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ナノサイズ船、細胞の宇宙を行く

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Academic year: 2017

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ナノサイズ船、細胞の宇宙を行く

大学院薬学研究院・大学院生命科学院 准教授

秋田

ひ で

たか

(薬学部)

専門分野 : 薬剤学

研究のキーワード : ナノテクノロジー,創薬,遺伝子治療,細胞内動態制御,イメージング HP アドレス : http://www.pharm.hokudai.ac.jp/yakusetu/index.html

何を目指しているのですか?

薬をいかに効率よく体内に取り込ませ、また、どうやって患部まで届けるか。文字通り

「ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)」と呼ばれる研究分野があります。注射など によって血液中に投与された薬物は、血液にのって体中を循環します。患部に届けば効果 につながりますが、逆に望まない部位に届いてしまうと副作用を引き起こしてしまいます。 薬を必要な場所(臓器)だけに必要な時間届けるための技術開発は、DDS研究の重要な課 題のひとつとなります。一方、現在の創薬研究の対象は、従来からの低分子化合物から、 タンパクや抗体、核酸や遺伝子などの高分子へと広がりを見せています。この時代の潮流 のなかで、DDS研究には、新たな技術が要求されています。細胞の中の、さらに特定の細 胞内小器官(オルガネラ)を標的化するための細胞内動態制御技術です。細胞内は、ミト コンドリアや小胞体などのオルガネラや、蛋白、RNA などの高分子が複雑に入り組んだ

「ミクロな宇宙(スペース)」を形成しているといっても過言ではありません。月面着陸と いう大きな夢を成し遂げた20世紀のアポロ計画に続き、目に見えないミクロな宇宙におい て自由に物質輸送を精密に制御する 細胞内動態制御は高分子を医薬とし て実用化する上で不可欠なテクノロ ジーであり、また、21世紀の最大の 技術革新の一つになると考えられま す(図1)。

特に、遺伝子治療の実現に向けて は、『くすり』としての外来遺伝子を その転写部位である核まで送達する 必要があります。その過程において は、エンドソーム膜や核膜といった 生体膜が突破すべきバリアとして立 ちはだかります。私は、これらのバ リアを突破しながら細胞の中の宇宙 を旅するための極めて微少な『宇宙船』を開発したいと考えています。ウイルスは長年の 進化の過程を経て、細胞内を旅しながら自らが持つDNAを感染細胞に導入するための極 めて巧妙な仕組みを獲得してきました。言わば、私たちの船の目標とすべき究極的な構造

出身高校:愛知県立時習館高校 最終学歴:東京大学大学院薬学系研究科

ミクロの世界

図1 研究の概念図

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図2 動的光散乱装置 図3 共焦点レーザー顕微鏡

体となります。これらの構造や仕組みを学びながら、人工的なナノ粒子を設計していきた いと考えています。私たちの研究室では、インフルエンザウイルスの構造に学び、『くすり』 となる人工遺伝子を脂質膜によりコーティングした「多機能性エンベロープ(膜)型ナノ 構造体」を基盤技術として研究をしています。その大きさは、1万分の2㍉=200㌨㍍と いう極めて小さなものです。段階的な生体膜バリアの突破と時空間的に制御された粒子の 崩壊性制御を可能とする技術を創出し、遺伝子治療研究にブレイクスルーをおこすことが できる次世代のナノテクノロジーを創製したいと日々研究に励んでいます。

どんな装置を使って実験をしているのですか?

ナノサイズの粒子の大きさを見積もるためには、サンプルに光を当てたときに発せられ る、粒子からの散乱光の揺らぎを解析しています。この粒子の物性を解析するために、「動 的光散乱測定装置」を使用しています(図2)。また、ナノ粒子の細胞内動態をコントロー ルするには、その動きを評価するための技術も必要になります。私たちは、蛍光物質によっ て標識されたナノ粒子を、異なる光の波長を持つ蛍光物質あるいは蛍光タンパクで染色さ れた細胞に導入し、その後の細胞内における局在や動的な動きを蛍光顕微鏡によって可視 化(イメージング)しています。正確には、「共焦点レーザー顕微鏡」と呼ばれる特殊な 顕微鏡を用いています(図3)。遺伝子治療用ナノ粒子を設計するだけでなく、細胞内にお けるこれらナノ粒子の動きを定量的に捉え、その情報を次世代ベクター開発にフィード バックするというコンセプトは、私たちの研究開発の重要な柱となっています。

読者の皆さんへのメッセージ

2003年にヒトゲノム計画が完了し、ヒトの全ゲノム情報が明らかとなりました。バイオ インフォマティクスの発展や次世代シークエンサーの開発も進むにつれて、個人のゲノム 情報の解析や疾患原因遺伝子の解明が急速に進むと予想されます。遺伝子治療は、様々な 遺伝病を根本から治療できる夢の治療法であるとして期待を背負ってきました。しかし、 長年の研究を経た上でもまだ遺伝子発現効率の低さが解決されず、実用化には至っていま せん。そのブレイクスルーの鍵は、遺伝子をいかに効率的に核まで届けるかという「細胞 内動態制御」にあると思います。本稿に触れて日本発の遺伝子創薬を、また、次世代医療 につながる21世紀版アポロ計画を実現したいという熱い野望を抱いた方、是非、夢を一緒 に実現しましょう!!

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参照

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