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IRUCAA@TDC : 歯科的個人識別実習システムの開発

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Academic year: 2021

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title

歯科的個人識別実習システムの開発

Author(s)

笠原, 典夫; 中村, 安孝; 奈良, 宏周; 寺田, 仁志; 石

川, 昂; 野口, 拓; 松永, 智; 山本, 仁; 阿部, 伸一;

橋本, 正次

Journal

歯科学報, 119(4): 314-318

URL

http://doi.org/10.15041/tdcgakuho.119.314

Right

Description

(2)

はじめに 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震 (通称:東日本大震災)は,東北地方および関東地方 の太平洋沿岸部に甚大な被害をもたらした。この災 害犠牲者の身元確認作業に歯科的情報が用いられ, 歯科医師が身元確認に大きく貢献したことは記憶に 新しい1) 。これを契機として,我が国の歯科大学・ 歯学部における歯科的個人識別に関する教育の機運 がさらに高まり,それまで,本学を含め僅か数校の 歯学部・歯科大学にのみ設置されていた歯科的個人 識別を専門とする講座・研究室が,全国29歯科大 学・歯学部のおよそ半数にまで増加した。 東京歯科大学法歯学講座は,本邦初の歯科的個人 識別を教育・研究する機関として設立され,教育や 研究だけでなく警察や外務省,厚生労働省などの嘱 託を受け様々な検査・鑑定に関する実務を行ってき た。教育においては,学部教育だけでなく各地域の 歯科医師会に赴き,歯科的個人識別に関する講義・ 実習を行い,歯科的個人識別の啓発,普及に努めて きた。今回我々はこれらの経験を基に,学部学生を 教育するための「歯科的個人識別実習システム」を 開発し,平成29年度および30年度の第3学年を対象 に実施したので報告する。なお,研究については東 京歯科大学倫理審査委員会の承認(受付番号791)を 得て実施している。 実習の概要について 平成22年度改訂版の歯学教育モデル・コア・カリ キュラムに,初めて歯科的個人識別の項目【B−2

教育ノート

歯科的個人識別実習システムの開発

Development of a practice system for dental identification

笠原 典夫1) 中村 安孝1) 略歴 笠原典夫:1997年 東邦大学理学部生物学科卒業,1999年 東

北大学大学院医学系研究科博士前期課程修了,2011年 新潟大学歯 学部歯学科3年次編入学,2015年 新潟大学歯学部歯学科卒業, 2016年 東京歯科大学法歯学・法人類学講座助教拝命,現在に至

る。

Norio Kasahara Yasutaka Nakamura

奈良 宏周1) 寺田 仁志1)

Hironori Nara Hitoshi Terada

石川 昂2) 野口 3)

Noboru Ishikawa Taku Noguchi

松永 智3) 山本 2)

Satoru Matsunaga Hitoshi Yamamoto

阿部 伸一3) 橋本 正次1)

Shinichi Abe Masatsugu Hashimoto

キーワード:法歯学,歯科的個人識別,カリキュラム

Key words:Forensic odontology, Dental identification, Curriculum 1) 東京歯科大学法歯学・法人類学講座,2) 東京歯科大学組織・発生学講座,3) 東京歯科大学解剖学講座 (2019年6月26日受付,2019年7月23日受理,歯科学報 119:314−318,2019.) http : //doi.org/10.15041/tdcgakuho.119.314 314 ― 56 ―

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−3)歯科による個人識別】が追加された2) 。その一 般目標は「歯科による個人識別の重要性を理解す る」であり,到達目標は「①個人識別について説明 できる」,「②歯科による個人識別について説明でき る」である。これに対して,本学法歯学の講義にお ける一般目標は「歯科学が法的な問題となる社会的 事案において如何に役立つかを理解するとともに, そのために将来臨床医に何ができるかを考え,その 上で安全で安心な社会の確立に貢献できる歯科医師 を育てる。」一方,歯科的個人識別に関する到達目 標は「事件や災害の際の歯科的個人識別の手順を説 明できる。」である。これらの一般目標および到達 目標を鑑み,学部学生に即した実習システムの内容 を設定した。 一般に,歯科的個人識別は3つの過程に大別され る。すなわち,死後記録の作成・生前記録の作成・ 照合作業の3つである。「死後記録の作成」は,犠 牲者の口腔内を検査し,その治療痕や歯の状態を歯 型図に記載する過程である。「生前記録の作成」は 犠牲者と思われる人物の歯科診療録などを基に,そ の人物の治療痕や歯の状態を歯型図に記載すること である。「照合作業」は死後記録と生前記録を比 較・照合し,それらの人物が同一人であるか否かに ついて精査することである。 本実習ではこれら3つの過程を体験させるため に,学生教育用顎模型の人工歯にレジン充塡・イン レー修復・全部金属冠による治療痕を作成し,犠牲 者の口腔内に擬えることとした(図1)。治療痕作成 のための技工物は,茨城県神栖市の神栖デンタルク リニックの協力により作製された。次に治療を施し た顎模型を基に模擬的な歯科診療録を作成し,生前 記録を記載するための資料とした。実際の身元確認 の現場では感染予防と個人識別精度向上のため,死 後記録の作成を二人一組で行うことが一般的である ため,顎模型と歯科診療録のセットを75組作成し, 全学生が二人一組で実習を行えるよう配慮した。 現在,一般的に歯科的個人識別に用いられてい る書式は2種類ある。1つは国際刑事警察機構(In-ternational Criminal Police Organization:INTER-POL)が推奨する書式(通称:国際書式)である(図 2)3,4) 。もう一方は日本歯科医師会が推奨する書式 (通称:日本書式)である(図3)5) 。これらの書式に はそれぞれ一長一短があるため,各歯科医師会・組 織・団体によって採用されている書式が異なってい 図1 実習に用いた顎模型の例 図2 国際書式の死後記録用紙 歯科学報 Vol.119,No.4(2019) 315 ― 57 ―

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るのが現状である。そこで,本実習では両方の書式 とも記入することが出来るよう,いずれの書式につ いても指導した。 実習について 1回目の講義実習では,「死後記録の作成」につ いて教授した。実習に先立ち,今までに履修した口 腔解剖学的知識の確認から始め,治療の種類,歯型 図の記入方法まで説明し(図4),第2学年までに修 得してきた知識の統合,および総合的な思考能力が 必要であることを認識させた。講義ののち,二人一 組となり顎模型から治療痕の情報を読み取り,その 内容を歯型図に記載させた(図5)。まず,一方の学 生が顎模型から所見を読み取り,もう一方の学生に 伝え,その学生が記録用紙に記載させた(図6)。所 見をとり終えると,記録していた学生と所見を読み 上げていた学生が交代し,もう一度同じ作業を実施 させた。これは通常の身元確認作業と同様の手法で 図5 実習時の学生の様子 図4 実習の説明の様子 図6 学生が作成した死後記録(国際書式) 図3 日本歯科医師会の死後記録用紙 316 笠原,他:個人識別実習の開発 ― 58 ―

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ある。 2回目の講義実習では,「生前記録の作成」につ いて教授した。実習に先立って,カルテの読み方や 記載されている略語などについて説明した。学生が 作成した生前記録の一例を図7に示す。生前記録は 死後記録と違い,すべての歯種についての情報が提 供されない場合がある。情報がない歯については 「情報なし」と記載するのが通例だが,未記入で あったり「健全歯」と記入したりする学生が散見さ れ,生前記録と死後記録の差異についての理解が十 分でないことが示唆された。 3回目はこれまでに作成した死後記録と生前記録 を比較・照合し,同一人か否かを判定する「照合作 業」について教授した。照合作業においては,死後 記録と生前記録の内容を1歯ずつ比較していき, 「一致・矛盾する不一致・矛盾しない不一致・判定 不能」の4つに分類させた。矛盾する不一致とは, 生前記録が「欠損歯」となっているのにも関わらず, 死後記録で「健全歯」や「インレー修復」となって いる場合などで,特段の理由が無ければこのような 場合は同一人ではないと判断されることとなる。一 方,矛盾しない不一致とは,生前記録が「健全歯」 であり,死後記録が「全部金属冠」や「欠損歯」と なっている場合などで,これらの変化に合理的な説 明が可能であると判断される場合である。判定不能 とは,生前記録に当該歯の情報がなく,どのような 状態であるか判別できない場合である。本実習にお いて用いた顎模型の治療痕と歯科診療録の内容は合 致するよう作成されており,すべての情報を正しく 抽出できた場合は完全一致するように設定されてお り,大多数の学生の照合結果は「一致する(同一人 である)」であった(図8)。 実習後の評価について 実習後の授業アンケートでは,「大規模災害時の 個人識別の手法がよく理解できた」や「講義の内容 が実習を通して補完された」などの好意的な意見が 多くみられた。しかし,その一方で第3学年前期に 実施したため,臨床歯科医学系の科目が未履修の状 態であり,臨床的な知識が要求される生前および死 後記録の精度に影響を与えた可能性が示唆された。 図7 学生が作成した生前記録(日本書式) 図8 学生が作成した照合結果用紙 歯科学報 Vol.119,No.4(2019) 317 ― 59 ―

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学生からも「臨床的な知識がある状態で実習をした かった」「診療録の読み方など,もう少し詳しい説 明が欲しい」という意見が散見された。 実習後に上下歯列の写真から死後記録を作成する 試験を実施した。その結果,2割の学生は完璧な死 後記録を作成することができた一方で,8割の学生 には軽微な誤りが認められた。これらの誤りは臨床 経験を積むことや,二人一組での相互確認という チェック機構が作用することで防ぐことのできる類 の誤りが多かった。 学生の作成した生前記録と死後記録は従前の実習 形式で作成したものよりも精度が高く,実際の現場 でも十分に歯科所見をとることができる能力が身に ついたと推察された。本実習において疑似的に歯科 的個人識別を経験することで,社会的事案に対して 活躍できる歯科医師の育成に大きく寄与するものと 期待された。 まとめ 実習は直接的経験を学生に与えることで体験化さ せ,有効的な学習効果をもたらすことが期待されて いる。本実習は歯科的個人識別におけるすべての過 程を,実際の身元確認作業に即した形で体験させる ことが可能である。従来,本学の歯科的個人識別の 講義実習では,実際の症例写真を用いて同様の実習 を行っていたが,数多くの症例を集めることが困難 であったり,3次元構造物を2次元で表現したこと による情報の逸失などがあったりと,様々な制約が あった。本実習では,これらの問題を解決すると同 時に,大規模災害時の個人識別作業をも体験するこ とが可能であると考えられた。 今後はデンタルエックス線画像やパノラマエック ス線画像などを追加すると同時に,インプラントや 可撤式床義歯などの症例も加え,さらなる拡充を図 る予定である。 謝 辞 本実習システムの開発に当たり,平成29年度学長奨励教育 助成の援助を受けました。井出吉信学長をはじめ,関係各位 に謹んで感謝申し上げます。 開示すべき利益相反はありません。 文 献 1)鈴木敏彦:歯科情報に基づく大規模災害時の個人識別. 日補綴歯会誌,7⑵:129−134,2015. 2)モデル・コア・カリキュラム改訂に関する連絡調整委員 会,モデル・コア・カリキュラム改訂に関する専門研究委 員会,歯学教育モデル・コア・カリキュラム 平成22年度 改訂版:文部科学省 医学・歯学教育.2019年6月15日. http : //www.mext.go.jp/component/a_menu/education/ detail / _ icsFiles / afieldfile /2018/06/25/1324090_24.pdf, pp.17,2010.

3)INTERPOL : Ante Mortem(yellow)INTERPOL DVI Form−Missing Person.

https : //www.interpol.int/content/download/5324/file/ Ante %20Mortem %20%28yellow %29%20INTERPOL %20DVI %20Form %20- %20Missing %20Person. pdf ? inLanguage=eng-GB,pp.12,2018.

4) INTERPOL: Post Mortem(pink)INTERPOL DVI Form ­Missing Person.

https : //www.interpol.int/content/download/5325/file/ Post %20Mortem %20%28pink %29%20INTERPOL % 20DVI %20Form %20- %20Missing %20Person. pdf ?

inLanguage=eng-GB,pp.11,2018. 5)日本歯科医師会 災害時対策・警察歯科総合検討会議, 大規模災害時の歯科医師行動計画 改訂版:日本歯科医師 会.2019年6月15日. https : //www.jda.or.jp/dentist/disaster/pdf/Jda_Large_ Scale_Disaster_Plan.pdf,pp.67−75,2013. 連絡先:〒101‐0061 東京都千代田区神田三崎町2−9−18 東京歯科大学法歯学・法人類学講座 笠原典夫 318 笠原,他:個人識別実習の開発 ― 60 ―

参照

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