1 問題の所在
小学校では平成30年度、中学校では平成31年度から「特別の教科 道 徳」(以下 道徳科)が教育課程上で全面実施となる。各学校や教育委員 会では様々な準備が進められてきた。 筆者は、道徳科の提案授業公開のために訪問した県内外の小中学校の教 師から、道徳科全面実施に向けての不安や課題等を意図的に聴き取ること を続けている。各校の教師が主に感じていることを次のとおり3点に整理 する。 ① 道徳科になることで、何がどのように変わるのか。 ② 道徳科が目指している授業及び指導法がよく分からない。 ③ 道徳科の評価をどのように進めればよいか。 特に、③の評価については、多くの教師が不安を感じ、大きな課題とし て捉えている。主なものを示す。 ・子どもの内面をどのように見取るのか。的確に見取ることは難しいの ではないか。 ・文章で記述するとあるが、限られた行数で的確に伝えることは難し い。道徳科における「指導と評価の一体化」
に関する考察
中 山 和 彦
1 1白鷗大学教育学部 e-mail:[email protected] 2018,12(1),177-202一方、多くの教師の間で道徳科の評価について大きな誤解があることも 明確になっている。主な教師の声をまとめる。 ・子どもの心を評価することはできない。必要性を感じない。 ・道徳に成績を付けることは反対だ。教師の押し付けになるのではない か。 ・他にも取り組まなければならないことが増えている中で負担が大き い。 筆者が本稿のテーマに係わる大きな問題と捉えていることがある。それ は、多くの教師が道徳科の評価だけを特化して、不安を増幅させていると いう状況にあるということである。 ここで、本研究テーマにおける問題の所在を明確にする。それは、評価 は指導と一体となって機能しているということを理解できていない教師が 多いことである。道徳科においても、指導と評価の一体化について考え続 け実践していくことが大切である。多くの教師が指導と評価を分離して考 えているという実態を深刻に受け止めながら、その改善のための基本的な 考え方とその具現のための内容と方法について考察していく。
2 学校教育全体での学習評価の充実と道徳教育の評価
道徳教育とその要となる道徳科の評価は、学校の教育活動全体における 学習評価充実の方向の一貫として位置づけるべきである。 学習指導要領第1章総則では、「第3 教育課程の実施と学習評価」に 「2 学習評価の充実」の項目を位置づけて2点の配慮事項を明確にした。 以下、引用して示す。 (1) 児童(生徒)のよい点や進歩の状況などを積極的に評価し、学習したことの 意義や価値を実感できるようにすること。また、各教科等の目標の実現に向け た学習状況を把握する観点から、単元や題材など内容やまとまりを見通しなが ら評価の場面や方法を工夫して、学習の過程や成果を評価し、指導の改善や学 習意欲の向上を図り、資質・能力の向上に生かすようにすること。 (2) 創意工夫の中で学習評価の妥当性や信頼性が高められるよう、組織的かつ計画的な取組を推進するとともに、学年や学校段階を越えて児童(生徒)の学習 の成果が円滑に接続されるよう工夫すること。 道徳教育とその要となる道徳科の評価も、この2点の方向性を生かして いくことになる。 具体的な方向性とは、(1)では、学習状況を把握するため、①評価場面 や方法の工夫、②学習過程や成果の評価、③指導改善と学習意欲の向上と いう一連の流れを明確にし、資質・能力育成を求めている。(2)では、カ リキュラム・マネジメントをより確実なものとする評価の実施が求められ ている。 本稿「1 問題の所在」において、教師が指導と評価を分離して考える ことの問題点を指摘した。ここでも、教師が道徳の評価のみを特化して考 えることにより、学校教育全体での学習評価充実の方向性を踏まえること ができなくなることを危惧している。 小中学校の教師が、道徳教育(要となる道徳科)の評価についての基本 的な考え方を理解するためには、その根本となる学習指導要領に明確にさ れた「学習評価の充実」の方向性を基本とするよう留意しなければならな い。
3 道徳科の評価に関する基本的な考え方
(1)従前の小学校学習指導要領第3章道徳(平成20年度一部改正) 学習指導要領の記述を引用して示す。 児童の道徳性については、常にその実態を把握して指導に生かすように努める必 要がある。ただし、道徳の時間に関して数値などの評価は行わないものとする。 (中学校学習指導要領にも同様の記述がある。) これは、従前の道徳教育及び道徳の時間の評価についての記述である。 「常に」とは「いつも」ということである。いつも行うとは、全教育活 動を通じて行う道徳教育を指している。したがって、記述の前段部分は道徳教育についての評価となる。そして、後段部分の記述で留意すべきこと は、数値などによる評価はしないということであり、道徳の時間の評価を しないということではない。この点について教師間で正しい理解ができて いないという実態がある。 (2)新学習指導要領(平成29年度告示)における記述と考察 評価に関する記述は「第3章特別の教科道徳」に示されている。今次の 改訂では、学校教育全体を通じて行う道徳教育を第1章総則に、道徳科の 授業に関わることは第3章特別の教科道徳に示されている。引用して示す。 児童(生徒)の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し、指導に生 かすよう努める必要がある。ただし、数値などによる評価は行わないものとする。 ここで、道徳科の位置づけにより変更された点、従前の学習指導要領を 継続している点を示す1。 ◯変更点 ・道徳科の指導の評価のみの表現となる。 ・道徳科の指導では、児童生徒の「学習状況」や「道徳性に係 る成長の様子」について「継続的」に把握することとした。 ◯継続点 ・「指導に生かすように努める」とし、指導と評価の一体的な 方向性を継続して示している。 ・「数値などによる評価は行わない」との方向を堅持している。 以上のことから、私たち教師が積極的に受け止めるべきことを4点に整 理する。 ①道徳性そのものの評価は困難ではあるが、児童(生徒)の学習状況や道 徳性に係る成長の様子の把握については前向きに取り組むこと。具体的 には次の3点を理解したい。 ・道徳科の授業の学習状況を捉えて評価に生かすこと ・道徳性に係る成長を、授業の積み重ねの中で捉えること ・一定期間などでの継続的な変化を捉えるように努力すること ②道徳科の評価とは、児童生徒にとっては自らの成長を実感し、自信と意
欲を育てるものであり、教師にとっては指導計画や方法をふり返り、充 実・改善に資するものであること。 ・道徳科における児童生徒の評価は、一人ひとりの児童生徒の成長を記 述する個人内評価であること ③道徳科の評価は成績を付けるものではない。その後の指導に生かすな ど、指導と評価の一体化を進めること ④道徳性の全体的な把握については、記号や◎〇×なども含め、数値など によって不用意な評定的な評価などは行わないこと。 ・通知などの評価を行わないとは、記述式で評価するということ 道徳科における評価は、以上4点をいっそう大切にして取り組んでい くことが重要である。 (3)道徳科における評価の意義 前述した「学習指導要領第3章 第3の4」を再度引用して示す。 児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し、指導に生かすよう に努める必要がある。ただし、数値などによる評価は行わないものとする。 道徳科において養うことを目標としている道徳性は、『学習指導要領解 説』において、「内面的資質」と示されている。つまり、道徳性とは行為 そのものではなく、それを主体的に選択し、実践しようとする内面的資 質、すなわち、行為を支えている考え方や感じ方、生き方のように心の内 面を示すものである。 ・人格全体に関連する ・広汎な内容を含む ・養われる場は生活全体 にわたる ・人間が一生かけて自ら育んでいくもの このような性格をもつ道徳性を数値などによって不用意な評価をしては ならない。われわれ教師は、「道徳性の評価」ではなく「道徳性に係る成 長の様子を継続的に把握」という文言を積極的に受け止めなければならな い。したがって、教師は道徳科においてこうした点を踏まえ、児童生徒の 学習状況や道徳性に係る成長の様子を様々な方法で捉えて、個々の児童生
徒の成長を促すとともに、それによって教師は自身の指導を評価し、改善 に努めることが大切である。 以上述べてきた道徳科評価の意義を小中学校のすべての教師に浸透させ ることが重要である。 (4)道徳科の評価に関わる教師の基本姿勢2 道徳科で目指す学習評価は、個々の児童生徒の道徳性の向上そのものを 推し量り、ランク付けするような評定(measurement)ではない。個々の 人格的成長に結びつくと期待できる道徳科授業での「児童生徒自身の道徳 的な学びのよさ」を積極的に見取り、認め、励ます個人内の継続的で肯定 的な学習評価(assessment)であることを共通理解したい。 また、佐藤は『道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議(第 2回)』3において次のように述べている。会議における発言の一部を引用 する。佐藤の発言は、道徳科の評価に関わる教師の基本姿勢であるととも に、本稿のテーマに迫るものである。 ポートフォリオを通して、自分たちが今までどのようなことを考え、どのような ことができてきたのかということについて、自分たち自身が振り返っていく、そこ に教師も入って子供と教師が一緒に評価活動を通しながら、評価と指導、評価と学 習の一体化により、自分たちで自分たちの生き方を考える。これは、評価という概 念がエバリュエーション、アセスメントを越えて、アプリシエーションになってい き、励まし合って伸びていくという方向に変わっていくのではないかと思いますの で、このような評価の具体的な実質化の在り方について考えていただきたいと思い ます。 教師は、児童生徒を励まし勇気づける評価として「appreciation(真価 を認めて励ます)」に注目したい4。道徳科の授業の中で、児童生徒が夢 中で学習し、今までの自分の見方や考え方から、より多面的・多角的な見 方をしている状況や、自分のよさや課題などと関連させながら、自分事と して考えている状況を一人ひとり丁寧に見取る。そして、それらを授業展 開の中で認め、励まし、自らの深い学びへとつないでいくことができるよ うにさせたい。それには、まず教師自身が「本時のねらいとする道徳的価
値(内容項目)」について学習指導要領により確実に理解することを基本 にする。ここで、次のことについて整理しておく。 ア 道徳的価値とは 価値あるものとは、大切なもの、望ましいものをいう。(中略)生活に 必要な物質に求められる価値は、一般的には経済的価値であり、望まし い生き方や行為に関わる価値は道徳的価値である。(『新道徳教育辞典』 1980第一法規P79-80) 道徳的価値とは「人間として他者とよりよく生きる上で大切なこと」と 捉えることができる。 イ 内容項目とは 学習指導要領では、児童生徒が人間として他者とよりよく生きていく上 で学ぶ必要があると考えられる道徳的価値を含む内容を、短い文章で平易 に表現したものである。 また、全てが道徳科を要として学校の教育活動全体を通じて行われる道 徳教育における学習の基本となるものである。これらの内容項目は児童生 徒自らが道徳性を養うための手掛かりとなる。 教師は、以上のことについて確実に理解した上で、授業者がねらいとす る道徳的価値に関わる考え方、言い換えれば授業者の価値観を明確にする 場合は、当該学年の内容項目についての見識を深めるとともに、他の学年 段階の内容も視野に入れ、当該内容の全体の構成や発展性を考慮すること が望ましい。教師の価値観は、児童生徒観の基盤になるものであり、道徳 科の時間を構想する際には大変重要なものである。授業者が児童生徒の実 態を的確にとらえ、それを本時の授業に生かすためにも、授業者が明確な 価値観をもつことが授業の充実につながる。 また、「第3章 道徳科の内容 第1節 内容の基本的性格」における 「1 内容構成の考え方」(小学校)より引用して示す。 学習指導要領「第3章 特別の教科 道徳」の「第2 内容」は、教師と児童が
人間としてのよりよい生き方を求め、共に考え、共に語り合い、その実行に努める ための共通の課題である。 このことについて、田沼は著書の中で次のように述べている5。 この文言のもつ意味はとても大きい。このような道徳科の内容的特質をどれだけ 重視しつつ真摯に指導に当たれるかどうかで、「道徳力」としての道徳性を育成す ることを目指す道徳授業の実効性が大きく左右されることになると考えるからであ る。 この「共通課題」としての捉え方は、教師一人一人の教職者としての姿勢を問わ れることそのものである。 これは、道徳科の評価に関わる教師の基本的姿勢の根本となるところで ある。具体的に整理する。 ・児童生徒の人格を尊重した謙虚な評価を行う。 ・謙虚に「人間的な温かさ」を基盤にする姿勢を重視する。 ・児童生徒の道徳性に係る成長の状況という見えない部分を信じて、見 える部分から推し量る。 ウ 道徳的学びを認め励ます学習評価6 中学校学習指導要領解説には、「学校における道徳教育は、生徒一人一 人が将来に対する夢や希望、自らの人生や未来を拓いていく力を育む源と なるものでなければならない」と述べられている。つまり、児童生徒が将 来に対する夢と希望、生きる力を育むためには、他者と共によりよく生き ようとする自己を肯定的に受け止めると共に、他者との関わりや集団・社 会の中で自身のよさや課題、可能性に気づきながら、伸ばしたい自己につ いて深く見つめることができるような学習評価を行うことが教師に求めら れている。この考え方こそが、道徳科の評価が数値評価ではなく、大くく りのまとまりによる記述式評価であること、そして、他者との比較ではな い児童生徒個々のよさや可能性を積極的に認め、成長を励ます個人内評価 であることに直結するものである。 その際、児童生徒個々のよさだけを挙げてほめるだけでは、道徳科が目
指す見取りと評価の本質ではない。児童生徒が、道徳的実践につながる内 面的資質としての道徳性を培うために道徳科授業における学びの状況を、 児童生徒と教師それぞれの立場からふり返り、自己の生き方について深く 考えたり道徳科授業の指導法改善に努めたりするところに、道徳科学習及 び道徳科授業評価の本質があることを忘れてはならない。 (5)道徳科の評価の基本的な考え方7 以上述べてきたことを踏まえながら、道徳科の評価を行う上での基本的 な考え方を整理して述べる。 ・数値による評価ではなく、記述式とすること ・道徳性の諸様相を分節し、学習状況を分析的に捉える観点別評価は、 妥当ではない ・学習活動を適切に設定しつつ、学習活動全体を通して見取ること ・個々の内容項目ごとではなく、大くくりのまとまりを踏まえた評価と すること ・他の子供との比較による評価ではなく、子供がいかに成長したかを積 極的に受け止めて認め、励ます個人内評価として行うこと ・内容項目について単に知識として観念的に理解させるだけの指導や、 特定の考え方に無批判に従わせるような指導であってはならないこと ・道徳科の学習状況の評価は、道徳科の学習状況の評価は、道徳科の学 習活動に着目し、年間や学期といった一定の時間的なまとまりの中 で、子供の学習状況や道徳性に係る成長の様子を把握すること ・特に、多面的・多角的な見方へと発展しているか、道徳的価値の理解 を自分自身との関わりの中で深めているかといった点を重視すること 道徳科における児童生徒の学習状況や道徳性に係る成長の把握は、児童 (生徒)の人格そのものに働きかけ、道徳性を養うという目標に照らし、 児童(生徒)がいかに成長したかを積極的に受け止めて認め、励ます個人 内評価として行う。 したがって教師は、既に3(4)で述べたような基本姿勢を堅持しなが
ら、慎重かつ計画的に評価を行わなければならない。 小中学校では道徳科全面実施を目前にして、評価に対する教師の不安が 高まっている。具体的には、児童生徒の内面をどのように見取り評価する のか、そして、その状況を指導要録や通知表に評価の文章をどのように書 けばよいのかということに尽きると思われる。 教師のこのような不安感には共感できるが、改めてここまで述べてきた 評価に関する基本的な考え方を小中学校に浸透させるように努めること と、小学校が全面実施となる平成30年度、中学校が全面実施となる平成 31年度以降も基本的な考え方に戻って考えながら実践していきたい。小 中学校の教師にとっては、評価の目的や内容を踏まえての方法ではなく、 始めに方法ありきというような傾向にあるのは否めない。「何のために、 どんな内容を身に付けるのか」ということを常に最重視していきたい。い わゆる「目的と手段の混同」「手段の目的化」について十分に注意しなく てはならない。 (6)個人内評価8 ア 道徳科の評価がなぜ個人内評価なのか 個人内評価は、児童生徒一人ひとりの個人としてのよい点、可能性、進 歩の状況などを積極的に見取り、認め励ましていく評価である。 道徳科の評価は観点別評価ではない。他の児童生徒との比較による評価 ではなく、個人内評価として行うこととしている。それは、道徳教育とそ の要となる道徳科の時間が児童生徒の人格そのものに働きかけ道徳性を養 うことを目標としているので、他の児童生徒と比較したり優劣を決めたり する評価はなじまないことにある。また、道徳性は人格全体に関わるもの であり、児童生徒自身が生涯にわたって育み続けていくものであるため、 一定の基準を設け、そこに到達したかを評価するものではない。 イ 教師の具体的な見取りや評価の視点 個人内評価を進めていく際には、児童生徒の学びのプロセスをていねい に見取ることが重要になる。答えが一つではない道徳的な問題について、
児童生徒一人ひとりが自分事としてとらえ、他者の見方・考え方、議論に 触れることにより自律的に思考するなかで、一面的な見方から多面的・多 角的な見方・考え方へと発展しているかということや、多面的・多角的な 思考のなかで、道徳的価値の理解を自分自身との関わりのなかで深めてい るかといった点を重視しながら、観察や発言、道徳ノートやワークシート の記述などを通して見取り、評価していくことが求められる。 まず、児童生徒が、一面的な見方から多面的・多角的な見方・考え方へ と発展しているかどうかについては、道徳的な問題についての自身の判断 の根拠やその際の心情等を様々な視点から考えようとしているかというこ とや、自分と異なる見方・考え方を尊重しながら理解しようとしているか などの点について、授業中の発言や道徳ノート等の記述から見取ることが 可能である。 また、道徳的価値の理解を自分自身との関わりのなかで深めているかど うかについては、例えば読み物教材の主人公を始めとする登場人物の行為 とその大本の心である心情や判断を自分事として考えて理解しようとして いるか、自分自身の今までや今の見方や考え方、生活を振り返りながら見 直して、これからの自分の生き方について深く考えているかなどを視点と して評価することが考えられる。 さらに、読み物教材の登場人物の行為と自分自身の見方・考え方、今ま での経験を重ねることにより、自分自身が取り得る行為を議論するなか で、ねらいとする道徳的価値について深く理解したり、実現することの難 しさを自分事として考えたりしているかという視点で評価することも考え られる。 このように1時間ごとの道徳科の評価を丁寧に積み重ねて、例えば道徳 ノートやワークシートに学習のまとめとして感想や分かったことだけを書 いていた児童生徒が、読み物教材の登場人物の心情や判断、行為に共感し たり、自分自身のこととして置き換えて考えを深めて記述したり、これま でに学習した内容や道徳的価値と関連づけながら、これからの自分の生き
方について深く考えて記述したりするようになったことを、月や学期、年 間など一定の期間を通じて見取り、個人内評価を行うことが重要になる。 「個人内評価」において、児童生徒の思考と姿を分けて見取る視点につい ては、新たに項立てして述べる。 以上、ア及びイを通して述べてきた「個人内評価」は、「指導と評価の 一体化」のなかで成立する。「個人内評価」は児童生徒に自信と意欲を育 てるものであるとともに、指導に生かすようにするものである。例えば、 自分との関わりで考えを深めることができない児童がいたら、授業者であ る教師は、次の授業に向けて授業改善の視点をもつ。具体的には、発問を 工夫したり、対象となった児童への言葉のかけ方を工夫したりするという 手立てを準備していく。改めて考察するカリキュラム・マネジメントの過 程では、まず、D(Do=実践)とC(Check=評価)に重点を置いて取り 組むことになる。そして、A(Action=改善)とP(Plan=計画)につな げる。この過程こそが「指導と評価の一体化」である。 ウ 特別な配慮を要する児童生徒の評価9 発達障害等のある児童生徒は、学習上の困難さや、集中することや継続 的な行動をコントロールすることの困難さ、他人の気持ちを推し量ること の困難さなどが一般的に指摘されている。 道徳科の評価を行うにあたっては、このような児童生徒の特性を十分に 理解し、困難さの状況を踏まえた評価を行うことが大切になる。 学習が困難な児童生徒の特定の場面だけを見取り、評価しようとすると 成長を受け止めて認め励ます評価とはほど遠いものになり、課題ばかりを 指摘することになってしまう。 平成28年4月1日に障害者差別解消法が施行され、障害のある児童生 徒に対して社会的障壁の除去に向けて「合理的配慮」の提供が義務づけら れた。これは、発達障害等のある児童生徒に対しても同様である。道徳科 の授業が高い壁になると予想されるなら、その壁を打ち砕いたり低くした りする配慮を講じる必要がある。
《「特別の教科 道徳」の指導法・評価等について(報告)H28.7.22》(道 徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議)では、こうした点につ いて以下の事例を挙げている。一部を引用して示す。 他人との社会的関係の形成に困難がある児童生徒の場合であれば、相手の気持ち を想像することが苦手で字義通りの解釈をしてしまうことがあることや、暗黙の ルールや一般的な常識が理解できないことがあることなど困難さの状況を十分に理 解した上で、例えば・・・(後略)。 発達障害と言っても、障害の程度や実態、困難さは一人ひとり異なるた め、個別の合理的配慮が必要になる。校長の方針を基に、個々の児童生徒 に即した合理的配慮の手立てを教職員全体で考えて具体化することが大切 である。例えば、次のような配慮が考えられる。 ・登場人物の心情理解が困難な場合は、多様な表情の顔カードを用意し て、そのなかから自分の思いに近いものを選ばせる。 ・文字を読むことが困難な場合は、ワークシートには漢字に振り仮名を 振る。口頭で答えることも認める。 ・集中が困難な児童生徒の場合は、あらかじめ授業の流れを黒板に図示 しておく。矢印をつけながら現在の学習段階を確認させる。 ・発問は、短い言葉でゆっくり伝える。場合によっては発問の文言を短 冊にして示す。 本稿のテーマである「道徳科における指導と評価の一体化」に迫るため には、発達障害等のある個々の児童生徒に道徳科授業で実現させたい学び の状況を「短期的なねらい」として設定して、見取りの視点としての「評 価の観点」を明確にすることが求められる。
4 道徳科における指導と評価の一体化
10 本稿1,2,3をとおして、道徳科の評価についての基本的な考え方や在 り方を明らかにしてきた。その中では、当然のことながら本稿テーマの キーワードである「指導と評価の一体化」を踏まえて述べてきた。ここで、改めてその趣旨について整理するとともに、道徳科の評価を踏まえて、小 中学校の教師がその重要性について理解を深め実践できるよう述べてい く。 (1)学習指導要領解説(小学校)における記述を基に考察する 第5章 道徳科の評価、第1節 道徳科における評価の意義から、 1 道徳教育における評価の意義、2 道徳科における評価の意義におい て「指導と評価の一体化」について述べている箇所を引用して考察する。 学習における評価とは、児童にとっては、自らの成長を実感し意欲の向上につな げていくものであり、教師にとっては、指導の目標や計画、指導方法の改善・充実 に取り組むための資料となるものである。 教育において指導の効果を上げるためには、指導計画の下に、目標に基づいて教 育実践を行い、指導のねらいや内容に照らして児童の学習状況を把握するととも に、その結果を踏まえて、学校としての取組や教師自身自らの指導について改善を 行うサイクルが重要である。(中学校にも同様の記述) この文章を基にしながら、求められている道徳科授業評価の在り方等に ついて「カリキュラム・マネジメント」の視点から考察する。 これまでの「カリキュラム・マネジメント」は、P(Plan=計画)⇒D(Do =実践)⇒C(Check=評価)⇒A(Action=改善)サイクルによるカリキュ ラム改善という捉え方に偏っている傾向があると考えている。しかも、小 中学校の教師が取り組むべき課題が山積し続けている現状のなかで検討改 善することさえも困難な状況が続き、結局は前年度の計画を踏襲するとい うことが多くなるのが実状ではないだろうか。 これからは、道徳科年間指導計画にしたがって授業を行った上で児童生 徒の学習状況を踏まえてカリキュラム改善、指導法改善につなげるPDC Aサイクルを基本としながらも、「指導と評価の一体化」という考え方を 踏まえて、自己の取組を振り返る視点もって授業実践と評価・改善を並行 して継続的に行い、「カリキュラム・マネジメント」につなげること、つ まりDCAPサイクルという発想が求められている。 この考え方と内容及び方法は、取り組まなければならない課題が増加し
続けている小中学校の現状に即しているのではないだろうか。児童生徒に とっても教師にとっても過度の負担にならないようにして評価に継続的に 取り組めるようにすることが最も重要になる。小中学校で「指導と評価の 一体化」を確実にしかも効率的に行うことが道徳科授業の質的向上、つま り、道徳の特別教科化の大きな原動力となった「道徳科授業の実効性(道 徳的実践につながる内面的資質の育成)」を実現させることになる。 小中学校学習指導要領「総則」では、「主体的・対話的で深い学びの実 現に向けた授業改善を通して、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展 開する」ことで生きる力を育むことの重要性が述べられている。この「授 業改善」という文言からも「指導と評価の一体化」がキーワードになるこ とが明確である。 (2)道徳科授業における「指導と評価の一体化」に取り組む教師の構え 道徳科授業において評価活動を行う目的は、「豊かな人間関係を基盤に して、児童生徒が自己のよりよい生き方を継続的に求め続けて実現するこ と」だと考えている。そこで、道徳科授業における評価活動に取り組む教 師は、次の3点について留意することが必要である。 ア 評価の主体となる児童生徒自身が自分としっかり向き合って学びの 振り返りができること。教師自身も児童生徒の学びの状況に向き合 い、肯定的に受け止めること。 イ 児童生徒の主体的な学びから生じるパフォーマンスを児童自身が見 取れるとともに、教師も見取れること。 ウ 児童生徒自身が将来のよりよい生き方を具体的に描けるように、教 師の評価と児童自身の自己評価を取り結べるような評価活動を継続的 に行うこと。 道徳科授業で行う評価活動は、評価する立場と評価される立場、評価主 体者としての教師と評価客体者としての児童生徒を固定的に位置づけて捉 えたりするような評価観にはなじまない。評価活動に取り組む教師は、指 導者と学習者を取り結ぶ児童生徒自身が能動的に学ぶ価値を有する学習活
動を介して、双方向的な視点から評価し・評価されたりする関係性を基に した評価観を常にもっていなければならない。 (3)「指導と評価の一体化」を基にした評価活動を実践的に行う視点 道徳科授業において「指導と評価の一体化」を成立させるには、授業の プランナーである教師と能動的学習者である児童生徒の間で協働して授業 を創り上げるという関係が必要になる。 学習者である児童生徒が既にもっている生活体験、道徳的価値に対する 興味や関心、育んできた学習態度等と教師による本時のねらい及び追求 テーマの設定、指導法の工夫、カリキュラム改善、学習環境の整備等が互 いに影響し合うことによって、児童生徒相互の「主体的・対話的で深い学 び」の視点に立つ授業改善が実現できるならば、道徳的学びのパフォーマ ンス、つまり、児童生徒が自らの学びを表出したつぶやきや発言、挙手等 による態度表明、役割演技の演者としての言動、表情やしぐさ、演じた後 での話合いでの発言内容や聴く態度、観客の発言やつぶやき、演じられた 役割に対する考えや解釈、ワークシートや道徳ノートの記述などが生まれ てくる。教師は、児童生徒自身の道徳科の学習プロセスを通した様々な活 動から、児童生徒の学習状況を見取ることができるようになる。 田沼は、この評価活動について「この手法は、個の学びをパーツとして 見取ることではなく、目的志向的な目標設定の枠内で、個としての学びの 連続性や継続的・発展性を包括的に捉えることが大切であり、これこそ が、大くくりのまとまりを踏まえた評価とすることの意味である。」と述 べている。 個としての学びの連続性や継続性・発展性とは、児童生徒の人格的成長 のプロセスであり、道徳科の評価における道徳性の成長の様子の把握につ ながると考えることができる。 小中学校の教師にとって、道徳科の評価における様々なキーワードの意 味するところをどのように解釈するかが高い壁になっている。さらには、 キーワードを解釈できても実際に評価を進める際に具体化する手立てが分
からないという不安を増大させている多くの教師がいることも、筆者が提 案授業のために多くの学校を訪問して明らかになっている。 田沼が述べていることは、学習指導要領解説で示されている「個々の内 容項目ごとではなく、大くくりのまとまりを踏まえた評価」、「児童(生徒) の学習状況や道徳性の成長の様子を継続的に把握し」について、教師がど のように考えるべきなのかを明確に示している。 繰り返し述べてきたように、小中学校の教師にとって新たな課題が明確 になるたびに、その課題の基になる考え方を正しく理解するために時間を 費やすことなく、方法を具体化することを急ぐ傾向にあることは深刻な問 題となっている。このような現状の改善に努めるために、校長のリーダー シップにより道徳科の評価に取り組む校内体制づくりを推進しなければな らない。特に、基になる考え方を常に確認しながら道徳科の評価を実践し て修正と改善を重ねていくことができるように体制を整えていくことが大 切である。 (4)教師の具体的な見取りや評価の視点11 実際に個人内評価を進めていく際には、児童生徒一人ひとりの学びのプ ロセスを丁寧に見取ることが重要である。児童生徒は、道徳科授業におい て一定の道徳的価値を含んだ、答えが一つではない道徳的な問題(テーマ) について、一貫して自分自身の問題としてとらえ、他者とつながることに より様々な考えに触れて、自身の考えを明確にして思考する。教師は、主 に次の二つの視点を重視し、観察や児童生徒の発言、道徳ノートやワーク シートの記述などを通して見取り評価していくことが求められる。 a 一面的な見方から多面的・多角的な見方・考え方へと発展している か b 多面的・多角的に考えるなかで、自分自身との関わりのなかで道徳 的価値の理解を深めているか。 aについて、児童生徒の発言や記述に着目して見取り評価するなら、 「発展」していると言えるのは、どのような見方や考え方が広がった状況
か、また、深まるとはどういう状況なのかを学校内で共通理解しておくこ とが必要になる。 aについて児童生徒の思考や姿で具体的に述べる。 ・道徳的行為や心情の善し悪しをいろいろ考えようとしている。 (約束を守ることはよい、破ることは悪い、など) ・道徳的行為や心情の動機についていろいろ考えようとしている。 (ほめられるから親切にする、相手が喜んでくれるから親切にする、な ど) ・状況を変えて、道徳的行為や心情の善し悪しなどをいろいろ考えよう としている。 (相手の立場なら、他の人なら、いつでも善し悪しは変わらないか、な ど) ・道徳的行為や心情に関する多様な意見について比べて考えようとして いる。 (よりよい生き方についてのAさんとBさんの意見は似ている。) (よりよい生き方について出された意見に共通していることは・・・。) ・道徳的価値に関する事柄と他の道徳的価値との関係について考えよう としている。 (親切には正直な心が必要である。礼儀には思いやりが必要である、な ど) 多面的・多角的について、様々な考え方がある上に、厳密に区別して考 えることは、授業づくりや評価においてはさほどプラスにはならないと思 われる。多面的と多角的を中黒(ナカグロ)で表記しているように一体的 にとらえていきたい。 次に、bについて同様に述べていく。「自分自身との関わり」について、 具体的にどのような児童生徒の思考や姿なのかを、学校内で予め想定して おくことが必要である。 ・読み物教材の登場人物の心情や判断、行為を自分事としてとらえて、
具体的に理解しようとしている。 (もし、自分だったら登場人物Aのようなことはできない、など) ・ねらいとする道徳的価値について、自分自身のこれまでの経験をもと に考えようとしている。 (自分は、これまで集団の中で役割を果たしていなかった、など) ・ねらいとする道徳的価値について、自分自身のこれまでの見方・考え 方と比べながら考えようとしている。 (正直にするのは叱られないようにするためと考えていたが、自分の考 えを見直すことができた、など) ・ねらいとする道徳的価値について、自分自身のこれからの課題などを 基に考えようとしている。 (他国の歴史や文化をもっと学んで、これから仲よくしていきたい、な ど)
5 提案・・・道徳科授業における「短期的ねらい」の
設定
従来の道徳授業におけるねらいは、本時の授業だけではなく、教育活動 全体における道徳教育を通して迫っていくためのものである。これを「長 期的なねらい」とする。この考え方は、道徳科授業においても踏襲される。 なぜなら、道徳科授業の特質に変更がないからである。 それに対して、1時間の道徳科授業においても確実に評価を行い、これ を積み重ねて児童生徒の人格的成長プロセスを大くくりのまとまりを通し て見取るために、授業において「短期的なねらい」を設定する必要性があ る。この「短期的なねらい」は児童生徒の学習状況の見取りの視点であり、 評価の観点である。 従来の道徳授業の指導目標が、その時間内では到底到達できない「人間 としてのよりよい在り方や生き方」という性格から、児童生徒の道徳的学 びの評価は「決めつけ」となるから望ましくないという捉え方があった。しかし、この捉え方をリセットしない限り、教科教育型として道徳科への 移行は所期の目的を達成できず、またも形骸化するのではないかと危惧し ている。 ここで、「短期的なねらい」について具体的に考察する。まず、「短期的 なねらい」として設定するのは、本時で実現したい児童生徒の学習状況で あること、教師側からは、本時の授業で見取り、評価することが可能なね らいであると言える。つまり、教師としての見取りの視点であり、評価の 観点である。重要なことなので、繰り返し確認したいことは、ここでの評 価の観点は、到達度評価における観点別評価ではないということである。 さらに、「短期的なねらい」設定は、教師の指導観と深く関連すること を明確にするために、教師の指導観を具体化する手順と重要性について述 べていく。まず、授業者である教師が、本時において児童生徒に考えさせ たいことを明確にする。これが指導観を明確にするスタートとなる。次 に、明確な指導観に基づいて「短期的なねらい」、つまり本時の授業で目 指したい児童生徒の学習状況を設定した上で、本時の授業をどのように展 開するのか指導の意図を明らかにする。そして、授業を実施して児童生徒 の学習状況を把握する。授業者である教師は「短期的なねらい」を見取り の視点としてもち、評価につなげる。さらに、評価を生かして授業改善の 視点を明らかにし、具体的な改善に取り組み、次時の授業でよりよい展開 ができるようにするために「短期的なねらい」を設定し、学習状況を把握 する。この過程が「指導と評価の一体化」であり、「『短期的なねらい』と 指導と評価の一体化」の実現過程ということでもある。そのために、教師 は授業構想の段階で育むべき道徳的な学習諸能力、例えば、円滑な社会生 活を送る上で必要な道徳的知識・理解力、道徳的課題発見力、道徳的な問 題を解決する問題解決能力、道徳的な見方・考え方を育む思考・判断力、 情報活用能力、道徳的なものの見方・感じ方・考え方を働かせる表現力、 自分自身を客観的に見つめ把握して、道徳的課題解決に向けてのメタ認知 力12に照らして、本時のどの場面で、どのような学びを実現していこうと
するのかという点を「短期的なねらい」として設定する。 白鷗大学論集 第31巻 第2号所収の拙稿『「特別の教科 道徳」の課 題と展望』では、「短期的なねらい」と、道徳授業で従来から設定されて いる「長期的なねらい」との関係について考察した。本稿でも改めて「指 導と評価の一体化」を踏まえて道徳科授業の「長期的なねらい」と「短期 的なねらい」について詳細にわたり考察する。 「長期的なねらい」は、授業者である教師が指導観を明確にもち、学習 指導要領解説における内容項目内で焦点化し、目標に関わる道徳性の様 相13を語尾にして設定する。例として、教材「泣いた赤おに」14を活用した 小学校の道徳授業から、二つの「長期的なねらい」①②を示す。 ①友達と理解し合う大切さに気づいて、信頼し助け合おうとする心情を 育てる。 ②青おにの手紙を読んで、いつまでも泣き続ける赤おにの気持ちを共感 的に理解することを通して、友達と理解し合う大切さに気づいて、信 頼し助け合おうとする心情を育てる。 ねらい①は、内容項目内で「信頼し助け合う」という行動に焦点化し、 「心情を育てる」という目標(道徳性の様相)を語尾にしている。ねらい ②は、①に加えて前段に教材の活用場面や活用方法を明記して設定してい る。 今まで、「長期的なねらい」が曖昧だと批判されてきた主な理由として、 指導する教師の側が内容項目の構造を理解した上でねらいとして示すとい う意識が極めて薄かったことが指摘されている。学習指導要領における内 容項目は「心情や判断+行為」という構造で示されている。目に見えない 内なる心が、目に見える行為を生む原動力になっていることを理解するこ とにより、心情や判断と行為のどちらかに重点を置いたねらいを設定で き、授業展開も変わってくる。しかし、内容項目の表現が概ねそのまま書 かれていることが一般的であったため、ねらいの設定そのものが形骸化さ れている。これでは、「友情」を主題とする同じ学年の授業で、教材の違
いがあっても概ね同じ表現で設定されることになる。この課題を解決の方 向に導くために、①では内容項目内で焦点化し、「信頼し助け合う」とい う行為に重点を置いた。しかし、これだけでは「指導と評価の一体化」の 実現は困難である。 ねらい②では、①に教材の活用場面と活用方法を文章の前段に加えて、 「指導と評価の一体化」を図ろうとした。授業者である教師が、児童生徒 の学習状況を把握する視点として設定し、授業における「指導と評価の一 体化」において評価の観点として機能させようという意図がある。しか し、ねらい②にも、児童生徒の学習状況は教材内に限定して把握すること ではないという問題が生じることにより、「指導と評価の一体化」の実現 にも課題が残る。 以上のように、重点化して具体的に「長期的なねらい」を設定しても、 それと実際の指導や児童生徒の学習状況が十分に対応してなかった(対応 しているようには見えにくかった)という点が曖昧だという批判を受けて いた。その理由は、どんな学習活動を仕組めば、当該の様相を養うことが できるのかを、他教科のように実証的に示すことが難しいという道徳授業 の特性のためである。これは、「指導と評価の一体化」そのものの難しさ であるといえる。そこで本稿において、道徳科の授業において「短期的な ねらい」を設定することを提案したわけである。
6 指導要録及び通知表における道徳科評価欄への記載
について
小中学校の多くの教師にとって、指導要録及び通知表の道徳科評価欄へ の記載は大きな課題となっている。ここでは、今まで述べてきた「指導と 評価の一体化」を基本にした評価欄への記載についての考え方及び手順と 方法について示す。 (1)「指導と評価の一体化」と記載についての基本的な考え方 評価欄への記述内容や方法については、小中学校の多くの教師が課題と考えている。特に、指導要録と通知表の役割の違いを分けて考えることが できていないことから生じる記載内容や方法についての混乱が見られる。 そこで、まず指導要録と通知表の役割を再確認すること、次に、児童生徒 が自身の成長を実感でき、よりよく生きるための意欲につながるような評 価欄への記載にするという本来の目的を確実に理解することが必要不可欠 となる。 本稿のテーマである「指導と評価の一体化」の主たる目的は、教師自身 が自らの授業実践を振り返るということにある。そして、児童生徒の学習 状況や道徳性の成長の様子について評価欄に記載する内容は、「指導と評 価の一体化」につながる重要な手段であり、大変大きな教育的意味をもつ。 以下、指導要録と通知表への記載についての基本的な考え方を整理す る。 (2)指導要録への記載15 指導要録は、各教育委員会が文部科学省の示した様式を参考にして定め た法定表簿である。道徳の特別教科化に伴い、指導要録に道徳科の欄が設 けられ、「学習状況及び道徳性に係る成長の様子」を文章で記述していく。 その際、特に次のことに留意したい。 ア 通知表への記載を生かしながら、教師の願いや期待等の記載を避け、 成長の客観的な記録簿にする 担任は児童生徒の通年での成長を見通し、最終学期の評価のみを転載す るのではなく、年間にわたり児童生徒の学習状況や、そこでの道徳性の成 長の様子をまとめていく。 また、次年度への期待を込めて、「認め、励ます」支援的な評価にする。 教師の願いや期待そのものの主観的になりがちな記載は避けて、特に顕著 と認められる具体的な変化や成長の状況を記録しておき、記載に生かすよ うに努める。 イ 道徳科の記載内容やその際に留意すべき点は、学校全体で共通理解 し、記載前に管理職が必ず確認する
学校教育が校長の方針の下に進められるよう、指導要録などでの道徳科 の評価の記載も、教育目標や道徳教育の重点目標等を十分に考慮し、そこ から大きく逸脱したり、教師の個人的な判断のみで記載したりしないよう に努める必要がある。 管理職が文章表現を確認する視点については紙幅の関係から省略する。 (3)通知表への記載 通知表は法令で定められていない。したがって、記載内容や方法等は各 校の校長の方針や判断等により違ってくることも予想される。しかし、原 則は指導要録の書き方に準ずる。また、記載内容を読む対象が保護者であ り児童生徒であることが大変大きな教育的意味をもつ。この点について具 体的に述べる。16 ア 児童自身が道徳科での学習を想起できるように書く 通知表では、より具体的で、児童生徒自身が道徳科での学習を想起でき ることが重要である。担任の教師と児童生徒間の信頼関係を基に、道徳科 の授業は成立する。教師は、児童生徒の立場でいえば、「自分が一用懸命 考えていたことを先生はよく見ていてくれた」という思いを大切にするこ とが重要である。つまり、児童生徒が道徳科の授業で見取ってほしかった 自分自身の学習状況を、児童生徒が信頼できる授業者である教師も的確に 見取っていたという事実こそが、本稿のテーマである「指導と評価の一体 化」のプロセスの中で道徳科が目指す評価の姿であると確信している。 イ 児童生徒個々の成長の記録を記すことが道徳性の成長につながる 通知表に記載された児童生徒個々の授業での具体的な学びの姿が、児童 生徒個々の心に響かなければ道徳的実践意欲を引き出すことはできない。 「大くくりのまとまりを踏まえた評価」とあるが、それはある特定の授業 について取り上げて記述してはいけないということではない。通知表の役 割を考え、保護者や児童生徒に分かりやすく、個々の成長を伝えようとす れば、より具体的な表現を使って記述することになる。授業を通して顕著 な成長が見取れた児童生徒の学習状況を丁寧に言葉として紡いでいくこと
が求められる。
7 道徳科評価研究の今後の課題
本稿では、道徳科における「指導と評価の一体化」の目的や意義及び内 容と方法について考察してきた。道徳の特別教科化に伴う授業改善を目指 すためには、指導方法論改革と「指導と評価の一体化」の表裏一体の関係 のなかで取り組まなければならないことは明確である。 具体的な手段としての指導方法改革が児童生徒の道徳性の成長にとって 妥当であるかを見極めるための評価方法論を確立させることが必要にな る。これが「指導と評価の一体化」の実現である。 道徳授業の形骸化が永年の課題となっている。道徳の特別教科化は形骸 化を打破する大きなチャンスとなる。そのためには、指導方法の改革のみ に力を尽くしても目的と手段を混同したり道徳科の時間の特質を見失った りしているような授業実践となり、結局は形骸化が繰り返されるのではな いかという危惧がある。 道徳科の授業の特質を常に根本から支えて、不動なものにできるように するためにも道徳科の指導方法改革と道徳科授業における「指導と評価の 一体化」を車の両輪のように絶え間なく実践していく必要がある。 〔注〕 1 永田繁雄 『「道徳科」評価の考え方・進め方』教育開発研究所 2017年 P25 2 田沼茂紀 編著 『指導と評価の一体化を実現する 道徳科カリキュラム・マネジメ ント 小学校編』学事出版 2017年 P017 3 『道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議』は、道徳の特別教科化に向け 道徳教育の評価に関して、指導要録の具体的な改善策等も含めて、文部科学省におい て専門的に検討を行うために設けられた。 4 島 恒生 「道徳科の評価について」 『「特別の教科 道徳」ポイント解説資料 改 訂版』 日本文教出版 2017年 P11 5 田沼茂紀 著 『道徳科で育む21世紀型道徳力』北樹出版 2016年 P26 6 田沼 前掲書2 P017 7 毛内嘉威 論説②「道徳科の指導と評価の一体化」『初等教育資料』No963東洋館出版社 2018年 PP10-13 8 永田 前掲書1 古屋昌宏「個人内評価」PP46-47 9 永田 前掲書1 吉本恒幸「発達障害など個々の状況への配慮」PP106-107 10 田沼茂紀 編著『パッケージ型ユニットでパフォーマンス評価 道徳科授業のつく り方』東洋館出版社 2017年 11 坂本哲彦 『「分けて比べる」道徳科授業』東洋館出版社 2018年 PP157-159 12 田沼 前掲書10 PP067-068 13 道徳性の諸様相については、「小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」(平 成29年6月)において説明されている。要約すると、学校教育における様相を道徳的 判断力、道徳的心情、道徳的実践意欲、道徳的態度と捉えている。これらの諸様相に ついては、特に序列や段階があるということではない。道徳的価値を実現するための 適切な行為を主体的に選択し、実践することができるような内面的資質を意味してい る。 14 浜田広介・作の「泣いた赤おに」が、道徳資料として公にされたのは、文部省発行 (昭和37年)「小学校道徳指導資料4小学校道徳読み物利用の指導Ⅰ(低学年)」におい てである。当初は、主に小学校低学年で用いられてきたが、その後中学年の利用が増 え、近年では高学年や中学校の授業においても利用されるようになっている。 15 永田 前掲書1 賞雅技子「指導要録の記載の工夫と配慮」PP92-93 16 永田 前掲書1 大館昭彦「通知表での工夫-① 小学校」PP84-85