとして表記する.ミスユースケースを回避する「宣 伝する」を対策ユースケースとして表記し,サブゴールと一 致することを確認する.さらに,ミスユースケースと戦略ゴー ルを照合する.ミスユースケースは戦略に沿ったゴールの みを抽出し,ゴール整合を図る役割を持つ.詳細化したゴ ール木とコンテキスト図の関連付けを図7 に示す. <<include>> 顧客を 呼び込む 店長 喫茶店 顧客 (全体) 喫茶店を 知らない 来店しない喫茶店に 顧客 ネットで 宣伝する 顧客の 意見を聞く 低価格で 提供する 店内を 快適にする 宣伝する 情報を 入力する 情報を 更新する クーポンを 作成する お知らせページ を設ける 広告代理店に HP作成を 依頼する アンケート 入力欄 を設ける 特典を 付ける HP上で 配布 広告 宣伝する 代理店 喫茶店のHP 店長 顧客 HPを 作成する<<include>>料金を支払う 宣伝する 顧客 店長 喫茶店のHP 広告 代理店 アンケートを表示する クーポンを提供する アンケートに 回答する 喫茶店のHP 店長 HPの 更新 情報入力 <<include>> クーポンを 提供する <<include>> 広告 代理店 顧客 <<threaten>> <<mitigate>> <<include>> クーポンを 実施する 利益を 還元する 宣伝 する アンケートを 実施する HPを 作成する 喫茶店の 顧客を増やす! 図 7 ゴール木の詳細化とコンテキスト図の関連付け

7. 評価

7.1. 評価基準 例題を用いてB-SCP と提案するゴール整合方法の比較 と,ミスユースケース図の有無での比較をする.評価の観点 は次の2 つとする. (1) 要求に対する解釈の一致 (2) ミスユースケース図の効果 7.2. B-SCP とゴール整合方法 関連研究であるB-SCP と提案するゴール整合方法につ いて,喫茶店の例を用いて検証する.B-SCP に例題を適用 したゴール木とコンテキスト図の関連付けを図 8 に示す. また,提案するゴール整合方法に例題を適用した提案モデ ルは図7 と同様である. 喫茶店の 顧客を増やす! HPを 作成する ネットで 宣伝する 顧客の 意見を聞く アンケートで 意見を収集する クーポンを 実施する 価格を 変更する 店内を 快適にする 宣伝する 情報を 入力する 情報を 更新する クーポンを 作成する お知らせページ を設ける 広告代理店に HP作成を 依頼する アンケート 入力欄 を設ける 特典を 付ける HP上で 配布 店長 顧客 喫茶店 価格を 下げる 広告代理店 店長 顧客 喫茶店のHP クーポン アンケート 喫茶店 広告代理店 顧客 喫茶店のHP アンケート クーポン 図 8 B-SCP による喫茶店の ゴール木とコンテキスト図の関連付け

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B-SCP はゴールモデルと Jackson 問題図で構成されて おり,それぞれゴールとゴールの達成手段との関係性とコ ンテキストを表している.ゴールモデル側の破線で示され ている楕円を,ゴール層とする.ゴール層はコンテキストご とに,ゴールを大まかにまとめるのに役立つものである. 両者の大きな違いは,コンテキストの表現方法である. B-SCP は,Jackson 問題図を用いて表しており,提案方法は ユースケース図,ミスユースケース図を用いて表している. 両者の表現方法の違いについて比較した結果を表1 に 示す.次の4 つの項目について,比較をした. 表 1 B-SCP と提案方法の比較 比較項目 B-SCP 提案方法 ステークホルダ 表現可 表現可 機能要求 表現不可 表現可 アクタと情報システムの相互作用 表現不可 表現可 ゴール階層 3 層 4 層 提案方法では,機能要求をユースケース,ミスユースケ ースで表現できる.これにより,アクタと情報システムの相互 作用を表現できるようになった.また,ステークホルダが同 じコンテキストであっても提案方法では,機能要求の違い によってコンテキストを分けることができるので,提案方法 ではゴール階層が増えている. このように,提案方法は B-SCP よりも多くの情報を記述 できていることが分かる.このことが,ステークホルダ間の 「(1)要求に対する解釈の一致」に貢献していると言える. 7.3. ミスユースケース図の効果 ミスユースケース図はコンテキストを表記する際,情報シ ステムのステークホルダや必要性,阻害要因を表現できる. さらに,対象となるコンテキストのみを表現できる.また,戦 略ゴール木の分析時に情報システムのステークホルダや 必要性,阻害要因を意識して,機能要求を抽出できる.さら に,最終的にステークホルダ間での情報システムの必要性 の確認に役立つ.

8. 考察

B-SCP と提案するゴール整合方法の大きな違いは,コ ンテキストの表現方法であった.B-SCPはJackson問題図で コンテキストを表記しており,提案するゴール整合方法はユ ースケース図とミスユースケース図を用いて表記している. コンテキストをユースケース図,ミスユースケース図で表現 したことでコンテキストに機能要求を表記することが可能に なった.また,ミスユースケース図は開発する情報システム のステークホルダや必要性,阻害要因を表現することが可 能である.そのため,ユースケース図のみでコンテキストを 表現するよりもゴールに則したコンテキストの表現が可能に なった. 以上のように,提案するゴール整合方法では B-SCP と 比較するとゴールに対する情報量が増え,ゴールに対して 適切なモデルを表記することができた.このことが,ゴール の整合を可能にし,要求に対するステークホルダ間の解釈 の一致に繋がる.

9. 今後の課題

今後の課題として2 点挙げられる. 1 点目にゴール木の評価値が開発者の主観的な点数と なっているため,評価基準を具体化する必要がある. 2 点目にユースケース図は詳細な機能を記述すると図 が複雑になる場合があるため,ユースケース図の表現方法 について検討する必要がある.

10. まとめ

本研究では,Jackson 問題図の概念である,現実世界の 問題点を理解することが要求分析に繋がる点に着目した. 要求分析の各プロセスに沿った図を表記することで,ス テークホルダ間で問題領域を意識し,ゴール整合を図るゴ ール指向要求工学プロセスを提案した. また,ゴールに関連付けるコンテキスト図にユースケース 図とミスユースケース図を用いることで, B-SCP よりもゴー ルに対する情報をさらに付加することが可能となり,ゴール に対して適切なモデルを表記することで,問題解決に向け た有効性のあるゴールのみ抽出することができた. この結 果からゴール整合に効果をもたらしたと言える.

参考文献

[1] S. J. Bleistein, et al, Requirements Engineering for e-Business Systems Proc. of APSEC ’04, pp. 410-417. [2] G. Booch, et al. , The Unified Modeling Language User

Guide, 2nd ed. , ACM Press, 2005.

[3] M. Jackson, Problem Frames, ACM Press, 2001 [榊原 彰 (監訳), プロブレムフレーム, 翔泳社, 2006].

[4] REBOK企画WG, 要求工学知識体系, 第1版, 近代科 学社, 2011.

[5] D. Pilone, et al. , UML Quick Reference O’Reilly, 2006 [原 隆文(監修), UML2.0 クイックリファレンス, オライリ ー・ジャパン, 2006]. [6] 鈴木 香予, 村瀬 珠美, 視覚化を用いた要求獲得方 法の提案 南山大学2008 年度卒業論文, 2009. [7] 近藤 忍, ゴール指向に基づく事業戦略要求分析方法 論の提案 南山大学2010 年度修士論文, 2011.

参照

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