• 検索結果がありません。

ABO式血液型から始まる法医遺伝学

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ABO式血液型から始まる法医遺伝学"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

171 ─  ─ 2018;68:171~172

 流 れ

ABO 式血液型から始まる法医遺伝学

佐野 利恵

1 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科法医学  私は医学科5年生の時に法医学への進路を決めました. 今から振り返れば,身近な人の異状死を複数経験したこと が進路選択の決め手であったと思います.法医解剖や教育 と並行して,法医遺伝学を主とした研究を行っております が,日々発見が多く,興味が尽きません.本稿では,私が 行っている研究とこれからの展望について記したいと思い ます.

ABO

遺伝子の転写調節研究  2007年から,群馬大学法医学講座の大学院生として, ABO式血液型遺伝子(以後ABO 遺伝子)の転写調節研究 を始めました.ABO式血液型は輸血医療において必須の 検査項目であることはご存知の通りです.血液型抗原は糖 鎖であり,熱や死後変化に対して安定であることから,法 医学分野においては個人識別に重要な指標として利用され, 群馬大学法医学講座では古くから血液型の研究が行われて きました.私はABO 遺伝子の上流域や下流域をテーマに 研究を行い,学位を取得しました.1  ところで,1990年にABO遺伝子がクローニングされた後, コード領域に変異をもつ血液型亜型遺伝子が明らかにされ てきましたが,日本人に最も多い血液型亜型であるBm型 の原因は明らかではありませんでした.この血液型は,赤 血球にはB抗原が殆ど無く,一見O型に見える一方,唾 液中にはB抗原が豊富に存在し,更に遺伝子のコード領 域を調べても全く変異が同定されないものです.私たちは, これらを解明するために,2009年頃から組織特異的転写 調節機構の研究を始め,2012年にABO 遺伝子血球系特異 的エンハンサーの解明とBm型の遺伝子解析について報告 しました.2 ゲノムアノテーションデータを解読し,実験 を始め,試行錯誤し,血球系エンハンサーの同定に至りま した.しかし,「ほんとうに,エンハンサーなのだろうか?」 と疑問に思っていました.その後,Bm型の一患者のDNA を用いてPCRおよびシークエンス解析を行い,エンハン サーが欠失していることが分かったときは「!」と思い, 更に複数のBm型検体を調べたら,全く同じ欠失であった ことに大変興奮したことを覚えています.この研究は,輸 血医療や法医血清学における長年の疑問を解き明かすもの であり,日本法医学会,北関東医学会,麒麟塾において学 術奨励賞や特別賞を戴くことができ,大変励みになりまし た.また,Vox Sanguisis Best Paper Prize 2014受賞の契機 にもなりました.この研究を可能にしたのは,小湊教授の 粘り強い情熱,中島先生の緻密な血清学的診断および根気 強い実験,Bm型の患者をご紹介いただいた群馬大学附属 病院の先生方のお陰であり,感謝の念に堪えません. 拡がる研究、拡がる縁  前述の研究を契機として,転写調節領域の変異に基づく, 他の血液型亜型の研究が我々の研究室から続けて報告され, 文献情報 投稿履歴:  受付 平成30年5月23日  採択 平成30年6月7日 論文別刷請求先:  佐野利恵  〒371-8514 群馬県前橋市昭和町3-39-22        群馬大学大学院医学系研究科法医学  電話:027-220-8033  E-mail: [email protected]

(2)

172 ─  ─ ABO式血液型から始まる法医遺伝学 さらに,世界においても同様の報告が複数なされました. また,2014年には,実際のBm型の造血幹細胞を用いた分 化培養実験を行うことができました.3 B m型は,日本人の 血液型亜型の約半数を占めますが,亜型自体の頻度が多く なく,その中で造血幹細胞の提供にご協力頂ける方を探す ことは難しいと当初考えていました.しかし,色々と調べ ていくと,Bm型の人が母校の大分大学の同窓生にいるこ とに気づきました.この事実は,産休明けで呆けていた私 を再び興奮させるに十分であり,すぐに共同研究が始まり ました.大切な検体を持ち帰るために,九州から高速バス, 新幹線を乗り継いだ事が懐かしい思い出となっています. 研究には,運・鈍・根が必要であるということを心に据え, ときに縁に助けられ,実験に励み,2016年には上皮細胞 におけるABO 遺伝子のエンハンサーを同定しました.4 れで,ABO式血液型の組織特異性の謎を明らかにするこ とができ,嬉しく思っています.しかしながら,ABO 遺 伝子の転写調節機構について,更に深く知りたいと思いま す.クロマチン構造変化に基づく転写調節機構や,大学院 時代に行った研究をもう一度深く掘り下げ,抱いている自 分の疑問を明らかにしたいと思っています. ABO 式血液型研究と医療  これまでの研究により,ABO式血液型と疾患の関係が 幅広く知られるようになってきています.ABO式血液型 に関連する疾患として,静脈血栓症,冠動脈疾患等が明ら かにされています.これらは,A╱B抗原の存在が疾患発 症のリスクと成り得ることを示唆するものであり,遺伝子 発現制御の研究を礎にAB抗原を減少させることでこれ らの問題を改善できると考えられます.一方,血液型と癌 の関係についての研究も数多く報告されています.多くは, O型のヒトが他の血液型に比べて癌になりにくい,という 趣旨の内容です.この理由についてはいまだ完全に明らか になっていませんが,一つの原因として,癌細胞における 血液型抗原の変化(Incompatible A,遺伝子がO型である にもかかわらず癌細胞表面にA抗原が発現する)がある と考えられます.Incompatible A現象が生じた細胞は,O 型のヒトが有する抗A抗体との抗原抗体反応により増殖 が抑制されると推測されます.この現象の機序を遺伝子発 現機構の観点から明らかにし,血液型と癌の関係の謎を解 き明かしたいと思っています.

ABO

遺伝子研究は法医遺伝学の扉  近年,法医解剖例の中で,致死性不整脈や心筋症,代謝 異常症等が疑われる症例などを対象に,次世代シークエン ス技術を用いた網羅的な遺伝子解析研究が始まり,法医遺 伝学の研究の中心は個人識別から突然死症例の遺伝子解析 研究に移行しつつあります.しかしながら,得られた膨大 なデータに反し,解釈が追い付いていないというのが現状 です.一方,ゲノムと疾患の関係においては,遺伝子発現 ないし形質発現を考えるうえで,転写調節機構の知見が必 須であることは自明です.コード領域でなく,転写調節領 域の異常による表現型の異常を示すBm型の研究に携わっ た経験に照らすと,現状のコード領域を対象とした解析で は真実を十分に明らかにできない,と私は思っています. 今後,突然死症例における遺伝子解析研究が進む中で, ABO 遺伝子発現研究で培った視点でデータを解釈し,こ れからの法医学の研究や実務に微力ながら貢献していきた いと思います. 文献

1.Sano R, Nakajima T, Takahashi K, et al. The 3’ flanking region of the human ABO histo-blood group gene is involved in negative regulation of gene expression. Leg Med 2011; 1:

22-29.

2.Sano R, Nakajima T, Takahashi K, et al. Expression of ABO blood-group genes is dependent upon an erythroid cell-spe-cific regulatory element that is deleted in persons with the Bm phenotype. Blood 2012; 119(22): 5301-5310.

3.Sano R, Nogawa M, Nakajima T, et al. A 3.0-kb deletion

including an erythroid cell-specific regulatory element in intron 1 of the ABO blood group gene in an individual with the Bm phenotype. Vox Sang 2015; 108: 302-309.

4.Sano R, Nakajima T, Takahashi Y, et al. Epithelial expres-sion of human ABO blood group gene is dependent upon a downstream regulatory element functioning through an epi-thelial cell-specific transcription factor, Elf5. J Biol Chem

参照

関連したドキュメント

安静時 血管型 血管二 二丘型 直鈎型 鄙野型 勢刀型 流山型

0型唾液二線テハSchi任u. Sasaki(1)(2)(3)ガ牛血清ヲAB型人血球ニテ吸着シテ得タル抗0血

 乾血斑二就テ.乾血斑ヨリMN式血液型ヲ判定セントスルニハABO式血液型ヲ手口定スル

今日のお話の本題, 「マウスの遺伝子を操作する」です。まず,外から遺伝子を入れると

ADAR1 は、Z-DNA 結合ドメインを2つ持つ ADAR1p150 と、1つ持つ ADAR1p110 が.

マーカーによる遺伝子型の矛盾については、プライマーによる特定遺伝子型の選択によって説明す

〒371-8570 群馬県前橋市大手町一丁目1番1号

日医かかりつけ医機能研修制度 令和 年度応用研修会 「メタボリックシンドロームからフレイルまで」 飯島勝矢 Tamakoshi A ら. Obesity