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「大学改革」におけるPDCAサイクルの批判的考察? : 導入過程の整理・検討

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(1)Title. 「大学改革」におけるPDCAサイクルの批判的考察? : 導入過程の整理・ 検討. Author(s). 古川, 雄嗣. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 67(2): 1-13. Issue Date. 2017-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8179. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第₂号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.2. 平 成 29 年 ₂ 月 February, 2017. 「大学改革」におけるPDCAサイクルの批判的考察⑴ ― 導入過程の整理・検討 ―. 古 川 雄 嗣 北海道教育大学旭川校教育学教室. Critical Analysis of PDCA Cycle in‘University Reform’⑴ ― Review of the Introduction Process ―. FURUKAWA Yuji Department of Education, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 大学設置基準の大綱化以来のいわゆる「大学改革」において,大学の教育・研究・経営の諸 側面に「PDCAサイクル」なるものを「導入」し「稼働」させることを「義務づけ」る傾向が, 根強い批判にもかかわらず,年々著しくなっている。そもそもPDCAサイクルとは何なのか。 なぜ,誰の意向で,いつから,「大学改革」に導入されるにいたったのか。そしてそれは,真 に大学の教育と研究とを「改善」するにふさわしいものなのか。本稿および続稿では,これら の問題を考察する。さしあたり本稿では,まずPDCAサイクルがわが国の政策評価システムと して導入され,それが文教政策および「大学改革」にまで波及していく歴史的過程が検証され た。. はじめに. れてくるその通知には,毎度のごとく,「PDCA サイクルを円滑に機能させるため」にこれを必ず. 大学教育に携わっている者であれば,PDCAサ. 実施せよ,と書かれている。. イクルという言葉を,一度は,いや何度も,目か. いうまでもなく,PDCAサイクルとは,ある活. 耳にしたことがあるであろう。たとえば筆者の勤. 動をP(Plan)・D(Do)・C(Check)・A(Act. 務校でも, 学生による「授業評価アンケート」(各. またはAction1)の4段階に整理し,このサイクル. 期2回,年4回)や研究活動の「自己点検評価」 が「義務づけ」られ,教員たちは頻繁にそのため. 1  「些細なことながら」と断りつつではあるが,経営学. の書類作成等に追われているが,事務局から送ら. 者の由井浩は,QC(Quality Control: 品質管理)の分. 1.

(3) 古 川 雄 嗣. を不断に回転させ続けることをいう。よく知られ. ら,「年に4回ものアンケートを,全教員に強制. ているように,これはもと経営学におけるものづ. するというのはいかがなものか。教員,学生,職. くりの管理手法,とくに品質管理の方法として提. 員のすべてにとって,あまりにも労多くして功な. 唱,実践された概念であり,それが2000年代にい. きに等しい。なんとかならぬか」といった趣旨の. たって,行政や教育の領域に適用されている。そ. 問題提起がなされた。しかし,もとより,それが. の一般的な理解は,由井浩がいうように「できる. 真剣に受け止められた形跡はない。「気持ちはわ. 限り定量的な目標を立てて(P),実行し(D),. かるが,仕方がない」というのが,おおかたの教. その結果を目標数値と比べて(C) ,対策を考え. 職員の心情であろう。実際,筆者が知るかぎり,. る(A) 」というものであろう(由井 2012,37頁)。. 筆者を含むほとんどの教員は,「面倒だ」「無意味. 定量的な,すなわち客観的に評価可能な「教育目. だ」等々と口々に愚痴をいいながら,義務づけら. 標」をあらかじめ設定し,その実現のための合理. れた諸々の授業評価アンケートやら自己点検やら. 的な「計画」を立案し,その結果を「点検」する. を「仕方なく」「テキトーに」「こなして」いるの. ことによって,次のサイクルの目標または計画の. が実情である。. 「改善」につなげる。これによって,「同サイク. なぜ「仕方がない」のか。もちろん,その最た. ルは,1回転するごとに位相を改善・改革の方向. る理由は,よく知られているとおり,このPDCA. に上昇させ,結果としてスパイラルを描くことに. サイクルの「導入」と「稼働」が,大学評価基準. な 」 る, と い う わ け で あ る( 大 学 基 準 協 会. として明記されていることである。本稿において. 2009b,4頁) 。. あらためて概観するように,たとえば2009年に発. おのれの教育活動,さらには研究活動までもが,. 行された大学基準協会の『新大学評価システム. このような抽象的形式に取り込まれ,しかもその. ガイドブック』では,「内部質保証システムを有. ことを「義務づけ」られ,そのために無味乾燥な. 効に機能させるということは,すなわち,各評価. (としか思えない)作業に少なからぬ時間と労力. の 視 点 ご と に, 大 学・ 学 部 等 自 身 が, 前 述 の. を割くことを強制されることを,もとより多くの. PDCAサイクルをきちんと回転させ続けるという. 大学教員はけっして快く思ってはいない。ふたた. こと」であり,それによって「スパイラル」が「連. び筆者の勤務校を事例として挙げれば,一度,上. 綿と続いていることを可能な限り説得力のある根. 述の「授業評価アンケート」の実施命令に対し,. 拠をもとに証明する必要があ」る,と明記されて. さすがに我慢ならぬといった風情のある教員か. いる(同上,4-5頁)。しかも,ご丁寧なことに, 「『評価項目』の設定に当たっては,それぞれの『評. 野では「1990年代半ば以降はactionではなくactが一般 化している」 (由井 2011,63頁,下線原文)にもかか. 『検証』 『改善』の流れが分かるように設定し,. わらず, 「我が国の行政評価や大学評価においてはほと. PDCAサイクルが機能しているかどうかを評価で. んどの場合“Plan-Do-Check-Action”を使用している」. きるよう配慮する」とも記されている(同上,8. (由井 2012,40頁)ことを指摘している。また,この. 頁 )。 い ま や 大 学 に と っ て, そ の 取 り 組 み を. ことをふまえてであろう,日永龍彦も,由井との共著(シ リ ー ズ「 大 学 評 価 を 考 え る 」 第 4 巻 編 集 委 員 会 編. PDCAの4段階に形式化し,しかもそれを「連綿. 2011)において,その論考の末尾を「大学が方向性を. と」続け,さらにそのことを「可能な限り説得力. 見失うようなPDCAサイクルに対する『誤読』に同協. のある根拠をもとに証明」することが,大学の存. 会〔大学基準協会――引用者〕関係者は早く気づき. 続そのもののために,必須となっているのである。. (check),速やかな改善(Action)をすべきではない だろうか」 (日永 2011,35頁)と,わざわざionに二重. 2. 価項目』について,可能な限り,『方針』『現状』. しかし,理由はそれだけであろうか。たとえば,. 取り消し線をかけている。この点については,本稿注. FD(Faculty Development: 大 学 教 員 の 能 力 開. 4を参照。. 発)の実践と研究に携わっている教育学者の神藤.

(4) 「大学改革」におけるPDCAサイクルの批判的考察⑴. 貴昭は,次のように述べている。. もちろん,教員と学生との絶えざる相互行為 の中で,設定されたPDCAサイクルの枠をは. FD活動に限らず,あるいは大学教育に限ら. みだす(例:授業評価項目を変更したくなる,. ず,教育活動にPDCAサイクルを導入するこ. 思ってもみない学生の学びがみられたなど). と自体は,大学や学校が目的を持った組織で. ことが多々あろうが,この絶えざるゆらぎの. ある限り,合理的・論理的な考え方である。. 中で生成される感覚を,合理的・論理的に正. PDCAサイクルに基づくFD活動に対して,. 当化し,説明するのは困難である。 (同上,. 合理的・論理的なレベルでの反論はしにく. 86頁). く,例えば,「きつい」「しんどい」と異議を 申し立てるような,身体性のレベルでの反論. なぜ,「困難である」と断定してしまうのであ. しかできない。(神藤 2011,86頁). ろうか。まさにここでいわれる「PDCAサイクル の枠をはみだす」ようなさまざまな教育現実こそ,. 多くの大学教員が,そのじつ強い不満を抱いて. 多くの大学教員が抱く,PDCAサイクルに対する. いながら,まさに「仕方なく」,PDCAサイクル. 違和のゆえんにほかならない。そうであるとすれ. の強制に服従せざるをえない事情の一端を,この. ば,それを「合理的・論理的に正当化し,説明す. 神藤の文章はよく表わしている。どれほどその強. る」ということこそ,まさにわれわれが取り組ま. 制性やそれにともなう作業の煩わしさを嫌ったと. ねばならぬ,焦眉の学問的課題であるといわねば. ころで, 「考え方」そのものが「合理的・論理的」. ならぬのではなかろうか。それはいわば,「合理. である以上, それに対する「異議」や「反論」は,. 的・論理的な考え方」とされるPDCAサイクルを. 結局のところ,たんなる愚痴にしかならない,と. はみ出すさまざまな教育現実をも内包する,より. いうわけである。. 高次の合理性を論理化し,言語化する試みである。. しかし,そうであろうか。神藤は,PDCAサイ. それに成功したときに,はじめてわれわれは,. クルとその教育活動への導入それ自体は「合理. PDCAサイクルという「鉄の檻」に対する,たん. 的・論理的な考え方である」と,こともなげに断. なる愚痴ではない,学問的な「批判」をなすこと. 言している。しかし,これはけっして自明のこと. ができるであろう2。. ではない。問われるべきは,これが本当に「合理. 以下,本稿および続稿では,そのための,筆者. 的・論理的な考え方」であるのかどうかという,. なりのささやかな試みを提示してみたい。そこで,. まさにそのことである。そして現に,この問題は. さしあたり本稿は,まずはこのPDCAサイクルな. すでに問われている。PDCAサイクルという手法. るものが「大学改革」に導入されていった過程お. に関しては,じつは,けっして少なくはないさま. よび現状をあらためて整理・検討することを目的. ざまな「合理的・論理的なレベルでの反論」が, すでになされているのである。それはまさに,わ れわれの現実における「身体性のレベル」での違 和の感覚を,学問的文脈において言語化し論理化 する,本来の意味での「思想」という営みにほか. 2 いうまでもなく, 「鉄の檻」とは, マックス・ウェーバー が「非有機的・機械的生産の技術的・経済的条件に結 びつけられた近代的経済秩序」(ヴェーバー 1989,365 頁)を比喩した表現である。これについては,それを,. ならない。われわれはまず,これらの貴重な営み. 政治,経済,教育といったあらゆる面において, 「合理. に,学ばねばならない。. 性が高まり,合理化が進んでいけば,むしろ人間が合. さらに神藤は,上の文章に続けて,次のように も書いている。. 理的なもののなかに取り込まれてしまって,あたかも 機械の歯車のように変えられてしまう」事態として, 的確かつ平易に分析した佐伯啓思の近代文明論を,ぜ ひとも参照されたい(佐伯 2003,200-204頁) 。. 3.

(5) 古 川 雄 嗣. とする。いつのまにか頻繁に耳目にふれるように 具体的にいつ頃,誰の発案で,どのような理由に. における評価機能の強化」の②として,「評価の ・・・・・・・・・・・ 客観性を確保するため,評価指標の体系化や評価 ・・・・ ・・・ の数値化・計量化など合理的で的確な評価手法を. よって,そしてどのような意味内容において, 「大. 開発していく必要がある」とかと記された(行政. 学改革」 に導入され,現在にいたっているのかを,. 改革会議 1997,傍点引用者)。. まずは確認しておかなければならない。具体的に. 傍点を付した箇所に注目して回顧すれば,この. は,まず第1節において,わが国の政策評価一般. 「評価手法」としてPDCAサイクルが採用される. への導入過程を検討し,続く第2節において,そ. にいたったのは,ほとんど必然的であったといっ. れにともなう文教政策への導入経緯を確認する。. てよかろう。この「最終報告」を受け,2001年に. そうして第3節では,さらにそれを背景とした,. は「行政機関が行う政策の評価に関する法律」が. 1991年 以 降 の い わ ゆ る「 大 学 改 革 」 に お け る. 制定。その第五条として「政府は,政策評価の計. PDCAサイクルの位置づけ,ならびに2010年代の. 画的かつ着実な推進を図るため,政策評価に関す. 現状を把握することに努めることとする。. る基本方針(以下「基本方針」という。)を定め. なった感のあるこのPDCAサイクルなるものが,. な け れ ば な ら な い 」 と 定 め ら れ た( 総 務 省. 1 政策評価システムとしての導入契機と導 入過程 そもそも,いつ頃から,どのような経緯で,. 2001a)。そうしてそれに基づき,同年,「政策評 価に関する基本方針」が閣議決定。そのⅠの1の ⑴「政策評価の実施に関する基本的な考え方」の なかに,次のように記されるにいたった。. PDCAサイクルという手法がわが国の文教政策を 含む政策評価一般のシステムとして導入されるに. 政策評価は,これを「企画立案(Plan)」, 「実. いたったのか。これについては,すでに由井浩が. 施(Do)」,「評価(See)」を主要な要素とす. 詳細な検証を行なっているため,ここではとくに. る政策のマネジメント・サイクルの中に制度. 重要と思われる事項のみの確認にとどめておこ. 化されたシステムとして明確に組み込み,そ. 3. う。. の客観的かつ厳格な実施を確保し,政策評価. そもそもの端緒は,1996年に開始された「行政. の結果を始めとする政策評価に関する一連の. 改革会議」の「最終報告」 (1997年12月3日)に. 情報を公表することにより,政策の不断の見. おいて,Ⅲの5に「評価機能の充実強化」が掲げ. 直しや改善につなげるとともに,国民に対す. られたことにあると考えられる。そこにはたとえ. る行政の説明責任の徹底を図るものである。. ば,⑴「評価機能の充実の必要性」の②として, ・・・・・ ・ 「政策は実施段階で常にその効果が点検され,不 ・・・・・・・・ 断の見直しや改善が加えられていくことが重要で. 政策評価が政策のマネジメント・サイクル. あり,そのためには,政策の効果について,事前, ・・・・・・ 事後に,厳正かつ客観的な評価を行い,それを政 ・・・・・・・・・・・・ 策立案部門の企画立案作業に反映させる仕組みを. るとともに,併せて行政の政策形成能力の向. 充実強化することが必要である」とか,⑵「各省. 点に立った成果重視の行政が実現されること. に組み込まれ,このサイクルが有効に機能す ることにより,政策の質の向上がもたらされ 上や職員の意識改革が進み,これらにより, 国民本位の効率的で質の高い行政や国民的視 となる。(総務省 2001b). 3 由井(2012)を参照。本節の記述も,大部分がこれを 導き手として筆者なりに後追いしたものであるが,煩. 4. なお,みてのとおり,ここではPDS(Plan-Do-. 瑣を避けるため,いちいちの参照箇所の表記は控える. See)という3段階のサイクルが示されていた。. こととする。由井の綿密な研究に敬意と謝意を表する。. これがのちにPDCAの4段階に改められるにい.

(6) 「大学改革」におけるPDCAサイクルの批判的考察⑴. たった直接的な契機は,おそらく経済財政諮問会. が起こしやすいような,そういう評価の仕組みを. 議における奥田碩(トヨタ自動車㈱取締役会長〔当. してくれと,そういう趣旨からの御提案だと思い. 時〕 )ら「民間議員」からの強い「提案」(経済財. ます」とまとめている4(同上,13-14頁)。. 政諮問会議 2004,13頁)であったと考えられる。. ここで,PDCAサイクルという評価システム. その議事録をみると,たとえば2004年の第25回会. が,明確に「減らすための評価」の方法として「提. 議において,奥田は次のように発言している。. 案」されている事実には,あらためて注意してお くべきであろう。というのは,この時点ですでに,. 評 価 の 問 題 の と き に, い つ も 政 府 関 係 の. 「目標に対して結果を重視すること以上に,品質. チェックの仕方を見ていますと, 「Plan-Do-. 達成目標を含む計画の策定のプロセスと,実行の. See」 ということで終わっているわけですね。. プロセスの管理,結果の検討と改善のプロセスを. 我 々 の 会 社 で や っ て い る の は, 「Plan-Do-. 重視」するところに,その「真意」があったとさ. check-action」。「See」のところが「Check-. れるPDCAサイクルが(由井 2012,38頁),いわ. Action」 と い う 話 に な っ て い る わ け で,. ば,たんなる経営の合理化・スリム化のための. 「PDCA」のサイクルを回しながら,絶えず. ツールへと,その意図を著しく矮小化されている. 改善して向上していくという,そういう考え. と考えられるからである。とはいえ,この点につ. 方を持っていますけど,この「See」の中に. いては,続稿にてあらためて検討することとしよ. は「Check & Action」というのは入ってお. う。ともかくも,この奥田らの提案を受けるかた. るんですか。そこが私は非常によくわからな. ちで,翌2005年の「経済財政運営と構造改革に関. く て, 「See」 と い う の は 何 か 見 る だ け で 「Action」が何もない。(同上,12頁). 4 なお,PDSとPDCAとの異同については,由井浩の詳 細な検討によって,以下のような経緯が明らかにされ. この奥田の発言に対して,さらに他の3名の民 間議員より, 「良い評価のところは,インセンティ. ている。 「品質管理におけるPlan-Do-Check-Actionは, plan-do-seeとは関係なく『計画-実施-チェック-処 置(アクション) 』として案出され, その後Juran(1954). ブを与えてモチベーションを高めていくというこ. の講義〔J. M. Juran, Planning and Practices in Quality. とと同時,悪い事例については,ペナルティを課. Control: Lectures on Quality Control―― 引 用 者 〕 に. して,減額をシンボリックな意味でもきちんと予 算の中に反映していくということ」 (本間正明・. よって管理過程論のPlan-Do-Seeを知るに及び,両者 を連結して『Plan-Do-Check-Action』と称した(1963 ~1964年) 」 (由井 2011,58頁) 。つまり,単純にPDS. 大阪大学大学院経済学研究科教授〔当時〕), 「大体,. のSをCAに置き換えて精緻化した,というわけではな. 今のような時代の評価というのは,基本的には予. いらしい。ちなみに,かくして60年代半ばに提唱され. 算を減らすために評価をする。 〔……〕現段階で はほとんどが減らすための評価だと思います」 (牛. た日本のPDCA(Plan-Do-Check-Action) サイクルが, その後,70年代には国内に,80年代以降は海外にも普 及し,これが90年代以降,日本でも海外でもPlan-Do-. 尾治朗・ウシオ電機㈱代表取締役会長〔当時〕),. Check-Actと呼ばれるのが一般的となっているらしい. 「評価をActionにつなげる,具体的に言えば,翌. (由井 2012,40頁)。本稿注1でふれたように,由井. 年の予算編成につなげるということがなければ意 味がない。事後評価で悪い評価が出たものは,廃. らがActionかActかという一見「些細」な問題にこだわ るのも,平然と後者が使用されている点に,2000年代 における政策評価や大学改革におけるPDCAサイクル. 止・縮減する」 (吉川洋・東京大学大学院経済学. の導入が,上記のような「歴史的経緯を十分に検討し. 研究科教授〔当時〕 )といった補足的な意見が示. た上でのことであるのかは甚だ疑問」(由井 2011,63. され,それらを受けて,竹中平蔵(内閣府特命担 当大臣〔当時〕 )が,「今日の民間議員の提案は, そういう〔廃止・縮減の――引用者〕アクション. 頁)であり, 「50年以上も前に,製造業・建設業で用い られた管理手法」の「一部の『つまみ食い』,それも誤 読した上での『つまみ食い』 」 (重本 2011,5-6頁)に ほかならないことがうかがわれるからであろう。. 5.

(7) 古 川 雄 嗣. する方針2005」 の第2章「『小さくて効率的な政府』. 政策評価に取り組んでいます」として,先にみた. のための3つの変革」の2の⑶「予算制度改革」. 総務省の方針に従っていることが明記された(文. の項に,以下のように明記されるにいたった。. 部科学省 2003)。そうしてここに記されている「文 部科学省政策評価基本計画」をみてみると,その. 成果目標(Plan)-予算の効率的執行(Do). 2の⑴「政策評価の目的」の項に,やはり「政策. - 厳 格 な 評 価(Check) - 予 算 へ の 反 映. 評価は,『企画立案(Plan)』『実施(Do)』『評価. (Action)を実現する予算制度改革を定着さ. (See)』を主要な要素とする政策のマネジメン. せる。 (経済財政諮問会議 2005,8頁). ト・サイクルの中において,政策評価を制度化さ れたシステムとして明確に組み込んで客観的かつ. 以降, 行政機関の政策評価システム,しかも「予. 厳格に実施し,かつ,評価結果その他の政策評価. 算を減らすため」のそれとして,PDCAサイクル. に関する一連の情報を公表することにより,政策. が採用され,さまざまな政策文書に頻出すること. の不断の見直しや改善につなげるとともに,国民. となったのである。. に対する行政の説明責任の徹底を図ることを目的 とする」とある(文部科学省 2002b)。. 2 文教政策への波及――『文部科学白書』 における導入・周知・徹底. 続く翌2003度年の『平成15年度 文部科学白書』 をみてみると,第14章「政策評価等の推進」の第 1節「政策評価の実施」に,前年度とほぼ同様の. さて,以上にみてきた政策評価は,当然,文部. 文言が述べられているが,ここではさらに, 「マ. 科学省とその文教政策をも,その対象としている。. ネジメント・サイクル」の箇所に新たに注記が付. そうして,視点を文部科学省の政策文書に移して. され, 「行政におけるマネジメント・サイクルは,. みると,上記の経緯がほとんどそのまま反映され. 政策を企画・立案し(Plan),実施する(Do)と. ていることがわかる。すなわち,まずPDSという. いう従来の行政の流れに加え,業績を測定・評価. 評価システムを明示した「政策評価に関する基本. し(See),その結果を次の政策の企画・立案に. 方針」が閣議決定された2001年度の『平成13年度. 反映させるというフィードバック(結果を原因に. 文部科学白書』では,その末尾に付章として「行. 反映させていくこと)の過程を盛り込んだ,循環. 政改革等の推進」が設けられ,その6「政策評価. 型(サイクル)の行政管理手法のことを指す」と. の実施」に, 「これまで国の行政機関が進めてき. の解説が加えられている(文部科学省 2004)。サ. た政策は, 『企画立案(Plan)』, 『実施(Do)』, 『評. イクル型の評価システムを周知・徹底させようと. 価(See) 』というマネジメントサイクルで実施. する省の意図が,よく現われているといえるであ. されてきました。近年,行政の効率性,透明性の. ろう。そうしてこの意図は,2005年度の『平成17. 一層の向上を図るため,『評価(See)』をより重. 年度 文部科学白書』になると,よりいっそう鮮. 視すべきとの機運が高まってきています」と記さ. 明になる。というのは,これの第15章「政策評価. れている(文部科学省 2002a)。翌2002年度の『平. 等の推進」の第1節「政策評価の実施」では,上. 成14年度 文部科学白書』でも,第13章「行政改. 記の「マネジメント・サイクル」についての解説. 革等の推進」の第7節「政策評価の実施」に同様. が,注記から本文にいわば格上げされ,しかもわ. の文言が記され,続けて「文部科学省では, 『行. ざわざ罫線で囲って目立つように強調されたうえ. 政機関が行う政策の評価に関する法律』 (平成14. に,視覚的にイメージ化した図表(図1参照)ま. 年4月施行)に基づき,平成14年3月に『文部科. で が 掲 げ ら れ て い る の で あ る( 文 部 科 学 省. 学省政策評価基本計画』及び『平成14年度文部科. 2006)。. 学省実施計画』を決定し,これらの計画に基づき. そうして,2005年といえば,「経済財政運営と. 6.

(8) 「大学改革」におけるPDCAサイクルの批判的考察⑴. ということを,より容易にするための評価システ ムとして,PDCAサイクルが導入されたことが, ここにも見て取れるのである。 なお,続く2007年度の『平成19年度 文部科学 白書』では,前年度と同様の文言に加え,またも や「マネジメント・サイクル」の語に注が付され, 図1『文部科学白書』に示されたPDSサイクルの概 念図 (出所)文部科学省(2006) 。. 「政策を企画・立案し(Plan),実施する(Do) という従来の行政の流れに加え,業務を測定・評 価し(Check),その結果を次の政策の企画・立 〔ママ〕. 案に反映させる(Action)という課程を盛り込ん 構造改革に関する方針2005」において,PDSでは. だ,循環型(サイクル)の行政管理手法のこと」. なくPDCAという4段階のサイクル型評価システ. との解説が加えられている(文部科学省 2008a)。. ムの導入が宣言された年であった。すると,やは. その後,どういうわけか2008年度から2010年度ま. り文部科学省においても,翌2006年度の『平成18. での3年間は,『文部科学白書』から「マネジメ. 年度 文部科学白書』以降,サイクルの形式が. ント・サイクル」に関する記述が消失するのであ. PDCAの4段階に改められていることがわかる。. るが5,2011年度の『平成23年度 文部科学白書』. すなわち,前年度と同じ第15章第1節「政策評価. になると,平成18・19年度版と同様の記述が復活. の実施」に曰く,. する。そうして2012年度の『平成24年度 文部科 学白書』では,従来の「マネジメント・サイクル」. 政策評価は,次のような点を目的としてい. という呼称が「PDCAサイクル」に変更されたう. ます。. えで,「文部科学省では,このPDCAサイクルを. ①国民本位の効率的で質の高い行政を実現. 更に機能させていく」との文言が追加されている. すること ②国民的視点に立った成果重視の行政を実 現すること. (文部科学省 2013)。2013,2014年度もほぼ同様 であり,このことから,文部科学省はとくに2010 年代に入って,「PDCAサイクル」という概念を. ③国民に対する説明責任を果たすこと. 定着させ,その「推進,活用を目指」す姿勢を,. これらの実現に向けて,政策評価を「企画. いっそう強化したものとみることができる。. 立案(Plan)」, 「実施(Do)」, 「評価(Check)」, 「企画立案への反映(Action) 」というマネ ジメント・サイクルの中に,制度化された仕 組みとして明確に組み込んで,客観的かつ厳 格にこれを実施することが求められていま す。 (文部科学省 2007) ちなみに,前年度までは,上記の政策評価の目. 5 この理由は,残念ながら本稿の執筆時点では,筆者に は突き止められなかった。ただし, 興味深いことに,ちょ うど『文部科学白書』にPDCAサイクルについての記 述が復活した2011年になると, 「文部科学省政策評価実 施計画」のなかに,政策評価およびその方法の研究に. 的は2項目のみであった。比較してみると,②に. 際しては,「効果の発現までに長期間を有し,政策と効. ある 「成果重視」が追加されていることがわかる。. 果との因果関係が複雑であることが多い文部科学省の. つまり,まさに先にみた「経済財政諮問会議」に おける民間議員の「提案」にあったとおり,「事 後評価で悪い評価が出たものは,廃止・縮減する」. 政策の特性」に留意すべきであるという,それ以前に はみられなかった記述が追加されている(文部科学省 2011)。あるいはこのことと,何らかの関係があるのか もしれない。. 7.

(9) 古 川 雄 嗣. 3 「大学改革」の過程における位置づけと 現状. 改善)が不十分であるとの認識が持続し,2002年 の中央教育審議会答申「大学の質の保証に係る新 たなシステムの構築について」では,第三者評価. 以上,まず総務省における政策評価システムと. の「義務付け」が提言された。これをみると,大. してのPDCAサイクルの採用と法制化からはじま. 学が「企画立案,実施,評価,反映といった教育. り,それが文部科学省の文教政策に波及していっ. 研究活動の改善のための循環過程を自らのうちに. た経緯を概観してきた。続いて,それの「大学改. 構築していくこと」は「当然必要」であり,さら. 革」への波及と現状をみてみることにしよう。. にそこに,第三者評価という「言わば『社会』を. ここでいう「大学改革」とは,1991年のいわゆ. 意識したプロセス」をも,「循環過程の一環とし. る大学設置基準の大綱化以降の一連の大学に関す. て導入することが必要である」と述べられている. る文教政策を指しているが,まずこの大綱化の際,. (文部科学省 2002c)。もはやPDCAサイクルそ. 大学は「自らがその教育研究の改善への努力を. のものは「当然」とされ,そこにさらに「社会」. 行っていくために,当該大学における教育研究活. という「外部」の視点を導入すべきことが力説さ. 動等の状況について自ら点検及び評価を行うこと. れているのである。そうして,周知のように,こ. に努めなければならない」とされた(文部科学省. の答申を受けて改正された2004年施行の学校教育. 1991) 。そうしてその後,1998年の大学審議会答. 法により,大学は7年ごとに認証機関による認証. 申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」. 評価を受けることを義務づけられたわけである。. では, この自己点検・評価を「努力義務」から「義. かかる経緯ののち,中央教育審議会は2008年に. 務」へと格上げし,それに加えて,第三者機関に. 答申「学士課程教育の構築に向けて」を発表。こ. よる評価を 「努力義務」とすることが提言された。. こにおいて, 「学位授与,学修の評価」に関する「改. この文書をみてみると,「大学の自己点検・評価. 革の方策」の「大学の取組」として「PDCAサイ. については, 『点検あって評価なし』との厳しい. クルの稼働」(文部科学省 2008b,240頁),「質保. 指摘があることに見られるように,形式的な評価. 証システム」に関する「改革の方策」の「大学の. に陥り教育研究活動の改善に十分結び付いていな. 取組」として「内部質保証体制の確立(自己点検. い」といった,のちの「経済財政諮問会議」にお. 評価の充実などPDCAサイクルの機能)」(同上,. ける民間議員の批判――「 『See』というのは何. 242頁)が明記された。すでに2005年に総務省,. か見るだけで『Action』が何もない」――を彷彿. 翌2006年に文部科学省において,PDCAサイクル. させる文言が記され,続いて「大学改革に当たっ. による評価システムの導入が宣言されていたこと. て,企画→実行→評価という『改革サイクル』を. をかんがみれば,この2008年の答申もそれをふま. 適切に機能させるためにも,各大学において,学. えてのことであると考えてよいであろう。そうし. 長のリーダーシップの下,自己点検・評価を実施. てこれを受け,2009年には大学基準協会が『 「大. し,その結果を教育研究活動の内容・方法等の改. 学評価」ハンドブック 2009(平成21)年度評価. 善に結び付ける仕組みを整備することが必要であ. 者用・2010(平成22)年度申請大学用』を発表。. る」と力説されている(文部科学省 1998)。もは. そのⅡの3「点検・評価の仕組み」の⑴として. やこの時点で,PDCAサイクルの導入は必然的で. 「PDCAサイクルの稼動」が明記。「PDCAサイ. あったようにも思われるが,念のため,もうしば. クルは,軌道修正を繰り返しながら到達目標を達. し経緯を追っておこう。. 成するところに特質があり,明確な到達目標設定. 上記の答申を受けた1999年の大学設置基準改正. が大変重要です」等々といった解説とともに,図. によって,自己点検・評価が義務化,第三者評価. 表(図2参照)による視覚化もなされている(大. が努力義務化された。しかし,それでも評価(と. 学基準協会 2009a,18頁)。. 8.

(10) 「大学改革」におけるPDCAサイクルの批判的考察⑴. その際,同サイクルは,1回転するごとに位 相を改善・改革の方向に上昇させ,結果とし てスパイラルを描くことになります。 認証評価にあたって,各申請大学は,この スパイラルが連綿と続いていることを可能な 限り説得力のある根拠をもとに証明する必要 があります。認証評価機関は,大学の示した 図2『「 大 学 評 価 」 ハ ン ド ブ ッ ク 』 に 示 さ れ た PDCAサイクルの概念図 (出所)大学基準協会(2009a) 。. 「証明」が適切・妥当なものであるかを確認 し,その結果をもって当該大学が内部質保証 システムを機能させているか否かを評価する ことになるからです。(同上,4-5頁). 『大学評価ハンドブック』そのものは2007年度 から刊行されているが,PDCAサイクルに関する. なお,この『ガイドブック』では,「スパイラ. 記述が登場するのは,この2009年度版以降である。. ルアップ」の「イメージ」としての図表(図3参. そうして同じ2009年には,『新大学評価システム. 照)とともに,「自己点検・評価とは,自らが定. ガイドブック――平成23年度以降の大学評価シス. めた目標や計画と実際の達成状況との照合であ. テムの概要』が発表。そこには「認証評価は,大. り,目標と実績との『差異分析』が基本です」(同. 学が構築し実行している内部質保証システムが十. 上,4頁)等々といった懇切丁寧な解説が付され. 分機能しているかどうかをチェックするのが本来. ている。そうして翌2010年の『「大学評価」ハン. の役割」であり,その内部質保証システムとして. ドブック 2011(平成23)年度申請大学用』では,. の自己点検・評価は「それ自体が目的ではなく,. この図表と解説がほぼそのまま掲載されたうえ. その結果を改革・改善へつなげることが重要で. に, 「評価の視点」が「PDCAの観点から再整理」. す。経営学で言われてきたPDCAサイクルとは,. され, 「計画の段階(PLAN)」 「行動の段階(DO)」. 目標・計画を立て(Plan),実行し(Do),結果. 「点検・評価の段階(CHECK)」「調整・改善の. を点検・評価し(Check) ,改善・見直しを行う. 段階(ACTION)」の各々の段階について,①~. (Action)といったプロセスを意味しています」. ④の項目が箇条書きにされており(大学基準協会. 等々と記されている(大学基準協会 2009b,3頁)。. 2010,10-11頁),さらに翌2011年の『「大学評価」. 要するに,認証評価の基準は,なんといっても PDCAサイクルの導入と稼働にほかならないとい うことが,ここにはっきりと記されたのである6。 それゆえ,まとめとして,次のようにいわれる。 内部質保証システムを有効に機能させるとい うことは,すなわち,各評価の視点ごとに, 大学・学部等自身が,前述のPDCAサイクル をきちんと回転させ続けるということです。. 6 ちなみに,由井浩は,ここにある「経営学で言われて きた」という箇所を,「首をかしげる記述」と評してい る(由井 2012,50頁)。この点については続稿を参照。. 図3『新大学評価システム ガイドブック』に示さ れたPDCAサイクルの概念図 (出所)大学基準協会(2009b)。. 9.

(11) 古 川 雄 嗣. ハ ン ド ブ ッ ク 2011( 平 成23) 年 度 評 価 者 用・. ます」(北山 2014,10頁)と断言し,現在は7年. 2012(平成24)年度申請大学用』でもそれが踏襲. に一度となっている認証評価についても, 「PDCA. されたうえに,さらに2箇所,「PDCAサイクル. がしっかりと回っている大学はそれで良い」が「問. の機能化」 (大学基準協会 2011,13頁)や「PDCA. 題を指摘されている大学」については「サイクル. の各段階における責任主体・組織,権限,手続を. を短くする」などの処置も検討すべきであると述. 明らかにする」 (同上,142頁)といった記述が追. べている(同上,11頁)。そうして彼は,続けて. 加されている。要するに,年月を追うごとに,. こうもいう。. PDCAサイクルについての記述がこれでもかとば かりに詳細化され,その周知と徹底がはっきりと. それぞれの大学には,目の前の現実がありま. 7. 意図されているのである 。. す。その現実を踏まえて考えなければいけな. さて, 「大学改革」におけるPDCAサイクルの. いわけです。たとえば,目指すべきゴールに. 導入とその周知・徹底については,おおむね以上. 進もうという時に,学内のどこに不利益が及. のような経緯であるが,本節の最後に,その後か. ぶのかとか,あるいは抵抗勢力となりうると. ら現在にいたる状況の一端を一瞥しておこう。. ころがあるのか,ないのか――もっといえば,. 2014年のあるインタヴューにおいて,経済同友会. ある学部や学科が縮小するとしたら,そこの. 教育改革委員会委員長(当時)の北山禎介は, 「大. 教員たちをどう処遇するのかということも. 学改革の成否は,改革サイクル(PDCA)をいか. セットで考えなければなりませんよね。そう. に有効に機能させることができるかにかかってい. した現実の問題をいかにしたら解決できるの かということ――目指すべきゴールと現実の 間をつなぐプロセスを真剣に考える必要があ. 7 ただし,これ以降,つまり2012年度から現行の『大学 評価ハンドブック』では,逆にあれほど詳細を極めた PDCAサイクルについての解説がほとんど削除され, 「『内部質保証』(Internal Quality Assurance)とは, ・ PDCAサイクル等 の方法を適切に機能させることに よって,質の向上を図り」云々という一文があるのみ となっている(大学基準協会 2012,4頁,傍点引用者) 。 由井浩はこの点について,「PDSやPDCAなどの管理サ. ここで述べられていることは,明らかに,大学 教育の目標や方法に関する質的な「改善」ではな い。そうではなく,あらかじめ定められた「目指 すべきゴール」に向けた「改革」のために, 「抵. イクルによって,ことさらに良いマネジメントができ. 抗勢力」を排除し,学部・学科を「縮小」する。. るという効果はほとんどないということに,〔……〕各. そのために,「改革サイクル」としてのPDCAサ. 機関が気付いてきたのかもしれない」(由井 2012,52. イクルを「有効に機能させ」なければならないと. 頁)との希望的観測を加えていたが,いまとなっては どうであろうか。すでにみたように,たとえば『文部. 力説されているのである。明らかに北山は,まさ. 科学白書』では,2012年以降,従来の「マネジメント・. に先にみた「経済財政諮問会議」において「民間. サイクル」という呼称を「PDCAサイクル」に変更し,. 議員」から「提案」された「廃止・縮減のアクショ. 「文部科学省では,このPDCAサイクルを更に機能さ. ンが起こしやすいような評価の仕組み」として,. せていく」と宣言していることなどをかんがみれば, むしろPDCAサイクルの周知と徹底がある程度行き届. PDCAサイクルを「有効に機能」させようとして. いたがために,さほどの強調の必要性もなくなったと. いることがわかる。なお,北山は2016年4月現在,. いう判断がはたらいたという可能性も考えられる。深. 中央教育審議会会長を務めていることも付言して. 読みかもしれないが,2012年度以降,大学基準協会の. おくべきであろう。. 『 「大学評価」ハンドブック』が『大学評価ハンドブッ ク』に名称変更されていることも,「大学評価」が一般. 10. ります。(同上,13頁). では,かかる動向に対する,大学の反応はいか. 名詞化したという判断のゆえであるとみることもでき. なるものであろうか。もとよりそれは千差万別で,. なくはない。. いちがいにはいえないであろうが,ひとつのきわ.

(12) 「大学改革」におけるPDCAサイクルの批判的考察⑴. めて典型的な事例として,筆者も2014年度まで非. 2015,20頁)。なんと彼は,要するに,PDCAサ. 常勤講師として勤務していた立命館大学を挙げて. イクルの導入を大学評価の基準にするなら,はっ. おこう。同大学教育開発推進機構の安岡高志は,. きりとそう「指導」してくれればよかったではな. 先述の中央教育審議会答申「学士課程教育の構築. いか,との不満を述べ立てているのである。目を. に向けて」が発表された翌年の2009年,同機構の. 疑う記述というほかない。これほどまでに主体性. 『ニュースレター』に「PDCAサイクルって何? . を欠如した大学と大学教員が,どうして学生の「主. 教学にも運用できるの?」と題する記事を発表し. 体的に考える力を育成する」(文部科学省 2012). ている。そこには,「PDCAはPlan(計画)・Do. などということができるのか,私にはわからない。. (実行) ・Check(評価)・Action(改善)の頭文 字を取ったもので,これが目的達成のためにスパ イラル状に回る仕組みのこと」 (安岡 2009,1頁). むすびに代えて. という,PDCAサイクルについてのもっとも通俗. 以上,本稿では,PDCAサイクルという管理手. 的な解説に加え,その導入が中央教育審議会や大. 法がわが国の政策評価,文教政策,そして90年代. 学基準協会で宣言されていることが記されたうえ. 以降の「大学改革」へと導入され,それが年月を. で, 「文部科学省主導とは言え,PDCAサイクル. 追うごとに徹底されていく過程を確認した。ここ. を運用せざるを得ない状態であり,運用できるか. であらためて浮き彫りになったことは,PDCAサ. 否かという状態はとうに過ぎているようです」と. イクルとは,けっして大学の教育および研究の質. 述べられている(同上,2頁)。そうして,なん. 的な改善に資するがゆえに導入されたシステムで. と安岡は, 「私の心配は,本学がPDCAサイクル. あるのではなく,「廃止・縮減」によって「予算. に乗り遅れることです」,「今乗り遅れれば取り返. を減らす」という意味での,経営のたんに量的な. しのつかないことになります」(同上,2頁)と,. 合理化・スリム化に資するがゆえに導入されたシ. あからさまに「乗り遅れ」に対する危機感を煽る. ステムであることが,あまりにも明白であるとい. かたちで,この記事を閉じている。いったい何に. うことであった。. 「乗り遅れる」と,どういう意味で「取り返しの. したがって,たんなるその導入と稼働の強制に. つかないこと」になるのかは,まったく記されて. よっては,大学はけっして本来の意味で「改善」. いない。. さ れ る わ け で は な く, む し ろ な ん と な れ ば,. さらに安岡は,2015年の論文において,同大学. PDCAサイクルを回せば回すほど大学は悪化する. における「PDCAサイクルの導入状況」について. のであるという激しい批判が,方々から噴出する. 考察しているが,そこには,2011年度の大学基準. のは当然である。続稿では,それらの批判をあら. 協会による審査結果報告書に「PDCAサイクルに. ためて整理・検討することを通じて,PDCAサイ. 関する記載が見られなかった」ことに対する不満. クルがはらむ問題の本質を抽出することを試みて. が述べられている。「導入すべきである,あるい. みたい。(続). はPDCAサイクルにしたがって点検・評価を行う べきであるという指摘が必要あったのではないか と推察される」というのである。「何故なら,大. 付 記. 学基準協会の発行の『じゅあ』No. 41に2011年以. 本稿および続稿は,藤本夕衣・古川雄嗣・渡邉浩一編. 降の大学基準協会の大学評価の改革方向と題し. 『反「大学改革」論――若手研究者の問題提起』 (仮) (ナ. て,申請大学におけるPDCAサイクルを十分に機 能させるために自己点検・評価を実質化させる大 学評価の構築を謳っているからである」と(安岡. カニシヤ出版,近刊)の第1章のための草稿として書か れたものであるが,予定の字数を大幅に超過したため, 同書にはその要約を掲載した。そのため,記述が一部重 複していることを断っておく。. 11.

(13) 古 川 雄 嗣. 参考文献 ヴェーバー,マックス(1989)『プロテスタンティズムの 倫理と資本主義の精神』大塚久雄訳〈岩波文庫〉岩波 書店 北山禎介(2014)「 『まったなし』の大学改革――PDCA サイクルを回すために」 『文部科学教育通信』第331号, ジアース教育新社 行 政 改 革 会 議(1997)「 最 終 報 告 」http://www.kantei. go.jp/jp/gyokaku/report-final/ 経済財政諮問会議(2004) 「第25回会議(平成16年10月5日) 議 事 録」http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/minutes /2004/1005/minutes_s.pdf ――――(2005) 「経済財政運営と構造改革に関する方針 2005」http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizai/ kakugi/050621honebuto.pdf 佐伯啓思(2003)『現代文明論(上)人間は進歩してきた のか――「西欧近代」再考』〈PHP新書〉PHP研究所 重本直利(2011) 「3つの誤読の背景」,シリーズ「大学 評価を考える」第4巻編集委員会編『PDCAサイクル, 3つの誤読――サイクル過程でないコミュニケーショ ン過程による評価活動の提案に向けて』晃洋書房 シリーズ「大学評価を考える」第4巻編集委員会編(2011) 『PDCAサイクル,3つの誤読――サイクル過程でな いコミュニケーション過程による評価活動の提案に向 けて』晃洋書房 神藤貴昭(2011)「FDの臨床論――FD担当者の臨床的感 覚に注目して」『京都大学高等教育研究』第17号,京都 大学高等教育研究開発推進センター 総務省(2001a) 「行政機関が行う政策の評価に関する法律」 http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/houritu. htm ――――(2001b)「政策評価に関する基本方針」http:// www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/hyoka_ hosinhonbun.html 大学基準協会(2009a) 『「大学評価」ハンドブック 2009(平 成21)年度評価者用・2010(平成22)年度申請大学用』 http://www.juaa.or.jp/images/accreditation/pdf/ handbook/university/2009/handbook_all.pdf ――――(2009b) 『新大学評価システム ガイドブック―― 平成23年度以降の大学評価システムの概要』http://www. juaa.or.jp/images/accreditation/pdf/explanation/ university/2009_10/documents_01.pdf ――――(2010)『「大学評価」ハンドブック 2011(平成 23)年度申請大学用』http://www.juaa.or.jp/images/ accreditation/pdf/handbook/university/2010/ handbook_all.pdf ――――(2011)『「大学評価」ハンドブック 2011(平成 23)年度評価者用・2012(平成24)年度申請大学用』. 12. http://www.juaa.or.jp/images/accreditation/pdf/ handbook/university/2011/handbook_all.pdf ――――(2012) 『大学評価ハンドブック 2012(平成 24)年度評価者用・2013(平成25)年度申請大学用』 http://www.juaa.or.jp/images/accreditation/pdf/ handbook/university/2012/handbook_all.pdf 日永龍彦(2011)「大学の質とモノの質の誤読――PDCA サイクルを回すほど大学は方向性を見失う」,シリーズ 「大学評価を考える」第4巻編集委員会編『PDCAサ イクル,3つの誤読――サイクル過程でないコミュニ ケーション過程による評価活動の提案に向けて』晃洋 書房 文部科学省(1991)「大学設置基準の一部を改正する省令 の施行等について」http://www.mext.go.jp/b_menu/ hakusho/nc/t19910624001/t19910624001.html ――――(1998) 「21世紀の大学像と今後の改革方策につ いて――競争的環境の中で個性が輝く大学」 (答申) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/ old_daigaku_index/toushin/1315932.htm ――――(2002a) 『 平 成13年 度 文 部 科 学 白 書 』http:// www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200101/ index.html ――――(2002b) 「文部科学省政策評価基本計画」http:// www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/jissi/020302.htm ――――(2002c)「大学の質の保証に係る新たなシステ ムの構築について」 (答申)http://www.mext.go.jp/b_ menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/020801.htm#3 ――――(2003) 『 平 成14年 度 文 部 科 学 白 書 』http:// www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200201/ index.html ――――(2004) 『 平 成15年 度 文 部 科 学 白 書 』http:// www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200301/ index.html ――――(2006) 『 平 成17年 度 文 部 科 学 白 書 』http:// www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpba200501/ index.htm ――――(2007) 『 平 成18年 度 文 部 科 学 白 書 』http:// www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200601/ index.htm ――――(2008a) 『 平 成19年 度 文 部 科 学 白 書 』http:// www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200701/ index.htm ――――(2008b) 「学士課程教育の構築に向けて」 (答申) 文部科学省よりpdfファイルをご送付いただいた ――――(2011) 「平成23年度 文部科学省政策評価実施 計画」http://www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/seido/ 1304335.htm ――――(2012) 「新たな未来を築くための大学教育の質 的転換に向けて――生涯学び続け,主体的に考える力.

(14) 「大学改革」におけるPDCAサイクルの批判的考察⑴. を 育 成 す る 大 学 へ 」( 答 申 )http://www.mext.go.jp/ component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/ afieldfile/2012/10/04/1325048_1.pdf ――――(2013)『 平 成24年 度 文 部 科 学 白 書 』http:// www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/ hpab201301/1338525.htm 安岡高志(2009)「PDCAサイクルって何? 教学にも運 用できるの?」 『立命館大学教育開発推進機構ニュース レター』第14号,立命館大学教育開発推進機構 ――――(2015)「立命館大学の自己点検・評価(PDCA サイクル)が緒につくまで」『立命館高等教育研究』第 15号,立命館大学大学教育開発・支援センター 由井浩(2011)「品質管理としての成立過程の誤読――デ ミング曰く“PDCAサイクルは私が述べたものではな い”」,シリーズ「大学評価を考える」第4巻編集委員 会編『PDCAサイクル,3つの誤読――サイクル過程 でないコミュニケーション過程による評価活動の提案 に向けて』晃洋書房 ――――(2012)「PDCAサイクル:真意不在の波及と誤 用――大学評価とも関わって」『龍谷大学経営学論集』 第52巻第2・3号,龍谷大学. (旭川校講師). 13.

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参照

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