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Title
Effects of nicotine on Malassez’ epithelial rest
cells in early primary culture : cell proliferation
and mRNA expression of heat shock protein 70 and
vascular endothelial growth factor
Author(s)
中川, 惠理
Journal
歯科学報, 109(6): 638-639
URL
http://hdl.handle.net/10130/1879
Right
論 文 内 容 の 要 旨 1.研 究 目 的 マラッセの上皮遺残(MER)細胞は歯根膜の恒常性維持に携わることが知られている。喫煙によりニコチン は血中に移行し歯周組織に影響を与えることが知られており,ニコチンの歯周組織に対する研究も多数認めら れる。しかし,歯根膜内に存在する MER 細胞とニコチンとの関連についての論文はない。本研究の目的は, ニコチンが MER 細胞へ与える影響を細胞形態,細胞増殖並びに恒常性維持機構に関連する HSP70−および VEGF-mRNA の発現から考察した。 2.研 究 方 法 ブタ下顎臼歯歯根膜より分離培養された MER 細胞を6継代したものを用いた。細胞定着後,実験群として 培養液にニコチンの濃度が0.03,0.15,および0.2μM となるように調整した。ニコチン添加直後,3,5, および7日後における細胞形態の観察,細胞数を測定し,3,9および24時間後の HSP70−および VEGF-mRNA の発現を定量 RT-PCR 法にて分析した。対照群にはニコチンを加えない培養液にて培養したものとし た。 3.研究成績および考察 MER 細胞の形態は対照群と実験群の間に明らかな差は認められなかった。また,対照群は細胞が密に増殖 しているのに対し,実験群は鬆粗な部位も認められた。細胞増殖能は経時的に増加していたが,7日目で対照 群に比べ実験群で有意差をもって低い値を示した。この結果は MER 細胞がニコチンに対して感受性が高いこ とを示すと考えられた。HSP70-mRNA の発現は,経時的に減少傾向を示したが,3時間後で対照群に比べ実 験群は高い値を示した。HSP70 は障害に対して細胞自らを修復するタンパクであり,本結果より,MER 細胞 は HSP70 を発現させることによりニコチンからの自己防御機能が働いたと考えられた。VEGF-mRNA は経時 的にほとんど変化は見られなかったが,対照群に比べ実験群は低い値を示し,特に9時間後ではどの濃度にお いても有意差をもって低い値を示した。VEGF は恒常性維持機構に関与していることが知られている。この 結果によりニコチンは MER 細胞を介して歯根膜の恒常性維持に負の作用をもたらしたと考えられた。今回用 いたニコチン濃度は喫煙後2∼3時間,喫煙後1時間,喫煙直後の血中濃度に相当すると報告されている。 氏 名(本 籍) なか がわ え り
中
川
惠
理
(山梨県) 学 位 の 種 類 博 士(歯 学) 学 位 記 番 号 第 1790 号(甲第1064号) 学 位 授 与 の 日 付 平成 20 年 3 月 31 日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第 4 条第 1 項該当学 位 論 文 題 目 Effects of nicotine on Malassez epithelial rest cells in early primary culture : cell proliferation and mRNA expression of heat shock protein 70 and vascular endothelial growth factor
掲 載 雑 誌 名 Oral Medicine & Pathology 第13巻 41∼45頁 2009年
論 文 審 査 委 員 (主査) 井上 孝教授 (副査) 山田 了教授 柴原 孝彦教授 井出 吉信教授 歯科学報 Vol.109,No.6(2009) 638 ― 84 ―
4.結 論 通常の喫煙者の血液中ニコチン濃度の範囲内において,MER 細胞への影響は濃度による変化はほとんど認 められなかったが,ニコチン添加後における MER 細胞自体および歯根膜組織への影響を受け,このことが歯 根膜維持組織の崩壊さらに歯周組織の恒常性を崩壊させるのではないかと考えられた。 論 文 審 査 の 要 旨 喫煙により血中にニコチンが移行することは知られている。また,ニコチンの歯周組織に対する実験は数多 くなされてきたが,未だ歯根膜の恒常性に重要な役割を果すマラッセの上皮遺残(MER)細胞に対するニコチ ンの影響を検索した報告はない。本論文は,MER 細胞に対するニコチンの影響を分子レベルで評価すること を目的とした。細胞の形態は変化を認めなかったが,細胞数が低下したことはニコチンによる MER 細胞の感 受性が高いことを示した。また,HSP70-mRNA の発現が高くなることにより,自己の防御機能に影響を与え ることが示唆された。VEGF-mRNA の発現が低くなったことは,負の作用が働き歯根膜の恒常性に影響を与 えると考えられた。 本審査委員会は,平成20年3月17日に行われ,まず中川惠理大学院生から論文内容の説明がなされた。その 後,各審査委員より,1)本実験に対する臨床的な意義,2)ニコチン作用の影響を観察する期間の設定基 準,3)ニコチンの濃度設定,などについて質問がなされ,概ね妥当な回答が得られた。その他,目的の明確 化,論文の整理,用語の統一,附図およびその説明の補足,論文構成と英文表記等の方法など多くの修正すべ き点が指摘され,訂正が行われた。 その結果,本研究で得られた結果は,今後の歯学の進歩,発展に寄与するところ大であり,学位授与に値す るものと判定した。 歯科学報 Vol.109,No.6(2009) 639 ― 85 ―