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キャリア研究の発展とキャリア教育の今後の課題

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Academic year: 2021

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(1)国際経営・文化研究 Vol.16 No.1 November 2011. (論 文). キャリア研究の発展とキャリア教育の今後の課題. 境 忠 宏 キーワード. キャリア生涯発達 職業的自己概念 計画的偶発性 意図的変革 自己志向的学習. 1 キャリア教育とキャリア研究の発展動向 1)キャリア教育の変遷とキャリア形成支援の拡大 1908年にパーソンズがボストン市に職業相談専門機関を設置し、その著書「職業の選択」で自己 の明確な理解・仕事に関する知識・自己理解と仕事知識の照合という職業選択の基本ステップを提 唱してから、個人と職業との適合性を判定する様々な適性検査が開発され、職業指導の科学的体系 が構築されていくことになる。一方、我が国では三田谷啓が1920年に大阪市立少年職業相談所を開 設し、これらの科学的手法を活用した職業指導を実施していくとともに、北方教育での生活綴方運 動など現在でも重視される「生きる力」教育を目指した独自の職業教育も展開されていくことにな る。しかし、高度経済成長期を中心に、日本の教育は職業教育よりも知識教育が重視され、進路指 導も進学指導が中心となっていく。 しかし、近年、技術や社会の変化が加速化し、職業構造そのものが大きく変容し、変化そのもの が常態化する中で、安定した職業構造のもとでの適性に基づく早期の職業選択と迅速な職場適応よ りも職業構造の変化そのものへの持続的な適応力が重視され、1996年の中央教育審議会答申「21世 紀を展望したわが国の教育の在り方について」に代表されるように、 「変化の多い社会の中でも主体 的に生きていく資質や能力などを含めた全人的な力としての生きる力」の育成が重視されるように なってきている。それは、生涯に渡る時系列的な職業体験というキャリアの客観的側面(外的キャ リアと呼ばれる)よりも、それらの職業体験さらにそれに伴う社会的役割の拡大に基づく職業的な 自己概念の生涯発達というキャリアの主観的側面(内的キャリアと呼ばれる)を重視するものでも ある。また、キャリアの主観的側面の発達は就業後の職業体験のみに規定されるのではなく、児童 期からの人間関係や社会的体験さらに様々な職業での仕事行動の観察を通した社会的学習にも大き く影響される。 さらに、教育だけでなく産業においても、情報化や国際化が進展する中で特定の組織に縛られな い知識労働者の自律的キャリア形成や国境を越えた柔軟で主体的なグローバル・キャリア形成が重 視されつつある。例えば、三輪(2011)は、医師・弁護士・会計士・研究者などの伝統的な専門職 さかい ただひろ:淑徳大学 国際コミュニケーション学部 人間環境学科 教授. — 13 —. 1.

(2) キャリア研究の発展とキャリア教育の今後の課題. だけでなく、ソフトウェア技術者・経営コンサルタント・プランナー・プロデュサーなどの近年急 激に増加した新興の専門職さらに企業などの組織の中でも経営企画や事業開発あるいは業務改善な ど主体的な問題解決や意思決定に関わる従業員も知識労働者として捉え、彼ら・彼女らのキャリア 志向や組織間移動さらに学習スタイルや満足度を実証的に検討している。そこからは、知識労働者 には大きな組織とうまく付き合いながら高度なプロジェクトに従事するスマートなキャリア形成と 小さな組織を移動しながらチャンスを広げていくタフなキャリア形成の二つのスタイルがあるが、 いずれにおいてもそれぞれのスタイルに適合した対人的な学習と主体的な学習が複合的に展開され ている場合に成果も満足度も高いことを見出し、このような新しいキャリア形成を支援しうる人的 資源管理や人材開発の必要性を主張している。また、石倉(2011)も、知識経済化が進展する中で 知識人材の重要性はますます高まっているとするとともに、世界がオープン化し競争が国や地域を 越えて激しくなる中、厳しいグローバル競争を繰り返す世界での実践経験を数多く持つグローバル 人材を目指したグローバル・キャリア形成がとくに必要となるとし、それには人材個々人も自分の 内面的な強みを知り日本にこだわらず地域を越えて自分の強みを生かせるキャリア発達の「場」を オープンに世界に求める姿勢が重要としている。 2)キャリア研究の発展とキャリア概念の拡大 一方で、渡辺ら(2007)が展望しているように、キャリア研究においても資質や能力などを踏ま えた人材個々人の職業要件への早期の適合化という人材個々人を客体として捉えるパーソンズ (1909)の考え方への疑問が提示され、キャリア概念そのものが大きく変容しつつある。ホランド (1985)は、職業への適応においては資質や能力よりもそれぞれの職業を構成する主要な社会活動 と人々のそれらへの興味との適合性がより重要であるとともに、その関係は柔軟でありかつそれら の職業環境は人材個々人の働きかけによっても変えられるものであるという人材個々人と職業との 相互規定性を主張する「個人と環境との相互作用論」を提示している。また、スーパー(1980)は、 キャリア発達を生涯に渡る職業的自己概念の発達という視点でとらえ、そこで重要となるのは職業 そのものではなくそれに伴う社会的役割の拡大と多元化であるとする「キャリアの生涯発達論」を 提唱している。さらに、ハンセン(1997)も、キャリア形成において重要なのは仕事を他の生活上 の役割との関係さらに生涯に渡る人生全体の中で考えることの重要性を指摘し、キャリア発達では 生活や人生を構成する主要な四つの要因、仕事・学習・余暇・家庭をバランスよく統合していくこ とが最も重要となるという現在のワークライフ・バランス論の基盤ともいうべき「統合的人生設計論」 を提唱している。 さらに、これらの生涯に渡るキャリア発達の過程と要件を明らかにしようとしているものに、ホー ル(2002)とサビカス(1997)がある。ホールは、1980年代の米国における産業構造の大きな変 化のもと、個人と企業組織との心理的契約関係が長期安定的なものから貢献と利益との関係を基盤 とする短期道具的なものへと変化し、キャリアの考え方も組織内キャリアから個々人の仕事におけ 2. る心理的成功を目指す自己志向的なものへと変化しているとしているとしている。ここから、ホー ルらは、キャリアを「生涯を通じた経験・スキル・学習・転機・アイデンティティの変化の連続で あり組織によってではなく個人によって管理されるものである」とし、移り変わる環境に対し自己 志向的に変幻自在に対応していくキャリアをプロティアン・キャリアと呼び、その形成にはアイデ ンティティとアダプタビリティが必要としている。アイデンティティでは生涯に渡る変化と現在時 点とを整合化するための洞察や学習が必要となり、アダプタビリティでは変化し続ける環境からの 要請に応じて多様な役割行動の継続的開発が必要となるとされる。. — 14 —.

(3) 国際経営・文化研究 Vol.16 No.1 November 2011. サビカスは、ホランドやスーパーの理論を統合しつつ、キャリアの主観的側面である内的キャリ アの発達を最も重視し、キャリアを「意味を運ぶもの」と表現し、過去から現在の経験に対する意 味づけを踏まえ今後の職業人生に自分らしい意味を発見し創り出していくことが個々人にとっての キャリア発達であるとしている。そのために、どのような職業が自分に相応しいのかというキャリ アの「What」、いかにして職業を選択し適応していくのかというキャリアの「How」 、なぜ自分はそ の職業を選ぶのかというキャリアの「Why」を明確に理解し自覚させていくことがキャリア教育や キャリア支援で最も重要になるとし、そのための方法を提示している。Whatの部分は職業パーソナ リティと呼ばれ、キャリアに関連した能力・欲求・価値観・興味によって定義され、サビカスはホ ランドの職業興味の6角形モデルの活用が有効としている。Howの部分は、環境変化のもと職場や 社会から要請される様々な発達課題や職業上での予測できない移行さらにそれに伴うストレスへう まく対処し「ありたい自分」になるための方法のことでキャリア・アダプタビリティと呼ばれる。 キャリア・アダプタビリティは、自らの職業上の未来についての関心としてのキャリア関心、自ら のキャリアを構築する責任は自分であるという自覚と確信としてのキャリア統制、自らに相応しい 職業を求めた経済や社会さらに職業の探索としてのキャリア好奇心、自らで進路選択や職業選択を 主体的かつ適切に実行できるという自己効力感としてのキャリア自信の四つの次元から構成される とし、サビカスは、これらは「私に未来はあるのか?」 、 「誰が私の未来を所有しているのか?」 、 「私は自らの未来をどうしたいのか?」、「私はそれを実現できるのか?」の四つを自問することで判 定することができるとしている。Whyの部分は、個人が自らの職業選択や職業行動に意味や方向性 を与える解釈に関わるものでライフテーマと呼ばれる。人が過去の出来事を今の自分の在り方ある いは将来の自分に繋がるように再構成して語る物語的な真実としてのキャリアストリーにおいてそ の背後にあり一貫性や継続性を担保しているのが「自分はどのように生きたいのか」を示すライフ テーマである。キャリア教育やキャリア支援の実践では、生徒やクライアントの職業的語りや物語 的真実から、相手のライフテーマを構築しその自覚を促すとともに、その実現のためのキャリア・ アダプタビリティを生涯に渡り開発していく必要があるとされる。 3)継続的学習による主観的キャリアの意図的変革理論への発展 ホランドやサビカスは、変化する環境への柔軟な適応やそのための主観的キャリアの持続的発達 の重要性を主張するものであるが、近年ではさらにそれに向けた個々人の主体的な自己変革の重要 性やそのための方法を提唱しているクランボルツ(2004)の計画的偶発性理論やボヤティス(2006) の意図的変革理論へと発展している。 クランボルツは、社会的学習理論に基づき、変化の激しい時代におけるキャリア形成では既存の 興味・価値・能力とマッチした職業の選択よりもそれらをさらに拡大するための新たな学習体験こ そが重要であり、そのためにはむしろ「決定」状態よりも「未決定」の方が望ましいとしている。 つまり、未決定の状態で出会う予期せぬ出来事をうまく新たな学習へと結びつけることで人は興味 や価値さらに能力を拡大させ次のキャリア発達の機会へと発展させていくことができるとするもの である。そのためのキャリア支援では個々人の新たな学習の促進が最も重要となり、予期せぬ出来 事をキャリア発達の機会に結びつけるオープンマインドと主体的変革意欲を引き出すことが重要と している。 ボヤティスは、このような視点をより発展させ、キャリア発達における個々人の理想的自己の意 図的変革の重要性をより強調するとともに、複雑性システムの視点から従来のキャリア理論はキャ リア発達の過程をあまりにも単純にとらえ過ぎており実態とは大きくかけ離れてしまっているとし. — 15 —. 3.

(4) キャリア研究の発展とキャリア教育の今後の課題. ている。ボヤティスは、従来の理論は事後的な説明に過ぎず非線形的で非連続的な自己変革の過程 を充分に説明し予測することができず、そのためそこから引き出された手法は人々の意図的変革へ の意欲を十分に引き出すことができず、人々を支援し、奨励し、動機づけるよりもむしろ人々を消 耗させ、悩ませ、傷つけているとしている。人間や社会は本質的に現状の均衡を維持しようという 傾向をもつため、理想に向けての自己変革のためには、明確な目標像および理想と現状とのギャッ プの自覚、変革に向けての強固な意志、さらに現状と理想との関係についての自己認識を促すとと もに自己変革へ向けての実験のための安心な状況を提供する人間関係が必要となる。また、このよ うな自己変革の過程は、個人だけでなく、集団・組織・社会というより高次のレベルでも同一であり、 それらの共鳴により個々人のレベルでの自己変革も可能となるがこのような異なる次元間での変革 を共鳴させるためには、触媒としてのリーダーシップが必要となる。変化する社会環境のもとでの キャリア発達を理解し支援するためには、このような異なる次元間での相互作用のもとでの個々の 次元ごとでの自発的で非連続的な変革とその自律的な共鳴が自生的に出現する過程を明確に把握す る必要がある。それには、複雑性システムの視点から、キャリア発達の実態を特徴づける「飛躍点 と断絶性を含む非線形的で非連続的なダイナミックなシステムや変化プロセス」 、 「特定の誘発因を 通して出現した出来事が新たなダイナミックなプロセスを始発させ均衡あるいは不均衡な状態を自 生的に生み出す自己組織化」、「各次元で相似した変革単位としてのフラクタクルと準拠集団やリー ダーシップを介したこれらの変革単位間の相互作用」の3点を明らかにする必要があるとする。ボ ヤティスは、クランボルツと同様に、自己変革過程のなかでの学習を重視しているが、成人以降の 自己変革では「人は学習したいと思うことしか学習しない」ため「自分にとって望ましい状態を目 指した自己志向的学習」の誘発が必要としそのための学習プログラムを提唱している。また、偶発 的な機会や体験によるスムーズな移行や変化のためには人はより自覚的であらねばならないが、人 や社会の均衡維持傾向はしばしば「真に望ましい自分」への自覚を惑わせるため自己志向的学習の 中心は理想の自己を発見し、検証し、変革する自己の意図的変革におかねばならないとし、図―1 にあるような、そのための理想的自己の構造モデルを提示している。 理想的自己は、望ましい未来のイメージ・未来への希望・自らのコアとなるアイデンティティか ら構成され未来への個人的ビジョンを引き出す。望ましい未来のイメージは個々人の使命感・キャ リアの発達段階・価値観や哲学により規定され、未来への希望は自己効力感に基づく実現可能性期 待や楽観主義的態度により規定される。キャリアの意図的変革のための自己志向的学習では、 「理想 の自己や個人的なビジョンと現状との関係」・「自らの強みと弱みの評価に基づく理想の自己と現実 の自己との比較」・「自己変革のための学習課題の設定と計画化」 ・ 「新たな行動、思考、感情、知覚 の実験」・「実験を可能とするような他者との信頼関係の構築」という五つのステップでこのような 理想的自己の非連続性の認識さらには創造が必要となる。 ステップ1では、本当に何者になりたいのかという理想の自己を見つけることが必要となる。し かし、人はしばしば親や配偶者さらに上司などの周りの人がなってほしいという言葉で我々が本当 4. に目指したい自己への視点や夢を麻痺させられ真に目指す理想の自己を十分に把握することができ ずにいる。ステップ2では、本当に変わるために人は何を重視し何を維持すべきなのかを正しく自 覚しなければならない。それには今何ができ何ができないのかという過去の成果からではなく、理 想の自己と現実の自己とが整合している部分を強みとして維持し整合していないギャップを弱みと して変革していくという未来からの視点がなによりも重要となる。しかし、我々が相互作用してい る人々が見ている自分への注意が我々を惑わせ、我々の自己防衛機制が今のままの自分を存続させ てしまうことになる。ステップ3では、真に自分にとって望ましい未来に焦点を当てた学習課題を. — 16 —.

(5) 国際経営・文化研究 Vol.16 No.1 November 2011. 設定する必要がある。日々の行動は日常の連続であるが、ここでの学習課題は望ましい未来の開発 に焦点を絞らねばならない。それが、人の自分の可能性への確信や改善への希望をもたらし、多く の人がそうだからという社会規範的な基準ではなく自分自身の固有の規範を設定させ目標の達成を 促すことになる。ステップ4では、望ましい変化の実現のための新たな行動の実験と実践が必要と なる。そのためには、人は現在の体験からより以上のことを学ぶ方法を見出さなければならない。 ただ単に新たな活動に参加するだけでなく、現実の状況で何か異なることに挑戦し新たな学習さら には変化への機会を発見していかねばならない。それには、安心した挑戦や実験を支える人間関係 が必要であり、それが人々を恥や困惑さらに失敗への不安から解放し低いリスクのもとでの新たな 行動、知覚、思考への挑戦を可能とする。ステップ5では、我々の新たな学習や挑戦を支持し可能 とさせる人間関係の構築が必要となる。人にとって重要な他者や集団との関係が我々の望ましい状 態へ向けての進歩を理解させ新たな学習を可能としさらに理想そのものを発見させることになる。 また、そのような人間関係が変化を安定させもとの状態への回帰を防ぐことになる。 実現可能性. 自己効力感. 楽観主義. 情 熱. 天 職. 希 望. 発達段階. 望ましい未来 のイメージ. 理想的自己. 価値観と哲学. コア・アイデンティティ. 個人的ビジョン. Boyatzisら(2006)P627より. 図―1 理想的自己の構成. 2 キャリア研究の今後の課題 1)キャリア研究の現在 このようなキャリア概念の変容と拡大のもと、キャリア研究ではキャリア教育やキャリア支援の 目的と方法への考え方を図―2に示すように大きく変換させてきている。 パーソンズ以降のキャリア支援としての「職業指導論」では、個々人に適合した職業へのスムー ズな適応が目指され、そのために適切な職業の早期の選択決定が求められた。しかし、その中でも ホランドは、職業への適応において重要なのは能力よりもそこで取り組まねばならない活動への興 味であり、かつ人が職業へと適合化するだけでなく人は職業環境を自らの興味に合致するように変 えることもできるという人と職業との相互影響の可能性も示唆している。 このような特定時点における適応ではなく生涯に渡るキャリア発達を重視したのがスーパーの「生 涯発達論」である。スーパーは、人は人生のそれぞれの発達段階で社会的役割を拡大し多元化して いくがそれが人の職業的自己概念としてのキャリアの発達をもたらすとしている。さらに、ハンセ ンは、キャリア発達は職業的自己概念の発達にとどまらず、仕事・学習・余暇・家庭の四大要素か らなる生活そのものへの満足の拡大でなければならないとし、キャリアのカバーする範囲を時間的 にも空間的にも拡大している。 さらに、ホールやサビカスは、変化の激しい時代への持続的適応によるキャリア発達のためのプ ロセス・モデルを提示している。ホールはキャリアを「生涯を通じた経験・スキル・学習・転機・. — 17 —. 5.

(6) キャリア研究の発展とキャリア教育の今後の課題. アイデンティティの変化の連続」として捉え、アイデンテティティ適応・行動適応・統合的適応か らなる「変化の連続」としてのキャリア発達過程をモデル化している。また、サビカスは、キャリ アを「過去から現在の経験に対する意味づけに基づき創り出された今後の職業人生についての自分 らしい意味」として捉え、変化する職業環境の中で新たな意味を構築するための能力として「キャ リア関心」 ・ 「キャリア統制」 ・ 「キャリア好奇心」 ・ 「キャリア自信」という4次元からなるキャリア・ アダプタビリティの構造モデルを提示している。 このようなキャリア研究の発展は職業選択から生涯発達へさらにそこでの客観的側面としての外 的キャリアの選択から主観的側面としての内的キャリアの創造へというキャリア研究の対象領域の 拡大と対象側面の深化をもたらしたが、クランボルツとボヤティスはこのようなキャリア研究の発 展を新たな学習を通した持続的な自己変革こそがキャリア発達を可能とするという主体的学習理論 へと展開させている。クランボルツは過去や今にとらわれないオープンな態度での未知への挑戦と そこでの社会的学習によるキャリア発達を提唱し、ボヤティスは周囲の眼にとらわれない真に望ま しい自己の発見と非連続性そのものを自らで創り出していく自己志向的学習によるキャリア発達を 提唱している。 2)キャリア研究の今後の課題 クランボルツやボヤティスのキャリア理論では「主観的キャリアの主体的創造」と「他者や社会 との係わりのもとでの学習」がとくに重視されている。とくに、ボヤティスは重要な人間関係が新 たな行動への挑戦と学習を可能にするとともに、個々人の自己変革と社会変化は自生的に共鳴し自 己組織化していくとしている。しかし、客観的な職業構造からなる社会のキャリア環境と主観的な 意味づけや価値評価からなる個人のキャリア意識がどのような関係にあり、また、どのよう共変し ていくかについての研究はなお乏しいと言わざるをえない。 ここから、今後のキャリア研究では、次の二つの課題への取り組みが重要となろう。一つは、キャ リアの学際的研究である。キャリアの客観的側面と主観的側面との相互関係の明確化および個々人 のキャリア発達と社会変化との関係とのシステム的研究が必要である。とくに個々人の主体的自己 変革と社会変化との相互作用の明確化が重要となろう。二つには、経営や経済の国際化がますます 進展する現在、キャリア発達の国際的視点からの研究が必要となろう。それにはキャリア形成過程 の比較文化的研究とともに、国境を越えてキャリアを形成しようとする人々のグローバル・キャリ ア発達の実態把握も必要となる。 カーポバら(2007)は、経済的付加価値の創出基盤が技術や生産などのモノから知識や情報など のチエへと移行する知識経済化のもとでは知識専門人材の主体的な創造性の発揮が最も重要となる としている。そこでは固定的な職業概念は崩壊し組織では現場の担当者たちの自立的協働を中心と して人材個々人の自律的なキャリア選択が社会を変革していくことになる。したがって、キャリア の主観的側面がますます重要となるとし、心理学・社会心理学・社会学における主観的キャリアの 6. 研究を広く展望している。それによれば、いずれの研究領域においても客観的側面と主観的側面と いうキャリアの二重性やそれらの相互依存あるいは相互作用を認める点では共通しているが、その 内容は大きく異なるとされる。スーパーに代表されるキャリアの心理学的研究は、選択された職業 とそこでの社会的役割が外的キャリアでありそれを基盤とした職業的自己概念が内的キャリアで、外 的な仕事経験に基づくキャリア状況の主観的解釈から内的キャリアが形成されるとする。つまり、 心理学的研究では外的キャリアと内的キャリアとの相互作用はあくまで人の心の内面で生じるもの とされる。一方、クランボルツに代表される社会心理学的研究では、過去から現在までの学習体験. — 18 —.

(7) 国際経営・文化研究 Vol.16 No.1 November 2011. が外的キャリアでありそれらの学習体験への認知的・情緒的反応が内的キャリアで、学習体験への 心理的反応として自らの目的に適合するよう環境を統制しようとして内的キャリアが発達するとさ れる。つまり、社会心理学的研究では相互作用は個々人とそれを取り巻く環境という内外で生じる ものとされる。他方、ギデンズに代表される社会学的研究は、外的に定められた社会的役割の遂行 規則(社会的制度)が外的キャリアでありその理解と受容のもとでの個々人ごとの社会的役割の遂 行スタイルが内的キャリアとしている。短期的には社会的役割の遂行が外的・制度的に規制される が長期的には個々人の制度への意味づけの変化を通して個々人がこれらの社会的役割(の遂行規則) を修正し再創造していくことで社会そのものが進化していくとされる。つまり、社会学的研究では 相互作用は社会的役割の制度と行動という人の外部で生じるとされる。このように、いずれの研究 領域においても、外的・内的というキャリアの二重性と相互依存性は仮定されているものの、その 相互作用の実態は統一的に捉えられているとは言い難い。これに対し、カーポバらは、バンデュラ (2001)の「社会的認知理論」に基づくキャリアの学際的研究の必要性を主張している。 バンデュラは、人を「自らの人生を意図的に創り上げていくことができ、また、自らを取り巻く 社会システムを形成することのできる能動的な主体」として捉え、社会構造としての外的キャリア と個々人の主体性としての内的キャリアとは、「社会構造は個々人の活動や実践により創造され、社 会構造は人々の発達を規制もするが同時に発達のための資源や機会も提供する」という双方向での 緊密な相互依存性を仮定している。そのもとに、予見性・意図性・自己反応性・自己内省性などの 自己発達のための心理的特性を設定し、自らの人生や他の人々の人生に影響する出来事は自らで統 制することができるとする自己効力感という社会心理学的概念のもと、人は直接的な影響(個人 モード)・他者を介した影響(代理モード)・社会的協働による影響(集合モード)で社会の構造や 環境を変化させ統制しうるという学際的視点を提示している。ボヤティスの意図的変革理論はバン デュラのこのような学際的視点を発展させたものではあるが、なお個々人と組織や社会との共変動 は複雑性システムのもと情緒的感染と共鳴的リーダーシップのもと自生的に出現するとするのみで、 より具体的かつ操作的な方法は明示していない。このような個人と社会との相互作用や相互規定性 を明らかにし、個々人の自律的キャリア形成と社会システム変革との最適な関係を創り出していく ためには、個々人のキャリア選択の自由度を規定しかつ個々人の自律的キャリア形成からの影響を 受ける具体的な要因を明確にしていく必要がある。 メイホファーら(2007)は、個々人のキャリア発達に影響する社会的要因には次のようなものが あるとしている。個々人のキャリア選択に直接的に関係するのは、労働市場・経営形態・人間関係 とされる。労働市場については労働経済学がそのセグメント化や階層化を指摘してきたが、最近で 知識経済化のもとにむしろ専門化や流動化が進展し、それが個々人のキャリア選択の自由化と自律 化を進めている。経営形態では組織のフラット化さらにネットワーク化のもとでの仮想的協働や複 業化の進展が新しいワーク・スタイルを出現させ、キャリア選択の流動化や自立化を広げている。 キャリア選択には個々人の社会的アイデンティティの影響が大きいが、ネットワーク化の進展とメ ンタリングの拡大が人間関係の影響をさらに強めている。ネットワーク化の進展は個々人のキャリ ア選択における支援者を拡大し、とくにメンターの存在は個々人のキャリア発達への自信を強める ことで、個々人のより挑戦的なキャリア選択を促しつつある。次いで、社会階層・教育制度・生活 様式も個々人のキャリア選択に影響するが、なかでも教育制度の影響が大きいとされる。学校教育 は個々人の職業意識や職業能力を育成することでキャリア適応能力を開発し個々人のキャリア選択 の自由度を拡大するが、企業組織も様々な職業体験を通して個々人のキャリア成功の可能性を拡大 するとされる。さらに、社会の性役割期待や政治体制あるいは地域社会も、個々人への役割期待を. — 19 —. 7.

(8) キャリア研究の発展とキャリア教育の今後の課題. 通して個々人のキャリア選択の自由度を大きく規定しているとされる。とくに、国際的な動向がこ れらの傾向をさらに強めるとともに、世界的な共通化を進めているともされる。 一方、トーマスら(2007)は、数少ないキャリアの比較文化的研究をレビューし、キャリア発達 にはそれぞれの国や地域の産業化の影響が大きく、必ずしもすべての国や地域でキャリア選択の自 由度や自律性が確立されているわけではないことを見出している。キャリアという概念自体、地域 経済が技術革新のもとに急速に発展し、大家族が崩壊して小家族化し人口移動が活発化する中で出 現してきたもので、米国でも20世紀初頭のパーソンズによる職業指導がその出発点であり、それ以 前は米国でも家業の継承や家族からの指示が一般的な職業選択であったとされる。文化的要因は法 律や経営などの社会的制度の形成を通してキャリア選択の自由度や機会を規定するとともに、個々 人の価値観やキャリアへの態度も規定することでキャリア選択の方法やスタイルも直接的に規定す る。たしかに、メイホファーらのいうように国際化の進展は経済や経営では地域間での共通性を高 めつつあるが、文化は同じような速度では変化せず、現在のキャリア研究では個々人のキャリア選 択により広範な影響を持つ文化的背景の差異が十分に考慮されていない。ここから、トーマスらは、 少なくともキャリアの意味・キャリアの選択・キャリアの発達・キャリアの移動・キャリアの管理 の5次元についての文化間の違いを明らかにすることの必要性を主張している。キャリアの意味に ついては、収入を得るための職業経歴にすぎないという考え方から自己実現のための社会的役割の 拡大という考え方まで文化により大きく異なる。キャリアの選択では、いまなお家族や社会からの 指示や強制が一般的な地域から個々人の自由で主体的な意思決定が中心のところまでの広がりがあ る。キャリアの発達ではそのための機会や支援が階層間で大きな格差が残る地域から社会全体の平 等が保証されている地域までの違いがある。キャリアの移動については転職を否定的に捉え組織・ 職業適応 職業指導論 目 的 発達過程論 ●パーソンズ ●ホール 科学的手法を用いた職業適性 変幻自在なキャリア発達のた に基づく職業の早期選択と職 めの三つの適応プロセスの明 場への迅速な適応 確化 ●ホランド ●サビカス 職業活動類型に基づく職業選 過去からの経験と将来の職業 択と個人と環境の持続的相互 生活への意味づけによる主観 作用による適合化 的キャリアの形成 早期選択. 8. 変化継続. 方法 生涯発達論 ●スーパー ライフサイクルでの社会的役 割の多元化による職業的自己 概念の生涯発達 ●ハンセン 仕事・学習・余暇・家庭の人 生の4大要素の統合的設計に よる生活そのものの生涯発達. 自己変革論 ●クランボルツ 未決定の状況で出会う予期せ ぬ出来事からの学習を通した キャリア発達 ●ボヤティス 自己志向的学習による理想的 自己の発見と継続的な自己変 革によるキャリア発達. 人間成長. 図―2 キャリア研究の発展動向. — 20 —.

(9) 国際経営・文化研究 Vol.16 No.1 November 2011. 職業・地域を越えた移動が極めて困難な地域からむしろ肯定的に捉えそれを奨励する地域までの差 異が大きい。キャリアの管理ではそれがまったく欠如している地域から組織の側からの一方的な支 援のみの地域さらにキャリア発達の主体は人材個々人におかれそのための支援制度も充実している 地域までの多様性がある。これらのキャリアの概念や環境の地域間での大きな差異やこれらの次元 間の緊密な関係構造を明らかにしなければ、世界共通のキャリア支援プログラムやそれを基盤とし たグローバル・キャリア形成プログラムも不可能となろう。 3 キャリア教育の課題と今後の方向 1)キャリア教育の長期一貫化と社会変革との連動 平成23年1月31日の中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方 について」では、義務教育から高等教育までの学校教育において形成すべき「社会的・職業的自立、 社会・職業への円滑な移行に必要な力」のうち基礎的・汎用的能力として、人間関係形成・社会形 成能力、自己理解・自己管理能力、課題対応能力、キャリアプランニング能力の四つをあげている。 人間関係形成・社会形成能力は「多様な他者の考えや立場を理解し、相手の意見を聴いて自分の考 えを正確に伝えることができるとともに、自分の置かれている状況を受け止め、役割を果たしつつ 他者と協力・協働して社会に参画し、今後の社会を積極的に形成することができる力」とされ、自 己理解・自己管理能力は「自分ができること、意義を感じること、したいことについて、社会との 相互関係を保ちつつ、今後の自分自身の可能性を含めた肯定的な理解に基づき主体的に行動すると 同時に、自らの思考や感情を律し、かつ、今後の成長のために進んで学ぼうとする力」 、課題対応能 力は「仕事をする上での様々な課題を発見・分析し、適切な計画を立ててその課題を処理し、解決 することができる力」、キャリアプランニング能力は「働くことの意義を理解し、自らが果たすべき 様々な立場や役割との関連を踏まえて働くことを位置付け、多様な生き方に関する様々な情報を適 切に取捨選択・活用しながら、自ら主体的に判断してキャリアを形成していく力」とされている。 これらの能力を構成する具体的要素もいくつか例示はされているが、この能力構造は職業教育・進 路指導研究会が全米職業情報整備委員会の「全米キャリア発達ガイドライン」を参考に1998年に「職 業教育・進路指導に関する基礎的研究」において提示した「人間関係形成能力」 ・ 「情報活用能力」 ・ 「将来設計能力」・「意思決定能力」の4次元を、いわゆる「人間力」とされる自己管理能力を重視す る情緒的知性(EQ)も踏まえて発展させたものであろう。個々人の生涯発達の過程に対応した継続 性が重要となるキャリア教育においては学校段階を越えて一貫する教育目標の設定が何よりも必要 となるが、近年のキャリア研究の発展から見るとなお次のような問題が残されている。まず、第一 に、近年のキャリア教育では変化する環境のもとでの主観的キャリアの形成や変革がもっとも重視 されてはいるが、これらの基礎的・汎用的能力次元はむしろ「職業適応能力」に重点がおかれ「自 己変革能力」の育成への視点がやや弱いという点である。この点はスーパーの生涯発達モデルに基 づきキャリア・アダプタビィティの発達過程を明らかにしているサビカスの主観的キャリア理論に 基づく目標設定が必要となろう。第二に、キャリアの継続的教育では学校段階を越えた目標設定と ともに教育内容の継続性の担保が重要となるが、日本では中等教育校での中・高6年間での継続的 キャリア教育への取り組みはあるものの学校段階を越えた一貫キャリア教育のためのガイドライン はなお確立されておらず、学校教育の現場からもキャリアの学校段階を越えた継続的教育の困難さ が報告されている。 「全米キャリア発達ガイドライン」では、小・中・高から成人に至るキャリア教育の内容が共通 の教育目標のもとにそれぞれの発達段階とそこでの発達課題に対応して設定されている。また、日. — 21 —. 9.

(10) キャリア研究の発展とキャリア教育の今後の課題. 本でのキャリアの基礎的・汎用的能力とされるものと根本的に異なるのは、日本の目標は習得すべ き行動能力という視点であるのに対し、米国では行動能力習得のためのレディネス(準備状態)とい うパフォーマンスとラーニングを明確に区別する学習心理学の基本的視点に立脚している点にある。 今後の日本におけるキャリア発達のガイドラインとしては、全米キャリア発達ガイドラインのよ うな学校段階間を連結しうる体系的目標設定という枠組みを参考としながら、北方教育からの日本 の伝統でもある「生きる力教育」とも共通するサビカスの「キャリア・アダプタビリティ」の理論 的次元を踏まえた教育目標設定が何よりも重要となろう。また、そこでもっとも重要とされる主観 的キャリアの主体的形成のためにも、教育目標としては個々人が発達段階のそれぞれにおいて「自 らに何を問いかけるべきか」という課題設定のもとでのボヤティスの「自己志向的学習」を誘発し うる仕組みの構築が必要であろう。このような主体的な自己志向的学習のもとにそれぞれの学校段 階が相互の連携でいかなるキャリア発達機会を提供しどのようなキャリア適応能力の開発を支援し ていくべきなのかを明示していくべきである。表―1は、サビカスを参考に筆者が作成した一つの モデル試案である。なお、精緻化すべき点は多いものの今後の日本における生涯に渡るキャリア適 応能力育成のための継続的キャリア教育には本モデルのような最新のキャリア研究を踏まえたキャ リア教育の目標体系の開発が必須の課題となろう。とくに、大学のユニバーサル化が進む中で多く の人々の人生で学校教育と社会との橋渡しとなる大学教育やその成果が試される卒業後数年間のキ ャリア発達までも包含する学校段階を越えたキャリア教育プログラムの開発に早急に取り組むべき である。 本年1月の中央教育審議会答申でも、高等教育におけるキャリア教育とともに「生涯にわたる社 会人・職業人としてのキャリア形成を支援する」機能の拡充などの必要性が指摘されており、聖徳 大学の「再チャレンジ学習支援サポートセンター」などそのためのいくつかの試みも紹介されてい る。しかし、これらはいずれも、個々人の自己変革やキャリア発達への社会からの支援の仕組みで あり、個々人のキャリア変革が社会の制度や環境さらに文化の変化をも生み出すという双方向的な 共鳴化の仕組みとはなっていないところに大きな問題が残っている。米国では、1980年代から個々 人の組織からは自立した自己責任のもとでのキャリア形成の機運が高まり、シリコンバレーの「キャ リア・アクション・センター」などで個々人の自律的キャリア形成のためのプログラムが開発され 普及している。これらはサビカスのいうキャリア・アダプタビリティそのものの自律的開発を促し クランボルツのいう計画的偶発性に基づくキャリア発達を実現しようとするものであり、今後の日 本における人材個々人の主体的なキャリア形成にも参考になるものと思われる。しかし、人材個々 人のミクロのキャリア変革を社会のマクロのキャリア環境の変動へと共鳴化する仕組みはなお十分 とはいえない。そのためには、境ら(2007)が指摘しているように、ある種の「キャリア・ギルド」 のような人材個々人のキャリアの形成や変革を支援するとともにその成果を社会へと発信しキャリ ア環境そのものを変革していくことのできる集合体が必要となるのではないかと思われる。例えば、 米国では、メディアに関わる専門家からなる「Producers Guild of America」があるが、リクルート 10. ワークス研究所(2005)はその日本版としてビジネス・プロフェッショナル大学院の設置とともに 「ビジネス・プロフェッショナルの創出と発展のための新たなワーキング・パートナーシップとなり うる」職業コミュニティの創設の必要性を提言している。. — 22 —.

(11) 国際経営・文化研究 Vol.16 No.1 November 2011. 表―1 キャリア適応能力開発のための生涯学習目標 キャリア適応 自己志向的質 キャリア教育 能力の4つの 問の内容. の課題. 次元. 発達段階ごとのキャリア適応能力開発課題 小学校. 中学校. 高等学校. 大学. 社会. キャリア関心 自分に未来は 自己発見・自 過去との連続 現在から未来 未来の可能性 未来での自己 自己変革の必 (無関心から あるのか? 関心への移. 己受容と将来 性の自覚. への見通し. への気付き. 設計能力. 実現のための 要性と可能性 計画策定. の理解. 行) キャリア統制 自分の未来は コミュニケー 現在から未来 自分の能力と 自分の役割と 主体性と自己 人間関係の調 (不決断から 誰のものか? ション力と意 への気付き 自己統制への. 思決定能力. 個性の確認と 価値の発見と 責任の自覚と 整とリーダー 自己評価. 自己表現. その実践. シップ. 移行) キャリア好奇 自分の未来を 主体的学習習 学ぶことと働 自分の社会的 社会的責任の 社会環境や職 自己変革の機 心(空想から どのようにし 慣と知識の編 くことの関係 役割の見通し 遂行とその喜 業環境の変化 会の発見と技 現実性への移 たいのか?. 集・活用力. の理解. と自覚. びの体験. 動向理解. 能の修得. 行) キャリア自信 自分は望まし 自己効力感と 達成経験とそ 自分の将来方 自分の求める 自分の将来方 自らの選択の ( 不 安・ 抑 制 い未来を実現 問題解決能力 の感動の体験 向の暫定的選 生涯イメージ 向の現実的選 現実的検証と から自信・確 できるのか? 択 の発見 択 修正実行 信への移行). 2)グローバル人材育成の要件とキャリア形成過程の明確化 キャリア教育における課題のもう一つは、グローバル・キャリア形成のための人材育成目標と キャリア発達過程の明確化であろう。経営の国際化がますます進展する中で、日本企業は英語の社 内公用語化や若手人材の海外派遣さらに人事制度の世界共通化などグローバル人材の開発と活用に 向けて様々な取り組みを加速するなど日本でも近年ではグローバル人材開発の様々な取り組みが進 められてはいるが、そこにはなお解決すべき二つの大きな問題が残されている。 一つは、石倉が指摘するように、グローバル人材開発の基盤となるのは人材個々人の世界を視野 に入れたキャリア形成であるが、そのためのグローバルに活躍するための人材育成目標がなお体系 的には明確にはされていないということである。二つには、金(2007)が指摘するように、現状で のグローバル・キャリア形成の主要な方法である米国のビジネス・スクールでのMBA取得でも、中 国や韓国に比べ日本ではMBA取得者に対する処遇での優遇性がきわめて乏しいというグローバル・ キャリア形成成果に対するインセンティブに関する問題である。 ペイパールら(2007)は、国境を越えて活動する人材を「国内で国内の外国企業との相互作用に 関わる潜在的地球市民」から「国内で国境を越えて海外との相互作用に関わる仮想的地球市民」さ らに「海外に出て国境を越えた相互作用に関わる真の地球市民」へと国際化のステップで分類し、 真の地球市民となり国境を越えたビジネスの協働を担いうるグローバル人材の要件を図―3のよう に階層的かつ体系的に提示している。世界で活躍するグローバル・リーダーには外国語能力や世界 情勢さらに特定地域の文化への知識や理解だけでなく、多様性を受け入れ価値観の異なる人々とも 変革に向けて協働しうる性格や態度さらに技能が必要としている。 性格特性としては、行動の一貫性を支える明確な倫理意識という高潔性があるが、それとともに 他者の視点や行為も敬意をもって受け入れるという謙遜性やオープンな視野で新たな物事を探究す るという探索性さらに未知の状況での身体的・情緒的ストレスへの耐性としての耐久性がある。態 度や価値観としては、対立する意見や考えをいずれをも拒否することなく受け入れることのできる 認知的複雑性や多文化性を肯定し受け入れる世界人主義さらにこれらからなる国際的心構えが必要. — 23 —. 11.

(12) キャリア研究の発展とキャリア教育の今後の課題. とされる。また、協働的変革のスキルとして、他者への配慮あるコミュニケーションで親密な人間 関係を構築していくことのできる人間関係力やたとえリスクがあってもまず相手を受け入れ信頼す ることで相互信頼を確立していくことのできる信頼構築力が必要であり、そのもとに様々な境界や 限界を突破していく境界突破力や変革に向けての協力関係を構築しうる変革協働力も重要とされる。 さらに、最高次の要件として変革の影響を被る人々すべてを視野に入れた倫理的判断のもとでの意 思決定力が必要とされている。 さらにペイパールらは、海外や異文化での体験がいかにしてグローバル・キャリアの発達を促す のかというグローバル・キャリアの形成過程を分析するために図―4にあるようなモデルを提示し ている。グローバルなキャリア発達の中心となるのは国境を越えた移動体験の反復により蓄積され るグローバルなキャリア資本である。国際移動の契機には指示や依頼などもあるが、より重要なの はクランボルツの指摘するような偶発的機会の主体的活用や経済面・政治面・学習面などの積極的 理由あるいは人間関係からの逃避などの消極的理由も含め自らの主体的選択である。また、国際移 動を反復させるのはその結果としての客観的成果や主観的成果であり、客観的成果としては目に見 える成功指標が必要となり、主観的成果としては世界での自己効力感を高める心理的成功体験が必 要となる。このような世界的視野でのキャリア発達サイクルを稼働させるには留学体験や海外異文 化体験などの初期経験も必要ではあるが、より重要なのはそれを通した高潔性や謙遜性さらに探索 性や耐久性などグローバル・キャリアに必須な性格特性の習得や変革協働能力などの開発である。 日本でも海外留学や海外研修そのものは活発に行われてはいるが、このようなグローバル・キャ リア発達のための学習目標が明示されているかはきわめて疑わしい。また、金の指摘するように、 日本社会ではこのようなグローバル・キャリア形成への努力への客観的成果指標や主観的成果評価 の整備も大きく遅れている。したがって、最近の若者たちの「内向き志向」を問題視する前に、まず、 グローバルなキャリア発達のための学習目標を明示し、グローバルなキャリア発達サイクルを組み 込んだキャリア教育プログラムの開発に早急に取り組む必要があるといえよう。. 変革能力 倫理判断力 ↑ 境界突破力→変革協働力 対人技能 人間関係力→信頼構築力. 12. 態度と価値観 国際的心構 ↑ 認知的複雑性→世界人主義 必須特性 高潔性→謙遜性→探索性→耐久性 国際知識 語学力→世界情勢→地域文化 Peiperlら(2007)P356より. 図―3 グローバル人材の要件. — 24 —.

(13) 国際経営・文化研究 Vol.16 No.1 November 2011. 先行要因. 移動契機. ・家族背景. ・指示. 国籍、言語、. キャリア成果 ・客観的成果. 政府や上司などからの命令. 家族関係など. 昇給. や指示. ・初期経験 海外体験、異文. ・依頼 経営や有意味な他者からの. 化体験など. 昇格 国境を越えた. 依頼や要請. ・性格 高潔性、謙遜性、. ・主観的成果. 提示されたり、発見された. 探索性、耐久性 ・社会的背景. 満足感. 偶発的な機会 ・意志. 価値観、志向性. 経済、政治、学習、人間関. など. 係などからの主体的意志. 承認. 移動の決断 . ・機会. キャリアの 発達サイクル. 達成感 高揚感. キャリア資本 ・国際知識 ・文化的寛容性 ・言語能力 ・対人技能 ・認知的複雑性 ・世界人主義 ・協働変革技能 ・国際人脈 ・国際移動記録 Peiperlら(2007)P365より. 図―4 グローバル・キャリア・ダイナッミクス. 引用文献 1)石倉洋子 2011「グローバル・キャリア」東洋経済新報社 2)S. N. Khpova, M. B. Arthur & C. P. M. Wilderom 2007「The Subjective Career in The Knowledge Economy」In H. Gunz & M. Peiperl, Handbook of CAREER STUDIES. California : SAGE Publications. 3)金雅美 2007「MBAのキャリア研究―日本・韓国・中国の比較分析」中央経済社 4)Krumbolts, J. D. 1996「A learning theory of career counseling」In M. Savickas & B. Walsh (Eds.), Handbook of career counseling theory and practice. Palo Alto, CI : Davies-Black. 5)境忠宏、桑原寿 2007「革新誘発のためのチーム・マネジメント」産業経営研究第29号、日本 大学経済学部産業経営研究所 6)Savickas, M. L. 1997「Career adaptability : An integrative construct for life-span, life-space theory」 The Career Development, 45, 247-259. 7)Super, D. E. 1980「A life-span, life-space approach to career development」Journal of Vocatinal Behavior, 13, 282-298. 8)中央教育審議会 1996「21世紀を展望したわが国の教育の在り方について」中央教育審議会答 申 9)中央教育審議会 2011「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」中央 教育審議会答申. — 25 —. 13.

(14) キャリア研究の発展とキャリア教育の今後の課題. 10)D. C. Thomas & K. Inkson 2007「Career Across Cultures」In H. Gunz & M. Peiperl, Handbook of CAREER STUDIES. California : SAGE Publications. 11)Hansen, L. S. 1997「Integrative life planning : Critical tasks for career development and changing life patterns」San Francisco: Jossey-Bass. 12)Bandura, A. 2001「Social cognitive Theory : An agentic prespective」Annual Review of Psycology, 52,1-26. 13)Parsons, F. 1909「Choosing a vocation」Boston : Houghton Mifflin. 14)M. Peiperl & K. Jonsen 2007「Global Careers」In H. Gunz & M. Peiperl, Handbook of CAREER STUDIES. California : SAGE Publications. 15)Hall, D. T. 2002「Careers in and out of organizations」California : SAGE Publications. 16)Boyatzis, R. E. 2006「Intentional change theory from a complexity perspective」Journal of Management Development, 25, 607-623. 17)R. E. Boyatzis K. Akrivou 2006「The ideal self as a driver of change」Journal of Management Development, 25, 624-642. 18)W. Mayrhofer, M. Meyer & J. Steyrer 2007「Contextual Issues in the Study of Careers」In H. Gunz & M. Peiperl, Handbook of Career Studies. California : SAGE Publications. 19)三輪卓巳 2011「知識労働者のキャリア発達」中央経済社 20)リクルートワークス研究所 2005「プロフェッショナル時代の到来」 Works 第69号、リク ルートワークス研究所 21)渡辺三枝子編著 2007「キャリアの心理学」ナカニシヤ書店 (受理 平成23年9月1日). 14. — 26 —.

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参照

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