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より多くの人と社会価値創造に取り組む -会長就任にあたって-

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580 情報処理 Vol.60 No.7 July 2019 巻頭言 より多くの人と社会価値創造に取り組む─会長就任にあたって─ 巻頭言

より多くの人と

社会価値創造に取り組む

─会長就任にあたって─

 元号も令和となり,本会が来年還暦を迎えるとい う節目で第30代の会長を務めることになり身の引 き締まる思いです.世の中はディジタル変革の真っ 只中にあり,大きな変化があらゆるところで起きて います.データや AI が変革の源泉であり,情報処 理の貢献がより大きくなっています.これまで歴代 の会長や会員の皆さんが築き上げてきた本会がさら に広く社会に貢献する学会となり発展することを目 指します.

社会課題解決と価値創造に貢献する

 

 国連の SDGs(Sustainable Development Goals) や政府・経団連が推進している Society 5.0に代表 されるように,経済成長とともに社会課題の解決を 行いながら人間中心の社会を創るという動きが活発 になっています.SDGs が誰も取り残さないと謳っ ているように,グローバルな人口増の中で,1つの 地球を分かち合いながら皆が豊かに暮らす社会を創 ることが目指されています.人口が減少する中で人 100年時代を迎える日本では,世界とは異なる課 題に取り組むことも必要になっています.  ディジタル化により,社会課題解決や価値創造に 新たな形で対応することが可能になりました.ディ ジタルトランスフォーメーションとも呼ばれますが, その源泉となっているのがデータや AI です.この 大きな流れの中で,私たちはどのような貢献ができ るのかを徹底的に考え,具体的なアクションにつな げることが重要になっています.

ディジタル化がもたらす新しいパラダ

イムを学会の価値向上につなげる

 ディジタル化の進展の背景には,大きなパラダイ ムの変化があります.これまでは物理法則や数式に よって解を求める演繹的なアプローチが主流でした. これに対し,データを起点とするデータサイエンス, AI は,帰納的なアプローチになります.データセッ トから答えを導くというアプローチなので,使う データセットによって出てくる答えも変わります. 100%正しいという解はないということになります ので,新しいタイプのエンジニアリングが必要にな ります.会誌「情報処理」20191月号の特集“機 械学習工学”でこのことがしっかりと議論されてい ます.機械学習を工学として確立すること,それを 担う人材の育成をしっかり行うことが大切です.そ のために本会が果たすべき役割は非常に大きいと考 えます.

江村克己

情報処理学会会長/日本電気(株)

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581 巻頭言 より多くの人と社会価値創造に取り組む─会長就任にあたって─ 情報処理 Vol.60 No.7 July 2019

 自然災害の予兆検知やシステムの故障予測など十 分なデータが得られない場合には,演繹的なアプ ローチと帰納的なアプローチを組み合わせていくこ とも必要になります.ここに新しい融合学問領域が 出現します.このような新領域で本会は先導的な役 割を果たすべきです.異なる分野の学会やグローバ ルな学会との連携を視野に入れ検討します.  データによる価値創出においては,データの多寡 が性能に影響を与えます.この議論をするとよく GAFA(Google,Apple,Facebook, Amazon)や 中国によるデータ囲い込みの問題が話題になりま す.地政学上,産業的に対応が難しい場合も出てき ていますが,アカデミックで中立な学会ならできる グローバル対応もあります.これまでにも本会は,

ACM(Association for Computing Machinery)や CCF(China Computer Federation)などグローバ

ルにプレゼンスのある学会との連携を進めています. 複雑な国際情勢の中では,このようなアカデミック な連携を強化することの意味は非常に大きいと考え ます.

人を活かすという観点から学会の

今後を考える

 最近,将棋の藤井聡太さん,囲碁の仲邑菫さん, 卓球の張本智和さん,フィギュアスケートの紀平梨 花さんなど若くして才能を開花している人たちが数 多く出てきています.情報処理の世界でもゲームや ハッカーの領域で若くして天賦の才を発揮している 人たちがたくさんいます.会誌「情報処理」を読ん でいる小学生のジュニア会員もいます.天賦の能力 を磨くのに早すぎるということはありません.西尾 前会長はジュニア会員を中心に会員増に尽力されま した.この活動を継続 ・ 拡大し,将来を担う世代に 魅力あるサービスを提供することが学会のサスティ ナビリティを高めることそのものです.  AI 人材の不足が叫ばれていますが,ディープラー ニングのオープンソース化が進み,情報処理の基礎 的知識を有している人なら誰もが AI を使える環境 になってきています.AI は敷居が高いものという 印象を払拭し,AI 活用人材の底上げに貢献するこ とも学会の役割です.本会ではソフトウエアジャパ ン,各種セミナを通しての IT 人材の育成や IT エ ンジニア向けの認定技術者制度を推進しています. この範囲をさらに広げていくことを検討します.  データの活用による価値創出において,情報処理 技術に携わる人はドメイン知識を持つ他の領域の人 たちと連携して活動することが不可欠です.このと き我々のカウンターパートの人は,情報処理の基礎 を理解していることが望まれます.データ活用にあ たっては社会科学的な視点も重要になります.他分 野の方々との出会いの場を,学会として提供してい くことで学会の価値を上げていきたいと思います.  データを活用する価値創造では,市民を加えた産 官学民連携が必要と言われています.データを使う ことへの過度な心配は価値創造の阻害要因になりか ねません.一般市民の AI やデータ利用への理解を 高め,リテラシーを上げることが重要です.本会に は情報処理について公平で最も見識が高いメンバが 集まっています.本会が社会や市民へのアウトリー チ活動を行い,データ活用のメリットを丁寧に説明 することが重要になっています.人生100年時代 を迎え,リカレント教育の必要性も高まっています. 私たちが接点を持つべきは老若男女を問わず,あり とあらゆる世代の人たちです.皆が集う場として, より多くの人に本会に興味を持っていただくことが 本会の成長と新たな展開につながると考えています.

新しい時代に向け学会の基盤を

強化する

 本会が新しいことにチャレンジし,より良いサー ビスを提供していくためにも,学会の運営基盤をさ らに強固にしていくことが不可欠です.その基本は

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582 情報処理 Vol.60 No.7 July 2019 巻頭言 より多くの人と社会価値創造に取り組む─会長就任にあたって─ 巻頭言 会員の増加を図り,財政基盤を確固たるものにする ことです.本会の魅力を上げていくことが必要で, 科学技術面での高いポテンシャルを維持するととも に,人材の育成や社会課題にも積極的に対応してい くことが必要になります.カバーする話題のスペク トルを広げること,グローバル化を促進すること, 会員のダイバーシティを高めることをあわせて考え ることが必要です.  科学技術面でのポテンシャルの高さは学会が最も 大切にしてきた生命線です.情報処理に関する論文 の発表先として本会が選ばれ,最先端の情報が常に 本会にあるようにすることが重要です.大会や研究 会の魅力をさらに上げるとともに,英文論文誌の質 を向上し,グローバルな認知度を上げていきます.  人材育成に関しては,初等中等教育を含めた情報 教育,技術者の認定プログラムを提供しています. 時代の流れに合わせてその内容を見直し拡大するこ と,リカレント教育を意識したプログラムをつくる ことを検討します.これらをより多くの機関や企業 に活用いただくことで,結果として情報処理学会に 目を向け,加入いただける個人が増えると考えてい ます.  データ活用や AI 利用が進む中で,社会受容性や 倫理的な問題が顕在化することも想定されます.こ のような場合に,技術的な見識が高い学会として提 言や意見表明をタイムリーに行います.最近の会誌 「情報処理」の特集は非常に多岐に渡り,しかも時 宜を得た内容になっています.一般の方々の生活や 仕事に関連するものも多くなっています.市民との 接点を増やし,こういった情報を広く発信すること で,情報処理技術がより広汎に世の中に浸透し,そ れが社会価値創造への貢献につながると期待してい ます.  ディジタルトランスフォーメーションの進展とと もに世の中が大きく変化しています.変化を先取り する形で新たな取り組みを進めれば,本会の提供す る価値がより大きくなり,会員としての仲間も増え ると確信しています.学会のさらなる発展に向け会 員の皆様と一緒にチャレンジしていきたいと思いま すので,ご支援,ご協力よろしくお願いいたします. (2019 年 4 月 26 日) ■江村克己(正会員) [email protected]  1980 年東京大学工学部電子工学科卒業,1982 年同修士修了.同 年 NEC 入社,光通信システムの研究開発に従事.同社,知的資産統 括本部長,中央研究所長,取締役執行役員常務兼 CTO を経て,現在 NEC フェロー.総務省情報通信審議委員,経団連未来産業・技術委 員会企画部会長,産業競争力懇談会実行委員,JST AIP ネットワーク ラボ長,京都大学経営管理大学院特命教授,電子情報通信学会フェ ロー,工学博士(東大).

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