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イノベーションを生むベンチャー支援

千葉商科大学商経学部教授 経済研究所長

橋本 隆子

筆者の専門はコンピュータ・サイエンスである。米国で「コンピュータ・サイエンスをやっている」という と、多くの人から「それは儲かるだろう」と言われる。米国では、IT分野において、大企業のみならず多く のベンチャー企業がイノベーションを創出し、高収益を生み出しているからだ。ベンチャーについてのリポー トであるTimmons (1994)ⅰも、アメリカの戦後のイノベーションの50%、特に画期的なイノベーションの 95%(例、パソコン、検索エンジン、SNS等)が大企業ではなく、ベンチャーから生まれたと述べている。 翻っ て日本はどうであろうか?もちろん目覚ましい業績を上げているベンチャーもあるにはあるが、総じて社会 全体に元気がないように感じられる。 実際、中小企業白書2012年版ⅱでも、日本の中小企業の開業率は5%以下であり、米国(約10%)やイギリ ス(約12%)に比較すると著しく低いことが示されている。また近年、米国ではGoogle、Amazon、Facebook といった売上高数兆円を超えるベンチャーが生まれているのに対し、日本では楽天やグリーといった企業で すら売上高は1兆円に満たず、大きく成長するベンチャーが出ていないという指摘もある。米国に比べ日本 のベンチャーはまだまだ不活発であるといえる。 こうした違いは何に起因するのか。ここでは、私自身の米国での経験から、以下の2つを理由として挙げ たい。 1)失敗を許容する風土

「Don’t take it personally」という言葉をご存知だろうか。「個人の問題として考えるな」といった意味で あり、何かミスやまずい状況が発生した時、米国人からよく言われる言葉である。彼らは失敗を個人の問題 として捉えない。失敗は恥ではなく、そこから学ぶことができるものであり、次の挑戦へのステップと考え る。もちろん本音ではいろいろあるのかもしれないが、失敗を個人の問題として受け取り、ただ落ち込むこ とは「弱さ」であると考える。こうした姿勢が失敗を恐れず成功するまで何度もやり直すベンチャーを生む風 土につながっているのではなかろうか。 2)起業家精神(entrepreneurship)に対する尊敬の念 米国では起業に関するセミナーやワークショップが頻繁に開催され、起業意欲に燃える人が数多く参加し ている。新しく自分で事業を始めること、誰もやらなかったことにチャレンジすることに意義を見出し、周 囲もそれを尊敬する傾向がある。ハーバードのような一流大学出や元企業エリートから多くの起業家が生ま れているのも特徴である。日本でも起業についてのセミナーや講義が徐々に行われるようになっているが、 米国と比べ、起業活動の認知度、起業の知識・能力・経験が低い。起業家精神(entrepreneurship)に対す る尊敬の念に欠けるのではないかと考えられる(Global Entrepreneurship Monitorⅲ)。

こうした社会風土の他に、米国では、債務の返済責任が相当程度免除される、「エンジェル投資家」などか らの資金調達が容易である、といった社会制度の違いもある。日本においても、経済産業省がベンチャーや 新事業創出担い手・支援人材の育成、エンジェル税制の運用改善、ベンチャー投資の促進、クラウド・ファ ンディングといった施策を開始しているが、十分な成果が上がっているとは言い難い。社会制度のみならず、 上記で述べたような社会風土も変革していく必要がある。千葉商科大学経済研究所中小企業研究支援機構で も、社会を変えるイノベーションを創出する一助となるために、大学の研究機関として、失敗を恐れない起 業家精神の育成、社会制度のモニター及び周知・啓蒙、ベンチャー起業の支援等を積極的に行っていきたい と考えている。

ⅰ Timmons, J.A. 1994. New Venture Creation: Entrepreneurship for the 21st Century. Fourth edition. Irwin Press, Burr Ridge, IL.

ⅱ 中小企業白書(2012年版)http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H24/PDF/h24_pdf_mokuji.html ⅲ 起業家精神に関する調査(GEM調査) http://www.vec.or.jp/report_statistics/gem/

1 中小企業支援研究 Vol.4

参照

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