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大学発ICTベンチャー:[エッセイ]10.手書き文字認識の可能性にかけた挑戦

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Academic year: 2021

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(1)特集. Special Feature. [大学発 ICT ベンチャー] エッセイ.  手書き文字認識の可能性に. 基 応 専 般. かけた挑戦 堀口昌伸  アイラボ(株). 540.  東京農工大学中川研究室の研究成果を基に申請し. ならない課題が数多く存在する.. た国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「独.  特にメジャーなキャリアやメーカでの採用は,大. 創的シーズ展開事業・大学発ベンチャー創出推進」. 学発ベンチャーであるが故に厳しい要求をされたの. というプロジェクトに採択され,2008 年から 2011 年. ではないかと感じることもあった.品質についてシ. 3 月までの間,性能や信頼性を高めた後,大学発ベ. ビアなのはもちろんのこと,その条件を短い期限で. ンチャーとして起業した.このプロジェクト自体は,. クリアしなければならない.我々に与えられた期限. ベンチャー創出推進と名乗ってはいるものの,必ず. はたった 3 カ月.ともすれば半年や 1 年はすぐに過. しも起業を義務としておらず,自分自身も手書き文. ぎてしまうのだが,メンバの努力によって間に合わ. 字認識技術が大きな市場になるという確信がなく,. せることができた.過酷なスケジュールにもかかわ. 過去の経験から手書き入力可能なデバイス(タブ. らず,考えられないスピードで仕上げることができ. レット)により市場が大きく左右されることへの不. たのは,世の中に自分たちの商品が出るのだという. 安が頭の中にあったので,起業について積極的では. 喜びを全員が共有していたからだと思う.. なかったというのが本音だ..  そして,この最初の苦労は後になって幸いをもた.  にもかかわらず,意を決して会社を設立した.こ. らすことになる.新規顧客から必ず聞かれる「実績. う書くと,すごく安易と思われるかもしれない.だ. は?」という問いに自信をもって答えることができ. が,このプロジェクトにかかわってきたメンバの熱. たからだ.. 意や技術に対する自信に満ちた雰囲気が自分自身を.  いかにも順風満帆に聞こえるかもしれないがそう. 奮い立たせた. (もしかしたら軌道に乗せられるの. ではない.そもそも,手書きに対して残念ながら,. では)と思えるものを見出せたのだと思う.. 負のイメージがある.手書きとはコンピュータが苦.  まだ,この時点ではタブレットは高価で市場に受. 手な人が使うもの.キー入力が苦手な人が使う入力. け入れられていなかったが,iPad 等の出現が市場. 方法等々…….事実,手書き文字認識技術の歴史を. を大きく変えるかもしれないという期待もあった.. たどれば,キー入力の代替手段として開発されたこ.  事実,2011 年 12 月,会社設立約半年前の iPad. とを考えれば当然かもしれない.今でも手書き文字. の発売開始はまさに救世主になった.2012 年には,. 認識技術は,ほかの入力方式(キー入力・音声認識). これらへの手書き文字入力の認識技術としてアイラ. から大きく水をあけられた第 3 の入力方法だ.. ボ(株)の認識エンジンが早速採用されることにな.  iPhone や Android 端末へのバンドルを含めた採. り,またこの発売後に iPhone や Android 端末のス. 用をしてもらえたとはいえ,このビジネスだけで,. マートフォン市場が賑やかになり,バンドルを含め. 会社を安定維持するほどの売り上げは期待できず新. 採用されることになった.. しい市場開拓が急務であることは確かだった.しか.  研究開発から商品化に至るまでには超えなければ. し,自分たちでジタバタしてもタブレットの普及を. 情報処理 Vol.59 No.6 June 2018 特集 大学発 ICT ベンチャー.

(2) 待つしかない.ようやく,iPad の市場が確立され,. るかもしれない.. その後,徐々にそのほかの Android 端末も含めた.  それだけに,国の助成金の成果を利用した大学発. 比較的安価な業務用に適したタブレットが多く出て. ベンチャーとして継続しなければという気持ちは強. きたために,教育業界でこれらを利用した教育アプ. かったと思う.iPad に代表されるタブレットが市. リが開発されるようなった.. 場で価値を持ったことで,手書き文字認識の活躍の 場が広がった.成果が市場に出ることによって,世. 自動採点システムの開発で表舞台に. 間の荒波にもまれ久しぶりに良い刺激をもらうこと.  タブレットを利用した教育アプリの自習システム.  まとめると以下のようになるのではないか.. もできた.. (一般的にはドリル)に使われるようになったのだが,. ①不安はあったが会社を設立してしまった.. それは教育学習がそもそも「書いて」学ぶので,手. ②背景には,iPad の発売に対する期待感があった.. 書き入力が前提で多くのアプリが開発されることに. ③即採用が短期間での品質対応を可能にした.. なった.特に,数式に関しては今のところ手書き認. ④新規顧客に必ず聞かれる実績も始めにできた.. 識しかない.市場からの要望により,教育向け認識. ⑤タブレットの使用が自然になり新しい市場ができ た(教育業界).. エンジンも多岐にわたる開発を行うチャンスに巡り. ⑥あわせてさまざまな認識エンジンを開発・商品化. 合えた.主なものは,国語向け読み書き,算数・数. をすることができた.. 学用の数式認識,教育用の英語認識,書写学習シス テム(漢字のきれいさ・とめ・はね・はらい判定)等々.. ⑦その延長線上に,自習システムとは違う自動採点 システムの開発にも着手することができた.. これからまだまだ市場は拡大されると思われる.  2020 年センター試験改革であるマークシート方.  ここからが正念場だと思う.次のターゲットは AI. 式から記述式への変更により,記述式の自動採点. ディープラーニングで話題になっている,手書き. のニーズが出てきた.2015 年から 2017 年にかけて,. OCR の開発を行っている.紙の解答の採点のため. 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発. 必要だからだ.もちろん,一般市場も大きいと思う.. 機構 (NEDO) の助成金採択で「タブレット上で筆. ここは市場も大きいためコンペチターも多く強敵だ.. 記された解答の自動採点システム・サービスの開発」.  市場に真摯に向き合えば,また新しいチャンスは. というテーマで 2 年間研究開発を終了し将来に備え. 来るものと信じ,挑戦していきたい.. ている.これまでの経験で,要望が来る前から準備. (2018 年 3 月 19 日受付). しておくべきと考えるようになっていた.. 起業から現在までのまとめ ■堀口昌伸 [email protected].  手書きに対するイメージが良くないこともあり厳 しい船出であったと思う.  また,予想に反して大学発ベンチャーに対して, 反応が冷ややかに感じた.それは,成功事例が少な いため「大学発ベンチャー苦戦」といった記事もよ く話題になっていたので,不安を感じていた人もい. 1969 年東京電機大学機械工学科卒業.1969 年武藤工業(株)入 社.ペンベース部部長 モバイルシステム部部長を歴任.液晶タブ レット・小型携帯端末クロスパッド・日本 IBM とのジョイント商 品 Decrio を商品化.2000 年武藤工業(株)を退社.2000 年日本サ イバーサイン(株)入社営業部長.サイン認証の立ち上げに従事. 2005 年日本サイバーサイン(株)を退社.2005 年(株)アイシン クス設立.代表取締役就任.主に電子カルテ向け液晶タブレットの 販売.2011 年アイラボ(株)設立.代表取締役就任.. 10. 手書き文字認識の可能性にかけた挑戦 情報処理 Vol.59 No.6 June 2018. 541.

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