2006年度の群馬県における新生児搬送の検討
丸 山 憲 一, 小 泉 武 宣
要 旨 【背景・目的】 2006年 4月の群馬県周産期医療情報システム立ち上げ後 1年間の新生児搬送に関する集計を 行ったので報告する. 【対象・方法】 2006度の県内共通の新生児搬送情報提供書の複写を回収し集計した. また, インターネットを利用した新生児搬送応需情報モニター上の新生児搬送受け入れ不可能日数について の検討を行った. 【結 果】 群馬県の新生児搬送患者数は合計 225人であった. 県外から 14人, 県外へ 3人 の搬送があった. 搬送患者の在胎期間は 23∼41週, 出生体重は 512∼4,165g, 搬送理由は呼吸障害が 74人, 低 出生体重が 72人と多かった. 県内の新生児搬送受け入れ不可能日数は出生体重 1,000g 未満では 55日であっ た. 【結 論】 周産期医療情報システムにより新生児搬送の実態ならびに問題点を明らかにすることがで きるようになった. 今後, 搬送情報提供書の複写の回収率の向上, 県境をこえた搬送の把握が課題である. (Kitakamto Med J 2008;58:55∼61) キーワード:新生児搬送, 周産期医療情報システム, 周産期医療体制 緒 言 厚生労働省の通達をうけ, 2005年に群馬県も群馬県立 小児医療センターを 合周産期母子医療センター, 地域 の中核として周産期医療を行っている 5病院を地域周産 期母子医療センター, それ以外に母体搬送, 新生児搬送 を受け入れている施設を協力医療機関, 特定指定病院と する周産期医療体制を構築した. この中で 合周産期母 子医療センターには周産期情報センターを設置し, 県内 の周産期医療に関する情報を収集, 析することとなっ た. また, 群馬県では 2006年 4月からインターネットに より母体, 新生児搬送の受け入れ機関の空床情報を提供 する群馬県周産期医療情報システムを立ち上げ, それと 同時に医療施設間で母体, 新生児搬送を行う際に県内で 統一した診療情報提供書の 用を開始した. 診療情報提 供書は複写式とし情報の一部を周産期情報センターで収 集できるようにした. 今回, 周産期医療情報システム立ち上げ後 1年間の新 生児搬送症例の集計および新生児病床の空床状況の検討 を行ったので報告する. 対 象 ・ 方 法 患者の両親の年齢などの基礎情報, 患児の搬送理由, 出生時情報, 母体情報, 時情報を記した県内共通の 新生児搬送情報提供書の複写 (図 1) を 2006年度から 6 カ月ごとに回収した. このうち, 2006年 4月から 2007年 3月の新生児搬送 について月別患者数, 搬送元および 搬送先, 患者の在胎期間, 出生体重, 搬送依頼理由を調べ た. 群馬県周産期医療情報システムは母体搬送, 新生児搬 送を受け入れる施設に毎日, 同システムのホームページ へ空床情報を入力してもらい, インターネットで一覧表 として母体搬送, 新生児搬送の受け入れの可否に関する 情報を県内の周産期医療施設に提供するシステムであ る. 新生児病床の空床状況は出生体重別に 1,000g 未満, 1,000g 以上 1,500g 未満, 1,500g 以上の患児の受け入れの 可否および人工換気患者受け入れの可否で表示されてい る. また, 空床情報の入力が 3日間ない施設には自動的 に eメールで督促状を送るようになっている.今回,毎日 10時の時点で新生児搬送応需情報モニター上の出生体 重 1,500g 未満の児の搬送受け入れが県内のどの施設も 不可とされた日数および施設ごとの督促状の発行回数に 55 Kitakanto Med J 2008;58:55∼61 1 群馬県渋川市北橘町下箱田779 群馬県立小児医療センター新生児科 平成19年11月19日 受付 論文別刷請求先 〒〒377-8577 群馬県渋川市北橘町下箱田779 群馬県立小児医療センター新生児科 丸山憲一ついても検討した. 結 果 1.搬送患者数 平成 18年度の新生児搬送情報提供書を回収した結果, 群馬県内の新生児搬送患者数は合計 225人であった. 月 別にみると 6月が 25人, 7月が 34人, 2月が 26人と多 かったが, それ以外は 1ヶ月 10∼20人で推移していた (図 2). 2.搬送元および搬送先 群馬県の周産期医療体制の構想では, 合周産期母子 医療センターおよび 3カ所の地域周産期医療センターの ある中北西毛地区を一つのブロックとし, 2カ所の地域 周産期医療センターのある東毛地区をもう一つのブロッ クとするとされている. このブロック単位でみると, 中 北西毛地区ブロック内での新生児搬送患者数は 165人, 東毛ブロック内では 28人で, 県内でブロックを越えて 搬送された患者数は中北西毛地区から東毛地区へ 9 人, 2006年度の群馬県における新生児搬送の検討 図1 情報センター用の新生児搬送情報提供書の複写用紙. 個人情報保護 のために患児,両親の氏名は複写されず,患児の住所も市町村名のみ 複写されるようになっている. 56
東毛地区から中北西毛地区へ 6人のみであった. 県外か らは 14人の患者が搬送されていたが, 群馬県内から県 外へも 3人の患者が搬送されていた (表 1). 3.搬送患者の在胎週数・出生体重 搬送された患者の在胎週数は 23∼41週 (中央値 38 週)で,30週未満は 11人,30∼33週が 19 人で,34∼36週 35人, 37週以降 149 人, 不明 11人であった (図 3). 搬送 された患者の出生体重は 512∼4,165g (中央値 2,790g), 図2 2006年度の群馬県における月別の新生児搬送患者数 図3 2006年度の群馬県における在胎週数別の新生児搬送患者数 (在胎週数不明の 11人を除く) 表1 2006年度の群馬県における搬送元および搬送先別の 新生児搬送患者数 搬送元 搬 送 先 中北西毛地区 東毛地区 県外 中北西毛地区 165 9 3 東 毛 地 区 6 28 0 県 外 3 11 ― 人数で示した。 57
出生体重 1,000g 未満は 4人, 1,000g 以上 1,500g 未満は 9 人で, 1,500g 以上 2,000g 未満が 25人, 2,000g 以上 2,500g 未満が 38人で 2,500g 以上が 144人, 不明 5人であった (図 4). 4.搬送依頼理由 搬送依頼理由としては呼吸障害 74人, チアノーゼ 38 人など呼吸循環器系の異常が最も多かった. 低出生体重 は 72人, 仮死は 18人で, 黄疸は 19 人であった. 消化器 系の異常では嘔吐 12人,吐血 6人,下血 2人,腹部膨満 3 人, 筋神経系の異常としては痙攣 5人, 筋緊張異常 4人 となっていた. このほか哺乳障害は 11人, 奇形は 10人 であった (表 2). 5.新生児搬送受け入れ不可能日数 新生児搬送応需情報モニターにて県内の搬送受け入れ 不可能であった日数を極低出生体重児についてみると, 出生体重 1,000g 未満が不可能とされた日数は 1年間で 55日, このうち 35日は出生体重 1,000g 以上 1,500g 未満 も受け入れ不可能とされていた. 月別にみると 7月, 8 月, 11月, 12月, 3月が多く, 4月, 2月は受け入れ不可能 日がなかった (図 5). 6.周産期医療情報モニター応需情報入力督促回数 周産期医療情報モニターへの応需可否に関する入力状 況の指標として入力督促回数をみると, 合周産期母子 医療センターが 2回, 地域周産期母子医療センターでは 1施設が 11回であった以外は 0∼ 3回, 協力医療機関で は 31回と 41回の施設が各 1施設ずつあった以外は 3∼ 7回であった. 特定医療機関は 0回が 1施設, 25回が 1 施設であった. (図 6). 案 低出生体重児や病的新生児を他の医療機関に搬送する 新 生 児 搬 送 は, 人 口 約 1,200万 人 の 東 京 都 で は 2003 ∼2004年の集計で 2,809 件, 人口約 800万人の大阪府で は 1996年から 2005年の集計で年間 697∼836と報告さ れている. 今回の集計では, 年間 225人の搬送が明らか となっており, 群馬県の人口が約 200万人であることか ら, 人口当たりの新生児搬送患者数は東京, 大阪と大き 図4 2006年度の群馬県における出生体重別の新生児搬送患者数 (出生体重不明の 5人を除く) 表2 2006年度の群馬県における新生児搬送の搬送依頼理由 (重複あり) 依頼理由 人数 依頼理由 人数 依頼理由 人数 依頼理由 人数 低出生体重 72 黄疸 19 腹部膨満 3 奇形 10 仮死 18 浮腫 0 哺乳障害 11 発熱 13 呼吸障害 74 嘔吐 12 痙攣 5 低体温 4 無呼吸 10 吐血 6 筋緊張異常 4 その他 76 心雑音 4 下血 2 体重増加不良 6 チアノーゼ 38 下痢 0 元気がない 9 58 2006年度の群馬県における新生児搬送の検討
な違いはないと えられた. 搬送依頼理由としては呼吸循環器系の異常, 低出生体 重が多かったが, 搬送された児の在胎週数は 34週未満 が 30人, 出生体重は 2,000g 未満が 38人であった. 群馬 県の保 福祉統計によると 2003∼2005年の出生体重 2,000g 未満の児の出生数は年間 334∼355で推移してお り, 早産や低出生体重が予想される症例の多くは母体搬 送がなされていることがうかがわれた. 搬送元および搬送先については, 群馬県の周産期医療 体制の当初の構想どおり, 中北西毛地区ブロック, 東毛 地区ブロック内で大部 の受け入れができており, ブ ロックをこえた新生児搬送患者は少数であった. しかし, 県外から 14人の患者を受け入れていたものの県外へ 3 人の患者を搬送していた. 長距離, 長時間の搬送は患児 の予後を不良とし, 家族の負担も大きいことが明らか になっている. また, 細田らの報告では群馬県でも 1998∼1999 年に救急母体搬送 465件中 29 件が県外へ搬 送されていたとされている. 母体搬送受け入れ不可能と 図5 2006年度の群馬県における月別の新生児搬送受け入れ不可能日数 図6 2006年度の群馬県における新生児医療機関別新生児搬送応需情報モニター入力督促回数 59
なる理由の多くは新生児医療機関の受け入れが不可能で あるといわれており, 今回, 新生児搬送応需情報モニ ターのデータを用いて新生児医療機関の病床の状況をみ ると, 1年間で, 出生体重 1,000g 未満では 55日, 出生体 重 1,000g 以上 1,500g 未満でも 35日県内で新生児救急搬 送受け入れ不可能であったことから, 新生児医療機関の 病床の不足は深刻であると えられた. 今回の検討の結果から, 群馬県においても新生児医療 機関の病床の増床及び人員の確保を進めることが急務と 思われた. また, 年間 200人以上の新生児が救急搬送さ れているが, 保育器を常時搭載している新生児専用の救 急車は群馬県内では群馬県立小児医療センターに 1台あ るのみで, 安全に新生児搬送を行うには搬送用保育器の 地域における整備が必要である. 今回, 搬送情報提供書の複写から搬送件数などを検討 したが, このような検討を行うにあたって, 新生児搬送 の状況を正確に把握するには搬送情報提供書の複写の回 収率をいかに向上させるかが課題である. また, 今回 行った方法では県境をこえた搬送を十 に把握すること はできないため, 県境をこえた搬送をどのように集計す るか検討する必要があると思われる. 文 献 1. 多田 裕. 母体搬送と新生児搬送. 周産期医学 2006; 36: 1481-1484. 2. 市場博幸, 藤村正哲, 根岸宏邦. NMCS (大阪新生児診療 相互援助システム) による新生児医療体制の推移. 日児 誌 2006; 110: 301. 3. 群馬県 康福祉局保 福祉課企画広報グループ. 平成 19 年刊 康福祉統計年報. 群馬, 2007. 4. 丸山憲一,小泉武宣.群馬県立小児医療センター新生児科 により群馬県外へ搬送された新生児救急症例の検討. Kitakanto Medical J 2002; 52: 333-336.
5. Mori R, Fujimura M, Shiraishi J, et al. Duration of inter-facility neonatal transport and neonatal mortality: Systematic review and cohort study. Pediatr Int 2007; 49 : 452-456. 6. 川畑勉代, 黒田かよ子, 太田正康. 遠距離母体搬送により NICU に入院した母子及び家族の問題点と課題. 茨城県 救急医学会雑誌 2001; 24: 16. 7. 丸山憲一, 小泉武宣, 藤生 徹ら. 長距離母体・新生児搬 送された家族の負担に関する検討. 日本未熟児新生児学 会雑誌 2007; 19 : 646. 8. 細田 肇,北原敬市.全国人口動態 覧と千葉県の周産期 救急医療の実態調査から 全国最悪の 22週以後の死産 率, 東 地区では母体搬送の 21%が県外へ 早急な 合 周産期母子医療センターの設置を望む. 千葉県医師会雑 誌 2001; 53: 2340-2357. 9. 土屋清志, 岩下光利, 中村幸雄. 東京都周産期医療対策事 業に基づく東京都の周産期医療体制の実態と問題. 周産 期学シンポジウム 2003; 21: 111-119. 60 2006年度の群馬県における新生児搬送の検討
Neonatal Emergency Transport in Gunma Prefecture
Kenichi Maruyama
and Takenobu Koizumi
1 Department of Neonatology, Gunma Children s Medical Center
Background and aim: Gunma information system for perinatal medicine was established in April 2006. Since the establishment, we have been collecting data on maternal and neonatal emergency transports. The aim of this study is to analyze the data on neonatal emergency transports in Gunma prefecture. M ethod: We investigated clinical features of newborn infants transported from April 2006 through March 2007.The number of days when premature infants could not be received by the neonatal intensive care units in Gunma prefecture during the period was also reviewed. Results: Two hundred twenty-five newborn infants were transported. Their gestational ages were between 23 and 41 weeks and the birth weights were between 512 and 4,165 g. Seventy-four infants had respiratory distress and 72 infants had low birth weights. Fourteen infants were transported from other prefectures to Gunma prefecture and three infants were from Gunma prefecture to others. Infants with birth weights less than 1,000 g could not be received by neonatal intensive care units in Gunma prefecture in a total of 55 days during the investigated year. Conclusion : The information system for perinatal medicine have made possible to reveal problems on neonatal emergency transport in Gunma prefecture. It should be discussed how we elevate the collection rate of the data on transported infants, especially those who are transported from and to other prefectures.(Kitakamto Med J 2008;58:55∼61)
Key Words: neonatal transport, information system, perinatal medicine