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『醒睡笑』を通してみた漢音と呉音とについて

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Academic year: 2021

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(1)Title. 『醒睡笑』を通してみた漢音と呉音とについて. Author(s). 夏井, 邦男. Citation. 北海道教育大学紀要. 第一部. A, 人文科学編, 29(1): 15-22. Issue Date. 1978-09. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/4071. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 『醒睡笑』 を通 してみた漢 音と呉音とについて. 夏. 井. 邦. 男. 漢語が国語の中に多く取り入れられ実用的なものとなっ た 「中世」 の流れを承けて, 儒教思想を 中心とする学問が 「近世」 に大いに奨励され, 漢文・漢語が引きつづき尊重されることになるのは 今更言うまでもない. そして, 通史的に眺めても二字或はそれ以上の漢字の熟語にあっ ては, 漢音 は漢音どうしで, 呉音は呉音どうしで発音されることも自明の理である. この事実は, ひとたび呉 音で流布し定着した語は, それが漢音に移ることが困難であっ たことを物語るものである. しかし, 実際には一方を漢音で発音しながらも, 他方を呉音で発音するといった漢呉音混靖の語桑もみられ る. 当初から呉音だけしか, 逆に漢音しか伝来しなかっ た語もあると考えられるが, 呉音と漢音と の交替の現象はその大部分が二字のうちの一字という ことになる. 漢音及び呉音の定義な どについ て は, こ こ に 改 め て述 べ る 必 要 は な い と 思う註11 今, 『醒睡笑』(静嘉堂文庫収蔵本・角川文庫鈴木. 裳三校訂) にみられる漢語の中に, 漢音と呉音との結合からなる語がどんな種類の語に どの位みら れるかを, 『大字典』 と対照しながら列記してみることにする. 更に, それらの語を『日伊 衿辞書』(悌 訳日葡辞書・白帝社版)に立項されている語と比較することによ っ て,『醒睡笑』 の語桑の字音上の 特徴とこの辞書の立項の仕方の傾向とを併せて考察してみたい, .なお, 引例中のローマ字綴りは『日 伊 B辞書』 に拠るものである. 〔一〕 . 漢音と呉音との 混浴語例. (1) 影供 エイク (3) 喝 食 Cachchiki. カウノウ k (4) 機嫌 i ghen. ・ 5) 奇 特 (. (6) 祈 念. Kinen. Kidocou. (7) 休座 キウザ (9) 金語 キン ゴ (1 1) 禁 酒. Kinchou. 3) 挙状 Ki (1 oあ (15). 決断. Ketdan. (17). 慶賀. iga Ke. (1 9) 龍門. (2) 効能. (8) 休 息. Ki o口socou. (1 0) 金唐. Ki nsb. (12) 禁 断. Kindan. (14 ) 屈 請 Couchchる 6 (1 ) 決定 Ke る dg i t (18 ) 権門 ケンモン i i (20 ) 仔細 Ch s a. リョ ウモン (21) 収納 Chounる. io tdg (22 ) 悉 除 Chi. (23). (24) 社 壇. Chadan. (26) 装 束. C騎zocou. 若年 Jacounen. 5) 将 暴 (2. Chるghi. (2 7) 相伴 Chるban (2 9) 初献. Chocon. i ke (31) 平家 Fe. i (28) 障子 Ch6 j (30) 出家. シュッ ケ. (32) 武 家. Bouke 15.

(3) . 夏. 井. 邦. 男. (34 ) 所談. ショタ ン. る ・ T I (35) 所望 Cho. ) 食気 (36. ショ クケ. i inta (3 7) 人体 J. (38 ) 神文. シンモ ン. imon (3 9) 誓文 Che. i i i ) 青磁 Che (40. 性鈍 (41 ) 性鈍. (42 ) 赤 面 Chekimen. 3) 律家 (3. リッケ. セイ ドン. 惣 領 S6r通 (4 3) 惣領. i chou (44) 大 衆 Da. i 対 座 Ta za (45) 対座. (46) 対 談. imen (47) 対面 対 面 Ta. (48) 治部卿. Ta idan. チ プキャ ウ. 亭坊 (49) 亭坊. テイ バ ウ. (50) 東 西. i T6za. 東堂 (51) 東堂. T6dる. (5 茶堂 2) 茶堂. Sadる. i 庖 丁 人 Fるt (53) 庖丁 i n chる. (54) 末 座. Bat za. 定 必定 (55) 必 福寿 (57) 福寿. Fi 6 i tdg. (56) 風 味. Foami. フ クジュ. (58) 福カ. フクリキ ik Re ich i. (60) 礼 式 (59) 念 努 これらの諸語例の中で、 特に読み方に問題がありそうな語を、 順次取りあげてみる. 先ず, i i k ぉ辞書』 には, たとえば Ch6 i ( )喝食の 「食」 の漢音は 「ショ ク」 で呉音が 「ジキ」 である,『日付 3 Founnou. (少食) の項目に, i i i i k Ch6 to to ou Ch6choucounaf i naf , な どと あ っ た り ま た, Choucouchocou (宿 食) の 項 目 に は, ik i Le meme que ChouCou j .V.Ce mot .. i k i go (食後) などの解説もあるから, 漢音と呉音との両方の読み方があっ たことになる. ただ, J i k i i とJ en (食前) の項目にはそれぞれに, Mieux Chocougo, Mi i en eux Chocou ,. と註記をしていることからするなら, いわゆる漢音優勢 の萌芽として考えられる. また, 『醒睡笑』 ik i i i k i i ラ ド辞書』 にも Cot にみられる 「乞食・コツジキ」「中食・チウジキ」 などの語は, 『日f , Tch6u と記載されているのと一致するから, この 「喝食」 の場合も, 「カツジキ」 と発音されそうなもので あるが, こちらはあくま でも清音で読まれていたところに特徴がある. 9 ( )金語の 「金」 の漢音は 「キン」 呉音は 「コン」 であるから, これは呉音の一部に表われたオン 呂辞書』 型が, 漢音ではイン型に統 一されるという体系的な対応の事実と一致するのであるが,『日付 i k i (金色) の語の外に, Kinchocou と い う 漢 音 読 み の 語 形 も み ら れ る. i に Con 例収納の語は, 『醒唾笑』 や 『大字典』 などでは 「シウナフ」 と漢音と呉音で読まれている, これ を 『日付 杉辞書』 にあたっ てみると, 先にも記したように, i wosamourou) Chounる シ ュ ナ ウ(Tor. 葡辞書』 が全体の傾向として呉音主 とあるから, こちらは 呉音どうしで読ん でいたことになる.『日ぞ )か ら す れ ば 当 然 の こ と であ ろ う こ の 種 の 問 題 に 関 連 し て は 回 大 衆 の 語 義 に 傾 い て いた こ どE2 , , .. がある, 「大」 を漢音 「タイ」 で読むか, 呉音 「ダイ」 で読むのかという両音の体系的な相違にかか わることについてである. 『醒睡笑』 から呉音 「ダイ」 で読まれている語例を拾い挙 げてみると, 大 洪 水 ・ ダイ カ ウ ズヰ (妙 行)・ ダイ ジ ョ ウ タウ. i 大 道 ・ Da dろ. icou 大 工 ・ Da icon 大 根 ・ Da. i i 大 善(知 識)・ Da en 大 塔 ・ ダイ タ フ. i f 大 般 若 ・ Da annha. i 大 俗 ・ Da zocou. 大 坊 ・ ダイ バ ウ. 大乗. 大 唐 ・ ダイ. る imi 大 名 ・ Da. ime iともまた「諸 など数多く指摘 できる. もっ とも, 最後の語例の「大名」は 『日付=辞書』には, Ta 16.

(4) . 『醒睡笑』 を通してみた漢音と呉音とについて. 大名」 の項目に, Cho ime i ta imi る ‐a ‐d ,シ ョ タイ メ イ, c ,Choda , シ ョ ダイ ミ ヤ ウ,. ともあって, 漢音読みの語形のもの で立項してあることが注目される. 漢音でまず立項し, 後に呉 音の語形を併記している方式が, 予想されるほど少なくはないからである.「大」 を漢音 「タイ」 で 読んでいる語は, 『醒睡笑』 中僅かに, 大衆・タイ シュ 大将軍・タイシャウ グン くらいなものである. この 二語を 『日伊お辞書』 と照合してみると, 八将神のひとつとしての 「大将 軍」 は立項されていないけれども, 「大衆」 の方は補遺に, Da ichou , ダイ シ ュ, bonzes de Fyenoyama.. とあるから呉音どうしで読まれていたことになる. また, この解説は, 叡山での 「大衆」 を他のも のと区別するために, 特に濁音で読ませるためのもの であろう, ⑩~鰯 )の 「家」 は漢音 「力」 呉音 「ケ」 であるが, 『日悌辞書』 にはやはり両音が併存している. るca (両 家) に 対 し て の R速くe な ど であ た とえ ば, Couanca (官家) に対する Couanke であ り, Ri. る, 但し, 「家嫡」 の語の項目に, Catchacou, カ チ ャ ク eux ketchacou ,ケ チ ヤ ク , Mi. ,. という解説があるから, この語の場合も呉音が優勢であっ たことになる. る (管領) と i 昌辞書』 に Couanr はめ惣領の 「領」 の漢音は 「レイ」 呉音は 「リャウ」 である. 『日付 Couan i r e との両語形が併存しているのは, 官職制度に関する名目が令に基づいて呉音 で呼ぶのが普 )に対して 唐風 (漢音) で新たに呼ぶ名称が誕生したことを物語るものである 通であっ たこと註3 , . 当時の生活の中に密着した語藁における漢音の進出である,姐競合部“ 卸・チ ブキャ ウの場合も同様 で あ る,. 御 東堂及び◎茶堂の 「堂」 は漢音 「タウ」 で呉音が濁音 「ダウ」 という体系的な違いを示すもの t である. この 二語はともに呉音 で読まれているが, 『日伊 柊辞書』 には Dるba t o o (堂鳩) の外に Tるba の語もみられる. i ◎ 庖丁人は 『日付 杉辞書』 では Fるtchるi n であ っ て, 『醒 睡 笑』 の よ う に 「ノ・ウ チ ャ ウ ニ ン」 では な. い, 「人」 の熟語をこの作品から拾っ てみると, ighen in 地 下 人・ Dg. 人足 ・ Ninsocou. 少 人・ セ ウ ニ ン i 出 頭 人 ・ Chout t6n n. 奉 公 人・ ホ ウ コ ウ ニ ン. i 雑 人・ Zるn n. in 夫 人 ・Tenn. i 人畜 (生) ・ Nintch cou. 人 数 ・ Nin i ou. .扶 持 人・ フ チ ニ ン. in ou Rるn 牢 人 ・ R6n i n. などは, いずれも呉音 「ニン」 で発音される語例である. 更に, 「証拠人」「女人結界」「百人一首」 「貧乏人」 などの語もそれぞれに 「ニン」 と読まれていた こと は確かである. 「科人」 の語の場合, 『醒唾笑』 では 「トガニン」 であるが, 『日悌辞書』 の補遺 に は, in Toga in d i ‐a ‐ ,Togan , ト ガニ ン, ,ト ガ ジン, c. などのように漢音で立項され解説がなされている. 「福人」 の語も, Foucoun in フ クニ ン 4 i 1n euxfoucouJ ,フ ク ジ ン, , . =辞書』 の辞書としての性格から従来の呉 などの註がみられる. これは,『日付 .音を残そうとしている 反面に, 当時の新しい漢音を取り入れて紹介しようとする意識の現われたものであろう が, 漢音「ジ ン」 の方を良しとしていることが注目される. 「人」 を 「ジン」 と読む語例は 「ニン」 に較 べて明ら か に 少 なく て, inr in 人倫 ・ J. in ○u)tocoui )t 徳 人 ・( lnou( ou ocoun. 農 人・ ノ ウ ジ ン 17.

(5) . 夏. 井. 邦. 男. 柊辞書』に於ては, 先述したことに関連して「敵人」 などの語によっ て確かめられるだけ である,『日伊 i k i i i T k T の語は e in 及 び e nn の両語で立項され, 前者にはodtekinin,テ キ ニ ン, な どの 解 説 が 付さ in の 語 の 方 は in で立 項 さ れ て い る のに 対 し て, Moufon i れ て い る. ま た, 「謀 叛 人」 の 語 も Moufonn た 思 わ れ の Mouf る であ る が, 逆 に 「庶 on の 語 の 項 目 に み ら れ る か ら, こ の 語 も 呉 音 優 勢 に あ っ か に. i i 人」 などの語は S6 j nの両 語形が立項されていて後者には, n 及びSon in i ou So ,ソ ジ ン. (Tadanofito,夕 ゞ ノ ヒ ト).. などとわざわ ざ呉音読みの語の項目に漢音読みの語を取りあげて説明していること. 見出し語とし i て 「ニン」 はなく, J nの語 が立項されていること. 実際の用例数でも, 呉音 「-- ニン」 よりも =≧ などを併せて考えるなら 呉音主義の傾向にあったこの辞書 漢音 「一一ジン」 の方が多い事実言 , に於て, 早く も漢音が逆転している稀しい語例のひとつと言えるだろう. { 4 )末座の 「末」 は, 国語史の立場から眺めた場合に, 呉音から漢音への変化の語例が多数あった 5 ) される語である.『日悌辞書』 に は, た なか で, 漢音から呉音へ移行した数少ない語例として指摘註5 と え ば 「端 末」 の 語 は Tanbat 及 び Tanmat の 両 語 形 が 立 項 さ れ て い る が, 「末 葉」 の 語 の 項 目 に は, Baty6 , バ ツ ヨ ウ (Souyenofa , ス エ ノ ハ) . d Bt6 バ D Mat 6 n ,y ,マ ツ ヨ ウ. esce ants. Mieux, a y , ツ ヨ ウ,. ●の 「末座」 の語の場合にも などの解説がみられる. 更に, こ , Batza バツ ザ (Souyeno za , ,ス エ ノ ザ) , 、 Matza eux,Batza , バ ツ ザ, ,マ ツザ. Mi. などのように, 漢音「バツ」 の項目 では漢字の宛て方をただ説明しているのに対して, 呉音 「マツ」 の 項 目 に は わ ざわ ざ漢 音 が 良 い こ と を こ と わ っ た 註 を つ け て い る こ と か ら, こ れ ら は ま だ 漢 音 が 優. 勢 であっ たことを知る資料となるだろう.現代になっ て語形の交替がなされる語例となるの である. 〔二〕 . 呉音と漢音との混清語例 ②. 咳気. Ga ik i. ④. 学跡. ガクセキ. ガクリョ. ⑥. 行幸. ギャウカウ. 下風. ゲフウ. ⑧. 風情. Fou i i e. 風流. i Four oむ. ⑩. 座列. Zar et. ⑪. 西塔. サイタフ. ⑫. 在所. Za i cho. ⑩. 在唐. ザイタウ. ⑩. 雑談. Zるt an. ⑮. i t 時節 J che. ⑯. 酒飯. Choufan. ⑰. 手透. ⑩. 修業. る i Chough. ⑩. i 順 礼 Jounre. ⑳. 乗物. J6bout. ⑪. 善 所 Jencho. ◎. 地頭. Dgi t6. ⑳. 頭巾. in Dzouk. ⑳. 直筆. ヂキヒツ. ⑮. 傍若. Bる iacou. ⑳. 不欄. Foub in. ① ③. 向顔 Cるgan 軽 忽 106cot. ⑤. 学侶. ⑦ ⑨. Chouchek i. ⑳. 尼公. ⑰. 白ポ. Ni c6 Biacou out i. ⑳. 不慮. Four io. ⑩. 法鐘. ホフ ショ ウ. ⑪. 法用. ホフ ヨウ. ⑫. 無用. Mouy6. ⑳. 無力. iocou Bour. ⑭. 面目. Menbocou. 18.

(6) . 『醒睡笑』 を通してみた漢音と呉音とについて. る ⑮ 領掌 R通i 上の諸例は, 上を呉音で読み下の語を漢音 で読んだものであるが, 呉音には濁音 で始まるものが少. なく は ない こ と註6)と 一 致 す る ,. まず最初に, ②咳気は 『醒睡笑』 では 「ガイキ」 と読まれている. いわゆる徴韻は 「衣」「希」 な どのように漢音 ではすべてイ段になっ ている. この 「気」 の 「キ」 も漢音である. ところが, 『日付 B 辞書』 には Gaikiの語形の外にもうひとつ 「補遺」 に, 「ガイケ イ ッカウシュ の」 という注記がみ られる. やはり, これも先に指摘をした 「大衆」 などの語の場合と同様に, 「風邪 しわぶき病み」 . の意を表わす 「ガイキ」 の語とは区別するための, 仏教用語としてあっ たことがわかる 新しい音 . にあまり影響されることなく, 伝統的な呉音を守り続けた僧侶社会の根強さといっ たものが窺われ る, 参考ま でに 『醒睡笑』 中から 「気」 の熟語を拾っ てみると, i 病 気 ・ Chenk. i 俗 気 (講) ・ Rink. i 短 気 ・ Tank. i 気 力 ・ Ki r ocou. など漢音 で読まれる語が散見されるが, 一方呉音で読まれる語は, 腐 病 気・ テ ン カ ン ケ. 労 療 気 ・ (Rるsa i )ゲ. i i kkeと Ch kk iの両語形 で立項されている くらいのものである,『日付 杉辞書』にも 「湿気」 の語が Ch が, 「気」 に関する語例としては漢音 「キ」 で読まれる語桑の立項の方が圧倒的に多い. ⑥行幸の 「行」 は, 慣用音と呉音とが同じ 「ギャ ウ」 であるから, これを呉音と漢音とから成る 語と速断してしまっ ては問題が残るかも知れない註7 i るgるとあるから, と ただ, 『日悌辞書』 には Gh これは呉音どうしで読ませる語としてよいだろう. 「大行」「大幸」 の語の場合には 「タイカゥ」 で ある,. ⑦下風の語に ついては, 『醒睡笑』 の本文 (巻之三) に脚注があり, し もか ぜ を 漢 語 ら しく ゲフ ウ と い っ た も の で, 一 般 の 用 語 であ っ た か 疑 わ し い 漢 語 の 下 風 は カ . フ ウ, か ざし も, ま た 人 の 下 位 の 意.. ゲフウ. などの解説がみられる, しかし, 『黒本本』 や・『易林本』 などの古本節用集類に 「下風」 の語はみら れるから, 『沙石集』 巻第六の七にみられる 「下風」 も 「ゲフウ」 と読んでよさそう である 「下」 . を漢音 「力」 で読むか, 呉音 「ゲ」 で読むのかということについては, 『日付 B辞書』 に採られている 「下位」 「下官」 「下筆」 「下略」 などの項目が参考になる つまり, . i, ゲイ Ghe Mieux Cai, カ イ ‐ . , Ghecouan, ゲクワ ン. Mieu× Cacouan カ ク ワ ン , , i Ghef i i t, ゲヒ ツ, 4 t, カ ヒ ツ. eu× Caf Gher iacou, ゲリヤ ク P1 Car iacou, カ リ ヤ ク t 6 t u . .. などのように呉音読みの語 で立項しておきながら, 「より良くは」 とか 「寧ろ」 とかいう註によっ て 漢音読みの語形を提示して いるからである, ただ, 実際に立項されている用例数としては やはり , 呉音 「ゲ」 で読まれる熟語の方が圧倒的に多数を占めている, ⑧風情⑨風流の 「風」 は漢音 「フウ」 呉音 「フ」 である 「『風』 のように古くから日本語化した . ものは呉音だけを使い細も ………」 という考え方もほぼ『日悌辞書』 の用語と一致するのであるが , 「風流」 の語は Four i i on と い う 呉 音 と 漢 音 と か ら 成 る 語 と, Fonr on のような漢音どう しの語との 両語形が立項されている, 当時, どちらが優勢 であっ たかということについては, 『醒睡笑』 中にみ られる ごく僅かの例, 当 風 , Tるf oa. 風 眼 ・ Foagan. 風 呂 ・ Four o. 風 炉 ・ Four o. 展 風 ・ Bi るbou. などからは判断できないが, この辞書では呉音が勢力を占めていたことについては先述した . ⑪西塔の 「西」 の語は呉音が 「サイ」 でアイ型の読み方であり, 漢音が 「セイ」 でエイ型に統一 19.

(7) . 夏. 井. 邦. 男. をされる蕗韻 であっ て, やはり体系的な相違を示すものになっ ている. この語に関して,『日俄辞書』 には. 「西風」 の 語 が. i foa の 両 語 で立 項 さ れ て い る. i f Che oa ,Sa. ⑫在所⑬在唐の「在」は漢音が清音 で呉音が濁音という一般的な相違になっ ているものであるが, iと, 両語形で 『日悌辞書』 には立項されている, iと更に補遺にJ 「如在」 の語がJ oz a o sa ⑭雑談の 「雑」 の漢音 「サフ」 は, 当時の熟語においてもほとん ど語例が見られないこと. また, 唇内入声の尾音 「P」 は一般に 「ツ」 あるいは 「ウ」 韻の形に変化することから, 呉音 「ザフ」 が「ザ ツ」 とも 「ザウ」 ともなる. たとえば, 『醒睡笑』 にみられる 「雑炊 ザフスヰ」「雑煮 ザフニ」 「雑 人. ザ フ ニ ン」 な どの 語 は, 『日 悌 辞 書』 では そ れ ぞ れ に,. Z6sou i i n と なっ て い , Zるni , Zるn. るから, 呉音は 「ザウ」 で統一されていることが表記上のひとつの特徴にも考えられるの であるが, 「雑居」「雑色」 の 語 項 目 と し て, Zるkio, Zるchiki の ほ か に Zacco (Zakkio), Zachchikiの語も立 項されている. 「ザツ」 の方が用例数の上 で例外的なものであ ったことが知られる. E辞書』には 「時宜」 ⑯時節の 「時」 もまた漢音が清音で呉音が濁音になっ ている語であるが,『日付 の 項 目 に, igh i, ジ ギ i, シ ギ Mi Ch igh euxJ . .. と解説があることからすれば, これも呉音 「ジ」 が優勢 であっ たことがわかる. 『日悌辞書』 の表記上の特徴のひとつとして ⑩修業の語がある.「業」 の漢音は 「ゲフ」 であるが, i i 6 i t 6 な どの よ う に ほ ぼ 統 一 し て 綴 ら れ て い る. 実際には「善業」の語が Jengh ch gh , 「ー 業」 の 語 が l i tch これらの語の 呉音読みの語形も Jeng6, l g6 で立 項 さ れ て い る. =辞書』 のなか でこの両音が用 ⑫地頭の 「地」 は漢音 「チ」 呉音 「ヂ」 である. 例によっ て 『日付. いられるいる 熟語を捜してみると, 「平地」 の語がある. idg i, ヘ イ ヂ i, ヒ ラ チ, c‐a Fi e ‐d r atch .f ,. i ken で, 「検地」 i chろであるのに 「地下」 の語は Dg また, 「地上」 は Tchi ghe であり, 「地検」 が Dg h i D i T d i であること 更に, 「土地」 の 語 に も o g, otc の両語形がみられることなどから, は kentch . どんな場合にはどちらの字音を用いるのかといった法則性みたいなものはなかったと考えられる, ただ, 用例数の上からはやはり呉音が優勢であった. ⑩法鐘⑪法用の 「法」 の漢音 「 ノ・フ」 が 「 ノ・ッ」 に, 呉音 「ホフ」 が 「ホッ」 「ホウ」 ともなるこ s ocou の語形 で立項されていて, 柊辞書』 では 「法則」 の語が Fos とは言うま でもない. 『日伊 iwo 1 t Fassocou, ハ ツ ソ ク (Ach i i i ut6 o set ordonnances. ″ 0u P ( Nor , nor, ノ リ ノ リ) ,l zzourou wocosou, ア シ ラ ラ コ ス, c ‐a ‐d, l , イ ヅ ル) .. などのような解説がある.「ホッソク」 よりは寧ろ 「ハッ ソク」 という注記 であるが, 漢字の宛て方 ノ・ッ ソク」 は 「発足」 の語のことであるから, どちらの字音読みが当 時 を断っ た註によるとこの 「 良かっ たかということの判定資料にはなら ないことになる. 或は,「ハ ッ ソク」(発足)の語にも 「ホ ッ ソ ク」 と い う 読 み が あ っ た こ と に よ る も の か.. ⑫無用 ⑩無力の 「無」 は漢音 「ブ」 呉音 「ム」 であっ て, 『難睡笑』 のように実際の読み方として 「フリ ョ ク」 となるものは稀である. 本文 (巻之六」 の脚注には 「ムリョ ク」 と読ん でもよいとあ iocou と い う 漢 音 どう し の 語 形 の 方 B辞書』 にもみられる Bour るが, 果たしてどう であろうか.『日付 が一般的であっ ただろう, 『醒睡笑』 中の関連した語例としては, 無 塩 ・ Bouyen る 無 上 . Mouj. i 無 菜 ・ Bousa. i 無 器 用 ・ Bouk y6(na). 無 分 別(智)・ Moufounbet. 無 芸 ・ ム ゲイ. ぉ辞書』 に 「無才 (覚) 」は などの語がみられるが, 「ブ」 とも 「ム」 とも読まれている. 更に, 『戸“ i, 「無 性」 は Bouch6 と Mouchる, 「無 功」 は Bouc6 と Mou i Bousa ( cacou)と Mousa cる(文語) , 「無 20.

(8) . 『醒睡笑』 を通してみた漢音と呉音とについて. 念」 は Bounen と Mounen な ど と い っ た よ う に そ れ ぜ れ 両 語 形 が 立 項 さ れ て い る こ の う ち , .. Bou chる は 「怠情」 の意であり, Mouc痛 は 「病気など で性のないこと」 の意であるから, 漢語の表 記は同じでも意味が多少異なっ ていることには特に注目しなければならないだろう . ⑭ 面 目 の 語 の 場 合 も, 『日付B辞 書』 に は Menbocou と Menmocou の 両 語 形 が 立 項 さ れ て い る の で. あるが, 前者の呉音と漢音との混靖語は「名誉」の意であり, 後者の呉音 どうしの語の場合には 「容 貌, 主張・修道会々則・模範」 などの意味で用 いられた 新語とりわけ混靖語の発生の要因を考え . る際には必要な視点である. ⑮領掌の「領」 は漢音「レイ」 呉音 「リャ ウ」 であるが,『日伊 鍔辞書』 には 「管領」 の 語 が Couanre1 i る の両語形でやはり立項されている 「三管領」 の語の場合には Sancouanrei で漢音よみ と Couan r , であるが, 外の語例の大部分は呉音によるものである. 以上, 漢音と呉音とからなる混清語, あるいは呉音と漢音とからなる混清語の諸相を概観してみ たわけ であるが, 混浴語例は予想したよりも少なくはないと いうこと 呉音と漢音との交 替例の大 . 部分は二字の熟語のうちの一字であり, それも呉音から漢音への移行のもの であること また 『醒 , , 睡笑』 に見られる限り, 上の語が漢音で下 が呉音という混靖語例 の方が用例数が多いという結果 が 得られた. このことはやはり, 一度呉音 で日常生活に定着した語は, なかなか漢音に移 ることが困 難であっ たことを証明するための傍証となる, 更に, 漢語桑の日本語化という面から言うならば,『日伊 杉辞書』 編纂の当時に於ては後世の儒教思 想に連なる漢音 尊重の萌芽が見られ, 漢音よみの用語例の方が既に多い熟語も散見されたのである が, 全体の傾向 としてはまだ呉音が格段に浸透 していたから, 漢音と呉音と では国語化の度合いに 相違が認められることは言うま でもないことである 漢音と呉音との対立の風潮は 逸速く奈良時 . , 代の末期から文献に登場すると言われているが, この両字音の対立は個々 別々の断片的なものまし てや偶然的なものではなく て, 漢語の本来的な原型の変遷に即応したき わめて体系的な相違 である から, 組織として研究が要請される. 漢音と呉音とから成る混靖語が何故生じたのかと いうことについては 先ず国語の中に於ける漢 , 語桑というものの性格を考 えてみることが出発点となる 伝来の当初から呉音で定着 した語がある . 一方 で, 漢音だけで親しまれていた語があっ たり, その両方の語形が国語に定着 した語もあるから , 種々の要素が重層していたとすべきである. しかし, 漢音どうし或は呉音 どうしの熟語に対して新 たに両字音による混靖語が誕生した ことの事実は, その混清語に新たな語義の 領域を持たせるため の必要性から であったと考えたい, 言うま でもなく, いわゆる中世の時代には平安朝の漢語とは異 なっ て抽象的概念を表わす語 が進出し, それがまた当時の漢語 の性格を端的に示すもの でもあった が, この役割を担ったのが混靖語 であったのではなかっ たか . 以下, 個別の検討については稿を改めることにするが, 漢音と呉音との対比に依っ て 語義の理 , 解が得られると考えるものである, 〈註〉 1 ) 藤堂明保 「呉音と漢音」(『日本中園挙・ 曾報』 第1 1集所収) に詳細な論が展開されている. 2 ) 今泉忠義 「日葡辞書を通して見た字音と語法と」(『国語拳』 第6輯所収) , 3 ) 原田芳起 『平安時代文学語薬の研究』 第3部 「位相」 -- 「源氏物語における漢語藁の位相」 参照. ) 今泉忠義 『日葡辞書の研究』「字音篇」 参照, 4 5 ) 松村明 『国語史概説』 第6章 「現代」 参照. 6 ) 山田孝雄 『園語の中に於ける漢語の研究』 第5章 「漢語の形態の観察」. 21.

(9) . 夏. 井. 邦. 男. ) 原田芳起 『平安時代文学語葉の研究』 第3部 「位相」 -- 「源氏物語における漢語葉の位相」 によれば, 「 『源氏 7 物語』 では 「行 幸」 で呉音系と認めてよかろう」 という考え方をしている. ) 藤堂明保 「漢字概説」(『義隆日本語8・文字』 所収) 参順・ 8 (本学助 教授 ・ 函 館 分校). 22.

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