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被災地における若年女性相談のまとめ
はじめに
被災地の若年女性の課題はこれまで見過ごされがちであった。それは、年齢が若く健康であるため、一 般には行政等の支援対象とはみなされにくいからである。
しかし、特定非営利活動法人オックスファム・ジャパンが2014年に実施した東日本大震災・被災地の 若年女性調査報告では、若年女性たちにはやはり特有のニーズがあることが示されている。内閣府が定期 的に実施している男女間暴力調査においても、様々な暴力被害を受ける年代は10代から20代である割合 が非常に高い。全国と被災地の電話相談の比較をした際には平成 26 年度の女性支援専門ラインにかけて くる割合が全国ではよりそいホットライン全体の4.8%であるのに対して被災地では8.4%とおよそ2倍であっ た。一方で 10 代、20 代の相談件数は全国が 20.0% であるものの、被災地は 5.7% と極端に低く、被害が 訴えにくい状況であるということもわかってきた。加えて、被災三県の地域センターに、若年女性への路上 の「声掛け事案」の増加などを危惧する相談も寄せられていたことなどを踏まえて、よりそいホットライン の専門ラインとの一つとして「被災地の若年女性の相談」窓口を設置することとした。
設置にあたっては、世代の特徴として電話よりはインターネットを利用したソーシャルネットワークサービ ス(SNS)の方が利用率が高い層にリーチしやすいことが考えられるため、電話相談と「グループチャット」(イ ンターネット上でテキストの投稿によってリアルタイムの会話を行うこと)を設置した。
相談開始初年度である27年度について、「相談者はどのような若年女性たちであったのか」という10 代、 20 代の相談者のプロフィールを分析した。
1 実施期間
平成 27 年 6 月 3 日~平成 28 年 3 月 31 日
2 電話および SNS の相談日等について
≪電話相談≫
火曜日 16:00 ~ 4:00 木曜日 16:00 ~ 4:00 土曜日 16:00 ~ 4:00
≪ SNS グループチャット≫
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3 電話受付数等
(1) 電話相談件数と年代
電話数 完了呼数
1,221(件) 697(件)
(2) 年代別電話相談件数
10 代 20 代 不明(30 代と不明)
125( 件 ) 496(件) 76(件)
(3)SNS 相談
ルーム開設数 501(件)
ログイン数 1,063(件)
ユーザー登録 313(人)
●ユーザーが登録している地域
岩手 172 件
宮城 55 件
福島 68 件
その他 17 件
●平均年齢
19.1 歳(年齢のわかったもの 228 人)
年代の分布は図1の通り。10 代は中学から高校の低学 年が大勢を占めている。
4 電話相談カルテ集計
対象期間:2015 年 6 月1 日~ 12 月 31 日
対象エリア:岩手県、宮城県、福島県の3県 453 件中、女性 444 件。なお、②同居者以降の集計につ いては、10 代 20 代の女性に限定した 378 件を対象としている。
相談表の集計は次の通りである。(単位:%)
10代
20代 30代
不明
2.1%
32.3% 35.4%
(n=189)
30.2%
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1)年代
20 代が 65.8%と過半数を超えている。やはり、10 代は電話がしにくいことが見て取れる。
0 20 40 60 80 100
70代以上 情報なし
60代 50 代 40代 30代 20代 10代 女性 (N=444)
(単位:%)
図2 年代
65.8
19.4 3.8 10.1
2) 同居者
相談者のうち同居者が「いる」割合は 56.9% であり、27.5%が同居者がおらず、単身であることがわかる。
0 40
情報なし いない いる
女性 (N=378)
(単位:%)
図3 同居
20 60
56.9 27.5
80 100
15.6
同居者が「いない」人についてさらに詳細に見た。年代不明除くと 104 人となり、10 代が 1 人、20 代 が 103 人であった。
・79%が仕事についている
・疾病があるものは 44 人と約 4 割に及び、そのほとんどは精神疾患である。そのうち14 人(13%)が 正規職員として働きながら通院等をしている
・56.7%の人が相談できる人がいる
3) 相談できる人
相談できる人が「いる」割合は半数を占め、「いない」人よりも 18.2 ポイント高くなっているものの、パー トナー、家族、学校や職場の人に相談できる人は、それぞれわずか 3% 以下である。相談できない人の理 由は「孤立」が 63.1% と高い。
0 20 40 60 80 100
女性 (N=378)
(単位:%)
図4 相談できる人
32.3 50.5 17.2
情報なし いる
いない
女性 (N=191)
(単位:%)
図 5 相談できる人の関係(相談できる人がいる人のみ、複数回答)
2.1 29.8 65.4 2.1
1.6
情報なし
友人 家族 職場の人 その他
パートナー
0.0
0 20 40 60 80 100
女性 (N=122)
(単位:%)
図 6 いない理由(相談できる人がいない人のみ)
63.1
0.8 36.1
第
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相談できる人がいない女性たちはどのような状況にいるのであろう。
・相談できる人がいない人のうち、28.7% が 10 代、71.3% が 20 代である。 ・仕事があるものが 58.2%、仕事のないものは 40.2%である。
・疾病があるものは 36.9%である。 ・障害があるものは 5.7%である。
・一番多い悩みは「心や体の違和感」で 38.5% であった。そこにチェックされた主訴を見ると、家族関 係を含む人間関係の中で翻弄され、戸惑い、生き辛さを感じている様子が見える。「母から反対され ていた男性と隠れて付き合って妊娠し中絶。赤ちゃんのことより母に怒られることを恐がった自分が ショック」や、「人から嫌われたくない、休みも人に好かれる機会つくりとして友人の誘いに乗ってしまう。 人から好かれたい、嫌われたくない」などの悩みが話されている。
一般ラインの相談者が、精神疾患や障がいの悩みを主に相談されているのとは異なり、社会での身の処 し方、人間関係の作り方などのスキルを獲得できていない悩みを相談していると言える。
4)仕事の有無
相談者のうち、仕事が「なし」の人の割合は 39.7% であり、その内訳は 57.3% が「学生」で最も高く、 続いて「病気療養中」が 16.7%、「求職中・職業訓練中」が 12% と並ぶ。一方で仕事が「あり」の人は全体 の 55.6% あり、よりそいホットラインの中の全体を考えると高い就業率を示している。仕事ありの人の就労 形態は 29.5% が正規労働である。非正規労働は「パート・アルバイト」「契約・属託」「派遣」「その他非正規」 を合計すると 30% となり正規・非正規の割合がほぼ同程度である。
0 20 40 60 80 100
女性 (N=378)
(単位:%) 図 7 仕事の有無
55.6
39.7 4.8
情報なし なし あり
0 20 40 60 80 100
情報なし 女性
(N=210)
(単位:%)
図8 就労形態(仕事ありの人のみ)
20.5 32.9 29.5
3.8 3.8 5.2
その他 福祉的就労 請負
家族従業者 自営業
経営者・役員 その他非正規
派遣 契約・嘱託 パート・アルバイト
正規
0 20 40 60 80 100
情報なし
女性
(N=150)
(単位:%)
図9 仕事なしの詳細(仕事なしの人のみ)
16.7 12.7 57.3 12
その他 ボランティア・社会活動 病気療養中
求職中・職業訓練中 学生
家事手伝い 専業主婦・主夫
5) 社会的居場所
社会的居場所は「あり」が 70.1% であり、
居場所のない人の詳細を見ると、仕事がない人は 76.4% であり、疾病ありの人は 75.0% である。
0 20 40 60 80 100
女性 (N=378)
(単位:%) 図10 活動などの社会的居場所
13.8 70.1 16.1
情報なし あり
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6) 収入
収入が「あり」の人は 84.4% になり、その内訳は約半数の 54.5% が「給与収入」であり、続いて「家族収入」 が 32.0% である。家計状況に問題が「あり」という人は 14.0% であり、そのうち「収入が低い」という問題 を抱えている人は 43.4%、「収入が不安定」という問題を抱えている人は 32.1% である。
0 20 40 60 80 100 女性
(N=378)
(単位:%) 図 11 収入の有無
84.4
7.1 8.5
情報なし なし あり
女性 (N=319)
(単位:%)
図 12 収入の種類(収入ありの人のみ、複数回答)
54.5 32.0 5.0 2.5 3.4 7.2
情報なし 家族 事業 年金等 生活保護 その他 給与
0.3
女性 (N=53)
(単位:%)
図 13 家計状況の問題(家計状況問題ありの人のみ、複数回答)
43.4 18.9 0 7.5 32.1 3.8
情報なし その他
3.8
やりくりができない 支出が不安定
支出が多い 収入が不安定
収入が低い
7) 障がい
障がいが「あり」の割合は 8.5% と一般ライン等に比べて大変低い。
0 20 40 60 80 100
女性 (N=378)
(単位:%) 図 14 障がいの有無
8.5 20.4 71.2
情報なし なし
あり
8) 疾病
疾病が「あり」の人は 41.5% で「なし」の割合の 3.5 倍と高い割合を示している。
0 20 40 60 80 100
女性 (N=378)
(単位:%) 図 15 疾病の有無
41.5 11.9 46.6
情報なし なし
あり
9) 自殺念慮
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章
た」人が 37.9% となっている。
0 20 40 60 80 100
女性 (N=378)
(単位:%) 図 16 自殺念慮の有無
15.3 12.4 71.8
情報なし なし
あり
女性 (N=58)
(単位:%)
図 17 時期(自殺念慮有りの人のみ、複数回答)
51.7 37.9 15.5
情報なし 具体的に準備中 過去にあった
現在
1.7
10) 自殺未遂歴
自殺未遂の経験がある相談者の割合は 7.1% であり、「あり」人のうちの主訴を見てみると、家族関係、 恋愛関係、職場での人間関係、就職の悩み等である。リストカット、薬の OD などの行動をおこしている相 談者が大多数である。
0 20 40 60 80 100
女性 (N=378)
(単位:%) 図 18 自殺未遂歴の有無
7.4 13 79.9
情報なし なし
あり
11) 相談の中で出て来たもの
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(単位:%)
図 19 相談で出てきたもの・詳細分類項目・上位 20 項目(複数回答N=378)
41.3 38.6 36.8 30.4 18.8 16.9 13.5 13.5 12.2 12.2 10.1 7.4 7.4 6.9 6.9 6.6 6.1 6.1 6.1
6.1 該当あり・計
0 10 20 30 40 50
支援者・支援機関との関係:本人:支援者への不満・不信 仕事の悩み:本人:休職 仕事の悩み:本人:失業・解雇 被虐待:本人:心理的 人間関係の悩み:本人:偏見・差別・周囲の無理解 仕事の悩み:本人:就職活動の悩み 仕事の悩み:本人:仕事がない 学校の問題:本人:上記以外の友人関係・学校生活 学校の問題:本人:いじめ・パワハラ・セクハラ 仕事の悩み:本人:再就職・転職 仕事の悩み:本人:いじめ 仕事の悩み:本人:業務内容に関する悩み 人間関係の悩み:本人:人間関係全般 家庭の問題:本人:家族からの暴力・モラハラ 人間関係の悩み:本人:友人・知人 仕事の悩み:本人:職場の人間関係 人間関係の悩み:本人:恋愛・結婚 家庭の問題:本人:家族との不和 心と体の悩み:本人:精神の病気 心と体の悩み:本人:心や体の違和感
12) 過去・現在・未来の相談先
相談履歴の「あり」の人は相談者のうち 56.3% であり、群を抜いて高い数値を示したのは「病院(精神)」 であった。過去と現在を足しあわせると49.5%と半数となっている。 それ以外に「ハローワーク・ジョブカ フェ」「病院(身体)」と続く。(表は上位 12 位までの相談先)
過去 現在 未来 合計
病院(精神) 14.3 35.2 5.6 55.0
ハローワーク、ジョブカフェ 2.6 5.0 1.3 9.0
病院(身体) 3.2 4.8 0.8 8.7
その他 1.6 3.2 0.3 5.0
保健所や保健師 1.6 1.6 0.8 4.0
相談支援事業所 1.1 1.9 - 2.9
児童相談所 0.8 1.9 0.3 2.9
警察 1.3 1.1 - 2.4
保健・医療・その他 0.5 1.1 0.3 1.9
就労・それ以外 0.3 1.3 - 1.6
障がい・行政窓口 - 1.6 - 1.6
情報なし 1.6 - - 1.6
市町村自治体 0.3 1.1 - 1.3
障がい・それ以外 0.3 0.8 0.3 1.3
生活福祉事務所 - 1.3 - 1.3
子ども・子育て・それ以外 0.3 0.5 - 0.8
男女共同参画センター - - 0.8 0.8
法テラス - 0.3 0.3 0.5
若者支援・それ以外 - 0.3 0.3 0.5
第
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5 事例
相談の内容ごとに代表的な事例を記載した。
1)仕事について
◆ 20 代
何も上手く行かない。家族の世話のために震災前に地元に戻る。震災後、NPO団体に就職したが、進 めようとしている事業は、地元の住民のニーズには合っていないのではないかと感じた。震災後、変わろう としない地元も嫌だし、大学まで出たのにフリーターでいる自分も嫌だ。父親も失業中。母親は病気。自 立したいが実家を離れられない。
◆ 20 代
以前より精神疾患があり体調がすぐれず、家族関係にも問題をかかえていた。就職先の店舗が流され解 雇。その後職を転々としている。思うように再就職が進まない。自立したいが、収入が伴わず貯金もできな い。地元に思うような仕事はない。
◆不明
職場の仕事の指導がきつく毎日泣けてくる。どうしたらいいのかわからない。辞めていく人も多く同世代 の同僚はいない。他の仕事を探そうかとも思うが、職はない。当たり障りなく振る舞いなんとか続けようと 思う。このところ不眠や食欲低下の状態にある。
2)家族の問題- 1
( 経済問題が絡む )
◆ 10 代
兄が借金を作って実家に帰ってきた。借金を自分が肩代わりし完済。さらに借金があると言われたが、 もうどうすることもできない。家庭にも問題があり親を頼ることはできない。もう限界。
◆ 20 代
長女なので親に何とか仕送りしたいが、契約社員の仕事はいつなくなるか不安。風俗で得た収入で生活 している。先が見えず辛い。普通の結婚は無理だと思う。
3)家族の問題- 2
( 暴力が絡む )
◆ 10 代
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◆ 20 代
今、情緒的に不安定な状態が続いている。今就職中。それがきっかけで自分の家庭に問題があったこと を深く考えるようになった。物心ついたころ、私は、父と母からうけた暴力の記憶が蘇ってきた。そんな気 持ちを抑えきれず、何度か攻撃的なメールを両親に送っているが、自分の気持ちを二人にもわかってほしい。
4)体調悪化
◆ 20 代
10 代のころから精神科に通っている。以前に比べて両親に変化があり、この頃、少し家に居やすくなっ たが、やはり、自分の居場所がない。自分はネット依存だと自覚している。吐きたくなってきた。医師には 症状を話せない。
5)学校のこと
◆ 10 代
休み明け登校すると仲間外れにされていた。友人同士のけんかが自分のせいにされていた。先生にもス クールカウンセラーにも親にも相談できない。チクったと言われる。リストカットしてしまう。
◆ 20 代
学校に苦手な人がいる。気に入らないことがあると私に当たる。一緒にいて楽しくないから誘ってほしく ないが、断ると怒り出す。怖くて断れない。
◆ 20 代
先生とうまくやれず辛い。周りと比べて自分が劣っていると感じる。人に嫌われたくない気持ちが強く、 過剰に相手の顔色をうかがってしまう。不安が大きく眠れない。このところ布団に入って寝てない。記憶が あいまいで、授業に身が入らない。
6)性暴力について
◆ 20 代
母親が、夜働いているため、母親の交際相手と時間を過ごすことが多く、その交際相手の男に体を触ら れたり一緒に入浴するよう誘われたりする。母親は、娘である私に嫉妬しているようで、どう接したらいい かわからない。また、交際相手が暴力を振るうので怖い。相談できる人が全くいない。
◆ 20 代
第
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章
◆ 20 代
友人と飲んだ帰りに、男性数人にナンパされ、ホテルに連れ込まれた。酔っていて、記憶があいまいだが、 性交渉を強要され、動画も写真も撮られた。両親にばれたら大変。
7)セクハラ・パワハラ
◆ 20 代
津波で会社が流され失業した。その後、頑張って別の会社に再就職した。上司がプライベートなことに 口出しするようになったり、「部屋に誰かいるのか」などアパートに来たりする。折角、再就職したばかりな のに辞めるしかないのか。
◆ 20 代
会社の上司にホテルに誘われたが、泣いて拒んだ。その後社長から職場で抱きつかれたり、胸を触られ たりする。
8)ジェンダー・バイアス
◆ 20 代
田舎の旧家の家に生まれた。後を取らなければならない。縁談が舞い込んでくる。これまで、婿養子を 取るために数回見合いをした。全て、うまくいかなかった。見合いはしたくない。
9)母娘関係
◆ 30 代前半
母は、「女は結婚して母親になるべき」「結婚し母となって一人前」と言う。独身には耐えがたい。両親は 幼少のころから仲が悪い。いつもケンカが絶えなかった。夫婦がいたわり合ったり、支え合ったり等の姿を 見たことがない。母は結婚に失敗したと言い、娘である私に母の理想の結婚を押し付けてくる。
10)リストカット
◆ 20 代
数年前、精神疾患と診断された。通所施設に通っている。職員の対応がわるく、イライラする。職員は、 自分の意見を理解してくれない。馬鹿にされる。気持ちが抑えきれず職員の前でリストカットしてしまいそう になる。
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◆ 10 代
精神科に入院中。施設に行くことになるかもしれない。自分には決定権がない。自殺しようとして車に飛 び込んだことがある。親からの虐待がある。このままだと、また、リストカットするかも。
◆ 10 代
親は、自分の話を聞いてくれない。母から「存在が迷惑」と言われる。手や足にあざができるほど殴ら れたり、物を投げられたりする。父親は、母にもそうだけど、殴るし、いつも怒鳴っている。リストカットし ようと思ったが我慢した。
6 チャットルームの相談内容
1) 「もやもやルーム」とは
もやもやルームに参加するには https://www.moyaroom.jp/のトッ プ画面から「新規登録」を選択し、「ニックネーム*」「住まい *」(都 道府県選択)「メールアドレス *」「パスワード *」「年齢」「趣味」「好 きな芸能人」「自己紹介」などを選び(* は必須入力)、57種類のア イコンから気に入ったアイコンを選び、登録する。アイコンは気持ち を表す表情を採用しており、「怒り」「悲しみ」「不安」「笑い」または 「女の子」など自由に変更することができる。PC ブラウザ対応はもち ろんだがスマートフォンの Android および iOS にも対応している。(ア プリではない)
ルームを開く時間は主催者側が設定している。ユーザー登録をし た後でログインすると、ルームに入るための扉の画面が表示される。 そこには現在開かれているルームとそのテーマ、日付とオープン時間
が記載されている。また、既にスケジュールされているものは「準備中」となって予定日時とテーマが同様 に記載されている。
ユーザーは好きなテーマの時に入ることができるうえに、特にテーマと離れても自由にチャットをすること ができる。チャットルームに入るとルームオーナーのアイコンが右側上部に表示され、左側上部には現在ルー ムに入っているユーザーのアイコンが表示されている。それぞれのユーザーのアイコンをクリックすると登録 したプロフィールが表示されるため、各ユーザーがお互いの情報を共有することができる。
第
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ルームオーナーはユーザーの出入りがあると「いらっしゃい」「またね」などと挨拶したり、ルームのテー マ説明などを行なうだけで基本的にはチャットには参加しないルールにしている。また、ルームオープンの 終了時間が迫ると「10分前です」など終わり近くなっていることをリマインドしたり、「次のルームオープン は○時○分です」などといった案内をしたりすることがある。新規登録の際の運営にあたってのルールに同 意のうえ、ユーザー登録はされているため、ルール違反が判明した場合はルームオーナーからの勧告・中 止を求めたうえ、それでも違反行為が止まない場合は強制退場を行なうことができる。(27年度の中では そのような状況は一度も発生していない。)
テーマはいくつも設定し、もやもやした気持ちや話したいことをやや躊躇したり、緊張したりするきっか けになるよう工夫をこらしている。(ルーム名の参照)参加のしやす
いことと、守秘義務をどのように果たしていくかの両立を考え、グ ループチャットの方式とした。突然のピアツーピア(一対一)にし てしまうと気軽さが失われるうえ、相談員対相談者という構造の中 でのチャットは難しいうえに、現段階では Moyatter がその役割を 果たしているため、もやもやルームでは対等な立場でのもやもやし た悩みの言語化を理念化したものである。安心できる条件のひと つとして内部での話は外部に漏らさないことをルール化し、チャッ トの利用人数も定員を設けて制限している。ログインをしないこと には内部を閲覧することはできない。
このような中で、チャットの内容から考察される若年女性の悩み の構造を「事例でみる生活困窮者」社会的包摂サポートセンター編 (中央法規出版)の氷山モデルを使用して報告していく。
2) もやもやルームから読み解く氷山モデル
平成26年度事業報告書にあるとおり、生活困難の実態は「苦しく辛い人ほど、複数の問題が絡み合い、 形を変えて表れるなど、解決すべき課題の輪郭は見えづらくなり、ぼんやりとした『生きづらさ』『社会との 違和感』として表現されるため、『ニーズ』として理解されにく」 1いことがわかっている。
若年女性支援では、この生きづらさについての表現があいまいな場合もある。
もやもやしたままで来ても安心でき、気軽に参加できる場とするという理念のもとにもやもやルームは設 置されている。
もやもやした気持ちは最初ストレートにすら出てこない。例えば以下のような発言内容で、お互いがどん な相手なのかを少しずつ確かめる行為をしている。
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相手に安心して伝えることができそうになってくると、以下のような相談者の身の回りの人についての発言 内容が出てくる。
・ 好きになっている人の話 ・ 別れた人の話
・友人の話 ・親戚の話 ・家族の話
関係性の近い人々の話になるほど、言いづらさが増え、向きあうことのできる力が必要となってくる。しか し、しばらくの期間会話(チャット)を継続していくことで、ユーザーが感じている困りごとや不安、課題な ど代表的なものは以下のようなものである。
・ 恋人との関係がうまくいかない ・ 引越ししようか迷っている ・ 結婚しようか迷っている ・ 将来がわからなくて不安
・ 将来は1人で生きていけるのかどうか不安 ・ 進路について、採用試験について ・ 学校での教員との関係の悪化 ・ 男の子からの性的な嫌がらせ ・ 恋愛自体恐怖に感じている ・ 親によく怒られる
・ 親はわかってくれない
・ 親がひどい(性的にふしだら等)
・ 家族と一緒に住んでいるのに生活がバラバラで寂しい ・ リストカットがやめられない
・ 安心できて、「いていいよ」と言われる場所がない/欲しい ・ 誰からも必要とされていなくて寂しい
・ セクシュアルマイノリティかもしれない ・ カミングアウトできない/でもしたい ・ 就職活動がうまくいかない
・ 本当にやりたいことが見つからない/悩んでいる
・ 親に跡を継いで欲しいと言われる/できれば違う道を進みたい など
言語化された悩みや希望などを見ると、氷山モデルの水面下にある見えにくい部分や見えない部分(わ かりにくいが、困りごとの背後や近接関係にある社会問題)は以下のようなものだと考えられる。
・ 関係性の中で受けている支配や暴力構造:例えば、望まない関係性の強要をされる。恋人関係を理 由に金銭を要求され、搾取されるなど
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・ 親の不在:家庭に帰っても保護者がいない、または片方の保護者がいつも出かけているなど
・ 関係性の中で求められる性別役割意識の強化:「女の子」として求められる理想像(現実の自己像と は解離している像の場合が多い)を強調され過ぎることなど
・ 家族や親族の中でもとめられるケア役割:家事や介護など当然のように求められる
・ 親子の養育時間/対話時間の欠如:保護者が子育てにあまり集中できていないことが感じられる ・ 養育の欠如:養育の欠如 : 生活習慣が身についていないし、また、それを補完するための他者からの
支援も受けられていないと感じる栄養状態や整容状態 ( セルフネグレクト状態 )
・ 失敗に対する恐怖:失敗することが「悪」とされ、失敗によって叱咤や懲罰的な行為を受けるなど ・ 虐待:いわゆる身体的、精神的、経済的な虐待がみられるなど
・ 経済的な不安定/収入が低い:単価の低い仕事しか得られないなど
・ 有期契約など非正規雇用:就職が決まらず、非正規の仕事を仕方なく選ぶしかなかったこと
3)もやもやルームの特徴的な点
○年齢が近いと話しやすい
10代と20代では焦点化されることが違うため、話が合わないことが多く、ユーザー同士も年齢を見て いるのか、合わないと感じると自主的に退出することが多い。年齢が近いと関心を持つテーマが狭まり、 共有しやすいため盛り上がる。当然10代は学校のことが中心であり、20代は働くことや将来についての 共通項が多くみられる。一貫して盛り上がる話題は恋愛関係などの親密な人間関係などである。家族につ いてはその都度登場しているようだ。10代でかなり若い層も参加しており、今後はテーマ設定に課題がみ られるところである。
○ 利用者数と年齢層がわずかに拡大しつつある
グループチャットは定員制を現在設けているため、入れないルームもある。平成27年度についてはオー バーするルームはあまりないため、リミットをはずさないまま継続をしている。複数回利用する者が徐々に 増加し、友人を紹介することでユーザーが拡大してい
る。また Twitter でルームのテーマと受付時間を投稿 しており、別のソーシャルメディアからのアクセスが増 加している。今後は LINE などを利用して「LINE@」 のような情報配信を行ない広報することも検討課題と して考えられる。既に利用しているユーザーからの伝 達が信頼度をあげていると思われる。一般的な年代 別のネット利用率(図 21)に見られるとおり、SNS は 10 代~ 20 代が活用しているが、もやもやルームも 10 代への拡大が見られる。
(単位:%)
図21 H26[平日1日]インターネットの「ソーシャル メディアを見る・書く」行為者率
0 20 40 60 80
60 代 50 代 40 代 30 代 20 代 10 代
女性 男性
男性 10 代 男性 20 代 男性 30 代 男性 40 代 男性 50 代 男性 60 代 n=144 n=226 n=286 n=306 n=256 n=292 女性 10 代 女性 20 代 女性 30 代 女性 40 代 女性 50 代 女性 60 代 n=136 n=216 n=276 n=300 n=254 n=308
平成 26 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査 総務省情報通信政策研究所、東京大学大学院情報学環橋元良明教授ほか共同研究
45.8 55.9
43.8 69.4
31.8 43.8
21.9 31.7
12.915.4
第
5
章
被
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地
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若
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女
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相
談
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め
お互いの信頼感を得る際は適した言葉選びが必要なようである。絵文字や言葉遣いなどにずれが生じ始め ると会話自体が盛り上がらず、そのまま途中退席といった状況も見られた。電話と大きく異なる点はユーザー 同士の性格や立ち位置、感覚など相手を読み込める情報が圧倒的に少ないため、投稿された文章への集中 度が高まる点である。的確なやり取りが続かない場合は投稿のスピードや頻度にも即時的に反映され、い わゆる「盛り上がらない」状態が続く。
○ 最も盛り上がるのは「恋バナ」
共通語のように盛り上がるのが恋愛関連の話である。話が深化することによってユーザーの人間関係の 構築の仕方、人間関係に対する思考パターン、性役割に対しての意識、性に関する情報量、保護者・監護 者との関係、養育歴、性自認、性的指向などが読み取れる。今後危機介入リスクの見きわめについての精 度をあげ、チャットルームからの電話相談、その後の継続支援体制などをさらに整備していく必要がある。
○ ユーザーの特徴
「チャット」というシステムを考えるとき、リアルタイム感が強く、すぐに打ち返すことが可能であり、オー プン時間に集中できるという条件がそろって参加できる。そのことから、くり返し訪れるユーザーは基本的 にはインターネットに平均よりは慣れていると思われる人が多く存在するような印象である。また、電話が 苦手な人や、直接的なやりとりよりも適度な距離感を保ち、セルフスペースを保てる余裕も感じられること がある。
3) もやもやルームの意義
平成25年度から設置した Moyatter から派生し、平成27年度に当初の目的である若年女性支援の新し い展開(アクセス方法の拡大)に向けて非公開型のグループチャットとしての「もやもやルーム」を立ち上げた。 若年女性の孤立を解消し、問題の言語化が目指せるような支援体制が整いつつある。定期的に開催するこ とにより、安定してつながることのできるセーフティーネットとしての役割を担い始めている。現在このよう なシステムを持つ若年女性支援は他では見られない。
チャットのルームオーナーや支援員については、大学生や20代などの育成を行ないつつ、言葉遣いやコ ミュニケーション方法などの時代によって「変わる文化的背景」と氷山モデルの水面下に隠された「変わら ない社会的背景」の両者を常に意識しながら、適切な情報提供やサポート体制を構築していくことが求め られている。
第
5
章
①相談の見えやすい・見 える部分(わかりやす いが、誤解や理解不足 な認識も多い)
②見えにくい・見えない部 分(わかりにくいが、困 りごとの背後にある個 人的・社会的な課題や 価値観を理解すること が支援の基本となる) ①
表面化している 困りごと
②-a
背後や近隣関係 にある社会問題
②-b
排除を強化する 価値観・思想
もやもや
相談や困りごとの輪郭を わかりにくくさせてしまうもの
若年女性支援の場合の氷山モデル
刹那的行動 親との関係 リストカット
モラハラ 仕事がない
妊娠 性被害 疲れた 寂しい 辛い 日常の報告
どうしていいかわからない
モラハラ
震災による責任感 親の DV 関係
親からの虐待
罪悪感の植付け 性に対する スティグマ
性教育の欠如 ジェンダー規範 性別役割分担の意識
4)開設されてきたルーム名の一覧
平成 27 年度に実施した相談ルーム名の一覧は以下の通りである。
1.学校のこと 2.家族のこと 3.恋愛のこと
4.夜、眠れないよぉ~~~ 5.「寂しい」気持ちについて 6.生活のこと
7.職場のこと 8.就職のこと 9.寂しい気持ちと恋愛
10.人間関係について 11.自分を好きになれない 12.やりたいことが見つからない
13.友だちとのこと 14.将来のこと 15.ムカムカする~~~!!
16.ストレス発散が上手くできない 17.何でも話しちゃお! 18.ファッション
19.心が苦しい、泣きたい 20.コミュニケーションが苦手 21.イライラする、モヤモヤする
22.苦しい気持ち 23.メンタルヘルスのこと 24.居場所がない
25.なんだかだるい 26.自分に自信が持てない 27.勉強のこと
28.相談できる人がいない 29.夏休み、どう過ごしてる? 30.進路のこと
31.そわそわ落ち着かない 32.夏休み、家にいたくない 33.学校が始まるのが憂鬱
34.なんか、泣きたいよ~ 35.やる気がでない... 36.未来がわからなくて不安
37.楽しいことがない 38.好きな人はどんな人? 39.頼れる人がいない
40.もやもや、いらいら 41.疲れた 42.仕事・バイトのこと
43.最近食べた美味しいもの 44.好きなこときらいなこと 45.今日あった楽しいこと、面白いこと
46.恋バナ 47.暇な時間なにしてる? 48.理想のタイプについて
49.好きな食べ物、今食べたいもの 50.愚痴っちゃえ 51.笑える話
52.女子のグループでのいろいろ 53.男子について 54.リストカットのこと
55.休みかたがわからない 56.必要とされたい 57.ねぇねぇ、聞いて!
58.最近あった出来事 59.冬休みどうする? 60.クリスマスどうする??
61.年末年始、どう過ごす? 62.誰かとつながりたい 63.今日何してる?
第
5
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7 まとめ―相談から見えてくる彼女たちの抱える困難とは何か
相談者である若年女性たちはどのような困難を抱える傾向があったのだろうか。 電話相談からは以下のような傾向が読み取れる。
・20 代が多く、「障がい」の認定は少なく、精神的な疾患に悩んでいる ・「家族」に起因する悩みが深い
・4 人に一人が単身で住んでおり、自立して就労している
・自殺念慮は 15.3%、教室の規模で考えれば1クラスに6人以上いる計算となる
被災地では、人が脈々と継続し積み上げてきた「人の暮らし・生きる場所」自体を震災という暴力によっ て強制的に変更させられたのである。地域コミュニティーの解体や環境の変化、そして、生きていく場であ る「家庭の崩壊」すら招いた。
被災地の若者には、社会 ( 地域 ) から復興を体現するシンボル的な存在として、その期待や責任を背負 わされているため、弱音を吐くことができない。「自分のことは後回し」という回路の中で問題や悩みを相 談できず、悶々としていることが窺える。特に被災地の女性たちは「被災地」というだけで幾重にも苦しみ に曝され、これらの課題は同様に若年女性にも降りかかっていると見なければならない。それに加えて守ら れるべき年代に家族からの支援を失い、社会からの ( 広い意味での ) 虐待や抑圧 ( ジェンダー・バイアス ) に直面させられているのではないか。
「家族」は、彼女たちを守り、養育することができなくなっているのではないか、というのが集計結果か ら読み取れたことである。彼女たちのキーワードは「普通になりたい」という言葉だ。相談表を読み込んで いくと共通語のように「普通になりたい」という言葉が現れる。この言葉は、児童虐待の支援現場で日常的 に虐待児から聞かれる言葉である。
若年女性たちが表現する「普通になりたい」と言う感覚は、自身が安全で安心して安らげる環境が用意 されていることではないだろうか。常に諍いや暴力が介在することで緊張を強いられる家庭ではなく、「家 庭=安らげる居場所」であって欲しいという願望をこのフレーズから読み解くことができる。
彼女たちの表現する「普通になりたい」という言葉に、私たちは、どう応えていけばいいのだろうか。 復興のために、自分たちがしっかりしなければという責任感も背負っている。苦しい思いを誰かに相談し たいと思ってもどこに相談していいかわからず、悶々としている事も相談されている。
また、若年女性たちへの虐待や暴力は、「性的搾取」と地続きである事にも留意が必要である。「家に 帰れない」「行くところもない」「居場所が欲しい」といった状況から「性被害に遭う、犯罪に巻き込まれる」 女性たちは極めて多い。早期に発見する仕組みが緊急に求められている。