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農学部・大学院農学研究院

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Academic year: 2017

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(1)

図1 ジャガイモ疫病の初期症状

ジャガイモ疫病菌の動きをさぐる

大学院農学研究院 ・大学院農学院 講師

秋野

聖之

(農学部生物資源科学科)

専門分野 : 植物病理学

研究のキーワード : 農業,作物保護,植物資源,菌類,微生物

HP アドレス : http://www.agr.hokudai.ac.jp/rfoa/res/res1-4.html

何を目指しているのですか?

日本ではジャガイモの伝染病の一種である「疫病(病名)」の被害は1900年(明治33年) に北海道で最初に報告されました。それ以来、病原菌である微生物ファイトフトラ・イン フェスタンス(Phytophthora infestans)はジャガイモ生産の大きな脅威として日本の畑 に存在し続けており(図1・2)、現在でも疫病対策は重要な課題の一つとなっています。 私たちの研究室ではこれまで良くわかっていなかった日本のジャガイモ疫病菌の遺伝学 的・生態学的特徴について1980年代から調べており、それらの知見を生かした効果的な防 除法の確立を目指して研究を続けています。

この研究にはどのような背景があるのですか?

もともとこの菌はメキ

シコやペルーなど、野生 のジャガイモが生えてい た地域で生じたと考えら れ て い ま す 。 こ れ ら は ジャガイモ栽培が世界中 に広まったのにともなっ てジャガイモとともに海 を越えて渡ってきました。

日本にいたことがわかっている最も古いタイプの疫病菌は「US-1」と呼ばれており、1970 年代以前にアメリカ大陸から全世界に広がったものです。この菌にはいくつかの有効な抵 抗性のジャガイモ系統があったのですが、1980年代にそれらの系統が罹病する例が見いだ され、調査の結果新たな「JP-1」というタイプの菌が見つかりました。その後1990年代と 2000年代にも抵抗性品種の罹病化が見いだされ、これと同時に疫病菌にもそれぞれ「JP-2

JP-3」・「JP-4」という新しいタイプが見つかりました。現在はこの「JP-4」が各地の 畑で優占しています。これらのタイプは私たちの研究室で複数のDNAマーカーを用いて 明らかにされ、発表されたものです。

これまでに何がわかったのですか?

新しいタイプの菌がなぜ古いものにとって代わるのかが不明でした。いずれのタイプも

出身高校:山形県立鶴岡南高校 最終学歴:北海道大学大学院農学研究科

食料生産

図2 疫病菌の寒天培養

農学

(2)

「ファイトフトラ・インフェスタンス」という 同じ種に属しており作物でいえばちょうど「品 種」どうしのような関係に相当するものです。 その後各地の疫病菌を採集して検討したところ

(図3・4)、タイプごとに生育や胞子形成数、 さらに殺菌剤への感受性が異なっていることが わかってきました。これらの性質は菌が病気を 起こす能力に大きく関わっており、これが菌集 団の交代の原因である可能性があります。さら に、タイプごとの違いに応じた防除法を用いる 必要があることがわかってきました。 なぜこのような新しいタイプの菌が出現してくるのでしょうか。私たちの研究室では数 年にわたりDNA上の複数の遺伝的マーカーを用いて疫病菌のタイプ間の類縁関係を調べ てきました。その結果「JP-1」や「JP-2」は類似するタイプが海外にも存在しているため、 海外から日本に侵入してきたのではないかと考えられました。さらに「JP-4」も中国とヨー ロッパの菌との共通点が多いことがわかりました。その一方で「JP-3」は菌の国内での交 配の結果生じたものであることがわかってきました。日本が生のジャガイモの輸入を禁止 していることを考えると、その病原菌がこれほど海外のものと密接な関係を持っているこ とは予想外の結果でした。日本にいる疫病菌集団は海外から侵入したものがもとになって、 日本国内でさまざまに変化を起こした結果でき上がったものであると考えられたのです。

今後の課題は何ですか?

これまでに何度も海外から日本への疫病菌 の侵入が起こっていたとすると、同じことが 今後も起こる可能性があります。これらの菌 がどのような経路で日本に侵入してきたのか を明らかにしなければなりません。現在海外 では病原性の高いタイプの菌が分布を広げて おり、このまま対策を立てなければ将来日本 に侵入してくる可能性があります。その結果 として防除にかかるコストの上昇、さらには 国内での新たな交配によって菌の性質の変化 が加速されることの影響が懸念されるのです。

また、以前に比べて疫病菌の種類が増えたことが関係しているのか、その防除も難しさを 増しています。それぞれの畑の中で疫病菌がどのように越冬し、増殖・移動しているのか を各種DNAマーカーを用いて明らかにしていく必要があります。現在も各方面で防除法 の改良に向けての努力が行われており、私たちの研究室でも関係各位の御協力のもとでこ の問題について取り組んでいるところです。

図4 病原性を調べる接種実験 図3 ジャガイモ畑で疫病を探す

農学

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「花粉は作りません」という生き方の研究

大学院農学研究院・大学院農学院 准教授

久保

友彦

と も ひ こ

(農学部応用生命科学科)

専門分野 : 遺伝学,分子生物学

研究のキーワード : 遺伝,育種,生殖,農業,ミトコンドリア

HP アドレス : http://www.agr.hokudai.ac.jp/ikushu/gelab/index.html

何が疑問なのですか?

一般的にイメージされる「お花」には、雄しべと雌しべが同居しています。雄しべと雌 しべは物理的に近接しているので、自分自身の花粉を使って種子をつくる(自家受精)に は大変都合が良いでしょう。ところが、被子植物種のおよそ75%には他人の花粉を使った 受精(他家受精)でできた子孫が認められるといわれています。中には、積極的に自家受 精を避ける仕組みがあるために、他家受精由来の子孫の割合が非常に高いものも少なくあ りません。極端な話、花粉を作らない仕組みがあると絶対に自家受精しません。自分には 花粉がなくても、花粉を作る仲間がいれば他家受精により種子ができます。このような自 分では花粉を作らず専ら他家受精により子孫を残す個体は、生物学的な視点からは機能的 雌とよばれています。私たちは、機能的雌がどのような発現制御を受けているのか不思議 に思い、研究を進めています。

どんな研究をしているのですか?

私たちの研究材料は、ビート(テンサイあ るいはサトウダイコンともいいます)です。 今から70年ほど前に、アメリカの育種家が ビートのなかに機能的雌がいることを発見し ました(図1)。その後、多くの研究者が、ど のような遺伝子がそろうと機能的雌が発現 するのかを明らかにしようと努力してきたの ですが、明確な結論が出ていませんでした。 私たちは、ビート育種家がこれまでに作り上げた系統を 調べ、機能的雌の形質発現に関わる遺伝子を明らかにし ようとしています。そうした遺伝子の一つは核ではなく ミトコンドリアにあるので、ミトコンドリアからDNA を抽出し、その塩基配列を丹念に調べるとともに、どの ようなタンパク質が翻訳されているか調べました(図2)。 その結果、機能的雌の発現に関わる遺伝子を発見するこ とができました。この遺伝子が翻訳されてできるタンパ ク質は、積極的にビートを雌にする働きがあるようです。

出身高校:北海道旭川東高校 最終学歴:北海道大学大学院農学研究科

生命進化/ミクロの世界/食料生産

図1 ビートの機能的雌(右)には花粉がない。左は雄し べが機能しているビートで、花粉が見える。

図2 実験室の風景

(4)

話はここで終わりません。機能的雌に関わるミトコンドリアタンパク質は、核に特定の 遺伝子があると効果を発揮しないのです。これは自然界に備わっている仕組みの一つで、 ビートが雌ばかりになってしまうことを避ける意義があるのでしょう。私たちは、そうし た核遺伝子についても塩基配列を明らか にし、メカニズムの全体像を理解しよう としています(図3)。

私たちの研究は、育種に役立つと考え ています。世界の砂糖生産のおよそ三分 の一はビートが担っています。日本にも、 北海道の畑作地帯には広大なビート畑が あります。実は、畑で見るビート品種の ほぼ全てに機能的雌が利用されています。 すなわち、機能的雌個体に着く種子が必 ず雑種になることを利用して品種が作られているのです。そこで、「どのような遺伝子がそ ろうと機能的雌になるか」という研究を通じて、育種のお手伝いをしようとしています。 ところで、ビートの機能的雌の仕組みは一つではありません。ビートの原産地はヨーロッ パですが、ヨーロッパの野生ビートから原

因遺伝子の異なる機能的雌が見つかってい ます。さらに私たちは独自に遺伝資源を詳 しく調べ(図4)、ビートの中でも野菜とし て利用されている品種群の中から別な機能 的雌を発見しました。関与する遺伝子の塩 基配列に基づくと少なくとも5つの異なる 機構があるようです。実際にはもっとある かもしれません。現在も探索を続けていま す。

次に何を目指しますか?

なぜ、進化の過程でビートのミトコンドリアに、植物体を雌にする遺伝子が出現するの かはわかっていません。一説には、「ビートを雌にすることにより、利益を得るのはその遺 伝子自身」だそうです。すなわち、これらは利己的な遺伝子(ドーキンスの著書が有名で す)の一種である、というのです。一体全体、その利己的な遺伝子たちはどうやって花粉 形成を止めさせるのでしょうか。そもそも、ミトコンドリアと花粉形成にどのような関わ りがあるのでしょうか。さらに、ビートには機能的雌を促す機構が5つもあるのに、探し てみると各々の形質発現を打ち消す核遺伝子が必ず見つかるのです。あるいは、こうした 遺伝子の本来の生物学的な意義に誰も気がついていないだけかもしれません。ここには、 ビートだけではなく、植物に普遍な未知の原理が隠れているのではないかと期待していま す。

図3 機能的雌化を抑制する核遺伝子の翻訳産物が細胞内の どこにあるのか、赤色蛍光タンパク質を使って調べた。

図4 ビート遺伝資源について遺伝的な多様性を調べる。

(5)

植物の生きる知恵を有機化学で解き明かす

大学院農学研究院・大学院農学院 准教授

松浦

ま つ う ら

英幸

ひ で ゆ き

(農学部生物機能化学科)

専門分野 : 天然物有機化学,植物生理学

研究のキーワード : 生理活性物質,植物ホルモン,生物検定,環境応答,農業 HP アドレス : http://www.agr.hokudai.ac.jp/rfoa/abs/abs3-1.html

何を目指しているのですか?

普段、何気なく接している植物ですが、 皆さん不思議に思った事はありませんか? 春に良く目にする「フキノトウ」、さて、「フ キ」との関係は如何に?ジャガイモに「ヘ ソの緒」がある?おいしそうなスイカ、ト マト、果実に種子はあるけれど、果実内で 発芽した種子は見た事がありますか(写真

1A)?植物は仲間の植物のSOS信号を受け取っている?など列挙に暇がありません。 そもそも、植物は毛虫などの病害虫に侵略された場合、ひたすら我慢し、食べられてい るだけでしょうか?実は植物、積極的に防戦し自己武装を行い、病害虫にダイエットを強 制、近隣の仲間には病害虫の情報を提供し集団武装、ついでに傭兵とも言える病害虫の天 敵まで呼び寄せています。『素晴らしい』の一言につきますが、このような植物の生きる知 恵を有機化学的に解明し、これを現代の農業へ応用することを目指しています。

どのような植物を使ってどのような方法、装置で研究をしていますか?

果実内での発芽を専門語的には胎生発芽と呼びます。植物の種子発芽は、一般には温度、 水分、季節を見計らって目覚めるための休眠の深さに左右されます。しかしながら、スイ カ、トマト種子は完熟した果実内では休眠しておらず、発芽に関しては『Ready to Go の状態で(写真1B)、いつでも発芽できる状態です。ここで考えられるのが、「いつでも 発芽できる状態なら、きっと果実内には発芽を抑制している生理活性物質があるはずだ」 と仮定し、実験を開始します。果実を有機溶媒にて抽出し、抽出成分を用い種子の発芽阻 害試験(生物検定)を行います。発芽阻害の観察された分画を更に精製し、発芽阻害を示 す化合物を単離精製します。精製に関し、簡単に示すと「ゴミの山から、小さなダイヤモ ンドを探す作業」で、ゴミの山の場合、ダイヤモンド探知機を使わなくては成りませんが、 この実験では発芽阻害試験を使って発芽阻害物質を探しだします。発芽阻害物質を単一の 化合物に精製できた後には、この化合物の構造決定を行います。化学構造の決定には核磁 気共鳴装置(NMR)を用います。トマトの胎生発芽抑制物質は研究の途中ですが、スイ カからは図1に示しました化学物質が明らかとなりました。この化合物はアブシシン酸と して知られている植物ホルモンでしたが、果実内では種子の周りの組織に存在し、発芽を

出身高校:北海道帯広柏葉高校 最終学歴:北海道大学大学院農学研究科

いきもの

写真1 果実内で発芽が抑制されている様子(A)、採取後に 播種したトマト種子の発芽の様子(B)

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抑制している事実は知られておりませんでした。 もちろん、果実内で存在する濃度を割り出して、 その濃度で発芽を抑制できる事も明らかにしてい ます。この濃度算出に必要な器機が質量分析計で す。植物に含まれる植物ホルモンは極微量です。 たとえば牛乳1000mLのパック、1kgとして1000 個に分割します。分割された1ピースあたり1g

となりますが、これを再度、1000個に分割し、1ピースあたり1mg、再々度、1000個に 分割し、1ピースあたり1µg。これを再再々度、1000個に分割し、1ピースあたり1ng。 植物に含まれる植物ホルモンはこの「ng」オーダーで、如何に質量分析計が鋭敏か、最近 の技術の進歩には脱帽です。しかし、器機に頼ってばかりでは「研究者としての独創性」 に欠けるので、正確な値を算出する為に双子とも言えるべき、安定同位体(図1B)を有 機合成します。双子ですが体重が違います。質量分析計を使っているので分析計はこの双 子を見分ける事が可能です。測定前の目的部位の粗抽出液に安定同位体を加え、質量分析 を行い、正確な含有量を測定しています。スイカは自生地を「独り占め」しようとして他 の植物を生育させない為の化学物質(他感作用物質)を放出します。しかしながら、自己 中毒してしまう場合も多々見受けられ、現代の農業ではこれが連作傷害として、顕在化し ています。スイカが自生地で発芽を避けようとする生存戦略(新天地にて土地を独占)は スイカの「生きる知恵」であり、子孫繁栄の為の手段であります。この研究結果は発芽抑 制剤の開発や「収穫後の畑に出荷できなかったスイカを放置しない」などの提言の発信に つながるものと思われます。余談ですが、スイカの種子が必要ですので、市販のスイカを 多数購入し、種子集めを研究室の学生さんに手伝ってもらいました。もちろん、果実は食 べます。飽きるほど食べなくてはなりませんが、学生さん受けする研究テーマでした。

以上に述べましたように「生物検定」「生理活性物質の単離、構造決定」「有機合成」「質 量分析」技術を駆使して、この他に「植物の防御応答で活躍する傷害情報伝達物質の研究」

(図2)、「植物の 徒長抑制剤の研究 開発」(写真2)等 を行っています。 現場の田畑で使用 可能な薬剤への応 用展開を目論んで 日夜研究に励んで います。

参考書

(1) 『植物の生存戦略』,編:「植物の軸と情報」特定領域研究班,朝日新聞社 (2) 『植物生理学』,編:幸田泰則・桃木芳枝,三共出版

図1 アブシシン酸の化学構造(A), 安定同位体 ラベルされたアブシシン酸の化学構造(B)

図2 傷害情報伝達物質 写真2 セオブロキシドの化学構造とセオブロキ シド処理によって成長が抑制されたタバコ(右) の様子

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未利用バイオマス成分から機能材料の創出

大学院農学研究院・大学院農学院 教授

浦木

康光

やすみつ

(農学部森林科学科)

専門分野 : 森林化学,高分子科学

研究のキーワード : 機能性物質,ナノテクノロジー,バイオリファイナリー,リグニン HP アドレス : http://www.agr.hokudai.ac.jp/fres/forchem/

何を目指しているのですか?

森は、自然の恵みの宝庫です。そこで育まれた樹木は、人類の貴重な資源です。特に、 石油などの化石資源に依存し、多くの環境問題を引き起こした人類は、環境に調和した森 林資源に目を向け、有効に利用しなければなりません。近年、生物資源はバイオマスと呼 ばれ、これを余すことなくエネルギーや物質として使う仕組みのことをバイオリファイナ リーと定義されています。森林科学科では、木材を有効に利用するための研究グループが あり、私はそこで、木材を化学的に総合利用するバイオリファイナリーの確立を目指して います。

太くて節などの欠点がない良質材は、家具や建築資材として利用されます。しかし、化 学的なバイオリファイナリーでは良質材ではなく、健全な森林を育成するために行う除・ 間伐時に排出される木材や、建築用には利用できない虫食い材などの低質木材を原料とし て使います。この原料から、石油に代わる液体燃料の開発や、医薬・プラスチックなどの 人類に有用な材料を創出することを目的としています。したがって、私達の研究の成果は、 木材の付加価値を高め、最終的には、林業・林

産業の活性化に繋がると考えています。

具体的に は 、 ど ん な 材料を 開発し て い る

のですか?

木材などは、木質バイオマスとも呼ばれ、そ の代表的な構成成分であるセルロースは、紙や 衣類の原料として利用されています。その一方

で、セルロース成分を木材から取り出す時、リグニンという他の主要な構成成分もその副 産物として大量に得られます。しかし、現在、この物質は燃料以外に利用されていません。

出身高校:北海道旭川東高校 最終学歴:北海道大学大学院理学研究科

環境系/マテリアル

図1 広葉樹のリグニン(A)および針葉樹のリグニン (B)から作製した炭素繊維

図2 インドネシアの学生と活性炭を作っている様子(A)。電気を用いないで活性炭を製造するための装置の模式図(B)。 作った活性炭で川の水を浄化した様子(Cの上段)。川の水のバクテリアが活性炭処理で減少した様子(Cの下段)。

(8)

私は、この物質から炭素繊維や、環 境汚染物質を速やかに除去する繊維 状活性炭の開発、さらに、基本的に は石鹸のような活性を持ちながら、 ある種の有用な酵素の活性を高める 物質の開発など、リグニンを機能性 物質に変換する研究を進めていま す。

また、セルロースから微細繊維(ナノファイバー)や、もう一つの重要な構成成分であ るヘミセルロースという多糖類を発酵原料に変換する研究も行っており、全てが産業化で きるようになると木質バイオマスのバイオリファイナリーが達成できると考えています。 これらの研究は、有機化学、高分子化学を基礎としていますが、テーマにより生化学や ナノテクノロジーも必要であり、実験に使用する機器も広範囲に及びます。例えば、有機 化学で用いる核磁気共鳴装置や赤外分光光度計(顕微鏡付き)、材料の微細構造を観察する 電子顕微鏡や原子間力顕微鏡、さらに、抗体-抗原反応などの生体間相互作用の解析装置 などです。

次に何を目指しますか?

私達の研究室で開発しているリグニンの炭素繊維は、まだまだ強度が弱く、航空宇宙産 業では使えません。そこで、飛行機やロケットなどで使用できる炭素繊維の開発が夢です。

また、木材は軽量・高強度の材料として有名ですが、この機能がどのようにして発現し ているのか、不明な点が多く残されています。私は、木材の形成過程を模倣した人工細胞 壁を開発して、この理由を解明したいと思っています。さらに、人工細胞壁が動物細胞を 培養するための足場や、個々の細胞を閉じ込めた細胞機能分析用アレイとして利用できる ような、新たな材料開発の研究を始めています。

参考書

(1) 中村太士・小池孝良編著,『森林の科学-森林生態系科学入門』,朝倉書店(2005) (2) 北海道大学大学院農学院編,『Agricultural Sciences for Human Sustainability

Meeting the Challenges of Food Safety and Stable Food Production-』海青社2012 (3) 浦木康光・幸田圭一・山田竜彦,「両親媒性リグニン誘導体の秘められた機能とその活

用」『機能材料』,32巻2号,pp.42-47,シーエムシー出版(2012

図3 簡易移動窯を用いた製炭実習。炭材の立て込み(A)、窯への火 入れ直後(B)

図4 人工細胞壁の骨格となるハニカム状セルロースの作製

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おいしい霜降り肉ができるメカニズムを探る

大学院農学研究院・大学院農学院 教授

西邑 隆徳

に し む ら た か の り

(農学部畜産科学科)

専門分野 : 食肉科学,筋細胞生物学

研究のキーワード : 食肉,骨格筋,筋細胞,脂肪細胞,細胞外マトリックス HP アドレス : http://www.agr.hokudai.ac.jp/animproduct/meat/

何を目指しているのですか?

食肉の主体は家畜や家禽の骨格筋です。私たちは、肉用家畜や家禽を様々な飼育方式で 肥育することによって、筋組織を肥大化させて効率的に赤身肉を生産したり、骨格筋内に 脂肪組織(筋肉内脂肪組織)を蓄積させて美味しい霜降り肉を生産したりしています。

家畜骨格筋における筋組織や脂肪組織の発達はどのように制御されているのでしょうか。 筋組織は、単核の筋芽細胞が分化・融合した多核の筋細胞(筋線維)の集合体です(図1)。 これらは線維芽細胞が作り出す細胞外マトリックスからなる結合組織によって支持され ています。また、筋肉内脂肪組織は、前駆脂肪細胞が分化して細胞内に脂肪滴を蓄えた脂 肪細胞の集合体です。したがって、骨格筋を構築する細胞群(筋細胞や脂肪細胞、線維芽 細胞など)の挙動が家畜骨格筋における筋組織と脂肪組織の発達に大きく影響し、最終産 物である食肉の量と質を決定するのです。

上記の各種細胞は骨格筋という同一空間内でそれぞれの組織を構築します。私たちは、 これらの細胞がどのようにコミュニケーションをとり、互いの増殖・分化を制御している かを追究することによって、筋肥大・脂肪蓄積

のメカニズムを解明しようとしています。細胞 間コミュニケーションツールとしての生理活性 因子を網羅的に探索して、生理活性因子を介し た細胞間コミュニケーション機構を解明し、さ らに、コミュニケーションの場としての細胞外 マトリックスの役割を解明しようとしています

(図2)。

出身高校:滋賀県立虎姫高校 最終学歴:北海道大学農学部

食料生産

図1 骨格筋を構築する細胞群

図2 筋細胞−脂肪細胞間コミュニケーション

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どんな装置を使ってどんな実験をしているのですか?

培養筋細胞や脂肪細胞を用いて、これらの細胞が増殖・分化過程でどのような生理活性 因子を分泌しているかをプロテオミクス(タンパク質網羅的解析)によって調べています。 また、生理活性因子が筋細胞や脂肪細胞の増殖・分化に及ぼす影響をタイムラプス顕微鏡

(一定培養経過時間毎に細胞の様相を撮影)や共焦点レーザー顕微鏡によって観察すると ともに(図3)、筋分化および脂肪分化のマーカー遺伝子の発現をPCRで調べています。

生理活性因子と細胞膜上の受容体との結合、あるいは抑制因子との相互作用については タンパク質相互作用解析装置(図4)などを用いて調べています。また、筋細胞(脂肪細 胞)で産生・分泌された生理活性因子が標的細胞である脂肪細胞(筋細胞)に作用する様 子を共焦点レーザー顕微鏡などで観察しています。さらに、走査型電子顕微鏡などを使っ て家畜骨格筋の構造を解析しています(図5)。

私たちの生活にどのように関わってきますか?

骨格筋における異種細胞間コミュニケーションを担う生理活性因子とその作用機序が明 らかになると、これを制御する遺伝子をマーカーにした育種改良技術や飼料の開発に繋が り、家畜生産段階で筋・脂肪組織の発達を制御する食肉生産技術の確立が期待されます。 また、家畜における筋肥大や脂肪蓄積の研究成果は人間の筋研究にも応用可能で、加齢性 筋萎縮、難治性筋疾

患、肥満症などの治 療や予防方法の開発 にも貢献できると考 えています(図6)。

図4 タンパク質相互作用解析装置。 図5 走査型電子顕微鏡(左)を用いて筋肉内結合組織構造(右)を観察。 図3 タイムラプス顕微鏡装置(左)を用いて脂肪細胞(中央)の分化様相を観察。培養筋細胞の共焦点レーザー顕微鏡像

(右)。筋細胞内でミオシン(GFP 標識、緑の縞模様)が規則正しく配列して筋原線維を形成している。

図6 研究のアウトリーチ

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安定した食料生産を目指すテクノロジー

大学院農学研究院・大学院農学院 准教授

石井

一暢

かずのぶ

(農学部生物環境工学科)

専門分野 : 農業情報工学,農業環境工学

研究のキーワード : リモートセンシング,精密農法,通信システム,GPS,ロボット HP アドレス : http://applied.bpe.agr.hokudai.ac.jp/

人の目からセンサの目へ

一面に広がる水田、畑…北海道は日 本の食糧基地と呼ばれるように膨大な 耕作面積を有しています。ところが、 そこで栽培される作物をよく見てみる と、その成長は決して一様ではありま せん。そこに同じように肥料を加える とどうなるでしょう?成長の良いとこ ろは、必要以上の肥料が与えられるこ とになり、余った肥料は水に流れて環 境を破壊していきます。作物は必要以 上の肥料を与えられ、場合によっては 自身の重さで倒れてしまいます。成長 の悪いところは、肥料不足で十分な収 穫を得ることができないでしょう。大

きく見れば畑ごと、水田ごと、小さく見ればその中の部分ごとに見ても生育にはバラツキ があるのです。ところが人間が全てを把握するのはとても膨大な労力が必要になります。 では、どうすれば…その解決方法の一つがセンサを使った生育情報の計測(リモートセン シング)です。カメラやマルチスペクトルセンサなどの光学手法を用いて、植物体に含ま れるクロロフィルの特性から生育情報を計測し、GPS のような位置を測定できるセンサと 組み合わせることで、バラツキを表す地図などを作ることが可能となります。

情報化による省資源化

これまでの農業は農家の経験と勘によって行われてきましたが、センサを用いることで 生育の状態を把握できるようになると、客観的なデータによって管理作業をすることがで きるようになります。また、データを蓄積することにより、後継者のない農家の畑に新規 就農者が入った場合でも、これまでの農家と同様に栽培管理を行うことが可能となります。 でも、それだけで良いのでしょうか?実際の畑は場所ごとに生育のバラツキがあるのは既 に書いたとおりです。つまり、センサによって計測された生育のバラツキに応じて、必要 なところに必要な量だけ肥料をまいたり、雑草が繁殖しているところにだけ除草剤をまい

産業用無人ヘリコプタに生育センサを搭載して、高度約50mから作 物の生育状態を計測。

出身高校:北海道札幌西高校 最終学歴:北海道大学大学院農学研究科

食料生産

(12)

たり、さらに細かな管理を行うことで、 肥料や薬剤といった資源を無駄にするこ となく省資源化に繋がるだけでなく、食 料生産による環境破壊を抑止することも 可能となります。このような考え方を精 密農法と呼んでいます。精密農法の考え 方は世界中でも広まっており、局所管理 に対応した作業機械が開発されてきてい ます。ところが、海外に比べて耕地面積 の小さい日本では、そのほとんどが大き すぎて使うことができません。そこで、 日本で使用される作業機械に取り付ける ことで、局所管理できる機械(VRT: Variable Rate Technologyバラツキに応じて施用量を調整する技術)を実現できる電子制 御ユニット(ECU:Electrical Control Unit)の開発を行っています。また、このような ECUや生育センサを車内で繋ぐ通信技術(ISO-BUS)に関する研究開発も行っています。

未来の農業

私たちの目指している未来の農業は、 これまでトレードオフの関係にあった食 料生産と環境の共存、そして食料の安定 的供給です。耕地面積の少ない日本で効 率良く食料生産を行いながら、環境に対 する負荷を軽減する…そのためには、作 物を知り、環境を知り、それに応じて適 切にアプローチする。そして、それらが 正しく働いているかを管理する。

SensingApplicationManagement この3つのサイクルを適切に運用するた めの技術を開発する。それが私たちの研 究室の課題です。そして、このような細

かな作業を的確に行うために必要な技術、それがロボットを用いた省力化農業と考えてい ます。

参考書

(1) 農業情報学会編,『新農業情報工学 21世紀のパースペクティブ』,養賢堂(2004) (2) 監修 令幸,『北海道農業機械施設ハンドブック』北海道協同組合通信社2012

国産肥料散布機械にECUを取り付け、可変散布を行っている様 子。周辺の小麦の生育に応じて、後ろから散布される粒状肥料の 量が変化する。

ロボットトラクタに可変散布機を搭載して、作業している様子。 GPSと慣性航法装置を用いて、約5cm以内の精度で走行する ことができるので、作物を踏むことはありません。

(13)

ネットワークがつくる新しい農業・農村・食

大学院農学研究院・大学院農学院 助教

小林

こ ば や し

国之

く に ゆ き

(農学部農業経済学科)

専門分野 : 農業経済

研究のキーワード : 農業経済,協同組合,テロワール,農村振興 HP アドレス : http://www.agr.hokudai.ac.jp/agecon/pwiki/

何を目指しているのですか?

二十世紀の後半、世界中に食、農業を巡る様々な問題が現れました。BSEや口蹄疫など は世界中の農業のあり方に大きな課題を提起し、日本でも食品の偽装、輸入農産物の残留 農薬、遺伝子組み換え作物を巡る議論などいったい何が正しいのか、何を信じればいいの かわからないような状況となっています。

それらは、一言で「食の安全・安心」といわれることがありますが、安全と安心は異な る概念です。また、安心は個人の感情に基づくもので、「科学」では解明できない課題だと いう人もいます。わたしは、今なぜ「食の安全・安心」が大きな関心事項として世の中に 現れてきているのか、その背景には食料を生産する場面である農業・農村とそれを消費す る場所が離れてしまったことに原因があると考えています。

離れてしまった距離をどのようにして縮めていくのか、その鍵となるのはテロワールと いうフランスの概念です。日本語で言えば「風土」という意味にちかく、食料の背景にあ るそれが生産された地域の個性やそこに生きる人々の営みを表す言葉です。単に地域の個 性を生かした特産品を作っていこうということではなく、その地域にある資源をどう活用 して持続的な農業、農村を作っていくのか、ということが目的となります。

資本主義社会においては、ある製品を作るのに最も適した地域が最も競争力を持ちます。 そして競争に敗れたものはまた別の市場にチャレンジをしていくことで常に社会的に最も 幸せな状況になると考えます。しかし、農業生産は地域の自然的条件に大きく左右され、 また土地という動かすことのできない資源がその生産性に大きく影響します。さらに言え ば土地を使う農業生産は、生産の場面であるとともに農村空間を形成するという役割も有 しています。

実はこれまでの農学では、いわゆる工業的な効率性・安定性を実現することを農業の一 つの目標として、そのための仕組みを形成してきました。私はテロワールという概念を用 いながら、工業的な方向と両立可能で、かつ「農業らしさ」を前提とした農業生産、食料 流通の仕組みについて研究を行っています。

どのように研究を行っていますか?

私が行っている社会科学は研究対象が文字通り「現実社会」です。現実社会で実際に新 しい農業生産、流通の取り組みを行っている人たちに話を聞きながら、彼らの行っている ことを客観的に分析し、位置づけることが研究です。今私は、農村における人や物のつな

出身高校:北海道大麻高校 最終学歴:北海道大学大学院農学研究科

食料生産

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がりである「ネットワーク」に注目をして研究を行っています。これまでの農業生産を支 えてきた仕組み・組織とは異なり、新たな農村、農業のあり方を作っていくために人々が 形成しているネットワーク。その形成の論理や役割について研究を行っています。具体的 にはオホーツク地域における自治体や業種の枠を超えたネットワークに注目をして、これ まで市場では流通されていない「テロワール」のあふれる商品作りの事例調査などを行っ ています。殺菌していない生乳を使って製造したチーズや菌を添加しないキャベツの漬け 物、有機栽培でつくられた規格外のジャガイモの商品化などの取り組みを事例に、それに 取り組んでいる人々のネットワークが持つ役割について研究を行っています。

大学と社会の新たな関係作り

これまで見てきたような農業、食の生産流通の仕組み作りの研究において、大学がより 積極的に関わっていくこともできるのではないか。そうした考えから、2010年度より大学 院の共通授業科目の実習として「北大マルシェ」という取り組みを行っています。これは、 農家で実習をおこなった学生が主体となって企画、運営をするものです。これからの北海 道農業を担う生産者の方に全道各地から集まっていただき、農産物の直接販売や消費者と の情報交流の企画を通じて、農、食について考えるきっかけとしてもらう取り組みです。 毎年八月下旬に農学部前にて行われ、今年は全道から五十近い生産者に集まっていただき、 会場には二日間で約八千人の一般市民の方にご来場いただきました。食べ物の「値段」を 生産者と来場者で決めることを通じて、農業について考えてもらう「値段のないマルシェ」 や子供たちに農業に関心を持ってもらう企画、普段何気なく食べているトマトや牛乳の生 産方法や品種による味の違いを知ってもらう企画などを行っています。

それらを運営するのは、いろいろな分野で学ぶ大学院生達です。農家に泊まり込みで実 習にいき、そこで感じたことや発見を消費者に伝える場が「北大マルシェ」なのです。開 催直前にもなると毎晩徹夜で準備に当たる彼ら、彼女らは、この実習を通じて幅広い知識 とともに社会での実践力を身につけてくれているように思います。

北大のキャンパスは世界に誇る美しい場所です。その場所で、地域の農業者や関係者の 方々とより密接に連携をしながら、農業や食べ物について考える情報を発信し、人材を育 成し、研究を行う。そうしたあらたな知のプラットフォームを作っていきたいと思ってい ます。

北大マルシェでの学生企画「値段のないマルシェ」の様子 北大マルシェの様子

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共生とは何か?

~昆虫と微生物の不思議な共生関係を読み解く~

大学院農学研究院・大学院農学院 寄付講座等教員

菊池

よ し

と も

専門分野 : 応用昆虫学,微生物生態学

研究のキーワード : 昆虫,共生,ホソヘリカメムシ,Burkholderia HP アドレス : http://www.agr.hokudai.ac.jp/biseibutushinkino/

何を目指しているのですか?

私が目指していることは、昆虫と微生物の共生関係を裏打ちする分子メカニズムを明ら かにして、これを制御することです。

あまり知られていないことですが、多くの昆虫はその体の中に共生微生物を持っていま す。例えば、家屋害虫として知られるシロアリはその消化管内に大量の微生物を保持して います。また、作物害虫として知られるアブラムシは体内に“菌細胞”と呼ばれる巨大な 細胞を持っていて、その細胞質に共生微生物がぎっしりと詰まっています。これら共生微 生物は、シロアリでは木質(セルロース等)の分解を、アブラムシでは餌に不足する必須 アミノ酸をサプリメントするなど、宿主昆虫の栄養代謝において重要な役割を担っていま す。

作物害虫や家屋害虫、吸血性 の衛生害虫など、いわゆる“害 虫”と呼ばれる昆虫のほとんど がこのような必須の共生微生物 を持っています。このことは、 共生微生物が害虫防除の有用な ターゲットになりうることを示 していますが、今までのところ そのような防除法は開発されて いません。

その大きな理由としては、昆虫-微生物間相互作用の分子メカニズムが複雑でその実態 がほとんど分かっていないことがあげられます。例えば、共生微生物は宿主昆虫にとって 異物ですが免疫系で排除されることはありません。一方で、同じ微生物でも病原菌であれ ば簡単に昆虫体内から排除されてしまいます。この違いは一体なんなのでしょう?このよ うな素朴な疑問に答えることが、新しい害虫防除法の開発に繋がると考えています。

私は、ダイズの害虫として知られるホソヘリカメムシ(図1)を対象に、昆虫と共生微 生物の相互認識機構を明らかにしようと研究に取り組んでいます。ホソヘリカメムシの共 生系は、宿主昆虫と共生微生物の両方を遺伝子操作することが可能な優れたモデル共生系 といえます。

出身高校:福島県立福島高校 最終学歴:茨城大学大学院理工学研究科

生命進化

図1 (A)ホソヘリカメムシ。(B)ホソヘリカメムシの消化管。

矢印は共生器官を示す。右上は共生器官の拡大図で、袋状の組織(矢印頭) の中に共生微生物がぎっしり詰まっている。

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どのように研究しているのですか?

ホソヘリカメムシは飼育が容易な昆虫で、スーパーで売っているダイズの種子をあげれ ばどんどん増えます。良い実験結果を得るには虫のお世話も大切なのですが、その手間が 少なくて助かります。またRNA干渉(RNAi)法がとてもよく効くことから(図2)、共 生に関わる宿主昆虫側の遺伝因

子を特定することも可能です。 ほとんどの昆虫の共生微生物 は宿主の体外で培養ができませ んが、ホソヘリカメムシの共生 微生物(Burkholderiaという細菌) は一般的な寒天培地で簡単に培 養することができ、さらに形質 転換などの遺伝子改変も容易で す(図3)。実験としては、外来 性の遺伝因子(トランスポゾン など)によって共生微生物の遺 伝子を破壊して、それをホソヘ リカメムシに共生させてみます。

もし共生できなければ、その破壊された遺伝子がホソヘリカメムシとの共生に重要である と結論することができます。ホソヘリカメムシを解剖して共生器官の発達具合を顕微鏡観 察するなど、組織学的な研究も行っています。

次に何を目指しますか?

これまでの研究から、共生微生物の鞭毛運動性や細胞表面タンパクがホソヘリカメムシ との共生において重要な働きをすることが分かってきました。しかし、昆虫と共生微生物 の巧みな“cross-talk”にはまだまだ謎の部分がたくさんあります。謎が多い分、それを明 らかにした時の爽快感は何物にも代え難いものです。共生とは何か?微生物の生き様と昆 虫の生き様を交互に眺めながら、よりいっそう理解を深めていきたいと考えています。

図3 (A)寒天培地上の共生微生物。(B)共生微生物の顕微鏡像。(C)GFP(緑色蛍光タンパク)組換え体を共生させたホソ ヘリカメムシ共生器官。

図2 ホソヘリカメムシのRNAi。(A)カメムシは脱皮後に時間が経つと黒化す る。しかし、(B)黒化遺伝子の二重鎖RNAを注射すると脱皮後の黒化が抑制 される。

参照

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