Coastal Bioenvironment Vol.9 (2007) 65~70
塩添加水耕栽培における
塩生植物シチメンソウの成長と
Na
ゃ吸収
上 村 静 香 川 ・ 田 中 明 日 ・ 谷 本 静 史 *
1 *1佐賀県佐賀市本校IllT1
佐賀大学農学部植物工学研究室 佐賀県}吉津市松i釧ITl52-1 佐賀大学海浜台地生物環境研究センターGrowth and Na* uptake in the Halophyte Suaeda japonIca
under Salt同containingHydroponic Cultivation
Shizuka UEMURA'I, Akira TANAKA
・
2and Shizufumi TANIMOTO'I. ,Plantech Res巴archLaboratory, Faculty of Agriculture, Saga University,1 Honjo, Saga, 840-8502, Japan 2 Coastal Bioenvironment Cent巴r,Saga University, 152-1 Shonarトcho,Karatsu, 847同0021,Japan 要 約 百本の有明海沿岸のニ干潟に自生するシチメンソワ (Suaedajaponjca Makino)はアカザ科に崩ずるijfi't 生植物である この植物は制的内に取り込んだ嬬 (Na*)を液胞に隔離するとともに,適合溶質であるグ リシンベタインを合成することによって液胞内外の浸透圧バランスを維持し それによって高い耐端性 を獲得している このシチメンソウを干拓地調整;也等の除現に用いることをi設終iヨ的として,現 (NaCI) 存在下で水耕栽培を行い,塩による成長への影響と Na* 吸収について検討した.シチメンソウは 0.6~ 1.8% NaCl存在下で、も旺盛に成長しラさらにその成長(植物体重)は誠べた塩濃度の範闘ではヲ水初液 中のNaCli創立をi問加させるにつれ高くなった 植物体(茎葉)の Naマ含iflも添加した塩濃度に対応し て地方[jし,水耕液中の濃度よりも高くなった.この結果は シチメンソウが千拓地の調整池等で、の除編 に有効で、あることを示している. Summary
Suaeda japonjca Makino, a member of the family Chenopodiaceae, is a halophyte that grows at the shores of the Ariake Sea in Japan. In this plant, to maintain high salt tolerance nature,
incorporated Na* are transported, accumulated to vacuole and compatible solute, glycinebe -taine, are synthesized for osmotic balance against vacuole. For salt-removing from desalted reservoir in sea coast reclaimed land, we have examined the growth and Na* uptake in S. japonjca under salt-containing hydroponic cultivation. Plants of S.japonjca were fully grown in the presence of 0.6 to 1.8% NaCl, and the weights were increased by increasing NaCl con -centrations. Contents of Na+ were also increased by increasing NaCl concentrations, and higher than contents of hydroponic solutions. Thus, we concluded that the S.japonIca was useful plant for salt同removingfrom desalted reservoir.
66 上 村 静 香 .111"1' I狗 ・ 谷 本 静 史 緒言 新たに農地を確保するために, 1"埋め立てJや 「干拓Jが行われてきた. 1"埋め立てJとは字義ど おり,遠浅の沿岸域に土壌を人為的に堆積させて 陸地化することであり 「干拓J とは干潟等を潮 受け堤防で締切り,内部の海水を排水することに よって陸地化することである.農地を確保するた めには,従来主に「干拓Jが行われている. 1"干 拓Jの場合,市j受け堤防の内部には調整池が設定 される.この調整池から海水を排水,あるいは河 Jl
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からの淡水によって海水中の塩分を希釈するこ とになる.しかし,鵡整池の塩分を完全に除去す るにはかなりの時閣を必要とする.この塩分除去 が不十分で、あると,子拓地に塩分が浸透し,作物 栽培上問題となる.干拓地調整池からすみやかに 除塩するために塩生植物が利用できるのではない かと考えた.槌物による聴覚修復は, Phytoremediation と呼ばれ,すでにいくつかの報告がある(相l崎・ 中里, 1995, Billore et a1., 1999,小森ら, 2001) シチメンソウは日本では有明海沿岸の干潟に自 生するアカザ科のt
誕生植物である.シチメンソウ は,高塩(NaCl)濃度下で、も発芽できる.それは液 胞膜に存在する Na+/日+exchanger (NHX)によ って Na+を波胞に隔離し,適合溶質であるグリ シンベタインを合成することによって液胞内外の 浸 透 圧 バ ラ ン ス を 維 持 す る と い う 機 構 で あ る (Yokoishi and Tanimoto, 1994).グリシンベタ イン合成の鍵酵素である betaine叩aldehyde dehydrogenase活性も塩濃度を増加させると上 昇し,さらにその活性は葉緑体に局在することも 明らかにしてきた (Tanimotoet a1., 1997).こ のシチメンソウの耐塩性維持遺伝子群について は,すでに報告した (Yamadaet a1., 2003 )以 外にもいくつかの遺伝子を単離し,発現解析を行 っている.さらに,シチメンソウの種子は満潮時 に河川を逝って運ばれ,中流域で生育するがうそ れらの場所での成長と塩分合量についても調べて きた(野口ら, 2004). 本研究ではうシチメンソウによる干拓地調整池 の除塩を最終目的として,塩 (NaCl)を添加した 水耕栽培におけるシチメンソウの成長と塩 (Na+) 吸収について検討を加えたので報告する. 材料と方法 シチメンソウ (SuaedajaponIca Makino)の 種子は,東与賀海岸(佐賀県佐賀郡東与賀町大授 協)の干潟で2004年12月に採醸し,4
0 Cで保存 していたものを使用した. 水耕液には圏試処方の1/2倍液を用いた.pHは6
に調整した. まず,プラスチック製の育商ポット(直佳6 cm,深さ5cm)に薄くパーミキュライトを入れ, その表面にシチメンソウの種子を数粒播種した. プラスチック容器 (35cmX25cmX8cm) に2 しの水耕液を満たし,そこにシチメンソウを播種 した育苗ポットを12個浸した.培養条件は16時 間 明 期/ 8
時 間 i時 期 の 長 日 条 件 , 照 度60μ mole. m-2・sec-',瓶度25:
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本以外の 植物体は│埠守I
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、た. と記の育萄ポットをう 0,0.6, 1.2,あるいは 1.8%の NaClを添加した水耕液を瀧たしたカッ プに移し,3
ヶ月間栽培した. 3ヶ月後,植物体長を測定し,地上部(茎葉) を採取して,新鮮重を測りうさらに800C
で15時 間処理して乾燥震を測定した.その試料を乳鉢で 摩砕し,乾燥重O.lgに対してlmlの蒸留水を加え ホモジナイザーで粉砕した.それを1000 Cで5分 間処理して蛋白質変成を行い, 10,000gで10分 間遠心して上清を回収した.沈澱に再度蒸留水を 加えて撹持後,上記と同様に遠心し,得られた上 清を先の上清と合わせた. 水耕液lmlを1000 Cで5分間処理して蛋白質変 成を行い, 10,000gで10分間遠心して上清を回 収した. 植物体及び水耕液試料はう 4,000倍に希釈しう ミリポアフィルター(0.2μm)を通したものを 分 析 試 料 と し て , イ オ ン ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー (Dionex Dx-120)にかけた. 実験は3回繰り返し,平均{直及び標準誤差を求 めた. 結巣と考察 [成長に及ぼすNaCI
の影響] 植物体長に関しては, NaClの添加によって増 加する傾向がみられた.最もよく伸長したのは取添加l水耕栽Jきにおける潟生植物シチメンソウの成長とNa"1吸収 67 1.2% NaCl添加の場合でありう平均で21.8cm となった. 1.8% NaCl 添加の場合は,平均 18cmで、あり,若干伸長は抑制された(図 1) . しかしう1.8%NaCl添加毘では茎が太くさらに よく分校しており,外見上はもっとも生育がよか った(図2).野生のシチメンソウは, 6~7 月 に一次葉が展開し,その後落葉するが,水耕栽培 での植物体の葉は一次葉であり,落葉はしなかっ た.また, NaCl無添加区では,長期間の栽培で 葉が萎縮しはじめる傾向があり,シチメンソウは 塩ストレス下の環境に適応しており,成長には塩 の存在が必要なのではないか?と思われた. 新鮮重は 1.8%NaCl 添加区で最も大きく,無 添加の場合の約4倍に達した(図3A).乾燥重 についても同掠の傾向が認められ, 1.8% NaCl 添加区ではう無添加の場合の約6倍となった(図
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[植物体中及び水耕液中の Na+濃度] 茎葉部の Na+合軍は,添加した NaCl濃度の 上昇に伴って増加し, 1.8% NaCl添加区の場合 は無添加の約4倍となった(図4).さらに水耕 液中の Na+濃度の 2倍含まれていた(図 4). シチメンソウが吸収した Na+ を液胞に隔離・ 蓄積するために,水耕液中よりもより高い濃度に なったものであると考えられる. 以上の結果から,シチメンソウは水中の Na+ を吸収・蓄積することが証明された.従って, 拒地調整池等の除塩にシチメンソウが有効である と結論づけることができる.今後は,実際の調整 池と│可程度の低濃度塩存在下での Na+吸収や, Na+を吸収させた後のシチメンソウの処理につい て検討を加える予定である.1
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図3 各種濃度のNaCI添加水耕栽埼におけるシチメンソウの成長 (3ヶ月栽培) A:新鮮墜, B:乾燥蚤 引用文献 1 .柏崎守弘・中里広幸(1995):植物水耕栽培系 における根圏生物の変化と栄養塙の除去.水 環境学会誌, 18,624-627.2. B
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専志・川村満紀 (2001)・ヨシ水路による河北潟の浄化.環境 化学, 11,447-454. 4.野 口 智 子 ・ 堤 功 一 - 田 中 明 ・ 谷 本 静 史 (2004): 異なる生育地におけるシチメンソウ の生育環境.C
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