はじめに
周知のように, 2020 年における新型肺炎の流行は, 各方面に甚大な影響をもたらしている. 労働力についても例外ではなく, 渡航規制により来日または帰国できない多くの外国人労働者の 存在が明らかになった. 農業分野においても, 技能実習生が来日できずに人材確保が困難になっ た産地の実情等, 数多く報道された1. 日本社会がいかに外国人労働力に依存しているか, 改め て認識せざるを得ない事態が発生した. 今回の緊急事態を受け, 他業種から人材を確保し, 生産 への影響を最小限に留めた産地もあるものの, 急場凌ぎに過ぎず, 今後, 外国人労働力への依存 は継続することが考えられる. 近年, 日本は, 深刻な人手不足に直面している産業界の要望を背景に, 外国人労働力受け入れ に関わる制度が整備され, 受け入れ規模は拡大している2. 後述するが, 2019 年 10 月時点で, 外農業法人における高度外国人材の受け入れ実態と
企業経営に果たす役割
熊本県農業法人 2 社の調査事例より
The actual situation of accepting highly skilled foreign workers in agricultural corporations and their role in corporate management
―From a case study of two agricultural corporations in Kumamoto―
西野
真由
* Mayu NISHINO * 愛知県立大学外国語学部准教授 1 例えば, 日本一のキャベツの生産地として知られる群馬県嬬恋村では新型肺炎の影響で, 技能実習生 の大半が来日できず, 観光業から人材を確保した. また, JA 佐久浅間農協は管轄内で受け入れを予 定していた技能実習生 90 名が来日できず, 観光業界から人手を確保し, 生産減少を回避したという. 日本経済新聞 2020 年 8 月 17 日付け 「嬬恋村, 外国人来ないキャベツ産地 人材確保を模索」, 同 2020 年 7 月 18 日付け 「農場を救った観光業界 コロナで外国人実習生来ず」 参照. 2 2019 年 4 月 1 日より, 改正出入国管理法の施行に伴い新たな在留資格 「特定技能」 が創設され, 就労 を目的とする特定技能制度が開始した. 人手不足が深刻な産業を中心に, 一定の技能と日本語能力を 有する外国人に対して就労の道を開いた点に特徴があり, 「特定技能 2」 では滞在期間の延長が示され国人労働者は約 166 万人に達している. その内訳は, 本稿で取り扱う 「専門的・技術的分野」 の 在留資格は約 33 万人で全体の 2 割程度を占め, 「身分に基づく在留資格」 が約 53 万人, 「技能実 習」 と 「資格外活動」 (留学生等) はそれぞれ約 40 万人の規模に拡大し, 多様な産業の担い手に なっている. これまで, 日本における外国人労働者に関する先行研究は, 日系人, 技能実習生の雇用に関し て多く蓄積されている3. 他方, 高度外国人材 (以下, 高度人材), 留学生に関する研究は日系人, 技能実習生と比較して少なく, 高度人材と留学生政策, 日本企業への就職に関連した研究が中心 といえる4. 上林 (2017) は, 企業の高度外国人材に対するニーズと役割期待を考察し, 海外と の取引をする際に, 「生活習慣という文化の差異」 と 「企業内の組織文化の差異」 という二重の 意味での文化的差異の存在があり, これらの文化的差異を埋める人材として, ブリッジ人材の必 要性及び役割期待について指摘している5. 農業分野の外国人労働力に関する研究は, 技能実習生を中心に蓄積され, 高度人材の受け入れ については堀口 (2019) があげられる6. 堀口 (2019) は, 農業分野において外国人労働力が量 的に拡大するなか, 雇用難の日本人の代わりに技術ビザで海外の大卒者を幹部に雇用する新たな 動きが見られるとし, 質的な外国人雇用拡大の現状を指摘している7. しかし, 高度人材の属性 や就業実態, 農業経営における外国人労働力の役割についての考察は限定的といえる. 農業分野 の高度人材受け入れに関する研究は, 緒に就いたばかりといえるだろう. 農業分野の担い手不足は, 大別すれば, 収穫や調整作業等を担う現場の人材不足と生産の計画 や作業の管理指導等, マネージメントを担う中間管理者の不足という 2 つの側面で発生している. 中長期的に見れば, 両面において外国人材に依存していくことが予想される. 前者はすでに相当 数の技能実習生が担い手になっており, 後者については, 今後, 高度人材が担うことが考えられ る. 本稿の調査対象企業である A 農業法人は, 国内の農業法人で初めて高度人材を受け入れた 実績を有する. 堀口 (2019) で指摘されている農業分野における質的な外国人雇用の拡大につい ている. 「特定技能」 の創設は, 人手不足のいわゆる単純労働職種における受け入れを実質的に認め たと捉えられる. 上林 (2020) によると, 「新たに導入された特定技能制度は, 日本の外国人労働者 受け入れ政策上, 転換点を画すもの」 であり, 「史上初めて, 人手不足を理由に低熟練労働者を正面 から受け入れることが可能となった」 と指摘している. 上林 (2020) p.20 より引用. 3 詳しくは西野 (2020) 参照. 4 福嶋 (2016) は外国人高度人材の受け入れの現状と政策とのギャップについて質的調査を行い, 企業 が外国人高度人材を採用する理由は, 文科省の掲げるイノベーションを起こす人材の確保というより も, 「会社の理念や方針を理解し, 和を乱さず日本人社員と仲良く仕事ができる人材」 (p170 より引用) と指摘している. 守屋 (2018) は, 技能実習生, 高度人材の就労実態について考察し, 技能実習制度 の改善策, 高度人材の定着化, 活用について述べている. 猿渡 (2019) は, 北陸地方の高度人材の採 用実態について分析し, 留学生の高度人材への育成, 受け入れ企業側の課題について指摘している. 5 上林 (2017) 304 ページより引用. 6 農業分野の技能実習生に関する研究として, 大仲 (2019), 宮入 (2015), 北倉・池田・孔 (2006) 等 があげられる. 7 堀口 (2019) 395 ページ参照.
て, A 農業法人の事例から, 具体的な就業実態の把握と高度人材が農業法人に果たす役割につ いて考察することは, 日本農業が抱えている担い手問題8, さらには, 農業法人経営の維持, 発 展の道筋を探る上で, 一つの有益な材料になると考えられる. 本稿の目的は, 2019 年 9 月, 2020 年 2 月において実施した熊本県 A 農業法人のヒアリング調 査に基づき, 専門的・技術的分野の在留資格における外国人労働者受け入れの実態とその課題に ついて考察を行うことにある. A 農業法人は, なぜ高度人材の受け入れを行ったのか, そして, 企業経営において高度人材をどのような役割として捉えているのか, また, 実際に彼らはどのよ うな役割を果たしているのかが中心的課題としてあげられる. それらの課題を明らかにするため に, 農業法人の概要, 高度人材受け入れの背景, 就業実態, 法人経営における将来ビジョンにつ いて考察する. さらに, 高度人材の果たす役割を明確にするために, 技能実習生の受け入れを行っ ている Z 農業法人の事例について, 2019 年 9 月に実施した Z 農業法人経営者に対するヒアリン グ調査から考察する.
1. 高度人材の概要
1-1. 高度人材の定義 本稿における高度人材の定義は, 厚生労働省 「外国人雇用状況の届出状況」 の 「専門的・技術 的分野の在留資格」 を有する者とする9. 「専門的・技術的分野の在留資格」 とは, 「教授」, 「芸 術」, 「宗教」, 「報道」, 「高度専門職 1 号・2 号」, 「経営・管理」, 「法律・会計業務」, 「医療」, 「研究」, 「教育」, 「技術・人文知識・国際業務」, 「企業内転勤」, 「介護」, 「興行」, 「技能」, 「特 定技能」 を指す. 本稿では, その内, もっとも人数が多い 「技術・人文知識・国際業務」 (以下, 技人国ビザ) の受け入れを中心に考察する10. 2019 年 10 月時点で, 約 33 万人の高度人材のうち およそ 8 割の 26 万人が技人国ビザでの滞在となっている. 福嶋 (2017) によると, 高度人材が注目され始めたのは, 2000 年代に入ってからで, 知識労 働者を対象とした法整備は, 2001 年に IT 人材獲得政策としての国家間資格相互承認などが始ま りという11. 2000 年初頭から開始した高度人材の受け入れ政策は, 日本の経済・社会の活性化や 8 なお本稿の分析対象は高度人材であるため, ここでいう担い手問題は, 農業法人における部門の責任 者などの中間管理者の人手不足に対応する外国人労働者の役割を意味する. 9 福嶋 (2017) によると, 高度人材に関する定義は確立されておらず, 「「大学卒業程度の学力がある者」 から, 「高度人材ポイント制の在留資格を持つ, 余人をもって代えがたい存在」 まで幅広い」 という. 福嶋 (2017) 155 ページより引用. 10 法改正により, 2015 年 4 月 1 日以降, 「技術」 及び 「人文知識・国際業務」 の在留資格は, 「技術・人 文知識・国際業務」 の在留資格に改められている. 出入国在留管理庁 (2020) 2 ページ参照. 11 福嶋 (2017) 157 ページより引用. 上林 (2017) においても 2000 年代当初の時期において日本は国を 挙げて外国人 IT 技術者の受け入れを促進するために各種政策が実施され, その背景として, 近隣諸 国への日本企業のアウトソーシングの拡大にともなうブリッジ人材における必要性が高まった点につ いて指摘している. 上林 (2017) 284 ページより引用.国際化を図る観点から, 現状においても引き続き積極的に推進されている12. 1-2. 日本における外国人労働者の受け入れ状況 (1) 外国人労働者受け入れの概要 厚生労働省の 「外国人雇用状況の届出状況」 によると, 日本には, 2019 年 10 月末時点で, 約 166 万人あまりの外国人労働者がおり, 前年から約 20 万人の増加, 過去最高の受け入れ人数を 記録している. 在留資格の内訳は, 「身分に基づく在留資格」 53.2 万人 (全体の 32.1%), 「資格 外活動」 37.3 万人 (同 22.5%), 「技能実習」 38.4 万人 (同 23.1%), 「専門的・技術的分野」 32.9 万人 (同 19.8%) となっている (表 1 参照). 外国人労働者総数は, 2008 年約 49 万人, 2010 年 は約 65 万人, 2015 年約 90 万人と増加の一途を辿り, 2016 年に 100 万人を突破し, 急速に拡大 している. 出身地域は, 中国 41.8 万人 (全体の 25.2%), ベトナム 40.1 万人 (同 24.2%), フィリピン 17.9 万人 (同 10.8%) と, 上位 3 カ国で全体の 6 割を占めている13. 中国は 2012 年の 29.6 万人 から 2019 年は 41.8 万人へと約 12 万人の増加がみられるが, 外国人労働者全体に占める割合は 12 第 9 次雇用対策基本計画 (閣議決定), 出入国在留管理基本計画 (法務省) において, 専門的・技術 的分野の外国人について積極的に受け入れる方針が明記されている. 令和 2 年 1 月出入国在留管理庁 「専門的・技術的分野の外国人受入れについて」 1 ページ参照. 13 前年比の増加率が高い地域は, ベトナム (前年比 26.7%増), インドネシア (同 23.4%増), ネパール (同 12.5%増) があげられる. (資料) 厚生労働省 「外国人雇用状況の届出状況」 より作成. 表 1 外国人労働者の在留資格・出身地域別状況 ᢏ ᢏ⾡⾡࣭࣭ேᩥ▱ ㆑࣭ᅜ㝿ᴗົ ᢏ⾡࣭ேᩥ▱ ㆑࣭ᅜ㝿ᴗົ ࣓ࣜ࢝ ࢠࣜࢫ ࣓ࣜ࢝ ࢠࣜࢫ ࡑࡢ ࣈࣛࢪࣝ ࢿࣃ࣮ࣝ 㡑ᅜ ࣥࢻࢿࢩ ࣮࣌ࣝ *㸵㸶㸩࣮࢜ࢫࢺࣛࣜ㸩 ࢽ࣮ࣗࢪ࣮ࣛࣥࢻ *㸶㸩࣮࢜ࢫࢺࣛࣜ㸩 ࢽ࣮ࣗࢪ࣮ࣛࣥࢻ ࡑࡢ ࠙ᖺࠚ ୰ᅜ ࣋ࢺࢼ࣒ ࣇࣜࣆࣥ ୰ᅜ ࣈࣛࢪࣝ ࣇࣜࣆࣥ 㡑ᅜ ࣋ࢺࢼ࣒ ࣮࣌ࣝ ≉ᐃάື ᢏ⬟ᐇ⩦ ㈨᱁እάື㌟ศᇶ࡙ࡃᅾ ␃㈨᱁ ᫂ ࠙ᖺࠚ ⥲ᩘ㸦ᐇᩘ㸸ே㸧 ⥲ᩘ㸦ᵓᡂẚ㸸㸣㸧 ᑓ㛛ⓗ࣭ ᢏ⾡ⓗศ㔝 ≉ᐃάື ᢏ⬟ᐇ⩦ ㈨᱁እά ື ㌟ศᇶ࡙ ࡃᅾ␃㈨᱁ ᫂ ᑓ㛛ⓗ࣭ ᢏ⾡ⓗศ㔝
縮小している (2012 年 43.4%→2019 年 25.2%). ベトナムは, 2012 年の 2.7 万人から, 2019 年 には約 15 倍の 40.1 万人へと急増し, 中国に次ぐ送り出し国となっている14. (2) 「技能実習」 と 「高度人材」 の推移 「技能実習」 と 「高度人材」 の受け入れ規模の推移について見てみよう (表 1, 図 1 参照). ま ず, 「技能実習」 は, 2012 年 13.4 万人から 2019 年 38.4 万人へと増加している. なかでもベトナ ムは 2012 年の 1.4 万人から 2019 年には約 20 万人へと急増している15. 「技能実習」 の主要送り 出し地域が, 中国からベトナムへ移行していることがわかる. 「高度人材」 は, 2012 年の 12.4 万人から 2019 年の 32.9 万人へ増加している. 送り出し国は, 中国が 11.5 万人で全体の約 35%を占め, もっとも多い. 中国は 2012 年の 5.5 万人から 2019 年 には 11.5 万人へ約 2 倍に増加し, ベトナムは, 2012 年では 3,500 人余りであったが, 2019 年で は 4.9 万人と約 10 倍に増加している. G7/816+オーストラリア+ニュージーランド (以下, 14 「専門的・技術的分野」 の産業別構成比は, 「製造業」 17.5%, 「情報通信業」 15.9%, 「卸売業・小売 業」 13.4%, 「サービス業 (他に分類されないもの)」 13.1%などが上位を占めている. 外国人労働者 の受け入れ地域は北海道から沖縄まで全国的に広がっているが, 東京 48.5 万人 (構成比 29.3%), 愛 知 17.5 万人 (同 10.6%), 大阪 10.5 万人 (同 6.4%), 神奈川 9.1 万人 (同 5.5%) の受け入れ数上位 4 地域に, 全体の約半数の外国人労働者が集中している. また, 高度人材は, 東京が 15.6 万人 (高度人 材全体の 47.6%) と突出しており, 大阪 2.1 万人, 愛知 1.9 万人, 神奈川 1.6 万人, 埼玉 9,284 人と続 き, 大都市及びその周辺地域が主な受け入れ地域となっている. 厚生労働省 「外国人雇用状況の届出 状況」 (令和元年 10 月末現在) 参照. 15 ベトナムは, 技能実習の他に, 「資格外活動」 においても急増している. ベトナムの 「資格外活動」 は 2012 年の 3,880 人から 2019 年には 13.7 万人へと増加している. 16 G7/8 は, イギリス, アメリカ, フランス, ドイツ, イタリア, カナダ, ロシア. (資料) 厚生労働省 「外国人雇用状況の届出状況」 各年版より作成. 図 1 「高度人材」 の出身地域の推移 (人)
G7/8 他) 他は, 2012 年の約 3 万人から 2019 年は 4.7 万人へ拡大しているが, 中国やベトナム に比べると増加率は低い. 次に, 技人国ビザは, 2012 年では 8.7 万人であったが, 2019 年は 26 万人へと増加している17. 高度人材に占める技人国ビザの割合は高まっており, 地域別で見ると, 中国 (84.2%), ベトナ ム (91.8%), G7/8 他 (55.8%), 韓国 (88.6%) と, G7/8 他以外は, 技人国ビザが各国の高度 人材のうち 8 割から 9 割を占めていることがわかる. 1-3. 農業分野における外国人労働者の特徴 多くの産業において人手不足が顕在化するなか, 農業分野においても深刻な労働力不足が発生 している. 日本の農業就業人口は 1960 年には 1,450 万人あまりであったが, 1980 年は 697 万人, 2000 年 389 万人, 2019 年には 168 万人にまで減少し, 平均年齢は 67 歳と高齢化が進んでいる. 農畜産業における有効求人倍率の推移を見ると, 全産業の平均を上回る状況が続いている (図 2 参照)18. 農業分野の外国人労働者は, 2012 年では 1 万 6,372 人であったが, 2019 年には 3 万 5,513 人 へと約 2 倍に増加している (図 3 参照)19. 3 万 5,513 人 (2019 年) の内訳は, 「技能実習」 3 万 1,888 人 (89.8%), 「専門的・技術的分野」 (高度人材) 1,328 人 (3.7%), 「その他」 2,297 人 (6.5%) と, 技能実習が 9 割を占めている. 高度人材は, 全体の 4%程度であるが, 2012 年の 391 人から 2019 年には 1,328 人へと増加している20. 国勢調査によると, 2015 年時点で, 「農業, 林業」 分野における外国人労働者への依存度が高 い県は, 茨城, 長野, 群馬が上位 3 地域で, 野菜産地が主である21. 茨城県の 「農業, 林業」 の 就業者は, 21 人に 1 人が外国人, 20 代に限ると約 2 人に 1 人が外国人であり, 技能実習生が多 く就業している22. また, 本稿の調査対象企業が立地する熊本県は, 農林業の外国人依存度は全 17 高度人材のうち技人国ビザが占める割合は, 2012 年は 70.0%, 2019 年では 79.2%となっている. 2019 年の技人国ビザ全体の人数を 100 とした場合, 中国 37.1%, ベトナム 17.3%, 韓国 10.6%, G7/8 他 10.2%となっている. 一方, 技人国ビザ以外の分布を見ると, G7/8 他 30.6%, 中国 26.5%と, 両地 域で約 6 割を占める. 18 2017 年に農林水産省が実施した 49 歳以下の農業経営者へのアンケートでは, 現在の経営における課 題についての設問に対して 「労働力の不足」 が全回答の中でもっとも高い結果であった . 農林水産 省 「平成 29 年度食料・農業・農村の動向」 14 ページ参照. 19 農林水産省 「農業分野における新たな外国人材の受け入れについて」 令和 2 年 6 月, 参照. 20 2019 年の各在留資格に占める農業分野の割合は, 「技能実習」 では 8.3%, 高度人材は 0.4%となって いる. 21 国勢調査は, 都道府県別における業種別の外国人の割合が得られる. 外国人依存度は外国人労働者数 と外国人を含む全就業者数を使って算出. 「外国人依存度, 業種・都道府県ランキング」 2018 年 8 月 2 日公開 日本経済新聞 参照. 22 茨城県は大消費地東京の近郊で, 白菜やピーマンをはじめとする主要な野菜産地. 2 位は長野県 (47 人に 1 人), 3 位群馬県 (49 人に 1 人), 4 位香川県 (54 人に 1 人), 5 位熊本県 (56 人に 1 人). 長野 県はレタス, 群馬県はキャベツなどの産地. 「農業の外国人依存度, 1 位は茨城県 20 代は半数」 2018
国 5 位 (56 人に 1 人) となっている. 以上から, 農業分野における外国人労働者の特徴は, 「技能実習」 が全体のおよそ 9 割を占め ていることから, 技能実習生の受け入れが中心であることがわかる. 各産業の外国人労働者にお ける 「技能実習」 の占める比率は, 全産業合計 23.1%, 製造業 45.7%, 建設業 69.7%であるこ とからも, 農業分野では突出して高い. 収穫作業等を担う労働者の人手不足が, 主に技能実習生 によって補完されていることがうかがえる. 他方で, 前述のように, 農業分野の 「高度人材」 は 増加傾向にあり, 彼らの就業状況については不透明な部分が多い. 以下, A 農業法人における 年 8 月 9 日付 日本経済新聞 参照. 2020 年の新型肺炎の流行による技能実習生不足により, 茨城県 では生産時期を迎えた秋冬野菜の作付けを縮小する農業者が出始める等, 労働力の不足が農業生産に 大きな影響を及ぼしている. 2020 年 9 月 22 日付 茨城新聞 「外国人入国制限, 茨城の農業に影 最 大 1 千万円減, 例年通りの経営できない生産者 実習生いなくなれば廃業」 参照. (資料) 農林水産省 「農業分野における新たな外国人材の 受け入れについて」 令和 2 年 6 月, p1 より作成. 図 2 農畜産業分野における有効求人倍率の推移 (資料) 農林水産省 「農業分野における新たな外国人材の受け入れに ついて」 令和 2 年 6 月, p1 より作成. 図 3 農業分野における外国人労働者の在留資格別受け入れ状況 (単位:人)
高度人材の受け入れ実態について考察を行う.
2. 熊本県 A 農業法人における高度人材受け入れの実態
2-1. 調査対象企業の概要 高度人材の受け入れ実態について, 2019 年 9 月, 2020 年 2 月に熊本県 A 農業法人 (以下, A 社) において実施したヒアリング調査結果から, 考察を行う. A 社は, 熊本県北東部に位置し, 農場, 観光農園, 農産品の加工場を有した農業法人である23. 農場は合計 30ha, イチゴ, ミニト マト, 露地野菜, 種じゃがいも等を生産している. その他, イチゴの観光農園, 体験農業, 果実 加工事業を行っている24. 社員は, 正社員 15 名, パート 14 名である. 正社員 15 名中, 外国人は 5 名 (ベトナム 2 名, フィリピン 3 名) となっている. A 社は, 1997 年に設立, 2013 年に全国の農業法人で初めてとなる外国人正社員の採用を行っ た. イチゴの観光農園は年間 5 万人を超える来場者数に成長し, 軌道に乗り始めていたところ, 2016 年に熊本地震が発生し, ビニールハウスの倒壊等, 壊滅的な打撃を受けた. 再建に向けて, 新たな取り組みを開始している. 2-2. 外国人社員雇用の経緯及び就業状況 (1) 就業状況 前述のように, A 社では, 外国人正社員 5 名を雇用している. 出身地域は, ベトナム 2 名, フィリピン 3 名である. 年齢は, 20 代前半 3 名 (雇用期間 1 年, ベトナム 1 名, フィリピン 2 名), 20 代後半 1 名 (同 6 年, フィリピン), 30 代前半 1 名 (同 8 年, ベトナム) で, 全員女性 である25. いずれも出身地の大学を卒業しており, 技人国ビザの在留資格で正社員として就業し ている. 外国人社員の経歴は様々であり, 大学卒業直後に来日した者もいれば, 現地の企業での 就業経験を有する者もいる. 例えば, ベトナム出身の 2 名の外国人社員は, 農業関係の大学にお いて食品加工や栽培技術を専攻し, 大学卒業後すぐに来日している. その内加工工場の責任者を 務める社員は, 農家出身であり, 将来的にはベトナムで農業や加工工場を経営する希望を持って いるという. フィリピン出身の 3 名の社員は, フィリピン有数の観光地の出身者で, 大学の専攻 は経営学等であり, 大学卒業後, 地元の企業やホテル等での就業経験を有している. 23 A 社の年商は調査時点で約 2 億円. 最盛期には, 観光農園は年間 5∼6 万人の集客があった. その他, A 社グループ事業として, 新規研修事業の NPO 法人等がある. A 社は, 農業就業者の育成を目指し, A 社の経営とは切り離し, 研修生受け入れ事業の NPO 法人を設立した. 42 の NPO 会員農家が, 研 修の受け入れ先になっている. 研修希望者の要望に合致するため, 受け入れ農家は野菜, 花卉, 果樹, 酪農等, 多岐にわたる. 24 果実のジャム加工品が中心. 自社ブランドの他, 他社ブランドのジャムを生産する OEM 生産も行っ ている. 25 いずれも調査時点での年齢.社員の配置は, ベトナム人社員 2 名は加工工場に所属し, フィリピン人社員 3 名は, 主に観光 部門で就業を行っている. 加工工場のスタッフは合計 4 名で, ベトナム人従業員 2 名, 日本人パー ト従業員 2 名となっている. 入社 8 年目のベトナム出身の社員が, 工場の製造責任者として生産 計画, 管理を行っている26. さらに, パート社員の取りまとめも行い, 製造加工の中心的役割を 担っている. フィリピン人社員 3 名は, 観光部門を担当し, 入社 6 年目の社員を中心にインバウ ンドの対応等を行っている27. 英語, 日本語とも問題なく対応が可能なため, 観光客向けの通訳 や関係資料の翻訳等も担当している. (2) 高度人材の雇用理由 A 社が外国人社員を雇用した主な理由として 3 つあり, まず, 深刻な人手不足があげられる28. A 社では, 長年勤務した社員が結婚退職や震災を機に地元に戻り, 社員の減少が続いた. その ため正社員の募集を行ったが, 6 次産業化を行っている農業法人とはいえ, 高い待遇を求める日 本人の大卒者の募集は難しいという. A 社に限らず, 農業法人における人手不足は深刻化して いる. 雇用型の農業法人は増加傾向にあるが, 人材の確保や育成, 定着は大きな課題となってい る29. 2 つ目の理由として, 外国人従業員が企業経営に有益との判断がある. まず, 農業法人特有の 事情として, 農業や自然への興味・関心を有していることは, 従業員に求める重要な資質といえ る. フィリピンやベトナムは経済発展の途上であることから, 農業は主要産業であり, 身近な存 在でもある. 大卒者においても農業に関わる仕事や日本の農業技術への関心が高く, 自国の農業 発展に対する問題意識を持っているという30. 日本人従業員へのヒアリングでは, 外国人材は, 仕事に対する姿勢は真面目で, 仕事をともに進める中で, 理解力や工夫力, 判断力が優れている との感想が聞かれた. 一方, 多くの日本人にとって農業そのものが疎遠になるなか, 農業に関心 を持ち, さらに明確な目的意識を持つ日本人の大卒者を採用できる可能性は低いという31. 農業 法人が, 他の産業分野の企業と異なる特徴として, 地域との関わりが強い点があげられる. とく に, 6 次産業化を行っている A 社のような農業法人は, 生産, 加工, 販売を行う過程で, 企業 と企業間のみの取引や関係性だけでは企業経営は困難といえる. 農業や農村への思いも強く, 就 26 イチゴ栽培等の生産部門は, 日本人スタッフのみで行っている. A 社農業部門は, 基本は観光農園用 のイチゴを栽培する. 余った分は, ジャム用にする. 出荷することはほぼないという. 外国人社員の 就業条件は, 基本的にほぼ日本人社員と同じである. 外国人社員には住宅手当てがあるが, 日本人社 員にはない. 外国人従業員の住居は, 震災後は家賃 2 万円の震災復興住宅に居住している. 諸経費を 除くと, おおよそ 12∼13 万円/月は手元に残り, 貯蓄や仕送りをしているという. 27 震災や 2020 年の新型肺炎の流行により, 配置の転換を余儀なくされている可能性がある. 28 パート従業員の定着率は高いという. 29 納口るり子 (2018) 「優秀な農業人材の採用と育成が急務になる」 AFC フォーラム:特集日本の農 業は人手不足時代 4 ページ参照. 30 木之内均・西野真由・原田忠直 (2021) 258 ページより引用. 31 木之内均・西野真由・原田忠直 (2021) 259 ページより引用.
業に対する目的意識が高い高度人材は, 地域との関わりを構築する上でも重要な役割を担うこと が考えられる. また, A 社は, 観光農園を経営しており, インバウンドの担当者として実務に加え, 観光地 の状況をよく知る人材が必要であった. A 社は, 日本でのさらなる規模拡大, 事業の拡大は困 難と捉え, 今後, 海外展開を計画している. 施設園芸はハウスの建設, 設置をはじめ膨大なコス トがかかり, 全て自社でまかなうには限界がある. ハウスの増設は人手をさらに必要とするため, 人手不足の状況下では難しい. そのため, イチゴ栽培や果実ジャム加工技術, 商品開発等のノウ ハウを A 社としてブランド化し, パッケージ型の海外輸出を検討している. その際, 英語がで きる外国人社員を戦力とする計画もあるという. 高度人材は, 人手不足を解消するだけでなく, 企業にとって有用な人材であることがうかがえる. 3 つ目は, A 社創業者が技能実習制度について否定的な見解を有しており, 外国人社員の採用 を計画し始めた当初から, 技能実習生の受け入れは選択肢にはなく, 専門的・技術的職種での受 け入れを目指していたことにある. つまり, A 社では非経済的な要素が高度人材の受け入れに 大きく影響している側面も指摘できる. 2-3. 外国人材雇用における課題 外国人労働者の雇用における問題として, まず, 近年, フィリピンにおいて日本向け派遣の審 査が厳しく, 採用後に日本到着が遅れるケースが続いているという32. A 社は受け入れ実績を有 しているが, 到着が半年以上遅れ, 計画通り進まない事態にしばしば直面している. ベトナムは, フィリピンと比較して派遣審査は厳しくないものの, 以前より厳格化の傾向があるという. こう した受け入れ時期の変更や追加の手続き書類の煩雑さは, 受け入れ企業にかかる負担は重く, と くに, 人員に余裕のない農業法人の経営には大きく影響することが考えられる. 次に, 外国人材の能力を十分に発揮させることができていない面が挙げられる. 外国人社員は, 全員が業務上の英語の使用は問題ないが, 実際の業務で使用する書類等は基本的に日本語のため, 言語の問題が大きい. 日本語での日常会話はそれほど困らないが, 文章読解や書類の作成は難し いという. また, 震災からの復旧途上ということもあり, 適切な人材配置も今後の課題としてあ げられる. 今後, どのような人員配置, 労務管理のもと, 外国人社員の能力を十分に活用できる か経営管理の面での課題としてあげられる. このように, A 社はいくつかの問題に直面しているが, 高度人材は貴重な戦力に成長してお り, 今後も受け入れは継続していくことが考えられる. A 社の外国人雇用における先進的な取 り組みは, 人手不足下の農業分野において農業法人が発展するための道筋のひとつを示している 32 ヒアリングによると, A 社は受け入れ実績があったにも関わらず, フィリピンから 2 名採用時は, 到 着が半年以上遅れたという. フィリピンでは, 技能実習についてマイナスのイメージが広がっており, 日本向け全般に審査が厳しいのではということであった.
と考えられる. 一方, 前述したように, 現状では農業分野の外国人労働者は技能実習生が中心と なっている. 以下, 技能実習を受け入れている熊本県の Z 農業法人の事例から, なぜ農業法人 に高度人材が必要なのかという点に焦点をあて, 考察を行う.
3. 熊本県における農業の概要及び外国人労働者の受け入れ
3-1. 熊本県における外国人労働者の受け入れ まず, 熊本県の外国人労働者の受け入れについて概観する. 2019 年 10 月時点での熊本県にお ける外国人労働者数は, 1 万 2,345 人 (全国 22 位), 外国人雇用事業所数は 2,743 か所 (同 19 位)33 であり, 外国人労働者数, 外国人雇用事業所数とも 2007 年に外国人雇用の届け出が義務化 33 2015 年ではそれぞれ 5,159 人, 1,475 か所であったことから, 増加傾向にある. 九州地域では, 熊本 は福岡県に次いで外国人労働者を受け入れている. 2019 年では, 福岡県 5 万 2,530 人, 熊本県 1 万 2,345 人, 鹿児島県 8,287 人, 大分県 7,368 人, 長崎県 5,977 人, 佐賀県 5,423 人, 宮崎県 5,028 人. (資料) 熊本労働局 「令和元年 「外国人雇用状況」 の届出状況集計結果」 より作成. 表 2 熊本県における国籍別・在留資格別外国人労働者数 (2019 年 10 月末)されて以降, 過去最高となっている. 在留資格別では, 「技能実習」 が 7,980 人 (全体の 64.6%) ともっとも多く, 「専門的・技術的 分野」 1,579 人 (同 12.8%), 「身分に基づく在留」 が 1,553 人 (同 12.6%) と続く. 全国の外国 人労働者総数において 「技能実習」 が占める比率は, 23.1%であることから, 熊本県では 「技能 実習」 の占める割合が高いことがわかる. 国籍別では, ベトナム 5,465 人 (全体の 44.3%), 中 国 2,458 人 (同 19.9%), フィリピン 1,743 人 (同 14.4%) の三か国で全体の 8 割を占める (表 2 参照)34. 3-2. 熊本県の農業分野における 「高度人材」 の受け入れ状況 熊本県は, 米, 野菜, 果樹, 畜産をはじめ多様な農産物を生産する全国有数の農業産地である. 2018 年の農業産出額 (3,406 億円) は全国 6 位で, その内訳は, 野菜 (36%), 畜産 (34%), 米 (11%), 果実 (10%), 花卉 (3%), 工芸農産物 (3%) と, 野菜と畜産の比率が高い . 一方で, 全国同様に, 農家数, 農業就業人口は減少している35. 以下, 熊本県の農業分野における外国人 労働者の受け入れについて見てみよう. まず, 熊本県における外国人を雇用している産業別の事業所数は, 「農業・林業」 が全体の 35.2%を占め, 「製造業」 (16.0%), 「建設業」 (11.4%), 「卸売業, 小売業」 (10.1%), 「宿泊業」 (7.5%) と続く36. 全国 (4.1%) と比較すると, 熊本県は 「農業・林業」 の事業所の占める比率 が高い (表 3 参照). 事業所の規模別では, 全事業所数 2,743 事業所のうち 「30 人未満」 規模の 事業所がもっとも多く, 全体の約 7 割を占める37. 小規模な事業所に外国人労働者が雇用されて いることがうかがえる. 34 熊本県における外国人労働者の 2014 年から 2019 年までの 5 年間の推移は、 外国人労働者総数は 4,416 人から 1 万 2,345 人へと約 3 倍に増加。 出身地域別では、 中国は 2,397 人から 2,458 人へと大き な変化はないが、 在留資格では 「技能実習」 が 1,589 人から 1,140 人へとやや減少し、 「高度人材」 が 263 人から 539 人へと増加している。 ベトナムは 659 人から 5,465 人へと急増し、 増加の大部分は 「技能実習」 が占めている。 ベトナムは 「高度人材」 においても 14 人から 242 人へ増えている。 フィ リピンは、 「技能実習」 が 179 人から 1,009 人へと増加し、 中国の技能実習とほぼ同じ規模に拡大して いる。 35 県内総生産に占める農業の割合は 2.9% (2017 年) で, 全国平均 (1.0%) を上回っている. 世帯数に 占める農家の割合は 8.3% (全国平均 4.0%), 県内就業者に占める農業従事者の割合は 9.4% (同 3.1%) と農業生産が盛んな地域であることがわかる. 農業生産の主要な担い手である認定農業者数は 全国第 3 位, 基幹的農業従事者数は全国第 4 位となっている. 「くまもとの農林水産業 2020」 38 ペー ジ参照. 他方, 総農家数を見ると, 2015 年は 5 万 8,414 戸であり, 2010 年と比較して 8,455 戸減少している. 1995 年は, 8 万 6,300 戸あまりであったことから, およそ 20 年で 3 割以上減少しており, 縮小傾向が 見て取れる. 農業就業人口は, 1995 年は 13 万 3,400 人で, 2015 年は 7 万 1,900 人へと農家数同様, 大幅に減少している. 36 「医療, 福祉」 分野の事業所の占める割合は前年と比べて増加している. 37 「30∼99 人」 の規模の事業所は前年同期比 19.5%の増加であり, 小規模事業所が増加していることが わかる.
次に, 産業別の外国人労働者数は, 製造業が 3,668 人 (全体の 29.7%), 次いで 「農業・林業」 3,424 人 (同 27.7%), 「卸売業, 小売業」 1,456 人 (同 11.8%), 「建設業」 1,166 人 (同 9.4%) となっている. 製造業に従事する外国人労働者数がもっとも多く, 全体の 3 割程度を占めている 点は, 全国と同様の傾向を示している. 一方, 熊本は製造業に次いで農業の外国人労働者が多く, 全体の 27.7%を占めている. 全国では 「農業, 林業」 は 2.1%であることから, 熊本は農業分野 での外国人労働力の受け入れ比率が高い特徴が見られる. 熊本県の 「農業, 林業」 の外国人労働者は, 2014 年では 1,339 人 (内訳:「技能実習」 1,298 人, 「身分に基づく在留」 36 人, 「専門的・技術的分野」 5 人) であったが, 2019 年には 3,424 人 (内訳:「技能実習」 3,359 人, 「身分に基づく在留」 30 人, 「専門的・技術的分野」 34 人) へ と増加している. 「農業, 林業」 の外国人労働者のうち 「技能実習」 の割合は, 2014 年の 96.9% から 2019 年には 98.1%へとさらに高まっており, 全国の水準 (89.8%) を上回っている. また, 農業分野の 「高度人材」 は 「技能実習」 と比較するとわずかな人数に留まっていることがわかる. このように, 全国有数の農業県である熊本において, 近年, 農業分野の外国人労働者の受け入 れは増加しており, その大部分は実習生の受け入れであることがわかった38. 農業の現場におい 38 在留資格別・産業別の特徴について見ると, 外国人労働者総数に対して 「技能実習」 の比率は 64.6% を占めるため, 各産業においてその比重は高い. 技能実習は, 「製造業」 77.7%, 「農業, 林業」 98.1 %, 「建設業」 83.8%. 一方, 「卸売業, 小売業」 では 「技能実習」 36.7%, 「専門的・技術的分野」 32.6 %と他の産業と異なる特徴が見られる. (資料) 熊本労働局 「令和元年 「外国人雇用状況」 の届出状況集計結果」 より作成. 表 3 産業別・外国人雇用事業所数及び外国人労働者数 所 所
て技能実習生への依存が深化している現状がうかがえる. 一方で, 技能実習生を受け入れている 農業法人では, 農業経営においてどのような課題が存在しているのだろうか. 以下, Z 農業法人 の事例から考察する. 3-3. 農業法人における技能実習生の受け入れと農業経営の実態―Z 農業法人の事例より― (1) 調査対象企業の概要と技能実習生受け入れの経緯 本節では, 2019 年 9 月に実施した熊本県に位置する Z 農業法人 (以下, Z 社) のヒアリング 調査から考察する. Z 社は, パセリ生産を中心とした農業法人であり, 2013 年に設立, 2016 年には販売会社を設 立している. 年商は約 8,000 万円. 元々熊本市内でネギを栽培する家族経営の農家であったが, 近隣のネギ産地と品目が競合するためパセリ栽培に転換し, 規模を拡大してきた. 農場は, 熊本 市内 10ha 及び県の東部地区 1.5ha, 北東部地区 0.9ha の合計 3 ヶ所で, それぞれパセリ, ケー ル, レタス等の生産を行っている. 3 か所の農場における標高差を活かし, パセリとケールは, 一年を通じての収穫が可能である39. 1982 年に熊本市内でパセリの栽培を開始し, 2015 年にレタ ス, 2018 年にケールの栽培へと品目, 面積を拡大していった40. 1985 年に北東部地区の農場, 2013 年に東部地区の農場を開設した41. 従業員は, 正社員 4 名, パート従業員 3 名, 技能実習生 10 名となっている. 技能実習生は, 2014 年にベトナム人 2 名の受け入れから開始した. 技能実習生を受け入れる までは, 家族と正社員, パート従業員で栽培や収穫, 出荷作業を行っていた. しかし, 農場の拡 大にともない, 従来の従業員の配置では, 作業を安定的に進めることが困難になってきた. 前述 したように, Z 社の農場は 3 ヶ所に分散しており, 北東部地区, 東部地区の農場は, 熊本市内か ら約 40km の距離にある. 子育て中のパート従業員は子供の送迎等により残業は難しく, 熊本市 内以外の農場の場合, 往復の移動時間を差し引くと実質 5, 6 時間の労働時間しか確保できない. そうした事情から, 実習生の受け入れを決めたという. 技能実習生の受け入れ以降, パート従業 員は基本的には熊本市内の作業場に配置し, 遠方の農場には日本人管理者と技能実習生を派遣し ている. 技能実習生は, 栽培から出荷作業まで幅広く作業を行う. 技能実習生は仕事に対する姿 勢は真面目であり, また残業にも臨機応変に対応できるため, 経営面でなくてはならない存在だ という. (2) 農業経営の課題 Z 社は家族経営を出発点に, 法人化し, 生産規模を拡大していた. 経営効率を高めるために技 39 パセリ, ケール, レタスの他に, 調査時点ではブロッコリー, カリフラワー, ツルムラサキの栽培を 行っていた. 40 2015 年にトマトとほうれん草の栽培も開始したが, 調査時点では栽培は行っていないという. 41 Z 社は, 熊本市内, 熊本県東部, 北東部の農場を段階的に拡大していった. 詳細は別稿に譲る.
能実習生を受け入れ, 今後, 農場規模をさらに拡大する計画があるという. こうした状況から, 順調に農業経営が行われているようにも捉えられるが, 一方で, 人材育成, とくに中間管理者の 不足が課題としてあげられる. Z 社の正社員は, 全員地元の非農家出身で, 入社以前に農業の経験はない. 法人化以降, 従業 員の定着率は上がったが, 技術指導やマネージメントを担う人材の育成は, 生産規模の拡大に追 いついていないという. 技能実習生は, 基本的には日本人正社員の指示のもと, 作業を行う. Z 社の出荷先は, 9 割が契約栽培, 1 割は市場流通である. 主に仲卸業者を通じて, 大阪のスーパー やカット野菜工場に出荷している42. 仲卸業者と生産計画をたて, 年間を通して出荷を行ってい るため, 日々の計画に基づき, 生産や出荷に関わる作業を行う必要がある. 農場は点在し, 移動 に時間がかかるため, 基本的には各農場を担当する作業グループを編成し, 一日同じ農場で作業 を行う. そのため, それぞれの農場での作業を管理する人材は重要な役割を担うといえる. しか し, 経営者と技能実習生の間に位置する中間管理者の育成が進まないため, 経営者がそれぞれの 農場における生産や出荷の管理, 技術面の指導等, 中間管理の作業を担わざるを得ないことも多 いという. 経営者が日々の作業に追われるならば, 経営能力を高めるための学ぶ機会を創出することが難 しくなる. さらに, 大局的な企業経営の方針, 経営計画等を考える時間を捻出できない. 経営者 には, 家族経営の時代とは異なる経営戦略, 労務管理能力が求められ, 経営能力を高める新たな 知識や技術の習得は重要といえる. 経営者が経営に専念できる環境を整え, さらに一歩進んだ農 業経営への移行を目指すには, 中間管理者の雇用, 育成を抜きには難しいだろう. Z 社のように, 規模拡大をする過程での農地の分散は, 多くの農業法人においても発生するこ とが考えられる. 農地の規模拡大にともない技能実習生の受け入れ人数を拡大すればするほど, それぞれの農場での作業を管理する人材の重要度は増す. つまり, マネージメント能力の高い中 間管理者の不在は, 技能実習生の人数を増やしたとしても生産性を上げられず, 効率的な経営を 阻む要因になると考えられる. さらに, 6 次化等, 新たな事業を行う場合にも, マネージメント を担う人材の雇用, 育成は重要といえる.
まとめ
本稿では, 農業分野における高度人材の受け入れ実態について, 関連資料及び熊本県に立地す る農業法人の調査事例から, 考察を行った. 明らかになった点は, 以下の通りである. (1) 近年, 日本における外国人労働者の受け入れ規模は拡大しており, 送り出し国は中国, ベトナム等のアジア地域からが主となっていることがわかった. 「技能実習」, 「高度人 42 契約栽培は大阪向けが中心で, スーパー向け 7 割, カット野菜工場向けは 3 割となっている.材」 とも増加しており, 「技能実習」 の主な送り出し国は, 従来の中国からベトナムへ と移行し, 「高度人材」 は中国がもっとも多いが, ベトナムが急増している. (2) 農業分野の外国人労働者においても増加傾向にあり, 技能実習生の受け入れが主である ことが明らかになった. 農業における人手不足は, いわゆる単純労働者とマネージメン トを担う管理者の不足という 2 つの側面での人材不足が存在している. 労働集約型の野 菜産地において外国人労働者の依存度は高いことから, 技能実習生が収穫や出荷作業等 のいわゆる単純労働を担っている状況にある. 本稿の調査対象法人が立地する熊本県の 外国人労働者の受け入れは, 全国と比べて農業分野の受け入れ比率が高く, 技能実習生 が大部分を占め, 「高度人材」 は少数に留まっている状況であった. また, Z 社のヒア リングから, 技能実習生は農業経営に欠かせない労働力であることが明らかになった. (3) 中間管理者の人材不足について, 高度人材の受け入れにおいて先駆的な農業法人の事例 から考察した. A 社が高度人材を受け入れている理由は, 創業者の高度人材雇用に対 する強い信念が根本にあり, さらに, 企業の求める条件に合致した日本人大卒者の募集 難などがあげられた. 多くの産業で人手不足が顕在化する中, 農村地域に立地した農業 関連産業で人を集めるのは難しい. さらに, 農業に関心を持ち, 海外事業にも適応可能 な資質を持つ日本人の大卒者を見つけ出すのはより困難といえる. A 社は, 自社が直 面する人材不足の状況を認識し, 企業の成長にプラスとなる人材を獲得するため, 海外 に募集範囲を広げていた. 農業が身近な環境で育ち, 自国の農業に対する高い問題意識 を持つ高度人材は, スキルアップにも意欲的であり, 中間管理を担う人材に成長してい た. つまり, 将来的な視野に立ち, マネージメントの役割を高度人材に求めるという, A 社経営者の先見性が指摘できる. A 社の事例から, 外国人雇用における課題に見ら れたが農業分野における高度人材の重要性が明らかになったといえる. 他方一般的に高 度人材は, 日本の外国人留学生からの移行者も含まれる43. 日本の留学経験者は, 就業 を希望する職種について日本の若者に近い意識を持っていることが予想され, 留学生が 農業法人への就職希望者に繋がることはそれほど多くないと考えられる44. A 社の事例 で見たように, 農業分野の高度人材は, 海外から直接採用することが必要となってくる だろう45. 43 高度人材の予備軍としての留学生の受け入れも積極的に進められており, 栖原 (2010) は, 2008 年の 「留学生 30 万人計画」 によって, 日本の留学生政策は, 従来の留学受け入れの主目的とされてきた途 上国援助や人材育成等の 「知的国際貢献」 から外国人高度人材の受け入れを主目的とした自国利益を 優先させる方向への転換を指摘している. 栖原 (2010) 7 ページより引用. 44 留学生の中には農業ビジネスに興味を持ち, 将来設計に関わって農業法人への就業を希望するケース もあると考えられる. 45 外国人労働力の受け入れ拡大を進める上で, 日本語教育の充実は重要な課題であるが, 企業のみで実 施するのは困難といえ, 国や自治体が主体的に取り組む必要がある.
(4) 農業法人における高度人材の果たす役割については, 組織のなかでの経営者とパート従 業員や技能実習生を繋ぐ役割, さらに地域との関りが深い農業法人において企業と地域 とを繋ぐという 2 つの意味でのブリッジ人材の役割について指摘した. さらに, A 社 のように海外プロジェクトを見据えている農業法人においては, 海外の相手先と A 社 との取引を担うという意味でのブリッジ人材として, 重要な役割を果たす可能性が高い. (5) 農業法人 Z 社の事例から, 技能実習生の受け入れ企業における中間管理者の必要性に ついて明らかになった. 農業は, 季節性があり, 日々の作業の変動が大きいため, 管理 者は重要な役割を担う. 生産規模を拡大し, 従業員や技能実習生を増やすほど, 作業を 管理する中間管理者は必要となる. Z 社の事例では, 中間管理者の育成が経営規模の拡 大に追いつかず, 管理者の不在が企業の成長のボトルネックになる可能性が示唆された. 農業法人の経営には家族経営とは異なる経営能力が求められ, 経営者の経営管理能力の 向上においても鍵となる人材の育成が欠かせないと考えられる. Z 社の経営者が直面し ている状況は, 家族経営を主体として始まった農業法人においては重なる部分があると 考えられ, 中間管理者の育成は多くの農業法人に共通する課題といえるだろう. 前述し た A 社は, それらの課題を早くから認識し, 多角経営を進めるなかで高度人材を受け 入れ, 中間管理者として重要な担い手に育成していた. 農業分野において技能実習生が 拡大している現状を鑑みるならば, 技能実習生の管理や各部門おいてマネージメントを 担う高度人材の雇用, 育成の必要性はさらに高まっていることが指摘できる. 以上, 農業分野における高度人材の果たす役割と重要性について考察を行った. 一般的に, 高 度人材のイメージは, IT など最先端の産業に従事するエンジニア等の専門職と考えられ, 今後, それらの分野における受け入れの増加が予想される. 一方で, 本稿の考察から, 最先端の業種の イメージからは遠いともいえる農業分野においても, 高度人材の必要性が高まっていることが明 らかになった. 今後, 特定技能での受け入れが本格化し, 技能実習, 高度人材等, 日本において外国人労働者 は, 多様な在留資格での就労が拡大することが考えられる. どのような形態で外国人労働者を雇 用するかは, 企業の経営内容や計画, 経営方針, また, 企業理念が大きく関わってくると考えら れる. 人手不足が解消する兆しが見えない中, 日本農業において外国人労働者の果たす役割は, これまで以上に大きくなることが考えられる. 農業に可能性を見出している高度人材を雇用し, マネージメントを担う人材として育成することは, 農業法人の存続, 発展に大きく影響すると考 えられる. 企業の存続は, 地域社会の存続にも繋がっており, 担い手問題は重要な課題といえる. 外国人労働者の受け入れは不可避であり, 今後の動向に注視したい. [付記] 本研究は, 科学研究費補助金 (基盤研究 C) (課題番号:20K06283) の研究成果の一部 である.
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