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帝国書院 | 高校の先生のページ 高等学校 世界史のしおり 2005年 4月号

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Academic year: 2018

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(1)

− 12 − − 13 −    は じ め に

 私の授業ではこれまで女性については、「女性 史」にような形で独立しては取り上げてこなかっ たので、本稿については、あくまで実践ではなく、

研究例としてお読みいただきたい。

 もちろん、授業中折々に女性についてふれるが

(たとえば選挙権の話など)、何しろ歴史の記録者 は圧倒的に男性であるため、「制度の中の女性の 扱われ方」は分かっても、女性の「姿」は見えて

こない。姿が見える史料としては、文字通り絵画 や写真などが、女性を映し出す。これも決して多 いとはいえないものの、図版を使って、その中の

女性の姿から推理を働かせたり、時代背景を考え る授業ができるであろう。

   導  入

 まず、シャネルのロゴマークを見せ、答えさせ たうえで、意識にとどめておくように言ってから、

   

次の言葉を紹介する。

  人間が真に自由と平等であるなら、当然女  も・・・。だが、革命が起こっても、女性は

 市民にも数えられていないのが実態ではない  か!

(この2つおよび人権宣言第1条はプリント印刷 で配布する。)

 これはフランス革命時、かの人権宣言を批判し

たフェミニズム理論家グージュの言葉である。グ ージュは、この革命がそもそも女性の権利につい

てはまったく想定していないことを喝破し、「人 権宣言」に対抗して「女性の権利宣言」を発表し たが、国王処刑に反対して断頭台送りになった。

 この言葉から、18世紀においてもこのように考 えられていたことや、遡ってポリスの民会の構成

にも触れ、女性が政治的権利を持つなどとは考え られなかった時代が長く続いたことを述べる。  だが一方で、経済的には女性は農業や家内工業、

商売などの仕事をこなし、重要な家計の担い手で あったこと、したがって労働しないから権利から 排除されていたわけではないことを、「最新世界

史図説タペストリー 三訂版」p.131の「農民の

くらし」(ベリー公の時祷書挿絵)で確認させる(女

性の姿が見えるのは9月)。

   展  開

 Ⅰ 産業革命期

 そして、産業革命に話をつなぐ。農業社会であ れば家族がともに働き、職場と家庭とが渾然一体

となっていたが、工場労働が始まると、労働者は 家を出て工場に向かわねばならないことを述べて、

ココ = シャネルを切り口に女性の社会進出を考える

東京都立高島高等学校

 大 見 真 由 美

11月 9月

7月

(2)

− 12 − − 13 − 職場と家庭が分離したことを理解させる。

さらに、妊婦や子連れの女性が工場や炭坑での 重労働に適しているかどうかを問い、そこからよ り効率的な生産を求める資本主義の要請が「結婚

したら、夫を送り出し家庭を守る」という専業主 婦を生み出したことをつけ加えておく。ただし、 それでも働かざるをえない女性たちはおり、彼女

たちの工場労働を支えるために、子どもを家庭外 で預かる保育施設が設けられるようになったこと、

さらに第二次産業革命期以降、新しい産業社会の 形成にともなう新しい職業の拡大が、女性に新た な労働の場を提供したことによって女性の社会進

出が促されたことを補足する。

 Ⅱ 女性と衣服

ここで、教科書(「明解世界史A」)p.156∼157 を開かせる。炭坑といわず、たとえ現在のような

オフィスであっても、クリノリンスタイル(下写 真左)やバスルスタイル(下写真右)が労働にふ さわしいかどうかを尋ねる。

次に現在の女性の服装とどのように違うかを答 えさせる。スカート丈や締めつけぐあい、布地の 分量などが出てくると思われるので、ここで冒頭

のロゴマークに戻って、現在のような活動的な衣 服のもとがココ=シャネルであることを、教科書

の写真(右段上)を用いて説明する。

 そして彼女の開いた女性服専門店の開店が1915 年であったことから、それがどのような時代であ

ったかを発問する。第一次世界大戦が出てきたら、 「総力戦」や「銃後」という用語の説明とともに、

男性労働力の不足に対応するため女性の社会進出

が大幅に進んだことを、教科書p.157⑦の写真を 示しながら説明する。働くようになれば当然、先

ほどのような服装は動きにくいため活動的な服装 に変わっていくことを想起させる。

Ⅲ 女性と権利

 さらに、女性の社会進出が各国経済を支えたが ために女性の社会的地位が向上、それによって女 性の権利獲得も進み、1918年にはイギリスで、第

4回選挙法改正によって女性にも参政権が拡大さ れたこと、ただし男性とは制限年齢が異なり、男 女同一年齢になるのは1928年であることを指摘す

る。

   ま と め

 ここでまとめに入る。プリントの人権宣言第1

(3)

− 14 − − 15 − ジュの言葉に戻り、自由と平等という価値は、制

限のあるものかどうかを考えさせる。白人だけに あてはまるものでないと同様、一つの性に限定さ れるものでもないことは、生徒にも容易に理解で

きるであろう。しかし大事なことはその先にある。  自由や平等や権利というものが、天与のものな のか、黙ったままで手に入ったのかを考えさせ、

そうではないのであれば、どのようにしてそれら が獲得されてきたのか、フランス革命を想起させ

る。ただし、革命が最終の解決ではないことに留 意させなければならない。一歩前進二歩後退とい う状況の中で、多くの犠牲を伴いつつわずかずつ

でも権利が獲得されてきたこと、自由・平等や権 利が、このように「獲得」されたもので自然に備

わってあるものではないとすると、永遠に保障さ れているわけでもないことに気づかせ、ではそれ を維持していくためには、何が必要なのかについ

ても考えさせる。

 そのうえで、しかし人権宣言の「人間」は、有 色人種や女性を含んでいないこと、したがって彼

らがフランス人男性と同じ権利を持つためには、 さらにその何倍かの時間と努力と犠牲を要したこ

とを説明する。ことに女性は、男性の陰におかれ た歴史が長く、一方で権利の歴史は浅いので、容 易に奪われるおそれのあることは、昨今の「ジェ

ンダー」叩きからも想像できる。そこで、ジェン ダーという用語を説明し、「ジェンダーフリー」

とは、現在批判されているような「男らしさ・女 らしさを否定する」ものではなく、性の違いを理 由にした差別の排除を求めるものであること、性

差は能力差ではなく、生物学的な違い(体力・腕 力等の差)であること、女性は男性より「能力的

に劣っているから男性の補助的存在」なのではな く、体力の差を除外すれば全く同じ地点に立つこ と、したがって都知事らによる猛烈なジェンダー

フリー批判は、性差を固定的役割分担に結びつけ たものでナンセンスであり、男女というより「そ の人らしさ」を大事にすることが、男女共同参画

社会の形成につながることを述べて、この授業の 結びとする。

なお、もし時間があれば、女性が陰の存在とさ

れてきたことには、宗教にも大きな責任があるの ではないか、という私見についても、紹介したい。

   最 後 に

以上、女性である筆者が、世界史の授業で女性

について考えるという試案である。初めに記した ように、とくに女性にこだわった授業をやってき

ていないので、最初にこの話をいただいた時はと まどったが、今この授業を実際にやってみて生徒 の感想を聞きたいと思っている。本稿のために古

い文献を引っぱり出したり、調べたり、思いがけ ない勉強をすることができた。その意味で良い機

会であったと思う。

ただ、女性から見た女性史であるので、一面的 であると思う。男性であればまた違った発想や切

り口があるだろうから、ぜひ同じテーマで男性の 方にも書いていただきたい。

生徒は、学校の中では、男女差別的なことはあ

まり感じないでこられたのではないかと思う。し かし、学校という組織を出てしまうと、女性はさ

まざまな差別を受けて、愕然とするのである。筆 者自身も、そういった差別のない(と思われた) この職を選んだにもかかわらず、悔しい思いを何

度も経験している。全く経験しないですめば、そ れにこしたことはないとも思うが、差別に愕然と

することで、女性の歴史や現在の社会構造に思い を巡らすきっかけになるかもしれない。

 市井三郎の言うごとく、「自分に責任のないこ

とから受ける差別を減らしていくことが、進歩で ある」(『歴史の進歩とは何か』)ことを確信して、 そのような世界を築いていこうという意欲のある

生徒が出てくることを祈りたい。

参照

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