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Title
歯の問題を伴う不正咬合の矯正治療 1.犬歯の萌出異常
により中側切歯の歯根吸収を伴う不正咬合について
Author(s)
末石, 研二
Journal
歯科学報, 113(1): 10-12
URL
http://hdl.handle.net/10130/2996
Right
カ ラ ー ア ト ラ ス の 解 説
緒 言
東京歯科大学千葉病院矯正科来院患者のうち永久
歯の萌出不全があると診断された455名(男性185名,
女性270名)の調査から,上顎犬歯,中切歯,下顎第
二小臼歯にその発症が多い事が示された(豊田ら
2009)。特に犬歯の萌出異常を認めたものは159名で
あり,そのうち,隣在歯に歯根吸収を認めたものは
42名で,82歯に歯根吸収が及んでいた(図1,2)。
今回は,埋伏歯・萌出遅延歯を伴う不正咬合の内,
上顎犬歯により中切歯,側切歯に歯根吸収を認めた
症例を提示し,早期発見のための診査について解説
する。
症 例
症例は13歳の女子。犬歯萌出不全を主訴に近医を
受診した。レントゲン診査により,中側切歯の歯根
吸収を指摘され,当科へ紹介来院した。扁桃の軽度
肥大を認めるが,他に特記すべき全身疾患の既往は
ない。咬合状態は,Angle I 級,叢生を示し,Over
jet は5mm であった。上顎犬歯の萌出空隙はなく,
未萌出である.パノラマエックス線所見では,上顎
左右側犬歯の近心転位を認め,上顎右側中切歯,左
側中側切歯の歯根吸収を認めた(図3−1,2)。
治療方針
本格矯正治療を行う事とし,上顎右側中切歯,左
側側切歯,および下顎両側第一小臼歯を抜歯し,叢
生の改善をはかる事とした。上顎左側犬歯の開窓,
牽引,遠心移動を行い,左側中切歯と側切歯の吸収
程度を比較してから抜歯する事とした。また,下顎
第一小臼歯の中切歯部位への移植も検討したが,患
者の同意を得るにはいたらなかった。
治療経過(図4−1∼6) 右側中切歯を抜歯し,レジ
ン歯にて空隙を保持し,犬歯を誘導した(図4−1)。
上顎左側犬歯を開窓,牽引し,中切歯と側切歯の歯
根吸収が同程度である(図7b)ことを確認し,側切
歯を抜去する事とした(図4−1∼3)。上顎右側犬歯
は中切歯の部位に萌出し,矯正装置にて排列した(図
4−4)。上顎右側の歯冠幅径の総和が大きくなるこ
とから,上顎歯列の正中が右偏することとなった(図
4−5,6)。治療は良好に経過したが,抜歯部位の確
認等もあり,3年3ヶ月の動的治療期間を要した。
治療結果(図5,6) 動的治療終了時(図5)ではわず
かに大きな over jet と良好な over bite と臼歯関係
を示す。歯冠幅径の調節と咬合調整を行ったが,上
下歯列の正中は一致に至っていない。図6に保定2年
後の正面観と笑顔の状態を示す。左側中切歯の動揺
はわずかであり,歯根吸収の進行を認めない(図7)。
しかしながら,歯頚線と歯の形態の非対称性が存在
し,審美的な問題は残っている(図6)。これは本来
とは異なる部位の配列を余儀なくされた結果であ
り,真の治療法は早期発見による歯根吸収の予防で
ある事を示唆している。
萌出の異常の診断手順
隣在歯の歯根吸収をもたらす上顎犬歯の近心転位
は歯の萌出遅延を呈する。萌出遅延の判定には暦齢
に対する萌出時期の遅延,萌出時期の左右差と歯根
形成の程度がその基準となるが,ここではレントゲ
ン診査の必要性を判定するための前2項目について
概説する。
暦齢に対する萌出時期の遅延(表1)
日本小児歯科学会(1986)の調査では,上顎犬歯の
萌出時期について男児では10y10m±1y1m,女児で
は10y2m±11m と報告している。犬歯が近心に異
所萌出する際に永久切歯の歯根吸収を引き起こす事
を考えると,比較的早期の診査が必要と考えられる。
したがって,平均萌出時期に1SD を加えた時期,
すなわち,女児では11y1m(≒11y)までに,男児で
は11y11m(≒12y)までに萌出していなければ注意を
要すると言える。
左右の同時性(表1)
須田ら(2010)は上顎犬歯萌出の左右差は男子で
3.13±3.4ヶ月,女児で3.4±3.31ヶ月と報告してい
る。さらに4ヶ月で75%で両側とも萌出するとして
いる。臨床的には,反対側の犬歯が萌出してから4
∼6ヶ月経過しても萌出しない場合に注意を要する
と言える。
上顎犬歯の位置
近心転位した犬歯が唇舌的に切歯歯根と同じ位置
にある場合に,中側切歯の歯根吸収を引き起こすリ
スクが高いと言える。したがって,前述した犬歯の
萌出時期を過ぎていて,唇舌側からの触診により犬
歯歯冠の膨隆が触れず,残存する乳犬歯に動揺がみ
られない場合は,レントゲン診査を考慮すべきと言
える。(図8)
おわりに
上顎犬歯の近心転位による中側切歯歯根吸収例の
矯正治療を示すとともに,その限界についても報告
した。歯の萌出時期と萌出遅延の診断について再確
認することがこの病態の早期発見と予防につながる
と考えている。
文 献
1)豊田泰子,末石研二.東京歯科大学千葉病院矯正歯科来
院患者の埋伏歯に関する臨床統計 第68回日本矯正歯科学
会大会プログラム・抄録集 258, 2009.
2)日本小児歯科学会.日本人小児における乳歯・永久歯の
萌出時期に関する調査研究 小児歯科学雑誌 26:1−
8,1988.
3)須田永子,末石研二,辻野啓一郎,新谷誠康.永久歯萌
出時期の左右差について 第69回日本矯正歯科学会大会プ
ログラム・抄録集 265,2010.
歯の問題を伴う不正咬合の矯正治療
1.犬歯の萌出異常により中側切歯の歯根吸収を伴う不正咬合について
末 石 研 二
東京歯科大学歯科矯正学講座
表1 上顎犬歯の萌出時期と萌出の左右差を示す。
上顎犬歯萌出時期(年齢) 上顎犬歯萌出時期の左右差(月)
男児 10y10m±1y1m 3.13±3.4ヶ月
女児 10y2m±11m 3.4±3.31ヶ月
図5−2 動的治療終了時のパノラマ X 線写真を示
す。上顎左側中切歯の歯根吸収は進行を認めず,
全体として良好な配列状態を示している。
a b c d
図7 前歯部歯根の状態を示す。
a:初診時。
b:治療経過時。右側犬歯の萌出誘導と左側中側切歯の歯
根吸収を示す。
c:動的治療終了時。中切歯の歯根吸収は進行していない。
d:2年間の保定後。中切歯の歯根に変化は見られない。
図3−1 初診時の咬合状態を示す。上顎犬歯の萌出
余地はなく,下顎前歯部に叢生を認める。
図3−2 初診時のパノラマ X 線写真を示す。上顎
左右側犬歯の近心転位と,上顎右側中切歯,左側
中側切歯の歯根吸収を認めた。
図5−1 動的治療終了時の咬合状態を示す。上顎右
側犬歯が右側中切歯の部位に,左側犬歯は左側側
切歯の部位に配列されている。
図8 13歳女子。上顎右側乳犬歯の晩期残存,犬歯の
萌出遅延を認める。乳犬歯の動揺は認めず,左側
犬歯は既に萌出している。上顎右側犬歯は近心に
転位し,右側中側切歯の歯根を吸収している。
図2 下顎では第二小臼歯,第二大臼歯など比較的臼歯部
に多く,萌出不全を認めた。
図1 第 三 大 臼 歯 以 外 の 永 久 歯 の 萌 出 に 問 題 の あ っ
た,455名の調査結果。上顎では犬歯の萌出不全が最
も多く,次いで中切歯,第二小臼歯の順であった。
図6 保定2年時の笑顔と前歯の配列を示す。特に,
左側側切歯部位に犬歯を配置したことにより,
審美性には限界が生じている。
図4−1∼4 矯正治療の経過を示す。上顎右側中切
歯は抜去し,レジン歯で空隙を保持している。