初等・中等教育における ICT の活用の現状と課題
小 熊 良 一・日 暮 利 明・岩 綾 乃
Current Status and Issues of Utilizing ICT in Primary
and Secondary Education
Ryoichi OGUMA, Toshiaki HIGURE and Ayano IWAZAKI
群馬大学共同教育学部紀要 芸術・技術・体育・生活科学編
初等・中等教育における ICT の活用の現状と課題
小 熊 良 一1)・日 暮 利 明2)・岩 﨑 綾 乃3) 1)群馬大学共同教育学部技術教育講座 群馬大学大学院教育学研究科 群馬大学数理データ科学教育研究センター 2)群馬大学共同教育学部教育実践センター 群馬大学大学院教育学研究科 3)群馬大学大学院教育学研究科1年 (2020年9月30日受理)Current Status and Issues of Utilizing ICT in Primary
and Secondary Education
Ryoichi OGUMA
1), Toshiaki HIGURE
2)and Ayano IWAZAKI
3)1)Department of Technology Education, Cooperative Faculty of Education, Gunma University
Graduate School of Education, Gunma University Gunma University Center for Mathematics and Data Science
2)Educational Practice Center, Cooperative Faculty of Education, Gunma University Graduate School of Education, Gunma University
3)Graduate School of Education, Gunma University, First grader
(Accepted on September 30th, 2020)
1 緒 言
教育基本法 第四条には,「すべて国民は,ひと しく,その能力に応じた教育を受ける機会を与えら れなければならず,人種,信条,性別,社会的身分, 経済的地位又は門地によって,教育上差別されない.」 と示され,「教育の機会均等」の理念が掲げられて いる.また,2018年に著作権法第35条が改正され るなど,ICTを活用した教育の促進に向けて法的な 整備も進んでいる. 日本財団が,2020年5月に実施した17歳から19 歳の1,000人を対象とした学校教育に対する意識調 査1)によると「COVID-19の影響による学校の休校 措置により,オンライン授業の有無で教育格差を感 じた」と58.6%が回答している.この結果から, ICT機器を活用したオンライン授業は,教育の機会 均等に欠かせないものであることがうかがえる.し かし,文部科学省が2020年6月に発表した臨時休 校中の「双方性のオンライン授業の指導率」は,小 学校8%,中学校10%,高等学校47%であった2). この現状は,初等中等教育における教育の機会均等, 学力保証の観点から問題であると考える. オンライン授業は,ICT機器等の環境整備と教師 の指導力の2つが揃うことが不可欠である. そこで,本研究では,全国規模で行われている家 庭と学校のICT機器の整備,教員の指導力の現状 群馬大学共同教育学部紀要 芸術・技術・体育・生活科学編 第56 巻 125―130 頁 2021 125に関する調査結果の整理と教員の意識調査を通して, ICTを活用した授業の現状と課題を明らかにするこ ととした.
2 家庭の ICT 環境
2.1 家庭のインターネット接続環境 オンライン授業を実施するには,授業を受講する 児童・生徒のICT環境を把握する必要がある. 総務省の「令和元年通信利用動向調査結果」3)に より発表されているインターネット接続機器の世帯 主年齢別の所有率を表1に示す. 全世帯のモバイル情報端末の所持率は,96.1%で ある.世帯主が20歳~59歳までのすべてにおいて, 99%を超えている.タブレット型端末については, 全体で37.4%,パソコンで69.1%となっている. この結果から99%以上の家庭において,スマー トフォンを中心としたインターネット接続環境が 整っていると考えられる. 表1 インターネット接続機器の世帯主年齢別の所有率 モバイル 端 末 スマート フ ォ ン タブレッ ト型端末 パソコン 全世帯 96.1% 83.4% 37.4% 69.1% 20~29 歳 99.4% 99.0% 34.6% 73.3% 30~39 歳 99.8% 97.9% 49.0% 77.4% 40~49 歳 99.7% 97.2% 53.0% 80.4% 50~59 歳 99.3% 94.5% 47.2% 81.4% 2.2 児童・生徒の実態 内閣府が発表した「令和元年度 青少年のイン ターネット利用環境実態調査結果」4)には,小中高 生のインターネットの利用手段,所有機器,利用内 容が報告されている. 小中高生のインターネットの利用手段を表2に示 す.小中高生すべての段階でインターネット利用率 は85%を超えている.小学校では,スマートフォン, 携帯型ゲーム機を使った利用が多いが,中学校・高 等学校と成長するにつれスマートフォンの利用率が 高くなっていることがわかる.一方,パソコンの利 用率は,すべての段階で30%を下回っている. この結果からスマホや携帯型ゲーム機は画面が7 インチ以下であるため,小中高生は7インチ以下の タッチパネル型の情報端末を中心にして,インター ネットを利用していることが中心であることが分か る. 表2 インターネットの利用手段 モバイル 端 末 スマート フ ォ ン タブレッ ト型端末 携 帯 型 ゲーム機 パソコン 小学生 86.3% 37.6% 33.8% 40.8% 19.1% 中学生 95.1% 65.6% 31.1% 30.3% 20.1% 高校生 99.1% 91.9% 22.2% 20.7% 27.1% 小中高生のスマートフォンの保護者等との共用率 を表3に示す.前述のとおり小中高生のインター ネット利用はスマートフォンが中心である.スマー トフォンの子ども専用機率は,小学生40.1%,中学 生81.8%,高校生98.6%であった.年齢が上がるに つれて個人の専用の所有率が上がってくることが分 かる. オンライン授業では,家庭において個人の情報端 末があることが好ましい.中学生,高校生では子ど も専用機が多いが,小学生では親との共用が多いた めオンライン授業を実施するには課題となる.しか し,小学生は携帯型ゲーム機を利用している率が高 いため,スマートフォンの代わりとして利用するこ とにより,この課題を一部解決する可能性がある. 表3 スマートフォンの共用率 子供専用 親と共用 兄弟共用 その他 わからない 小学生 40.1% 52.5% 3.7% 3.4% 0.2% 中学生 81.8% 15.5% 1.7% 0.7% 0.2% 高校生 98.6% 0.8% 0.3% 0.3% 0.1% 小中高生のインターネットの利用内容を表4に示 す.小中学生すべての段階で動画視聴の利用率が高 い傾向であることが示されている.また,中高生は, コミュニケーションや情報検索の利用率が高いこと が分かる. 小 熊 良 一・日 暮 利 明・岩 綾 乃 126オンライン授業では,教師の講義の視聴や双方向 コミュニケーションによる授業展開が中心になる. 現在の利用内容から,児童生徒には,オンライン授 業を受講するための技能を身につけていると考えら れる. 表4 児童・生徒のインターネット利用内容 コ ミ ュ ニ ケーション 情報検索 動画視聴 電子辞書 学 習 ア プ リ 小学生 41.8% 34.0% 72.0% 4.6% 31.4% 中学生 75.3% 60.1% 84.3% 15.9% 40.9% 高校生 90.1% 71.6% 87.8% 24.3% 53.6%
3 学校の情報化の状況
3.1 学校の ICT の整備状況 オンライン授業を実施するには,教員用の校務用 コンピュータの整備や学校でのインターネット接続 が,不可欠である. 文部科学省が2020年3月に発表した過去10年間 の教員の校務用コンピュータ整備率の推移4)を図1 に示す.調査結果よると,インターネット接続率 96.3%,校務用コンピュータの整備率122.7%である. また,普通教室への校内LANの整備率は,有線 LAN91.2%,無線LAN48.3%である. この結果から,学校から校務用コンピュータを 使って,インターネットを介したオンライン授業を 実施する環境は,ほとんどの学校で整っていると考 えられる. また,普通教室にインターネットが接続されてい る91.2%の学校では,教室から通常の対面授業と同 じような形態でオンライン授業を実施する環境が 整っていると考えられる. 3.2 教員の ICT 活用指導力 教員のICT活用指導力は,「A.教材研究・指導の 準 備・ 評 価・ 校 務 な ど にICTを 活 用 す る 能 力 」, 「B.授業にICTを活用して指導する能力」,「C.児 童生徒のICT活用を指導する能力」,「D.情報活用 の基盤となる知識や態度について指導する能力」の 4項目各4問の計16問で平成18年より継続的に全 国調査が行われている.図2は,令和元年度の教員 のICT活用指導力の結果である. オンライン授業に必要な力の項目は,表5に示す A~Cの3項目である.「A.教材研究・指導の準備・ 評価・校務などにICTを活用する能力」はすべて の項目で80%を超えている.「B.授業にICTを活 用して指導する能力」は,B2, B3, B4の項目が70% 以下となっている.「C.児童生徒のICT活用を指導 する能力」については,C3, C4が他の2つの設問 とくらべ低い傾向にある. この結果から,教師は,オンライン授業に必要な デジタル教材等を作成する能力は,身に付いている が,オンライン上で意見交流を行うなど授業を行う 能力に課題があると考えられる. 「生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)」5) によると,日本は学校の授業(国語,数学,理科) におけるデジタル機器の利用時間が短く,OECD 加盟国中最下位であると報告されている.日々の授 99.2% 102.8% 108.1% 111.1% 113.9% 116.1% 118.0% 119.9% 120.5% 122.7% 0 20 40 60 80 100 120 140% 2011 年 2012 年 2013 年 2014 年 2015 年 2016 年 2017 年 2018 年 2019 年 2020 年 84.9% 87.2% 90.9% 84.0% 82.6% 69.5% 65.1% 62.1% 78.6% 79.9% 67.2% 59.5% 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100% A1 A2 A3 A4 B1 B2 B3 B4 C1 C2 C3 C4 図1 教員の校務用コンピュータ整備率 図2 教員のICT活用指導力の状況 初等・中等教育におけるICT の活用の現状と課題 127業でのICT活用の不足は,大きな課題であるとい える.
4 意識調査
オンライン授業についての意識を明らかにするこ とを目的に,小中高等学校,中等教育学校,特別支 援学校に勤務経験及び教員を志望している群馬大学 大学院教育学研究科の学生にアンケート調査を行っ た.アンケート回答者には,倫理的配慮として,ア ンケートの使用目的,及び研究用途以外には用いな いこと,個人が特定されないように配慮することを 説明した. 4.1 調査期日 2020年6月に実施した. 4.2 調査対象 「学校教育におけるICTの実践と課題」の受講者 15名に実施した.なお,受講者15名のうち,12名 は,群馬県内の小中高等学校,中等教育学校,特別 支援学校に勤務経験があり,3名は教員を志望して いる. 4.3 調査方法 調査は,群馬大学共同教育学部教育学研究科の 「学校教育におけるICTの実践と課題」の授業で ZOOMを利用したオンライン授業の演習の前後で 実施した.インターネットによる選択式と記述式を 併用して実施した. 4.4 調査項目及び分析方法 調査項目は,双方向型のオンライン授業の事前・ 事後の意識,及び授業の満足度について4件法で回 表5 「教員のICT活用指導力」の調査項目 A 教材研究・指導の準備・評価・校務などに ICT を活用する能力 A1 教育効果を上げるために,コンピュータやインターネットなどの利用場面を計画して活用する. A2 授業で使う教材や校務分掌に必要な資料などを集めたり,保護者・地域との連携に必要な情報を発信したりするため にインターネットなどを活用する. A3 授業に必要なプリントや提示資料,学級経営や校務分掌に必要な文書や資料などを作成するために,ワープロソフト, 表計算ソフトやプレゼンテーションソフトなどを活用する. A4 学習状況を把握するために児童生徒の作品・レポート・ワークシート・コンピュータなどを活用して記録・整理し, 評価に活用する. B 授業に ICT を活用して指導する能力 B1 児童生徒の興味・関心を高めたり,課題を明確につかませたり,学習内容を的確にまとめさせたりするために,コン ピュータや提示装置などを活用して資料などを効果的に提示する. B2 児童生徒に互いの意見・考え方・作品などを共有させたり,比較検討させたりするために,コンピュータや提示装置 などを活用して児童生徒の意見などを効果的に提示する. B3 知識の定着や技能の習熟をねらいとして,学習用ソフトウェアなどを活用して,繰り返し学習する課題や児童生徒一 人一人の理解・習熟の程度に応じた課題などに取り組ませる. B4 グループで話し合って考えをまとめたり,協働してレポート・資料・作品などを制作したりするなどの学習の際に, コンピュータやソフトウェアなどを効果的に活用させる. C 児童生徒の ICT 活用を指導する能力 C1 学習活動に必要な,コンピュータなどの基本的な操作技能を児童生徒が身に付けることができるように指導する. C2 児童生徒がコンピュータやインターネットなどを活用して,情報を収集したり,目的に応じた情報や信頼できる情報 を選択したりできるように指導する. C3 児童生徒がワープロソフト・表計算ソフト・プレゼンテーションソフトなどを活用して,調べたことや自分の考えを 整理したり,文章・表・グラフ・図などに分かりやすくまとめたりすることができるように指導する. C4 児童生徒が互いの考えを交換し共有して話合いなどができるように,コンピュータやソフトウェアなどを活用するこ とを指導する. 小 熊 良 一・日 暮 利 明・岩 綾 乃 128答を求めた.4件法で回答を求めたものは,「意識」 の程度については,「とてもある」を4点,「ある」 を3点,「あまりない」を2点,「ない」を1点と見 なし得点化し,平均と標準偏差を求めた.また,事 前・事後の意識について,対応のある母平均の差の 検定を施し,差異を確認した.また,事前・事後の 意識,授業の満足度の理由,対面授業とオンライン 授業の違いの4項目ついて記述式で回答を求めた. 調査項目を表6に示す. 表6 項目と設問 1. オンライン授業の意識(事前・事後) オンライン授業をできる自信はありますか 2. オンライン授業の満足度 オンライン授業はうまくできましたか 3. 対面授業とオンライン授業の違い 対面授業とオンライン授業の違いを答えてください 4. オンライン授業に適した授業 オンライン授業は,どんな内容や場面で実施するのが適 切と考えますか 4.5 結果と考察 4.5.1 オンライン授業の意識(事前・事後) オンライン授業の事前と事後の意識の結果を表7 に示す. 事前の意識の平均2.10(とてもある:0%,ある: 20.0%,あまりない:66.7%,ない:13.3%)であった. また,事後の意識の平均2.73(とてもある:0%,あ る:66.7%,あまりない:33.3%,ない:0%)であっ た.事前と事後に関して母平均の差の検定を行った 結果,有意差が確認された((t 28)=3.44,p<.01). 事前の回答理由としては,「ICT機器やソフトウェ アの操作の不安」に関する記述が多かった.事後の 回答理由としては,「オンライン授業に合わせた教 材作成ができた」「オンライン授業の良さ」など前 向きな記述が多くみられた. この結果から,オンライン授業を経験することで, オンライン授業を実施する意識が高まることが確認 された. 表7 オンライン授業の意識(事前・事後) 事前 事後 平均 S.D. 平均 S.D. 検定 オンライン授業の意識 2.10 0.59 2.73 0.46 ** *:p<.05 **:p<.01 4.5.2 オンライン授業の満足度 オンライン授業の事後の満足度は,平均2.73(と てもある:0%,ある:66.7%,あまりない:33.3%,な い:0%)という高い結果であった.「とてもある」 「ある」と回答した理由としては,「授業準備の充実」 「画像や音声のわかりやすさ」「少人数による協議」 など,オンラインのよさや双方向の協議を取り入れ た授業を取り入れられることが挙げられた.「あま りない」「ない」と回答した理由としては,機器の 操作の課題,受講者の意欲の継続の困難さが挙げら れた. 機器の操作上の課題やオンライン特有の意欲を継 続できる指導を入れることで,授業者から対面授業 に近い満足度が得られることが確認された. 4.5.3 対面授業とオンライン授業の違い 対面授業とオンライン授業の違いについて,以下 のような回答があった.オンライン授業の利点とし ては,授業者の予定に合わせた展開の容易さ,板書 や音声等の明確さ,考える時間の確保が挙げられた. また,オンライン授業の課題としては,個の理解度 の把握,受講者の主体性による差,個別対応などの 受講者の学習状況の把握と教師主体の授業への懸念 の回答があった.また,オンライン授業に適した内 容として,かけ算九九や漢字など知識習得型の内容, 表やグラフなど提示した教材の説明,音楽鑑賞,英 語の音声の聞き取りなど音声データを用いた内容や 小グループによる協議が挙げられた. 対面授業とオンライン授業は,説明,協議といっ た基本的な授業形態に変わりはない.また,オンラ イン授業は目の前に画面やスピーカーがあるため, 提示資料や音声など物理的には分かりやすい環境が 確保できる.しかし,一人一人の見取りや個別対応 への課題があることが示された. 初等・中等教育におけるICT の活用の現状と課題 129