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「消化管X線画像の脳科学的思考」 2015年度の活動 富山消化管撮影研究会 消化管検査にセンスは必要か

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富山消化管撮影技術研究会

平成Z7年12月5日

key Wore

視覚野:異常を見つける回践

言語野:異常を説砂

海馬"馬桃体:知識・経験の構築

作成日平成27年12月5E

作 成 者 : 健 診 部 西 川 弓

(2)

C カデミックレポート(Academic report 刀

消 化 管 X 線 診 断 の 脳 科 学 的 考 察

『消化管X線検査はセンスが必要か?』

医療法人尚豊会西川孝

1.はじめに

消化管のX線診断は難しい.検査中は透視観察下で『異常』を見つけなさいと指導者は言う.検査終了後は出 来あがった画像を見ながら正常解剖と比較して,過去に蓄えた知誠と経験を連勤させ,併せて病変の病理的な発 生機序や論理的な発育過程を考察して,総合的に所見を読取り,それらを組み合わせで読影し,答えを導き出L なさいと指導する.

しかし,検査中は,モニターに映し出される対象臓器だけを見ているのではない.被検者の位置や動作にも注 意を払い,同時にその安全性を確保し診断に必要な画像を得るための体位変換を指示して,目的に応じた画像を 得るための撮影体位を高度に文法化された言葉で説明し,即座に受診者の反応を見極め,加えて検査装置の操作 も行なわなければならない.この多岐に亘る情報処理を行うために聴覚野,視覚野,言語野,運動野,思考野. 感情野など多次元の脳領域が使われ,同時に記憶野に記録された知織と経験が連携して情報の処理と出力が行お れている.

最終目的である画像の読影は,何処が『異常』なのか,何故それが『異常』なのか,その『異常』はどの様に成り立っ ているのか,そしてその結論は『何』なのかという疑問を感じることから始まり,次の段階で『異常の正体』を 第3者に説明すると言う工程に入ってくる.これが更に難しい.

しかし,熟練者は何故か『異常』と気付き,論理的に説明できない感覚でその『異常』を他人に分かりやすく 言語で解説している.これは熟練者ゆえの経験の成せる業か.それとも感 性が成せる業なのか.初心者でも知識 があれば克服できるものなのか,そこにはセンスと言うものが存在するのか.消化管の画像診断に携わる者な色 最初に感じる疑問で,最初に立ちはだかる壁では無いだるいうか.

消化管X線画像では,その読影過程において性々にして初心者は陥凹と隆起で戸惑う.陥凹病変であるにも拘 らず隆起病変に見えると言う.熟練者は,その思考回路の誤りを指摘する.熟練者は,2次元で表示される白黒 の濃淡のみで3次元的に理解し,陥凹は陥凹,隆起は隆起に見えると簡単に言ってのける.それは脳内で高次元 の情報処理過程を得て,整理されるからであり,それが初心者にはできない.

初心者が熟練者になるには時間が必要なのだろうか.それとも本を沢山読めば良いのであろうか.講義を沢山 聞けば達人になれるのだろうか.そこにセンスと言う感覚的なものが存在しているのだろうか.それは乗り越え ることが出来るのだろうか.その答えを誰も教えてくれない.

そこで,視点を変え,画像の認職と言語での説明を脳の思考過程から整理して科学的に消化管のX線診断を見 つめ直し,どうすれば熟練者の能力を独得できるか総論的に考えてみることにする.

2.異常を見つける過程(視神経の経路)

そもそも画像診断において最初の情報入力器官は 目である.人間の目は,水晶体を介して入射した光 を網膜に投影し,網膜に投影した像を,視神経を介 して視覚野に送る.網膜から発せられた入力信号は 視神経によって,延髄と大脳半球の間に囲まれた脳 幹にある外側膝(シツ)状体を通過し,視覚野に反 映される.】)視神経(図1)の数は,凡そ100万本 からなると言われ,視神経の上丘ニューロンは,興 味ある刺激や動く刺激に最も反応すると言われてし る.これは人類の進化に機縁するためと考えられ 動くものから身を守らなければならないために発達

秘 瓢

閥 鋪 ,霧

、 勘

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3.異常を認識する(視覚野>

さて,脳の後頭葉に位置する視覚野は, VIと略さ れる一次視覚野とV2からV5に分類される外線状皮 質からなり. VIは線上皮質とも呼ばれ,ブ'コードマ ンの脳地図における17野に位置する.また,ブロー ドマンの脳地図の18, 19野はV2, V3と言われる 次3次視覚野に相当する.

VIに入力される入力(画像)情報は,網膜から視 神経を介して外側膝状体を通り,直接その情報を受 け取ることがでる2)3)1)そして.VIで情報が整理され 背側皮質視覚経路と腹側皮質視覚経路に情報を伝達 する.

我々が透視観察や読影観察で画像を識別し,物体 の認識や位鯉,その動きと関連付けるのが,このう ちの背側皮寅視覚経路でありWhere経路とも呼ばれ

る.一方,異常を認職し病変を捉えて,我々に必要 な視覚対象と認撤させ,その形状や特徴,表象と言っ たものと関連付けをさせるのがWhat経路とも呼ばれ る腹側皮質視覚経路である.また,この腹側皮質視 覚経路は,見た対象物の特徴を長期記憶に貯蔵させ る能力を持つ.この様に我々は複雑な情報伝達経路 を使って目で見た情報を認識し,判別している.

目に入った画像情報は,脳内を直接伝播し情報処 理されるわけではなく,各々の情報に適した処理経 路を選択し,各奔の必要に応じた処理を施した上で 次の工程に出力される.3)!)5)出力処理の最終段階と

なる動作(言語出力や運動出力)は,耳や目や皮噛 や舌で感じた感覚野と直接脳内で繋がっておらず

即ち,運動系回路は感覚系回路と直接的な繋がりを 持っていない.更に,脳は右脳と左脳に分けられ 視覚野の場合,左脳は主に言語系に関する視覚処理

を行い,右脳は主に画・像やI決像に関わる非言語系の 処理を司る.このために症例検討会や読影レポー を記載する時に,目と脳で感じた異常を言語で説朋 することが難しくなるのである.

その異常はどの様になっているのか.それを説明す后 Fig. 2:ブロードマン脳地図17野引用

Fig.3:上丘(みたき総合病院佐々木文昭提供)

ここで,もう一度『何処が異常で,何故そこが異常で,その異常はどの様になっているのか.それを説明する ことは難しい』について考えてみよう.上記で説明したように視神経を介して視覚野に入力される情報信号は上 丘ニューロン(図3)を通過する.この上丘ニューロンは,興味ある刺激,動く刺激に最も反応することは前序 した如く,即ち上丘ニューロンは視覚野にて高次の処理を施す情報刺激を増強する因子と考えられ,視覚野を活 性させる伽きを持つと推察できる.結論で言えば,画像診断に携わる医師,放射線技師が達人になるためには 常に画像に対し関心を持ち,病変に対して興味を持つことが上丘ニューロンを反応させ視覚野の活性を促せられ

るのではなかと考えられる.

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4.異常を説明する(言語野

次に『熟練者が異常を他人に分かりやすく言語で 説明している.』の答えを求めてみよう.その答えは 言語出力(運動系)するための反復練習をすること

ではなかろうか.

言語野には伝達系言語中枢であるブロカー野と感 覚系言語中枢であるウェルニッケ野が存在し,ブロ カー野は後側の弁蓋部と前側の三角部に分かれ,弁 蓋部は音声言語発生器官の調整を担う.一方,三角 部は複数の刺激を理解し,情報を処理した上で言語 行為の計画を担うとされている.感覚系言語中枢で あるウェルニッケ野は,聴覚野を囲むように存在し Fig. 4:言語の文法処理を支える3つの神経回路を発見)引用 弓状束を介しブロカー野に接続する.そして,その

機能は他人の言語を理解する働きを持ち,音声言語 の理解に関する役割を担うとされ,1次聴覚野と接続されている.6)

網膜に投影される視覚情報を視覚野で処理し,言語として出力するには,感覚系である視覚野と運動系である 言語野を直接結びつけるための訓練が必要である.熟練者は感覚系回路と運動系回路を形成させるために症例検 討会やレポート記載などで,自身の脳内回路をフィードバックと 及的確認によって反復練習で補ってきたので あろう.それは指導者が言うところの如何に症例検討会が大切で症例経験を積むことが大切であるか,また如何 に読影レポートの記載が必要であるかを端的に示している.津口7)によると脳の言語領域は,言語コミュニュー ケーションを司る役割の他にも脳内コントロールを行う役割を担っており,熟練者は,言語領域を使って自らの 言葉で発言し,自らの言葉で記載することで脳内コントロールを形成して,間違いを修復し記憶に留め,視覚野 と言語野を結ぶ回路を創り,それを太く,速く,強くしていったのであろう.ただ漫然と症例検討会に参加して 人の話を聞いているだけでは脳への刺激は少なく,ただレポートを一方的に書いて提出しているだけでは,この 回路が強く,太く,速くなることはないと思われる.

5.経験と知識の構築(記憶系)

津口7)によると『人間の記憶の仕組みは: 短期記憶と長期記憶,更にこれらを繋ぐ中 期記憶からなり,情報は短期記憶に保持さ れてから中期記憶に保持され,次いで長期 記憶に移行されると言う.また,長期記憶 は,更に潜在記憶と顕在記憶に分類され; これらを統合して目的のために使われるシ ステムがワーキングメモリーで特殊な脳内 記憶システムである.』と言う.そして『こ のワーキングメモリーは,その状況に応じ て短期記臆や中期記憶,長期記憶から情報 を引き出す働きを持ち,自身の記憶にある 偽

跨戦宮

. 一

Fig. 5:同一被検者のT2像(みたき総合病院佐々木文昭提供こつ'ごI上イソI ご延丁可つ 8コ罰、'ソ、L '樫、!ー《xノ画 幾つもの情報や外界の情報を組み合わせて 操作し,答えを導き出す機能を有している.』としている.また,脳は,訓練によって脳内活 性化が図られること は明らかで,加藤8)によると大脳の神経細胞の集合である皮質と神経線維の集合である白質は,刺激を受けるこ とで白質は太くなり,皮質の表面積は広がるとしている.(図5)それは即ち,経験を積み,学習することで脳が 発達し,訓練によってセンスを上回る能力が付くと言い換えることが出来るのではなかろうか.

問題は,視覚野と言語野の活'性化に合わせた記憶回路の形成にあると考えられる.脳内の記憶回路は,言語で

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Yakoviev回路(快,不快,喜怒哀楽に関連する記憶)の役割が重要と言える.

色々な脳科学の研究の結果,情動の記憶回路は届桃体が重要な役割を果たしており,この情動回路は視床を経 由して大脳の感覚野で情報処理した後,扇桃体に怖報が伝達される回路と,視床から直接的に扇桃体に情報伝達 される回路があり9)10)11)ここで感情の記憶が司られると共に,この届桃体の基底外側核は海馬依存性の学習に 関与し,更に情動刺激を受けた時の注力の向上に扇 桃体が関与しているとされている.この扇桃体が記

桃体が関与しているとされている.この扇桃体が記 憶の固定や保持を高めると言った研究データーが報 止91'0)'')され,これらの報告をもとに考察すると, 指導者が感じている研究会や勉強会で熱心であるに も拘らず何故か実力が付かないと感じられる場合や, 真剣であるし,経験も十分であるが,何故か経験し た力が出せていないと言った印象は,勉強会での学 習が記憶回路としての海馬のみに刺激伝達され,情 動の記憶回路である扇桃体への刺激が少ないためで はなかろうかと推察する.

厄 、

套〆〆毎ノ 夢ぞ

Fig. 5:脳の機能領域7) 6.達人になるには(記憶系と感情系)

基本的に脳は8つの系統に分類7)することができ,更に詳細な機能別に分類すると120の系統に分れる. 8つ の 系 統 と は 即 ち , ① 思 考 系 ② 感 情 系 ③ 伝 達 系 ④ 理 解 系 ⑤ 連 動 系 ⑥ 聴 覚 系 ⑦ 視 覚 系 ⑧ 記 憶 系 で あ り , これらの連携が活発であればあるほど脳は活性化され機能が向上すると思われる.また,これら8つの系統の中 で最も他の系統に影響を与えるのが思考系と感怖系であり,更に感情系は前頭葉に位置するため海馬の直ぐ前に 位置する.久保,桧山らの空間認知記憶の研究'2)では,不快な刺激を与えた場合の記憶テストの正答率は,不快 な刺激を与え無かった場合の67%まで低下を示し,逆に快の刺激を与えた場合の正答率は,何ら刺激を与え無かっ た場合の134%まで上昇したと報告している.このことからも感情系は記憶に深く関わり,感情系が刺激を受け ると強く記 億に残すことができると推察される.確かに緊急事態や異常事態が発生した場合,その回避行動や退 避行動の記憶に棚まっていないことを経験したり,逆にその現象が鮮明な記憶として残っていたりする経験を持

ち合わせている人も多いのではないだろうか.

ここで達人になるための症例検討会と言うキーワードが生まれてくる訳である.読影を司る視覚野と言語野は, 側頭連合野で記憶された情報を多岐に亘って組み立て上げ,非陳述記憶であるプログラミング記憶によってその 情報を整理,推論し,各々の記憶系回路と感覚系回路と運動系回路を相互連動させ答えを導き出す.

即ち,症例検討会と言う臨場感のある場所で発言することによって喜怒哀楽や過度の緊張感がそのまま届桃体 に対する刺激となり,注意力が向上して扇桃体の基底外側核が海馬を刺激することで,情動回路と連動した記憶 経路が不快な刺激や快の刺激の作用との相まって,強い刺激となり1つの症例が経験として強い記憶になって脳 に留まるのではなかろうか.よって,これらの経験の積み重ねが達人になるための登竜門と言えると考える.

7.参考文献,引用図譜

1) The CIBA Collection of Medical II lustoraions :Voll, Nervous system, Parti. ANATOMY AND PHYSOLOGY. 172, 1985

2)佐藤宏道他: 1次視覚野の機能とその役割,日本視能訓練士協会誌,1993 3)三上章允:第1次視覚野が壊れると見えなくなる,中部学院大学

4)乾敏郎:視覚の計算理論とモジュールの統合,計測と制御, 1944

5)阪口豊:運動制御における高次の問題;到達通勤と視覚運動変換の例にとって,科学技術振興聯業団 6)酒井邦嘉:言語の脳機能に選づく神経回路の動作原理の解明,科学技術振興機椛,

東京大学大学I院総合文化研究科, http://www・jst.go.nr/announce/20140211/ 7)浬口俊之:夢をかなえる脳, WAEV出版,2011

8)加藤俊徳:脳の強化書,あさひ出版,2010

9)西川隆他:エピソード記憶のメカニズム,神経進歩,2001

10)久保金弥,桧山征也:情動刺激が記憶獲得に与える影響,教育医学, Vol57,No4,2012 11)徳永博正他:扇桃体の情動記憶と海馬の陳述記憶の連関, CLINICAL NEUROSCIENCE, 2008

参照

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