• 検索結果がありません。

オオスズメバチの採餌戦略に対するニホンミツバチの防衛戦略

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "オオスズメバチの採餌戦略に対するニホンミツバチの防衛戦略"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

ミツバチ科学17(1):27-30

Ho

n

e

y

b

e

eS

c

i

e

n

c

e

(

1

9

9

6

)

オオ スズ メバ チの採餌戦 略 に対 す る

ニホ ン ミツバ チの防衛戦 略

オオスズメバチ (VespamandariniajaP

o

n

i

-cd)は,他の社会性 カ リバチやハナバチに対 し て集団攻撃す る習性 を進化 させた唯一 のスズメ バチと して知 られている

(

Ma

t

s

uur

a

,1

9

84

)

.

特 に日本の養蜂 において は,セイ ヨウ ミツパテ に対 しての加害が問題 とな り,最 も重要 な害虫 と して位 置 づ け られて い る (岡 田

,1

96

1).

Ma

t

s

uur

a

&

Sa

ka

ga

mi

(1973)は,オオスズ メバチの この特異 な採餌習性を単独捕食期,隻 団殺 りく期,占領略奪期 という連続す る3

段階

に分 けている. まず, ミツパテの巣 を見つけた 1頭 の働 き蜂が大顎で 1頑の ミツパテを捕 らえ て巣 に運ぶ行動 を繰 り返 す.やがて同 じ巣 の働 き蜂が集 まると ミツバチを噛み殺す ことに終始 す るようになる (図 1).20- 30頑 のオオスズ メバ チの集団殺 りくによ り, 20,000- 30,000 頭を擁す る ミツバチのコロニーが全滅す るのに かか る時間 は僅か3時間である.巣門の前 には 噛み殺 された ミツバチの死体が山のよ うに積み 重 ね られる. オオスズメバチはその後,巣内に 入 り込み中の幼虫 と桶を 自分 たちの巣 に運 び幼 虫の餌 とす るのである.完全 に食物 の運搬が終 了す るまでの約 1週間 は夜 間 も数頭 の見張 り 役が餌場を占有す る. このよ うにオオスズメバ チの集団攻撃 は凄 ま じい ものであ り, セイ ヨウ ミツバチは人間の保護管理下 におかれていない と生存で きない

(

Ma

t

s

uu

r

a

,1

9

88

)

.

そ もそ も セイ ヨウ ミツバ チは約 120年 前 に欧州か ら米 国経 由で 日本 に輸入 された導入昆虫であ り, オ オスズメバチとは元来同所的には生息 していな か った. そ して, その原産地 にはオオスズメバ チのよ うな採餌戦略を七 つ天敵がいなか ったの である.従 ってセイ ヨウ ミツバチが自分 たちを

小野 正人

守 る術 を もたないことには必然性があ り, この ことは日本 においてオオスバ メバチの分布域 に セイ ヨウ ミツバチが帰化 で きない大 きな理由 と 考え られる (その他 の重要 な天敵 と して ミツパ テへギイタダニ も挙 げ られる).では,もともと 日本 に生息 しているニホ ンミツバチはどうして オオスズメバチと共存で きるのか. また, なぜ オオスズメバチは集団攻撃 という特異な採餌行 動 を進化 させたのだろうか. 本報では,先 に英国のネイチ ャ-誌 に公表 し た内容

(

Onoe

ta

l

,1

995

)

に若干 の知見を加 え,同所性の捕食者 と被食者問の相互作用が原 動力 とな って共進化 したオオスズメバチの採餌 戦略 とニホ ンミツバチの防衛戦略についてその 概略を述べたい. 1.オオスズメバチの集団攻撃の進化 セイヨウ ミツバチが 日本 に導入 され る以前, オオスズメバチは同所性 のニホ ンミツバチや小 型のキイロスズメバチな どの巣を攻撃 して幼虫 (新女王蜂 と雄蜂)の食物 を確保 していた.もち ろん,現在 もそれは変わ らない. しか し,被食 図1 セイヨウミツバチを集団で攻撃するオオスズメ バチ (集団殺りく期)

(2)

28 者側が一方的にや られていたのでは同所性 は保 持できない.被食者でありなが らも現存種 とし て, 日本の風土でオオスズメバチと共存 してい ること自体が,彼 らに効果的な防衛戦略が進化 していることを強 く示唆す る.捕食者 にとって も彼 らの巣を攻撃す ることは,当然 "効果的な" 反撃を受 けることになるので リスクが高いと言 えよう.なぜ,オオスズメバチは, 自身にとっ て も危険な道を選択 しなければならなか ったの か.筆者 はオオスズメバチの生活史にその秘密 が隠されていると考えている.オオスズメバチ の集団攻撃 が,認 め られ るのは 9月初句か ら 10月下旬の約1か月半である.それ以前 は,主 にコガネムシなどの甲虫頬,チ ョウやガの幼虫 など動 きが鈍 く反撃力の低 い昆虫を捕 らえ食物 としている. ところがそれ らの昆虫類 は,オオ スズメバチの巣内で新女王蜂 と雄蜂の養育が開 始 され大量の食物が必要 となる秋には急激に姿 を消す.筆者が熊本県荒尾市で調べた結果によ れば, 1つの巣当 りで育て られる新女王蜂 と雄 蜂の総数 は500-700頭以上で,新女王蜂の終 齢幼虫 1頭 当 りの体重 は5gに も達す る (小 野,未発表).これ らの生殖個体を育て上げるた めには,良質のタンパ ク質を集中的に しか も大 量 に確保 しなければならない.そのプ レッシャ ーが,危険を冒 してで もターゲ ッ トを他の蜂の コロニーへ向けさせ,同時に巣仲間が協力 して 狩 りをす る特異な採餌行動 の進化の究極要因 と なったと考え られるのである.

2.

集団攻撃のメカニズム 彼 らの攻 撃 パ タ ー ン は, 前 に も述 べ た

MatsuuraandSakagami(1973)の克明な記 載 のよ うに大 きく分 けて連続 して生 じる3

階か らなる.その後 に筆者 らが行 った観察によ り,単独捕食期 と集団殺 りく期の間に "巣件問 誘引期"が加え られた (Onoetal.1995).こ のステージは大胆 な彼 らの捕食行動の中にあっ ては目立たぬ小 さなものであるが,その存在 は オオスズメバチの生存その ものを支える大 きな 意味をもつ. その行動を見つけるきっかけとなった調査を 振 り返 りなが らオオスズメバチの集団攻撃がど のようなメカニズムで駆動 しているのかを解析 しよう.1990年9月

22

日,当時学生であった 大野英史君 と筆者 はオオスズメバチの採餌行動 の一部始終を観察すべ く夜明け前か らセイヨミ ツバチの蜂場 に陣取 り,最初の

1

頭の飛来を待 った.5:19最初のオオスズメバチが巣箱に飛 来.捕食者の襲来を察知 して巣門の前に出て き た ミツバチを大顎で捕 らえて肉だん ごとし,早 独捕食期が始 まった.やがて, この個体が巣箱 の直 ぐ脇 に茂 ったエゴノ与の葉 に止 まり,その 箇所がゆさゆさと揺れているのに気づいた.近 くの コナラの枯れ木 にも同様に止まり,今度 は 腹部を左右に振 っているのがはっきり確認でき た. さらに,巣箱の上 に組んである垂木の上で 起 きた同 じ行動を目前に した時,腹部か らの分 泌物 を塗 って いるらしい ことが分か った (図 2).その個体が擦 りつけていた部位 は,膨腹部 末端節の腹板にあるvan derVecht腺 と呼ば れ る外分泌腺の1種で,アシナガバチ類では天 敵であるア リ類の忌避物質が分泌 されていると 報 告 さ れ て い る (Jeanne, 1970,Kojima, 1993).しか しなが ら, スズメバチ頬において はその分泌腺の果たす役割 を明確に実証す る報 告 はなか った.最初の匂いっけ行動が観察 され てか ら約1時間後,3頭のオオスズメバチがそ の巣箱 に集 まると,行動パ ターンが急変 し抵抗 す る ミツバチを噛み殺すだけとなり集団殺 りく 期へと移行 した. セイヨウ ミツバチは次々と単 独でオオスズメバチに飛び掛かるが,巨大な大 胡の-噛みで勝負 はついて しまう.集合 したオ オスズメバチはお互いに触覚で叩いたり口器を 図2 オオスズメバチの匂いっけ行動 (矢印:van derVecht腺)

(3)

29 合わせた りして巣仲間であ ることを確認 してお り,時折追 い払われる個体 も観察 された.多分 異 なる巣の個体であろう. この集団プ レーによ り, いかに巨大 なオオスズメバチといえども 1 頭では攻略で きない社会性 ハチ類のコロニーを 全滅 に追 い込み大量 のタンパ ク質 を獲得す るこ とが可能 にな ったのである.攻撃 に参加す るオ オスズメバ チの数 は徐 々に増加 して い き

,30

頑 に達す る頃には反撃す る ミツバチ も見当た ら ないほどになっていた. その後,大顎で木製の 巣箱をか じって巣門を広 げて内部 に侵入 し,幼 虫 と桶を巣 に運 び始めた. この占領略奪期 に入 ると巣箱 に近づ く観察者 に対 して も攻撃的 とな り極 めて危険な状況 とな った. 以上 のよ うに, 世界で約24種の記載のある スズメバチ属 において,オオスズメバチに種特 異 的 に進化 した集団攻撃 を駆動 す る近接要 Eq は,vanderVecht腺か ら分泌 され る餌場 マー クフェロモ ンと体表を覆 う巣仲間認識物質 とい う情報化学物質であることが示唆 された.

3.

二ホ ンミツバチの逆適応 次 に,強力で組織だ ';たオオスズメバチの採 餌戦略に対抗す る防衛戦略 と して同所性 の被食 者 であ るニホ ン ミツバ チが進化 させ た "離 れ 莱" について紹介 したい. 彼 らは, セイ ヨウ ミツバチと異 なり決 して単 独 でオオスズメバ チに立 ち向か うことを しな い. オオスズメバチが巣の周辺 に飛来す るとこ ホ ンミツバチの働 き蜂 は全 て巣内に引 き寵 もっ て しま うのである (図 3).この引 き寵 もり行動 は,単独捕食型のキイロスズメバチの場合 には 図3 オオスズメバチの襲来に対 してナサノフ腺を露 出しながら排掴するニホンミツバチ 図4 48℃に達 した蜂球の温度 観察 されず,ニホ ンミツバチは明 らかにオオス ズメバチを他 の捕食者 と識別 していることが示 唆 された. オオスズメバチが,遠 ざか ると100 頭以上 の働 き蜂がぞろぞろ出て きて巣 の周辺を 排掴 L,再来す ると腹部を振 り上 げてナサノフ 腺 を開口 しなが ら巣内に撤退す るとい う行動 を 繰 り返す. それが繰 り返 され るごとに排手回す る ミツバチの数 は増加 していき,500頭以上 に達 す ることもある.多数 の ミツバチが素早 く動 く ので,オオスズメバチは容易に楠獲で きない. オオスズメバチが飛来 して撤退 した巣内では, 興奮 した1,000頭以上 の働 き蜂が巣板 を離 れ, 巣門の内側で じっと待機 している. もし, その オオスズメバチが巣内に侵入を試み ると,彼 ら は一斉に飛 び掛か って巨大 な蜂球 に封 じ込 めて しまう. その際,刺針行動 が認 め られないのは 際立つ特徴である.一方,蜂球内の温度 は急激 に48℃ に も達 した (図4).実験室内での調査 によれば, オオ スズメバ チの上 限致死温度 は 44-46oCであ るのに対 し, ニホ ン ミソバ チは 48-50℃ まで耐 え られた.蜂球 の継続時問 も 捕食者 を倒すのに十分であ った.すなわち, オ オスズメバチを熟殺 していたのである.変温動 物である筈の昆虫類 における発熱防衛行動 の進 化 は対 キ イ ロス ズ メバ チ を例 に報 告 した が (Onoetal,1987),筆者 はこの見事 な戟略の 進化の原動力 はオオスズメバチの強力な捕食圧 であったと考 えている.

2

次元 セ ンサ型超高感 度赤外線熱画像装置 (TVS-8100, 日本 ア ビオ ニクス株式会社) により,蜂球の温度を可視化 す ることに も成功 した (表紙写真).さらに,そ の装置を用 いて巣門周辺 を排掴す る個 々の働 き

(4)

30 蜂 球 図5 蜂球から発散される化学物質の捕集装置 蜂 の胸部温度 が既 に約48℃ に達 して いた こと も分 か り,蜂球 の急激 な温度上昇 の謎 も解 け た. このように して,二ホ ン ミツバチは最初 の 1頭のオオスズメバチを撃退 し, 巣を防衛す る ことがで きるのである. しか しなぜニホ ンミツ パテはオオスズメバチの襲来を感知で きるので あろ うか. 筆者 らは, オオスズメバチの van derVecht腺 のエーテル抽 出物 (3頭当量) を テフロン製 のデ ィスクに塗布 して, ニホ ンミツ バチの巣 に近づ けた.す るとその巣か ら 50-100頭のニホ ンミツパテが出て きて辺 りを排梱 し, そのデ ィスクをか じる行動が引 き起 こされ た. その状況 は,実物 のオオスズメバチが飛来 した時に起 こる行動 と極似 していた.同様の処 理 をセイ ヨウ ミツパテに対 して行 ったが,何の 変化 も起 きなか った. この実験 は, ニホ ンミツ バチがオオスズメバチの餌場 マークフェロモ ン を傍受 し, オオスズメバチ襲来を知 るカイロモ ンと して読み替えていることを強 く示唆す るも のである. もう一つの疑問, なぜ ミツバチたちはオオス ズメバチを捕 らえた場所 に瞬時 に定位で きるの であろうか. オオスズメバ チに飛 びつ きしがみ ついた蜂か ら発せ られる音が役立 っている可能 性 もあるが,図

5

に示 した簡単 な装置を作製 し て,熱 い蜂球の表面か ら立 ち上ぼ る化学物質 の 捕集 とその分析を試みた. その結果,主成分 と してイソア ミルアセテー トが検出された.我々 の鼻 にはバナナの香 りのよ うに感 じられ るその 化学物質 は, ミツバチの警報 フェロモ ンと して 同定 され,刺針行動の リリーサーと して機能す ると報告 されている (Free,1987).極 めて興 味深 く重要 な点 は, ヒ トや クマなどの天敵が巣 を物理的に刺激 した時 に発散 させ られた場合 に は激 しい刺針行動 を引 き起 こすイソア ミルアセ テー トが,対 オオスズメバ チ防衛 モー ドの際に は刺針行動 を誘起せずにその発生源への素早 い 集合の シグナルとして作用 し,見事な適応的行 動が発現 されていると言 うことである.

4.

なぜ捕食者 と被食者が共存できるのか ニホ ンミツパテの対 オオスズメバチ防衛戦略 は決 してパ ーフェク トではない. もし,最初の 1頭の リクルー ト・スズメバチを倒す前 に加勢 が到着すれば,オオスズメバチ側 に軍配が上が る. その様 なケースは, ニホ ンミツバチの コロ ニーサイズが小 さか った り,両種の巣の距離が 近 い場合 に生 じやす い. しか し,例えオオスズ メバチの集団攻撃が開始 されて もニホ ンミツバ チは決 して無駄死 にはせず,巣 は明け渡 して し まうものの逃去 して命を繋 ぐのである. 捕食者 と披食者 の見事 な共進化 の 1例 を垣 間見て きたが,両者 ともにパ ーフェク トな戦略 を もっていないという点が,共存を可能 に して いるのである.彼 らは,我 々の時間的感覚をは るかに越 えた昔か らお互 いを磨 き合 いなが ら, 生命の糸を現在へ と繋 いで きたと言えよ う. (〒194 町田市玉川学園6-1-1 玉川大学) 主 な 引 用 文 献

Free,∫.ち,1987. PheromonesofSocialBees Chapman&Hall,London.pp.218.

Jeanne,R.L.1970.Science168:1465-1466.

Matsuura,M.1984.Bull.Fac.MieUniv.69:1 -131.

Matsuura,M.andS.F.Sakagami.1973.∫.Fac. Sci.Hokkaido Univ.Ser.VIZool. 19:125 -162.

岡田一次.1961.玉川大学農研報.2:73-89. Onoetal.1987.Experientia43:1031-1032. Onoetal.1995.Nature377:334-336. MASATO, ONO. Prey-predator interaction be

-tweenJapanesehoneybee,ApisceTlanajaponica and gianthornet,Vespa mandan'niajaponica. Honeybee Science(1996) 17(1):27-30. Fac. Agric.Tamagawa Univ.Machida-sh呈,Tokyo, 194Japan.

Proximateandultimatefactorsofcoevolution between foraglng Strategy Of glant hornet, VesPamandariniajaponicaanddefensivestrat -egyofJapanesehoneybee.Apisceranajaponica aredescribed.

参照

関連したドキュメント

DX戦略 知財戦略 事業戦略 開発戦略

子ども・かがやき戦略 元気・いきいき戦略 花*みどり・やすらぎ戦略

子ども・かがやき戦略 元気・いきいき戦略 花*みどり・やすらぎ戦略

としても極少数である︒そしてこのような区分は困難で相対的かつ不明確な区分となりがちである︒したがってその

図表の記載にあたっては、調査票の選択肢の文言を一部省略している場合がある。省略して いない選択肢は、241 ページからの「第 3

【フリーア】 CIPFA の役割の一つは、地方自治体が従うべきガイダンスをつくるというもの になっております。それもあって、我々、

自分ではおかしいと思って も、「自分の体は汚れてい るのではないか」「ひどい ことを周りの人にしたので

そうした開拓財源の中枢をになう地租の扱いをどうするかが重要になって