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仮 処 分 命 令 申 立 書
平 成 2 9 年 7 月 2 4 日
那 覇 地 方 裁 判 所 民 事 部 御 中
債 権 者 代 理 人
弁 護 士 宮 國 英 男
同 松 永 和 宏
同 仲 西 孝 浩
同 加 藤 裕
当 事 者 の 表 示 別 紙 当 事 者 目 録 記 載 の と お り
仮 処 分 に よ り 保 全 す べ き 権 利 沖 縄 県 漁 業 調 整 規 則 39 条 に 基 づ く
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債 権 者 指 定 代 理 人
沖 縄 県 知 事 公 室
知 事 公 室 長 謝 花 喜 一 郎
基 地 対 策 統 括 監 池 田 竹 州
辺 野 古 新 基 地 建 設 問 題 対 策 課
課 長 多 良 間 一 弘
副 参 事 城 間 正 彦
副 参 事 田 代 寛 幸
班 長 新 垣 耕
主 幹 神 元 愛
主 査 知 念 敦
主 査 山 城 智 一
主 任 山 城 正 也
主 任 川 満 健 太 郎
主 事 大 城 和 華 子
沖 縄 県 農 林 水 産 部
部 長 島 尻 勝 広
農 漁 村 基 盤 統 括 監 仲 村 剛
参 事 新 里 勝 也
水 産 課
課 長 平 安 名 盛 正
班 長 七 條 裕 蔵
主 任 技 師 岸 本 和 雄
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沖 縄 県 土 木 建 築 部 海 岸 防 災 課
副 参 事 普 天 間 朝 好
班 長 中 村 猛 主 任 當 銘 勇 太
主 任 矢 野 慎 太 郎
沖 縄 県 環 境 部 環 境 政 策 課
班 長 知 念 宏 忠
主 任 技 師 愛 甲 俊 郎
主 任 知 名 光 太 郎
主 任 崎 枝 正 輝
主 任 神 谷 大 二 郎
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申 立 て の 趣 旨
債 務 者 は 、別 紙 図 面 1 図 示 の 1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、1-6、1-7、1-8、
1-9、1-10、1-11、1-12、1-13、1-14、1-1の 各 点 を 順 次 に 結 ぶ 線(1-14
と1-1の 点 を 結 ぶ 線 は 、陸 岸 又 は 第 一 橋 梁 の 上 流 端 の 線 と す る 。)に よ っ て 囲 ま れ る 水 域 、2-1、2-2、2-3、2-4、2-1 の 各 点 を 順 次 に 結 ぶ 線 (2-1 と 2-4を 結 ぶ 線 は 陸 岸 の 線 と す る 。)に よ っ て 囲 ま れ る 区 域 お よ び2-5、
2-6、2-7、2-5の 各 点 を 順 次 に 結 ぶ 線(2-5と 2-7を 結 ぶ 線 は 陸 岸 の 線 と
す る 。)に よ っ て 囲 ま れ る 水 域 及 び2-8、2-9、2-10、2-8の 各 点 を 順 次 に 結 ぶ 線 (2-8と2-10 を 結 ぶ 線 は 陸 岸 の 線 と す る 。)に よ っ て 囲 ま れ る 水 域 に お い て 、 沖 縄 県 漁 業 調 整 規 則 39 条 所 定 の 沖 縄 県 知 事 の 許 可 を 受 け る こ と な く 、 岩 礁 を 破 砕 し 、 又 は 土 砂 若 し く は 岩 石 を 採 取 し て は な ら な
い 。
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申 立 て の 理 由
目 次
第 1 沖 縄 県 の 主 張 の 要 旨 ... 7
第 2 本 件 水 域 は 「 漁 業 権 が 設 定 さ れ て い る 漁 場 」 に 該 当 す る こ と ... 12
1 第 2 項 の 概 要 ... 12
2 漁 業 権 の 意 義 ・ 特 質 と 現 行 漁 業 法 に お け る 漁 業 権 の 免 許 の 仕 組 み ( 漁 場 計 画 制 度 ) ... 14
(1) 漁 業 権 の 意 義 ・ 特 質 ... 14
(2) 現 行 漁 業 法 に お け る 漁 業 権 の 免 許 の 仕 組 み ( 漁 場 計 画 制 度 ) .... 19
3 本 件 水 域 は 「 漁 場 の 区 域 」 か ら 除 外 さ れ て い な い こ と ( 共 同 第 5 号 漁 業 権 の 「 漁 場 の 区 域 」 の 縮 小 は な さ れ て い な い こ と ) ... 28
(1) 漁 業 権 の 免 許 の 内 容 で あ る「 漁 場 の 区 域 」の 変 動( 縮 小 )は 行 政 行 為 に よ り な さ れ る こ と ... 28
(2) 漁 場 計 画 制 度 と い う 仕 組 み よ り し て も 、 漁 業 権 者 の 意 思 に 基 づ く 「 漁 場 の 区 域 」 の 縮 小 は 変 更 免 許 に よ ら し め る べ き こ と ... 39
(3) 現 行 漁 業 法 に つ い て の 一 般 的 解 釈 ... 45
(4) 「 漁 場 の 区 域 」 の 縮 小 に 係 る 従 前 の 行 政 解 釈 等 ... 49
(5) 小 括 ... 58
4 一 部 の 下 級 審 裁 判 例 に 見 ら れ た 漁 業 権 者 の 意 思 に 基 づ く「 漁 場 の 区 域 」 の 縮 小 の 漁 業 法 上 の 性 質 決 定 に つ い て の 誤 り ... 58
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(4) 仙 台 高 裁 昭 和 63 年 3 月 28 日 判 決 ・ 訟 務 月 報 34 巻 10 号 1967 頁
... 76
5 水 産 庁 の 見 解 の 豹 変 と そ の 不 合 理 ・ 不 自 然 性 ... 79
(1) 平 成29 年 3 月14日 付 け 28水 管 第 2332 号 ... 79
(2) 沖 縄 県 知 事 か ら 水 産 庁 長 官 に 対 す る 照 会 と 実 質 的 な 回 答 拒 否 と い う 水 産 庁 長 官 の 対 応 ... 85
(3) 小 括 ... 128
6 第 2 項 の ま と め ... 129
第 3 司 法 手 続 に よ る 公 法 上 の 不 作 為 義 務 の 履 行 請 求 が 認 め ら れ る こ と 132 1 債 権 者 の 債 務 者 に 対 す る 差 止 請 求 権 が 肯 定 さ れ る こ と ... 132
(1) 行 政 上 の 義 務 の 履 行 を 求 め る 請 求 権 が 行 政 主 体 に 帰 属 す る こ と 132 (2) 法 令 に よ り 直 接 課 さ れ た 義 務 で あ る こ と に 支 障 は な い こ と ... 137
2 法 律 上 の 争 訟 で あ る こ と ... 138
3 平 成14年 最 高 裁 判 決 と の 関 係 ... 139
(1) 平 成14 年 最 高 裁 判 決 が 述 べ て い る こ と ... 139
(2) 平 成14 年 最 高 裁 判 決 の 射 程 外 で あ る こ と ... 141
(3) 平 成14 年 最 高 裁 判 決 の 法 律 上 の 争 訟 概 念 に 問 題 が あ る こ と .... 147
4 補 足 ( 行 政 代 執 行 法 1 条 に つ い て ) ... 159
5 被 保 全 権 利 の ま と め ... 160
第 4 保 全 の 必 要 性 ... 161
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第 1 沖 縄 県 の 主 張 の 要 旨
防 衛 省 の 地 方 組 織 で あ る 沖 縄 防 衛 局 ( 所 在 地 沖 縄 県 中 頭 郡 嘉 手 納 町
字 嘉 手 納 290番 地 9 )は 、普 天 間 飛 行 場 代 替 施 設 建 設 事 業 の 事 業 主 と し て 、 公 有 水 面 埋 立 承 認 を 得 て 、 別 紙 図 面 1 図 示 の 1-1、1-2、1-3、1-4、
1-5、1-6、1-7、1-8、1-9、1-10、1-11、1-12、1-13、1-14、1-1 の 各 点
を 順 次 に 結 ぶ 線(1-14 と1-1の 点 を 結 ぶ 線 は 、陸 岸 又 は 第 一 橋 梁 の 上 流 端 の 線 と す る 。)に よ っ て 囲 ま れ る 水 域 、2-1、2-2、2-3、2-4、2-1 の 各 点 を 順 次 に 結 ぶ 線 (2-1と 2-4を 結 ぶ 線 は 陸 岸 の 線 と す る 。)に よ っ て 囲 ま れ る 水 域 、2-5、2-6、2-7、2-5 の 各 点 を 順 次 に 結 ぶ 線 (2-5 と 2-7 を 結 ぶ 線 は 陸 岸 の 線 と す る 。)に よ っ て 囲 ま れ る 水 域 及 び 2-8、2-9、2-10、
2-8 の 各 点 を 順 次 に 結 ぶ 線 (2-8 と 2-10 を 結 ぶ 線 は 陸 岸 の 線 と す る 。)
に よ っ て 囲 ま れ る 水 域(以 下 、 上 記 の 4 つ の 水 域 を 総 称 し て 「 本 件 水 域 」 と い う 。)に お い て 、 公 有 水 面 埋 立 て に 係 る 工 事 を 行 っ て い る 。
沖 縄 県 漁 業 調 整 規 則 39 条 1 項 は 「 漁 業 権 の 設 定 さ れ て い る 漁 場 内に お い て 岩 礁 を 破 砕 し 、 又 は 土 砂 若 し く は 岩 石 を 採 取 し よ う と す る 者 は 、
知 事 の 許 可 を 受 け な け れ ば な ら な い 。」 と 定 め て い る と こ ろ ( 甲 A 1 )、
本 件 水 域 を 「 漁 場 の 区 域 」 に 含 む 共 同 漁 業 権 の 免 許 が 名 護 漁 業 協 同 組 合
に 付 与 さ れ て お り ( 甲 A 3 、 甲 A 4 )、 本 件 水 域 は 、「 漁 業 権 の 設 定 さ れ
て い る 漁 場 」 に 該 当 す る 。
沖 縄 防 衛 局 は 、平 成26年 8 月 28日 に 、本 件 水 域 に 係 る 公 有 水 面 埋立 事 業 の た め 、同 日 か ら 平 成 29年 3 月 31 日 ま で を 許 可 期 間 と す る 沖 縄 県 漁 業 調 整 規 則 所 定 の 沖 縄 県 知 事 の 許 可( 以 下「 岩 礁 破 砕 等 許 可 」と い う 。)
を 受 け た も の の( 甲 A 5 )、そ の 後 は 改 め て 岩 礁 破 砕 等 許 可 の 申 請 を す る
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破 砕 等 許 可 を 得 な い 理 由 に つ い て 、平 成25年 3 月 11日 に 名 護 漁 業 協 同 組 合 が 総 会 に お い て 漁 業 権 の 一 部 放 棄 の 総 会 決 議 を し た こ と に よ っ て 漁
業 権 が 一 部 消 滅 し た た め で あ る と し て い る ( 甲 A15、 甲A17)。
し か し 、漁 業 法( 昭 和 24年 法 律 第 267号 )は 、「 放 棄 」と「 変 更 」を 書 き 分 け 、「 放 棄 」に つ い て は 漁 業 権 者 の 意 思 表 示 の ほ か に 行 政 行 為 を 必
要 と す る 規 定 を 設 け て い な い が 、 他 方 で 、 同 法 22 条 に お い て 漁 業 権 者 の 意 思 に 基 づ く 漁 業 権 の「 変 更 」1に つ い て は 変 更 免 許 に よ る( す な わ ち 、
漁 業 権 者 の 意 思 表 示 の み で は 効 力 を 生 じ な い )こ と を 定 め て い る と こ ろ 、
「 漁 場 の 区 域 」 は 免 許 に よ っ て 定 め ら れ た 漁 業 権 の 内 容 を な す も の で あ
る か ら( 漁 業 法 11条 1 項 )、漁 業 権 者 の 意 思 に 基 づ く「 漁 場 の 区 域 」の 縮 小 は 、 漁 業 法 上 は 、 同 法 22 条 で 規 律 さ れ る 漁 業 権 の 「 変 更 」 に 該 当 す る 。 し た が っ て 、 漁 業 権 者 で あ る 漁 業 協 同 組 合 が い わ ゆ る 漁 業 権 の 一
部 放 棄 の 総 会 決 議 を し て も 、そ の 総 会 決 議 の み に よ り 免 許 内 容 で あ る「 漁
場 の 区 域 」 の 変 動 ( 縮 小 ) と い う 効 力 が 生 じ る も の で は な い 。 漁 業 権 者
の 意 思 に 基 づ く 漁 場 の 縮 小 が 漁 業 権 の「 変 更 」に 該 当 す る と い う こ と は 、
明 治 漁 業 法 以 来 、 当 然 の こ と と さ れ て き た も の で あ り ( 甲 B12∼18)、 現 行 漁 業 法 下 の 水 産 行 政 も 一 貫 し て こ の 立 場 を と っ て き て い た も の で あ
っ た ( 甲 B 1 )。
ま た 、 漁 場 計 画 制 度 を 漁 業 法 の 目 的 達 成 の た め の 基 本 的 仕 組 み と し て
採 用 し た 現 行 漁 業 法 に お い て は 、 な お 一 層 の こ と 、 私 人 ( 漁 業 権 者 ) の
意 思 表 示 の み で 漁 業 権 の 内 容 を 変 動 さ せ る こ と は 認 め ら れ な い も の で あ
る 。 す な わ ち 、 現 行 漁 業 法 1 条 は 「 漁 業 生 産 力 を 発 展 さ せ 、 あ わ せ て 漁
業 の 民 主 化 を 図 る こ と 」 を 目 的 と し 、 こ の 目 的 を 実 現 す る た め の 方 法 と
1 漁 業 権 者 の 意 思 に よ る も の で は な く 、公 益 上 の 必 要 に よ り な さ れ る「 変 更 」は 、漁 業
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し て 「 水 面 の 総 合 的 利 用 」 を あ げ て い る 。 そ し て 、 私 的 恣 意 を 排 し て 水
面 を 総 合 的 利 用 す る た め の 基 本 的 仕 組 み と し て 、 免 許 の 内 容 を 事 前 に 樹
立 す る 漁 場 計 画 に よ っ て 決 定 し 、 そ の 後 に 免 許 申 請 を さ せ 、 漁 場 計 画 と
異 な る 免 許 は 認 め な い こ と と し て 、 私 人 が 「 漁 場 の 区 域 」 等 の 漁 業 権 の
内 容 ( 免 許 の 内 容 た る べ き 事 項 ) を 決 め る こ と は で き な い と す る 漁 場 計
画 制 度 ( 漁 業 法 11 条 以 下 ) を 採 用 し て い る 。 こ の 漁 場 計 画 制 度 は 漁 業 法 の 根 幹 を な す も の で あ り 、 漁 業 権 者 の 意 思 表 示 の み で 漁 場 計 画 に よ っ
て 定 め ら れ た 漁 業 権 の 内 容 を 変 動 さ せ る こ と は 、 漁 業 法 の 根 幹 に 違 背 す
る こ と と な る か ら 、 漁 業 権 者 の 意 思 表 示 で 漁 業 権 の 内 容 で あ る 「 漁 場 の
区 域 」 を 変 動 さ せ る こ と は 認 め え な い も の で あ る ( 甲 B 各 号 証 )。
名 護 漁 業 協 同 組 合 が い わ ゆ る 漁 業 権 の 一 部 放 棄 の 総 会 決 議 を し て も 、
「 漁 場 の 区 域 」 の 縮 小 を 内 容 と す る 変 更 免 許 が な い 以 上 、「 漁 場 の 区 域 」
の 縮 小 は 生 じ な い も の で あ り 、名 護 漁 業 協 同 組 合 の 決 議 後 も 本 件 水 域 は 、
「 漁 業 権 の 設 定 さ れ て い る 漁 場 」 に 該 当 す る 。
沖 縄 防 衛 局 は 普 天 間 飛 行 場 代 替 施 設 建 設 事 業 の た め の 公 有 水 面 埋 立 承
認 を 得 て い る が 、 そ の 願 書 に 示 さ れ た 公 有 水 面 埋 立 工 事 の 内 容 は 岩 礁 破
砕 等 を 伴 う も の で あ る( 甲 A 7 − 1 か ら 5 )。そ し て 、沖 縄 防 衛 局 は 、沖
縄 県 知 事 に 対 し て 岩 礁 破 砕 等 許 可 等 申 請 を 行 わ な い で 公 有 水 面 埋 立 工 事
を 行 う こ と を 再 三 に わ た っ て 明 確 に 表 明 し 、平 成29 年 4 月 25日 に 公 有 水 面 埋 立 本 体 工 事 着 工 を 強 行 し た( 甲 A 7 − 1 か ら 5 、甲 A15、甲A17、 甲A19)。
沖 縄 県 漁 業 調 整 規 則39条 に よ り 、「 漁 業 権 の 設 定 さ れ て い る 漁 場 内」 に お い て 岩 礁 破 砕 等 行 為 を す る 者 は 皆 、 知 事 の 許 可 を 受 け て そ れ を 行 わ
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て い え ば 、 何 人 も 知 事 の 許 可 を 受 け ず に は 岩 礁 破 砕 等 行 為 を 行 っ て は な
ら な い と い う 不 作 為 義 務 を 課 さ れ て い る こ と を 意 味 す る 。 そ し て 、 実 際
に 許 可 を 受 け ず に 岩 礁 破 砕 等 行 為 が な さ れ て い る 場 合 に 生 じ て い る 義 務
違 反 は 、 後 者 の 不 作 為 義 務 違 反 で あ る ∼ か か る 不 作 為 義 務 は 、 当 該 義 務
を 賦 課 し た 許 可 権 者 で あ る 沖 縄 県 知 事 及 び そ の 所 属 す る 行 政 主 体 で あ る
沖 縄 県 に 対 す る 関 係 で の 義 務 で あ り 、 か か る 義 務 は 、 地 域 の 水 域 に 存 す
る 水 産 資 源 を 保 護 培 養 す る と い う 公 益 を 保 護 す る た め に 課 さ れ た 義 務 で
あ る 。 し た が っ て 、 地 域 の 水 域 の 水 産 資 源 を 保 護 培 養 す る と い う 公 益 保
護 の 主 体 と し て 法 令 上 位 置 づ け ら れ て い る 沖 縄 県 は 、 か か る 義 務 の 違 反
者 に 対 し て こ の 義 務 履 行 を 求 め る 権 利 を 有 す る と い う こ と が で き 、 い ま
だ 岩 礁 破 砕 等 行 為 が な さ れ て は い な い が 、 知 事 の 許 可 を 得 ず に 岩 礁 破 砕
等 行 為 が な さ れ る こ と が 確 実 で あ る と い う よ う な 場 合 に は 、 そ の よ う な
義 務 違 反 行 為 を 事 前 に 防 止 す る た め の 予 防 的 な 義 務 履 行 請 求 も 認 め ら れ
る も の で あ る ( 甲 C 1 ・ 人 見 剛 「 県 漁 業 調 整 規 則 に 基 づ く 許 可 を 受 け ず
に 岩 礁 破 砕 を 行 う 者 に 対 す る 差 止 め 請 求 の 可 能 性 に 関 す る 意 見 書 」)。
債 権 者 は 債 務 者 に 対 し 、 沖 縄 県 漁 業 調 整 規 則 39 条 1 項 に 基 づ く 公 法 上 の 不 作 為 義 務 の 履 行 請 求 権 を 有 す る と こ ろ 、 一 旦 岩 礁 破 砕 等 行 為 が 行
わ れ て し ま え ば 、 不 可 逆 的 な 改 変 が 本 件 水 域 の 岩 礁 に 加 え ら れ る こ と と
な り 、 債 権 者 に 帰 属 す る 本 件 水 域 の 管 理 権 や 水 産 資 源 の 保 護 培 養 と い っ
た 利 益 に 重 大 な 損 害 を 生 じ さ せ る お そ れ が あ る か ら 、 保 全 の 必 要 性 が 認
め ら れ る 。
そ こ で 、 行 政 事 件 訴 訟 法 4 条 後 段 の 実 質 的 当 事 者 訴 訟 と し て の 岩 礁 破
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訟 法 5 条 5 号 に よ り 管 轄 を 有 す る 御 庁 に 、 仮 の 地 位 を 定 め る 仮 処 分 の 申
立 て に 及 ぶ も の で あ る 。
な お 、 岩 礁 破 砕 等 の 不 作 為 を 訴 求 す る こ と は 、 債 務 者 の 岩 礁 破 砕 等 許
可 を 得 ず に 岩 礁 破 砕 等 を 行 っ て は な ら な い 不 作 為 義 務 の 存 否 が 争 わ れ る
事 件 で あ り 、 水 産 資 源 保 護 法 、 沖 縄 県 漁 業 調 整 規 則 と い う 法 令 の 適 用 に
よ り 、解 決 す る こ と が で き る も の で あ る か ら 、法 律 上 の 争 訟 に 該 当 す る 。
以 下 で は 、第 2 に お い て 、本 件 水 域 が「 漁 業 権 が 設 定 さ れ て い る 漁 場」
に 該 当 し 、 し た が っ て 、 債 務 者 が 岩 礁 破 砕 等 許 可 を 得 ず に 岩 礁 破 砕 等 行
為 を 行 っ て は な ら な い と い う 不 作 為 義 務 が 課 せ ら れ て い る こ と を 、 第 3
に お い て 、 か か る 不 作 為 義 務 の 履 行 請 求 権 が 債 権 者 に 帰 属 し 、 仮 処 分 申
立 て を 適 法 に な し う る こ と を( 法 律 上 の 争 訟 に あ た る こ と )、も っ て 、被
保 全 権 利 に つ い て 述 べ 、 第 4 に お い て 、 保 全 の 必 要 性 に つ い て 、 第 5 に
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第 2 本 件 水 域 は 「 漁 業 権 が 設 定 さ れ て い る 漁 場 」 に 該 当 す る こ と
1 第 2 項 の 概 要
沖 縄 防 衛 局 は 、 平 成 25 年 12 月 27 日 付 け で 沖 縄 県 知 事 よ り 本 件 水 域 内 の 区 域 に 係 る 公 有 水 面 埋 立 承 認 を 得 て 、 本 件 水 域 に お い て 公 有 水 面 埋
立 て に 係 る 工 事 を 行 っ て い る 。
水 産 資 源 保 護 法 4 条 2 項 5 号 の 委 任 に 基 づ い て 制 定 さ れ た 沖 縄 県 漁 業
調 整 規 則 39 条 1 項 は 「 漁 業 権 の 設 定 さ れ て い る 漁 場 内 に お い て 岩 礁 を 破 砕 し 、 又 は 土 砂 若 し く は 岩 石 を 採 取 し よ う と す る 者 は 、 知 事 の 許 可 を
受 け な け れ ば な ら な い 。」と 定 め て い る と こ ろ 、名 護 漁 業 協 同 組 合 に 、別
紙 図 面 2 図 示 の イ 、 ロ 、 ハ 、 ニ の 各 点 を 順 次 結 ん だ 線 及 び 最 大 高 潮 時 海
岸 線 ( た だ し 、 河 川 部 分 に つ い て は 第 1 橋 梁 の 上 流 端 の 線 ) に よ り 囲 ま
れ た 区 域 を「 漁 場 の 区 域 」と す る 共 同 漁 業 権( 以 下「 共 同 第 5 号 漁 業 権 」
と い う 。)の 免 許 が な さ れ て お り 、本 件 水 域 は こ の 漁 場 の 区 域 内 に 位 置 す
る 。
沖 縄 防 衛 局 は 、 本 件 水 域 内 に お い て 公 有 水 面 埋 立 事 業 を 行 っ て い る と
こ ろ 、 名 護 漁 業 協 同 組 合 が 漁 業 権 の 一 部 放 棄 の 特 別 決 議 を し た こ と に よ
っ て 、 本 件 水 域 は 「 漁 業 権 の 設 定 さ れ て い る 漁 場 」 に は 該 当 し な い も の
と な っ た と 主 張 し て い る 。す な わ ち 、沖 縄 防 衛 局 は「 工 事 の 施 工 区 域 は 、
漁 業 法 ( 昭 和 24 年 法 律 第 267 号 ) 等 の 法 定 手 続 を 経 て 、 名 護 漁 業 協 同 組 合 が 保 有 し て い た 漁 業 権 が 放 棄 さ れ 、 現 時 点 で 現 に 漁 業 権 が 消 滅 し て
い る 水 域 に な っ て い る 状 況 に 鑑 み れ ば 、 沖 縄 県 漁 業 調 整 規 則 ( 昭 和 47 年 沖 縄 県 規 則 第 143 号 ) 第 39 条 第 1 項 に 定 め る 『 漁 業 権 の 設 定 さ れ て い る 漁 場 内 』 に 当 た ら な い こ と か ら 、 岩 礁 破 砕 等 の 行 為 を し よ う と す る
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お り ま す 」( 甲 A13) と の 見 解 を 示 し て い る 。 そ し て 、 こ こ に い う 「 法 定 の 手 続 」の 具 体 的 内 容 に つ い て 、平 成29年 4 月 18日 の 衆 議 院 安 全 保 障 委 員 会 に お い て 高 橋 憲 一 政 府 参 考 人 ( 防 衛 省 整 備 計 画 局 長 ) は 「 名 護
漁 協 が 法 定 手 続 に 基 づ き ま し て 、 漁 業 権 の 放 棄 の 手 続 を し て い た だ き ま
し た の で 、 こ の 特 別 総 会 決 議 を も っ て 放 棄 の 手 続 を な さ れ た 段 階 で 漁 業
権 は 消 滅 し た と い う ふ う に 考 え て ご ざ い ま す 。」と 答 弁 し 、名 護 漁 業 協 同
組 合 の 決 議 を も っ て 漁 業 権 が 消 滅 し た も の で あ る と の 主 張 を 明 ら か に し
て い る 。
し か し 、 こ の 国 の 主 張 は 誤 り で あ る 。
漁 業 法 は 、 漁 業 権 の 「 放 棄 」 と 漁 業 権 の 「 変 更 」 を 区 別 し て い る ( 漁
業 法31 条 参 照 )。そ し て 、漁 業 権 の「 放 棄 」に つ い て は 行 政 行 為( 認 可 等 ) を 必 要 と す る 規 定 は 設 け て い な い が 、 他 方 で 、 漁 業 法 22 条 は 、 漁 業 権 の 「 変 更 」 に つ い て は 、 免 許 権 者 で あ る 都 道 府 県 知 事 の 行 政 行 為 に
よ っ て 当 初 免 許 に よ っ て 定 ま っ た 漁 業 権 の 内 容 の 変 動 が 生 じ る と し て い
る 。 漁 業 権 の 内 容 を 構 成 す る 要 素 を 変 え て 漁 業 権 の 内 容 を 変 更 す る こ と
が 漁 業 権 の 「 変 更 」 で あ る が 、 漁 業 権 の 内 容 を 構 成 す る 要 素 は 行 政 行 為
( 免 許 ) に よ っ て 定 ま る も の で あ る か ら 、 新 た な 行 政 行 為 ( 変 権 行 為 )
に よ ら ず 、 私 人 ( 漁 業 権 者 ) の 意 思 表 示 に よ っ て 行 政 行 為 ( 免 許 ) に よ
っ て 定 ま っ た 免 許 の 内 容 を 変 動 さ せ る こ と は で き な い こ と は 、 行 政 法 理
論 上 、当 然 で あ る 。そ し て 、「 漁 場 の 区 域 」は 免 許 に よ っ て 定 め ら れ る も
の で あ る か ら 、「 漁 場 の 区 域 」が 漁 業 権 の 内 容 を 構 成 す る 要 素 で あ る こ と
自 体 は 疑 問 の 余 地 が な い 。 し た が っ て 、 漁 業 権 者 の 意 思 に 基 づ い て 免 許
に よ っ て 定 め ら れ た 漁 業 権 の 内 容 を 構 成 す る 要 素 で あ る 「 漁 場 の 区 域 」
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に 該 当 す る も の で あ る 。
ま た 、 免 許 の 内 容 を 免 許 申 請 者 が 決 定 す る こ と が で き な い と す る 現 行
漁 業 法 ( 昭 和 24 年 法 律 第 267 号 ) の 基 本 的 仕 組 み で あ る 漁 場 計 画 制 度 ( 漁 業 法 11 条 以 下 ) よ り し て も 、 私 的 恣 意 に よ る 「 漁 場 の 区 域 」 の 変 動 ( 縮 小 ) は 認 め ら れ な い 。
以 下 、 2 項 に お い て 漁 業 権 の 意 義 ・ 特 質 及 び 免 許 の 仕 組 み ( 漁 場 計 画
制 度 ) に つ い て 詳 述 す る 。
こ れ を 踏 ま え て 、3 項 に お い て 、「 漁 場 の 区 域 」の 漁 業 権 者 の 意 思 に基
づ く 変 動 ( 縮 小 ) は 、 漁 業 権 の 「 変 更 」 と し て 漁 業 法 22 条 に よ り 規 律 さ れ る も の で あ っ て 、 い わ ゆ る 漁 業 権 の 一 部 放 棄 の 総 会 決 議 は 漁 業 法 上
の 「 放 棄 」 と 性 質 決 定 さ れ る も の で は な い か ら 、 当 該 総 会 決 議 の み に よ
っ て 漁 場 の 区 域 の 縮 小 ( 漁 業 権 の 一 部 消 滅 ) と い う 効 果 は 生 じ な い こ と
に つ い て 、 詳 述 す る 。
2 漁 業 権 の 意 義 ・ 特 質 と 現 行 漁 業 法 に お け る 漁 業 権 の 免 許 の 仕 組 み ( 漁
場 計 画 制 度 )
(1) 漁 業 権 の 意 義 ・ 特 質
ア 漁 業 権 の 意 義
漁 業 権 と は 、 漁 業 ( 水 産 動 植 物 の 採 捕 又 は 養 殖 の 事 業 ) を 営 む 権
利 で あ り 、 行 政 行 為 ( 免 許 ) に よ っ て 設 定 さ れ る も の で あ る ( 漁 業
法10 条 )。
そ し て 、 イ に 述 べ る 漁 業 に お け る 水 面 利 用 の 特 質 よ り 、 漁 業 権 の
内 容 ( 免 許 の 内 容 ) は 、 漁 業 の 種 類 、 漁 場 の 位 置 及 び 区 域 、 漁 業 時
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条 1 項 )。
イ 漁 業 に お け る 水 面 利 用 の 特 質
漁 業 の た め の 水 面 利 用 の 特 質 は 、 水 面 を 立 体 的 に 重 畳 的 に 利 用 す
る も の で 、 一 つ の 水 面 に お い て 複 数 の 漁 業 が 重 複 し て 成 立 し う る こ
と に あ る 。
す な わ ち 、「 漁 場 の 利 用 方 式 を 考 え る 場 合 、基 本 的 な こ と は 、土 地
と 異 な る 水 面 利 用 の 特 質 で あ る 。 土 地 は 、 平 面 的 、 単 一 的 に 利 用 す
る も の で あ る か ら 、 こ れ を 区 画 し て そ れ に 利 用 権 を 与 え れ ば よ い 。
そ の 区 画 さ れ た 区 域 を ど う 使 お う と 他 に 影 響 を 及 ぼ さ な い か ら 、 区
画 さ れ た 区 域 の 利 用 を 確 保 し て や れ ば よ い の で あ る … だ が 、 水 面 は
立 体 的 、 重 複 的 に 利 用 し 、 一 漁 業 の 操 業 は 必 ず 他 の 漁 業 に 影 響 を 及
ぼ す か ら 、 水 面 を 区 画 し て 分 割 所 有 さ せ る こ と は で き ず ― 借 区 制 は
と れ な い 。 一 定 の 水 面 に 多 種 多 様 の 漁 業 を 包 摂 し 、 適 当 な 調 整 下 に
全 体 総 合 利 用 を 図 る 方 式 と し な け れ ば な ら な い … 水 面 利 用 の 特 質 に
応 じ て 多 種 多 様 の 漁 業 を ど う 調 整 し て 全 体 の 生 産 を あ げ る か が 問 題
の 焦 点 で あ る 。 す な わ ち 、 水 面 利 用 制 度 の 問 題 は 、 漁 業 調 整 で あ り
― 漁 業 調 整 と は 単 な る 紛 争 の 調 停 で は な い 、 総 合 生 産 力 を 発 揮 す る
よ う に 多 種 多 様 の 漁 業 を 各 当 事 者 の 私 的 恣 意 に 放 任 せ ず 、 全 体 的 見
地 か ら こ れ を そ の 適 合 し た 地 位 に 置 く こ と で あ り 、 生 産 力 の 問 題 か
ら 個 々 の 経 営 の 内 容 に ま で 入 る 問 題 で あ る 」( 水 産 庁 経 済 課 編『 漁 業
制 度 の 改 革 』213∼215 頁 )、「 漁 業 権 と は 、 そ れ ぞ れ の 漁 業 の 免 許 の 内 容(漁 場 の 位 置 、 区 域 、 漁 業 種 類 、 漁 業 時 期 等)の 範 囲 内 に お い て 排 他 独 占 的 に 営 む 権 利 を い い ま す 。 漁 業 を 行 う た め に 水 面 を 利 用
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を 、特 殊 の 漁 業 を 除 け ば 、立 体 的 に 重 畳 的 に 利 用 す る も の で あ っ て 、
一 つ の 水 面 に 一 つ の 漁 業 だ け が 存 在 す る も の で は あ り ま せ ん 。 一 般
に は 、 漁 業 権 も 重 複 し て 免 許 さ れ て い る の で す 。」( 金 田 禎 之 『 新 編
漁 業 法 の こ こ が 知 り た い( 2 訂 増 補 版 )』52頁 )と い う も の で あ る 。 こ の 漁 業 に お け る 水 面 利 用 の 特 質 よ り 、 水 域 の 範 囲 を 画 す る こ と
の み で は 漁 業 を 営 む 権 利 の 内 容 を 定 め る こ と は で き ず 、こ の こ と は 、
農 地 等 の 土 地 利 用 と の 本 質 的 ・ 決 定 的 な 相 違 点 で あ る 。
水 域 の 範 囲 は 漁 業 権 の 内 容 を 特 定 す る 一 つ の 要 素 で あ り 、 水 域 の
範 囲 の み を も っ て 漁 業 権 に 内 容 を 定 め る こ と は で き な い こ と か ら 、
漁 業 権 の 内 容 は 、 漁 業 の 種 類 、 漁 場 の 位 置 及 び 区 域 、 漁 業 時 期 等 の
複 数 の 要 素 の 組 み 合 わ せ に よ っ て 初 め て 定 ま る こ と に な る ( 漁 業 法
11条 1項 )。
こ の よ う に 、 漁 業 の 種 類 、 漁 場 の 位 置 及 び 区 域 、 漁 業 時 期 等 の 組
み 合 わ せ に よ っ て は じ め て 権 利 の 内 容 が 定 ま る も の で あ る こ と か ら 、
こ れ ら の 諸 要 素 の 一 つ に で も 変 動 が あ れ ば 、 権 利 の 内 容 の 本 質 的 同
一 性 を 認 め う る 場 合 で あ っ て も 、 新 た な 内 容 の 権 利 と い う こ と に な
る 。
ウ 漁 業 権 と 物 権 と は 本 質 に お い て 異 な る こ と
(ア) 漁 業 法23 条 は 、「 漁 業 権 は 、物 権 と み な し 、土 地 に 関 す る 規 定
を 準 用 す る 」 と し 、 漁 業 権 を 物 権 と み な す こ と を 定 め て い る が 、
「 み な し 」 と は 、 本 来 性 質 の 異 な る も の に 同 様 の 法 的 効 果 を 及 ぼ
す た め の 擬 制(legal fiction)で あ る か ら 、物 を 直 接 に 支 配 す る 権 利 と は 本 来 異 質 で あ る こ と を 前 提 と す る 。
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配 し 、 使 用 収 益 し う る 権 利 で あ る 民 法 ( 明 治 29 年 法 律 第89 号 ) 上 の 物 権 と そ の 本 来 的 性 質 は 異 な る 」(漁 業 法 研 究 会『 最 新 逐 条 解 説 「 漁 業 法 」』168頁)も の で あ る 。
(イ) 漁 業 権 に つ い て は 、土 地 に 関 す る 規 定 が 準 用 さ れ る が 、こ のこ
と は 、 漁 業 権 が 、 土 地 所 有 権 や 地 上 権 等 と 同 様 に 、 物 に 対 す る 直
接 的 支 配 と 使 用 収 益 の 権 利 で あ る こ と を 意 味 す る も の で は な い 。
登 記 ( 漁 業 法 で は 登 録 ) を 対 抗 要 件 と す る こ と 、 先 取 特 権 及 び
抵 当 権 の 規 定 が 準 用 さ れ る こ と 、 土 地 収 用 法 が 適 用 さ れ る こ と な
ど の 点 に つ い て は 土 地 の 規 定 が 準 用 さ れ る が 、 他 方 で 、 占 有 権 、
地 上 権 、 永 小 作 権 、 留 置 権 、 質 権 等 の 物 に 対 す る 支 配 に 関 す る 規
定 が 漁 業 権 に 準 用 が な い こ と は 事 柄 の 性 質 上 当 然 の こ と と 解 さ
れ て い る 。
漁 業 権 に つ い て 土 地 に 関 す る 規 定 が 準 用 さ れ る と し て も 、 土 地
に 対 す る 直 接 支 配 と 使 用 収 益 を 内 容 と す る 権 利 と 、 営 業 権 で あ る
漁 業 権 と で は 、 そ の 本 質 を 異 に す る も の で あ る 。
立 法 の 沿 革 よ り し て も 、 漁 業 権 を 物 権 と み な し て 土 地 の 規 定 を
準 用 す る と い う 規 定 を 設 け た の は 、 漁 業 権 に つ い て 抵 当 権 を 設 定
で き る よ う に す る た め の も の に 過 ぎ な い 。 す な わ ち 、「 共 同 漁 業
権 の 場 合 に は 、 漁 場 の 特 定 と は い っ て も 、 そ こ に は 自 由 漁 業 も 許
可 漁 業 も 現 に 共 存 し て い る 。 定 置 ・ 区 画 の 漁 業 権 に あ っ て も 他 の
利 用 を 妨 げ る も の で は な く 、 漁 場 と は 当 該 公 有 水 面 の 漁 業 上 の 一
側 面 を い う に す ぎ な い 。 そ も そ も 水 面 自 体 は だ れ の も の で も な い
と い う べ き で あ る 。 も と も と 漁 業 権 に 土 地 に 関 す る 規 定 を 準 用 し
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( 山 畠 正 男 「 組 合 管 理 漁 業 権 の 性 格 」 北 大 法 学 論 集 28 巻 4 号 ・
29 巻 1 号 合 併 号10 頁 )、「 明 治 四 三 年 に 漁 業 法 の 全 部 改 正 が 行 わ
れ た の で す 。 こ の 改 正 時 に 、『 漁 業 権 を 物 権 と み な し 、 土 地 に 関
す る 規 定 を 準 用 す る 』 と い う 規 定 が 漁 業 法 第 七 条 と し て 入 り ま し
た 。 こ の 規 定 を 入 れ た 立 法 趣 旨 は 、 も っ ぱ ら 漁 業 権 に 抵 当 権 を 設
定 す る た め に 物 権 と み な し た の だ と い う よ う に 説 明 さ れ て い ま
す 」( 浜 本 幸 生 『「 漁 業 権 っ て 何 だ ろ う ? 』69頁 ) と さ れ て い る 。 ま た 、 現 行 漁 業 法 の 立 案 担 当 課 の 手 に な る 水 産 庁 経 済 課 『 漁 業
制 度 の 改 革 』 は 、「 物 権 で あ る と い っ て も 原 則 と し て 普 通 の 財 産
権 の よ う な 譲 渡 性 、 担 保 性 は な い か ら 、 そ の 物 権 と し て の 効 力 は
第 三 者 の 侵 害 に 対 し て 物 権 的 請 求 権 を 有 す る こ と に あ り ― そ れ
も 制 限 条 件 や 委 員 会 指 示 に よ っ て 制 約 さ れ て 恣 意 的 に ふ り ま わ
す こ と は 認 め ら れ な い ― 、 第 三 者 の 侵 害 を 排 除 し な け れ ば 成 立 し
な い 漁 業 ( 定 置 等 ) で あ る か ら 、 あ る い は 漁 民 に よ る 漁 場 管 理 の
形 態 と し て ( 共 同 漁 業 権 等 )、 物 権 と し た の で 、 し た が っ て そ の
限 度 以 上 に は 私 有 財 産 扱 を 認 め な い 」(440頁 ) と し て い る 。
(ウ) 以 上 の と お り 、漁 業 権 は 、有 体 物 、土 地 に 対 す る 支 配 権 と は本
質 を 異 に す る も の で あ る 。
エ 漁 業 権 は 行 政 行 為 ( 免 許 ) に よ っ て 設 定 さ れ る こ と
漁 業 法 10 条 は 、「 漁 業 権 の 設 定 を 受 け よ う と す る 者 は 、都 道 府 県 知 事 に 申 請 し て そ の 免 許 を 受 け な け れ ば な ら な い 。」 と 定 め て お り 、
漁 業 権 は 、 行 政 庁 の 免 許 と い う 行 政 行 為 に よ っ て 設 定 さ れ る 権 利 で
あ る 。
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は 行 政 行 為 ( 免 許 ) に よ っ て 定 ま る こ と に な る が 、 漁 業 法 11 条 1 項 は 「 漁 業 種 類 、 漁 場 の 位 置 及 び 区 域 、 漁 業 時 期 そ の 他 免 許 の 内 容
た る べ き 事 項 」 と 規 定 し て お り 、 漁 業 種 類 、 漁 場 の 位 置 及 び 区 域 、
漁 業 時 期 等 の 要 素 に よ り 、 免 許 の 内 容 、 す な わ ち 漁 業 権 の 内 容 が 定
め ら れ る こ と を 明 ら か に し て い る 。
換 言 す れ ば 、 漁 業 種 類 、 漁 場 の 位 置 及 び 区 域 、 漁 業 時 期 は 、 漁 業
権 の 内 容 で あ る 。
(2) 現 行 漁 業 法 に お け る 漁 業 権 の 免 許 の 仕 組 み ( 漁 場 計 画 制 度 )
ア 明 治 漁 業 法 下 の 漁 場 利 用 の 問 題 点 と 現 行 漁 業 法 制 定 の 目 的
(ア) 我 が 国 に お い て 、明 治 34 年 に 最 初 の 漁 業 法( 明 治34年 法 律 第
34 号 い わ ゆ る 旧 明 治 漁 業 法 ) が 制 定 さ れ 、 明 治43 年 に 全 面 改
正 さ れ て い わ ゆ る 明 治 漁 業 法( 明 治 43 年 法 律 第58 号 )が 制 定 さ れ た 。 昭 和 24 年 に 制 定 さ れ た 現 行 漁 業 法 の 前 身 と な る も の は 明 治 漁 業 法 で あ る 。
明 治 漁 業 法 は 、 漁 場 の 計 画 的 利 用 と い う 理 念 、 制 度 を 持 た な い
も の で あ り 、 免 許 権 者 が 欲 す る 漁 業 権 の 内 容 の 免 許 申 請 を す る こ
と が で き 、 漁 場 の 総 合 的 高 度 利 用 を 図 る こ と が で き な か っ た 。 明
治 漁 業 法 に つ い て は 、「 漁 業 制 度 改 革 以 前 の 漁 業 権 の 免 許 の 方 式
は 、 い わ ゆ る 先 願 主 義 と 更 新 制 度 を と つ て い た こ と が 特 徴 で あ つ
た 。 す な わ ち 、 漁 業 権 の 免 許 を 希 望 す る 者 が 自 分 の 好 き な 位 置 を
選 び 、 好 き な 内 容 の 漁 業 権 の 免 許 を 申 請 し 、 こ れ に 対 し 、 免 許 官
庁 は 、既 に 免 許 を 与 え て い る 漁 業 権 と 相 客
マ マれ な い こ と の な い 限
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か ら 、 申 請 の 適 否 を チ エ ッ ク す る 余 地 は 全 然 な か つ た 。 し か も 、
い つ た ん 免 許 さ れ た 漁 業 権 は 、 存 続 期 間 の 更 新 制 度 に よ つ て 、 漁
場 条 件 の 変 化 に か か わ り な く 、 永 久 に 続 く 権 利 と 考 え ら れ た 。 こ
の 結 果 、 漁 業 権 の 設 定 は 、 全 く 各 個 人 の 意 志 に 依 存 し 、 定 置 漁 業
に お け る 前 網 後 網 の 関 係 で し ば し ば み ら れ た よ う に お び た だ し
い 空 権 の 発 生 が あ つ た ば か り で な く 、 海 況 、 漁 況 等 の 漁 場 条 件 の
変 化 や 、 漁 具 、 漁 法 の 進 歩 に か か わ り な く 、 漁 場 の 利 用 関 係 は 固
定 化 し 、 漁 場 の 合 理 的 利 用 を 図 る こ と は 出 来 な か つ た の で あ る 。」
( 岩 本 道 夫 編『 新 漁 業 法 の 解 説 』78 頁 )、「 旧 法 当 時 、漁 業 権 免 許 に つ い て は 格 別 計 画 性 は 要 求 さ れ ず 、 個 別 に 申 請 が あ れ ば 随 時 、
申 請 に か か る と こ ろ と 相 容 れ ぬ 漁 業 権 が 申 請 水 面 に 存 在 し な い
限 り は 欲 す る 内 容 の 漁 業 権 を 附 与 す る の を 原 則 と し た 。 即 ち 漁 業
権 の 免 許 を 希 望 す る 側 で 、 欲 す る 位 置 を 選 ん で 欲 す る 内 容 の 漁 業
権 を 申 請 す れ ば 、 行 政 庁 は そ の 位 置 に 申 請 と 相 容 れ ぬ 漁 業 権 が な
い 限 り 随 時 免 許 ( 先 願 主 義 ) し た の で あ る 。 そ こ に は 漁 業 権 の 免
許 も 一 個 の 漁 場 を 計 画 的 に 利 用 す る 施 策 の 一 つ と の 意 識 は な く 、
い わ ば 漁 場 の 利 用 は 免 許 行 政 庁 の 預 か り 知 ら ぬ 問 題 と 考 え ら れ
て い た と い え よ う 。 漁 業 制 度 が 専 ら 秩 序 の 維 持 ( 消 極 行 政 ) を 目
的 と し た こ と ( い わ ゆ る 警 察 目 的 ) の 当 然 の 帰 結 で あ る 。」( 大 國
仁『 漁 業 制 度 序 説 』57頁 以 下 )、「 明 治 漁 業 法 の も と で は 、水 面 利 用 の 特 質 に 由 来 す る 漁 業 調 整 の 観 点 は 、 ほ と ん ど 考 慮 さ れ る こ と
な く 、 そ こ で は 、 私 的 財 産 権 絶 対 の 観 念 を も っ て 漁 業 権 を 取 り 扱
い 、 そ れ を 私 人 に 与 え 、 権 利 対 権 利 に よ っ て 漁 場 を 規 律 す る 方 式
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す る 者 が 自 分 の 好 き な 位 置 を 選 び 、 好 き な 内 容 の 漁 業 権 ( … ) の
免 許 を 申 請 し 、 こ れ に 対 し 、 免 許 行 政 庁 は 、 既 に 免 許 を 与 え て い
る 漁 業 権 と 相 容 れ な い こ と の な い 限 り 免 許 を す る の を 原 則 と し 、
漁 場 全 体 の 総 合 的 ・ 効 率 的 利 用 と い う 観 点 か ら 、 申 請 の 適 否 を チ
ェ ッ ク す る 余 地 は 全 然 な か っ た 。」( 杉 田 憲 治『 漁 業 法 秩 序 の 研 究 』
5 頁 、35頁 ) と い う も の で あ っ た 。
(イ) 現 行 漁 業 法 の 目 的 は 、 私 人 ( 漁 業 権 者 ) の 私 的 恣 意 を 排 し て 、
多 角 的 、 立 体 的 に 利 用 さ れ る 漁 場 の 総 合 的 高 度 利 用 を 確 保 す る こ
と に あ る 。
現 行 法 に つ い て の 漁 業 法 案 及 び 漁 業 法 施 行 法 案 の 提 案 理 由 説
明 に お い て は 、「 両 法 案 の 提 出 さ れ ま し た 政 府 の 提 案 理 由 の 内 容
を 申 し 上 げ ま す と 、 終 戦 以 来 、 漁 業 問 題 の 全 国 的 解 決 に つ き 、 去
る 第 三 国 会 に お い て 、 漁 業 制 度 改 革 の た め 水 産 業 協 同 組 合 に 関 す
る 法 律 が 成 立 し 、 す で に 本 年 二 月 十 五 日 よ り 施 行 い た し て お り ま
す が 、 根 本 的 に は 漁 業 生 産 に 関 す る 基 本 的 制 度 、 す な わ ち 漁 業 制
度 の 改 革 を 断 行 す る こ と が 不 欠 可 な も の で あ り ま し て 、 現 行 漁 業
制 度 は 、 明 治 三 十 四 年 の 漁 業 法 に お い て 初 め て 法 制 化 さ れ 、 同 四
十 三 年 の 全 面 的 改 正 に よ っ て 確 立 さ れ た も の で あ り ま す が 、 こ れ
は 旧 来 の 慣 行 を そ の ま ま に 固 定 し た も の で あ り 、 そ の 後 の 諸 般 の
情 勢 の 変 化 、 特 に 漁 業 生 産 力 の 著 し き 発 展 に も か か わ ら ず 、 基 本
的 部 分 に つ い て は 何 ら 改 正 を 見 ず に 今 日 に 至 つ た も の で あ り ま
す 。 政 府 は 、 そ の 内 容 の 根 本 的 欠 陥 と い た し ま し て は 、 個 個 の 漁
業 権 を 中 心 に 漁 場 の 秩 序 が 組 み 立 て ら れ て い る た め に 、 漁 業 生 産
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性 を 持 ち 得 な い こ と 、 ま た 適 当 な 調 整 機 構 を 伴 わ ず 、 漁 業 権 を 物
権 と し た こ と の 弊 害 面 と し て 、 権 利 者 に 不 当 に 強 い 力 が 与 え ら れ 、
漁 場 の 秩 序 が 漁 民 の 総 意 に よ つ て 民 主 的 に 起 用 さ れ て お ら ぬ こ
と 等 を あ げ ら れ て い る の で あ り ま す 。 こ れ が 漁 業 生 産 力 の 発 展 を
阻 害 し 、 ま た 漁 村 の 封 建 性 の 基 盤 を な し て い る と 指 摘 し て お り ま
す 。 従 つ て 、 漁 業 生 産 力 を 発 展 さ せ 、 漁 業 の 民 主 化 を は か る た め
に は 、 こ の 行 き 詰 ま つ た 漁 場 関 係 を 全 面 的 に 整 理 し 、 新 た に 漁 業
生 産 に 関 す る 基 本 的 制 度 を 定 め 、 民 主 的 な 漁 業 調 整 機 構 の 運 用 に
よ つ て 水 面 の 総 合 的 高 度 利 用 を は か る 必 要 を 強 調 し て お り ま す 。
こ れ が 、 漁 業 制 度 改 革 を 実 施 す る た め 必 要 な 漁 業 法 案 及 び 漁 業 法
施 行 法 案 を 提 出 さ れ ま し た 政 府 提 案 の 理 由 で あ り ま す 。」( 第 6 回
国 会 衆 議 院 会 議 録 第 19号 ) と 説 明 さ れ て い る 。
そ し て 、 民 主 的 な 漁 業 調 整 機 構 の 運 用 に よ っ て 水 面 の 総 合 的 高
度 利 用 を は か る た め の 新 た な 漁 業 生 産 に 関 す る 基 本 的 制 度 と し て 、
現 行 漁 業 法 は 、 漁 場 計 画 制 度 と い う 仕 組 み を 採 用 し た の で あ る 。
イ 漁 場 計 画 制 度 の 仕 組 み
(ア) 漁 業 権 は 免 許 に よ っ て 設 定 さ れ る も の で あ る か ら 、漁 業 権 の内
容 と は 、 漁 業 の 種 類 、 漁 場 の 位 置 及 び 区 域 、 漁 業 時 期 等 の 免 許 の
内 容 た る べ き 事 項 ( 漁 業 法 11 条1項 ) に ほ か な ら な い 。
そ し て 、 こ の 免 許 の 内 容 ( 漁 業 権 の 内 容 ) を 定 め る 仕 組 み に つ
い て 、 現 行 漁 業 法 は 、 免 許 の 内 容 ( 漁 業 権 の 内 容 ) を 免 許 申 請 者
が 決 め る こ と は で き な い も の と し 、 私 的 恣 意 を 認 め な い 仕 組 み を
採 用 し て い る 。
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し て 漁 業 権 の 免 許 を 申 請 す る こ と は で き な い 。
(イ) 漁 業 法 は 、漁 業 権 の 免 許 に 関 し 、免 許 の 内 容 等 を 漁 場 計 画 に よ
っ て 事 前 決 定 し 、そ の 後 に 漁 業 権 設 定 希 望 者 が 免 許 申 請 を 行 う(漁 場 計 画 と 異 な る 免 許 申 請 は 認 め ら れ な い)と す る 仕 組 み( 漁 場 計 画 制 度 ) を 採 用 し た 。
都 道 府 県 知 事 は 、 そ の 管 轄 に 属 す る 水 面 に つ き 、 漁 業 上 の 総 合
利 用 を 図 り 、 漁 業 生 産 力 を 維 持 発 展 さ せ る た め に は 漁 業 権 の 内 容
た る 漁 業 の 免 許 を す る 必 要 が あ り 、 か つ 、 当 該 漁 業 の 免 許 を し て
も 漁 業 調 整 そ の 他 公 益 に 支 障 を 及 ぼ さ な い と 認 め る と き は 、 漁 業
計 画 ( 免 許 の 内 容 た る べ き 漁 業 種 類 、 漁 場 の 位 置 及 び 区 域 、 漁 業
時 期 そ の 他 免 許 の 内 容 た る べ き 事 項 、 免 許 予 定 日 、 申 請 期 間 並 び
に 地 元 関 係 地 区 ) を 定 め な け れ ば な ら な い ( 漁 業 法 11 条 1 項 )。 す な わ ち 、 漁 業 権 を 免 許 す る 「 必 要 性 」 と 、 免 許 し て も 漁 業 調 整
そ の 他 の 公 益 に 支 障 を 及 ぼ さ な い と い う 「 公 益 適 合 性 」 の 2 つ の
要 件 を 具 備 す る 場 合 に は 樹 立 し な け れ ば な ら ず 、 2 つ の 要 件 を 具
備 す る 場 合 で な い と 樹 立 さ れ な い も の で あ る 。
そ し て 、 都 道 府 県 知 事 は 、 漁 業 計 画 を 定 め な け れ ば な ら な い と
き は 、 漁 民 の 要 望 及 び 漁 場 条 件 の 調 査 を 経 て 漁 場 計 画 ( 案 ) を 作
成 し 、海 区 漁 業 調 整 委 員 会 へ の 諮 問 を し( 漁 業 法 11 条1項 )、海 区 漁 業 調 整 委 員 会 は 、 あ ら か じ め 公 聴 会 を 開 催 ( 漁 業 法 11 条 4 項 ) し た 上 で 、 都 道 府 県 知 事 に 答 申 し 、 都 道 府 県 知 事 は こ の 海 区
漁 業 調 整 委 員 会 の 意 見 を き い て 、 免 許 の 内 容 た る べ き 事 項 、 免 許
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漁 業 権 の 内 容 は 、 免 許 申 請 以 前 に 漁 場 計 画 に よ っ て 定 め ら れ る も
の で あ る 。
こ の 免 許 内 容 の 事 前 決 定 手 続 の 後 、 漁 業 権 設 定 希 望 者 は 都 道 府
県 知 事 に 対 し て 免 許 申 請 を 行 う が( 漁 業 法10 条 )、漁 場 計 画 と 異 な る 内 容 の 免 許 申 請 は 認 め ら れ な い( 漁 業 法 13条 1項 2 号 )。免 許 申 請 が な さ れ る と 、 都 道 府 県 知 事 は 海 区 漁 業 調 整 委 員 会 へ 諮 問
し( 漁 業 法 12 条 )、海 区 漁 業 調 整 委 員 会 は 適 格 性 の 審 査( 漁 業 法
14 条 )、優 先 順 位 の 審 査( 漁 業 法 15条 か ら19 条 )を し て 都 道 府
県 知 事 に 答 申 し 、 こ れ を 受 け て 都 道 府 県 知 事 は 免 許 又 は 不 免 許 を
し( 漁 業 法 10条 )、免 許 が な さ れ た 場 合 に 漁 業 権 が 設 定 さ れ る も の で あ る 。
な お 、 漁 業 法 11 条 の 2 は 、 漁 業 権 の 空 白 を 生 じ さ せ な い た め に 、 現 に 漁 業 権 を 有 す る 水 面 に つ い て の 当 該 漁 業 権 の 存 続 期 間 満
了 に 伴 う 場 合 に あ っ て は 当 該 存 続 期 間 の 満 了 日 の 3 ヵ 月 前 ま で
に 漁 場 計 画 を 定 め な け れ ば な ら な い こ と を 定 め て い る 。
ウ 漁 場 計 画 制 度 は 漁 業 法 ・ 漁 業 権 制 度 の 根 幹 を な す も の で あ る こ と
(ア) 漁 業 法 1 条 は 、 漁 業 法 の 目 的 に つ い て 、「 こ の 法 律 は 、 漁 業 生
産 に 関 す る 基 本 的 制 度 を 定 め 、 漁 業 者 及 び 漁 業 従 事 者 を 主 体 と す
る 漁 業 調 整 機 構 の 運 用 に よ つ て 水 面 を 総 合 的 に 利 用 し 、 も つ て 漁
業 生 産 力 を 発 展 さ せ 、 あ わ せ て 漁 業 の 民 主 化 を 図 る こ と を 目 的 と
す る 。」と し 、水 面 を 総 合 的 に 利 用 し て 漁 場 生 産 力 を 発 展 さ せ る こ
と と 、 漁 業 の 民 主 化 を 図 る こ と を 目 的 と し て 定 め て い る 。
(イ) 水 面 の 総 合 的 高 度 利 用 を 図 る と い う 目 的 達 成 の 基 盤 と な る も
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(1)イ に お い て 述 べ た と お り 、 漁 業 の た め の 水 面 利 用 の 特 質 は 、
水 面 を 立 体 的 に 重 畳 的 に 利 用 す る こ と に あ り 、 一 つ の 水 面 に 漁 業
権 は 重 複 し て 成 立 し う る こ と に あ る が 、 こ の よ う に 水 面 利 用 の 特
質 か ら 、 そ の 総 合 的 高 度 利 用 が 求 め ら れ る も の で あ る 。
す な わ ち 、「 漁 業 法 の 目 的 は 、 水 面 を 総 合 的 に 利 用 す る こ と に
よ っ て 漁 業 生 産 力 を 発 展 さ せ る こ と に な っ て い ま す 。 あ る 水 面 の
利 用 を 考 え て み た 場 合 、 例 え ば 、 立 体 的 に も 表 層 、 中 層 、 海 底 と
い う よ う に 、 上 か ら 見 れ ば 同 じ 水 面 の 中 で も 、 立 体 的 に そ れ ぞ れ
の 漁 業 が 存 在 す る 。 そ れ か ら 、 時 期 的 に 言 っ て も 、 一 つ の 場 所 に
時 期 に よ っ て は い ろ い ろ な 漁 業 が 存 在 し て い る わ け で す 。 こ の よ
う に 、 水 面 の 利 用 と い う も の は 、 非 常 に 多 目 的 で 、 し か も 多 種 に
利 用 で き る わ け で す 。 そ れ で 、 そ の よ う な 特 質 を も っ て い る 水 面
を 総 合 的 に 利 用 す る に は 、 も と に な る 総 合 的 な 利 用 計 画 を 定 め な
け れ ば な ら な い と い う の が 、 漁 場 計 画 制 度 の 根 本 的 な も の の 考 え
方 」( 浜 本 幸 生『〔 最 新 〕早 わ か り「 漁 業 法 」全 解 説 』291頁 )、「 漁 場 計 画 制 度 の 意 義 そ も そ も 水 面 に は 、 魚 類 、 貝 類 、 藻 類 な ど の
水 産 動 植 物 が 平 面 的 に も 立 体 的 に も 重 複 し て 分 布 し て い ま す の
で 、 こ れ ら を 対 象 と す る 漁 業 も ま た 各 種 の 形 態 の も の が 重 な り 合
っ て 行 わ れ る こ と に な り ま す 。 し た が っ て 水 面 を 分 割 す る こ と は 、
技 術 的 に 不 可 能 な ば か り で は な く 、 漁 業 生 産 力 の 発 展 の た め に も
適 当 で は あ り ま せ ん 。 そ れ で 、 あ る 水 面 全 体 の 計 画 的 な 利 用 が お
の ず か ら 必 要 と な っ て く る の で す 。」( 漁 協 組 織 研 究 会 編 著 『 水 協
法 ・ 漁 業 法 の 解 説 (21版 )』363頁 ) と さ れ て い る も の で あ る 。
26
海 区 漁 業 調 整 委 員 会 で あ る 。
漁 業 法 1 条 は 、 漁 業 法 の 目 的 に つ い て 、「 こ の 法 律 は 、 漁 業 生
産 に 関 す る 基 本 的 制 度 を 定 め 、 漁 業 者 及 び 漁 業 従 事 者 を 主 体 と す
る 漁 業 調 整 機 構 の 運 用 に よ つ て 水 面 を 総 合 的 に 利 用 し 、 も つ て 漁
業 生 産 力 を 発 展 さ せ 、 あ わ せ て 漁 業 の 民 主 化 を 図 る こ と を 目 的 と
す る 。」 と 定 め て い る 。
水 産 庁 在 職 職 員 を 中 心 と し た 漁 業 法 研 究 会 の 手 に な る 『 最 新
逐 条 解 説 「 漁 業 法 」』 の 同 条 の 解 説 に は 、「『 漁 業 生 産 に 関 す る 基
本 的 制 度 』 と は 、 漁 業 生 産 に 関 す る さ ま ざ ま な 制 度 の 中 で 、 漁 業
生 産 に あ た っ て は 『 漁 場 』 を 使 用 で き る か ど う か が 基 本 的 な 出 発
点 で あ る こ と か ら 、『 漁 場 を 誰 に 、 ど の よ う に 使 わ せ 、 そ れ を 誰
が 決 め る か を 定 め る 制 度 』 を い う 。『 漁 業 者 及 び 漁 業 従 事 者 を 主
体 と す る 漁 業 調 整 機 構 』 と は 、 漁 業 調 整 委 員 会 ( 海 区 漁 業 調 整 委
員 会 、 連 合 海 区 漁 業 調 整 委 員 会 及 び 広 域 漁 業 調 整 委 員 会 ) を 指 す
も の で あ る が 、 内 水 面 漁 場 管 理 委 員 会 も こ れ に 準 ず る も の で あ る 。
『 漁 業 調 整 』 と は 、 水 面 を 総 合 的 に 利 用 し 、 漁 業 生 産 力 の 民 主 的
発 展 を 図 る こ と を い い 、 本 法 の 目 的 を 示 す 概 念 で あ る 。『 水 面 を
総 合 的 に 利 用 』 す る と は 、 一 定 の 水 面 を 多 種 多 様 な 漁 業 が 立 体 的
か つ 重 複 的 に 用 い る こ と を い う 。『 漁 業 者 及 び 漁 業 従 事 者 を 主 体
と す る 漁 業 調 整 機 構 の 運 用 に よ つ て 水 面 を 総 合 的 に 利 用 し 、 も つ
て 漁 業 生 産 力 を 発 展 さ せ 』 る と は 、 各 当 事 者 の 私 的 恣 意 に 放 任 せ
ず 、 漁 業 調 整 機 構 が 全 体 的 な 見 地 か ら 、 こ れ ら 異 な る 漁 業 相 互 の
調 整 を 行 い 、 水 面 を 最 大 限 に 活 用 し 、 漁 業 生 産 力 を 発 展 さ せ る こ
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れ を 区 画 し て 利 用 権 を 認 め れ ば 、 そ の 区 域 を ど う 使 お う と 他 へ の
影 響 は 通 常 大 き く な い 。 一 方 、 水 面 は 一 定 の 水 面 に 多 種 多 様 な 漁
業 を 包 摂 し 、 立 体 的 、 重 複 的 に 利 用 さ れ 、 一 漁 業 の 操 業 は 必 ず 他
の 漁 業 に 影 響 を 及 ぼ す た め 、 水 面 を 区 画 し て 分 割 所 有 さ せ る こ と
は で き ず 、 適 当 な 調 整 の 下 に 全 体 的 か つ 総 合 的 な 利 用 を 図 る 方 式
と し な け れ ば な ら な い の で あ る 。」(15 頁)と さ れ て い る 。 ま た 、 金 田 禎 之『 新 編 漁 業 法 の こ こ が 知 り た い( 2 訂 増 補 版 )』は 、「 現
行 漁 業 法 の 特 色 … 最 大 の も の の 一 つ は 、 漁 業 調 整 委 員 会 制 度 を 取
り 入 れ た こ と で す 。 漁 業 法 ( 第 1 条 ) の 目 的 で 『 漁 業 者 及 び 漁 業
従 事 者 を 主 体 と す る 漁 業 調 整 機 構 の 運 用 に よ っ て 水 面 を 総 合 的
に 利 用 し 、 漁 業 生 産 力 を 発 展 さ せ 、 あ わ せ て 民 主 化 を 図 る こ と を
目 的 と す る 。』 と 規 定 さ れ て い ま す 。 つ ま り 、 現 行 の 漁 業 制 度 に
お い て は 、 い か に 水 面 を 総 合 的 に 利 用 し 、 い か に 漁 業 生 産 力 を 発
展 さ せ る か は 、 漁 業 者 及 び 漁 業 従 事 者 を 主 体 と す る 漁 業 調 整 機 構
= 漁 業 調 整 委 員 会 シ ス テ ム の 運 用 を 図 っ た う え で 行 う こ と が 原
則 と な っ て い る 」(75頁 ) と し て い る 。
こ の 漁 業 調 整 機 構 、 す な わ ち 、 海 区 漁 業 調 整 委 員 会 が 漁 場 計 画
の 樹 立 に お い て 果 た し て い る 役 割 に つ い て 、 浜 本 幸 生 『〔 最 新 〕
早 わ か り 「 漁 業 法 」 全 解 説 』 は 、「 あ る 水 面 の 総 合 利 用 計 画 を 、
ま ず 、 法 律 上 は 知 事 の 名 前 で 立 て る 。 し か し 、 実 際 に は 、 総 合 利
用 計 画 を 立 て る の は 、 第 一 条 に あ り ま す よ う に 、 海 区 漁 業 調 整 委
員 会 の 運 用 に よ っ て 立 て る わ け で す か ら 、 実 質 的 に は 、 海 区 漁 業
調 整 委 員 会 の 役 割 が 、 非 常 に 大 き な 意 義 を も っ て い ま す 。 海 区 漁
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を 先 に つ く っ て 、 そ の 総 合 利 用 計 画 の 中 で そ れ ぞ れ 個 別 の 漁 業 権
の 位 置 付 け を し て し ま う 。 総 合 的 な 利 用 に な じ む よ う に 漁 業 権 の
場 所 と か 種 類 と か と い う も の を 、 先 に 決 定 す る 。 こ の 方 法 に よ っ
て 総 合 利 用 を 図 っ て い こ う と い う こ と が 、 漁 場 計 画 制 度 の 根 本 で
あ る わ け で す 。」(291頁 ) と し て い る 。
(エ) 以 上 の よ う な 手 続 で 決 定・公 示 さ れ た 漁 場 計 画 の 内 容 と 異 なる
免 許 申 請 を し た 場 合 及 び 漁 場 計 画 が 公 示 さ れ て い な い の に 免 許 申
請 を し た 場 合 は 、 都 道 府 県 知 事 は 免 許 を し て は な ら な い と さ れ て
い る 。( 漁 業 法 13 条 1 項 2 号 )。
漁 業 者 が 勝 手 に 自 分 に 都 合 の よ い 漁 業 権 を 欲 し い と い う 申 請
を 認 め る と 、 漁 場 の 計 画 的 な 利 用 を 図 る こ と が で き な く な る か ら
で あ る 。
(オ) 以 上 の と お り 、現 行 漁 業 法 は 、免 許 の 内 容 、す な わ ち 、漁 業 権
の 内 容 は 、 漁 場 計 画 に よ っ て の み 定 め る こ と が で き る も の と し て 、
漁 業 権 者 が 漁 業 権 の 内 容 を 決 定 す る と い っ た 私 的 恣 意 を 認 め な
い と い う 仕 組 み ( 漁 場 計 画 制 度 ) を 採 用 し て お り 、 こ の 漁 場 計 画
制 度 こ そ が 漁 業 法 の 目 的 を 達 成 す る た め の 根 幹 を な す 仕 組 み で
あ る 。
3 本 件 水 域 は 「 漁 場 の 区 域 」 か ら 除 外 さ れ て い な い こ と ( 共 同 第 5 号 漁
業 権 の 「 漁 場 の 区 域 」 の 縮 小 は な さ れ て い な い こ と )
(1) 漁 業 権 の 免 許 の 内 容 で あ る「 漁 場 の 区 域 」の 変 動( 縮 小 )は 行 政 行
為 に よ り な さ れ る こ と
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変 動 さ せ る こ と は で き な い こ と
(ア) 漁 業 権 は 、行 政 行 為 に よ っ て 設 定 さ れ る も の で あ る が 、私 権 た
る 財 産 権 で あ り 、 権 利 自 体 は 私 法 上 の 財 産 処 分 の 客 体 と な る も の
で あ る2。
し か し 、 こ の こ と は 、 漁 業 権 の 内 容 の 変 更 を 私 人 ( 漁 業 権 者 )
の 意 思 表 示 で 行 え る こ と を 意 味 す る も の で は な い 。 行 政 行 為 に よ
り 定 ま っ た 権 利 の 内 容 を 私 人 ( 漁 業 権 者 ) が 変 動 さ せ る こ と が で
き る の か と い う こ と と 、 私 人 ( 漁 業 権 者 ) が 財 産 権 の 処 分 を で き
る の か と い う こ と で は 、 事 柄 の 性 質 が ま っ た く 異 な る も の で あ り 、
混 同 さ れ て は な ら な い 。
漁 業 権 の 内 容 ( 漁 業 種 類 、 漁 場 の 位 置 及 び 区 域 、 漁 業 時 期 等 )
は 行 政 行 為( 免 許 )に よ っ て 設 定 さ れ る も の で あ る か ら 、私 人( 漁
業 権 者 ) の 意 思 表 示 に よ っ て 行 政 行 為 の 効 果 ( 免 許 の 内 容 ) を 変
動 さ せ る こ と が で き な い 。 す な わ ち 、「 漁 業 権 の 内 容 変 更 は 、 漁
業 権 の 貸 付 、 譲 渡 等 の 処 分 と 同 一 に 論 じ 得 る 性 質 の も の で は な い 。
い い か え る と 漁 業 権 の 内 容 変 更 は 、 財 産 と し て の 処 分 の 問 題 で は
な い 」( 大 國 仁 『 漁 業 制 度 序 説 』91 頁 )。
都 道 府 県 知 事 の 免 許 に よ っ て 設 定 さ れ た 漁 業 権 の 内 容 ( 漁 業 種
類 、 漁 場 の 位 置 及 び 区 域 、 漁 業 時 期 等 ) の 変 動 は 、 あ ら た な 行 政
行 為 に よ っ て な さ れ る こ と に な り 、 私 人(漁 業 権 者)の 意 思 表 示 に よ っ て 漁 業 権 の 内 容 を 変 動 さ せ る こ と は で き な い 。
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漁 業 権 の 内 容 の 変 動 は 、 新 た な 行 政 行 為 に よ る か 、 ま た は 、 物
理 現 象 ( 水 域 の 陸 地 化 ) に よ っ て の み 生 じ る も の で あ る3。
免 許 に よ り 漁 業 権 が 設 定 さ れ る と い う 基 本 的 仕 組 み は 、 明 治 漁
業 法 、 現 行 漁 業 法 に 共 通 す る も の で あ り 、 い ず れ の 解 釈 に お い て
も こ の 理 は 当 然 と さ れ て い る 。す な わ ち 、明 治 漁 業 法 に つ い て は 、
「 漁 業 権 の 変 更 に 付 て は 三 つ の 場 合 を 考 へ 得 る 。 そ の 一 は 自 然 的
事 実 の 発 生 に 因 る 場 合 で あ り 、 そ の 二 は 漁 業 権 者 の 意 思 に 基 づ く
場 合 で あ り 、そ の 三 は 行 政 官 庁 の 処 分 に 因 る 場 合 で あ る 。そ の 中 、
自 然 的 事 実 の 発 生 に 因 る 場 合 と 謂 ふ の は 土 地 の 状 況 又 は 海 況 の
変 化 、 例 へ ば 土 地 の 崩 壊 又 は 海 底 の 隆 起 に 因 つ て 漁 場 の 一 部 が 滅
失 し た と 謂 ふ 様 な 場 合 で あ つ て 、 斯 か る 場 合 に は 当 然 漁 業 権 の 内
3 漁 業 権 は 権 利 で あ る か ら 、対 象 を 失 っ た 場 合 に は 権 利 内 容 は 不 能 と な り 、不 能 と い う 事 実 に よ っ て 当 然 に 権 利 の 全 部 ま た は 一 部 に つ い て 変 動 が 生 じ る こ と に な る 。水 面 の 陸 地 化 と い う 事 実 に よ る 権 利 内 容 の 変 動 に つ い て は 、 事 柄 の 性 質 上 当 然 の こ と で あ る が 、 変 更 免 許 は 不 要 で あ る 。 大 審 院 昭 和10年 2 月22日 判 決 は 「 海 岸 線 ハ 自 然 カ 其 ノ 他 ノ 原 因 ニ 依 リ 変 更 ス ル コ ト ア ル ヘ キ ヲ 以 テ 前 示 海 岸 線 カ 変 更 シ タ ル ト キ ハ 之 ニ 伴 ヒ 当 然 右 専 用 漁 場 区 域 モ 亦 変 更 ヲ 来 ス へ ク 特 ニ 漁 場 区 域 ノ 指 定 変 更 等 ノ 処 分 ヲ 俟 ツ ノ 要 ナ キ コ ト ハ 前 示 専 用 漁 業 免 許 ノ 際 其 ノ 漁 場 区 域 ヲ 定 ム ル ニ 海 岸 線 ヲ 以 テ 陸 地 ト ノ 限 界 ト ナ シ 其 ノ 沖 合 ヲ 同 区 域 ト 為 シ タ ル 趣 旨 ニ 照 シ 明 瞭 ナ リ 」 と し 、 行 政 解 釈 に お い て も 、「 最 大 高 潮 時 の 海 岸 線 を 陸 地 側 の 限 界 と し て そ の 沖 合 の 一 定 区 域 を 漁 業 権 の 免 許 内 容 で あ る 漁 場 区 域 と 定 め て い る 場 合 は 、 浸 食 そ の 他 自 然 力 に よ っ て 海 岸 線 が 移 動 す る に 伴 い 、 漁 場 区 域 も 自 然 に 変 更 し 、漁 業 法 第 二 十 二 条 第 一 項 の 変 更 免 許 等 の 処 分 を 要 し な い と 解 す る 。 海 岸 線 の 移 動 に よ っ て 私 有 地 が 最 大 高 潮 時 に 海 面 下 に 没 す る に い た っ た と き も 、 ま た 同 様 で あ る 」( 昭 和33年 8 月29日 水 産 庁 漁 政 部 長 鳥 取 県 経 済 部 長 あ て )と さ れ て い る 。物 理 的 現 象 に よ る 漁 場 の 区 域 の 変 動 に つ い て 、変 更 免 許 を 不 要 と し て も 、漁 場 計 画 で 定 ま っ た 免 許 の 内 容 を 、漁 業 権 者 の 意 思 表 示 に よ っ て 変 更 す る こ と に な る も の で は な く 、漁 場 計 画 制 度 と な ん ら 矛 盾 す る も の で は な い 。な お 、公 有 水 面 埋 立 法 と 漁 業 法 は 法 の 趣 旨・目 的 を 異 に す る 異 な る 法 体 系 の 法 で あ る か ら 、公 有 水 面 埋 立 免 許 が な さ れ た と し て も 、 そ の こ と に よ っ て 漁 業 権 の 内 容 の 変 動 が 生 じ る わ け で は な い 。 大 審 院 昭 和
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容 た る 事 項 に 変 動 を 生 ず る の で あ る か ら 、 別 に 説 明 を 要 し な い で
あ ら う 。漁 業 権 者 の 意 思 に 基 づ く 漁 業 権 の 変 更 は 、漁 業 権 の 分 割 、
漁 業 の 種 類 又 は 時 期 若 は 漁 場 其 の 他 に 付 て の 拡 張 縮 小 等 を 謂 ふ
も の と 観 て よ か ら う 。」( 長 瀬 貞 一 ほ か 『 水 産 学 全 集 』242 頁 ) と さ れ 、 現 行 漁 業 法 に お い て も 同 様 に 「 漁 業 権 の 変 更 と は 、 そ の 同
一 性 を 害 し な い 程 度 で 、 そ の 内 容 を 変 更 す る こ と を い い 、 お お む
ね 三 つ の 場 合 が 考 え ら れ る 。 (1) 自 然 的 事 実 の 発 生 に よ る 場 合 海 浜 の 状 況 、 ま た は 海 況 の 変 化 に よ り 、 漁 業 権 の 内 容 で あ る 事 項
に 変 動 を 生 ず る 場 合 で あ る 。 (2) 漁 業 権 者 の 意 思 に 基 づ く 場 合 漁 業 権 の 内 容 た る 漁 場 の 位 置 及 び 区 域 、 漁 業 時 期 そ の 他 免 許 の 内
容 た る べ き 事 項 に つ い て の 拡 張 、 縮 小 等 の 場 合 で あ る 。 漁 業 権
の 分 割 変 更 に つ い て は 、 免 許 の 場 合 と 同 様 、 免 許 官 庁 の 免 許 を う
け な け れ ば な ら な い 。( 法 第 二 二 条 第 一 項 )。」( 工 藤 重 男 『 判 例 通
達 に よ る 漁 業 法 解 説 』63 頁 ) と さ れ て い る 。
以 上 の と お り 、 漁 業 権 の 内 容 の 変 動 の 原 因 に は 3 つ あ る と さ れ
て い る が 、 こ れ を さ ら に 、 物 理 的 現 象 に よ る 変 動 と 新 た な 行 政 行
為 に よ る 変 動 と に 分 類 す る こ と が で き る 。 そ し て 、 新 た な 行 政 行
為 に よ る 変 更 ( 漁 業 権 の 内 容 の 変 動 ) は 、 漁 業 権 者 の 意 思 に 基 づ
く ( 漁 業 権 者 の 申 請 に 対 す る ) 変 更 免 許 と 公 益 上 の 必 要 に よ っ て
な さ れ る 漁 業 権 の 変 更 の 2 種 類 が あ る こ と に な る 。 漁 業 法 22 条 は 漁 業 権 者 の 意 思 に 基 づ く ( 漁 業 権 者 の 申 請 に 対 す る ) 免 許 に よ
る 「 漁 業 権 の 変 更 」 を 定 め 、 同 法 39 条 は 公 益 上 の 必 要 に よ り 都 道 府 県 知 事 が 「 漁 業 権 の 変 更 」 を す る こ と が で き る こ と を 定 め て
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水 産 庁 経 済 課 編 『 漁 業 制 度 の 改 革 』 は 、 同 法 39 条 の 「 漁 業 権 の 変 更 」 に つ い て 、「『 漁 業 権 の 変 更 』 と は 、 漁 場 区 域 を 縮 め る と
か 、 漁 業 種 類 を 減 ら す と か 、 漁 業 時 期 を 短 縮 す る と か そ の 他 漁 業
権 の 内 容 を 構 成 す る 要 素 を 変 え て 漁 業 権 の 内 容 を 変 更 す る こ と
を い う 。 旧 法 で は 『 免 許 シ タ ル 漁 業 ヲ 制 限 シ 』 と い う 字 句 を 用 い
て い た が 、 こ れ は 制 限 條 件 の 制 限 と ま ぎ ら わ し く 、 漁 業 権 に 外 部
か ら 制 限 を 加 え て そ の 結 果 間 接 に 漁 業 権 の 内 容 を 縮 小 す る の で
は な く 、 漁 業 権 の 内 容 を 変 え る の で あ る か ら 、 明 確 に 漁 業 権 を 変
更 す る と し た 。 し た が っ て 漁 業 権 の 変 更 に は 、 第 二 十 二 条 に 規 定
さ れ て い る 漁 業 権 者 の 申 請 に も と づ く 変 更 の 免 許 と 本 條 に よ る
変 更 の 処 分 と 両 方 あ る わ け で あ る 。」(513頁 ) と し て い る 。
(イ) 漁 業 権 が 免 許 に よ っ て 設 定 さ れ る と い う こ と は 、 明 治 漁 業 法 、
現 行 漁 業 法 の い ず れ に も 共 通 し た 漁 業 権 の 基 本 的 な 仕 組 み で あ
る が 、 行 政 行 為 の 効 果 を 私 人 の 意 思 表 示 で 変 動 さ せ る こ と は で き
な い と い う こ と は 、 行 政 法 の 原 理 よ り し て 当 然 の こ と で あ り 、 明
治 漁 業 法 に お い て も 、 免 許 の 内 容 を 変 動 さ せ る た め に は 新 た な 行
政 行 為 が 必 要 と さ れ て い た も の で あ る 。
明 治 漁 業 法 に つ い て の 体 系 書4で あ る 井 出 正 孝 『 漁 業 法 』( 昭 和
13 年 ) は 、「 漁 業 権 の 変 更 と は 漁 業 権 の 目 的 た る 水 産 動 植 物 の 採
補 又 は 養 殖 の 内 容 に 関 す る 変 更 で あ る 。 漁 業 権 の 目 的 た る 水 産 動
植 物 の 採 補 又 は 養 殖 の 内 容 は 特 定 範 囲 の 漁 場 、 漁 業 種 類 、 漁 業 時
期 、 存 続 期 間 等 諸 条 件 に 依 り 構 成 せ ら れ た る 特 定 内 容 の も の で あ
る 。 而 し て 之 等 の 諸 条 件 は 漁 業 法 及 施 行 規 則 に 依 り 法 定 せ ら れ た