Ⅰ.はじめに 「食」は人が生きていくためにはかかせないもの であり,健康な心身を作るための要である。ごはん を中心とした「日本型食生活」は 年頃の食生活 のことで,主食,主菜,副菜をそろえた食事を 日 食摂取することにより,栄養バランスの優れた食 事となっていた。しかし,ここ 年の間に日本を取 り巻く国際関係や経済発展などにより,私たちのラ イフスタイルは多様化し,それに伴い食生活も大き く変化した。現在の日本はホウショクの時代といわ れており,豊かな食を入手できる一方で,飽食・崩 食・放食といった様々な問題が生じている)。具体 的に子どもの食をめぐっては,朝食欠食,こ食など の食生活の乱れや思春期やせにみられるような心と 体の健康問題を生じている。乳幼児期は身体の発育 ならびに運動機能や精神面,さらに摂食機能も発達 し,この期に定着した食生活・食習慣は,その人の 生涯に渡る食嗜 好 に 影 響 を 与 え る と 言 わ れ て い る)∼ )。そのため,乳幼児期から正しい食事のとり 方や望ましい食習慣の定着および食を通じた人間性 の形成・家族関係づくりによる心身の健全育成を図 るため,発達段階に応じた食育を推進することが必 要であり,重要な意味を持つ)∼ )。 食育基本法( 年制定)の条文には,食に関す る体験活動と食育推進活動の実践として「食育は, 父母その他の保護者にあっては,家庭が食育におい て重要な役割を有していることを認識するととも に,子どもの教育,保育等を行う者にあっては,教 育,保育等における食育の重要性を十分自覚し,積 極的に子どもの食育の推進に関する活動に取り組む こととなるよう,行われなければならない」と明記 されている)。さらに,幼保連携型認定こども園に おける食育では,「食を営む力の育成に向け,その 基礎を培うこと」を目標に掲げ,日々の生活と遊び を通して,園児が自ら意欲をもって食に関わる体験 を積み重ねることを重視して取り組むことを掲げて いる),)。本学の敷地内には幼保連携型認定こども 園(以下,認定こども園と示す)を併設しており, 就学前の子どもが登園している。 そこで,卒業実験の取り組みとして,栄養士を志 す学生が幼児期における食育を推進するために,認 定こども園に登園する園児( 歳児)を対象として 楽しく学べる効果的なサポートについて検討した。 学生は食育を行う目的を明確にし,対象者のニーズ に合う内容を心がけ,食事のマナー,食べ物の栄養, 調理体験などについて園児たちに指導を行った。そ して,その効果について指導前後の食行動の変容を 検証することを目的とした。 Ⅱ.方法 認定こども園へ登園している 歳児と保護者を対 象として実施した。 .食生活アンケートの実施 )実施時期 第 回アンケート調査(以下,第 回調査と示
楽しい食育をめざして
―― 認定こども園の 歳児と一緒に ――
渡 邊 幾 子・東 山 慶 子
Consideration of Enjoyable Food Education
with Four-year-old Children of Early Childhood Education and Care
Ikuko W
ATANABEand Keiko H
IGASHIYAMABull. Shikoku Univ. : − ,
研究ノート
す): 年 月 第 回アンケート調査(以下,第 回調査と示 す): 年 月 )調査方法 園児たちの食生活状況を把握するために,保護者 にアンケート用紙を配布し,無記名自己記入式で実 施した。 )質問項目 第 回調査:(①朝食について,②おやつについ て,③好き嫌いについて,④はしの持ち方について など) 第 回調査:(①朝食について,②取り組みの中 で話題にあがったもの,③食育おたより「ぱくぱく つうしん」について,④「がんばりカード」につい て,⑤子どもの食に関する意識の変化,⑥子どもの 食習慣の変化,⑦食育の取り組みの効果・今後の取 り組みについて) .園児への集団食育指導 年度の実施計画一覧表を表 に示した。第 回調査の結果をもとに,認定こども園の先生方と話 し合い,指導内容を決定し,実施計画を作成した。 そして,学生が実施計画に基づいて指導案および資 料を作成し,認定こども園を訪問し実践した。 )実施時期および指導時間 食育指導は給食後に帰宅する園児もいるため,給 食の片付け終了後 分程度とした。 親子クッキングは 月 日(土),調理体験は 月 日(火), 日(水)に実施した。実施日につ いては認定こども園と大学の行事などを考慮して決 定した。 )実施場所 食育指導は認定こども園の教室・多目的保育室, 親子クッキングおよび調理体験は本学の調理学実習 室で実施した。調理学実習室には園児の身長に合っ たテーブルや調理器具を用意して,調理台とした。 .配布資料 食育おたより「ぱくぱくつうしん」 および「がんばりカード」 保護者は幼児期の食事内容および食習慣・食行動 に影響を与える要因として考えられる), )∼ )ことか ら,食育指導後には保護者に向けた食育おたより「ぱ くぱくつうしん」を作成し配布した。「ぱくぱくつ うしん」には写真入りの食育の取り組み内容,保護 者への食育指導記事および親子で簡単に作ることが できるレシピを毎回掲載し,家庭でも食育について 指導日 テ ー マ 園児への指導 食育おたより「ぱくぱくつうしん」 「がんばりカード」掲示資料 月 月 第 回食生活アンケート 食事のマナー ・食事のマナー○×クイズ ・正しいしせい ・食事のマナーを身につけよう! 月 えだ豆のさやむき体験 ・えだ豆のさやむき体験をしよう ・絵本「えだまめきょうだい」 ・えだ豆のさやむき体験をしよう! 月 親子クッキング 冷たいおやつの食べ方 ・冷たいおやつの砂糖の量 ・レシピ ・冷たいおやつの食べ方を考えよう! 月 調理体験をしよう 野菜の大切さ ・調理体験をしよう (包丁の使い方) ・野菜クイズ(ブラックボックス) ・調理体験をしよう! ・やさいをたべよう 月 おはしの指導 ・おはしを正しく持てるようになろう ・おはしを正しく持てるようになろう! 月 好き嫌いしないで 食べよう ・ つのグループの食べ物を食べよう ・紙芝居「こうちゃんの冒険」 ・好き嫌いしないで食べよう! 月 食育ゲーム 第 回食生活アンケート ・ つのグループに分けよう (ゲーム) ・えいようのうた ・ つの色に分けることができるかな? ゲームをしよう! 表 食育実施一覧表 ― 34 ―
の会話がはずむきっかけとなるよう考えた。また, 園児が家庭においても継続して指導したことに取り 組んでもらえるように,指導内容に沿った目標を設 定し「がんばりカード」を配布した。また,保護者 からのコメント欄を設け,認定こども園での取り組 みをつなげられるように工夫した。 Ⅲ.結果および考察 .第 回調査 食育指導前に実施したアンケート調査の結果を表 , と図 ∼ に示した。朝食の摂取状況では, 「必ず食べる」は .%となり,「食べない」と回 答した者はいなかったが,食事内容に問題がみられ る「主食だけを食べた」が .%と約 / を占め ていた。朝食および夕食の共食状況では,「家族そ ろって食べる」と「家族の誰かと一緒に食べている」 を合わせると,約 ∼ %の園児が家族と一緒に食 事をしていた。家族と一緒に食事をすることでコミ ュニケーションをとり,楽しい時間を過ごすことは 望ましい食習慣を身につけることや心の豊かさにつ ながる大切なことである。また,家庭内で子どもの 喫食状況を把握できることから,共食割合を高める ことは重要である。 幼児期には 日 回の食事だけで必要なエネル ギーを満たすことは難しく,捕食としておやつから も栄養を摂取する必要がある。また, 回の食事と は異なり楽しみながら食べることは気分転換や心理 的安定にもつながる大切な役割をもつ)。おやつの 摂食状況では,「毎日食べる」園児は .%おり, よく食べるおやつは「スナック菓子」 .%,「く だもの」 .%,「ゼリー・プリン」 .%であっ た。さらに,暑い夏に多く食べると思われる「アイ スクリーム」は .%,「ジュース類」は .%で あった。 好きな食べものでは,「いちご」 .%,「うどん」 .%,「カレー」 .%が上位を占めていた。一 方,苦手な食べものでは,「ピーマン」 .%,「な す」と「ねぎ」 .%となり野菜類を苦手としてい ることが示された。 食生活での悩みごとでは,「食べるのに時間がか かる」 .%,「むら食い」 .%,「好き嫌いが多 い」 .%が多く挙げられた。「特にない」と回答 した保護者は .%であったことから,保護者の多 項 目 (%) 摂 取 状 況 毎日食べる . 食べる日が多い . 食べる日が少ない . いつも食べない よく食べる おやつ (複数回答) 菓子パン . おにぎり . カップめん . スナック菓子 . ジュース類 . アイスクリーム . ゼリー・プリン . 牛乳 . チョコレート . せんべい . 和菓子(まんじゅう・だんご) . 洋菓子(クッキー・ケーキ) . あめ・ガム等 . くだもの . その他 . 項 目 (%) 朝食の摂取 状 況 必ず食べる . 食べる日が多い . 食べる日が少ない . 食べない 朝食の食事 内 容 主食(ご飯,パンなど)だけを食べた . 主食と汁物(みそ汁,スープ)を食べた . 主食とおかずを食べた . 主食と汁物,おかずを食べた . 無回答 . 朝 食 で の 共 食 状 況 (複数回答) 家族そろって食べる . 家族のだれかと一緒に食べる . 子どもだけで食べる . ひとりで食べる . 夕 食 で の 共 食 状 況 (複数回答) 家族そろって食べる . 家族のだれかと一緒に食べる . 子どもだけで食べる . ひとりで食べる . 表 朝食,夕食の摂取状況と共食状況について n= 表 おやつについて n= ― 35 ―
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菜を食卓に出す食べるモチベーションが上がるので 助かる!」,「苦手なお肉もがんばって食べることが できたね。これからも つのグループの食べ物を食 べて元気な体をつくっていこうね!」など,多くの コメントをいただき親子で楽しんで取り組んでいた だけた様子も伺えた。 . 子どもの食に関する意識および食習慣の変化 表 に示したように,保護者の .%が取り組み を通じて子どもの食に関する「意識が高まった」と 回答した。高まった意識には,「おはしを正しく持 つこと」,「苦手なものもがんばって食べようとする こと」,「食事のお手伝いをすること」,「栄養バラン スを考えた食事をとること」などが多く挙げられた。 さらに,保護者の .%が取り組みを通じて食習 慣が「改善された」と回答した。改善がみられた内 容としては,「食べ物に関心を持つようになった」, 「食事のお手伝いをする回数が増えた」,「苦手な食 べものが減ったこと」などが多く挙げられた。 . 食育の取り組みの効果・今後の取り組みに ついて 食育の取り組みの効果について表 に示した。保 護者の .%が「大変効果があった」または「効果 があった」と回答した。保護者からは,「子どもか ら聞いた内容やぱくぱくつうしんを通じて何を学ん だかを知ることができ,家での声かけもしやすくな った。園で学ぶ場があることで,家でも実践しよう とする意欲にもつながっていると感じた。望ましい 食生活の定着が図れるよう,家庭でも取り組んでい きたい」,「食に興味を持ち,家庭でクイズを出して くれるようになった。自ら正しい食習慣にしようと 心がけている」,「食事の量が多く残す場合に,赤い 食べ物は食べたから,緑の食べ物は食べると自分で 考えるようになった」,「食に興味がないタイプだっ たが,学んだことを教えてくれ,親が教えてもダメ なことをこども園で教わると興味を持てるようだっ た」など具体的な効果についての意見をいただい た。今後は「調理体験をしよう」,「おやつの食べ方」, 「好き嫌いしないで食べよう」,「正しいはしの持ち 項 目 (%) 食に関する 意識の変化 意識が高まった . 変化なし . 高まった意識 (複数回答) 栄養バランスを考えた 食事をとること . 朝食をしっかり食べること . おはしを正しく持つこと . よくかんで食べること . 食べ物に関心を持つこと . 食事のお手伝いをすること . 正しいマナー(姿勢など)で 食事をすること . 苦手な物もがんばって 食べようとする . 無回答 . 食習慣での 変 化 改善された . 変化なし . 改善がみら れ た 内 容 (複数回答) 栄養バランスを考えた 食事をとる回数が増えた . 朝食をしっかり食べるようになった . おはしを正しく持つことが できるようになった . よくかんで食べるようになった . 食べ物に関心を持つようになった . 食事のお手伝いをする回数が増えた . 食事をする時のマナー(姿勢など) が良くなった . 苦手な食べ物が減った . 無回答 . 項 目 (%) 大変効果があった 効果があった 普通 効果はなかった . . . . 表 食育に取り組んだ効果 表 食に関する意識および食習慣の変化 n= ― 39 ―
方」などの取り組みを希望しているという意見が多 かった。 Ⅳ.まとめ・今後の課題 保護者の .%から私たちの食育の取り組みにつ いて「効果があった」という回答をいただいた。保 護者の意見からも,園児だけでなく家庭での食育に もつなげることに成功したことが伺えた。以上のこ とから,私たちは取り組みの効果を検証する目的を 達成することができたと考えた。 食育は繰り返し指導していかなければ身につか ず,すぐに忘れてしまう。私たちの取り組みは卒業 実験としての 年間と限られることから,同じ園児 への指導は継続できない。食育の取り組みを続けて ほしいという保護者からの希望もあるが,どのよう に継続させていくかが課題となる。従って,家庭で 食育の話ができるようなきっかけ作りの大切さを改 めて痛感した )∼ )。 学生は園児たちへの食育指導の経験もなく,すべ てが初めてのことであった。最初は園児たちを指導 に集中させることが大変難しいようであったが,認 定こども園の先生方の援助やご指導により,少しず つできるようになった。今後,よりよい指導が行え るよう指導方法のスキル,おたよりや掲示資料など 適切な指導資料作成のためのスキルの向上を目指し 精進していかなければならないと実感していた。 卒業実験での取り組みは,食育指導をした際の園 児たちの素直な反応から受ける喜びや保護者アン ケートからの成果より,学生たち自身にも達成感が 残り,とても良い勉強の場となったことが伺えた。 この経験が社会貢献活動に積極的に参加するきっか けにつながるよう希望する。 謝辞 最後に,私たちの卒業実験にご指導・ご協力いた だきました認定こども園の先生方,並びにアンケー トや「がんばりカード」にご協力いただきました園 児および保護者の皆様に心より感謝いたします。 参考文献 )福田靖子編著, ,「食育入門 ― 豊かな心と食 事観の形成 ―」,建帛社, ‐ )厚生労働省, ,「保育所における食事の提供ガイ ドライン」( 年 月 日アクセス,https : //www. mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/shokujiguide.pdf) )山本真子, ,「認定こども園における食育実践」, 甲南女子大学研究紀要Ⅱ,第 号, − )農林水産省, ,食育基本法, ( 年 月 日アクセス,https : //www.maff.go.jp/j/ syokuiku/pdf/kihonho_ .pdf) )農林水産省, ,令和元年度食育推進施策(食育 白書)〔概要〕,( 年 月 日アクセス,https : // www.maff.go.jp/j/syokuiku/wpaper/attach/pdf/r _index ‐ .pdf) )農林水産省, ,第 次食育推進基本計画,( 年 月 日アクセス,https : //warp.da.ndl.go.jp/info : ndljp/pid/ /www .cao.go.jp/syokuiku/about/plan/ pdf/ kihonkeikaku.pdf) )表真美, ,「認定こども園における食育の展開 ― 中核市 T 市,私立こども園(幼保連携型認定こ ども園)の事例を中心に ―,食物学会誌・第 号 )内閣府,文部科学省,厚生労働省, ,幼保連携 型認定こども園教育・保育要領解説, − )厚生労働省, ,平成 年度乳幼児栄養調査結果 の 概 要,( 年 月 日 ア ク セ ス,https : //www. mhlw.go.jp/file/ ‐Seisakujouhou‐ ‐Koyouk-intoujidoukateikyoku/ .pdf) )三輪聖子,小川宣子, ,「岐阜県における幼児の 食育実態調査と食育推進活動の実践例」,岐阜女子 大学紀要,第 号, − )多々納道子,山田千尋, ,「幼稚園における食育 の実態と課題」,島根大学教育学部紀要(教育科学), 第 巻, − )森本和子, ,「幼稚園児への食育の取り組み ― 卒業実験のなかで ― 」,四国大学紀要(B) , − ) 村明子,久保薫, ,「保育所・幼稚園における 食育実践状況に関する系統的レビュー」,青森中央 短期大学研究紀要,第 号, − , )木村亜希子,森山洋美,山本えり, ,「幼児期の 親子クッキング活動に及ぼす調理環境の影響 ― あ おもり食行くサポーター事務局の活動事例から ―」,青森中央短期大学研究紀要,第 号, − (渡邊幾子:四国大学短期大学部人間健康科食物栄養専 攻,食生活学研究室) (東山慶子:元四国大学短期大学部人間健康科食物栄養 専攻,栄養教育学研究室) ― 40 ―
抄 録 近年,子どもの食をめぐっては,朝食欠食等の食生活の乱れや思春期やせにみられるような心と 体の健康問題が生じている。そのため,乳幼児期から正しい食事のとり方や望ましい食習慣の定着 および食を通じた人間性の形成・家族関係づくりによる心身の健全育成を図るため発達段階に応じ た食育を推進することが必要となっている。そこで,幼児期における食育を推進するために,楽し く学べる効果的なサポートについて検討し,食事のマナー,食べ物の栄養,調理体験などについて 園児たちに指導を行い,その効果を検証することを目的として食育を実践した。 食育指導後には,子どもたちの食に関する意識が高まり,食習慣が改善されたという効果がみら れた。保護者の .%が,私たちの食育の取り組みについて「効果があった」と回答した。保護者 の意見からも,園児だけでなく家庭での食育にもつなげることができた可能性を実感した。 食育は繰り返し指導していかなければ身につかず,すぐに忘れてしまう。そのため,家庭で食育 の話ができるきっかけ作りの重要性を改めて認識した。 キーワード:食育,効果,認定こども園 ― 41 ―