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教員養成大学の学生における社会への移行に対する不安の可視化

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Academic year: 2021

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(1)Title. 教員養成大学の学生における社会への移行に対する不安の可視化. Author(s). 附田, 真央; 半澤, 礼之. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第50号: 13-18. Issue Date. 2018-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/10467. Rights. publisher. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第50号(平成30年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.50(2018):13-18. 教員養成大学の学生における社会への移行に対する不安の可視化 附 田 真 央1・半 澤 礼 之2 ヒューマンアカデミー株式会社1 北海道教育大学 教育学部 釧路校2. Visualization of anxiety about transitions in teacher training college students TUSKEDA Mao1, HANZAWA Reino2 Human Academy1, Hokkaido University of Education2. 問題と目的. 教育大学教員養成連携開発センター,2016)。しかし若松. 移行期と危機. (2006)が指摘するように,「たとえそれを念頭に入学し. 大学生は,学校から社会への移行期として位置づけられ. てきても,教育実習や子どもと接した経験や見聞した情報. る。山本・ワップナー(1992)は, 「大学から職場への移. をもとに,改めて志望を吟味・検討し,確信することが重. 行期は,青年期中期から後期,すなわちまさに成人になる. 要」であるといえる。そのプロセスの中で,自らの教職に. 時期にあたり,人生周期上大きな転換期とされている」. 対する意識を様々な形で捉えなおす可能性は十分に考えら. と述べ,人間の発達におけるこの時期の重要性を指摘し. れるだろう。そして,そのような捉えなおしが生じる契機. た。また彼らは,人生移行は危機を内包しており,移行. のひとつとして教育実習があげられる。. 過程に有る人や出来事の渦中にある人が激しいインパクト. 教育実習において,彼らの志望意識は大きく揺さぶられ. を受け混乱しているならば,それは単なる「変化」ではな. る(小林,2007)。教員養成におけるこの時期の重要性に. く「危機的移行」であるとしている(山本・ワップナー,. ついては,中島(2017)が指摘するように,実習が教職志. 1992) 。そして,この時期に大学生の多くが直面する,彼. 望に影響を与えるという観点から様々な研究が蓄積されて. らにインパクトを与えうるライフイベントとして進路選. きた。それらの研究は,研究者により「教員志望動機」 「教. 択・職業選択がある。. 師志望度」「教職志望」「教職意識」と用語に若干の相違が. 青年期,そして学校から社会への移行における進路選択. あるものの,たとえば教育実習ストレス(淵上・島田・園屋,. や職業選択の重要性はこれまでにも様々に指摘されてき. 1994)や実習における居場所(三島・林・森,2011)のよ. た。たとえばErikson(1959小此木訳,1974)は,青年期. うな実習内での体験と教職意識の関連について検討すると. の発達課題として職業選択・決定の重要性を指摘した。ま. いった形で,実際に教員となることを目指す度合と教育実. た,Lewin(1951猪股訳,1956)は,青年期における職業. 習における諸体験との関係を検討している(中島, 2017) 。. を組み込んだ形での時間的展望の構造化の必要性を強調し ている。いずれも,青年期の発達において職業が大きな意. 教育実習を経験した学生の支援に向けて. 味を持つことを指摘しているといえるだろう。日本におい. このような,教育実習経験による学生の教職に対する意. ても, その重要性を背景として, 自己効力感やアイデンティ. 識への影響は,彼らに様々なインパクトを与えると考えら. ティ,時間的展望,また,大学での学びといった進路選択. れる。山本ら(1992)が指摘する,危機的移行を構成する. や就職活動にとって肯定的に働く可能性のある要因(たと. 一側面であると考えられるだろう。したがって,この時期. えば浦上,1996;半澤・坂井,2005;都筑,2007)が検討. の学生に対する支援を検討することは重要である。この支. されたり, 就職活動に伴う不安や心理的適応の問題 (藤井,. 援について,たとえば教育実習に対する不安の低減や大学. 1999)が検討されてきたりしたと言える(半澤,2017)。. のフォローアップの必要性についての調査(姫野,2003) といった,教育実習それ自体にどのように関わっていくの. 教育実習経験が教員養成大学の学生に与える影響. かということに対する検討はこれまでの研究でも行われて. 本研究は,この移行にともなう不安や心理的適応の問題. きた。その一方で,前述したように実習経験を環境移行,. とその支援について,特に教員を志望する教員養成大学に. 特に危機的移行の一側面として捉え,学生がそこから受け. 所属する学生を対象として検討を行う。. るインパクトによって生じる様々な問題に対処できるよう. 教員養成大学に所属する学生の多くは,教師という職業. 促すような支援を検討した研究は十分ではなかった。教育. を選択した上で大学進学を決めている割合が高い(北海道. 実習を経験することによる自らの将来に対する不安という. - 13 -.

(3) 附 田 真 央・半 澤 礼 之 観点を組み込む形で,大学生への支援を検討する必要があ. に向かっていけるような計画立案が可能になるのではない. ると言えるだろう。. だろうか。. 教育実習後に学生が抱く不安に対する支援のひとつとして. 本研究は以上の2つの方法を用いた上で,可視化された. の「不安の可視化」. 不安の詳細と可視化の効果の二点を確認するためにあわせ. 不安を感じている学生がそれに対処するためには,まず. て面接調査を行う。. 彼ら自身がどんな不安を感じているのかについて内省し,. また本研究では,社会への移行に対する不安の中でも特. 明らかにする必要がある。松田ら(2010)は、 「問題の中. に,教育実習終了後から卒業までという職業に就く以前の. 心である不安の対象が曖昧であることは、個人が抱えてい. 在学中に関する不安に焦点を当てて述べることとする。従. る問題に対して具体的かつ適切な支援を行う上で大きな妨. 来の研究では,教職志望の学生が抱く教育実習に対する不. げとなる」ために「就職活動中に生じる不安に対する支援. 安(たとえば西松,2007;仲矢・三島・高旗・稲田・後藤,. を行うには、学生が就職活動のどういう側面について不安. 2015)や,将来教師になることへの不安(たとえば河崎,. を感じているのか、詳細に捉えることが重要だ」と指摘し. 2005)に関しては,様々に研究が行われてきた。一方,教. ている。したがって,学生が抱えている不安を捉え,それ. 育実習を終えたあとに,卒業まで学生がどのような不安を. を対処可能なものにしていくためには,不安の可視化が必. 抱いているのかについて検討した研究は少ない。この時期. 要となると言えるだろう。自らの不安を可視化し整理する. は教育実習を終えて将来の準備を行う大学生後期として位. ことは,大学生が自ら課題を見つめ直し新しい展望を開く. 置づけることができるため,この移行の時期の不安を検討. ことを助けるかもしれない。. することは重要な意味を持つと考えられる。. そこで本研究は,教育実習を経験した学生が抱く将来に. 以上より本研究では,教員養成大学に通う教育実習を終. 対する不安の対処を支援する方法を検討するために,(1)マ. えた学生を対象として,彼らが抱く不安の可視化を促し,. インド・マップ,(2)スケーリング・クエスチョンの2つを. そしてそれが不安の対処につながるかどうかについて探索. 用いて「不安の可視化」を促すことを目指す。これらの方. 的に検討することを目的とする。. 法を用いる理由について,以下に述べる。 (1).マインド・マップ. 方法. 将来に対する不安を抱く学生が自身の就職不安を整理す. 調査対象者. る手段として,マインド・マップ(ブザン,2005)を用い. 教員養成大学に所属する大学3年生11名(男性5名/女性. る。マインド・マップは,考えていることを視覚化できる. 6名)。いずれの対象者も,調査1 ヶ月前に教育実習(主免. (定金,1996)という特徴をもち、テーマをセントラルイ. 実習)を終えていた。. メージとして表現し,そこから放射状に枝を広げていって 図を作成する(佐竹・小柳・松川・市橋・山本・竹村,. 調査時期. 2017) 。そのため,マインド・マップはあるテーマについ. 2017年10月~11月. て思考したことが広がりと階層性をもって表現される。将 来に不安を抱える大学生が,不安についてどのように考え. 手続き. ているのかを可視化する上で,このツールは有用であると. 先行する調査(附田,2017)において,マインド・マッ. 考えられる。. プとスケーリング・クエスチョンを用いた面接依頼の募集. (2).スケーリング・クエスチョン. を行った。そこで面接を受けることを了承した20名の中か. 可視化された不安に対処するためには,その不安にどの. ら,職に就くことへの不安の程度,教育実習後に卒業後の. ようにアプローチするのかを考え,計画を立てる必要があ. 進路について変化したかどうか,卒業後の進路について大. る。スケーリング・クエスチョンとは,その名の通りさま. 学院への進学希望者は対象としないことの3点を考慮し,. ざまな事柄を数値に置き換えて表現してもらうもので,何. 12名に面接依頼をメールで行った。そこから返信のあった. かある事柄の状況や判断、印象などを1 ~ 10までのスケー. 11名を調査対象者とした。. ルで数字にし,その差異について,どこがどう違うのかを. 面接では,一人約50分程度の半構造化面接をマインド・. 具体的に説明してもらうのである(定金,1996) 。この作. マップとスケーリング・クエスチョンを実施するための. 業を行うことによって,不安の対処に向けて大学生自身が. ワークシートを用いながら行った。マインド・マップはセ. 現在自分がどの位置にいるのかを確認することができると. ントラルイメージを「就職不安」とし,そこから連想する. いえる。そうすることによって,どうすればよりよくなる. 事柄について自由に描くことを求めた。スケーリング・ク. かを本人で計画させ、解決に向けての動機を高めさせるこ. エスチョンは,マインド・マップを通じて可視化した不安. とができると考えられる(定金,1996) 。したがって,こ. に基づく形で,10点をゴールとした場合に現段階において. の作業を通して,スモールステップを踏みながら自ら目標. 自分は何点の位置にいると思うかについて答えることを求. - 14 -.

(4) 教員養成大学の学生における社会への移行に対する不安の可視化 めた。そしてその位置が自分にとってどのような意味をも. た。. つのかについて,得点を上げるために行う必要があると考. 実施前の不安に関するカテゴリーとして,【友人との比. えられることなどについて尋ねた。. 較】【教員採用試験不安】【家族からの要望】【未決定】 【将. 調査中は了承を得てICレコーダーにその内容を録音. 来の迷い】が得られた。実施後の不安のカテゴリーとして. し,そのデータをもとに逐語録を作成した。なお、一連の. 【友人との比較】【教員採用試験不安】【現状の忙しさ】が. 手続きの中では,調査対象者個人が特定できないよう配慮. 得られた。また,実施後の不安のカテゴリーのうち, 【教. した。. 員採用試験不安】は「教員志望度」「教員採用試験の準備 時期」「教員採用試験内容」「将来準備不安」という下位カ. 面接の流れ. テゴリーを含んでいた。この【教員採用試験不安】の下位. マインド・マップとスケーリング・クエスチョンを実施. カテゴリーは,実施後のみに見られたものであった。. しながら,以下の質問の流れで面接を行った。. このように,実施前の不安に関するカテゴリーが5つ,. 1.先行の質問紙調査(附田,2017)における不安得点に. 実施後が3つ(下位カテゴリーは4つ)生成された。次にそ れぞれのカテゴリーについてその特徴を述べたあとに,実. 基づく現在抱いている将来に対する不安の確認 2.マインド・マップの実施. 施前と実施後の比較を行うために,前後の両方で生成され. 3.マインド・マップを実施して,将来への不安をどのよ. たものの,そのあり方が変化したと考えられる【教員採用 試験不安】に焦点を当てる。そして,そのあり方の変化か. うに感じたか 4.1で不安得点について話をしたときと比較して,マイ. ら推察される可視化の効果について,考察を行う。. ンド・マップを実施した後で不安の捉え方に変化や発 生成されたカテゴリーの特徴. 見があったかどうか 5.過去にマインド・マップを経験したことがあるか. 【友人との比較】は,周囲にいる自分と同じように教員. 6.スケーリング・クエスチョンの実施. を目指す学生の様子を見ることによって,現在の自分の状. 7.スケーリング・クエスチョンを実施して,将来への不. 況に対して感じる不安であると考えられる。本研究の対象 者は常に教員志望の友人・知人が周囲にいる状況におかれ. 安をどのように感じたか 8.実施して気づいた点はあるか。また,実施前後で不安. ている教員養成大学に所属する学生であるため,この不安 が実施前後で共に現れたのではないだろうか。教員志望学. の捉え方に変化はあったか 9.過去にスケーリング・クエスチョンを経験したことが. 生の研究ではないが,杉本(2007)は就職活動プロセスに おける親しい友人の影響を指摘している。大学生が将来を. あるか 10.最初の質問で答えた不安得点は,この活動を通じて変. 展望する上で周囲の友人の影響は大きいと考えられる。 【教員採用試験不安】というカテゴリーも実施前後で生. 化したか。変化したとすれば何点か. 成されたが,このカテゴリーは実施後に更に下位カテゴ. 11.不安の可視化を経験したことがあるか. リーが生成されるという結果であった。このカテゴリーに 結果と考察. ついては後述することとする。. 可視化された不安. 【未決定】【将来の迷い】は実施前のみに生成されたカテ. はじめに,マインド・マップとスケーリング・クエスチョ. ゴリーであり,いずれも将来の進路をまだ決めていなかっ. ン,そしてそれらを用いた面接によって明らかになった本. たり迷っていたりすることへ不安を表しているものだと考. 研究の調査対象者が抱いていた不安について検討を行う。. えられる。教育実習という教員養成大学にとって大きなイ. 本研究の目的に沿う形で,この不安については特に,教育. ベントを経験した後に,進路を決められなかったり迷った. 実習終了後から卒業までという職業に就く以前の在学中に. りしていることは,彼らにとって大きな不安であることが. 関するものに焦点を当てる。分析にあたっては,面接調査. 推察される。このような不安をもつ学生に対しては,可視. によって得られた逐語録を内容に基づいてカード化し,K. 化による支援にくわえて,大学のキャリアセンターなどで. J法(川喜多,1967,1970)に準じた方法を用いて分類を. 行われているそのほかの支援を統合した体系的な支援が必. 行った 。その結果をTable1,2に示す。Table1が実施前,. 要になると考えられる。. Table2が実施後の結果である。マインド・マップとスケー. 【現状の忙しさ】は,実施後のみに現れたカテゴリーで. リング・クエスチョンを実施する前後(以降,実施前・実. あった。将来に対する不安はあるものの,その不安に向き. 施前)において語られる不安が異なることが明らかになっ. 合うための活動のみを行っていればよいという状態ではな. 1. い現状を示したカテゴリーであると考えられる。大学3年 1. 分類は第一著者と心理学を専攻する大学生2 ~ 3名で実. 生の10,11月という本研究の調査時期は,授業などの正課. 施された。また,その内容は心理学を専門とする大学教員. 活動や,部活やサークルといった正課外の活動に学生が多. によって確認された。. くの時間を費やす時期であると言える。そのような状況が. - 15 -.

(5) 附 田 真 央・半 澤 礼 之 Table1. マインド・マップ,スケーリング・クエスチョンの実施前に得られた不安のカテゴリー カテゴリー. カテゴリーの説明. 発話の例. 友人との比較. 教員志望の程度や教員採用試験などの 将来に対する準備の状況についての 他者との比較. 教員採用試験不安. 教員採用試験についてその捉え方や 準備状況に対する不安. 「もう周りは勉強し始めていて、本はこれがいいよとか、教採の勉強をし始めている」 「自分は、ほかの人と比べて試験勉強が進んでいるのかなって」 「現役で勉強して,個人面接とか,現役のうちに練習しておかないと,将来的に受から ないんじゃないかって」 「唯一その就職に対して不安があるとしたら,就職する試験とか,教員採用試験とか」 「親とかからも教員になって欲しい感がちょっとあるので,それをどうしようかなって」. 家族からの要望. 教員になって欲しい,なるべきだという 家族や親戚からの要望. 未決定. 将来の目標が決められていない状態. 将来の迷い. 複数の進路を目の前にして迷っている状態. 「親と話してみて,やっぱ教採(教員採用試験)とか臨教(臨時教員)」 「具体的に何がしたいとかあんまりなくて困った」 「今は何になるか決めてない」 「教員になるのか,公務員になるのか,民間に就くのかすごくふらふらしてて」 「どれが自分にふさわしいか」 ※括弧内は筆者による補足. Table2. マインド・マップ,スケーリング・クエスチョンの実施後に得られた不安のカテゴリー カテゴリー. 下位カテゴリー. カテゴリーの説明 教員志望の程度や教員採用試験などの 将来に対する準備の状況についての 他者との比較. 友人との比較. 発話の例 「周りと自分を比較して,どんどんあせったりとか,余 計不安が強くなったりする」 「なんか結構今から勉強してるやつとかいるんですよ ね,それってちょっとはやすぎなんじゃないかな」. 教員志望度. 教員採用試験を受けるうえで,自らが教師を 志望する気持ちに対して覚える不安. 「教員になりたいって思うけど,かたまってきてはいる ものの 100(パーセント)まではいってない」. 教員採用試験の準備時期. 採用試験の勉強を始める時期ついて 悩んでいたり不安を覚えていたりすること. 「何ヶ月前から勉強すればいいのかなとか,全然わから ない」. 教員採用試験の内容. どのような試験対策をすればよいのか, また自分が行おうとしている対策が 適切なものであるのかということ. 「何を勉強して何ができたら教採(教員採用試験)に受 かるんだろうなって」. 将来準備不安. これから将来に対する準備を行うことに 対する不安. 「自分は残り一年乗り越えていけるだろうかっていう 不安」. 将来に対する不安はあるものの, その不安に向き合うための活動のみを 行っていればよいという状態では ないということ. 「教採の学習だけってできないじゃないですか。なんか ゼミをやらなきゃいけないとか」. 教員採用試験不安. 現在の忙しさ. 「今は,授業も部活も忙しさがピーク」 ※括弧内は筆者による補足. 本カテゴリーの生成の背景にあるのかもしれない。このカ. はじめにこの下位カテゴリーについてその特徴の説明を行. テゴリーから,将来に対する不安を抱いたときに,それを. う。. どのように大学生活の中に組み込み自らの生活を構造化し. 「教員志望度」は,教員採用試験を受けるうえで,自ら. ていけばよいのかということに関して,学生が困難を覚え. が教師を志望する気持ちに対して覚える不安に関するカテ. ている可能性が示唆された。. ゴリーである。「教員採用試験の準備時期」は,採用試験. 以上,不安の可視化によって生成された各カテゴリーの. の勉強を始める時期ついて悩んでいたり不安を覚えていた. 特徴について述べた。次に,先述のように,実施前後にお. りすることをあらわすカテゴリーである。「教員採用試験. いて同様のカテゴリーが生成されたものの,そのあり方が. 対策」は,どのような試験対策をすればよいのか,また自. 変化したと考えられる【教員採用試験不安】に焦点を当て. 分が行おうとしている対策が適切なものであるのかという. てその特徴について述べ,そこから不安の可視化の効果の. ことに関わる不安をあらわすカテゴリーである。最後に 「将. 可能性について検討を行う。. 来準備不安」は,これから将来に対する準備を行うことに 対する不安をあらわすカテゴリーである。. 不安の細分化と明確化: 【教員採用試験不安】の結果から. 本研究では,このように不安の可視化を行った後で【教. 【教員採用試験不安】は,実施前後で共に生成されたカ. 員採用試験不安】が4つに細分化された。この結果は可視. テゴリーである。ここで,このカテゴリーは実習前は下位. 化の一つの効果として示すことができるのではないだろう. カテゴリーを含まなかったのに対し,実習後は「教員志望. か。可視化の作業を通して,教員採用試験への大きな不安. 度」「教員採用試験の準備時期」 「教員採用試験内容」「将. が解体され細かくなったことで,より明確な不安が新たに. 来準備不安」という4つの下位カテゴリーを含んでいた。. 出現したと考えることができるだろう。特にマインド・マッ. - 16 -.

(6) 教員養成大学の学生における社会への移行に対する不安の可視化 プには思考を整理する機能がある可能性が指摘されており. この増加は可視化によって不安が細分化・明確化し,よ. (山本・大関・五百井,2008;髙橋,2011,2012),この. り現実に従う形に変容したために生じたものであると考え. 機能によって不安が整理され,より具体的な不安を表出す. られる。したがって,将来の不安に対処するための準備と. ることが可能になった結果,上述の4つの下位カテゴリー. しての増加として捉えることもできるだろう。学生支援と. が生成されたと考えられる。. いう観点からは,彼らがその準備性を認識できるようなは. このような不安を可視化することによる細分化やそれに. たらきかけが必要である。この可視化に伴う不安の増加と. 伴う明確化が生じたことは,以下の調査対象者の発話から. いう結果から,不安の量を相対的に低下させるという支援. も推察することができる。. だけではなく,不安を細分化し明確化させることによる新 たな課題の設定と,それに向けた対処という観点からの支. 調査対象者の実施後の発話:不安の細分化 「その不安を, 大きなものを細かくして考えられたのかな」 「今まで、細かく書いたことはかったけど、思いつくこ とを書いてたら、結構でてくるなと思って。書いてみる と,思っている以上に不安って多い」 「あらためて書いてみて,ここまで細かく書いたことな かったし,自分の思ってることを書き出せたかなって」 「細かくやって,自分のことを考えなおせる」. 援も重要であることが示唆される。 まとめ 本研究は,教育実習を終えた教員養成大学に所属する大 学3年生を対象として,不安の可視化とそれに伴う不安の 対処の可能性について検討を行った。その結果,不安を可 視化することによってそれが細分化・明確化すること,そ してそれによって不安が対処可能な形になる可能性が示唆 された。この結果から,不安を可視化することは大学生の 将来に対する不安への対処を支援する上で一定の有用性を. 調査対象者の実施後の発話:不安の明確化 「こうして書いてみると,どんどんぼやっとしてたもの が明確というかはっきりしてきた」 「可視化すると, 頭で考えるよりわかりやすいなって思う」 「明確になった不安に,どういうふうに対処していくか, 自分の中で考えることができた」. 持っているといえることができるだろう。また,この可視 化の作業はワークシートがあれば個人で行うことも可能で あるため,汎用性の高い支援方法であると考えられる。 最後に,今後の課題として二点あげる。 一点目は,可視化のツールの機能の検討である。本研究 はマインド・マップとスケーリング・クエスチョンを実施. そして, このような細分化や明確化によって, 不安が対処. してその効果を面接調査によって検討した。両者を使った. 可能なものに変容していると捉えられる発話も見られた。. 結果として不安が対処可能な形になった可能性は示唆でき たが,個々のツールがどのような機能を持つのかを明らか. 調査対象者の実施後の発話:対処の可能性 「(不安の中でも)ちょっとでもできそうかもって思える ものがあった」 「何に対して不安なのかが明確になった分,自分の取り 組み方次第で不安は軽減していくのかなとも思う」. にすることは出来なかった。ツールごとの機能についても 検討する必要があるだろう。 二点目は,「将来に対する不安」とその「細分化・明確 化」といった現象の関連についてである。本研究では発話 データの提示のみであった不安の細分化や明確化,また増. *括弧内は筆者による補足. 加といった現象がどのような構造をもち,本研究で明らか. これらの結果から,不安を可視化することによって思考. になった在学中の不安とどう関連しているのかについて,. の整理が行われ,その結果として学生が抱いていた漠然な. 特に教員養成という文脈において今後検討していく必要が. 不安の再構成が生じ,彼らが対応できる形に作り直されて. あると考えられる。. いくというプロセスを仮定することができるのではないだ ろうか。ここで,細分化と明確化による不安の対処と関連. 引用文献. して,調査対象者から可視化によって不安が増加したとい. Erikson, E. H.(1959). Identity and the life cycle. New York: International Universities Press.(小此木啓吾(訳). う発話が得られた。その例を以下にあげる。. (1973).自我同一性 誠信書房).. 調査対象者の実施後の発話:不安の増加. 淵上克義・島田俊秀・園屋高志(1994).教育実習に関す. 「不安が見えたので大きくなった」. る事前・事後指導に関する基礎的調査 研究(Ⅳ)――. 「やること多いなって意味で(実施後に不安は)大きく. 教育実習のストレス、対処行動、大学進学志望動機と教. なりました」. 育実習後の教職志望度との関係 ―― 鹿児島大学教育学. 「あんまり(実施前後で不安は)変わらないけど, 臨教(臨 時教員)のことがプラスアルファで(実施後に生じたの で)ちょっと不安が大きくなった」. 部教育実践研究紀要,4 ,145-153. 藤井義久(1999).女子学生における就職不安に関する研 究 心理学研究 70 ,5,417-420.. - 17 -.

(7) 附 田 真 央・半 澤 礼 之 半澤礼之・坂井敬子(2005) .大学生における学業と職業. 杉本英晴(2007).大学生の就職活動プロセスにおけるエ. の接続に対する意識と大学適応:自己不一致理論の観点. ントリー活動に関する縦断的検討-時間的展望,就職イ. から 進路指導研究,23 ,2,1-9.. メージ,進路未決定,友人の就職活動状況に注目して-. 半澤礼之(2017) .大学から社会への移行における困難を. 名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要.心理発達科 学,54 ,81-92.. 捉える視点-石黒論文へのコメント- 青年心理学研 究,29 ,1,47-50.. 髙橋文徳(2011).PCによるマインドマップの活用と評 価,尚絅学園研究紀要B自然科学編,5 ,11-17.. 姫野完治(2003) .教育実習の実態に関する基礎的研究: 教職志望学生への質問紙調査を通して 秋田大学教育文. 髙橋文徳(2012).マインドマップが学習効果を高める要. 化学部教育実践研究紀要,25 ,89-99.. 因の検証 尚絅学園研究紀要B自然科学編,6,11-18.. 北海道教育大学教員養成連携開発センター(2016).スペ. トニー・ブザン(著) 神田昌典(訳) (2005).ザ・マイ ンドマップ ダイヤモンド社. クトラム7 教員志望の割合と経年比較 北海道教育大 学IRニューズレター,3. 附田真央(2017).就職不安の可視化とその効果-教員養 成学部生を対象にした就職支援の検討- 北海道教育大. 河崎智恵(2005) .キャリア教育実践に貢献できる教師教 育の課題 教育実践総合センター研究紀要,14 ,75-81. 川喜多二郎(1966) .発想法 創造性開発のために 中公新書. 学 教育学部 釧路校2017年度卒業論文(未公刊) 都筑学(2007).大学生の進路選択と時間的展望-縦断的 調査にもとづく検討- ナカニシヤ出版. 川喜多二郎(1970) .続 発想法 KJ法の展開と応用 中公新. 浦上昌則(1996).女子短大生の職業選択過程についての. 書. 研究:進路選択に対する自己効力,就職活動,自己概念. 小林淳一(2007) .教職志望意識の揺らぎとその背景に関. の関連から 教育心理学研究,44 ,195-203.. する研究-大学生の教職課程履修経験に関するエスノグ ラフィー 教育経営研究,13 ,47-56.. 若松養亮(2006).教員養成学部生における進路探求行動 と意思決定の関連―11月時点の3年次生を対象に 滋賀. Lewin, K.(1951). Field theory and social science. New . 大学教育学部紀要,教育科学,56 ,139-149.. York : Harper(猪股佐登留(訳) (1956) .社会科学に おける場の理論 誠心書房). 山本利一・大関拓也・五百井俊宏(2009).マインドマッ. 松田侑子(2010). 就職活動に関わる不安に関する研究の. プを活用した生徒の思考整理を支援する指導過程の提案. 概観 (発達心理学臨床心理学のニューフロンティア;キャ. 教育情報研究,24 ,3,23-29.. リア発達領域) 筑波大学大学院人間総合化学研究/筑波. 山本多喜司・S,ワップナー(1992). 人生移行の発達心理. 大学発達臨床心理相談室編,21 ,30-33. . 学 北大路書房. 三島知剛・林絵里・森敏昭(2011) .教育実習の実習班に おける実習生の居場所感と実習前後における教職意識の. 付記. 変容 教育心理学研究,59 ,306-319.. 1.本論文は第一著者が2017年度に北海道教育大学 釧路. 仲 矢 明 孝・ 三 島 知 剛・ 高 旗 浩 志・ 稲 田 修 一・ 後 藤 大 輔. 校に提出した卒業論文の一部を,第二著者が加筆・修正し. (2015) .3年次教育実習に関する学生の意識の検討-平. たものである。本研究にご協力頂いた大学生の皆様に感謝. 成25年度受講生アンケートの結果から- 岡山大学教師. いたします。. 教育開発センター紀要,5 ,26-34.. 2.本研究は,北海道教育大学倫理委員会の審査を受けて. 中島義実(2017) .教員志望度を左右するのはどのような. 承認された。. 体験なのだろうか-教育実習以前の体験の影響の検討- 福岡教育大学紀要,66 ,39-49. 西松秀樹(2007) .教師効力感、教育実習不安、教師志望 度に及ぼす教育実習の効果 キャリア教育研究,25,2, 89-96. 定金浩一(1996) .進路カウンセリングとしてのブリーフ・ カウンセリング ―学習習慣が身に付いた事例― 進路 指導研究,17 ,1,1-8. 佐竹靖 小柳和喜雄 松川利広 市橋由彬 山本浩大 竹 村景生(2017) .教育実習生の事業に関する知識の変容 とTPCK を伸長させる要因―TPCKを伸長させる教育 実習指導の手がかりを得ることを目的として― 次世代 教員養成センター研究紀行,3 ,51-60.. - 18 -.

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参照

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