3 運動方程式
3.1 運動方程式を解かずにわかること
F m3 m2 m1
-
S1S1
-
S2S2
a
図7 問題14. 右図のように,滑らかな平面上で質量m1,m2,m3の物体を軽
い糸で連結し直線上に置いた場合を考える。
14-1. m1を力F で引張ると全体が加速度aで動いた。それぞれの糸 の張力をS1,S2として,質点m1,m2,m3に対する運動方程式を書け。
【解答】慣性系である地面を基準にそれぞれの質点の運動方程式を立て る。全体一緒に動くので,どの質点も加速度は|a|。右向きを正に選ぶ。
m1a= F − S1, (3.1)
m2a= S1− S2, (3.2)
m3a= S2. (3.3)
14-2.上の運動方程式から全体の加速度a及び,糸の張力S1,S2を求めよ。
【解答】両辺を足し合わせて
(m1+ m2+ m3)a = F , (3.4)
∴ a= F
m1+ m2+ m3
. (3.5)
残りは上の運動方程式の代数計算で求める:
S1= m2+ m3 m1+ m2+ m3
F, (3.6)
S2= m3 m1+ m2+ m3
F. (3.7)
それぞれの力の大きさには
S2< S1< F (3.8)
なる関係がある。そのため糸の強度を超えるまでF が大きくするとm1の右側で糸が切れる。(3.4)は,全体を 1つの質点と捉えた場合の運動方程式に一致する。つまり内力S1, S2が分からなくても全質量m1+ m2+ m3
とF だけからaは決定できる。
F
m
M
a
F' b x
図8 問題15. 滑らかな水平面上にある質量M の板の上を質量mの人が 板に対して 加
速度aで歩くと,板は 水平面に対して 加速度bで動いた。人が板から受ける水平 方向の力をF として以下の問いに答えよ。
15-1.運度の様子が分かるように図(座標軸,力,加速度を含む)を描け。
【解答】右図の通り。x軸は,地面に静止した座標系である。F′ は,板が人か ら受ける力である。本来ならF の始点は人の足の裏に,F′の始点はその直下に書 くべきだが,人も板も質点として扱うので力の矢印の始点を見やすいように移動し た。またここでは水平方向の運動だけを調べるので,直接関係のない垂直方向の力
18 3 運動方程式
は省略した。省略したのは,以下の通り。人が板を押す垂直下向きの力とその反作用で板から人に働く垂直抗 力。板が地面を押す垂直下向きの力とその反作用で地面から板に働く垂直抗力。人や板に働く重力mgとM g および地面(地球)に働くその反作用。
15-2.板が人から受ける水平方向の力F′はどれだけか?
【解答】作用反作用の法則より,F′は,F と大きさが同じで反対向きである。つまり
F′= −F . (3.9)
15-3.人と板それぞれに対する運動方程式を書け。
【解答】慣性座標系に対して運動方程式を立てることがポイントである。そのため地面に静止したx軸を用 いる。この座標系で(地面に対する)人の加速度はa+ bである。従って運動方程式は
人: m(a + b) = F , (3.10)
板: M b= −F (3.11)
となる。
15-4.上の運動方程式より,板の加速度bと人が板から受ける水平方向の力F を求めよ。
【解答】(3.10)と(3.11)より直ちに
b= − m
m+ Ma, (3.12)
F = mM
M + ma (3.13)
となる。
【補足】(3.10)の左辺第2項を移項した
人: ma= F − mb (3.14)
は,板に固定した座標系での運動方程式で,右辺に見かけの力−mbが現れる*8。また mM
M+ m =: µとすれ ば(3.10),(3.11)共にµa= F と書ける*9。
(M-m)g F
α Mg F
m
β
x 図9 問題16. 全質量M の気球が加速度αで降下している。質量mの砂袋を捨てる
ことで,加速度βで上昇するようにしたい。気球の浮力F が一定と仮定して以 下の問いに答えよ。
16-1.砂袋を捨てる前と後の運度の様子が分かるように図を描け。
【解答】図9の通り。左図は砂袋を落とす前。右図は落とした後。
16-2.砂袋を捨てる前と後の運動方程式を書け。
【解答】図のように鉛直下向きを正に選ぶ。下降中の加速度はα,上昇中の加 速度は−βなので
M α= M g − F, (3.15)
−(M − m)β = (M − m)g − F. (3.16)
*8
加速度座標系の節で詳しく調べる。
*9µ は換算質量と呼ばれ,相対運動で利用される。
16-3.運動方程式から,捨てるべき砂袋の質量mを求めよ。
【解答】(3.15),(3.16)よりmを求める:
m= α+ β
g+ βM < M. (3.17)
題意よりF >0なのでαは自由落下時の加速度より小さい,すなわちα < gである。よって最後の不等号が 成り立つ。当然mは正であり,正常な範囲0 < m < Mに収まる。またm= α
gM のとき重力と浮力が釣り 合って静止する。
a
m
1g m2g
a
S S
図10 問題17. 軽く滑らかな定滑車に糸をかけてその両端に質量m1,m2の質点を吊るす*10。
2つの質点から静かに手を放したときに生じる質点の加速度と糸の張力を求めよ。重力加 速度をgとし,糸の質量は無視して良い。
【解答】はじめに運動の様子を図示する。図ではm1≥ m2としたが,これによって一 般性は失わない。2つの質点を結ぶ糸は一体となって動くので,m1の加速度は下向きを 正に,m2の加速度は上向きを正に選んだ。その加速度をaとして運動方程式を立てると
m1a= m1g− S, (3.18)
m2a= −m2g+ S. (3.19)
従って
a=m1− m2 m1+ m2
g≥ 0, S= 2m1m2
m1+ m2
g. (3.20)
当然より重いm1の方が下がる。またa≤ gである。もしm1< m2ならばa <0,つまりm2が下がる。
a
m
1g m2g
a
S S
b
図11 問題18. 前の問題で滑車に上向きの加速度bを与えるとき,滑車に対する2つの質点の
加速度と糸の張力を求めよ。
【解答】運動の様子を図示すると右の通りである。前問と同様に滑車に対してm1の下 向きの加速度およびm2の上向きの加速度をaとする。運動方程式を立てるため慣性系 に対する加速度を求めると,m1のそれは下向きでa− b,m2のそれは上向きでa+ bで ある。よって
m1(a − b) = m1g− S, (3.21) m2(a + b) = −m2g+ S (3.22)
なる運動方程式が得られる。これをaとSについて解いても良いが,(3.18)および(3.19) と比較すれば,gをg+ bに変えた式であることがわかる。したがって(3.20)でg→ g + b として
a=m1− m2 m1+ m2
(g + b), S= 2m1m2
m1+ m2
(g + b) (3.23)
と求まる。
*10
この装置をAtwoodの装置という。m1≈ m2にする事で重力加速度g を測定することが出来る。
20 3 運動方程式
b >0ならばg+ b > gなので,両質点にとって実質的な重力加速度が大きくなったと感じる。これはエレ ベーターが上昇し始める瞬間の感覚と同じ。他方b <0ならばg+ b < gとなり,重力加速度加速度が小さく なったと感じる。同じくエレベーターが下降し始める瞬間の感覚である。b= −gすなわち滑車が自由落下す るとき,a= 0となり滑車に対する加速度は0になる
*11
。
F
S
P
a
A x B
図12 問題19. 滑らかで水平な地面の上に質量M,長さlの一様な鎖を一直線に置
いた。鎖の両端をそれぞれAとB,またAからx離れた点をPとする。B を力F で水平に引っ張ると全体が加速度aで動いた。
19-1.運動の様子を図示せよ。点Pにおける鎖の張力をSとする。
【解答】右図の通り。図のSは,A∼P部分を右に引く張力である。もちろ ん実際にはP で鎖はくっついているが,SがA∼P部分に働くことを明らか にするため少し離して書いた。図の左向きの力は,Sの反作用であり,P∼B 部分を左に引いている。
19-2.張力Sを求めよ。
【解答】SはA∼P部分に働く力なので,A∼P部分に対する運動方程式を書いてみる。鎖の線密度は M
l であり,A∼P部分の質量は
M
l xである。よって運動方程式は M
l xa= S(x). (3.24)
Sはxに依存するので引数を明らかにした。これと鎖全体に対する運動方程式M a= F より
S(x) = x
lF (3.25)
を得る。よってxが増加すると(F の力点Bに近づくにつれ)Sは大きくなる。
水平に鎖やロープを張った場合,付け根の部分に大きな張力が働くことが(3.25)からわかる。同様に電線 や高圧線でも電柱や鉄塔の近くほど張力が大きい。また数千人以上の規模で綱引きをする場合,(3.25)を考慮 して綱を作らないといけない*12。
θ θ
S A B S'
r ω
図13 問題20. 線密度λの糸が半径rの輪を作って,平面内で一定の角速度ωで回っている。
このとき糸に働く張力の大きさSを以下の手順で求めよ。 20-1.右図を参考に微小円弧
AB⌢ に働く合力を求めよ。
【解答】
AB⌢ には,Sによる左向きの力と,S′による右向きの力が働いている。左右
の成分はそれぞれ打ち消すので,円の中心方向の成分だけが残る。よってその合力は, 大きさが2S sin θで円の中心を向く。
20-2.AB⌢ に対する運動方程式を書き,Sを求めよ。
【解答】糸全体は円をなして回転するので
AB⌢ も回転している。つまり上で求めた合
力はその回転運動の向心力mrω
2
に他ならない。ここでmは
AB⌢ の質量で,線密度λ
*11無重量状態を体験できる飛行機などは,この仕組みを利用している。
*12
沖縄の大綱ひきでは経験的に(3.25)と整合した綱作りが行われている。それでも綱が切れることはあるが,そのときは大抵両陣 営の境近くで切れる。
と長さ2rθよりm= 2rλθである。運動方程式を書いてSを求めると
(2rλθ)rω2= 2S sin θ ≃ 2Sθ, (3.26)
∴ S= λr2ω2= λv2. (3.27)
よって回転の速さv= rωが大きくなる程Sも大きくなる。(3.26)では,
AB⌢ を回転する質点として近似する
ための条件θ≪ 1を用いた。
参考文献
[1] 後藤憲一,山本邦夫,神吉健. 詳解力学演習. 共立出版株式会社, 2003. [2] 原島鮮. 力学I-質点・剛体の力学-. 裳華房, 1990.
[3] 原島鮮. 力学II -解析力学-. 裳華房, 1990. [4] 小出昭一郎. 物理学. 裳華房, 2003.
[5] 砂川重信. 電磁気学演習. 物理テキストシリーズ5.岩波書店, 1992. [6] 戸田盛和. 力学. 物理入門コース1.岩波書店, 1999.