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Title
可撤性補綴装置でメインテナンス時の対応を考慮した天
然歯 : インプラント治療症例
Author(s)
田坂, 彰規; 古谷, 義隆; 上田, 貴之; 矢島, 安朝; 櫻
井, 薫
Journal
歯科学報, 113(2): 145-151
URL
http://hdl.handle.net/10130/3044
Right
抄録:日本はインプラント受療者の要介護化の増加 に伴い,診療室に通院困難なインプラント受療者の メインテナンスおよびトラブル時の対応が問題とな りつつある。今回我々はメインテナンス時の対応を 考慮して,天然歯およびインプラント支台の可撤性 補綴装置を用いて治療を行った症例を経験したので 報告する。症例は62歳の女性で,下顎の残存歯は慢 性歯周炎および齲蝕によってすべて予後不良と診断 し,抜去した上で7本のインプラントを埋入した。 上部構造は,AGC コーピングを用いた可撤性補綴 装置で治療を行った。一方,上顎残存歯は齲蝕を認 めたものの保存可能と診断し,将来的な口腔内状況 の変化への対応と患者の清掃性を考慮してコーヌス テレスコープクラウンを用いた可撤性補綴装置によ る治療を行った。今後,日本では超高齢社会により インプラント受療者の要介護化が増加することが考 えられるため,メインテナンスを重視することは重 要であると考えられる。 緒 言 インプラント治療は欠損歯列の補綴治療のオプ ションとして定着し,患者の QOL の向上に寄与し ている。インプラント治療の普及により,初診時に すでにインプラント治療がなされ,口腔内に天然歯 とインプラントが混在している症例に遭遇する場面 が多くなってきた。骨結合型インプラントは,開発 当初無歯顎者に限って応用されていたが,臨床成績 の安定化に伴って,部分歯列欠損から単独歯欠損へ と適応範囲が拡大したことが背景にある1) 。このこ とによって,保存不可能な歯が生じた場合,新たな 歯の欠如部と既存のインプラントとの位置関係に よっては,その後の補綴方法の選択を複雑化する場 合がある。すなわち将来新たな欠如部が発生した場 合にインプラント追加埋入を検討していても,骨量 不足等の解剖学的制約および経済的問題や加齢に伴 う全身疾患の増加など様々な問題により埋入が困難 になるかもしれない。一方,新たな欠如部を可撤性 局部義歯で補綴する場合には,欠如部にインプラン トが隣接する場合に直接支台装置が設定できないこ とや,隣接する場合においても間接支台装置の設定 に制限が生じるなど設計に問題が生じることが考え られる。最近では天然歯−インプラント支台を混 在させた可撤性局部義歯の応用が試みられている が2,3) ,科学的根拠が不足している4) 。また,日本は 超高齢社会によるインプラント受療者の要介護化の 増加に伴い,診療室に通院困難なインプラント受療 者のメインテナンスおよびトラブル時の対応が問題 となりつつある5,6) 。本症例はメインテナンス時の対 応を考慮して,上顎の天然歯にはコーヌステレス コープクラウンおよび下顎のイン プ ラ ン ト に は AGC コーピングを用いた可撤性補綴装置を用いて 治療を行ったので報告する。なお,本臨床報告はヘ ルシンキ宣言および臨床研究に関する倫理指針に基 づいて行った。 キーワード:可撤性補綴装置,インプラント治療,メイ ンテナンス,コーヌステレスコープクラウ ン,AGC コーピング 1)東京歯科大学有床義歯補綴学講座 2)東京歯科大学口腔インプラント学講座 (2012年10月17日受付) (2012年11月12日受理) 別刷請求先:〒261‐8502 千葉市美浜区真砂1−2−2 東京歯科大学有床義歯補綴学講座 田坂彰規
臨床報告
可撤性補綴装置でメインテナンス時の対応を考慮した
天然歯−インプラント治療症例
田坂彰規
1)古谷義隆
2)上田貴之
1)矢島安朝
2)櫻井 薫
1) 145 ― 29 ―症 例 患 者:62歳,女性 初 診:2008年4月 主 訴:咀嚼困難および義歯装着時の違和感 既往歴:高血圧 家族歴:高血圧,脳梗塞,肺炎 現病歴:2006年9月に上顎可撤性局部義歯,2007年 11月に下顎可撤性局部義歯を装着したが,義歯装着 の異物感が解消しないため東京歯科大学千葉病院口 腔インプラント科を受診した。 口腔内所見:上顎は7651|16が欠如し,765| 欠如部には可撤性局部義歯,1|16欠如部には固 定性局部義歯が装着されていた。上顎残存歯はすべ て歯冠補綴されており,2次齲蝕が多数歯に認めら れた。下顎は765|2−7が欠如し,欠如部には 可撤性局部義歯が装着されていた。下顎残存歯にも 2次齲蝕が認められ,支台歯は慢性歯周炎による動 揺が認められた(図1,2,3)。 診断および治療:咀嚼困難の程度を Sato らの咀嚼 機能評価7) により,咀嚼スコアは64%,レベル4で あった。下顎残存歯は慢性歯周炎および齲蝕が進行 しており,予後不良と診断して,すべて抜歯した上 で,7本のインプラントを埋入し,AGC コーピン グを用いた術者可撤性補綴装置で治療を行うことと した。 上顎残存歯は齲蝕が認められたもののすべて保存 可能と診断し,将来的な口腔内状況の変化への対応 と患者のセルフケアを考慮してコーヌステレスコー プクラウンを用いた可撤性補綴装置による治療を行 うこととした。上顎右側臼歯部欠如部に関しては骨 量が少ないためインプラント治療に際して骨造成が 必要と思われたが,骨移植は避けたいとの患者の希 望もあり!5のみ1本インプラントを埋入し,インプ ラント支持クラウンにて回復することとした。2008 年7月に7|347部,11月に432|部にインプラ ント埋入を行い,2009年4月に!5部にインプラント 埋入を行った。なお,以下のようなインプラント体 を選択した。 図1 初診時の口腔内写真(義歯未装着時) 田坂,他:可撤性補綴装置でメンテナンスを考慮した症例 146 ― 30 ―
74|47:Ankylos A8 φ3.5×8mm (Ankylos System, DENTPLY 社製,ドイツ)
32|3:Ankylos A9.5 φ3.5×9.5mm (Ankylos System, DENTPLY 社製,ドイツ)
!5:Straumann standard RN φ4.1×10mm (Straumann Implant, Straumann 社製,スイス)
低位咬合が疑われたため顔面計測(Willis 法)を 行ったところ瞳孔口角間距離72mm,安静時の鼻下 点オトガイ底間距離70mm であった。また,咬合時 の鼻下点オトガイ底間距離は64mm であった。顔面 計測および下顎安静位を参考にし,鼻下点オトガイ 底間距離で咬合高径を4mm 挙上することした。咬 合挙上した顎位でゴシックアーチ描記検査および タッピング運動を用いて水平的顎位の診察を行った ところ,タッピングポイントがエーペックスに一致 した(図4)。2011年5月にプロビジョナルレスト 図2 初診時の口腔内写真(義歯装着時) 図3 初診時のパノラマX線写真 歯科学報 Vol.113,No.2(2013) 147 ― 31 ―
レーションを用いて咬合挙上を行い,審美性,装着 感,歯周組織および咬合の状態を確認した(図5)。 なお,咬合様式はグループファンクションを付与 し,カスタムインサイザルガイドテーブルを作製し た上で,最終補綴装置を製作した。 上顎の最終補綴装置は,!5はハイブリッドレジン 前装冠,④③21|12③④⑤6⑦はコーヌステレス コープクラウンを用いた可撤性補綴装置,下顎の最 終補綴装置は AGC コーピングを用いたハイブリッ ドレジン前装の可撤性補綴装置を作製した。平成24 年1月にすべての最終上部構造の装着が完了した (図6,7,8,9)。 結果および考察 術後に咀嚼スコアは89%でレベル5となり,咀嚼 機能は改善した。また,補綴装置装着に対する異物 感の訴えはない。3ヶ月に1回の経過観察を行って いるが,平成24年10月の最終メインテナンスにおい てはプラークコントロールおよび義歯清掃状態は良 好であり,残存歯の歯周組織およびインプラント周 囲組織には問題を生じていない。 図5 プロビジョナルレストレーション装着時 図4 咬合挙上時のゴシックアーチおよびタッピングポイント 図6 術後の口腔内写真(補綴装置装着時) 田坂,他:可撤性補綴装置でメンテナンスを考慮した症例 148 ― 32 ―
上顎残存歯に固定性補綴装置を選択した場合, ③②1|1②③,|⑤6⑦の固定性局部義歯を中心と して,いくつかの選択肢が考えられる。しかし,ど の選択肢も将来的に保存不可能な歯が生じた場合, 患者の希望する固定性局部義歯の治療が困難または 不可能となることが予測された。したがって本症例 では残存歯の状況および将来的な口腔内環境の変化 を考慮し,比較的容易に対応できるコーヌステレス コープクラウンを用いた可撤性補綴装置による治療 を選択した。この方法は可撤性であるため歯の喪失 に伴う可撤性補綴装置の修理や可撤性局部義歯への 改変などの対応が容易にできる利点があり,この装 置を使用しながらインプラント追加埋入の検討も可 能である。また,残存歯を固定性補綴装置でいくつ かのパーツで分けて補綴治療を行うよりも,コーヌ ステレスコープクラウンで連結することで残存歯の 支持能力の向上が期待できると考えられた。 イ ン プ ラ ン ト の 上 部 構 造 の 固 定 法 に は ス ク リュー,セメントによる方法が行われてきた。近 年,複数のインプラント上部構造の連結精度の向 上,メイン テ ナ ン ス 時 の 着 脱 の 容 易 性 な ど か ら AGC コーピングを口腔内でメタルフレームに合着 してピックアップ印象を行って上部構造を製作する 方法が普及しつつある8) 。本症例でも下顎は本法を 用いて7本のインプラントの連結した術者可撤式の 装置を作製した。 本症例では加齢に伴い,患者の生活環境の変化に よって口腔内環境の維持管理が難しくなる可能性が ある。天然歯およびインプラントを供に可撤性補綴 装置を応用することで将来的な口腔ケアの簡便化お 図7 術後の口腔内写真(補綴装置未装着時) 図8 可撤性補綴装置 歯科学報 Vol.113,No.2(2013) 149 ― 33 ―
よび効率性の向上が期待できると考えられる。近 年,インプラント受療者の要介護化に関しての報告 がなされているが,Isaksson R らはインプラント治 療が施されている要介護者を対象に本人が口腔ケア を行えるグループと介護者による口腔ケアを行った 場合に口腔衛生,炎症状態に有意差がなく,口腔衛 生および炎症の有無に関わらずインプラントは生存 し,機能に満足が得られているとしている9) 。また, Oleurud E らは要介護者の口腔内は天然歯よりイン プラントの方が周囲組織は健全であったと報告して いる10) 。しかし,これらの報告はインプラント治療 および介護の先進国であるスウェーデンによる報告 であるため,日本の社会制度,医療制度,インプラ ント治療および介護の現状と当てはまるかは熟慮す る必要がある。一方で Visser ら11) は要介護者のイン プラント除去およびスリープさせる必要があったイ ンプラントのトラブルに関する報告をしている。彼 らはインプラント受療者の要介護化の増加によるイ ンプラントのトラブルおよび口腔ケアの問題に適切 に対応するために,使用されているインプラントシ ステムについて情報が記載されているインプラント カードの必要性を提案している。 今後日本では超高齢社会によりインプラント受療 者の要介護化が増加することが考えられるため,メ インテナンスを重視することは重要である。本症例 は可撤性補綴装置を用いてメインテナンス時の対応 を考慮して治療ができた。 本論文の要旨は,第293回東京歯科大学学会(2012年6月2 日,千葉)において発表した。 文 献
1)Adell, R., Eriksson, B., Lekholm, U., Brånemark, PI., Jemt, T. : Long-term follow-up study of osseointegrated implants in the treatment of totally edentulous jaws. Int. J. Oral Maxillofac. Implants, 5:347∼359,1990. 2)前田芳信,倉嶋敏明,松田光正:インプラント支台の パーシャルデンチャー(前編) その臨床から浮かぶ意義と クリニカルクエスチョン,The Quintessence,31:310∼ 331,2012. 3)前田芳信,倉嶋敏明,松田光正:インプラント支台の パーシャルデンチャー(後編) そのクリニカルクエスチョ ンを考える,The Quintessence,31:560∼578,2012. 4)Shahmiri, RA., Atieh, MA. : Mandibular Kennedy Class
Ⅰ implant-tooth-borne removable partial denture : a sys-tematic review. J Oral Rehabil, 37:225∼234,2010. 5)萩原芳幸,菊谷 武:いざ,「評」して「論」ずる 超高 齢社会におけるインプラント治療の行方(第Ⅰ部)インプ ラント受療者の高齢化に伴い何が起きるか,日本歯科評 論,72:25∼45,2012. 6)萩原芳幸,菊谷 武:いざ,「評」して「論」ずる 超高 齢社会におけるインプラント治療の行方(第Ⅱ部)インプ ラント受療者の要介護化を想定した対応とは,日本歯科評 論,72:73∼87,2012.
7)Sato, Y., Minagi, S., Akagawa, Y., Nagasawa, T.: An evaluation of chewing function of complete denture wearers. J Prosthet Dent, 62:50∼53,1989.
8)武田孝之,林 揚春,伊藤裕也,桜井保幸:インプラン ト上部構造の選択と設計−理想的なインプラント上部構造 を目指して− 第1回上下顎の対向関係によるインプラン ト上部構造の選択基準,補綴臨床,44:590∼602,2011. 9)Isaksson, R., Becktor, JP., Brown, A., Laurizohn, C., Isaksson S. ; Oral health and oral implant status in eden-tulous patients with implant-supported dental prostheses who are receiving long-term nursing care. Gerodontol-ogy, 26:245∼249,2009.
10)Olerud, E., Hagman-Gustafsson, ML., Gabre, P.: Oral status, oral hygiene, and patient satisfaction in the eld-erly with dental implants dependent on substantial needs 図9 術後のパノラマX線写真
田坂,他:可撤性補綴装置でメンテナンスを考慮した症例 150
of care for daily living. Spec Care Dentist, 32:49∼54, 2012.
11)Visser, A., de Baat, C., Hoeksema, AR., Vissink, A. :
Oral implants in dependent elderly persons : blessing or burden?. Gerodontology, 28:76∼80,2011.
Taking Maintenance Into Consideration in Removable Prostheses on Natural Teeth and Implants in Elderly Patients
Akinori TASAKA1),Yoshitaka FURUYA2),Takayuki UEDA1)
Yasutomo YAJIMA2),Kaoru SAKURAI1)
1)Department of Removable Prosthodontics and Gerodontology, Tokyo Dental College 2)Department of Oral and Maxillofacial Implantology, Tokyo Dental College
Key words : removable prostheses, implant treatment, maintenance, Conus telescope crowns, AGC coping
The patient was a 62-year-old woman in whom 7 implants were placed after extracting all remaining mandibular teeth diagnosed with a poor prognosis due to chronic periodontitis and dental caries. The mandibular superstructure was a removable prosthesis with AGC copings. All remaining maxillary teeth were diagnosed as preservable,even though some caries was present. Considering future changes in the patient s intraoral environment and oral hygienic ability,the maxillary teeth were treated using a re-movable prosthesis with Conus telescope crowns. Since the number of implant-receiving patients requir-ing primary nursrequir-ing care is increasrequir-ing in Japan due to the rapidly agrequir-ing demographic,maintenance is con-sidered to be important. Therefore,in this case,treatment using removable prostheses with an im-plant and natural tooth abutments was performed in view of this.
(The Shikwa Gakuho,113:145∼151,2013)
歯科学報 Vol.113,No.2(2013) 151