小児感染症:流行現況把握・流行予測のアルゴリズムの検討
-地域におけるウイルス感染症流行の把握-
Infant infectious disease : Examination of algorithm of grasp at current state of
epidemic and prediction of epidemics
-Grasp of virus infectious disease epidemic in region-
長谷川 伸作
1*,井上 仁
2,陶山 昭彦
3HASEGAWA Shinsaku
1, INOUE Masashi
2, SUYAMA Akihiko
31
北海道立衛生研究所
1
Hokkaido Institute of Public Health
2
鳥取大学総合メディア基盤センター
2
Information Media center Tottori University
3
放射線影響研究所
3
Radiation Effects Research Foundation
Abstract: Research was carried out in an infant infectious disease for the purpose of commanding of the
occurrence trend and the early detection of the infectious disease epidemic. It was examined about present state grasping of the patient occurrence in the patient information data by the area of the infection disease occurrence trend investigation, the neighboring zone and the epidemic spread to others prefecture. Moreover, the algorithm of the prediction of epidemics was examined.
1 はじめに
小児感染症の市中発生動向の掌握や感染症流行の 早期検知を目的に、感染症発生動向調査[1-5]の地域 別患者情報データにおける患者発生の現況把握、近 接区域・他府県への流行波及ならびに流行予測のア ルゴリズムについて検討した。 感染症発生動向調査で取り扱う感染症のうち、 1981 年から現在までの、集計開始となった小児科お よびインフルエンザ定点把握の 13 感染症を対象に 時系列データの解析を実施した。始めに、データの 欠測部分を調整する補完や定点設定の変更・定点医 療機関の診療科目の変更・報告基準の変更による不 連続性の調整などを実施し、時系列分析可能なデー タ系列を作成した[1-6]。基本統計量によるデータの 構造解析を行い、データの分布とその位置を捉えた。 また、時系列解析を行い、傾向変動、季節変動、循 環変動、不規則変動等の抽出を行った。これら解析 に基づく各感染症の過去および現況把握、流行予測 を行った[7-13]。 具体的には、感染症発生動向調査開始の1981 年第 27 週(7 月)から現在までの週単位集計の全国およ び都道府県別、北海道内二次医療圏別、保健所別の 患者発生定点当り報告数の時系列グラフからは長期 的流行の推移、季節変動および循環変動等の目視的 観察を行った。データの分布とその位置を捉える基 本統計解析、時系列解析により、感染症流行の当該 週における警報・注意報等のシグナル発令のための, アルゴリズムを設定し現況把握を行った。さらに、1 から4 週間の流行予測表示を行ない、警報・注意報 の期待値と、後に計測された実測値との比較検討を 行った。2 データの準備
感染症発生動向調査[2-8]、1981 年から現在までの 全国都道府県別のインフルエンザ定点および小児科 定点把握対象の 13 感染症[2]の定点当り報告数/週 [7-13]を用いた。時系列データとは、時間軸上で等間 隔に観察される系統的なデータである。これらデー タ系列の時間に沿った(時間軸上の)変動の特徴を *連絡先:北海道立衛生研究所人工知能学会研究会資料
SIG-DMSM-A603-03 (2/27)抽出して分析することから、時系列解析の対象とな るデータについては、欠測がないこと、データの等 間隔性が保たれていることが必須であり、分析開始 前に前処理が必要となる。欠測データに対しては数 値の埋め込み(補完)と時間軸の等間隔修正が必要 となる。
2.1 データ欠測値の補完方法
データ欠測値の補完には次の方法をとった。 ①欠損データの前後N 個のデータの平均値を充て る。②欠損データの前後N 個のメジアン(中央値) を充てる。③欠損データを除いた系列全体データの 平均値を充てる。次にあげる状況において、これら 方法を用いて対応する。 2.1.1 欠損部分が1個の場合 欠損データの前後で、観測データのパターンを大 きく外れない場合は、①②いずれの方法をとり、大 きく外れる場合は、平均より中央値による(②)。ま た、全体の系列がトレンドや季節性のパターン(好 発期)のみられないランダムな系統と思われる場合 は、全体系列の平均値を充てる(③)。 2.1.2 欠損部分が複数個連続している場合 欠損データの前後で、観測データのパターンを大 きく外れない場合は、①②いずれの方法をとっても 欠損データ部分の前後から判断し、トレンドが存在 すると考えられる場合は、欠損部分前のN 個のデー タの平均値を欠損部分の前の中間点(N/2 個目)の データとして、欠損部分を算出補完する。全体の系 列がトレンドや季節性のパターン(好発期)のみら れないランダムな系統と思われる場合は、全体系列 の平均値を充てる。 これら 2.1.1、2.1.2 の方法は、欠損データの期間 がその系列におけるトレンドや季節性のパターン (好発期)の変換時点を含まない程度の場合に適応 される。それ以外では、トレンドや季節性のパター ン(好発期)を反映させたデータの補完が必要とな る。 2.1.3 欠損部分が長期に渡り、その系列におい てトレンドや季節性のパターン(好発期)の変 換時点を含む場合 過去5年間程度の同一時期(週)のデータが存在 するときは、同一週データの平均値またはメジアン (中央値)を充てる。なお、得られた補完値が前後 のデータとの連続性において大きくかけ離れる場合 は、一定係数で乗算するなどして連続性を保持させ るなどの方法も必要となる。 2.1.3 定点選定基準の見直し・定点医療機関の 見直し変更・診療科の見直し等により報告状況 が変化した場合 定期的定点見直し時の変更やデータ収集診療科の 変更に伴うデータ収集医療機関の変更において、そ の前後で報告数が大幅に変化した場合は、一定係数 を変更時以前または以後のデータに乗算するなどし て連続性を保持させる。また、変更時点でデータを 切断し、前後別々に取り扱うなどの対応を行う。ま た感染症名の変更および収集される患者基準の変更 に伴う報告状況が変化した場合も同様の対応とする。2.2 データの時間軸の調整
時系列分析の対象となりうるデータは、一般に年、 四半期、月、週、日、時間といった時点に対応して、 等間隔で記録されている必要があり、連続し、等間 隔性を持たない場合は時間軸の等間隔修正が必要と なる。感染症動向調査では、週、月、年間隔が用い られる。 インフルエンザについては、1987 年からの集計デ ータ(同年集計開始)を用いた(それ以外では1981 年から)。4~5 年おきに出現する第 53 週については、 統計処理上、1年の循環性を保つ必要から除外し、1 年をすべて 52 週とした。また、週単位集計数値を 12 月集計値に換算したデータを作成したが、そのた めには1 年間 52 週分を 1 か月は「4+1/3」週、「2/3 +3+2/3」週、「1/3+4」週と割り振り、以下順に 12 か月(項)に均等分配した時系列を作成した。2.3 統計解析計算のためのデータ修正
統計処理において、0 による除算は不可能なこと から、修正が必要となる。感染症発生動向調査のデ ータでは、全国・都道府県別・保健所別において定 点当り報告数は0.01 以上が表示され、それ以下もし くは報告がなかった場合を含め 0.00 と表示される。 このことから、除算などの計算が伴う場合に限り、 0.01 未満についても考慮し、0.00 については 0.002 と置換したデータ系列を用いる。3 時系列解析法
3.1 時系列プロット(基本データグラフ)
の作成
過去から現在までの患者発生動向調査定点当り報 告数について、X 軸に週、Y 軸に患者発生定点当り 報告数/週、Z 軸に全国・都道府県別・北海道内 21医療圏別・保健所別をプロットし、表示させた。 長期に渡る時間経過のうちには、数値データが大 きく変化し、大目盛りに惑わされ、小さな値の変化 が読み取れなくなる場合がある。このようなときに は、対数目盛りによる表示も行った。
3.2 短期的状況把握のための計測法
短期的状況把握のための計測ならびに基本統計量 の計測を行った。①好発週の設定、②4 週報告数の 当該年8 週報告数に対する比、③4 週報告数の過去 5 年間報告数(前、当該、後の各 4 週×5 年間)に対 する比(CPEG)、④当該週の過去 5 年間報告数(当 該週を含む前5 年間)における標準変量、⑤当該週 を含む前5 年間報告数の平均値(以上、図1を参照)、 ⑥当該週を含む前5 年間報告数の標準偏差、⑦当該 週を含む前5 年間報告数のベースライン 95(平均値 ±2 シグマの範囲においてほとんど(95%)が含まれ るとする値を当該週毎に計測しプロットしたライ ン)およびその5 年間平均値(当該週毎に当該週を 含むそれ以前の値の平均値)、⑧当該週を含む前 5 年間報告数のベースライン68(同様に±1 シグマの ライン)およびその5 年間平均値(当該週毎に当該 週を含むそれ以前の値の平均値)、⑨”当該週報告数” の”当該週を含む前5 年間報告数のベースライン 68” との乖離、⑩コレログラムおよびWhittaker 法による 周期循環および周期強度の計測 [8-12]。 なお、①の好発期の計測は、各期別(週または月) の中心化移動平均(52 週または 12 月)を計測し、 原系列との乖離から移動平均乖離率の期別集計を行 った。移動平均乖離率を好発の度合いと捕らえ、各 期における移動平均乖離率の 21 年間の平均値が 0 以上の場合を好発期(好発週・好発月)とした。3.2 警報・注意報発令アルゴリズム
3.2.1 現況把握における警報・注意報発令アル ゴリズム 当該週の感染症流行の警報および注意報等のシグ ナル発令は短期的状況把握に基づくアルゴリズムに よって行った(図2)。報告数が多く、好発期に限ら ず年間を通して報告される流行性耳下腺炎、水痘な どは、「当該週報告数」が「ベースライン68 値(前 5年間における)」以上の場合で、「当該週の標準化 変量(同)」≧1または「当該週の CPEG(同)」≧ 1であれば警報、これ以外は注意報とした。「当該週 報告数」が「ベースライン68 値(同)」未満かつ「ベ ースライン95 値(同)」以上の場合で、「当該週を含 む前4週/前8週報告数比」≧1であれば上昇傾向 とした。インフルエンザ、ヘルパンギーナは、「当該 週報告数」が「ベースライン68 値(同)」以上を警 報、「ベースライン95 値(同)」以上を注意報などと し、各感染症により調整した。 例:2000年第20週 における計測 ① 好発週の設定:過去21年間 =過去21年間の各週(各期)の移動平均 乖離率の平均が0以上の場合好発週 (好発期)とする。 ② 4週報告数の当該年8週報告数に対する比 =X0/{(X0+X1)/2} 2000年 X1 X0 13 14 19 20 週 ③ 4週報告数の過去5年間報告数(全,当該, 後の各4週 X 5年間)に対する比(CPEG) =X0/{(X1+X2+………+X14+X15)/15} 2000年 X0 1999年 X1 X2 X3 1998年 X4 1997年 1996年 X12 1995年 X13 X14 X15 13 14 19 20 23 24 ④ 当該週(1週間)の過去5年間報告数(当該 週を含む前5年間)における標準化変量 =(Xa-平均値)/標準偏差 2000年 Xa 1999年 1998年 1997年 1996年 1995年 1 2 19 20 21 52 計測方法 図 1 短期的状況把握のための計測法 表示 プログラム1 (インフルエンザなど一部の感染症を除く) ■「当該週報告数」が「ベースライン68-前5年間」未満、 かつ「ベースライン95 -前5年間」以上 上昇傾向 ●「当該週を含む前4週/前8週報告数比」 ≧1 注意報 ●上記以外 (「当該週報告数」 ≧「当該週ベースライン68(前5年間における)」) 警報 ● 「当該週の標準化変量(前5年間における)」≧1、 または「当該週のCPEG(前5年間における)」≧1 ■「当該週報告数」が「ベースライン68-前5年間」以上 警報 警報 注意報注意報 上昇傾向上昇傾向 無 標準化変量 標準化変量≧≧11 または またはCPEG CPEG ≧≧11 ベースライン ベースライン 68 68以上以上 ベースライン ベースライン6868未満か未満か らベースライン らベースライン9595までまで 当該週を含む前 4週/前8週報 告数比 ≧1 警報・注意報発令アルゴリズム( 警報・注意報発令アルゴリズム(現況把握現況把握)) 図2 警報・注意報のアルゴリズム(現況)ヘルパンギーナ 0.0 5.0 10.0 15.0 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004週(年) 定点当り報 告数 全国 北海道 手足口病 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004週(年) 定 点当り報告 数 全国 北海道 インフルエンザ 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004週(年) 定点当 り報告数 全国 北海道 水痘 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004週(年) 定点当り 報告数 全国 北海道 伝染性紅斑 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004週(年) 定点当り報 告数 全国 北海道 風しん 0.0 3.0 6.0 9.0 12.0 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004週(年) 定点当り報 告数 麻しん 0.0 2.0 4.0 6.0 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004週(年) 定点当り報 告数 流行性耳下腺炎 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 週(年) 定点 当り報告数 全国 北海道 0.0 0.5 1.0 1.5 0.0 0.3 0.5 MMRワクチン MMRワクチン MMRワクチン 図3 全国・北海道の定点当り報告数(主な感染症/1981 年-)
3.2.2 1 から 4 週間の警報・注意報発令アルゴ リズム ①現況における警報・注意報のシグナルは警報・ 注意報発令アルゴリズム(図2)によって計測した 結果を用いた。 ②計測週の現況シグナルがそれら境界域から乖離 している場合は次週以降もそのシグナルとし,境界 に位置する場合は「②4 週報告数の当該年 8 週報告 数に対する比」が1以上では同等のまたは上位のシ グナルを呈示し,それ未満では下位のシグナルを呈 示させた。なお,「同比」は2 週間継続するとして対 応する。 ③「ベースライン68」以下において,計測週の前 の週にシグナル表示がある場合,「②4 週報告数の当 該年8 週報告数に対する比」が 1.0 未満 0.8 以上で前 週よりその比が上昇している場合,もしくは好発期 に位置する場合は同等のシグナルを表示した。この 場合においても「同比」は2 週間継続されるとして 対応する。また、「同比」が前週より低下した場合に おいては次週のシグナルの表示をしなかった。
4 結果
4.1 時系列プロット(基本データグラフ)
から患者発生の目視観察を行う
感染症発生動向調査開始の1981 年第 27 週(7 月) から現在までの週単位集計の全国および都道府県別、 北海道内二次医療圏別、保健所別の患者発生定点当 り報告数をグラフにプロットした時系列グラフから は長期的流行の推移、季節変動および循環変動が目 視的に観察される。図3に全国・北海道の定点当り 報告数(主な感染症/1981 年-)の例を、流行性耳 下炎全国・都道府県別の例を図4に、また同じく保 健所別の例を図5に示した。これらから長期的流行 の推移、季節変動および循環変動が目視的に観察さ れる[9-18]。 感染症の個々の時系列プロットの波形は、数々の 要因によって影響を受け、季節周期(好発期)、循環 変動(数年以上の周期)、長期趨勢を形成していると 考えられる。目視では、好発期のはっきりしたイン フルエンザ、ヘルパンギーナなどの感染症では、地 方地域(都道府県)におけるその波形は報告数の多 少はあるものの、全国平均に同期して推移している のがみられる。一方、他の多くの感染症は、地方地 域での流行の波形は近隣からの影響を大いに受けて、 個々には全く異なる様子を示す。伝染性紅斑、風し ん、麻しん、流行性耳下腺炎では、必ずしも流行波 形は同調しないで、ずれたり、その規模を異にする。 図4 都道府県別定点当たり報告数(流行 性耳下腺炎/全国都道府県別) 19 9 5 14 27 40 19 96 14 27 40 19 97 14 27 40 19 98 14 27 40 199 9 14 27 40 20 00 14 27 40 20 01 14 27 40 20 0 2 14 27 40 20 03 14 27 40 20 04 14 27 40 全国全道 札幌南空知 中空知北空知 上川北上川中 富良野後志 北渡島檜山南檜山 南渡島西胆振 東胆振日高 十勝釧路 根室北網 遠紋宗谷 留萌 0 5 10 15 20 25 30 定点 当 り報告数 年・週 第二次医 流行性耳下腺炎 北海道第二次医療圏別 44.00 31.75 図5 第二次医療圏別定点当たり報告数(流行 性耳下腺炎/北海道内第二次医療圏別) 表1 好発期(月) 全国・北海道年間発生パタ ーン保健所間ではさらに複雑な違いを示す。 これら目視的に読み取られる感染症流行の様相は、 典型的な場合で、人の感覚による大まかな徴候(長 期趨勢や周期)に限られたものであり、正確に様々 な規則性を抽出するには至らない。客観的な統計学 的根拠に基づく計測の実施が求められる。
4.2 状況把握のための計測結果
短期的状況把握のための計測方法により、①好発 週を設定し、数値データ化した(表1)。また、②4 週報告数の当該年8 週報告数に対する比、③4 週報 告数の過去5 年間報告数(前,当該,後の各 4 週×5 年間)に対する比(CPEG)、④当該週の過去 5 年間 報告数(当該週を含む前5 年間)における標準変量、 ⑤当該週を含む前5 年間報告数の平均値を計測し数 値データファイル化した(図6)。 各感染症は地域(都道府県別・保健所別)で様々 な年間の発生パターンが示された。全国および北海 道別の定点当り報告数の 20 年間時系列データにお けるベースライン(通常報告される報告数の最低線) の高低、移動平均乖離率の期別集計による好発期か ら年間発生状況を表1に示した。 年間発生状況から、①インフルエンザ、咽頭結膜 熱、手足口病、風しん、ヘルパンギーナ、麻しん、 急性出血性結膜炎は、好発期が鮮明で、好発期以外 での発生は殆ど認められない、季節変動が明瞭な感 染症、②A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸 炎、水痘、伝染性紅斑(北海道)、流行性耳下腺炎、 流行性角結膜炎は、季節変動は認められるが、好発 時期以外にも報告があり、通年発生でベースライン が高い感染症、③突発性発疹、百日咳は報告数が少 ないまたは報告数の変動が少なく、一定の報告数を 示すなどの感染症などに分別された。 麻しんは都道府県別、保健所別と共にベースライ ンが低く、概して流行は好発時に限っていて、また 全地域でみられる。流行性耳下腺炎の都道府県別(図 4)ではベースラインが高く、好発期は観察される が一年間をとおして発生がみられる。定点数の少な い保健所間相互で比較すると、全く報告がない期 間・地域が存在したり、好発期以外の発生も多くの 地域でみられたり、地域によって様々な状況が観察 される(図5)。 「4週報告数の当該年8週報告数に対する比」か らは、直近の過去8週間程度における報告数の増減 が、「CPEG」からは過去5年間当該12 週間にお ける報告数の多少が「標準化変量」からは過去5年 間の報告数の平均における多少が計測された。 報告数の当該週における上昇・下降傾向、過去 5 年間の当該週付近と比較した増減や過去平均値との 比較を行った。 コレログラムおよびパワースペクトルによる周期 循環および周期強度の計測[12]から、表2に示す結 果が得られた。 通常用いられる基本統計量に加え、循環変動(周 期)の解析を実施すると、目視では抽出できなかっ た周期が数値化される。単独の大小周期に加え、別 の様々な周期との組み合わせからなっている場合あ り、経験則による思い込みを排除し、客観的に隠れ た周期をも観察することができる。 各感染症流行の長期趨勢変動、季節変動周期、循 環変動周期を算出し、加えて年間発生(流行)パタ ーンなどの解析結果をまとめた(表2)。 各感染症は長期趨勢および周期特性から以下の様 に区分された。①毎年流行し、季節周期(好発期) が一定期間に限られる感染症(インフルエンザ、咽 頭結膜熱、手足口病[ただし、非流行年有り]、ヘル パンギーナ)。②季節周期は認められるが、通年報告 がみられる感染症(A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎、 感染性胃腸炎、水痘、伝染性紅斑、流行性耳下腺炎 [季節周期は弱い]、流行性角結膜炎)。③数年毎に 流行ピークがみられる[季節周期あり]感染症(風 しん、手足口病、麻しん、急性出血性結膜炎)。④報 告数が一定またはまれな感染症(突発性発疹、百日 図6 流行現況把握・短期流行予測のための 計 測 値 / 流 行 性 耳 下 腺 炎 ( 北 海 道 1981-2003 年データに基づく) 原 原系系列列ププロロッットト 4 4週週報報告告数数のの当当該該年年88週週報報告告数数 に に対対すするる比比 C CPPEEGG 標 標準準化化変変量量咳)。そして、手足口病、風しん、麻しん等では、流 行期間・流行周期が異なるまたは大きくずれるなど して、全国ならびに都道府県間で違いがみられた。
4.3 警報・注意報流行(現況把握)
状況把握のための計測をもとに、当該週の感染症 流行の警報および注意報等のシグナル発令のための アルゴリズム(図2)により、計測し、流行現況を 表示させた。計測には図7に示すワークシートを用 いた。当該週の報告数入力により、自動的に計算さ れ、その結果は図8に示す流行現況表示一覧(全国・ 都道府県または保健所別)で示された。4.4 短期的流行予測(1~4 週間)
当該週の現況把握をもとに 1~4 週後までの状況 予測のアルゴリズムに基づいて計測した結果を表3 に示した。流行性耳下腺炎の1~4 週間後の流行予 測値(期待値)と実測値との一致率は、1~3 週目の 予測において警報または注意報のどちらかの表示が される場合で約80%、警報は警報・注意報は注意報 と同じレベルの表示を示す完全一致の場合では約 70%であった。4 週目の予測ではともに 10%程度低 下した。 麻疹、風疹、流行性耳下腺炎、水痘、手足口病、 ヘルパンギーナ等で検証した。ただし、麻疹、風疹、 などにおいては、近年、報告がまれとなり、またそ 表2 感染症流行の長期趨勢と周期解析結果*1 長期 季節変動周期・循環変動周期 年 間 発 生( 流 行 )パ タ ー ン 感 染 症 名 地 域 趨勢 (半年・1年・数年周期と (通年・毎年・流行年発生, (増減) [その規模])*2 好発期発生)*2 1. インフルエンザ 全国 なし 1年周期+2,3年周期[大] 毎年・好発期のみ 北海道 なし 1年周期+2,3年周期[大] 毎年・好発期のみ 2. 咽頭結膜熱 全国 漸増 1年周期 毎年・好発期のみ 北海道 漸増 1年周期+3,4年周期[大] 毎年・好発期のみ 3. A群溶血性レンサ球 全国 漸増 1年周期,二峰性 通年+好発期 菌咽頭炎 北海道 漸増 1年周期,三峰性 通年+好発期 4. 感染性胃腸炎 全国 漸増 1年周期 通年+好発期 北海道 漸増 1年周期 通年+好発期 5. 水痘 全国 漸減 1年周期,二峰性(弱い) 通年+好発期 北海道 漸減 半年周期,二峰性明瞭 通年+好発期 6. 手足口病 全国 なし 1年周期+5年周期[大] 流行年・好発期 北海道 漸増 1年周期+5年周期[大] 流行年・好発期 7. 伝染性紅斑 全国 なし 1年周期+5年周期[大] 通年+好発期 北海道 漸増 半年周期,二峰性 通年+好発期 8. 突発性発疹 全国 漸減 1年周期[極小] 通年+好発期(波は低い) 北海道 なし 周期計測できず. 通年+好発期(波は低い) 9. 百日咳 全国 漸減 1年周期+4,5年周期[大],近年? 通年+好発期(92年以前)/以降少 北海道 漸減 周期計測できず. 通年+好発期(92年以前)/以降少 10. 風疹 全国 漸減 1年周期+5年周期[大] 流行年・好発期 北海道 漸減 1年周期+4,5年周期[大] 流行年・好発期 11. ヘルパンギーナ 全国 漸減 1年周期 毎年・好発期のみ 北海道 なし 1年周期+3,4年 毎年・好発期のみ 12. 麻疹 全国 漸減 1年周期+3,4年(or7年)周期[大] 近年 流行年・好発期 (成人麻疹を除く) 北海道 漸減 3,4年周期(1年周期計測されず) 近年 流行年・好発期 13. 流行性耳下腺炎 全国 漸減 4年周期,季節周期計測されず. 通年+好発期(波は低い) 北海道 なし 半年周期+4年周期[大] 通年+好発期(波は低い) 14 急性出血性結膜炎 全国 漸減 周期計測できず. 流行年・好発期 北海道 漸減 周期計測できず. 流行年・好発期 15. 流行性角結膜炎 全国 漸減 1年周期 通年+好発期(波は低い) 北海道 漸減 1年周期+3,4年周期[大] 通年+好発期(波は低い) *1, 患者発生定点当り報告数 1981年7月~2004年 のデータによる.ただし,インフルエンザは1987年1月 からのデータによる.長期趨勢および周期解析結果(参考文献5) )から総合的に判定し、記載した. *2, ・ :and,+:前事項に後事項が加わった状態. 流行現況表示( 流行現況表示(流行性耳下腺炎流行性耳下腺炎 都道府県別)都道府県別)警報警報::■■,,注意報注意報::■■ 2000 2000 20012001 20022002 2003 20042003 2004 20052005 図8 感染症流行現況表示(都道府県別, 流行性耳下腺炎) ベースライン ベースライン9595 ベースライン ベースライン6868以上以上 ベースライン ベースライン6868 との乖離≧ との乖離≧11 警報はは警報注意報注意報またまた 標準化変量≧ 標準化変量≧11 または またはCPEG CPEG ≧≧11 警報 警報 注意報 注意報 ベースライン ベースライン6868 図7 流行現況(警報・注意報)表示のた めのワークシート(北海道,流行性 耳下腺炎) 表2 感染症流行の長期趨勢と変動周期 表3 警報・注意報のアルゴリズムによる 現況表示と短期(1~4 週)予測期待値の評 価結果 流 行 現 況 警報・注意報発令アルゴリズムによる短期 警報・注意報発令アルゴリズムによる短期((11--44週)週)予測予測の実際との実際と 評価結果評価結果 1 1からから44週間程度の予測:流行性耳週間程度の予測:流行性耳 下腺炎 下腺炎 北海道北海道 ① ①警報・注意報発令アルゴリズム警報・注意報発令アルゴリズム ( (前出前出))による。による。 ② ②計測週のシグナルがそれら境計測週のシグナルがそれら境 界域から乖離している場合は次週 界域から乖離している場合は次週 以降もそのシグナルとし,境界に位 以降もそのシグナルとし,境界に位 置する場合は「② 置する場合は「②44週報告数の当週報告数の当 該年 該年88週報告数に対する比」が1以週報告数に対する比」が1以 上では同等のまたは上位のシグナ 上では同等のまたは上位のシグナ ルを呈示し,それ未満では下位の ルを呈示し,それ未満では下位の シグナルを呈示させた。なお,「同 シグナルを呈示させた。なお,「同 比」は 比」は22週間継続されるとした。週間継続されるとした。 ③ ③「「ベースラインベースライン6868」以下におい」以下におい て,計測週の前の週にシグナル表 て,計測週の前の週にシグナル表 示がある場合, 示がある場合,「②「②44週報告数の週報告数の 当該年 当該年88週報告数に対する比」が週報告数に対する比」が 1.0 1.0未満未満0.80.8以上で前週よりその比以上で前週よりその比 が上昇している場合は同等のシグ が上昇している場合は同等のシグ ナルを表示した。 ナルを表示した。れらの周期循環性に欠けてきたことから、定点設置 数が少ない地域においては計測が不可能と考えられ た。
3 むすび
小児感染症の市中発生動向の掌握や感染症流行の 早期検知を目的に,感染症発生動向調査の地域別患 者情報データにおける患者発生の現況把握,流行波 及の近接区域や他府県との比較ならびに流行予測の アルゴリズムについて検討した。 当該週の感染症流行の警報および注意報等のシグ ナル発令のための,アルゴリズムを設定した。 1 から 4 週間のシグナル予測表示において,警報・ 注意報表示(期待値)と,後に計測された実測値と の一致は約80%であった(麻しん・風しん・流行性 耳下腺炎・手足口病等)。 現況把握のための計測により、地域の感染症の患 者発生状況、流行状況、さらに空間的広がりとその 推移が視覚化されると考えられた。感染症流行表示 ためのアルゴリズムから、感染症別・地域別に流行 現況表示や短期の流行予測が可能と考えられ、警 報・注意報発令のシグナルの呈示は感染症の診断や 予防業務の医療関連従事者ならびに研究者に有用と 考えられた。本研究は平成 18-19 年度科学研究費補 助金(基盤C 課題番号 18590599)および科学技術振 興機構シーズ発掘試験研究費(課題番号01-076)助 成により実施中である。参考文献
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