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金融論
unit 6 情報の非対称性とモラル・ハザード
事後情報の非対称性と事業の選択:事業の質の選択
このunitでは、企業家が事業の質を選択できる場合を考 える。
事業には質の悪いものと良いものの2つのタイプがある。 いずれの事業とも、開始するには1単位の資金が必要とする。 企業家は自己資金を保有していないので、1単位の資金の全 額を投資家から調達するものとする。
ここでは、事業の選択に関する情報の非対称性を考えて、投 資家は起業家が選択した事業の質を観察できないことを仮定 する。
事後情報の非対称性と事業の選択:事業の質の選択
質の良い事業は、成功確率がp
G
で、成功するとR
G
単位の 収益が得られる。
質の悪い事業は、成功確率がp
B
で、成功するとR
B
単位の 収益が得られる。
両事業とも失敗したときの収益は0であるとする。
質の良い事業をタイプ Gの事業、質の悪い事業をタイプ B の事業と呼ぶ。
事後情報の非対称性と事業の選択:事業の質の選択
タイプiの事業からの期待収益は、p
iRiと計算できる。 ここで、
pGRG> pBRB および、
RB> RG と仮定する。
事後情報の非対称性と事業の選択:事業の質の選択
つまり、期待収益としてはタイプ Gの事業の方が、タイプB の事業より優れている。
経済にとっては、タイプ Gの事業がより効率的であり、この 意味で質が良いことになる。
また、(6.1)式と(6.2)式から、p
G> pBが導出される。 つまり、質の悪い事業はハイリスク・ハイリターン型の事業 で、質の良い事業はローリスク・ローリターン型の事業とし て特徴づけられる。
事後情報の非対称性と事業の選択:事業の質の選択
たとえば、質の良い事業としてp
G= 0.8、RG= 1.5、質の悪 い事業としてp
B= 0.3、RB = 2.0と想定する。
質の良い事業の期待収益は1.2、質の悪い事業の期待収益は 0.6となる。
この関係は表6-1にまとめてある。
事後情報の非対称性と事業の選択:事業の質の選択
事後情報の非対称性と事業の選択:企業家の期待収益
ここで、投資家が利子率rで資金を貸し出すことを考える。 企業家の期待収益は企業のタイプと利子率に依存する。 この依存関係を関数を用いて表すことにする。
つまり、企業家がタイプiの事業を選択した場合の企業家の 期待収益を、関数の形で
πF(i; r) と表す。
πF(i; r)は、
πF(i; r) ≡ pi(Ri− r) と計算される。
事後情報の非対称性と事業の選択:企業家の期待収益
また、投資家の期待収益π
I(i; r)は、 πI(i; r) ≡ pir となる。
事後情報の非対称性と事業の選択:企業家の期待収益
投資家は、企業家の選択する事業を観察できないので、企業 家は自分の期待収益が大きくなる事業を選択する。
つまり、
pG(RG− r) > pB(RB− r) であれば質の良い事業を選択する。
逆に、
pG(RG− r) < pB(RB− r) であれば質の悪い事業を選択する。
両者の期待収益が等しければ、事業の選択は無差別である。 この場合は便宜的に、質の良い事業を選択すると想定する。
事後情報の非対称性と事業の選択:企業家の期待収益
r = 0である場合を考える。
πF(G; 0) = pGRG πF(B; 0) = pBRB であるので、(6.1)式より、π
F(G; 0) > πF(B; 0)となり、タ イプ Gが選択される。
事後情報の非対称性と事業の選択:企業家の期待収益
しかしrが大きくなっていく場合には、π
F(G; r)がπF(B; r) より減少率が大きいので、あるr¯で
pG(RG− ¯r) = pB(RB− ¯r)
となる。 つまり、
¯ r= p
GRG− pBRB pG− pB
まで利子率が大きくなった時点で、質の良い事業と質の悪い 事業が無差別になる。
これより利子率が高くなると、企業家は質の悪い事業を選択 する。
事後情報の非対称性と事業の選択:企業家の期待収益
表6-1の数値を用いると、
πF(G; r) = 0.8 × (1.5 − r) = 1.2 − 0.8r πF(B; r) = 0.3 × (2.0 − r) = 0.6 − 0.3r となる。
これらの関数は、図6-1のように描かれる。 利子率が1.2で、π
F(G; r)とπF(B; r)の大小関係が逆転して いることが分かる。
事後情報の非対称性と事業の選択:企業家の期待収益
モラル・ハザード:投資家の期待収益
ここで投資家の問題を考える。
投資家が要求している期待収益率を1とする。
質の悪い事業の期待収益は0.6であるので、投資家の要求期 待収益率を満たすことはできない。
しかし、質の良い事業を選択すれば、期待収益は1.2である ので、投資家の要求期待収益率を満たすことができる。
モラル・ハザード:投資家の期待収益
今、質の良い事業を選択するということを前提として、投資 家の期待収益率が1となる利子率を求める。
πI(G; r) = 0.8 × r = 1 この式を解いて、r = 1.25が得られる。
したがって、質の良い事業を選択することを前提にした利子 率を1.25に設定できれば、投資家の期待収益は1となる。 また、企業家の期待収益も
πF(G; 1.25) = 0.8 × (1.5 − 1.25) = 0.2 と正の期待収益を得ることができる。
モラル・ハザード:投資家の期待収益
しかし、前項の考察から分かったことは、利子率が1.2を越 えると、企業家は質の悪い事業を選択することであった。 利子率が1.25では、質の良い事業が選択することを前提にす ることができない。
モラル・ハザード:投資家の期待収益
利子率が1.2を境目にして事業の質が替わることを考慮する と、投資家の期待収益は図6-2に描かれているようになる。 この図には、期待収益が1の場所に水平線が描かれている が、投資家の期待収益がこの線を越えないと、投資家の要求 は満たされず、投資は行われない。
この図では、投資家の要求を満たす利子率は存在しないこと が分かる。
モラル・ハザード:投資家の期待収益
モラル・ハザード:モラル・ハザードの発生
この例では、起業家が選択する事業の質が観察できないこと から、企業家にモラル・ハザードが発生する。
その発生を事前に推測する投資家は、この企業家には投資を 行わないことになる。
しかし、社会的な観点から考えると、質の良い事業の期待収 益は1.2 であるので、事業が開始されることで資源配分をよ り効率化できることになる。
モラル・ハザード:モラル・ハザードの発生
もし、利子率が高くなったときにも、起業家が質の良い事業 を選択することを投資家が信じる形で表明できれば、1.25の 利子率が設定され、その結果として、質の良い事業が開始さ れる。
しかし、情報が非対称なもとでは、企業家を制約するものが ないので、この企業家に投資は行われず、資源配分は非効率 なものとなる。
つまり、情報の非対称性ゆえに、自分の行動にコミットメン トを与えることができないので、資源配分が非効率化して いる