第 652 回健康教育講座
「夜眠れない人と昼間眠たい人のために」
∼不眠症について∼
開催日 平成18年9月7日(木) 講 師 藤田保健衛生大学医学部精神医学教室講師 北 島 剛 司 工業化・商業化が著しく進んだ現代は、不眠の時代とも言うべき睡眠を妨げる環境に満ちたも のといえます。その一方で「惰眠をむさぼる」「寝る時間も惜しんで」などの表現が表すように睡 眠は必要悪と捉えられがちであり、睡眠に関する様々な症状が治療の必要な病気であるとの社会 の認識はいまだ不十分と言わざるを得ません。そんな中どうやって我々は健康な睡眠を得て生活 の質を高めることが出来るか、今回は具体的な対策をお話ししたいと思います。 様々な調査によると一般人口の中で 2 割前後の人が不眠を持つとされます。不眠はそれだけで 非常に苦痛を感じるものですが、更に昼間の記憶力や判断力、集中力などを低下させたり、自律 神経やホルモンの活動を乱すなど心身に悪影響をもたらします。また、近年特に問題とされてい るうつ病が不眠と密接に関連していることも明らかになっています。しかしその対策を考えた場 合、誤って理解されていることが少なくありません。 では、正しい対策はどうすればよいのでしょうか。“不眠”とひとくくりにしてしまうと対応を 間違えてしまうことが少なくなく、どのような不眠なのかを考える必要があります。例えば、今 本当に不眠と言うべき状態なのか、睡眠時間という形ではなく、熟眠感や日中の心身の具合など 睡眠の質で判断する必要があります。不眠には主にそれだけの場合と、それに更にいろいろな症 状・要因が加わっている場合とがあります。前者の場合は、まず睡眠衛生を改善し、それでもダ メな場合は睡眠薬を適切に使用します。後者の場合は、更にどの様な原因による不眠なのか分析 を進めてそれに合った対応をします。 不眠の原因として忘れてはならないのはうつ病です。うつ病はおよそ1割前後の人に生ずると 言われており、気分がゆううつになってやる気が出なくなり、仕事や家事などができなくなって しまうなど深刻な状態になることが少なくなりません。うつ病のほとんどの人に不眠がみられ、 しかも初期症状であることがしばしばあります。この場合、睡眠薬を飲んでいるだけでは不眠も うつ病も治りませんし更に症状が悪化してゆくこともありますので、心療内科や精神科などの専門医に相談して頂く必要があります。 不眠の一方で、意外にも日中の眠気を問題に感じている方も1割以上にものぼるとされます。 日中の過剰な眠気は、自動車事故や仕事の能率の低下、気分の落ち込みを引き起こすなど大きな 問題となります。この中で最も頻度が高いのが睡眠時無呼吸症候群です。中年以降の男性、肥満 の方に多く、睡眠時の激しいイビキが特徴ですが、本人は症状にしばしば無自覚です。昼間の眠 気の他、高血圧やその他心臓の病気を悪くしていることがしばしばあります。終夜睡眠ポリグラ フィーという睡眠の検査を行うと簡単に診断することが出来、内科、耳鼻科、口腔外科などと共 同で治療に当たります。若い方もしばしば昼間の眠気で受診されますが、実際に多いのは睡眠不 足で、睡眠日誌をつけて頂いて初めてご本人も気づくことがよくあります。しかし中にはナルコ レプシーという本格的な睡眠障害の方も少なからずおられ(情動脱力発作、金縛りなどの症状が 特徴的にみられます)、専門の検査で診断され、薬で症状の緩和を図る必要があります。 夜寝付くことが出来ず、逆に朝起床することが困難で学校や会社に遅刻したり欠席したりする のも、実は睡眠覚醒リズム障害という体内時計の病気であることがあります。特にお子さんの場 合いわゆる不登校とみなされがちですが、薬や光療法などの治療でよくなることがしばしばあり ます。 このほか、寝入りばなに足や体がむずむずして眠れない、夜中に知らない間に異常な行動をお こしてしまうなど、治療でよくなる病気がいくつもありますので、時間の許す限りご紹介したい と思います。最後に、平成 13 年に厚生労働省の研究班が「睡眠障害対処の 12 指針」というもの をわかりやすく作成していますので、良い睡眠をとるための日常生活上の工夫、あるいは気をつ けるべき不眠以外のサインなどについてお話しします。また、不眠に対して睡眠薬を使うことに どうしても不安を感じられることが多いと思いますので、それについても正しい知識をお伝えで きればと思います。 愛知県医師会 〒460-0008 名古屋市中区栄 4-14-28 TEL 052-241-4143