496 人 工 知 能 30 巻 4 号(2015 年 7 月)
1.は じ め に
学習支援の研究分野の一つに,学習者の理解状態に合 致した学習支援を行う知的言語学習支援があり,そこで は自然言語処理技術が利用される場合が多い [Gamper 02].自然言語処理機能を一から実現することは困難であ るが,自然言語処理分野の研究成果の一部として,さま ざまなツールが公開されており(例えば,http://www. jaist.ac.jp/project/NLP_Portal/),知的言語学 習支援システム実現の敷居は低くなったと考えられる. 本稿では,これまで行ってきた自然言語処理技術を利 用した英作文支援研究の一部について紹介する.具体的 には,一文を対象とした英作文支援である質問応答機能, および,複数文を対象とした英作文支援であるパラグラ フライティング支援について述べる.2.英問英答による英作文支援
英語学習の学習形式一つに,英語文章の内容に関する 英問英答がある.この学習形式は従来の英語学習支援シ ステムでも採用されているが,それらのほとんどはあら かじめ用意された問題と正答例が用いられるため,学習 者の理解状態に合致した学習支援が難しいという問題が ある.そこで,中学レベルの英語文章の表層的な内容に ついて学習者の理解状態に合致した英問英答を行う質問 応答機能を実現した [國近 05]. 本機能は,下位機能として,自然言語理解機能,質問 文自動生成機能,適応的出題制御機能,正誤判定機能お よび指導機能を有する.処理の流れは以下のとおりであ る.まず,教材作成者が用意した英語文章から,自然言 語理解機能を用いて構文・意味情報などのテキスト文情 報を抽出する.次に,質問文自動生成機能により,質問 文および正誤判定のための情報を生成するとともに,生 成した質問の複雑さを算出する.その後,適応的出題制 御機能により,質問の複雑さや学習者の理解状態を考慮 して学習者に適切な質問文を選択・出題する.学習者の 解答文は自然言語理解機能により解析され,構文・意味 情報が抽出される.このとき,解答文に構文的誤りが含 まれていた場合は,その後の支援で利用する情報も抽出 する.その後,教材作成者が用意した英語文章および意 味情報の比較により意味的正誤判定を行う.もし学習者 が誤った入力をした場合は,指導機能を利用して,ヒン トや簡単化した問題の提示を行う. 本研究で利用している主な自然言語処理技術は,中 学レベルの英文を対象とした構文解析,意味解析およ び文生成である.構文解析および意味解析については, LangLAB [徳永 88] をベースとし,構文解析,意味解析 および誤り同定ができるように文法規則および辞書項目 を作成し実現した.文生成については,構文・意味情報 を参照し,教材作成者が用意した英文を変形することで 質問文を生成する機能を実現した.3.パラグラフライティング支援
論理的でわかりやすい英語パラグラフを書くために は,文法的に正しい英文を書くだけではなく,英語の論 理展開法に合致した構成とする必要がある.そのような パラグラフを書くための方法の一つとして,パラグラフ ライティングがある.本研究では,英語の論理展開法に 関する知識が不十分な学習者を対象としたパラグラフラ イティング支援システムの実現を目指している. パラグラフライティングでは,Pre-writing*1, Drafting,Reviewing and Revisingおよび Rewriting の四つのス テップを経て一つのパラグラフを作成する.これらのス テップを支援するためには,適切な種類および数のアイ ディアを収集・整理するための支援機能,英語の論理展 開法に合致したアウトラインを作成するための支援機 能,適切な単語・言い回し・論理展開で英文を記述する
自然言語処理技術を利用した英作文支援研究
Studies on Supporting English Composition Using Natural Language
Processing Technologies
國近 秀信
九州工業大学大学院情報工学研究院Hidenobu Kunichika Faculty of Computer Science and Systems Engineering, Kyushu Institute of Technology. [email protected]
Keywords:
intelligent computer assisted language learning systems, natural language processing, English learning. 「学習科学と学習工学のフロンティア─私の“学習”研究─(後編)」*1 パラグラフで記述する内容の小片であるアイディアを収集し, アウトラインを作成する過程を指す.
497 自然言語処理技術を利用した英作文支援研究 ための支援機能などが必要となる. このような支援機能を実現するためには,計算機によ り解釈可能な英語パラグラフの構造に関する知識が必要 となる.そこで,パラグラフライティングの資料を調査 し,パラグラフの種類ごとに論理展開法を整理してパラ グラフ展開スキーマを定義した [Kunichika 09].例と して比較・対照パラグラフのパラグラフ展開スキーマを 図 1 に示す.スキーマとして保持する情報は,典型的 な構造を表す Structure,その構成要素の説明文である Explanation,パラグラフを書く際の注意点やコツを表 す Tip,頻出語を表す Words and Phrases,および構造 に関する制約を表す Dependence である. パラグラフ展開スキーマを利用し,これまでにアイ ディア整理支援機能 [國近 10],アウトライン提案機能 [Kunichika 09],パラグラフ検索システム [宮崎 13] な どを実現した.アイディア整理支援機能は,学習者が収 集したアイディアを診断し,英語の論理展開法に合致し ない場合は修正支援を行う.アウトライン提案機能は, 学習者が収集・整理したアイディアから複数のアウトラ インを自動生成・提案することで,パラグラフの構成に ついてさまざまな視点からの比較・検討を促す.パラグ ラフ検索システムは,WWW 上より収集した英文パラグ ラフ中の文の役割を同定することでパラグラフの構造を 分析し,学習者の目的に合致したパラグラフを検索・提 示する.現時点では,パラグラフ検索システムの文の役 割同定の際に,構文解析器 Charniak Parser[Charniak 00]を利用している.
4.お わ り に
本稿では,自然言語処理技術を利用した英作文支援研 究の一部について述べた.一文を対象とした英作文支援 は数多く行われているが,複数文を対象とした英作文支 援の一つである論理展開に関する支援はほとんど行われ ていない.本研究のパラグラフ展開スキーマを活用する ことにより,文章全体の論理展開に関する学習支援とい う新領域の開拓・発展に貢献できると考える.◇ 参 考 文 献 ◇
[Charniak 00] Charniak, E.: A Maximum-entropy-inspired parser, Proc. NAACL, pp.132-139(2000)
[Gamper 02] Gamper, J. and Knapp, J.: A review of intelligent call systems, Computer Assisted Language Learning, Vol. 15, No. 4, pp. 329-342(2002)
[國近 05] 國近秀信,本田 実,平嶋 宗,竹内 章:英語物語に関 する質問応答のための意味比較による正誤判定,信学論,Vol. J88-D-I, No. 1, pp. 25-35(2005)
[Kunichika 09] Kunichika, H., Miyazaki, C. and Takeuchi, A.: An intelligent partner for organizing a paragraph, Proc. AIED 2009, pp. 549-556(2009) [國近 10] 國近秀信,齊藤史明,竹内 章:英語パラグラフ・ライティ ングのためのアイデア整理支援システムの評価,人工知能学会 研究会資料,Vol.SLG-ALST-B002, pp. 27-32(2010) [宮崎 13] 宮崎康一郎,國近秀信,竹内 章:英語パラグラフにお ける文の役割同定法の検討,2012 年度 JSiSE 学生研究発表会 (2013) [徳永 88] 徳永健伸,岩山 真,上脇 正,田中穂積:自然言語解析 システム LangLAB,情処学論,Vol. 29,No. 7,pp. 703-711(1988) 2015年 6 月 9 日 受理