山梨大学教育学部紀要 第 27 号 2017 年度抜刷
微小せん断試験片によるはんだ接合部の非弾性ひずみ
範囲取得法に関する研究
Study on an Acquisition Way of Inelastic Strain Range on a Solder Joint Using Micro
Shear Specimen
林 丈 晴 栄 木 深 言 渡 邉 裕 彦
Takeharu HAYASHI Mikoto EIKI Hirohiko WATANABE
海老原 理 徳 志 村 穣
Yoshinori EBIHARA Jyo SHIMURA
微小せん断試験片によるはんだ接合部の非弾性ひずみ
範囲取得法に関する研究
Study on an Acquisition Way of Inelastic Strain Range on a Solder Joint Using Micro
Shear Specimen
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林 丈 晴
1栄 木 深 言
2渡 邉 裕 彦
3Takeharu HAYASHI Mikoto EIKI Hirohiko WATANABE
海老原 理 徳
4志 村 穣
5Yoshinori EBIHARA Jyo SHIMURA
1. はじめに 近年,電子機器の小型化,高密度化に伴って,微細はんだ実装技術の開発が進められている.また, 自動車に搭載されるパワーモジュールなどの開発では,その使用環境の高温化も進んでいる.さらに, 地球環境保護の観点から,はんだの鉛フリー化が進展している.これらはんだ接合部に接する構成材 は線膨張係数が異なるため,電源のON/OFF などによる温度サイクルによって膨張・収縮を繰り返し, はんだ接合部が低サイクル疲労破壊する.従って,温度サイクル負荷を受けるはんだ接合部の低サイ クル疲労寿命評価が重要である. この寿命評価では,機械的低サイクル疲労試験によりはんだの疲労寿命特性,即ち非弾性ひずみ範 囲とはんだの寿命の関係を求めるとともに,実機のはんだ接合部について有限要素法による構造解析 を行って,相当非弾性ひずみ範囲を求める.次にこの相当非弾性ひずみ範囲と低サイクル疲労寿命特 性から,実機のはんだ接合部の寿命を求める.従って,この寿命評価では正確に低サイクル疲労寿命 特性を求めることが必要である.一般に,低サイクル疲労寿命特性の非弾性ひずみ範囲として,機械 的試験から得られるヒステリシスループの全ひずみ範囲から弾性ひずみ範囲を減じたものを用いる(1) . 非弾性ひずみ範囲を図1に示す.これまではんだの低サイクル疲労寿命特性の多くは,大型試験片を 用いて取得されてきた.例えば森畑ら(2)は,直径 10mm の引張丸棒試験片を用いた低サイクル疲労試験 を実施し,種田ら(3) は直径 15mm の丸棒試験片を用いたねじり低サイクル疲労試験を実施した.一方, 温度サイクル負荷を受けるはんだ接合部は主としてせん 断方向に負荷を受ける(4) 上に,寸法効果があり(5) ,界面 の影響もあるため微小せん断試験片から機械的特性を得 ることが望ましい.このことを踏まえ,苅谷ら(6) は小型 試験片を用いた低サイクル疲労試験を行った.ここでは, はんだ接合部の形状が複雑なために,試験結果から直接 はんだに生じるひずみを算出することができないため, 有限要素解析によって求めたはんだの非弾性ひずみ範囲 とはんだの寿命との関係から低サイクル疲労寿命特性が 取得された.一方,はんだの非線形特性を有限要素解析 によって正確に表現するのは困難である.そこで本研究 では,有限要素解析に頼らずに,寸法効果,界面の影響 1科学文化教育講座 2東京工業高等専門学校(学生) 3富士電機株式会社 4東京学芸大学 5東京工業高等専門学校 Fig.1 Inelastic strain range
山 梨 大 学 教 育 学 部 紀 要 平成29年 (2017年) 度 第 27 号 および応力の負荷方向を考慮した非弾性ひずみ範囲を求める方法を提案する. 2.非弾性ひずみ範囲の取得 2.1 微小せん断試験片 有限要素解析に頼らずに,せん断応力,せん断ひずみを求めるために,はんだ接合部の形状は四角 形であるものがよい.本研究ではこのことを満たすラップジョイント型微小せん断試験片(7)を採用す る.当試験片の形状と寸法を図2に示す.ただし,本研究では被着体として無酸素銅を用いる. せん断試験ではせん断力の負荷と同時に発生する垂直応力が問題となるが,本試験片では接合部両 脇に 45°の切欠きが設けられていることで,純せん断力に限りなく近い状態を得られるようになって いる.このことを確認するために,本試験片に荷重を与える有限要素解析を行った.この結果として, 図3にせん断ひずみ分布図,図4にせん断応力分布図をそれぞれ示す.この結果から,はんだ接合部 全体にせん断ひずみおよびせん断応力が一様に生じていることを確認した.従って,当試験片を用い れば,試験片に負荷された荷重からせん断応力を求めることができ,2つの被着体のズレ,即ちせん 断試験における変位からせん断ひずみを求めることができる. 2.2 試験方法と非弾性ひずみ範囲の算出方法 INSTRON8513動的試験システムを用いて試験を行う.当システムでは,荷重,ひずみなどを制御し て試験を行うことができる.本研究では,図5に示すように,試験片にナイフエッジ付きゲージを取 り付けこのゲージ間の変位を制御する.このようにして図6に示す三角波を与えせん断応力 - 変位関係 を求めヒステリシスループを得て,このヒステリシスループより非弾性変位範囲を求める.なお,こ の非弾性変位範囲は被着体である無酸素銅の変形分とはんだの変形分を足し合わせたものであるが,
Fig.2 Test specimen
無酸素銅においては負荷される荷重領域では非弾性変形をしないため,図7に示す通り,ここで得ら れる非弾性変位範囲ははんだの非弾性変位範囲として処理できる.そこで,2.1で述べたように変位 からせん断ひずみを求めることができることを踏まえ,ここで得られた非弾性変位範囲からはんだの せん断非弾性ひずみ範囲を求める.最後に,求めたせん断非弾性ひずみ範囲を,次式を用いて相当非 弾性ひずみ範囲に換算し,これを非弾性ひずみ範囲として扱う. (1) ただし,ɤinはせん断非弾性ひずみ,ε eq inは相当非弾性ひずみである. 2.3 試験の実施と非弾性ひずみ範囲の算出 室温にて相当ひずみ速度約0.016 [%/s]で試験を行った.試験片のはんだの組成はSn3.5Ag0.5Cu0.07Ni 0.01Ge(鉛フリーはんだ)である.変位範囲Δdisp(変位振幅δの2倍)として,(a)0.20mm,(b)0.18mm, (c)0.16mm,(d)0.13mm,(e)0.10mm を与えた.得られた応力ひずみヒステリシスを図8に示す.このう ち,(a)0.20mmの結果の処理方法を述べる.2.2節の方法より,ゲージ間の非弾性変位範囲 0.0958mm が得られた.先述したとおり,被着体は非弾性変形しないため,ここでははんだの非弾性変位範囲が 0.0958mmであるとみなせる.はんだの厚さは1mmであるからこの変位の値ははんだのせん断非弾性ひ ずみ範囲の値である.ここで,この値を式 (1) に代入して,相当非弾性ひずみ範囲0.0553を得た.
Fig.5 Attachment of strain gauge
Fig.7 Inelastic strain range on this test piece
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また,(b), (c), (d) および (e) についても (a) と同様の方法での相当非弾性ひずみ範囲を得た.さ らに,寿命を最大荷重から 20%低下した荷重となったサイクルとし,はんだの低サイクル疲労特性す なわち寿命N と相当非弾性ひずみ範囲 Δεeqinの関係を求めた.この関係は,式 (2) に示すCoffin-manson 則に従うことが知られている. NαΔε eqin =C (2) ただし,α,C は定数である.これは,寿命 N と相当非弾性ひずみ範囲 Δεeqinの関係を両対数グラフ で整理した場合,この関係は直線で近似できることを示している.今回得られた試験結果が Coffin-manson 則に従うか否かを検討するために,得られた相当非弾性ひずみ範囲と寿命の関係を両対数グラ フで整理した.さらに得られたプロットを最小二乗法で直線近似したところα=0.38,C=0.226が得られ, 決定係数が0.99であった.この結果を図9に示す.Coffin-manson則で整理できたことがいえる. 3.結論 (1) 有限要素解析に頼らずに,寸法効果,界面の影響および応力の負荷方向を考慮した非弾性ひずみ 範囲を求める方法を提案した. (2) ラップジョイント型微小せん断試験片に荷重を与える有限要素解析を行い,はんだ接合部全体に せん断ひずみおよびせん断応力が一様に生じていることを確認した. (3) 室温にて,Sn3.5Ag0.5Cu0.07Ni0.01Geはんだのラップジョイント型微小せん断試験片に,相当ひず み速度約0.016 [%/s]で三角波を与える試験を行い,ヒステリシスループを得た. (4) (1) の提案した手法で,(3) の結果から相当非弾性ひずみ範囲を得て,これと寿命の関係を検討し た結果,Coffin-manson則で整理できた. 文 献 (1) “はんだの低サイクル疲労試験法標準”,日本材料学会,(2000),pp.12-16 (2) 森畑ら,“第 10 回マイクロエレクトロニクスシンポジウム(MES2000)”,(2000),pp.175-178. (3) 種田ら,“日本機械学会論文集A編”,Vol.58,No.549(1999),pp.1-6.
(4) Juan Gomez ,et al., “Damage mechanics constitutive model for Pb/Sn solder joints incorporating nonlinear kinematic
Fig.9 Low cycle fatigue by displacement-shear stress relations Number of cycles to failure N [cycles]
Equivalent inelastic strain range
Δεeq
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hardening and rate dependent effects using a return mapping integration algorithm”, Mechanics of Materials, Vol.38, No.7 (2006), pp.585–598. (5) 苅谷義治,“小型はんだ材料の信頼性評価”,エレクトロニクス実装学会誌,Vol.9 No.3(2006),pp.138-142. (6) 苅谷義治ら,“エレクトロニクス実装学会誌”,Vol.8,No.2(2005),pp.150-155. (7) 佐山利彦ら,“はんだのクリープ変形特性評価のためのラップジョイント形せん断試験片の提案,日 本機械学会論文集A編”,Vol.65,No.632(1999),pp.202-208. 謝 辞 本研究の一部は,(公財)精密技術測定技術振興財団からの助成によるものであります.この場をお 借りして御礼申し上げます.