作業療法と作業科学の研究
今井 忠則
1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科リハビリテーション学講座 私は,作業療法士 (及び精神保 福祉士) として臨床では 精神科リハビリテーション (精神科作業療法,精神科デイ・ ケア) に携わってきた. 群馬大学には 2013年に着任し, 学 部教育では医学部保 学科作業療法学専攻に所属し, 主に 精神障害者に対する作業療法の専門科目を担当している. また大学院では, 精神科領域に加えて, 作業療法の基盤と なる学問の一つである作業科学 (occupational science) に 関する研究を実践・指導していきたいと えている. 作業 科学とは, 1980年代に南カリフォルニア大学の博士課程と して 生した, 作業的存在 (occupational being) としての 人間を研究する社会科学の一 野」である.なお,ここでの 作業とは「人が行なう全ての営み」のことである.作業療法 と作業科学は, 例えれば心理療法と心理学のような位置づ けであり, 米国やカナダでは, 学部教育で作業科学を専攻 し, 修士で作業療法を学ぶというスタイルが増えてきてい る.本稿では作業科学的 (かつ予防的作業療法の)研究の一 例として地域中高年者約 500名を 1年間に渡って追跡調査 した研究の一部を紹介する. 研究デザイン(調査概要) 本研究では, 茨城県に在住する地域中高年者約 500名を 対象とした 1年間の追跡調査 (パネル調査)を実施し,作業 参加と 康関連 QOL 及び生きがいとの関連を検討した (図 1). 対象集団は, 介護予防サポーターの養成講座に 募で参 加したおおむね 60歳以上の地域住民である. ベースライ ン調査は各講座において集合配布・後日回収の方法で,6ヵ 月後及び 1年後の追跡調査は各自宅への郵送法で実施し た. 本稿では研究 1∼ 3の概要を紹介する. なお, 本調査は 調査実施機関の研究倫理委員会の承認を得て行なわれた. 作業参加の測定法の開発(研究1) 研究 1では, 自記式作業遂行指標 (Self-completed Occu-pational Performance Index:SOPI)を開発し,ベースライン 調査の有効回答者 432名 (男 97名, 女 335名, 平 年齢 63.1±5.3歳,範囲 50-78歳)を対象に,尺度の信頼性と妥当 性を検討した.SOPI は余暇活動・生産的活動・セルフケア の 3領域における, 本人にとって重要な活動の参加状況を, 作業の統制・バランス・遂行満足度という 3つの視点から 捉えるように設計された 9 項目の質問紙である. 析の結 果,高い回答率 (98.8%)と十 な 散,信頼性 (α=.93),妥 ― 85― 文献情報 投稿履歴: 受付 平成26年11月20日 採択 平成26年12月 4日 論文別刷請求先: 今井忠則 〒371-8514 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科リハビリテー ション学講座 電話:027-220-8952 E-mail:imait@gunma-u.ac.jp流 れ
2015;65:85∼86 図1 調査概要当性が認められた. 作業参加と 康関連 QOLの関連(研究2) 作業参加が 康関連 QOL に及ぼす影響を明らかにする ことを目的に, 6ヵ月間の追跡調査を実施した (追跡率 94.1%). 有効回答者 398名を 析対象とした. 社会経済的 要因 (性,年齢,教育歴,経済状況等)の影響を取り除いた上 で,作業参加 (SOPI)の 康関連 QOL への影響をみるため に重回帰 析を行った. 康関連 QOL の測定にはSF-36v2を 用した. 析の結果, SF-36v2の 8つ下位尺度の うち 6つ (VT,GH,SF,MH,BP,RP)に有意な肯定的な関 連 (β=.11∼.30, p<.05) が認められた. また, 2つのサマ リースコアのうち, 精神的 康度 (MCS) に有意な肯定的 な関連 (β=.31, p<.001) が認められた. 作業参加と生きがいの関連(研究3) 作業参加に影響を受ける 康の範囲は, 康関連 QOL よりも広範囲と えられ, 心理的・社会的な次元の 康・ well-being にも影響が及ぶ可能性がある. そこで研究 3で は, 作業参加が 生きがい に及ぼす影響を明らかにする ことを目的に, 6ヵ月間の追跡調査を実施した (追跡率 94.8%). 有効回答者 458名を 析対象とした. 析法は研 究 2と同様に, 作業参加の生きがいへの影響をみるために 重回帰 析を行った. 生きがいとは, 日本人特有の感情と 価値観を含む幸福感の概念である. 測定には生きがい意識 尺度 (Ikigai-9) を 用した. 析の結果, 作業参加の 6ヵ 月間の個人の変化は, 生きがいの 6ヵ月間の個人の変化に, 中程度の肯定的な影響 (β=.35, p<.001) があることが明 らかとなった. 合的 察 以上の研究 1∼ 3より, 地域の 康な中高年者において, 作業参加が 康関連 QOL や生きがいといった身体的∼心 理的・社会的な次元の主観的 康に肯定的に関連すること が明らかとなった. また, 個人の 6ヵ月間の SOPI の変化量 に相当な幅がみられたことから, 本研究対象者のような比 較的 康な人々においても, 康における作業参加の問題 (つまり, 日常の活動に満足に参加できていないことによる 康への否定的な影響といった 康増進・予防医学的な問 題) が存在することが示唆された. 文献 1. 今井忠則, 奥野純子, 戸村成男, 山川百合子, 鈴木恵子, 柳 久子. 介護予防のボランティア活動が 康関連 QOL に及 ぼす影響―地域社会への貢献意識に着目して―. プライマ リ・ケア 2009;32(4):200-208. 2. 今井忠則,齋藤さわ子.個人にとって価値のある活動の参加 状況の測定―自記式作業遂行指標 (SOPI: Self-completed Occupational Performance Index) の開発. 作業療法 2010; 29:317-325. 3. 今井忠則,齋藤さわ子.意味ある作業の参加状況が 康関連 QOL に及ぼす影響― 康中高年者を対象とした 6カ月間 の追跡調査. 作業療法 2011;30:42-51. 4. 今井忠則 : 作業参加が生きがいに及ぼす影響― 康中高年 者 を 対 象 と し た 6ヵ月 間 の 追 跡 調 査. 作 業 療 法 2013; 32(2):142-150. 5. 今井忠則, 長田久雄, 西村芳貢. 60歳以上退職者の生きがい 概念の構造―生きがい概念と主観的幸福感の相違―. 老年 社会科学 2009;31(3):366-377. 6. 今井忠則,長田久雄,西村芳貢.生きがい意識尺度 (Ikigai-9) の信頼性と妥当性の検討. 日本 衆衛生雑誌 2012; 59: 433-439. 作業療法と作業科学の研究 ― 86―