─ サービス・ラーニング科目「沖縄学入門」の実践事例から ─
金城 さつき
キーワード:サービス・ラーニング、振返り・リフレクション、沖縄概要
社会課題に向き合うための学びの創造には、①現場での出会い(人、場所、課題など)、 ②事前・事後研修と現地研修(活動)とのリンク、③振返りのあり方が重要であると考える。 現地研修として、沖縄に行く前は基地の問題のみ意識していた学生たちであったが、沖 縄で様々な人、場所、課題、異文化としての沖縄と出会い、多様な面から沖縄を見ること ができ、物事を相対的に捉え、加えて自分達の住む地域へ目を向けるなどことができたこ とは、本研修での大きな成果といえるだろう。 一方で学生自身が気づいた課題について原因を探り、各自が自分達と関係のあることと して問題を捉えることが出来たかというと、十分とは言えないのではないかと感じてい る。また、ボランティア活動においても、活動に対して学生の満足感はあるものの、団体 の活動意義や社会的背景を掘り下げることは十分に出来ていなかったように感じる。 物事を客観的にみて論理的・批判的に物事を捉えつつ、それが自分ごととして考えられ るようにするには、上記にあげた②と③が課題になると考える。 本稿では、コーディネーターとしての立場から、授業計画、沖縄現地研修、学生の学び をとおして、主に事前・事後研修と現地研修の有機的なつながり、振返りのあり方を中心 に、社会に向き合うための学びの創造に向けた授業づくりを考察する。1.はじめに
桜美林大学のサービス・ラーニングは、建学の精神「学而事人」を受け継ぎ、キリスト 教センターの課外活動として実践が積み重ねられ(土橋 2011)、その後、2007 年に「地域社会参加」の科目を開講i、そして 2011 年 4 月にサービス・ラーニング・センターが設置 されてから、2012 年度より正式に授業科目として展開されてきた(林 2014)。現在、下記 のように学生・教員へ説明をしている。 サービス・ラーニングとは、「大学での授業」と「フィールドでの活動」を両輪 にして動く学習のことです。大学とフィールドを往復することで、実感を伴った 学習ができます。サービス・ラーニングでは、「教室での学び」である学術的知 識を「地域社会への貢献」に活かし、地域が抱える課題を住民の方達とともに解 決していくことを目指します。学生のみなさんは、このような学習方法を繰り返 すことによって、主体性、思いやり、社会正義の精神を育むことができます。 (サービス・ラーニング 2016 年度パンフレットより) サービス・ラーニングの科目では、その学修到達目標を 4 段階(入門レベル・基本レベ ル・自ら行動するレベル・学生リーダーとしての SL)に設け、学士課程 4 年間を通じて 主体性、思いやり、社会正義の精神を持った「よき市民」へなるための学びの道筋を立て ているii(向井、2014)。 その中で、沖縄をテーマにしたプログラム「地域社会参加(沖縄学入門)」(以下、沖縄学入 門)ができたのには、昨今の基地問題をはじめ沖縄に存在する社会問題が、沖縄だけの問題 なのではなく日本全体の問題ではないか、そういったことを考える必要があるという声が上 がってきたためである。加えて、桜美林大学は沖縄出身の学生が多く学び、また沖縄国際大 学や名桜大学と単位互換制度を持ち、国内留学と称したプログラムがある。それにも関わら ず、観光のために沖縄に行くことはあるが、本学から学ぶために沖縄に出向く学生が少な い。基地問題をはじめとする社会問題がある一方、リゾート地または癒しの場所としての イメージの強い沖縄だが、そのようなイメージを超えて、社会問題を「自分ごと」として 捉えられるようになる必要があるのではないか、そのようなことから、本プログラムがス タートした。 沖縄を知るということが目的となっているため、歴史、文化、人々の暮らしそして社会 を知り、それから学生自身の興味関心に沿って沖縄理解を深めていこうということとなっ たため、授業内容は幅広い。 2015 年度から始まった「沖縄学入門」は、学生それぞれの学びが得られたものの、自分 ごととして課題を捉えることができるようになったのか。大学での授業とフィールドでの活 動が有機的につながることで、自分ごととして捉え、課題について考えるようになると考 えられるが、本稿ではその接続の方法として振り返り(リフレクション)について考えたい。
2.サービス・ラーニング科目「地域社会参加(沖縄学入門)」
2 - 1 沖縄学入門の授業概要と授業内容 大学の授業とフィールド活動を有機的につなげるということを考える前に、「沖縄学入 門」の構成をみてみたい。沖縄はかつて琉球王国という一つの国として、中国をはじめ東 アジアや東南アジア、朝鮮、日本など周辺諸国と交易を行い、アジアや日本の影響を受け ながらも、独自の歴史・文化を形成し発展させてきた。島津氏の侵略から「琉球処分」を 経て日本となり、その後日本のアジア侵略に巻き込まれ、激しい地上戦を経験し、アメリ カの占領下におかれた。現在では、在日米軍基地の 74% が置かれ基地をめぐる事故や事 件が絶えず、新基地建設で揺れている。「沖縄学入門」の授業シラバスでは、以下のよう に学生たちに呼びかけている。 この授業では、大学での講義と沖縄でのフィールドワークを通し、沖縄の歴 史・文化及び社会課題を認識し、沖縄の人々と出会い、ボランティア活動を通じ て参加者同士、また沖縄の人々と共に、よりよき未来に向けてできること、しな ければならないことを考えていきましょう。 サービス・ラーニング科目ということで、大学内で行う講義だけではなく、実際に沖縄 を訪れ、沖縄の地を歩き、話しを聞き、そしてサービス(ボランティア)活動も行いなが ら、沖縄の人々と共に問題解決に向けて考えていくことをねらっている。地域社会参加の 各プログラムでは、授業の到達目標を「学術的学習」及び「市民学習」に分けて設けられて おり、「沖縄学入門」の到達目標は、下記の通りとしている。 【学術的学習】 ①沖縄の独自の歴史・暮らし・文化に触れ、理解を深める。 ②歴史的背景を踏まえ、沖縄にある基地問題を始めとする社会課題の所在を理解する。 ③課題に対して多用な面から物事を捉え、情報や言説を批判的に見つつ、自分なりの 意見を構築し、論理的に説明することができる。 【市民学習】 いまだ実現されたとは言い難い日本に市民社会を築くため、自立・自律した個人とし て、調査、分析、判断、行動できる能力を身につける。このような目標設定の下、事前研修、フィールド活動、事後研修と行っていくのだが、 「沖縄学入門」は地域社会参加の他のプログラムと少し進め方が異なる。地域社会参加の プログラムの多くは活動先が大学近辺であることから、毎週の大学での授業と学期期間中 に活動を実施することができ、授業と活動が繰り返されるようになっているが、「沖縄学 入門」のように活動場所が遠方になると、長期休暇期間中にまとめて活動を実施すること となる。そのため、事前研修と沖縄でのフィールド活動、そして事後研修がそれぞれ分か れたような形になるため、そこをうまくつなげる必要がある。プログラム準備をしている 最中もこの点は最も気をつけていたことではあるが、とても難しさを感じていた。 さて、大学の講義が 15 回と限られた時間の中で、いかに内容をしぼっていくかが困難 な作業であった。歴史、文化、社会課題などどれをとってもそれだけで 15 回はゆうに授 業がつくれるようなものであるが、それを一つのプログラムでやろうとするのだから、時 間が足りない。それらをどうにか絞って 15 回の授業で実施できるよう、担当の先生方に もご協力いただき下記の通りとなった。 2015 年度授業計画 テーマ 担当(教員) 事前研修(2015 年 9 月〜 2016 年 1 月) 第 1 回 オリエンテーション 清水、中生 第 2 回 沖縄の歴史(1)琉球王府 中生 勝美 第 3 回 沖縄の歴史(2)首里城と伝統工芸 中生 勝美 第 4 回 沖縄の歴史(3)沖縄戦 清水 竹人 第 5 回 学生によるテーマ別課題図書発表 清水、中生 第 6 回 米軍基地(1)アメリカ占領下 清水 竹人 第 7 回 米軍基地(2)本土との格差 清水 竹人 第 8 回 米軍基地(3)メディア 清水 竹人 第 9 回 社会組織 門中と宗教 中生 勝美 第 10 回 海洋文化 糸満の追い込み漁 中生 勝美 第 11 回 米軍基地(4)立ちあがる人 清水 竹人 第 12 回 米軍基地(5)沖縄から見える日本の姿 清水 竹人 第 13 回 沖縄と日本の安全保障 加藤 朗 事後研修(2016 年 4 月〜 5 月) 第 14 回 現地研修の振り返り 清水、中生、加藤 第 15 回 報告会、レポート提出及び報告書作成
「沖縄学入門」では、3 名の先生に担当していただいている。中生勝美先生(文化人類学) には歴史や文化面を、清水竹人先生(政治学)には社会課題として主に米軍基地にまつわ ることをお引き受けいただいた。そして平和論や紛争論を教えていらっしゃる加藤朗先生 には安全保障の観点から沖縄の基地問題を講義していただくことにした。事前学習の段階 では、社会課題として基地問題を挙げていた。以前、沖縄をテーマに学生らと話をしたと きに、特に基地問題では、賛成意見と反対意見両方の考えを聞いてみたいということを聞 いた。そのため、事前研修では特に沖縄の基地問題に焦点を当て授業を実施することとな り、米軍基地問題とそれに関わる市民運動の側面とその反対意見として国家レベルの内容 を持ってくることにした。なお、市民の中にも基地を容認する賛成意見もあるが、それら については沖縄でのフィールドワーク内で聞けるように調整することとした。 沖縄でのフィールドワークでは、歴史、文化、社会課題を実際に見ることをテーマと し、特定非営利活動法人沖縄 NGO センター(以下、ONC)のコーディネートの下、2 月 18 日(木)〜 2 月 27 日(土)の 10 日間の日程で実施した。 沖縄での研修行程 日付 活動内容 1 日目 2/18(木) 11:20 沖縄 到着公設市場・首里城ナイトツアー(沖縄国際大学学生ガイド) 2 日目 2/19(金) 【糸満海うみんちゅ人のまち歩き(字糸満)】 崎山正美氏 字糸満集落、山巓毛、白銀堂、幸地腹門中など 【沖縄戦の学び】 ひめゆり平和祈念資料館 慰霊碑訪問(魂魄の塔、白梅の塔) 3 日目 2/20(土) 【平和について話そう、考えよう】沖縄国際大學学生交流と稲垣暁氏との平和学習 FM よみたん ラジオ収録 4 日目 2/21(日) 辺野古バスツアー 5 日目 2/22(月) 【地域での活動について】 講話①:米軍基地被害・女性問題 講 師:高里鈴代氏 講話②:琉球諸語と琉球独立について 講 師:親川志奈子氏 那覇新都心ナイトツアー(稲垣暁氏ガイド) 6 日目 2/23(火) 読谷村役場 訪問(読谷村職員による解説) 講話③:読谷の基地返還・跡地利用について 講 師:山内徳信氏(元読谷村村長、元参議院議員) チビチリガマ訪問 参加学生の高校修学旅行時元ホストファミリー訪問(夕食) 7、8 日目 2/24(水)2/25(木) 【サービス活動】9:00 〜 16:00 大名児童館(NPO 法人うてぃらみや)(時間と活動受入団体) 16:30 〜 21:00 珊瑚舎スコーレ(夜間中学)
沖縄での研修行程(続き) 日付 活動内容 9 日目 2/26(金) 各自自由行動工芸体験(紅型、琉球ガラス)・野宿者支援炊き出し、平和祈念公園 10 日目 2/27(土) お礼の色紙作り、お土産買い物、帰京 沖縄でのフィールドワークは、筆者が ONC と連絡・調整を行った。授業概要、内容、 そしてサービス・ラーニング科目であることを説明し、それから大学での授業と研修をつ なげるということでこちらの研修の方向性を伝えた。そして、ONC からアイディアや意 見を頂戴し、上記のような内容となった。沖縄では沖縄の人々で交流しながら沖縄を知る ということを前提にしていたので、大学生や市民との交流できるようにプログラムに組み 込んでもらった。その上で、事前学習にも沿うような内容でサービス活動や訪問先などの 内容を決めてもらった。活動中に急遽決まったものもある。当初、参加学生の修学旅行時 のホストファミリー(読谷村在住)に会いに行く予定はなかったが、参加学生が会いたい という話をし、ONC の取り計いにより読谷村での活動の日に訪問することができた。 2 - 2 学生の感想から見る学び 今回受講した学生たちは、「沖繩学入門」を履修するにあたり実際に沖繩に行き、沖縄 に関することを見聞きし、沖縄の人々と話しながら沖縄について情報を得て、自分なりに 考えたい、表面的ではなく様々な視点から現状を見つめてよく理解したい、基地問題だけ ではなく現地に行かなければ見えてこない課題にも触れてみたい、高校生の時に行ってお 世話になった人に会いたい、基地問題などを詳しく見ていきたい、今後の自分の専攻選択 に役立てたいなどの期待を持っていた。特に基地問題については、「メディアなどを通じ て耳にしており興味があったが、実際に訪れた経験がなかったため沖縄のことをどこか遠 くに感じてしまい、それらの問題を真剣に考えることができなかった。ただ沖縄と同じ日 本に住んでいる人間として、この問題から目を逸らしてはならないと思い実際に訪れて自 分の目で見て、そして感じることにより沖縄をもっと身近に感じて今後の自分の考えに役 立てていきたいと思ったことが参加を決めた理由だ」と述べている学生もいた。 さらに、参加した学生の中には沖繩にルーツがある学生がおり、ルーツがあるために 様々な面からよりよく沖縄への理解を深めていきたいという動機もあった。 そのような動機や期待を持って参加した学生たちは、「沖繩学入門」を履修してどのよ うな学びを得たのか、フィールドワーク後学生らの書いた感想と事後研修でのリフレク ション、授業評価アンケート結果から見ていくこととする。 アンケートの結果からサービス活動、教員の指導のいずれも高い評価を得、学び多く、
また自分以外の他者や社会に対してより関心を持つことができたと答えている。学生の感 想にも見られるが、履修前には沖縄、独特の文化・歴史について知りたい、基地問題を考 えたいという学生たちだったが、公設市場の移設などに伴うコミュニティや都市のまちづ くりのあり方、伝統文化や言語の衰退を始めとする文化が薄れようとしている現状にも触 れ、それらの問題が見えてきたと述べている。 (中略)いちばん思ったことは沖縄だけの問題ではないという事です。基地問題、 貧困、所得など様々な問題が沖縄では言われています。ですが、どれをとってみ ても沖縄以外でも同じ問題ではないかと思います。沖縄だけに基地があるわけで はないですし、貧困に関しても、最近都市部でも子供食堂などが増えており、そ の主たる原因は親の所得問題だと言われています。沖繩だけに焦点を絞るのでは なく、全国を比較するべきだと思います。これは、決して沖繩に目を向けないと 言っているのではなく、共通認識として抱えておくべきだと改めて思いました。 また、町田出身の別の学生からは、読谷村元村長山内徳信さんより読谷の村づくりをす る上で、特に福祉面において町田市との行政や市民の方々と交流し、村づくりに反映させ たというお話を聞き、自分の住んでいる街のまちづくりに興味を持ったと事後研修の振り 返りでコメントを残している。沖縄社会に目を向けることで、自分たちの暮らす町田や東 京にも目を向け始めた。このように、沖縄と自分たちの町、足元を相対的に見る視点を得 たということは、本プログラムの一つの成果といえるだろう。 一方で、出会う沖縄の人々の沖縄について多様な面から見て欲しい、沖縄の人たち自身 も沖縄のことをもっと知りたいという姿勢や「日本人である前に沖縄人である」という発 言などからアイデンティティの強さを感じ刺激を受け、自分たち自身はどうだろうかと考 えたようだ。 以前より自ら進んで行動することができるようになったかという質問にも「大変そう思 う」「ややそう思う」との回答し、総合評価でも総合的に満足しており、友人や後輩に勧め たいかという質問にもほぼ全員が「大変そう思う」を答えていることから、学生にとって は学びを得ることのできた充実したプログラムであったように見受けられるiii。 しかし一方で、「沖繩学入門」の到達目標は達成できたのだろうかという疑問も残る .「沖 縄学入門」の授業全体を通して、歴史や文化、社会課題を認識することができ、沖縄での 現地活動から思考し始めたと思うが、それぞれのテーマがまだ関連性を持っていないよう にも見受けられる。例えば、サービス活動(珊瑚舎スコーレの夜間中学校ivでの活動)後 の学生のコメント、感想をあげてみよう。
(中略)個人的に最も印象に残っているの活動地は珊瑚舎スコーレです。私自 身このような学校に通っていたこともあり、過去の自分と重ねあわせることが 多々ありました。最終日に戦後を生き抜いてきた 4 名の方の作文を聞くことがで きました。あるおばあちゃんは、中学に行けなかったことが悔しくて、専門学校 に行って手に職をつけて、それからずっと家族を養ってきたそうです。スコーレ に入ってから周りとの学力の差が悔しくて何度もやめそうになった、でもこうし て 3 年間続けてきてよかった。先生ありがとうと言っていました。(中略)40 歳 以上歳の離れている私に何度もありがとうと言ってくれました。私も勉強できな かったことの後悔に襲われ、自分と周りを比べてしまうことが多々ありました。 しかし彼らを見て、何かを始めるのに遅いことは無いのだと改めて思えました。 学ぶ環境がある幸せ、知識が増える楽しさ、共に学ぶ嬉しさ、そのどれか一つを 感じるだけで、人は笑顔になれます。みなさんに会って過去を振り切る勇気と未 来に向かって学び続ける決意をもう一度持つことができました。 活動を通して自分自身を見つめ直し、そこから気づき考えることはとても大きな学びで ある。しかし、サービス活動を通して、沖縄で学齢期に学ぶことができなかった社会状況 や学ぶ権利を保障することの意味を考えることで、また一つ沖縄を理解し、活動の意義を 理解することができただろう。しかし、上記学生からの感想からはそれに関する言及は見 受けられない。別の学生と事後学習も終わった後に、実施したサービス活動についてそれ らサービス活動が起こった社会背景、活動の社会意義について考えたかどうかを話したと ころ、学びはたくさんあったものの、それらが沖縄を理解する上で一つにつながってい なったことを話し、改めて気付きを得た様子だった。 加えて、受入団体の ONC からの事後アンケートから、「学生が客観的に沖繩をみてい る感があった」というコメントが寄せられた。客観的に物事を捉えることは良いのだが、 それが自分ごととなっていないというご指摘を受けた。 サービス活動は、その活動を通して市民として考えを養うという目的もある。その活動 にやりがいを見出し、社会参加の一歩を踏み出すきっかけになればとも考えている。学生 たちの感想やアンケートからは、活動自体にやりがいを感じ、もっと活動を行いたかった と言っていたが、これが本プログラムにおいて学術的市民活動としての目標を達成するに は、活動中のリフレクション(振り返り)の中でそれらの意義や社会背景を沖繩の歴史や 文化、社会課題とリンクさせて考えていく必要があった。本プログラムの中でも振り返え りを取り入れていたが、授業内容や活動がつながり目標達成につながるようなリフレク ション(振り返り)はどのようにあるべきなのか、次項で考えてみたい。
3.サービス・ラーニングにおけるリフレクション
3 - 1 「沖繩学入門」でのリフレクション SL が、サービス(service、社会参加・貢献)活動と学び(learning)を接続する学習方法 であり、リフレクションがそのサービス活動と学びをつなぐものであることの認識は定着 しつつあるv。 「沖縄学入門」では、事前研修、沖縄での現地研修、そして事後研修でも振り返り(以下、 リフレクション)を行っている。事前研修では、授業後のコメントシートや授業内でのディ スカッション(合わせて質疑応答)などを行っている。沖縄での現地研修では、大学から 渡された「振り返りシート」の記入と振り返りの時間を設けているvi。沖縄での活動の後、 大学で研修全体の振り返りの時間を設け、その他報告会viiの実施、報告書を作成した。 授業後のアンケートでは、「サービス活動後の振り返りは、学習を実り多いものとするもの だった」かという質問に、全員が「大変そう思う」と回答している。また、市民学習の面に置 いてもサービス活動を実施したことにより、「自分以外の他者や社会に対してより関心を持つ ことができるようになった」「以前より自ら進んで行動することができるようになった」「地域 でのサービス活動の重要性を理解することができるようになった」という質問に対して「大変 そう思う」「ややそう思う」と答えている。これら回答からは十分にリフレクションがなされ、 学生たちにとって良いプログラムになっているようにも感じるが、先述した学生の感想やコメ ントから、再度リフレクションの在り方・内容を検討する必要があるのではないかと考える。 また、2015 年度に実施した「沖縄学入門」の課題の一つに、事前研修=学術的内容と沖 縄でのフィールド活動(サービス活動)が有機的に繋がっていないのではないかという課 題が上がった。受入団体と沖縄での活動前の打ち合わせをより丁寧に行い、目的等をより 明確にするなど改善点もあるだろうが、リフレクションが大学で学んだ知識をサービス活 動で活かすことができ、また活動の中から出てきた気づきや疑問などから学術的な理解へ つなげていくことの一助になるのではないかと考える。 3 - 2 リフレクションに関する理論と方法 サービス・ラーニングはアメリカを中心に発展してきたため同国では、サービス・ラー ニングに関する研究も数多いが関連してリフレクションに関する研究も多く行なわれてい る。日本でも、サービス・ラーニングが広がりを見せる中で、リフレクションに関する研 究がなされるようになってきたviii。 サービス・ラーニングでは、経験学習の理論が用いられるが、下記の図のような Kolb の経験学習の理論をもとにサイクルが考えられている。実体験の段階 (感じること) 抽象的概念化の段階 (考えること) 積極的な試行の段階 (行動すること) 省察的観察の段階 (観察すること) 【Kolb の体験学習サイクルのモデル】 (唐木 2004、村上 2009 より作成) このサイクルの中で、学習者がどの段階にいるのか(学習スタイルにあるのか)を見極 め、リフレクションの方法を取り入れていく必要がある(唐木 2004)。リフレクションの 方法も、読む(Reading)、書く(Writing)、為す(Doing)、話す(Telling)とあり、それぞ れの段階でどのような方法でリフレクションするのか、またそれぞれリフレクションの方 法にも長所・短所があることから、学習者の学習スタイルがどの段階にあるか見極めなが ら、リフレクションの方法を適材敵所という観点から選択する必要があることを言及して いる(唐木 2004)。 和栗は、リフレクションが未だ日記や活動の説明、感傷的な内省といったイメージを教 職員や学生に持たれ不必要とみなされることもあり、このような誤解が「リフレクション」 あるいは「振り返り」が日常的・慣用的にも使用される言葉であることと同時に、学習手 法の一環で用いられたとしても、その日常的・慣用的な「リフレクション」理解のまま実 践されるケースが存在することに起因すると指摘している(和栗 2015)。これまでのリフ レ ク シ ョ ン に 関 す る 研 究 を 整 理 し た 上 で、Ash と Clayton(2009)を 参 考 に Critical Reflection(以下、CR)の提案を行っている。CR とは、リフレクションが試行や行動の質 を改善し、思考と行動の関連を深めるプロセスであることを前提に、それがプロセスとし て適切にデザインされたリフレクションである。CR は、学びを生み出し(generates)、 深め(deepens)、記録する(documents)ものとされている。そのデザインのために、3 つ のステップが提示されている(和栗 2015)。 ①求められる成果を決める(学習目的や目標の設定) ②それら成果を達成するためにリフレクションを設計する ③形成的かつ総括的な評価をリフレクションのプロセスに織り込む CR でも、リフレクションを設計するには、学習目標の設定及び、学習者がどの学習状 況にあるのか教員および学習者自身が把握する必要があるとし、学習目標を達成するため
の手順を示し、戦略的にリフレクションを行うことが重要だとしている。プロセスを踏ま えたリフレクションを行うことで、体験と学びがつながり、理解を深め、さらに貢献活動 へと繋がっていくことが考えられる。例えば半期の授業が終わったとしても、社会参加の 姿勢が身につけば、授業終了後も何らかの形で学習者(学生)自身が行動に移していくだ ろう。上記にある体験学習サイクルのモデルは授業が終了しても学習者自身が繰り返して いくことができれば、より学びが広がり深まっていく。「沖縄学入門」は本学のサービス・ ラーニング科目では、入門的な位置づけとなっているが、学習状況の様々な学生が参加す る中で、先に述べたように、事前研修と位置づけられた大学での授業、沖縄でのフィール ドワークやサービス活動が有機的につながるような効果的なリフレクションのあり方を再 度検討し、授業内ではもちろんのこと、授業後も発展した学び・行動につなげられるよう なものにしていきたい。
4.おわりに
「沖縄学入門」の学生の感想やアンケートをもとに、サービス・ラーニング科目を通じ て社会に向き合うための学びを検討してみた。大学での講義と現地でのフィールドワー ク・サービス活動が効果的につながり、学生たちの学びや活動につなげるには、様々な課 題が山積しているものの、それらをつなぐための一つの方法としてリフレクションの在り 方を考えてみた。今回は、理論と方法に触れた程度であるが、何を学ぶのか、何を考える のか、そしてそれを行動に移すのか、それをリフレクションの中で問いかけていくなど、 内容や質も丁寧につくり上げていく必要がある。 2015 年度にスタートしたプログラムであり、まだ履修者数も多くはないが、履修した 学生たちの満足度は高く、多くの学生に履修してもらいたいと声が寄せられている。それ が、自主的な報告会の開催に至ったり、今後学習会を企画したいなどの要望もある。一部 学生ではあるが、それが本授業の学びの成果につながっていると思われる。 サービス・ラーニングでは、活動先の地域への影響も考えなければならない。今回、受 入れしてくださった ONC では東京から来る学生たちと沖縄の学生たちが共に学ぶ機会を 設けることで両者の学びを作っていただいた。プログラムの中で沖縄国際大学福祉・ボラ ンティア支援室の稲垣ゼミにも協力いただき、学生同士学びを深めることができた(沖縄 国際大学 福祉・ボランティア支援室 2016)。参加した沖縄国際大学の学生の一人が、国 内留学制度を利用して 2016 年 4 月〜 8 月にかけて桜美林大学に来ることになり、事後研 修にも一緒に参加してもらった。受入団体への影響で考えると、団体からの率直な意見として、運営にかなりの負担が あったということが聞かれた。プログラム運営のほか、学生の対応やケアなども入ってき たことが考えられる。密な連絡・調整を行うことに加え、学生たちの学ぶ姿勢、市民とし て活動する姿勢も予め学生たちと共に丁寧に確認し認識として持たなければならない。 「なぜ沖縄を学ぶ必要があるのか?」 このような質問を受けることもある。先にも述べたように日本とは異なる歴史や文化か ら異文化理解の視点を学ぶことができる。また現在起こっている社会課題や社会事象をさ かのぼってみると日本の影響が多々あるということがわかる。沖縄について学ぶ、そのこ とが日本を知ることにもつながる。そこから他人事ではなく、自分ごとにつながっていく のではないだろうか。課題は山積しているが、そのような学びの一つを今後も「沖縄学入 門」でつくっていきたい。 最後となるが、NPO 法人沖縄 NGO センター、沖縄国際大学福祉・ボランティア支援 室稲垣ゼミをはじめ、本プログラムにご協力くださったみなさんに感謝を申し上げたい。 参考文献 沖縄国際大学 福祉・ボランティア支援室(2016)「File36 桜美林大学生と合同自主ゼミ「まちで考える 沖縄」『おきこく発 ボランティア BOOK 社会実践編』87-89 頁 唐木清志(2004)「サービス・ラーニングにおける「リフレクション」の理論と方法─『サービス・ラーニ ングにおけるリフレクションのための実践者ガイド』を事例として─」日本公民教育学会『公民教育 研究』vol.12 サービス・ラーニング・センター(2016)「Service Learning 2016 ▶ 2017」パンフレット 珊瑚舎スコーレ http://www.sangosya.com/frame.htm (2016/9/21) 土橋敏良(2011)「臨床教育プログラムとしてのサービス・ラーニングの展開─ キリスト教精神の浸透と 具現化を求めて─」『OBIRIN TODAY』11 号、149-163 頁 林加奈子(2014)「学而事人を目指したサービス・ラーニングにおける授業づくりへの提言─ 学生の学び と受入団体の意見をもとに─」『OBIRIN TODAY』14 号、119-132 頁
Janet Eyler, Dwight E Giles Jr., Angela Achmiede A practitioner’s guide to reflection in service-learning:
Student voices & reflections, 1996
https://leduccenter.files.wordpress.com/2015/02/practitioners-guide-to-reflection-in-service-learning. pdf(2016/09/26) 牧田東一(2015)「桜美林大学サービス・ラーニングのあゆみ〜 2011 年度から 2013 年度」『OBIRINTODAY』 第 15 号、67-71 頁 向井一朗(2014)「サービス・ラーニングを通じた「よき市民」への学び─地域社会参加(地域に根ざした 福祉)科目の実践事例から─」『OBIRIN TODAY』第 14 号、133-146 頁
村上徹也(2012)「サービス・ラーニングにおけるリフレクション研究の到達点」日本福祉教育・ボラン ティア学習学会『日本福祉教育・ボランティア学習学会研究紀要 20』8-18 和栗百恵(2015)「サービス・ラーニングとリフレクション:目的と手段の再検討のために」国際ボラン ティア学会『ボランティア学研究』Vol.15,37-51 注 i 2007 年度〜 2011 年度はサービス・ラーングという言葉を使用していなかったものの、実質的には サービス・ラーニングを趣旨とした授業づくりを行っており、2012 年度よりサービス・ラーニング 科目認定となった。(林、2014) ii 2016 年度、「地域社会参加」のプログラムは 10 プログラムある。2016 年度からは、リベラルアーツ学 群の学問基礎科目に位置づけられている。その他、サービス・ラーニング・科目は海外プログラム、 語学科目、専攻科目など合計 42 科目となる。また、桜美林大学サービス・ラーニングについては、 段階的な目標設定の一覧を向井一朗(2014)「サービス・ラーニングを通じた「よき市民」への学び─地 域社会参加(地域に根ざした福祉)科目の実践事例から─」『OBIRIN TODAY』第 14 号、133-146 頁 に、また『OBIRIN TODAY』第 15 号の「特集:サービス・ラーニングの学習効果」にある牧田東一 (2015)「桜美林大学サービス・ラーニングのあゆみ〜 2011 年度から 2013 年度」にまとめられている。 iii 回答なしの学生が 1 名いたが、その他全員が「大変そう思う」の回答となった。 iv 珊瑚舎スコーレの夜間中学校は、沖縄戦終結の前後に学齢期を迎え、混乱と貧困のため学校に通う ことができず、憲法で保障されている学ぶ権利を保障されなかった方々、学齢期を過ぎ、それぞれ の形で生活しながら現在も向学心を持ち続け学ぶ場を求めている方々のために開いた教室である。 v 和栗(2015)は Felten, Peter Gilchrist, Leigh, Z, and Darby, Alexa. 2006. Emotion and Learning:
Feeling our Way toward A New Theory of Reflection in Service-Learning. Michigan Journal of Community Service Learning 12(2):38-46 を援用し述べているが、幾つかのリフレクションに関 する論文でも同様のことが述べられている。 vi 沖縄での振り返りは、受入団体が行い、10 日間の研修期間中に 3 回ほど行った。できるだけ毎日行 うことを想定していたが、プログラムの関係で実施できない日もあり、その日は個人でのリフクレ クションを行うこととした。なお、個人のリフレクションには、大学から振り返りシートを用意し ていたが、受入団体から配布された日誌や個人ノートに記入する学生も様々だった。 vii お礼の気持ちを込めて、学生たちが自ら主催、実施した。
viii 唐木(2004)は、Janet Eyler らに寄って著された『サービス・ラーニングにおけるリフレクションの ための実践者ガイドブック』をもとにリフレクションの理論や方法を述べており、村上(2009)は John Dewey と David Kolb のリフレクションに関連した理論をもとに、リフレクションの意義と 効果の検証を経て、リフレクションを学習成果の評価に生かす方策へと移ってきた流れを確認する ために、Janet Eyler, Dwight Giles と Angela Schmeide, J. Beth Mabry によるリフレクションの意 義と効果の研究、そして Susan Wolcott と Cindy Lyngh, Sara Ash, Patti Clayton によるリフレク ションを評価に活かす方策を用いている。さらに、和栗(2015)は、これまでのアメリカにおける サービス・ラーニングのリフレクション研究をまとめながら、Creative Reflection の提案を行って いる。