「2018 年度人工知能学会全国大会(第 32 回)」 1.開催概要 2018年度の全国大会(鹿児島大会)は,2018 年 6 月 5日(火)∼ 8 日(金)に,鹿児島市の城山ホテル鹿児 島(図 1)において開催された.大都市開催であった昨 年度の名古屋大会から参加者数が減少するのではないか と思われたが,ふたを開けてみれば,招待講演を除く発 表数は 753 件(昨年度は 725 件),参加者数は 2 611 名(昨 年度は 2 561 名)となり,どちらも過去最高となった. 参加者の内訳を見ると,大学や国立の研究機関からの 参加が 50%,企業からの参加が 45.7%である.昨年度は, それぞれ 54.5%,42.7%だったので,企業参加者の割合 が若干増えている.後日行ったアンケートによれば,企 業参加者の中でも開発に関わっている方の参加が増加し ており,AI の社会実装が進んでいる様子が見て取れる. 第三次 AI ブームの中,スポンサー・協賛社数も過去最 多となり,開催の様子はメディアにも取り上げられた. 西田豊明先生による基調講演,甘利俊一先生,井上智洋 先生による招待講演はどれも超満員で,その他のセッ ションも立ち見が出るものも多く見られた.全体として, 鹿児島大会は大盛況だったといえる.これもひとえに, ご参加いただいた皆様,ご支援いただいた皆様のおかげ であり,この場を借りて御礼申し上げたい. 2.新たな取組み 鹿児島大会では,プログラムを充実させるべく,主に 以下の 3 点について取り組んだ. 1)オーガナイズドセッション(OS)の本来の趣旨で ある「萌芽的な研究テーマや学際的課題など,一般 セッションには収まらないテーマについて深い議論 を行う」に立ち戻り,一般セッションに収まらない 新しいテーマについての OS のみを採択した.その 結果,OS は 25 件に絞り込んだ.一般セッションと の差異が明確となり,OS に参加することで,AI の 潮流を感じ取っていただけたのではないかと思う. 2)AI に新しく取り組まれる方が多い中,チュートリ アルは重要な役割を担っていると考え,鹿児島大会 ではチュートリアルを大幅に増やした.具体的には, ディープラーニングの実践から,強化学習の理論, AIの社会実装に関するものまで,AI の主要分野に ついて 10 件のチュートリアルを実施した.会場と なったロイヤルガーデンはいつも満員で,多くの方 に喜んでいただけたのではないかと思う. 3)分野を一層活性化させることを目的とし,企画セッ ションの公募を行った.結果として,10件の企画セッ ションを実施した.AI と他分野の関わりについて の企画が多く,AI の適用範囲の広がりや社会にお ける影響の大きさを感じた.また,産業界との連携 をさらに充実させるため,前回大会で好評だったイ ンダストリアルセッションの枠を増やすとともに, 産業界と学術界の橋渡しとなるようなマッチングイ ベントとして,ナイトセッション・ランチョンセミ ナーを多数実施した. 至らない点も多かったと思うが,これらの施策が AI 分 野の発展や産学連携に寄与したのであれば幸いである. 3.GET NEW POWER
鹿児島大会では「 」をコンセプトとしたポスター(図 2)を作成した.このデザインは,(株)電通のメンバと 筆者とで議論を重ねて決めたものである.当初はディー プラーニングや脳をモチーフにしたような,どちらかと いえば人工知能の一般的なイメージに沿う図柄を中心に 検討していたが,全国大会の中心はやはり「人」であり, その「人」を元気にするものをモチーフにしたいと思い, に行き着いた.鹿児島大 会で,多くの人が出会い, 活発に議論をし,新たな 着想が得られたのであれ ば望外の喜びである. 4.次回大会 最後に,次回大会は 2019年 6 月 4 日( 火 ) ∼ 7 日(金)に新潟市の 朱鷺メッセ 新潟県コン ベンションセンターで開 催される.ぜひまた多数 の方にご参加いただけれ ばと思っている. 図 1 会場となった城山ホテル鹿児島 図 2 JSAI 2018 のポスター
特集「2018 年度人工知能学会全国大会(第 32 回)」にあたって
東中 竜一郎(実行委員長,NTT)789 「2018 年度人工知能学会全国大会(第 32 回)」 プログラム委員長としての仕事は,プログラム編成, 表彰担当と協力しての表彰作業などが主なものとなる. また,前大会からの大きな変更点として,オーガナイズ ドセッション(OS)の採択や表彰に対する改革と企画 セッションの新設にも取り組んだため,本稿では一般 セッションに加え,これらについても報告する. 表 1 に,一般セッションに投稿された口頭発表論文の 第一希望カテゴリーについて集計した結果を示す.今年 度は機械学習,自然言語処理・情報検索,AI 応用の件 数が目立って多かった.これは,まだ深層学習ブームが 続いていること,機械学習や自然言語処理技術が広く一 般的なものとなり,深層学習を含む機械学習の応用事例 も増えてきていることを反映しているのではないかと考 えている. 近年の全国大会では,発表件数よりも参加者数の増 加が顕著である.これは,近年の第三次 AI ブームによ り,産業界からの関心が非常に高くなっていることによ るものと考えられる.聴講者も発表者も応用への関心が 高まってきていると想定し,一般セッションに関しては 応用に関する発表をセッションとしてまとめることを多 少意識して編成を行った.その結果「応用」を含む一般 セッションは 28 件となり,一般セッション全 83 件の約 34%となった. 今大会は最大 16 パラレルでプログラムを編成した. 会場の城山ホテル鹿児島では,最低でも約 30 名が入れ る発表用会議室を用意できたため,前回大会のように会 議室どころか通路まで非常に混雑するといった状況には ならなかった.また,約 250 名を許容できる会議室で チュートリアルを一般セッション発表時間帯に必ず実施 していたため,AI 研究を始めたばかりの聴講者はチュー トリアルに流れ,一般セッションで極端に会場から聴講 者があふれることはなかったと考える.今後しばらくは 聴講者数を考慮した,会場選定が重要になると思われる. 今大会では,25 件の OS を実施した.昨年の大会では 39件の OS を実施している.これに比べると今大会で実 施された OS は非常に少ない.今大会からは全国大会で の OS 開催の趣旨を考え,同じ内容の OS は 3 回までの 実施が可能という条件を定めた.また,OS も研究発表 の場であるという立場から OS のセッション形態におい て特別企画が全体の 2 割以上とならないよう,時間配分 をお願いした . 今大会では同じ内容の OS は 3 回までの 実施が可能という条件から 28 件の OS を採択した.今 大会では最終的に,採択した 28 件の OS のうち 25 件の OSを実施することとなった.従来の OS からの大きな 改革にもかかわらず,円滑な大会運営のためにご協力し ていただいた OS 提案オーガナイザの皆様に,この場を お借りして感謝の意を表したい. 前回大会から全国大会では,(1)大会優秀賞口頭発表 部門(一般セッション,OS),(2)同インタラクティブ 発表部門,(3)学生奨励賞(一般セッション)について 表彰を行っている.今大会も同様の表彰を行ったが,前 回大会までの選考方法を少々修正した.一般セッション 発表分については,従来,座長と評者による表彰推薦論 文の選定を行っていたが,一般聴講者からの推薦論文も 受け付けることとした.これにより,座長や評者が連 名となっている論文も表彰対象になる可能性を残した. OS発表分の表彰についてはプログラム副委員長を委員 長とする選考委員会を組織し,OS 座長と選考委員によ る推薦と,選考委員会による評価の 2 段階で決定した. また,論文自体の評価に加え,OS 自体の評価も加味し て選考を行った.OS 発表文についても推薦論文の選定 に選定委員を入れることにより,OS 座長が連名となっ ている論文も表彰対象になる可能性を残した. 最後になるが,会場が首都圏からは遠方であるにもか かわらず,昨年の大会を少し上回る人数の方々にご参加 いただき,盛況のうちに大会を終了することができたの も,円滑な運営にご尽力いただいた大会委員の皆様のお かげである.ここに感謝の意を表したい. カテゴリー 件数 割合〔%〕 基礎・理論 18 3.6 機械学習 87 17.2 データマイニング 41 8.1 知識の利用と共有 19 3.8 Webインテリジェンス 16 3.3 Webマイニング 14 2.8 エージェント 34 6.7 ソフトコンピューティング 11 2.2 自然言語処理・情報検索 83 16.4 画像・音声 28 5.5 ロボットと実世界 31 6.1 ヒューマンインタフェース・教育支援 36 7.1 AI応用 87 17.2 表 1 発表(一般セッション)の第一希望カテゴリー分布
プログラム編成と一般セッション
小野田 崇(青山学院大学) プログラム編成と一般セッション「2018 年度人工知能学会全国大会(第 32 回)」 2018年度人工知能学会全国大会では,1 件の基調講演 と 2 件の招待講演が行われた.本稿では,各講演の内容 について報告する. まず,大会初日,人の会話の理解と情報技術による 発展を目指し,会話情報学の研究を推進されてきた京都 大学大学院情報学研究科教授の西田豊明先生による基調 講演「手づくりの会話情報学─人と人工知能の未来のコ ミュニケーション」が,折原良平大会委員長の司会で行 われた(図 1).西田先生は,「人から学び,人を助ける, みんなの AI」という考え方に基づき,未来生活を支え るディジタルなおとも(デジとも)の必要性を指摘され, デジともと人,そしてデジともに媒介される人と人の間 をつなぐものとして「会話」に着目されたことが説明さ れた.会話システムの歴史を振り返りつつ,会話情報学 に関して,日常生活空間を楽しくする会話システム,計 測に基づく会話の定量的な理解,会話データから行動生 成する模倣学習などのアプローチが紹介された.また, 会話エージェントの存在感のなさやコンテンツ生成の労 力などの現時点での会話システムの限界を指摘し,構成 的交渉法や会話の構造的記述に関する近年の取組みも紹 介された.さらに,会話情報学の今後の役割として,人 と会話エージェントが相互作用しながら発展すること で,伝統的な会話を超える「超会話」に向けた考えも披 露された.西田先生は,一貫して「みんなの AI」を強 調されており,今後 AI 研究が進むべき方向性を示唆す る講演であった. 大会 2 日目には,数学的な立場からの脳の情報処理 の解明を目指し,情報幾何や数理脳科学などの分野を立 ち上げ,世界を牽引してこられた理化学研究所脳科学総 合研究センター特別顧問の甘利俊一先生による招待講 演「脳,心,人工知能 付録─統計神経力学の構想」が, 小野田崇プログラム委員長の司会で行われた(図 2).講 演は,2 部に分かれており,前半では,AI ブームの歴史 を振り返り,後半では,甘利先生が現在取り組んでおら れる統計神経力学についてご紹介していただいた.前半 では,宇宙のビックバンから生命誕生,脳神経系の進化, 文明・社会の発展に関する,物理学,生命科学,神経科 学,情報科学,人間科学の貢献を概説し,物事の本質を 捉えるためには,その物事のレベルに応じた法則の理解 が重要になることを指摘された.また,AI ブームの歴 史に関し,現在の第三次ブームの中心的にある深層学習 は,理論的に導かれたわけではなく,多層化による大量 の局所解の発生という常識が膨大なデータによる学習に よって覆されたこと,そして冬の時代にもそれを研究し 続けた研究者の粘り強さに由来していることを指摘され た.また,AI が脳に学ぶべきこととして,意思決定と 行動に関する予測と後付けのダイナミクスという意識と 心の役割について紹介された.後半の統計神経力学のご 紹介では,多層の回路をランダムに結合したときのネッ トワークの振舞いについて,最近の動向および甘利先生 の考え方について解説していただいた.ご自身の現在の 研究について,楽しそうにお話しされる姿が印象的な講 演であった. 大会 3 日目には,人工知能による経済成長の発展につ いて論じ,政治経済界からも注目を集めておられる駒澤 大学経済学部准教授の井上智洋先生による招待講演「人 工知能は未来の経済をどう変えるか?」が,東中竜一 郎実行委員長の司会で行われた(図 3).講演では,ま ず,AI が発展した先に起こることとして,雇用なき爆 発的な経済成長があると指摘された.現状,AI による 経済成長を示すマクロデータはないため,現代は第三 次産業革命の時代であるとし,これから十数年の間に汎 用 AI による第四次産業革命の時代が到来すること,そ して日本がその技術を握るヘゲモニー国家とならなけれ
基調講演・招待講演
飯尾 尊優(筑波大学),西原 陽子(立命館大学) 図 1 西田豊明先生による基調講演 図 2 甘利俊一先生による招待講演791 ば,さまざまな不利益を被る可能性があることについて 説明された.AI は雇用を奪うのかという問題について, 井上先生は,蒸気機関や内燃機関,コンピュータなどの 事例をあげ,歴史的に革命的な技術は雇用を奪ってきた こと,しかし,一時的な失業はあるものの,必ずしも長 期的に失業率が増えるわけではないことを示された.た だし,事務労働などの中所得層の仕事が AI に代替され, その人々が低所得層の仕事へ移行することで,貧困化を もたらす可能性があることを示された.そのために,所 得に関係なく最低限の生活費を一律給付するベーシック インカムが必要になることを説明された.技術的失業を 恐れて技術開発を止めると,技術による急激な経済成長 路線へのテイクオフができず,停滞路線を進んでしまう ことを指摘し,それゆえに日本の未来は AI の研究,開 発,活用に関わる人々の手にかかっていると締めくくら れた. いずれの講演も立ち見が出るほど盛況であり,昨今の AIブームはいまだ健在であることが示された.先生方 の講演を通じ,人工知能が今後,人間と社会にどのよう な影響を与えていくのか,その一端を見ることができた. なお,先生方のご厚意により,講演資料は大会 Web サ イトからダウンロード可能となっている.興味のある読 者はそちらもご覧いただきたい. 図 3 井上智洋先生による招待講演 基調講演・招待講演
「2018 年度人工知能学会全国大会(第 32 回)」 1.はじめに 倫理委員会は過去 2 年間,倫理指針の策定を中心とし た「専門家の責任や倫理」に関する公開討論を全国大会 にて行ってきた.一方で「人工知能(AI)の倫理」として, さまざまな問題に取り組む必要も指摘されている.そこ で本年度は,一般公開企画「AI に関わる安全保障技術 を巡る世界の潮流」を開催し,安全保障に関するさまざ まな議論を整理する機会を学会員や一般聴衆に提供する こととした. さらに倫理委員会委員長である松尾 豊による開会挨 拶で,約 4 年前に立ち上がった倫理委員会が,この 6 月 から武田英明を次期委員長とする新体制に移行すること を発表した. 2.企画の背景と趣旨説明 続いて倫理委員の江間が,本企画の趣旨説明として現 在,産学官民で議論されている AI と安全保障を巡るさ まざまな事例を紹介した.例えば 2018 年 3 月には「韓 国科学技術院(KAIST)のキラーロボット研究への協力 を中止する」とした宣言がスチュアート・ラッセル氏や ジェフリー・ヒントン氏など世界中の AI 研究者から提 出された.4 月には Google 社員 3 000 人以上がサンダー・ ピチャイ最高経営責任者に,AI を軍事利用する米国防 総省の Project Maven から撤退するよう要請する書簡を 提出したことが話題となった. 2015年の人工知能国際合同会議(IJCAI)でも非営利 団体の The Future of Life Institute が公開書簡を提出, 議論が行われたほか,昨年度の倫理委員会年次大会でも 取り上げたように,自律型致死兵器システム(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)の規制に関し て国連での議論が昨年から始まっている. このような中,誰が何を議論しているのかを理解する ための材料が必要であるという問題意識のもと,本セッ ションが企画された. 3.安全保障技術の国際的な動向 § 1 Enabler としての AI 最初に拓殖大学国際学部教授・海外事情研究所副所 長の佐藤丙午氏が「安全保障技術の国際的な動向」と題 して話題提供を行った.AI の安全保障技術や軍事利用 についての懸念があるが,実際はターミネーターのよう なロボット型の殺戮兵器ができるのではなく,AI 技術 は兵站から戦場の管理まで正確性(Accuracy)と速度 (Speed)という既存の兵器システムの性能の可能性を向 上させるもの(enabler)として理解されるべきである と指摘した. § 2 Targeting Cycle で使われる人工知能 具体的に理解するために,北大西洋条約機構(NATO) による,攻撃に至るまでの政策決定プロセス「Targeting Cycle」の中で AI がどのように活用されているかを考え る.攻撃に至るには,Find → Fix → Track → Target → (Select)→ Engage(Execute)→ Assess のサイクルを 回していくが,これらのすべての段階において機械によ る高速計算能力は攻撃能力を向上させる.そのため,各 段階において AI が用いられる可能性がある. また,各段階では同じ技術ではなく別々の技術が必要 になる.例えば最初の Find では標的の検知・識別が重 要になるが,最後の Assess 段階では,判断の評価や再 攻撃のレコメンド技術が必要となる. このように安全保障分野で用いられている技術にはバ リエーションがあり,かつ分節化されている.そして, Findや Fix などを時間的制約のある中で高速計算処理 するようなシステムはすでに利用されている. § 3 安全保障を考えるうえで求められる Enabler では,安全保障を考えるうえで,どのような可能性の 向上が求められているのか.3 点紹介された. (1)大量データ処理の効率化
Google社が関わっていた米国防総省の Project Maven は,収集された画像や音声情報などを戦闘支援システム として用いるものであり,これは「軍事」よりは「イン テリジェンス」活動に近い.大量にあるデータや情報が 十分活用されていないのは安全保障だけではない.膨大 なデータを人間のみで処理するのは不可能であり,AI を用いたインテリジェンス活動の効率化はさまざまな業 界で行われている.一般の技術開発,技術利用と軍事で の利用を明確に区別できるのかは,繰り返し問われる問 題であり,データ処理自体は,どのようなデータソース を用いるかどうかの問題はあるが,通常の商業的活動と 変わらない. (2)戦闘の決定サイクルの迅速化 今日の戦争は短期決戦の時代に突入しており,前述 の Targeting Cycle においても先行的な攻撃が重視され
一般公開企画「人工知能学会倫理委員会:
AI に関わる安全保障技術を巡る世界の潮流」
江間 有沙(東京大学),長倉 克枝(科学ライター), 松尾 豊(東京大学),武田 英明(国立情報学研究所)793 る.スピードが極めて速くなっているため,一つ一つの 段階において,「有意の人間の判断(meaningful human control)」を果たして担保できるのかが問題となる.特 に防御戦闘においては,高度に自動化することが重要と なる.イスラエルの Iron Dome(アイアンドーム)は, 都市を守るためにレーダ,コントロールセンタとラン チャを都市の周りに配置し,攻撃を自動的に感知して迎 撃する防御システムである.いつどのような形で攻撃さ れるかわからないものに関しては自動化することは避け られず,人間の判断よりも早く対応をすることが可能に なる.防御システムの中には,攻撃電波を受け取ったら 相手の拠点への攻撃を自動的に行うシステムもあるが, この自動化された防衛システムが LAWS であるかどう かに関して結論は出ていない. (3)複雑な兵器システムの操作 複数のシステムを人間が個別操縦するのが理想的な姿 である.しかし現実的には目視確認できないような遠隔 地での無人兵器システムや,個別のドローンや機械どう しの自律的なコミュニケーションが必要となり,そこで の技術の可能性が指摘されている. § 4 Enabler として用いられることへの課題 AIが軍事に用いられることで既存の兵器システムの 性能が向上する一方で,兵器として利用されることへの 課題もある.例えば,AI を活用した兵器が国際人道法 に反する可能性が指摘されている.また,技術的な安全 性の問題のほか,外部環境の変化に対し,当初のアルゴ リズムが軍の要求レベルに適合するように変化できるの かという課題がある.戦争というのは政治目的を達成す るための手段であるが,その目的を逸脱する可能性をも たらす兵器を軍が受け入れないとの指摘もある. また AI は民生技術として開発されるものが多く,さ まざまな分野で応用として使われることが前提としてあ る.そのためテロリストなどの非国家主体が技術を活用 する可能性も指摘されている.さらに,中国においては 「軍民融合政策」が推進されている. AIが シ ス テ ム の 可 能 性 を さ ら に 向 上 さ せ る も の (Enabler)である以上,AI 研究者や民間企業がどのよ うな対応や技術開発を行うかが問われている. 4.自律型致死兵器システムと CCW § 1 LAWS に関する議論の経緯 外務省軍縮不拡散・科学部通常兵器室上席専門官の南 健太郎氏から LAWS 規制に関する国連の会議が紹介さ れた.一般的に LAWS は「現実にはまだ存在していな い兵器」であると認識されているため,議論の難しさが ある. ロ ボ ッ ト 兵 器 に 関 し て は,2009 年 に 非 政 府 団 体 である国際ロボット兵器規制委員会(International Committee for Robot Arms Control:ICRAC)が危惧を 呈したのが最初であり,その後,2012 年にヒューマン・ ライツ・ウォッチが,「人間の関与なしに自律的に攻撃 目標を設定し,殺人を行うことができる『完全自律兵器』 が 20 ∼ 30 年の間に開発され得る」と指摘したことから LAWSに関する議論の必要性への国際的な関心が顕著に 高まった.2013 年には複数の国際 NGO が「殺人ロボッ ト防止キャンペーン」を開始し,国連人権理事会ヘイン ズ特別報告者による「自律型致死性ロボット」に対する 国際社会の対処の必要性が主張された. そのような状況下,LAWS は国連人権理事会で最初 に公式な国際的議論が行われた.人権理事会の特別報 告者によって 2 回にわたって LAWS に関する報告が提 出されたが,国連の人権理事会は人権に重点が置かれ 安全保障に関する議論が軽視される懸念があるとの指 摘などもあって,現在では特定通常兵器使用禁止制限 条約(Convention on Certain Conventional Weapons: CCW)において議論が行われている. § 2 CCW における議論の現状 CCWは非人道的な効果を有する特定の通常兵器の使 用の禁止または制限に関する条約であり,1980 年に採 択,83 年に発効している.条約は手続きなど基本的事 項につき規定した本体条約および個別の通常兵器につい て規制する五つの附属議定書からなる.CCW の枠組み の中で LAWS は第Ⅵ議定書として法的拘束力のある条 約をつくることも可能性の一つとして議論が行われてい る. 2014年から 2016 年にかけて CCW において LAWS に関する非公式会合が開催された後,2017 年 11 月 には CCW 政府専門家会合(Group of Governmental Experts:GGE)の第 1 回,2018 年 4 月に第 2 回会合 が開催され,8 月に第 3 回会合が予定されている. GGEでは第 1 回と第 2 回合わせてもまだ実質 10 日間 しか議論が行われていない.8 月の第 3 回会合では,本 年の議論を踏まえた報告書(議長報告)の作成が予定さ れるが,CCW ではコンセンサス方式がとられているた め,1 か国でも反対があると意思決定は成立しない.そ のため 8 月の議論の進展しだいではあるが,将来的に作 成すべき文書を法的文書とするのか政治文書とするのか などの難しい論点も含めて今後の議論をどのように進め ていくのか,まだ見通しが不明な点も多い. § 3 LAWS をめぐる論点 具体的に GGE で議論されている論点として,(1) LAWSは国際人道法を順守できるのか,がある.完全自 律である場合,法の順守を担保することが難しいため, 人間の関与が必須であるとの点については各国に共通の 理解があると考えられる.即予防的な禁止措置を取るべ きであるとする国もあるものの,LAWS とは具体的にど のような兵器であるのかの定義が固まっておらず,難し い議論が続いている.現存しない LAWS の定義につい て議論すると多大な時間を要することが明らかなため, 定義問題を棚上げして,他の重要論点の議論を行ってい るのが現状である. 一般公開企画「人工知能学会倫理委員会:AI に関わる安全保障技術を巡る世界の潮流」
そのほか,(2)倫理上の問題として,ロボットに生命 を奪う権利を与えてよいのかの議論がある.最終的な判 断を人間が行うのであれば,ロボットに生殺与奪権がな いとしてよいのかに関しても意見が分かれている. また(3)規制対象は完全自律のみで良いのか,半自 律でも規制をするべきではないのか,その境界をどこに 引くべきなのか,(4)規制対象に攻撃用兵器だけではな く防御用システムも含めるべきか,(5)Targeting Cycle などの一連の流れの中,どこで人間の関与があればよい のか,(6)責任の所在は LAWS を使った機関,指揮官, オペレータ,製造した企業などどこにあるかを明確化す ることは可能なのか,(7)LAWS は防御システムや安全 保障上の観点からのメリットもあるためデメリットばか り見るべきではないのではないか,(8)規制のための新 たな法的枠組みが真に必要なのかなどさまざまな論点が ある. § 4 今後の議論と日本の立場 さまざまな論点に対してコンセンサスが得られない場 合,将来的には CCW の枠組みではなく,合意できる国々 のみで別の条約をつくるなどの動きが出てくる可能性も ないとはいえない.しかし,日本としては LAWS に関 する議論は CCW の枠組みで行うことが適当であるとす る考えが示された.また,人間が関与しない完全自律型 の致死性兵器の開発を行う意図はないこと,一方で安易 な規制により先端技術の民生分野における健全な発展が 阻害されてはならないという立場を取って交渉に臨んで いることについても紹介された. 5.おわりに 質疑応答では,安全保障をめぐる国際的な議論がある 中で,技術開発の在り方や研究者が考えるべきことは何 かについて議論が行われた. 最後に,新倫理委員長である武田英明が閉会挨拶を行 い,軍事や安全保障に関して,研究者は誰一人として無 関係ではいられない問題であると指摘した.現在は研究 者と社会が離れていられない時代であり,AI 研究者は 自分の研究だけをやっていればよいのではなく,自分が つくったものが社会に影響を与えていくということ,研 究者も意識を変えて,積極的に AI の倫理について考え ていくことが重要であり,今後の倫理委員会の活動に対 して学会内外からさまざまなご意見や提案をいただきた いと述べて公開セッションを締めくくった. 図 1 質問に答える佐藤氏(左)と南氏(右)
795 「2018 年度人工知能学会全国大会(第 32 回)」 1.はじめに 深層学習を含む統計的機械学習(本稿では以降機械 学習と呼ぶ)が急速に発展してきて,この技術を用いた 応用システムが広く使われるようになってきた.それに 伴い,「人材が不足」,「品質が不安」,「開発プロジェク トがいつまでも終わらない」などの問題が指摘されるよ うになった.この状況は,1960 年代にソフトウェア危 機が叫ばれたときによく似ている.IBM の汎用大型機 S/360の投入によって,情報技術が本格的に活用される ようになったとき,今と同様に人材,ソフトウェア品質, プロジェクト管理などの問題が頻出した.それに対する ITプロフェッショナル達の回答が,ソフトウェア開発 における新しい工学的ディシプリン,ソフトウェア工学 だった. 同様に,機械学習という新しいプログラミングパラダ イムを手に入れた私達は,機械学習を応用したシステム をどのように安全にかつ効果的に開発・運用するかとい う工学的知識を体系化しなければならない.これを機械 学習工学と呼ぶ [丸山 18].2017 年頃から,この問題意 識を共有するソフトウェア工学と機械学習のそれぞれの 分野の研究者・実務者が集まって,非公式の勉強会など を開いて議論してきた.2018年4月には,日本ソフトウェ ア科学会に機械学習工学研究会を立ち上げ,学術的な活 動をしてきた. 本企画セッション KS-1 は,機械学習の研究者が多く 集まる人工知能学会のコミュニティでも機械学習工学の 議論を盛り上げてもらいたいとの思いから提案したもの である.当初はオーガナイズドセッションとして企画し たが,人工知能学会,あるいは機械学習コミュニティ内 に,機械学習を社会実装する,機械学習応用システムを 開発するための周辺技術を学術的に研究すべきという課 題意識がまだ浸透しているとは言いがたいと判断し,そ のため最終的に,関連の論文投稿を募るセッションでは なく,我々からどのような課題があるのかを問題提起す る企画セッションという形になった. プログラムは,まず日本マイクロソフト CTO の 原 彰氏から,ソフトウェア工学実務者の第一人者として, ソフトウェア工学の歴史と機械学習工学に対する可能性 を語ってもらった.そしてそれを受けて,機械学習の研 究者・実務者,ソフトウェア工学の研究者・実務者らを によるパネルディスカッションを行う形とした.会場か らの質問は,sli.do という Web サービスを使い,多くの 質問の中から聴衆の興味の高い項目をピックアップでき るようにした. なお,基調講演・パネルディスカッションの資料,お よび sli.do の質問履歴は,日本ソフトウェア科学会機械 学習工学研究会のページ*1からアクセス可能である. 2.基調講演 基調講演は, 原氏による「ソフトウェア工学は機 械学習の夢を見るか ~ソフトウェア工学の振り返りと アーキテクト的観点からの問題提起」というタイトルで あった.ソフトウェア工学は 60 年の歴史があり,うま くいったものもあればうまくいかなかったものもある. 機械学習工学は,ソフトウェア工学の歴史から何を学べ るのか,まずはソフトウェア工学そのものを正しく理解 する必要がある. 2・1 ソフトウェア工学の振返り 原氏は,ソフトウェア工学の主なトピックを,以下 の 7 点に整理して解説した(*の付いた項目については 詳細な議論はスキップした). ● プログラミング・モデリング ● アーキテクチャ ● 部品化・再利用* ● 要求 ● プロセス ● 定量化・見積り ● プロジェクトマネジメント* プログラミング・モデリングに関しては,「メインフ レーム」,「クライアントサーバ」,「Web」,「モバイル・ クラウド」という,ソフトウェア実行プラットフォーム の歴史的変化の流れに合わせ,オブジェクト指向などの ソフトウェア分析・設計手法が進化してきたことを説明 した.印象に残ったのは,過度なモデル変換依存は良く ない,という 原氏の言葉だった.計算独立モデル,プ ラットフォーム独立モデルなどモデリングが複数のレイ ヤに分かれて,それらの間の変換に基づくようになって くると,事前条件・事後条件などの制約を書き下すのが 難しくなってくる.結局のところ,仕様を厳密に書くよ りプログラムを直接書くほうが早い,ということにもな りかねない.開発規模,手戻りコストなどとのバランス を考えながら必要なレベルのモデリングが必要となりそ
企画セッション KS-1「機械学習工学とは─
機械学習システムを創り上げるための工学的課題」
丸山 宏(株式会社 Preferred Networks),今井 健男(LeapMind 株式会社)† 1 †1 現在,フリーランス. *1 https://sites.google.com/view/sig-mlse/ 企画セッション KS-1「機械学習工学とは─機械学習システムを創り上げるための工学的課題」うだ.ここで,ソフトウェア工学でいう「モデル」とは, 問題を抽象化して書き下したものであり,機械学習にお ける「モデル」とは意味が異なることに注意する必要が ある. アーキテクチャの議論では,アーキテクチャの主要な 関心事が,要求された機能をどのように分割し,それを どのインフラ(サーバなど)に割り当てるか,という問 題であることを説明した.深層学習のワークロードは, 集中した行列計算が必要であるなど,特異なパターンで あり,これを GPU やエッジにおける特化型ハードウェ アにどのように割り当てるかは,まさに機械学習工学に おけるアーキテクチャの問題だということができる. 原氏は,アーキテクチャ設計における原則論として,オー プン・クローズ原則(既存のモジュールにコードを追加 するだけで修正が行えること),GRASP(一つのコンポー ネントには一つの責務だけを担当させる)などを紹介し た. 要求工学は,大きく分けて,要求開発と要求管理から なる.前者は「要求獲得」でないことに注意されたい. 要求獲得とは,顧客がすでにもっている要求を引き出す ことであるが,現実には顧客があらかじめ要求をもって いることはまれである.したがって実際には顧客と一緒 に要求をつくっていかなければならない.これが要求開 発である.特に,拡張性・保守性・利便性など非機能的 な要件(NFR)はそれが主観的な面もあり,かつさま ざまなトレードオフがあるためにその定義や管理が難し い. 原氏はソフトウェア工学における 11 種の典型的 な NFR を示したが,機械学習工学においても,機械学 習応用システムにおける NFR とは何か,を考える必要 があるだろう. 典型的なソフトウェア開発プロセスはいわゆる V 字モ デルというものであり,手戻りの工数を最小限にしなが ら,品質のつくり込み・品質保証を行おうとするもので ある.すなわち,開発プロセスとはある意味リスクヘッ ジを行うための方策といえる.残念ながら,このような 手法を用いてもアプリケーション開発の成功率は 28% という数字もあるようだ.機械学習を使ったプロジェク トも,PoC(Proof of Concept)と呼ばれる試作段階で 終わってしまうプロジェクトが非常に多く,「PoC 貧乏」 という言葉が語られるほど,実際の運用まで達するもの は極めて少ない.ソフトウェア工学の世界でも,結局プ ロジェクト終了近くまで要求を実現できることがわから ないことが多く,このためにプロトタイピング,モデル 駆動,反復型開発,スモールリリースと CI,ビジネス プロセスモデリング,シミュレーションなどさまざまな 手法が開発されてきた. 原氏は,V 字型のウォータフ ォールモデルとアジャイル型の両方をうまく乗りこなす 「バイモーダル」な開発プロセスが必要であろうと説い ている.開発プロセスは,システム開発の優先順位によっ て選ばれるべきである.かつては QCD(品質・コスト・ 納期)が優先されたが,今では要求の変化に柔軟に対応 できることがリスクヘッジに重要である.機械学習応用 システムにおいては,さらに訓練データがどのように変 化していくかというダイナミクスも重要になるのではな いか,ということであった. 定量化・見積りはウォータフォールによる開発では極 めて重要だが,残念ながら極めて難しい.今まで多くの 手法が提案されてきたが, 原氏によれば「ソフトウェ ア工学ではあきらめかけている分野」とのことである. このことがアジャイル開発を加速している原因の一つと もいえる.機械学習応用システムにおいては,コード量 やデータ量についてはある程度見積りが可能だが,目標 とする精度を達成するまでの反復については見積りがほ とんど不可能である.この意味で,機械学習工学におい てもアジャイル開発が不可欠であろう. 2・2 機械学習応用システムへのソフトウェア工学側 からの提言 この後, 原氏は,機械学習工学にソフトウェア工学 のプラクティスや経験を適用できるか,という観点で意 見を述べた.まず,機械学習応用システムにおいて,機 械学習でつくられるコンポーネントはシステム全体の 一部であることを指摘したうえで,システム全体のコン ポーネント設計に関してはソフトウェア工学のノウハウ が適用可能であると主張した. 一方で,機械学習において,システムの性能に大き な影響を与えるデータの設計に関しては,今までソフト ウェア工学はデータの入れ物に関してはきちんと定義し てきたが,その内容の品質についてはあまり議論がな かったということである.したがって,データ設計や管 理についてはこれからプロセスが大きく変化するだろう ということであった.この点については,後のパネルディ スカッションの主要なテーマの一つとなった. 開発プロセスについては,テスト手法などにはソフト ウェア工学の知見が生かせることを指摘した反面,NFR への対応については,まだまだソフトウェア工学自体も 試行錯誤の状況であるということであった.ただし,機 械学習が普及するにつれ,V 字型プロセスの低抽象度の 部分,すなわち機械学習モジュールの設計から実装・テ ストの部分は従来のソフトウェア工学的手法を適用する ことはほぼ不可能であり,代わりに機械学習によって半 自動的に行われるのではないか,と述べた. ソフトウェア工学の世界では,開発と運用を一体的に 考える DevOps という考え方が広まりつつあるが,機械 学習応用システムにおいては,特に運用時のデータの動 向が重要になるため,運用時のデータの監視も含めて一 体化したプロセスを考えるべきであろうと主張した. 原氏はこれを DataDevOps と呼んだが,これは他方, 国内で MLOps と呼ばれているものとほぼ同じ概念であ ろう. 最後に, 原氏は機械学習工学においてぜひ考えるべ
797 き問題の一つとして,データのバイアスについて指摘し
た.マイクロソフトや Google が提供している機械翻訳 サービスにおいて,トルコ語の“bir doktor”(彼 / 彼女 は医者である)は,英語で“He is a doctor”と訳され, “bir hemsire”(彼 / 彼女は看護師である)は,“She is a nurse”と訳される.トルコ語では三人称の代名詞には 性別がないのだが,英語では性別を明示する必要があり, 統計的なモデルに従うとこのような訳になってしまうの である.これは意図しなかったものとはいえ,医者は男 性,看護師は女性,という性差別的なステレオタイプを 助長しかねない.このような問題を,システムの NFR としてどのように捉え,品質としてつくり込んでいくか は今後の課題であると締めくくった. 3.パネルディスカッション ソフトウェア工学側からの基調講演を受けて, 原氏 を含めた 5 名のパネリストが,本企画セッションの共同 オーガナイザである LeapMind 株式会社の今井健男(本 稿の共著者)の司会で,パネルディスカッションを行っ た.まず, 原氏を除く 4 名が短いポジショントークを 行った後,フロアからの質問を含めて議論した. 3・1 ポジショントーク 国立情報学研究所の石川冬樹氏は,もともとソフト ウェア工学の研究者であるが,ここのところ機械学習シ ステムのテスト・検証についての論文を立て続けに発表 するなど,機械学習工学の分野で精力的に活動されてい る.前述の日本ソフトウェア科学会機械学習工学研究会 の主査も務めている.石川氏は,機械学習を用いたシス テムを複数人で開発し提供し続けるためには,ソフト ウェア工学的な視点が必要であるが,今までと全く違う 考え方のもとに開発をするために,テストや品質保証に 異なる考え方を導入しなければならないと述べた.従来 のソフトウェアは演繹的,すなわち抽象度の高い仕様に 基づき,それを実現する形でプログラミングが行われる のだが,機械学習システムは帰納的に,訓練データから プログラムを獲得する.この点で,ソフトウェア開発と しての根本的な考え方が異なっている. そのうえで,機械学習とソフトウェア工学の境界領域 である機械学習工学は,研究分野としては新たな「ブルー オーシャン」であり,いくらでも新しい論文が書ける, 機械学習の研究者の皆さんもソフトウェア工学の研究者 の皆さんも,ぜひ機械学習工学を一緒にやりましょう, と述べた. 山田 敦氏は,日本 IBM のグローバル・ビジネス・サー ビス事業部において,「先進的アナリティクスと最適化」 というチームを率いている.いわゆるデータサイエン ティストであり,顧客のデータを分析しビジネス改善を 行う実務家である.山田氏は,その長い経験から,企業 の中には多くのデータセットがあり,また多くの機械学 習アルゴリズムがあり,それらが組合せ的に増えていく ことに危機感を表明した.機械学習応用システムが増え ることによって,それらが十分にメンテナンスされない 状態で使い続けられる(山田氏はこれらのシステムを「野 良 AI」と表現した).これらのシステムを管理する仕組 みが,顧客企業に必要であろうと述べた. 丸山 宏(本稿の共著者)は,機械学習の出力が N 次 元実数空間上の点として表現され,訓練データセット, 入力,ハイパーパラメータによっては,この N 次元が 実数空間上のどの点も出力として現れる可能性を否定で きないことを指摘した.そのうえで,実際のシステムで は出てほしくない実行不能解をどのように排除するかの アーキテクチャパターンを三つ示し,それ以外にもこれ から多くのアーキテクチャパターンが機械学習工学の研 究から現れてくるだろうと述べた. 株式会社ブレインパッドの太田満久氏は,同社のテ クノロジー & ソフトウェア開発本部の開発部長であり, 多くの機械学習応用システムの開発・運用経験をもつ. その経験の中から,とある商品の販売データ分析を例に, 1)訓練データの中に障害時のデータがある,2)訓練デー タの中に,特別なキャンペーンを行っている期間のもの があり,それが訓練済みモデルの結果をゆがめている,3) 同様に,有名人がたまたま tweet したものが売上げに大 きな影響を与えている,4)間違った訓練済みモデルの 推論結果に基づいて販売計画を立てたために,その結果 が増幅されて以降の訓練データに連鎖的に残っていく, などの問題が起こり得ることを指摘した.これらはいず れもデータ管理,あるいはデータ品質の問題であり,特 に最後の,データがデータに影響を及ぼすフィードバッ クループについては何らかの対策が必要であると述べ た. 3・2 ディスカッション §1 データ品質・管理 データの品質に関する 原氏や太田氏の指摘を受け て,まず,データの品質・管理についての議論を行っ た.石川氏は,そもそも「データに対する要件」をどの ように表現するか,できれば数学的特性も含めて手法が 確立されるべきと主張した.この部分は 原氏の講演に もあったように,ソフトウェア工学ではまだカバーされ ていない領域であり,現在は探索的・経験的に行われて いるデータの前処理などが,プロセス化される必要があ る.また,(統計的)機械学習においては訓練データセッ トは個々の標本が i.i.d.(独立同分布)でサンプルされた とみなせることが前提だが,そのことが十分に認識され ていないという指摘もあった. 企業などにおいては,データがどこから提供されるの か,データ共有における組織の壁も問題になり得ると,山 田氏が指摘した.特に,データを第三者から提供を受け る場合,また,データに基づいて訓練済みモデルをつくっ た場合の,成果物の権利・義務関係についてはまだ一般 的なプラクティスがない.これに関しては,経済産業省 が取りまとめた,AI・データの利用に関する契約ガイド 企画セッション KS-1「機械学習工学とは─機械学習システムを創り上げるための工学的課題」
ラインが参考になるのではないかという意見もあった. §2 開発プロセス 次に,開発プロセスについて議論した.まず, 原氏が, 「期待値が設定できないものは,そもそもウォータフォー ル型開発になじまない.アジャイルでやるべき」と指摘 した.これはビジネスの設計にも当てはまる.いわゆる リーンスタートアップの考え方であり,機械学習応用シ ステムを利用したビジネスの MVP(Minimum Viable Product,価値を提供できる最小限のシステム)を早く つくる,などの考え方を導入すべきだろうと述べた.こ れを受けて,太田氏は PoC はアジャイル,本番システ ムはウォータフォールでつくるのが良いと指摘した. 一方,山田氏は,機械学習応用システムが実際に運用 されるようになるまでには,1)機械学習の精度が上が らない,2)機械学習システムを導入しても ROI(投資 利益率)が上がらない,3)ROI を示したとしても現場 が受け入れない,という三つの壁があり,このうち 3 番 目の「現場が受け入れない」が最大の障壁であるため, この壁を最初に突破するような施策があると良いと述べ た. 機械学習応用システムの開発では,「PoC 貧乏」から どのように脱却できるか,も話題となった.このあたり の辛さを実感している山田氏・太田氏は,結局,ユーザ がほしいと言わないとだめなので,そもそもユーザが望 んでいる「コンセプト」とは何かを明確にしておくこと が勝負であると指摘した. §3 テスト Sli.doで集めた会場からの質問では,機械学習応用シ ステムのテストについてのものが多かった.テストオラ クルが得られないシステムのテスト手法としてメタモル フィックテスティングなどの研究をしている石川氏は, システムが確率的な定義になっていることはテストの障 害にならないが,母集団がどういう定義になっているか を明確にすることが大切であると述べた.特に,システ ムの運用中に母集団が変化していないか(コンセプト・ ドリフトしていないか)を継続的にテストすることが重 要であるとも述べた. 一方で,現場での運用の経験が長い太田氏は,開発時 のデータと運用時のデータは結局は別物と考えざるを得 ないことが多い,と指摘した.それらの間の齟そ齬ごに起因 する誤差が,ビジネス目標に対して無視できるものであ ればよいのだが,ここの部分はテストだけでわかるもの ではなく,データサイエンティストの知見がものを言う 場面であるということであった. 原氏が講演の中で指摘したように,機械学習応用シ ステム全体の中で,機械学習に基づくコンポーネントは ごく一部である.したがって,機械学習コンポーネント だけをテストするのではなく,システム全体としての品 質を担保するためのテストが重要であると石川氏が締め くくった.この点は,2018 年 5 月に行われた,日本ソ フトウェア科学会機械学習工学研究会キックオフシンポ ジウムでも,多くの参加者の共通意見であった. §4 AI コミュニティに期待したいこと 最後に,本企画セッションを人工知能学会全国大会で 行ったことに合わせて,パネリストから一言ずつ,AI コミュニティに期待することを述べた.人工知能学会で はさまざまな領域の問題を機械学習で解こうとしている が,あまり工学的な観点は議論されていないようである. 実際の応用システムを開発・運用していくうえで問題に なることなど,工学的な問題意識をぜひ機械学習工学研 究会にもち込んでほしい,というメッセージで,本パネ ルディスカッションを締めくくった. 4.機械学習工学のこれから 機械学習工学の活動はまだ始まったばかりだが,特に 産業界からは大きな期待が寄せられていることを実感す る.機械学習は全く新しいプログラミングパラダイムで あり,そのため,まだ機械学習を応用したシステムをど のように安全にかつ効果的に開発・運用するかというプ ラクティスが十分に確立していない.今後,機械学習工 学は,土木工学や航空工学などと同様,さまざまな知識・ 経験が体系化され,その体系に基づいたシステムの設計・ 運用が,社会に受け入れられていくことになるだろう. ◇ 参 考 文 献 ◇ [丸山 18] 丸山 宏,城戸 隆:機械学習工学へのいざない,人工知能, Vol. 33, No. 2, pp. 124-131(2018)
799 「2018 年度人工知能学会全国大会(第 32 回)」 全国大会の開催に先立ち,「JSAI Cup 2018:2018 年 度人工知能学会データ解析コンペティション」を開催し た.本コンペティションでは,クックパッド株式会社提 供の画像データを用いて,「食材の画像認識」の精度を 競い合った.参加者は,提供されたデータを用いて各画 像が 55 種類の材料カテゴリーのどれに属するかを予測 するモデルを開発した.訓練データは 11 995 画像,テ ストデータは 3 937 画像であった.コンペティションは 2018年 1 月 15 日~ 3 月 29 日まで開催し,121 名から 1 485件の予測結果が投稿された.コンペティション期 間中は,テストデータの一部に対する予測精度(Public スコア)だけがリーダボードに表示され,残りのテスト データに対する予測精度(Private スコア)により 5 名 の入賞者を決定した. 本企画セッションでは,コンペティションの開催報告 を行うとともに,入賞者 5 名を招き,予測手法について ご講演いただいた.1 位の郁 青氏(東京大学)は,訓練 データに対する過学習を防ぐため,mean teacher とい う半教師付き学習手法 [Tarvainen 17] を用いてテスト データの情報も活用した.また,データ拡張のために, 画像の一部領域をランダムに削除する Random Erasing [Zhong 17a]や,異なるクラスの画像をαブレンドする
mixup [Zhang 17b]を用いた.モデルは SE-ResNet-50 [Hu 18]を用いた. 2位の森下博貴氏(大阪府立大学)は,食材画像はさ まざまな環境で撮影されており,また同じ食材でも形状 が多様であるため,データ拡張が重要であると考え,ク ロッピング・反転・回転・mixup などを適用し訓練デー タを拡張した.各テストデータに対してもデータ拡張処 理を施し(Test Time Augmentation:TTA),拡張後の 画像に対する予測結果を統合して最終的な予測結果を出 力した. 3位の下山 晃氏(株式会社日立ソリューションズ・ク リエイト)は,InceptionResNetV2 [Szegedy 17] という パラメータ数の多いモデルと,明度・彩度・色相・コン トラストなどまで含めた多くのデータ拡張手法を用いる ことで高い精度を達成した.ドメインによらず「訓練デー タが十分にある画像分類では『巨大ネットワークと定番 のデータ拡張手法,十分なエポック数』だけで一定の精 度が見込めるのではないか」という結論が印象的であっ た. 4位の相崎友保氏(株式会社リコー)は,データ拡張 に加えて,テストデータに対する擬似ラベリングにより 訓練データの拡張を行った.食材が包装されている場合 や,食材が画像中に占める割合が小さい場合に分類が難 しいという分析結果が紹介された. 5位の阿部将大氏(株式会社 D2C)も同様に擬似ラベ リングを用いた.ただし,擬似ラベリングはあまり効果 がなく,Private スコアでの順位低下につながったとい う報告があった. 菊田遥平氏(クックパッド株式会社)より,コンペ ティションを通じてデータ拡張の有効性が確認でき大変 有意義であったこと,モデル運用上のリソース制約があ る場合にはモデルアンサンブルは活用しづらいというコ メントがあった.実行委員を代表して齊藤 秀氏(株式会 社 SIGNATE)から,予測モデルが混同しやすい食材ペ ア(例:「ネギとニラ」)や,色・形状が通常と異なる場 合に誤分類しやすいという事例が紹介された.データ拡 張や TTA など入賞者が共通して用いている手法もある 一方,mean teacher など一部の入賞だけが用いている 手法もあり,各入賞者の創意工夫がうかがえる意義深い セッションとなった. ◇ 参 考 文 献 ◇
[Hu 18] Hu, J., et al.: Squeeze-and-Excitation networks, Proc.
CVPR(2018)
[Szegedy 17] Szegedy, C., et al.: Inception-v4, Inception-ResNet and the impact of residual connections on learning, Proc. AAAI (2017)
[Tarvainen 17] Tarvainen, A. and Valpola, H.: Mean teachers are better role models: Weight-averaged consistency targets improve semi-supervised deep learning results, Proc. NIPS (2017)
[Zhong 17a] Zhong, Z., et al.: Random erasing data augmentation, arXiv:1708.04896(2017)
[Zhang 17b] Zhang, H., et al.: Mixup: Beyond empirical risk minimization, arXiv:1710.09412(2017)
図 1 表彰式の様子
企画セッション KS-2「JSAI Cup 2018 報告会」
鹿島 久嗣(京都大学),馬場 雪乃(筑波大学)「2018 年度人工知能学会全国大会(第 32 回)」 1.はじめに 産業技術総合研究所人工知能技術コンソーシアムは, 単なる AI のお勉強会でも,楽しくおしゃべりする会で もない.人工知能技術の社会実装には,社会の枠組み自 体の変革に関わる大きな取組みが絶対に必要との認識を ともにし,メンバが主体的に先行事例をつくり上げ,後 続のメンバがさらに輪をかけて波及していくエコシステ ムの体現である.本稿では,コンソーシアムの各ワーキ ンググループの「想い」と「行動」を伝えることで,AI バブル崩壊後にやってくる真の産業革命に挑む私達の活 動を紹介したい. 2.ものづくりワーキンググループ ものづくりワーキンググループでは,技術進化の一方 で技術活用の明確な方法論が不在である状況こそがビジ ネス創造が加速しない一因と捉え,これを乗り超えるた めの①方法論の確立と②その方法論に即したユースケー ス創出・リアルでの実証の積上げを行動指針としている. AI版ビジネスモデルキャンパスは,そうした強い想い と行動の中から生み出され,AI 導入に不可欠なニーズ, データ,シーズの整理とビジネスモデルの調和のための フレームワークとして全会員に共有されている.また, AI導入の上流から下流に至るまでの全行程を意識した 整然たる行動計画に基づき,長崎 IoT・AI 推進プロジェ クトなどのユースケース創造から,大阪水道局保全デー タ活用などの具体的な事例創出までさまざまなメンバが 共通の課題意識をもって取り組んでいる. 3.AI リビングラボワーキンググループ Society5.0のコンセプトのもと「人の行動ビッグデー タ」と技術の融合を目指すのが AI リビングラボワーキン ググループである.来るべき「サイバーフィジカル社会」 に向け,とかくサイバー空間に関する議論やソリューショ ン開発に偏りがちになるなか,あえて,そして丁寧にフィ ジカル空間における技術実装を試みている.現在は,主 に公共空間をターゲットにユースケースを定めた AI の 活用実証に取り組んでおり,昨年は大阪企業家ミュージ アムにて来館者向け展示物リコメンデーション AI の実 証評価,今年度は個別企業などと連携しさらなる実証の 場を広げており,目に見える実績を生み出している. 4.九州支部ワーキンググループ 地方だからこそ,ビジネスに軸足をおいた本質的な 議論ができるのではないか.そう感じざるを得ないのが 九州支部ワーキンググループである.情報も人材も東京 に偏在するなか,むしろコンパクトな経済圏でクイック なアクションが可能という地理的利点に着眼し,いち早 く独自の AI ソリューションを開発し東京や他地域への ビジネス展開まで視野に入れた野心的な活動を行ってい る.この概念のピボットこそ地方における技術普及・展 開に求められるものである. 九州支部は,コンソーシアムをオープンイノベーショ ンプラットフォームとしても最大限活用している.各社 社内では難しい技術や事例について相談・意見交換でき る場,さらに固定的なメンバで継続議論を重ねることで 生まれる「議論の深化」が彼らの力強い行動を裏支えし ている. 5.関西支部ワーキンググループ 大阪経済の中枢を担う大阪商工会議所が活動の中心と なっているのが関西支部ワーキンググループである.関 西地域の企業における AI の活用促進を検討する立場に あった同所では,「技術はすぐにコモディティー化する. どんな技術を使うかよりも,どこに AI を活用するのか, まずは AI 活用事例,ユースケースづくりに取り組もう」 という理念に共感し関西支部を立ち上げるに至った. 特徴的なのは,活動指針となる「Attitude to AI」を 策定し,曖昧模糊とした「AI」のイメージを統一させ, 議論のテーブルの上での齟そ齬ごがない状態をつくり上げた 点である.Attitude to AI では,AI を「Information と Actionの間にある行為を Artificial に行えるシステム」 と位置付け,ユースケースを生み出すためのセミナー, ワークショップなどの開催と机上の理念にとどまらず明 確な行動原理として稼働している.関西支部主催の AI ビジネスコンテストは,広くベンチャー支援の役割を果 たす一方で,今ではコンソーシアム全体の成果を競う場 としても全ワーキンググループの活動をさらに加速させ る存在になっている. 6. まとめ 今年 4 月からは,研究対象を産業だけでなく社会課題 まで拡張するワーキンググループをはじめ,新しい活動 も生まれ勢いはますます加速している. 筆者のいる東海支部でも先行グループにならい,ポスト AI時代に必要となる理念を共有し,地域での技術普及 に心血を注いでいる.紹介した先行活動を当地域で拡大 展開するために,共に活動いただける同志を募っている.
企画セッション KS-3「地方都市における AI 技術の普及・人材育成・
社会実装への挑戦〜東海エリアでの人工知能の普及に向けて〜」
伊藤 晃人(産業技術総合研究所人工知能技術コンソーシアム東海支部, 株式会社ネクスコムデータサイエンス事業部)801 「2018 年度人工知能学会全国大会(第 32 回)」 インセンティブ設計科学は,人間と AI(人工知能) が共存する社会の実現のために,より良い社会の仕組み を設計する新たな学問領域であり,人工知能を中核とし た情報科学と,ゲーム理論,ミクロ経済学,実験経済学, 社会心理学などの社会科学との融合領域である.そもそ も,インセンティブとは,日本語では誘因や動機と呼ば れ,人々の行動に影響を与えるものである.人々は思い どおりには動いてくれないため,適切な動機付けが必要 になる.また,金銭的な報酬に限らず,心理的満足度や 他者からの評価なども行動の動機になるため,インセン ティブといってもその意味は広い.動画共有サービス, Q&Aサイト,クラウドソーシングなど,多くのインター ネットサービスは参加者から提供されるコンテンツや情 報に基づいて運営されているが,これらは参加者に適切 なインセンティブを与えることによって成立している. さらに,Society5.0 の実装に向けてのルール・制度的課 題としてデータ提供のインセンティブが必要であること が指摘されているなど,今後の人工知能技術の発展には インセンティブ設計科学の観点が必須である.しかしな がら,その重要性が必ずしも認識されていないため,本 企画セッションを実施することとした. 本企画セッションでは,インセンティブ設計科学が情 報科学と社会科学の融合領域であることを踏まえ,招待 講演者として,あえて人工知能分野外で代表的な国内研 究者である,大阪大学 安田洋祐准教授(ミクロ経済学・ ゲーム理論),公立はこだて未来大学 川越敏司教授(実 験経済学),東京工業大学 田中圭介教授(暗号・情報セ キュリティ)を招いた.各講演者からご自身の研究と人 工知能の関連研究者や技術者へ期待することをご講演い ただいたのち,パネルディスカッションを行った.当日 はオーガナイザが把握しているだけでも 90 名近くの参 加者があった(図 1). 安田先生からは「マッチング・マーケットデザイン─ 実践・理論・課題の紹介」についてご講演いただいた.マッ チングは人と人,人と組織をどうやってマッチさせるの が良いかという問題である.研修医マッチングや腎移植 マッチングなど,マッチングの実践例はすでに数多く存 在する.マッチングでは,いかにして人々にマッチング 先に対する選好を正しく申告させるかという点でインセ ンティブの課題が生じる.マッチングの実例だけでなく, マッチングのアルゴリズムを丁寧にご説明いただいた. 川越先生からは「行動メカニズム・デザイン」につい てご講演いただいた.行動メカニズム・デザインとは, 実験・実証を通じて,設計されたメカニズムの性能・評 価することである.実験経済学では,実験室での主に人 間の被験者による意思決定の観察や,人間とコンピュー タ・エージェントとの相互作用分析を行う.第二価格オー クション(真の評価値を入札することが最適戦略である ことを理論的に保証されている)における,人々の最適 戦略からの逸脱に関する実験結果などをご紹介いただい た. 田中先生からは「ビットコイン・暗号通貨・ ブロック チェーン技術とインセンティブ設計」についてご講演い ただいた.本発表では,ビットコインの報酬設定に関す る基本概念とともに,ビットコインのインセンティブ設 定に関する課題をご説明いただいた.報酬の設定方法の 妥当性は未解明であることやシステムが正しく実装され ていることの検証など,解決すべき課題が残っているこ とを詳しくご紹介いただいた. パネルディスカッションでは,企業での人員配置にお けるマッチングの適用方法や,ビットコインでマイニン グ報酬が 4 年で半減することへの報酬設定の課題など, たくさんの質問を参加者から受けた. インセンティブ設計科学は数多くの分野に関係する 分野横断的な研究領域である.本企画セッションが,人 工知能に関連する皆様に興味をもっていただくきっか けになることを願っている.講演者の発表スライドは, http://agent.inf.kyushu-u.ac.jp/kiban-a-2017/ events/ks4-jsai2018/ より入手可能である.また, 本企画セッションは JSPS 科研費基盤研究(A)「マーケッ トデザインの実践的理論の構築(JP17H00761)」(研究 代表者:横尾 真)の助成を受けた.