熱力学演習 (Wednesday August 2, 2017) 期末試験 解答例&解説 1
問題1. 次の文章の空欄に入る言葉を答えよ。同じ言葉
を使っても良い。 (10点)
1. 準静操作とは,a.平衡 状態にあると見なせるよ うな理想的な操作である。準静操作は常に逆行 可能であり,元の操作の間に系が外界に行う仕事 をW とすれば,逆行操作の間に系が外界に行う 仕事は b.−W である。
2. 断熱操作 (T1; X1)
−a
→ (T2; X2) が可能とする。始 めと終わりを入れ替えた断熱操作 (T2; X2) →−a (T1; X1) も可能なとき,最初に与えた断熱操作 は c.可逆 であるという。逆に不可能なとき,最 初の断熱操作は d.不可逆 であるという。 3. エントロピーS(T; X)は,任意の断熱操作によっ
て,e.減少 しない。
問 題 2. van der Waals 状 態 方 程 式 に 従 う 気 体 の Helmholtzの自由エネルギーF[T; V, N]は
F[T; V, N] = −N RT log( ( TT∗ )c V
− bN (v∗− b)N
)
− aN
2
V + Nu (1) である。この気体を V1 からV2 へ等温準静操作で膨張 (V1 < V2)させる間に,気体が外界に行う仕事W を求め よ。また準静的でない一般の等温操作で膨張させるとき の仕事をW′とし,W とW′の大小関係を書け。(20点) 答.等温準静操作なので,その間に系が行う仕事W は最大仕事Wmax(T; (V1, N) → (V2, N))に等しい。また, 最大仕事とF[T; V, N]との関係から
W = Wmax(T; (V1, N) → (V2, N))
= F[T; V1, N] − F[T; V2, N]
= N RT log
V2− bN V1− bN − aN
2( 1
V1 − 1 V2
)
. (2) 同じく最大仕事の原理より,準静的でない一般の等温 操作の間の仕事W′との大小関係は
W > W′ (3)
である。
問題 3. Planck の原理(任意の X と T < T1 につい て,示量変数の組を固定したまま温度を上げる操作 (T; X)→ (T−a 1; X)は不可逆である)をKelvinの原理から
導け。 (20点)
答.仮に上の操作が可逆として,(T1; X)→ (T; X)−a が 存在するとする。すると,温度T′の環境を用いた等温 サイクル
(T1; X)→ (T; X)−a −→ (Ti’ 1; X) (4)
が可能である。2つ目の操作は広義等温操作である。こ の広義等温は外界に仕事をしないこと及びエネルギー保 存則から,この等温サイクルが外界に行う仕事Wcycは
Wcyc = U(T1; X) − U(T; X) (5) となる。エネルギーは温度の増加関数なので,題意の T < T1より
Wcyc > 0 (6)
となり,Kelvinの原理に反する。従って仮定した断熱操
作は実現できない。すなわち,示量変数の組を固定した まま温度を上げる操作は不可逆である。
問題 4.示量変数の組が X0,熱容量が一定値C0 の理想 化した固体のエントロピーS(T; X0)は
S(T; X0) = S0+ C0log T (7) である。T1 , T2とし,この固体が2つ,それぞれ平衡 状態 (T1, X0), (T2, X0)にある。全体を断熱壁で囲み,外 界に仕事をしない断熱操作,すなわち熱的接触操作を 行った。
{(T1; X0)|(T2; X0)}→ {(T−a f; X0), (Tf; X0)}. (8) この熱的接触操作におけるエントロピー変化∆Sを求め よ。これから何が言えるか?
答.エントロピーの相加性より,熱的接触前の全系の エントロピーは
S((T1; X0)|(T2; X0)) = 2S0+ C0log T1+ C0log T2
= 2S0+ C0log(T1T2) (9) である。
一方,熱的接触後の全エントロピーは
S((Tf; X0), (Tf; X0)) = 2S0+ 2C0log Tf
= 2S0+ 2C0log
T1+ T2
2 . (10) ここで,2つの固体が等しいことから,熱的接触後の温 度がTf = (T1+ T2)/2となることを用いた。よってエン トロピー変化は
∆S = S((Tf; X0), (Tf; X0)) − S((Tf; X0), (Tf; X0))
= 2C0log(T1√+ T2)/2
T1T2 (11)
となる。
相加平均相乗平均の関係より,∆S > 0である。エン トロピーが増加しているので,この断熱操作は不可逆で ある。
熱力学演習 (Wednesday August 2, 2017) 期末試験 解答例&解説 2 問 題 5. 理 想 気 体 の Helmholtz の 自 由 エ ネ ル ギ ー
F[T; V, N]は
F[T; V, N] = −N RT log( ( TT∗ )c V
v∗N )
+ Nu (12) で あ る 。こ れ か ら 圧 力 P(T; V, N) と エ ン ト ロ ピ ー S(T; V, N),エネルギー U(T; V, N) を計算せよ。この 結果から、U(T; V, N)が完全な熱力学関数でないことを
説明せよ。 (30点)
P(T; V, N)とF[T; V, N]の関係より P(T; V, N) = −∂F[T; V, N]
∂V
= N RT
V . (13)
理想気体の状態方程式が導かれる。 S(T; V, N)とF[T; V, N]の関係より
S(T; V, N) = −∂F[T; V, N]∂T
= cN R + N R log (( T
T∗
)c V v∗N
)
. (14) U(T; V, N)とF[T; V, N]の関係式に(12)と(14)とを代 入して
U(T; V, N) = F[T; V, N] + T S(T; V, N)
= cN RT + Nu (15)
となる。
U(T; V, N) はV に依存しないため,体積の関数とし
ての圧力 P(T; V, N),すなわち状態方程式の情報を含
んでいない。そのため状態方程式とセットになっては じめて系の熱力学的性質を完全に指定できる。つまり
U(T; V, N)だけでは,系の熱力学的全情報を保有してい
ない。その意味で U(T; V, N)は完全な熱力学関数では ない。
【補足】F[T; V, N]からは(13)と(14)の通りに状態 方程式とエントロピーを導出できる上に
µ(T; V, N) = ∂F[T; V, N]
∂N (16)
によって,化学ポテンシャルも導出できる。つまり
F[T; V, N]は系の熱力学的全情報を有する完全な熱力学
関数である。
同じエネルギーU であっても,F[T; V, N]をLegen- dre変換して得られるU[S, V, N]は,系の熱力学的全の 情報を有する完全な熱力学関数である。U(T; V, N) と
U[S, V, N]とでは,独立変数が違う。関数は,従属変数
の値(ここではUの値)だけでなく,独立変数から従属 変数への対応関係全体で意味を成す。ここでの例で言 うと,U(T; V, N)は
(T; V, N) −→ U (17)
の対応関係を表し,U[S, V, N]は
[S, V, N] −→ U (18)
の対応関係を表す。関数(17)と関数(18)では異なる関 数なので,有する情報も異なる。