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〈論説〉アメリカ労働安全衛生法(OSHA)における労働者権の検討--一般的義務条項を手がかりとして

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(1)ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)に. お け る労 働 者 権 の 検 討. ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA) に お け る労 働 者 権 の検 討 一般的義務条項を手がか りと して. 典. 柴 ※本 稿 は,筆 者 が 平 成10年(1998年)1月. に一 橋 大学 大学 院 法 学 研 究 科 に提 出 し. た博 士 課 程 単 位 修 得 論 文 の一 部 を な す もの で,元 究 所)181号139∼162頁(1997年)に. 丈. は,季 刊 労 働 法(総 合 労 働 研. 掲 載 した論 考 「ア メ リカ にお け る労 災 予 防. 権 の検 討 一 と くに労 働安 全衛 生 法(OSHA)の. 一 般 的 義 務 条 項 との 関 わ りにつ. い て一 」 を 大 幅 に加 筆 修 正 した もの で あ る。 わ が 国 に お け る安 全 衛 生 法 制 の 現 状 と,筆 者 のそ の後 の研 究 成 果 の公 表 事 情 に照 ら し,改 め て 公 開 の 必 要 性 を 感 じた こ とか ら,こ こで掲 載 の機 会 を 頂 く こ とを ご寛 容 賜 りた い 。. 1.は. じめ にOSHA. ア メ リカ に は,我 が 国 の 労 働 安 全 衛 生 法 に相 当 す る も の と して,OSHA (OccupationalSafetyandHealthAct,29U.S.C.A§651etseq.) と呼 ば れ る連 邦 法 が存 在 して い る。 本 法 は,国 家 的 労 働 環 境 整 備 の 必 要 性 か ら1970年 に各 州 法 を統 合 す る形 で 連邦 議 会 に よ り可 決 され た もの で(施 行 は1971年),そ. の適 用 領 域 は,州 際 通 商 に影 響 す る事 業,地 理 的 に は連 邦. の 司 法 管 轄 域 の全 土 に 及 び,現 在 で は約1億. 人 の労働 者が保護 下 に はい. る。 この例 外 は,別 個 の 法管 轄 域 に あ る,炭 鉱 労 働 者,輸. 送 業 労 働 者,公. 務 員,自 営 業 者 な どで あ る{1)。 小 畑 助 教 授 の指 摘 す るよ うに,OSHAが,①. 労 使 の安 全 衛生 に関 す る一. 般 基 準 と特 定 基 準 を定 め,そ の履 行 確 保 の た め の包 括 的取 締 シ ステ ムを 提 一79(500)一.

(2) 近畿大学法学. 第49巻 第2・3号. 供 して い る点 ②,② 安 全 衛 生 に関 す る行 政 の組 織 法 的 性 格 を有 す る点,③ 法 の 目 的実 現 の た め の 国 の な す べ き活 動 に っ い て 定 め て い る点 な ど は,わ が 国 の労 働 安 全 衛 生 法 と共 通 して い る(3)。しか しなが ら本 法 は,①. 明文規. 定(法4条(bX4))の. して の. 定 め に よ り,行 政 法(administrativelaw)と. 特 殊 な性 格 を与 え られ て い る こ と,② 一 般 的義 務 条 項 と呼 ば れ る一 般 的 な 職 場 環 境 整 備 義 務 条 項 を有 し,こ れ に民 事 罰(過 料)の 裏 付 けを以 て 実 効 性 確 保 に当 た って い る こ と,③ 使 用 者 の義 務 の み な らず,行 政 機 関 そ の 他 に対 す る労 働 者 の権 利 を裏 付 け る法 制 度 で あ る こ とな ど,我 が 国 の労 安 法 と は労 災 予 防 法 と して の性 格 を著 し く異 に して い る。 この う ち① につ いて は若 干 の コ メ ン トが 必 要 で あ ろ う。 ア メ リカ に は, そ もそ も 日本 や ドイ ッで い う公 法 ・私 法 の概 念 は存 在 しな い の で,こ の意 味 か らOSHAの. 属 性 を 問 う こ と はで きな い。 しか し,本 法 は そ の4条(b). (4)の定 め に よ り,立 法 上 と くに行 政 法(administrativelaw)と 殊 な(=い. して の特. わ ゆ る 「公 法 的 な」)性 格 を 与 え られ て い る。法4条(b)(4)は 次 の. よ うに い うo. 「本 法 の 規 定 は,い か な る解 釈 を もっ て も,労 災 補 償 法 に優 先 した り, それ に影 響 す る もの と解 され て は な らな い。 同様 に,業 務 に起 因 す るか そ の遂 行 中 に生 じた災 害,疾 病,死 亡 に 関 し,い か な る法 の下 にお いて も,労 使 の コモ ン ロー上 あ るい は法 律 上 の権 利,義 務. 責 任 を拡 大 した. り,縮 減 す る もの と解 さ れ て は な らな い」。. 判 例 の 多 く は,本 規 定 の 趣 旨 に っ い て,「 労 働 者 はOSHAを 個 人 的(private≠. 私 法 上 の)救. 根 拠 と して. 済 を 受 け 得 な い 」 と す る も の と 解 し て,本. 法 を 根 拠 と す る 民 事 損 害 賠 償 請 求 を 否 定 して き た 。 例 え ば1974年 たRusselv.Bartley事. 件 区 裁 判 所 判 決(494F.2d334(6thCir. 一80(499)一. に下 さ れ.

(3) ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)に. 1974))は,次. お け る労 働 者 権 の検 討. の よ う な事 案 につ いて 下 され た も ので あ る。 被 災 者 た る原. 告 ・控 訴 人 は,被 災 者 の使 用 者 た る被 告 ・被 控 訴 人 の雇 用 領 域 に お い て, そ の職 務 中 に災 害 を被 った。 この被 害 は,彼 が就 労 して い た溝 が崩 れ て発 生 した もの で あ り,控 訴 人 の 申立 に よれ ば,使 用者 のOSHA違. 反 が引 き. 金 とな った もの で あ る とい う。 控 訴 人 は,州 法 に基 づ き労 災 補 償 請 求 を な し,そ の給 付 を受 けた が,こ れ と は別 個 に使 用 者 お よ び彼 の職 務 計 画 の作 成 に 当 た った技 術 会 社 を相 手 方 と して,そ. のOSHA違. 反 を根 拠 に民 事 損. 害 賠 償 請 求 訴 訟 を 提起 した 。そ こで一 審 連 邦 地 方 裁 判 所 は,OSHAは. 労働. 者 に対 しそ の 使 用 者 も し くは第三 者 に対 す る私 訴 権 を付 与 す る もの で はな い,と して この請 求 を斥 けた 。続 く控 訴 審 も一 審 の判 断 を支 持 して い わ く, 「OSHAは,で. き る限 りす べ て の労 働 者 に対 して 安全 で衛 生 的 な 労 働 環 境. を保 証 す る こ とを 目的 と して お り,… … こ の 目的 のた め,本 法 は通 商事 業 に従事 す る使 用 者 に安 全 上 の要 件 を特 定 す る と と も に,こ の使 用 者 に安 全 な労 働 条 件 を提 供 す べ き義 務 が あ る こ と を強 調 して い る。 この よ うな 義 務 の強 制 は,刑 事 制 裁,民 事 罰 お よ び差 止 め救 済 の発令 に よ って 担 保 され て い る。 しか しな が ら,本 法 お よ び そ の立 法 過 程 にお いて,労 働 者 が 本 法 違 反 を理 由 に被 った損 害 の賠 償 請 求 を他 者 に対 して なす 個 人 的 な民 事 的 救 済 に っ い て言 及 した もの は な い。 む しろ法4条(b)(4)は,こ. の よ う な私 訴 権 が. 労 働 者 に存 しな い 旨 を明 記 して い る ので あ る… … 」 と(4)。この うちOSHA が 定 め る差 止 め救 済 と は,OSHA13条. に定 め る差 止 め救 済(injunctive. relief)お よび緊 急 差 止 め命 令(temporaryrestrainingorder)の. こ とで. あ り,こ れ らは あ くま で連 邦 地 方 裁 判 所 の独 自権 限 に よ って 発 令 され う る に す ぎ な い。 した が って,労 働 者 がOSHAの 手 段 は,原. 履 行 を求 め る上 で と り う る. 則 的 に は労 働 安 全 衛生 局 へ の 申立(5)に限 られ て お り,こ. の点 我. が国 の労 働 安 全 衛 生 法 と は,そ の法 的 性 格 に お いて 根 本 的 な 差 異 を 有 す る の で あ る。 一81(498)一.

(4) 近畿大学法学. 第49巻 第2・3号. で は,本 法 は近 年 ます ます 増 加 の一 途 を辿 る衛 生 危 険 へ の対 応 を如 何 に 行 い,そ の運 用 に際 して労 働 者 に いか な る役 割 を期 待 して い る ので あ ろ う か。 この点 の検 討 に と りわ け有 益 な示 唆 を与 え る の が② で 述 べ た一 般 的 義 務 条 項 で あ る。 本 条 項 は,そ 的 な基 準 た るOSHA基 労 使 双 方,と. もそ も,全 て の職 場 状 況 を カ ヴ ァーす る具 体. 準(安 全 で衛 生 的 な職 場 環 境 づ く りの た め に法 が. りわ け使 用 者 に課 す 具 体 的 な作 為 義務,お. よび不 作 為 義 務(6〕. の完 全 整 備 は期 待 で きな い,と の考 え か ら,補 完 的役 割 を も って議 会 で作 成 され た もの で あ る。「補 完 的役 割 」 と い うと,一 見 大 した重 要 性 を持 た な い よ うに思 わ れ が ち だ が,本 規 定 は,そ れ 自身OSHAの. 制 度 趣 旨 を体 現. した極 め て存 在 価 値 の 高 い 規 定 で あ り,そ の 運 用 も活 発 に な さ れ て い る。 さ らに本 規 定 は,労 働 者 が 自 ら一 定 の 労 災 予 防 措 置 を講 じ るに 際 し,そ の 行 為 を 権 利 づ け る と と も に,そ の 要 件 基 準 を 形 成 す る重要 な役 割 を担 って い る。そ れ故 に,本 稿 で は,ま ず はOSHA法. 体 系 の全 体 像 を概 観 した後,. 本 規 定 が こ こにお いて いか な る位 置 づ けを与 え られ て い るか,ま た そ の要 件 効 果 は い か な る枠 組 み を形 成 して い るか を重 点 的 に 考 察 す る こ と に よ り,演 繹 的 に ア メ リカ労 災 予 防 法 の 特 質 を 解 明 して い く こ と とす る。. 1-10SHAの 〈OSHAと. 法的枠組み 労働安全衛生局〉. 約25年 前,合 衆 国 議 会 は,「 国 内 の で き る 限 り全 て の 男 女 労 働 者 に 安 全 で 衛 生 的 な 労 働 条 件 を 確 保 す る た め 」,労 働 場 所 に お け る 災 害 疾 病 に 対 す る 連 邦 保 護 の 法 的 枠 組 み を 確 立 した 。 こ の 枠 組 み の 中 心 を 構 成 す る の は,①1969年. の 炭 鉱 安 全 衛 生 法(the. MineSafetyandHealthActof1969,§2etseq.,30U.S.C。A.§801 etseq.-MSHA)と. ② 労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)で. れ 炭 鉱 安 全 衛 生 局(MSHAdministration)と 一82(497). あ る。 両 者 は そ れ ぞ 労 働 安 全 衛 生 局(OSHA. 一.

(5) ア メ リカ労 働 安 全 衛生 法(OSHA)に. dministration)に. お け る労 働 者 権 の検 討. よ り実 際 の運 用 が な され て お り,新 た な法 規 制 によ る安. 全 環 境 整 備 へ の誘 導,法. 執 行 活 動 に よ る操 業 の差 止 あ,訓. 練 ・相 談 活 動7). の実 施 な ど,総 合 的施 策 が行 わ れ て い る。 両 法 制 度 の確 立 に よ り,1970年. に は死 亡 件 数 の み で13,800件 あ った重 大. 災 害 は,労 働 人 口の 増 加 に も関 わ らず,1993年. に は9,100件 に ま で減 少 して. い る。 炭 鉱 部 門 で も ほ ぼ 同 様 の減 少 を示 して い る。 そ の 他,局 行 った 後3年. 聞 は,当 該 産 業 にお い て22%災. と,製 造 業,建 設 業,ガ 産 業 に比 べ,特. 害 疾 病 発 生 率 が 減 少 した こ. ス取 扱 業 者 の よ うに局 が特 に注 目 した産 業 は,他. に そ の効 果 が 著 しい こ とが 知 られ て い る(8)。. 先 に述 べ た通 り,OSHAの. 法 執 行 手 続 は,担. 当 の労 働 副 長 官 〔9)の 指揮. 下 に あ る,連 邦 労 働 省 内 の労 働 安 全 衛 生 局(OSHAdministration)が す るが,そ. が査察 を. 管轄. の最 終 責 任 は労 働 長 官 が 負 い,運 用 状 況 を定 期 的 に連 邦 大 統 領. へ 報 告 す る。 労 働 長 官 及 び厚 生 長 官 は,法8条(9×2)に 必 要 な 「規 則(regulation)」. お い て,法 の運 用 上. の制 定 権 限 を付 与 され,そ の機 動 的 運 用 を図. る。た だ しこ こで い う 「規 則 」 とは,特 定 の 危 険 を 改 善 す る 目的 を もっ 「基 準(standard)」. と は 区別 さ れ,あ. くまで 法 の運 用 形 態 に関 わ る もので あ. るnog。. 〈法 的 義 務> OSHAが. 使 用 者 に 課 す 義 務 の う ち 主 要 な 部 分 は,法5条(aX1)の. 一般 的義 務 条項 と. ,法5条(aX2)の. 定 め るOSHA基. 定め る. 準 の 遵 守 規 定 に よ って. 構 成 さ れ る。 こ の う ちOSHA基. 準 は,そ. の 作 成 方 法 に 基 づ き,①. 既 存 の 全 国 合 意 基 準(nationalconsensusstandard)p1)をOSHA基 に 取 り込 ん だ も の,② 廃 制 定 す る新 基 準,③. 法6条(b)に 法6条(c)に. よ り,労. 法6条(a)に. よ り, 準. 働 長 官 が 独 自の権 限 を も って 改. よ り,労 働 者 が 急 迫 の 危 険 に 直 面 し た 際,. 一83(496)一.

(6) 近畿大学法学. 第49巻 第2・3号. 労 働 長 官 に よ り発 行 され る一 時 的基 準,に 分 類 され る。 労 働 安 全 衛 生 局 は 立 法 措 置 に よ り1973年 に 既 成 基 準 の 採 用 権 限 を 失 っ て お り,現 在 の OSHA基. 準 発 行 は② を 中心 に な され て い る。. osxA基 育 」 義 務,②. 準 が定 め る代 表 的義 務 内容 は,①. 「従 業 員 訓 練 及 び従 業 員 教. 「安 全 器 具 の整 備 ・提 供 」 義 務. ③ 「健 康 危 険 の あ る化 学 物. 質 か ら労 働 者 を 保 護 す る」 義 務 な ど に集 約 され る。 これ らは外 観 上 日本 の 労安 法 の 危 害 防 止 基 準(労 安 法20条 以 下,「 事 業 者 の講 ず べ き措 置 な ど」参 照 。)の 定 め る義 務 と同 列 で あ るか に見 え るが,そ の 細 目が 基 準 自体 よ りむ しろ判 例 法 に よ り規 律 され る度 合 い が 高 い こ と に特 徴 が あ る働。 法 体 系 の 違 い か ら単 純 な比 較 は で きな い が,こ の傾 向 は特 に 我 が 国 で い う作 業 基 準 (例 え ば労 働 安 全 衛生 規 則177条,339条,376条. ほか参 照)に 顕 著 で あ り,. これ に相 当す る規 定 は少 な く と もア メ リカ の現 行 労 働 安 全 衛 生 法規 に は存 しな い。加 え て ア メ リカ で は,い わ ゆ る 「先 例 拘 束 性 の 原理(doctrineof staredecisis)」 が 揺 らい で きて い る こ と もあ りo⑳,基準 の解 釈 に は一 定 程 度 不 確 定 要 素 を 抱 え て い る。従 って,OSHA基 個 別 的比 較 を 行 って も,余 本 法 は この他,使 告 義 務nv,OSHA関. 準 と 日本 の危 害 防 止 基 準 の. り実 質 的 意 味 を な さ な いで あ ろ う。. 用 者 に対 して 災 害,疾 病,死 亡,特 定 危 険 の記 録 ・報 連 情 報,OSHA違. 反 に際 して発 行 され る通 告 書 の掲. 示 義 務 な どを定 あ,労 働 者 に対 して もOSHA上 を遵 守 す べ き義 務(法5条. の 基 準,規 則,命 令 な ど. ㈲)を 課 して い る。 しか しな が ら,こ れ らは労. 働 者 を対 象 と す る可 罰 的 要 件 を 定 め る もの で は な い。OSHAの 件 の最 終 的 責 任 は あ くま で使 用 者 が負 い,彼. 法遵守要. は違 反 労 働 者 の懲 戒 も含 あ,. 可 能 な限 りの手 段 を も って 自 ら労 働 者 に法 を遵 守 させ る義 務 を排 他 的 に負 わ され て い る ので あ る(こ れ に対 応 す る 日本 法 上 の規 定 と して 旧労 基 法44 条 な らび に現 行 労 安 法26条 を参 照 され た し)晩. 一84(495)一.

(7) ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)に. お け る労 働 者 権 の検 討. 〈法 執 行 手 続> OSHAの. 法 執 行 手 続 につ い て の詳 細 は,す で に大 久 保 論 文αE6,小畑 論. 文 αnで紹 介 さ れ て い る の で,こ こで はそ の 大 まか な 概 要 を の べ,特 徴 を指 摘 す る に と ど あ た い。 まず,労 働 安 全 衛 生 局 は,労 働 者 か らの 申立,査 察 循 環 リス トな ど に も とづ き,資 格 証 明 書 を提 示 して(憲 法 修 正4条,OSHA8条(aX1))事. 業所. の査 察 を 行 う。 現 状 で は8割 を 超 え る ケ ー スで こ の査 察 に労 働 者 代 表 が 同 行 し,査 察 を徹 底 して お り⑬,こ れ は法8条(e)に よ り労 働 者 代 表 に認 め ら れ た正 当 な権 利 行 使 で あ る。 査 察 中OSHA違. 反 が 発 見 され,そ れ が 直 ち. に 改善 され な い場 合,労 働 長 官 は使 用 者 に違 反 通 告(citation)を. 行 う と同. 時 に,違 反 程 度 に よ り段 階 化 さ れ た 制 裁 を 通 知(noticeofproposed penalty)す. る。科 され る制 裁 は,民 事 罰(過 料)が 殆 ど で あ り,故 意 の 死. 亡 災 害 に限 り刑 事 制 裁 も適 用 され るが,デ. ュー ・プ ロセ ス上 の配 慮 か ら,. 一 般 的 義 務 条 項 違 反 に際 して この制 裁 は適 用 され な い。 通 告 の送 達 後,使 用 者 が 誠 実 に異 議 の 申立(employercontests)を. な した場 合,手 続 は準. 司 法 的 機 能 を有 す る労 働 安 全 衛 生 審 査 委 員 会(OccupationalSafetyand HealthReviewCommission恥 ministrativeLawJudge)⑳. の 下 で の 裁 決 手 続 一 行 政 審 判 官(Adに よ る予 備 審 問 協 議(委 員 会 規 則51条)と 委. 員 会 に よ る審 問 手 続(委 員 会 規 則60条 以 降)一. に移 り,こ の手 続 の間,通. 告 書 の 危 険 改 善 措 置 命 令 の 効 力 は保 留 され る。 そ の最 終 命 令 の発 令 後,こ れ に よ って 不 利 益 を 受 け る 「全 て の 者 」 は連 邦 巡 回 区 あ る い は巡 回 区 裁 判 所 に審 査 請 求 を な す こ とが で き る⑳。 た だ し,行 政 機 関 と裁 判 所 との権 力 の分 断性(separationofpowers)を. 確保 し,委 員 会 の 専 門 的 判 断 を 尊 重. す るた め,裁 判 所 の 司 法 審 査 は,そ の 判 断 が 恣 意 的 で あ った り,委 員 会 が 裁 量 権 を逸 脱 した場 合 な ど,そ の 範 囲 が極 あ て 制 限 され て い る㈱。 以 上 の よ うな,申 立 → 調 査 → 任 意 解 決 へ の働 きか け→ 審 問 と行 政 審 判 官 一$5(494)一.

(8) 近畿 大学 法 学. 第49巻 第2・3号. の 決 定→ 委 員 会 の 決 定 → 司 法 審 査 と執 行 力 の 付 与 と い う一 連 の 手 続 は,① 行 政 委 員 会 が 専属 的 管 轄 権 を 有 す る点,② 行 政 機 関 の イ ニ シ ア テ ィブで 手 続 が 進 め られ る点 な ど で,全 国 労 働 関 係 法 の(NationalLabourRelationsAct)定. め る不 当労 働 行 為 救 済 手 続 に酷 似 して い る㈱。 この こ とか. ら,本 法 制 度 が連 邦 労 働 者 の安 全 衛 生 とい う 「公 益 」 を擁 護 し,ひ いて は 州 際通 商 の 円滑 化 を 図 るた め,「規 制 行 政 的 性 格 」を与 え られ て い る こ とを 確 認 で き る⑳。 しか しな が ら,本 法 制 度 にお け る事 件 処 理 が 行 政 規 制 に委 ね られ た理 由 が,申 立 人 の手 続 的権 利 を排 除 す る こ とで はな く,む しろ本 法 の法 目的 の迅 速 か っ効 果 的 な実 施 に あ った こ と は,次 節 で の 検 討 か らも 明 らか で あ る。. 1-2労. 働 者 の知 る権 利 と法 的地 位. OSHAは,そ. の 法 文 あ る い は 委 員 会 手 続 規 則,労. 労 働 者 に 対 し,一. 次 的 に は 行 政 機 関,司. な 権 利 を 根 拠 づ け て お り,こ. れ がOSHAの. 働 長 官 規 則 に お い て,. 法 機 関 を 相 手 方 と す る以 下 の よ う 法 運 用 の あ り方 を 特 徴 づ け る. 重 要 な要 素 と な って い る。 ①. 労 働 安 全 衛 生 局 へ の 基 準 採 用 請 求 申 立 権(法6条(bX1))。. ②. 労 働 安 全 衛 生 局 の 活 動 に 対 す る 一 般 的 な 異 議 申 立 権(法8条(fX1))。. ③. 「切 迫 し た 危 険(imminentdanger)」 労 働 長 官 を 強 制 す る,地 action)の. の存 す る場 所 へ の査 察 に っ き. 方 裁 判 所 に 対 す る 職 務 執 行 令 状(mandamus. 発 行 請 求 権(法13条(d))。. ④. 査 察 巡 視(walkaround)へ. ⑤. 査 察 巡 視 の 実 施 に 伴 う 開 始 会 議(openingconference),終 (closingconference)な. の 同 行 権(法8条(e))。 了会議. ど の 非 公 式 会 議 ㈲ へ の 参 加 権(OSHAIn-. structionCPL2.23A(1979))0 ⑥. 使 用 者 に対 して 発 行 さ れ た 全 通 告 書 の 複 写 の 入 手 権(法9条(b))。 一86(493)一.

(9) ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)に. ⑦. 使 用 者 に よ り争 わ れ て い るOSHA執 (partystatus)を. お け る労 働 者 権 の検 討. 行 活 動 にお い て 当 事 者 適 格. 得 る 権 利(法10条(c),委. 員 会 手 続 規 則20条)。. ⑧. 委 員 会 裁 決 の 司 法 審 査 請 求 権(法11条(a))。. ⑨. 「労 働 災 害 日誌(thelogofoccupationalinjuriesandillnesses㈱)」 の 閲 覧 権(29CFR1904.7(bX1)(1990))。. (※以 上 抜 粋) そ の権 利 の性 質 を簡 単 に分 類 す る と,お よそ労 働 者 が 職 場 危 険 につ いて 十 分 な知 識 を得 る こ とを 目的 とす る,あ る い は 目的 の一 っ とす る権 利 が ④ ⑤ ⑥ ⑨,入 手 した職 場 危 険情 報 を も って労 働 安 全 衛 生 局 ほか の 行 政 機 関, 準 行 政 機 関 へ行 政 権 の発 動 を求 あ る権 利 が① ③ ⑤,そ. の執 行 活 動 へ の 積 極. 的参 加 を行 う権 利 が② ③ ⑤,行 政 機 関等 の執 行 活 動 の不 備 を受 けて 司 法 の 関 与 を求 め る権 利 が③ ⑦ ⑧ とな ろ う。 こ こで は,OSHAが. 労 働 者 を 法運 用. 上 の重 要 な主 体 とみ な し,執 行 活 動 全 般 に関 わ らせ る た め,「職 場 危 険 に関 す る十 分 な知 識 を得 さ せ よ う とす る姿 勢 」 を垣 聞 み る こ とが で き る。 現 在,OSHAは. 前 述 の 枠 組 み を も って 精 力 的 な 労 災 予 防 活 動 に従 事 し. て い るが,毎 年6,000名 の傷 害 致 死 者 に対 し,50,000名. もの衛 生 的疾 病 に よ. る致 死 者 が 発 生 して い る。 この数 値 が逸 失 労 働 日数 の見 地 か ら連 邦 経 済 に 与 え る影 響 は多 大 だが,労 働 安 全 衛 生 局 の見 解 で は,こ れ らの被 害 は労 使 間 で の情 報 伝 達 を前 提 と して 予 見 可 能 で あ り,防 ぎ得 た もの で あ る,と さ れ て い る⑳。 日本 の 労 働 安 全 衛 生 法 令 は,作 業 環 境 測定 法(昭 和50年 法 律 第28号),作 業 環 境 測 定 基 準(昭 和51年 労 働 省 告 示 第46号)な. ど に よ り使 用 者 の 自主 的. 作 業 環 境 管 理 の 枠 組 み を 定 あ て は い るが,こ れ に よ り得 られ た デ ー タへ 労 働 者 の ア クセ スを 認 あ る法 規 は存 しな い。 しか し,ア メ リカ法 に お い て は, 雇 用 にお け る健 康 危 険 は,① 危 険 業 務 を 行 う労 働 者 個 人 の基 本 的 生 活 決 定 一87(492)一.

(10) べ ・}剛. 近畿大学法学. 第49巻 第2・3号. (lifedecision),② RiskReduction)を. 危 険 軽 減 効 率 の 増 加(enhancingtheefficiencyof 理 由 と して,本 来,使 用 者 か ら労 働 者 個 人 に対 して情. 報 と して公 開 さ れ,伝 達 さ れ な け れ ば な らな い,と さ れ て きた㈱。 労 働 者 が 「使 用 者 」 か ら職 場 危 険 情 報 を獲 得 す る上 で の法 的根 拠 と して は,す で にOSHA制 は,OSHA基. 定 当初 か ら法6条(b)(7)L9)が 規 定 され て い た。 こ れ. 準 に定 め られ た 危 険 要 素 を 労 働 者 に告 知 す べ き使 用 者 に対. す る義 務 規 定 で あ り,後 に発 行 さ れ た職 場 危 険 伝 達 基 準 の基 礎 と な った も ので あ る。 しか しな が ら,本 規 定 にっ いて は,OSHA基. 準 の定 め る危 険 が. 全 て の 危 険 で は な い こ と に加 え,本 条 項 に は,職 務 別 の危 険 調 査 義 務. 労. 働 者 個 人 へ の警 告 義 務 が 欠 けて い る,な ど の 問 題 点 が 指 摘 され る こ と と な った⑳。 そ こで 労 働 安 全 衛 生 局 は,ま ず1980年 の ア クセ ス基 準(45Fed。Reg. 35,212(1980))に. お いて,労. 働 者 が 職 場 危 険 接 触 デ ー タ に関 し 「知 る権. 利 」 を有 す る こ とを 明 らか に した。 この基 準 が設 定 され た趣 旨 にっ いて労 働 安 全 衛 生 局 は次 の よ うに述 べ て い る。. 「過 去 の 知 識 経 験 に照 ら し,本 局 は次 の よ うな判 断 を 行 う に至 った 。す な わ ち,労 働 者 の職 場 危 険 へ の曝 露 お よ び健 康 に関 す る記 録 は,職 業 病 の発 見,対 処,予 防 に と って極 あ て重 要 な もの で あ る。 した が って,労 働 者 お よ び そ の代 表 者 は,… … この よ うな情 報 へ の直 接 的 な ア クセ スを 有 す る必 要 が あ る。 … … か りに労 働 者 お よ び そ の代 表 者 が職 業 病 防 止 に お け る重 要 な役 割 を果 た そ う と意 図 した場 合,彼. らは,① 彼 らが職 務 上. 曝 露 す る もの,② 現 在,過 去 にお け る曝 露 の レベ ル,③ が もた ら した,も. この よ うな曝 露. し くは もた らす 健 康 被 害 の それ ぞ れ につ いて 知 識 を得. る権 利 お よ びそ の 機 会 を 有 す るの で な けれ ば な らな い。 … … 本 基 準 の背 後 にあ る直 近 の 目的 は,労 働 者 が 自 らの 衛 生 管 理 を 行 う こ とを 可 能 な ら 一88(491)一.

(11) …∼一. ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)に. お け る労 働 者 権 の 検 討. しあ る こ と にあ る。 各 労 働 者 はそ れ ぞ れ に 自 らの生 命 お よ び健 康 を維 持 す る崇 高 な利 益 を 有 して い る。 公 序(publicpolicy)の. 要 請 に よ り,労. 働 者 は衛 生 的 問題 の 発 見,解 決 にお け る中心 的 な 役 割 を 与 え られ る。 な ぜ な らば,誰 か他 の 者 が 本 人 と同 じだ けの精 力 と判 断 を 持 って,そ. の健. 康 を保 護 す る保 証 な ど ど こ に も存 しな いか らで あ る(ld.at35213)」. 。. この基 準 が ア クセ スを保 障 す る記 録 は,労 働 者 の職 場 危 険 へ の 曝 露 に関 す るあ らゆ る記 録 を指 し,こ れ らが 特 定 のOSHA基. 準 に よ って 作 成 を 義. 務 づ け られ て い るか否 か に は関 わ らな い。 また,そ の記 録 の 保 有 者 が 当 該 労 働 者 を雇 用 す る直接 の使 用 者 で はな く,元 請 人 な ど契約 の 相手 方 で あ る 場 合 に も,本 基 準 の適 用 が及 ぶ。 使 用 者 が事 業 を営 む産 業 も特 に制 限 され て は い な い。 次 に,職 場 内 の危 険 有 害 物 質 そ の もの に関 す る情 報 に関 して は,ア. クセ ス基 準 の 設 定 後 に 「職 場 危 険 伝 達 基 準(HazardCommunica-. tionStandard)」. が作 成 され,こ れ に よ って両 面 的 な保 護 が 図 られ る こ と. とな った。 この うち最 初 の 基 準 は1983年(48Fed.Reg.53,280(1983), cordifiedat29CFR1910.1200(1990)。)に. 発 行 さ れ,そ の後1986,87年. に改 正 さ れ て改 正 職 場 危 険 伝 達 基 準(AmendmentstoHazardCommunicationStandard)(51Fed.Reg.34,590(1986);52Fed.Reg.31, 852(1987).)と. して現 在 に至 って い る。 本 基 準 の 目的 は,第 一 に各 危 険 物. 輸 入 ・製 造 業 者 に対 して彼 が 製 造 ・輸 入 す る危 険 有 害 物 質 に関 す る詳 細 な 危 険 調 査 お よ び そ の情 報 の使 用 者 へ の伝 達 ⑳ を義 務 づ け る こ と,第 二 に使 用 者 に対 して 包 括 的 な危 険 伝 達 計 画 の作 成 お よ び これ に基 づ く労 働 者 へ の 知 識 の伝 達 ㈱ を義 務 づ け,全 て の労 働 者 に職 場 の有 害 危 険 物 質 に関 す る知 識 を 獲 得 させ る こ と に あ る。 二 度 に わ た る改 正 基 準 の発 行 は,旧 基 準 に お いて 製 造 業 者 の 取 り扱 う一 部 の化 学 薬 品 に限 定 され て い た適 用 対 象 を他 産 業 の よ り広 範 な 危 険 物 に拡 大 し,企 業 機 密 に も一 定 の 制 限 を も う け る な 一89(490)一.

(12) ,㌔薦聰. 近 畿 大学 法学. 第49巻 第2・3号. ど,労 働 者 側 に 有利 な形 で な され た も ので あ る鮒。実 際,こ の基 準 の効 果 と して,教 育 訓 練,危. 険 有 害 化学 薬 品 の ラベ ル表 示,技 術 的 コ ン トロ ー ル な. どの推 進 が 見 られ,労 使 の職 場 危 険 に対 す る意 識 は高 ま っ た,と され て い る紛。 一 方 ,州 法 の領 域 で も,と りわ け1980年 代 に は全 米 各 州 で 労 働 者 の 「知 る権 利 」 法 が 整 備 され,現 在 で はNewJersyWorkerandCommunity RighttoKnowAct(N.J.Stat.Ann.34:5A-1to34:5A-31)を. 筆頭. に,約 半 数 以 上 の州 で包 括 的 な 法制 度 が存 す る。 州 法 の適 用 範 囲 は製 造 業 を含 む全 産 業,多 様 な危 険 「要 素 」 に及 ぶ の が通 常 で あ り,改 正 連 邦 基 準 の発 行 前 に は概 してOSHAよ 以 降 は,OSHAと. り も労 働 者 保 護 に厚 か った。 改 正 基 準 発 行. 州 法 の 内容 に実質 的 な 差 はな くな った が,① 職 場 外 の危. 険 要 素 を も適 用 対 象 とす る,② 法違 反 に対 して民 事 罰 に加 え 刑 事 制 裁 を 適 用 す る,な. どの点 で連 邦 法 を凌 駕 す る もの もあ り,現 在 も州 法 の 存 在 意 義. が消 滅 した わ け で は な い。 前 述 の連 邦 職 場 危 険伝 達 基 準 は,こ う した 州 法 の殆 どが 整 備 さ れ た後,そ れ を 「先 占(preempt)(合. 衆 国 憲 法 第6編 第2. 項)」 す る 目的 で作 成 さ れ た もの で あ る㈲。 しか し,現 下 で は,判 例 上,連 邦 法 と州 法 との間 で 「法 の 目的」 に よ り適 用 領 域 を 区別 す る手 段 が広 範 に 採 用 され,事 実 上 は両 者 に最 低 基 準 原 則(有 利 原 則)が 認 め られ た の と同 様 の効 果 が 生 じて い る。 例 え ば,1985年,連. 邦 旧基 準 が州 法 に先 占す るか. 否 か が 争 われ たNewJersyStateChamberofCommercev.Hughey (HugheyI)事. 件 第 三 巡 回 区 裁 判 所 判 決 ㈹ で は,製 造 業 に限 ってOSHA. の 先 占が 認 あ られ たが,た. とえ製 造 業 で あ って も 「地 域 公 開 条 項(com-. munitydisclosureprovisions)」 が な され た 。OSHAは. につ いて は それ を認 め な い,と. の判 断. 「労 働 者 」 の職 業 安 全 衛 生 の確 立 を 直接 の 目的 とす. るの に対 し,州 法 は 「公 衆 」 の安 全 衛 生 を 目 的 に含 む。 した が って,「 先 占 関 係 を 審 査 す る裁 判 所 は,州 法 の 目的 が 連 邦 基 準 の それ と同 じか否 か を見 一90(489)一.

(13) ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)に. お け る労 働 者 権 の検 討. 極 め な け れ ば な らな い⑳」。 こ の よ うに,ア メ リカ に お け る労 働 者 の た め の法 的情 報 環 境 整 備 は,職 場 危 険 の客 観 的 評 価 基 準 にっ き未 だ不 明 な点 も存 す る もの の,国 際比 較 的 に一 歩 リー ドして い る と い え よ う。 ア メ リ カ で は,消 費 者 取 引 法(consumertransactionslaw)力. 童消 費 者 の安 全 及 び経 済 的 利 益 を 保 護 す るた. め,製 品 に関 す る情 報 開 示 を生 産 者 に義 務 づ け,消 費 者 に よ る選 択 を促 し た理 念 が,労 働 安 全 衛 生 の分 野 で も活 か さ れ て い る㈱。 しか し,こ れ に全 く 問 題 が な いわ けで は な い。 例 え ば現 在,使 用 者 が情 報 開示 に要 求 され る必 要 書 類一例)物 質 安 全 デ ー タ シー ト(MaterialSafetyDataSheet)一. は高. 度 に技 術 的 で あ り,雇 用 関 係 に お い て は作 成 者 側 に も参 照 者 側 に も負担 と な る,と の批 判 が 見 られ る働。 ま た,OSHAが. 事 業 所 内 に産 業 保 健 の専 門. 家 の雇 用 を義 務 づ け て い な い こ とか ら(40),危 険 有 害 因 子 に関 す る知 識 に疎 い労 働 者 に お い て,ど こ ま で職 場 の安 全 衛 生 情 報 を精 確 に得 られ るか,と い う点 に は若 干 の不 安 が 残 る。 労 働 安 全 衛 生 局 は,こ の よ うな 問題 解 決 の た め,自. ら職 場 危 険 に関 す る情 報 広 告 計 画 を作 成 し,こ れ を 公表 す るな ど. の取 り組 み を行 って い る が,基 本 的 に は労 使 の 自主 的取 り組 み に待 つ よ り 他 な い と い うのが 実 態 の よ うで あ る(411。. 〈 注〉 (1)Rothstein,MarkA.,OccupationalSafetyandHealthLaw(WestPublispingCo.,1990),at1-7. (2)し か し,OSHAに. お け る不 服 審 査 制 度 の充 実 度 に比 べ,わ が 国 の そ れ は半 ば. 形 骸 化 して お り,例 え ば労 働 安 全 衛 生 審 査 委 員 会(第2章 も存 在 しな い ば か りか,法105条. 参 照)の. よ うな機 関. が 定 め る処 分 決 定 前 の聴 聞 手 続 もあ く ま で職. 権 的 な もの に限 定 され て い る。 (3)小 畑 史 子 「労 働 安 全 衛 生 法 の法 的 性 質(1×2)」 法 学 協 会 雑 誌(1995年)112巻2 ∼5号256頁 。 (4)た だ し,法4条(bX4)の. 趣 旨 は,OSHAの. い こ と にあ る の で あ って,例. 効 果 を直 接 他 の法 的 領 域 に及 ば せ な. え ば 労 働 者 が コ モ ン ロ ー 上 の救 済 を求 め る上 で. 一91(488)一.

(14) 近 畿 大学 法学. OSHA違. 第49巻 第2・3号. 反 を一 っ の 基 準 とす る こ と ま で拒 む も の で は な い こ と は い う まで も. な い(Ashford,NicholasA,CrisisinTheWorkplace:Occupational DiseaseandInjury(lslandPress,1976),at173-75;Donovanv.General Motors,762F.2d701(8thCir.1985))0 (5)そ. の 他,労. 働組 合 に よ る圧 力 に訴 え る手 段 が 残 され て い る こ と は い う まで も. な い。 (6)OSHA3条(8)に. よ れ ば,OSHA基. 準 と の 文 言 は,「 安 全 で 健 康 的 な 雇 用 お よ. び 職 場 を 提 供 す る の に 合 理 的 に 必 要 と さ れ る か そ れ に 適 す る 条 件,も 務. 手 段,方. 法,運. 用,過. し くは実. 程 の採 用 ま た は使 用 を義 務 づ け る基 準 」 を意 味 す る。. (7)Rothstein,supranote1,at251. (8)OSHA,TheCulminativeImpactofCurrentCongressionalReform EffortsonAmerianWorkingMenandWoman,http://www.osha.gov/ press/specia1/impact/impact.html。. こ こ でhttp以. 下 は,労 働 安 全 衛 生 局 が. イ ン タ ー ネ ッ ト上 に 開 設 し た ホ ー ム ペ ー ジ のURLを ク セ ス は96年4月 (9)現. 在,副. 示 す 。な お,い ず れ も ア. に行 った。. 長 官 の 地 位 に はJosephA.Dearが. 局 の 借 金 体 質 を 立 て 直 し,労. 着 任,こ. 使 へ の 特 別 手 当 制 度,衛. れ まで の労 働 安 全 衛 生. 生 費 用 管 理 政 策 を ふ くめ,. 大 規 模 な 改 革 を 行 っ て い る 。 詳 細 は,OSHA,BiographyofJosephA.Dear, http://www.osha.gov/dearbio.htmlを. 参 照 さ れ た し。. (10)Rothstein,supranote1,at104,248. (11)Id.at57-61に. よ れ ば,全. 国 合 意 基 準 と は,後. icanNationalStandardsInstitute),全 tionAssociation),全. 述 す る 全 国 基 準 研 究 機 構(Amer-. 国 防 火 協 会(NationalFireProtec-. 米 材 質 試 験 協 会(theAmericanSocietyforTesting. andMaterials)を. は じ め と す る私 的 な 基 準 作 成 機 関 が 作 成 し た 基 準 で あ り,既. に 全 国 的 に そ の 適 用 が 慣 行 と な り つ っ あ る も の を 指 す 。 詳 細 は,2-2を. 参照. さ れ た し。 (12)た. と え ば,①. OSHRC事. の 具 体 的 内 容 を 明 ら か に し た も の に1974年. のBrenannv.. 件 連 邦 巡 回 区 裁 判 所 判 決(491F.2d1340(2dCir.1974))が. 本 件 で は,運. あ る。. 転 技 術 の未 熟 な社 員 に充 分 な安 全 指 示 の な され な い ま ま操 業 され. た ク レ ー ン車 か ら鉄 柱 が 落 下 し,こ. れ に よ り 生 じた 死 亡 事 故 の 後,使. 用者に発. 行 さ れ た 通 告 書 の 有 効 性 が 審 査 さ れ た 。 本 件 が 通 告 書 発 行 に い た っ た 理 由 は, 事 故 後 の 調 査 で,労. 働 長 官 に よ り使 用 者 の ク レ ー ン基 準(CFR〈. (5)〉)違 反 が 認 定 さ れ た こ と に よ る。 本 基 準 は,使 person)を て お り,本 の. 指 名(designate)し. て ク レ ー ン使 用 の 安 全 を 確 保 す る 義 務 」 を 定 め. 件 で の 争 点 は こ の う ち の 「指 名 」 の 解 釈 に あ っ た 。 判 示 で は,適. 「指 名 」 と は,適. 格 者 の 慎 重 な 選 任 に 加 え,な. 質 」 に 関 す る 特 定 的 か っ 積 極 的 な 伝 達 を 指 す,と OSHA法. §1926.-550(a). 用 者 が 「適 格 者(competent. 制 の 中 で も,ア. ス ベ ス ト,ビ. 一92(487)一. す べ き検 査 の. 格者. 「存 在 お よ び 本. の解 釈 が な さ れ た。. ニ ー ル ク ロ ロ イ ド,鉛. な ど の有 害 物 質.

(15) 叩  門▼一. ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)に. お け る労 働 者 権 の 検 討. か ら労 働 者 を 保 護 す る義 務 は使 用 者 に と って の優 先 的 履 行 課 題 と され て い る。 ③ で 具体 的 に 問 題 とな るの は有 害 物 質 の存 在 と濃 度 を調 査 す る た め の定 期 的 な 環 境 測 定 の実 施 で あ る。 この 点 に関 す る判 例 と して は,1977年 WesternElectric社. のMarshallv.. 事 件 連 邦 巡 回 区 裁 判 所 判 決(565F.2d240(2dCir.. 1977).)が あ る。本 件 で は,有 害物 質 で あ る ビニ ール ク ロ ロ イ ドの 監 視 を 義 務 づ け る次 の よ うなOSHAの. 緊急 基 準(29C.F.R。. §1910.93q(cX1))の. 点 と され た。「 全 て使 用 者 は,職 場 空 間 に50ppm以. 解釈が争. 上 の ク ロ ロ イ ドが 含 まれ て. い るか 否 か を調 べ るた め,一 定 の生 産 過 程(fabrication)で. 発 散 す る有 害 要 素. の環 境 測定 を 行 わ な けれ ば な らな い 」。本 件 使 用 者 は,労 働 安 全 衛 生 局 に よ る査 察 で,50ppmを. 超 え る ク ロ ロイ ドを 発 見 され な か った が,環 境 測 定 を 実 施 しな. か った こ とを理 由 に通 告書 を発 行 され た た め,こ れ を争 っ た の で あ る。判 決 は, 本 基 準 が定 め る環 境 測 定要 件 に は,当 然 に基 準 を 超 え な い こ とが 予 想 され る場 合 に適 用 さ れ る例 外(reliableprediction)は. 当 て は ま らな い,と 判 断 し,発 行. さ れ た通 告 書 を有 効 と した。 (13)田 中英 夫 『 英 米 法総 論 ㈲ 』(1980年)482頁 ⑳. 以 降参 照 。. 法8条(c)に よ り,労 働 長 官 は厚 生 長官 と協 力 して使 用 者 に 対 して必 要 な 情 報 を作 成 す る こ とを義 務 づ け る包 括 的権 限 を付 与 さ れ て お り,使 用 者 は職場 の 潜 在 的危 険 に関 す る詳 細 か っ正 確 な デ ー タを収 集 す る義 務 を 負 わ され て い る。. (15)Rothstein,supranote1,at213-225. (1⑤ 大 久 保 利 晃 「米 国 にお け る労 働 安 全 衛 生 行 政 の 現 状(1)∼(6)」産 業 医学 ジ ャー ナ ル(1984,1985年)第7巻3号 (助 小 畑 前 掲(注3)論. ∼8巻2号. 。. 文266頁 以 下 。. (18)OSHA,OSHA'sStandardsForPublicService,http://www.osha.gov/ oshinfo/standards.html. (19)Rothstein,supranote1,at369,370.労. 働 安 全 衛 生 審 査 委 員 会 は,一 定 の. 管 轄 域 と準 司 法 的 権 限 を有 す る機 関 で あ り,議 会 上 院 の勧 告 と承 認 を受 け連 邦 大 統 領 に よ り任 命 さ れ る3名 の委 員 に よ って構 成 さ れ る。 労 働 長 官 の通 告 書 や 制 裁 通 知 か ら生 じた争 い を決 定 す る た め に設 置 さ れ,あ. くま で労 働 安 全 衛 生 局. か らは独 立 した機 関 で あ る。 ⑳. 行 政 審 判 官 は,委 員 会 の 下部 組 織 と して 機能 し,事 件 の予 備 審 問,審. 問事 項. の整 理,裁 決 発 行 にっ い て 責 任 を 負 う。そ の決 定 は委 員 会 に よ り覆 さ れ う るが, 事 件 解 決 の迅 速 化 に大 き く役 立 っ て い る とい う。 ⑳. た だ し,OSHA運. 営 の主 体 で あ る労 働 長 官 が 本 来 的 な 当 事 者 で あ る こ と は. い う ま で もな い。 労 働 長 官 が 司 法 審 査 請 求 を あ き らめ た 場 合 に,労 働 者 個 人 及 び労 働 者 代 表 が そ れ を代 行 で き る か,に っ い て は,長 官 の承 諾 を前 提 と して原 則 的 に認 め られ る,と す る判 例 が あ る(OCAWv.OSHRC,671F.2d643(D. C.Cir.1982).)0 (22)Rothstein,supranote1,at190-302,369-441,449.See,OSHA,HowTo. 一93(486)一.

(16) 近畿大学法学. 第49巻 第2・3号. FileAComplaintWithOSHA,http://www.osha.gov/oshinfo/oshdir/ complain.html;OSHA,OSHA'sStandardsForPublicService,http:// www.osha,gov/oshinfo/standards.html;OSHA,QuickFix:Incentives forFixingHazardsQuickly,http://www.osha.gov/newosha/reinvent/ reinvent.html. ㈱. 中窪 裕 也. 『ア メ リ カ 労 働 法 』(1995年)38頁. ⑳. 道幸哲 也. 『不 当 労 働 行 為 救 済 の 法 理 論 』(1988年)128頁. ∼42頁. 参照。. ㈱. 開 始 会 議,終. 。. 了 会 議 の 詳 細 に つ い て は 小 畑 前 掲(注3)論. 文112,113頁. を参 照. され た し。 ㈱Rothstein,supranote1,at217-219。OSHAは,使 (establishment)単. 位 で,業. し て い る(法8条(cX3))。 式,の3類. こ の 形 式 は,①. 型 に 分 類 さ れ,使. 作 成 ・保 管,執. 用 者 に,各. 事業所. 務 上 の 災 害 ・疾 病 記 録 を 作 成 ・保 管 す る 義 務 を 課 日 誌 形 式,②. 補 完 形 式,③. 年間要約形. 用 者 は 労 働 安 全 衛 生 局 に こ の 用 紙 を 請 求 し,自. ら. 行 部 に よ る査 察 の 折 に は常 に 参 照 可 能 な 状 態 に し て お か な け れ. ば な らな い。 こ の う ち 日誌 形 式 の 記 録 は,労 項 に っ き,六. 働 災 害 や 疾 病 の 発 生 後,一. 定の必要的記載事. 労 働 日以 内 に 作 成 さ れ る こ と が 義 務 づ け ら れ て い る。. 伽OSHA,TheNewOSHA-ReinventingWorkerSafetyandHealth,http //www.osha.gov/newosha/reinvent/reinvent.html. な お,日 て,と. 米 に お け る 職 場 の 衛 生 危 険 と労 働 者 の知 る権 利 に関 す る論 考 と し. く に 林 弘 子 「半 導 体 産 業 に お け る 公 害 ・労 災 ・職 業 病 」季 刊 労 働 法(1985. 年)138号30頁. を 参 照 さ れ た し。. (28)Thoreau,HenryD.,OccupationalHealthRisksandtheWorker's RighttoKnow,90TheYaleLawJournal(1981),at1793,1799,1800. X29)以. 下 に 法6条(b)(7)一. 文 を 記 す(試. 「本 補 助 条 項(6条(b))に. 訳)。. 基 づ き 作 成 さ れ る い か な る 基 準 も,労. か ら 曝 露 す る あ ら ゆ る 危 険 有 害 物 質,こ. れ に 関 連 す る 症 状,適. 働 者 が,み. ず. 切 な 緊 急 措 置,. そ の 安 全 な 使 用 あ る い は 取 扱 条 件 お よ び 危 険 防 止 策 に っ い て 知 ら さ れ る よ う, これ に必 要 な ラ ベ ル の使 用 ま た はそ の他 適 当 な 警 告 にっ いて 規 定 す る ので な け れ ば な ら な い 」。 (30)Thoreau,supranote28,at1796. (31)こ. の 伝 達 は,主. alSafetyDataSheet)に (32)こ. の 伝 達 は,主. に 容 器 へ の ラ ベ ル 貼 付 お よ び 物 質 安 全 デ ー タ シ ー ト(Materiよ って な さ れ る。 に 容 器 へ の ラ ベ ル 貼 付,物. 質 安 全 デ ー タ シ ー ト,企. 業研修 に. よ って な され る。 (33)Rothstein,supranote1,at221,225。 281に. は,以. な お,48FederalRegisterat53,. 下 の よ う な 記 述 が な さ れ て お り,旧. 基 準 の 発 行 が な さ れ た 時 点 で,. 既 に製 造 業 以 外 の 産 業 を 射 程 に含 む新 た な基 準 の発 行 が予 定 され て い た こ とが. 一94(485)一.

(17) ア メ リカ労 働安 全 衛 生 法(OSHA)に. お け る労 働 者 権 の 検 討. 分 か る 。 「本 基 準 の 義 務 づ け る 職 場 危 険 伝 達 計 画 の 目 的 と す る と こ ろ は,製. 造業. 部 門 に お い て 化 学 物 質 に よ る 災 害 疾 病 の 発 生 を 削 減 す る こ と に あ る。 加 う る に,か. り に こ の よ う な 化 学 物 質 が 他 産 業 に 広 ま る こ と が あ れ ば,本. 基 準 は,同. じ く労 働 者 が 危 険 有 害 物 質 に 曝 露 す る 他 産 業 を カ バ ー す る 将 来 の 規 制 に 対 す る フ レ ー ム ワ ー ク を 確 立 す る も の と な る」。 (鈎OSHA,HazardCommunicationsandtheRighttoKnow,http:// www.osha.gov/newosha/reinvent/prog7.htm1. (35)48FederalRegisterat53,334.か ら ば,OSHA18条(b)に. りに各 州 が この領 域 で の 規 制 を 望 む な. 基 づ き,OSHAの. 規 制 に 相 当 す る適 当 な 計 画 を 提 出 し. て 労 働 安 全 衛 生 局 の許 可 を受 け な け れ ば な らな い。 (361NewJersyStateChamberofCommercev.Hughey(HugheyI),774 F.2d587(3dCir.1985);UnitedSteelworkersofAmericav.Auchter, 763F.2d728(3dCir.1985). ⑳ManufacturersAssociationsofTri-Countryv.Knepper,801F.2d130 (3dCir.1986),certioraridenied484U.S.815,108S.Ct.66,98L.Ed. 2d30(1987). (38)Thoreau,supranote28,at1805-1807. (39)OSHA,HazardCommunicationsandtheRighttoKnow,http:// www.osha.gov/newosha/reinvent/prog7.htm1. (40)た. とえ ば 品 田充 儀. 「ア メ リ カ に お け る 産 業 保 健 ・産 業 医 制 度 」 日本 労 働 法 学. 会 誌(1995年)86号92頁. を 参 照 さ れ た し。. (41)OSHA,ComplianceAssistanceThroughInformationTechnology,http //www.osha.gov/newosha/reinvent/reinvent.html.. 2.一. 般 的義務 条項. 使 用 者 に対 して 基 準 外 の 危 険 防 止 を 義 務 づ け る法5条(a>(1),す. な わ ち一. 般 的 義 務 条 項 は次 の よ う に定 めを お く。. 「す べ て の使 用 者 は,彼 の雇 用 す る労 働 者 の それ ぞ れ に対 して,そ の労 働 者 に対 して 死 亡 も し くは重 大 な 身 体 的 傷 害 を 現 に生 ぜ しあ,ま た は そ の 蓋 然 性 の あ る認 識 され た 危 険 の 存 しな い雇 用 お よ び職 場 を 提 供 しな け れ ば な ら な い 」。 一95(484). 一.

(18) 近畿大学法学. 第49巻 第2・3号. 一 般 的義 務 条 項 た る法5条(a)(1)は ,OSHAの 基 準 が存 しな い分 野 で,あ. 制 定 当初,特 定 のOSHA. るい はそ の 作成 過 程 で 発 生 す る重 大 な危 険 状 況. を規 制 す るた め,例 外 的 に適 用 され る にす ぎな か った 。 しか し,そ の 後 の 運 用 の実 際 は政 権 に よ り左 右 され る傾 向 が 強 くな り,本 条 項 に基 づ く通 告 書 発 行 件 数 は,年 代 ご とに大 きな増 減 を繰 り返 して きた 。 と りわ け ニ ク ソ ン,フ ォー ド政 権 下 の1973年 か ら76年 ま で の通 告 書 の 総 発 行 件 数 が,カ ター政 権 下(1)の77年 度1年. 間 の そ れ と ほ ぼ同 数 で あ る点,80年. ー. に は,発 行. 件 数 が3,691件 に の ぼ り(※ 労 働 安 全 衛 生 局 の この 年 度 の全 通 告 書 発 行 件 数 の約2.4%,こ. れ は他 の いか な る単 一 基 準 に も勝 る),通 知 され た 制 裁額. が256万824ド ル に も達 した点(2)が 注 目 され る。70年 代 後 半 の この よ うな急 激 な 増 加 に は,73年 い,OSHA基. に 至 って 労 働 安 全 衛 生 局 が 既 成 基 準 の採 用 権 限 を 失. 準 の作 成 が 困 難 と な った事 情 が 背 景 に あ る。 こ の時 期,一 般. 的 義 務 条 項 は特 定 基 準 の作 成 手 続 を 回避 す る意 図 で用 い られ た,と の評 価 もな さ れ て い る{3)。 しか し,81年 の レー ガ ン政 権 以 降. そ れ を根 拠 とす る通. 告 書 発 行 件 数 は再 び2桁 台 ま で減 少 して現 在 に至 って い る(4)。 一 般 的 義 務 条 項 に よ るOSHA違. 反 の摘 発 が 政 権 に よ り左 右 さ れ て きた. 現 実 は,本 条 項 の持 つ 本 質 的 問題 点 を示 す もの とい え る。 本 条 項 は特 定 的 な危 険 を 規 律 す るOSHA基. 準 と は異 な り,実 際 上 そ の 適 用 が行 政 の裁 量. に委 ね られ る大 風 呂敷(catcha11)の の1990年 に は,一 nomicsstandard)を. よ うな性 格 を有 す るか らで あ る。近 年. 般 的 義 務 条 項 の存 在 が,か. え って 人 間 工 学 基 準(ergo-. 作 成 す る上 で の障 害 と な った例 さ え報 告 さ れ(5),そ. の問 題 が 多 元 化 して い る こ とが 分 か る。 しか しな が ら一 方 で,特 定 基 準 作 成 の た あ の複 雑 な手 続 き を踏 む 前 に,独 自 の危 険 判 断 の枠 組 み を も って危 険 環 境 に あ る労 働 者 を救 済 で き る独 自 の メ リ ッ トも無 視 す る こと は で き な い〔6)。 本 条 項 違 反 の摘 発 を 受 け た使 用 者 は,だ い た い に お いて そ れが 「立 法 権 一96(483)一.

(19) ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)に. お け る労 働 者 権 の検 討. の違 憲 な委 譲 で あ る」,あ る い は 「そ の 曖 昧 さの ゆ え に無 効 で あ る」 と主 張 し争 う こ とが 多 か っ た{7)。そ こで 司法 お よ び行 政 は,本 条 項 の メ リッ トを 失 わ せ な い範 囲 で そ の射 程 を明 確 に し,そ の危 険 判 断 に一 定 の客 観 基 準 を 設 け よ う と苦心 して き た ので あ る。. 2-1立. 法経 緯. そ もそ もOSHAは,連. 邦 経 済 に多 大 な悪 影 響 を 及 ぼす 労 災 の発 生 を く. い止 め るた め,行 政 機 関 と と も に労 使 に独立 した 「責 任 」 と 「権 利 」 を 付 与 す る こ とに よ って,「合 理 的 に予 見 され う る労 災 を 予 防 」す る 目的 で 制 定 さ れ た もの で あ る。 「合 理 的 に予 見 され う る労 災 」が既 に特 定 され,基 準 と して 明文 化 され て いれ ば よ いが,基 準 の法 定 範 囲 が あ らゆ る危 険 状 況 を カ ヴ ァー す る こ と は 事 実 上 不 可 能 で あ る。 そ こでOSHAは,そ. う した特 定 基 準 の存 在 しな い. 領 域 につ いて も一 般 条 項 を お いて,「 避 け うる(prevebtable)災. 害 を行 政. 権(authority)の. 発 動 に よ り一 般 的 に予 防 す る」手 段 を講 じた。す な わ ち. OSHA5条(a)(1)の. 定 あ る一 般 的 義 務 条 項 は,OSHA本. まえ,そ. れ を統 合(incorporate)す. 来 の 立 法 趣 旨 を踏. る役 割 を もって 規 定 され た もので あ. る(8)。 本 条 項 を初 め て 盛 り込 ん だ の は,OSHA法 会 期 に提 出 され たPerkins法. 案 を審 議 した第91議 会 第1. 案 で あ る。 こ の法 案 に は,以. 下 の よ うな内. 容 が定 め られ て い た。. 「通 商 に影 響 す る事 業 に従 事 す る使 用 者 は,安 全 で 健 康 的 な 雇 用 お よ び職 場 を提 供 す る と と もに,時 に応 じて労 働 長 官 よ り発 行 され る基 準 を 遵 守 しな け れ ば な らな い」。. 一97(482)一.

(20) 近畿大学法学. 第49巻 第2・3号. そ の 後,第2会 を 提 出 し た が,結. 期 に お い て 下 院 議 員Danielsは,こ 局 下 院 の 賛 成 を 得 ら れ ず,そ. れ と ほぼ 同 様 の 法 案. の 後 同Steigerに. よ り,以. 下 の よ う な修 正 法 案 が提 出 さ れ る こ と とな った。. 「す べ て の使 用 者 は,彼 の雇 用 す る労 働 者 の そ れ ぞ れ に対 して,一 見 し て 明 白か つ,そ. の労 働 者 に対 して死 亡 も し くは重 大 な身 体 的傷 害 を生 ぜ. しめ る蓋 然 性 の あ る危 険 の存 しな い雇 用 お よ び職 場 を提 供 しな け れ ば な らな い」。. この 法 案 は,上 院 に お い て さ らに修 正 を受 け,「一 見 して 明 白か っ 」が削 除 され る と と も に,「 … … を 生 ぜ しめ る蓋 然 性 の あ る」 が 「… … を生 ぜ し あ,ま た はそ の 蓋然 性 が あ る」 へ,ま 険 」 に変 更 され,よ. た単 な る 「危 険 」 が 「認 識 さ れ た危. うや く上 院 の 賛 成 を 得 る こ と と な っ だ9)。. そ こで,既 に そ の骨 格 を形 成 して いた 下 院 の 立 法 趣 意 書 を 見 る と,本 条 項 の以 下 の よ うな性 格 が 明 らか に され る。 ①. 一 般 的義 務 条 項 は,他 人 に害 を及 ぼ す行 為 を抑 制 す る コ モ ンロ ー の 原 則 を基 礎 と して い る。. ②. 同 条 項 は決 して曖 昧 な規 定 で は な く,労 働 者 を避 け う る危 険 か ら保 護 す る明 確 な 目的 を持 った規 定 で あ る。. ③. 同 条 項 の先 駆 的 規 定 は,OSHAの. 立 法 当時,既 に36以 上 の州 法 と4. 以 上 の連 邦 法0ωに存 在 して い た。 した が って,そ の実 効 性 は既 に保 証 され た もの,と いえ るUll。 この う ち① にっ き,一 般 的 義 務 条 項 は,そ れが 議 会 報 告 の言 うよ うに, 単 な る コ モ ンロ ーの 復 刻 版(restatement)で. あ るか 否 か に は学 説 上 の議. 論 が あ る。 前 述 の よ う に,一 般 的 義 務 条 項 の違 法 基 準 は行 政 権 の発 動 基 準 とな る こ とか ら,一 般 的 に は,本 条 項 を コ モ ンロ ー の注 意 義 務 よ り狭 義 に 一98(481)一.

(21) ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)に. お け る労 働 者 権 の 検 討. 解 す るの が至 当 とす る見 解 も存 す るα 跡 。 しか しな が ら議 会 は,「 コ モ ンロ ー 原 則 をOSHAに. 挿 入 す る に あ た り,あ く まで忠 実 にそ の再 現 を 行 う こ と. こそ が 『議 会 の意 図 』 で あ る。 ま た,そ の導 入 にあ た って は,本 条 項 違 反 が絶 対 的 な罰 則(amandatorypenalty)を. 導 か な い よ う配 慮 され て お. り,な ん ら憲 法 上 の障 害 は存 しな い㈲」,と 述 べ て い る。 コモ ン ロー上 の原 則 は,使 用 者 に 限 らず,す べ て の個 人 が他 人 を 害 す る 行 為 を抑 制 す る義 務 を一 般 的 に措 定 す る。 しか し,雇 用 の場 面 にお け る使 用 者 は,職 場 環 境 整 備 の一 次 的 な監 理 権 限 を有 す る特 別 な地 位 にあ る。 し たが って彼 は,安 全 な労 働 場 所,器 具,設 備 の提 供,適 切 な 人選 な どの他 に,「合 理 的」 な判 断 能 力 を有 す る労 働 者 の無 知 が 予想 され る 「潜 在 的 」危 険 を 「合 理 的 」 な注 意 義 務 を以 て特 定 し,警 告 す る,と い うよ り特 定 的 で 高 度 な 義 務 を 負 うα の 。 そ こ で1976年 のShimpv.NewJersyBellTelephone社. 事 件 上 位 裁 判 所 判 決 ㈲ は,女 性 労 働 者 に よ り職 場 で の喫 煙 許 可. 措 置 の差 止 命 令 が 求 め られ た事 案 に っ い て,以 下 の よ うな条 件 を付 しな が ら も,使 用 者 に対 す る コ モ ンロ ー上 の差 止 命 令(※equity上. の救 済)を 認. めて い る。 ① 当 該 労 使 関 係 が コモ ン ロー の適 用 下 に あ る こ と,② 職 場 危 険 が 被 用 者 に耐 え 難 い危 険 を暴 露 して い る こ と,③ 職 場 危 険 に業 務 との 関連 性 が あ る こ と,④ 危 険 の 改 善 が 比 較 的 容 易 で あ り,使 用 者 の通 常 の業 務 に 支 障 を きた さ な い こ と。 一 般 的 義 務 条 項 は,使 用 者 が 雇 用 関 係 に お い て課 さ れ る この よ うな高 度 な 義 務 を 自 ら体 現 した もの に他 な らな い。 周 知 の ご と く,ネ グ リジ ェ ンス 領 域 で の コ モ ン ロ ー 上 の 救 済 は,① 共 同 雇 用 の 法 理Uq,② 寄 与 過 失 の 法 理働,③ 危 険 引受 の法 理 ⑱ に よ り制 限 され(19),連 邦 ま た は州 の労 災 補 償 法 の 適 用 領 域 に も及 ば な いが⑳,こ れ らの制 限 はあ くま で労 災 補 償 の 領 域 で付 され た もの に す ぎず,し た が って 労 災 予 防 法 と して ほん らい規 制 行 政 的 性 格 を 有 す る一 般 的義 務 条 項 に この 原 則 は適 用 され な い⑳。 一99(480)一.

(22) 近畿大学法学. 2-2構. 第49巻 第2.3号. 成要件. 1973年NationalRealty事 条 項 の 定 め る構 成 要 件 は,お. 件 巡 回 区 裁 判 所 判 決 に よ れ ば,一 般 的 義 務 よ そ以 下 の4部 に分 類 され る とい う⑳。 ① 認. 識 され た 危 険(recognizedhazards)の. 存 在,② 安 全 で 健 康 的 な 雇 用 ま た. は職 場 が 提 供 され な い こ と,③ 重 大 な 結 果 を 引 き起 こす 現 実 性 ま た は蓋 然 性(causingorlikelytocausedeathorseriousphysicalharm)の 存 在,④. 改善 措 置 の 実 行 可 能 性 。 い う まで もな く,こ れ らの 要 件 は相 互 密. 接 に 関連 しあ って お り,こ れ らを 個 別 的 にば か り捉 え る こ と は必 ず しも適 当 で はな い が,こ の うち① す な わ ち 「認 識 され た危 険」,お よ び③ す な わ ち 「災 害 発 生 の蓋 然 性 」 は,本 条項 が どの よ うな 「危 険 の判 断 基 準 」を 有 す る か を本 質 的 に示 す主 要 な要 件 で あ り,個 別 的 に も十分 な 検 討 を 要 す る。 し た が って,以 下 で は主 に この2点 に つ い て そ の解 釈 の あ り方 を 探 る こ と と す る。. 〈 認 識 され た 危 険 〉 こ こで は先 ず,危 険認 識 の主 体 に っ い て 考察 す る。 法 文 の構 造 上,使 用 者 が原 則 的 な認 識 の主 体 た る こ と はい うま で もな い が,か. り に 自 らの 努 力. に よ って平 均 的使 用 者 以 上 の知 識 を持 った使 用 者 を,そ の 知識 の故 に罰 す る こ とに な って は,本 末 転 倒 で あ る。 この点 へ の配 慮 か ら も,OSHAの 院 で の審 議 段 階 に お い て既 に,前 掲Danielsは. 下. 以 下 の よ うに述 べ て い た。. 「『認 識 さ れ た危 険 』 とは,必 ず し も個 々 の使 用 者 に知 られ て い る必 要 はな い が,使 用 者 の属 す る産 業 の知 識 基 準 と認 め られ て い る もの を指 す。 す な わ ち,あ. る危 険 が 認 識 さ れ て い るか 否 か はi客 観 的 決 定 事 項 に他 な らな. い㈱」。OSHA制. 定 後 の1972年 に労 働 安 全 衛 生 局 の発 行 したOSHACom-. plianceOperationsManua1も. これ と同 旨で あ る が,以 下 の よ う に述 べ. て,そ の趣 旨 を さ らに 明確 化 して い る。 「『認 識 さ れ た危 険 』 とは,あ 一100(479)一. る条.

(23) ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)に. お け る労 働 者 権 の検 討. 件 が,(a)常 識 的 に,あ る い は危 険 の発 生 した特 定 産 業 の一 般 認 識 で危 険 と 認 め られ,(b)人 間 の感 覚(視 覚,嗅 覚,触 覚,聴 覚)に よ って 察 知 可 能 か, た とえ そ れ が 不 可 能 で も,そ の産 業 で 危 険 と して の一 般 認 識 が広 範 で あ る た め に,使 が,こ. 用 者 の認 識 が 当然 と さ れ る もの で あ る」。 そ こで 問 題 とな る の. れ らの意 味 す る産 業 の平 均 的知 識 水 準,す. tryrecognition)を. な わ ち産 業 認 識(indus-. 誰 が 決 定 し,具 体 化 す るか で あ る。 これ まで に裁 判 例. お よ び労 働安 全 衛 生 審 査 委 員 会 の 裁 決 例 の 示 して きた と こ ろ に よれ ば,以 下 の よ うな者 が そ の 役 割 を 担 う こ とが 明 らか に され て い る。 ① 労 働 安 全 衛 生 局 の監 督 官 ⑳,② 州 法㈲ そ の他 都 市 条 例 ㈱ の立 法 者,③ 構(AmericanNationalStandardsInstitute)⑳ (NationalFireProtectionAssociation)㈱. 全米基準研究機. お よび全 国 防火 協 会 。 さ ら に1979年 に労 働 安 全 衛. 生 局 が発 行 したIndustrialHegieneFieldOperationsManual(CPL2 -2 .20,ch.皿. §A.12.a,b(1979))に. よ れ ば,④. 当該 使 用 者 の属 す る産. 業 の衛 生 学 者 お よ び連 邦 労 働 安 全 衛 生 研 究 機 構(NationalInstitutefor OccupationalSafetyandHealth)を. は じあ とす る公 的 ・私 的科 学 調 査. 機 関 もま た これ に含 ま れ る と され て い る(29)。 この うち最 も注 目 さ れ るべ き は,④ の連 邦 労 働 衛 生 研 究 機 構 お よ び③ の全 米 基 準 研 究 機 構 で あ り,両 者 は それ ぞ れ異 な っ た性 格 を持 ち な が ら,精 力 的 な研 究 活 動 に取 り組 み,産 業 認 識 の画 定 に応 分 の寄 与 を果 た して い る。こ の う ち前 者 は,OSHAに. 基. づ き厚 生 省 に よ って 設 置 さ れ た 公 的 調 査 機 関 で あ り〔30),我 が 国 で い え ば産 業 安 全 研 究 所 お よ び 産 業 総 合 医 学 研 究 所 な ど が これ に 相 当 す る。 本 機 関 は,基 準 を作 成 ・執 行 す る権 限 こ そ与 え られ て い な い もの の,独 自 の権 限 を も っ て調 査 活 動 を 行 い(3D,労働 省 に対 して 安 全 衛 生 両 面 にわ た る新 基 準 の作 成,旧 基 準 の 改廃 にっ き勧 告 を 行 う責 任 を 負 って い る。 こ の際. 本機. 関 が新 基 準 の勧 告 を行 う上 で踏 む通 常 の ス テ ップ は次 の 通 りで あ る。 ① 特 定 の対 象 領 域 に お い て既 にな され た先 行 研 究 の参 照(6∼12ヶ 一101(478)一. 月),② 先 行.

(24) 近 畿 大学 法学. 第49巻 第2・3号. 研 究 の な され て いな い点 につ いて の独 自調 査(3∼5年. 間),③ 大 雑 把 な試. 案 の 作 成 と機 関 内 外 の 専 門 家 へ の諮 問,④ 研 究 所 長 と厚 生 省 専 門 会 議 の両 者 に よ る承 認,⑤ 労 働 長 官 へ の送 付 。 法22条(d)の 定 め に よ り,本 機 関 の研 究 活 動 は,原 則 と して 厚 生 長 官 の求 め に応 じて,も. し くは研 究 所 長 自身 の. イ ニ シ ア テ ィブ に よ って 開 始 され る こ と と され て い るが,場 合 に よ って は 使 用 者 の 求 あ に応 じて な され る こと もあ り,目 下 の所,そ. の殆 ど は衛 生 危. 険 へ 向 け られ て い る と い う⑳。他 方,後 者 は,我 が 国 で いえ ば労 働 科 学 研 究 所 に相 当 す る大 規 模 な私 的 科 学 調 査 機 関 で あ り,や は り自 ら基 準 そ の もの を 作 成 ・執 行 す る権 限 こ そ有 しな い もの の,各 個 別 企 業 お よ び企 業 連 合 体 を 筆 頭 に,労 働 組 合,各 学 識 者,専 門 家,技 術 者 お よ び これ らの者 が 構 成 す る団 体 の 知 識 経 験 を 集 積 して,独. 自 の基 準 案 を作 成 して い る。 本 機 関 に. よ る基 準 案 作 成 の 手 続 き は以 下 の通 りで あ り,こ こ に連 邦 労 働 安 全 衛 生 研 究 機 構 と は異 な る本 機 関 の 私 的 性 格 が 現 れ て い る。 ① 各 利 益 団 体 の作 成 し た 基 準 案 を 収 集 お よ び本 機 関 が 独 自 に選 出 した学 識 者 お よ び研 究 機 関 に よ る投 票 の 実 施. ② 投 票 を 経 た基 準 案 の本 機 関 に よ る審 査,③ 基 準 の作 成 に. よ り影 響 を 受 け る者 の 代 表 者 か らな る基 準 作 成 委 員 会 の設 置 お よ び これ に よ る最 終 的 な 基 準 案 の 作 成,④ 作 成 され た基 準 案 の本 機 関 に よ る再 審 査, ⑤ 労 働 省 へ の 提 出 。 労 働 安 全 衛 生 局 は,法20条(d)に よ り,そ の代 表 者 を本 機 関 の 基 準 作 成 委 員 会 に参 加 させ る と と もに,本 機 関 に対 して 必 要 な安 全 衛 生 情 報 を 提 供 す る こ と と され て お り,両 者 は常 日頃 か ら密 接 な連 携 を な して そ の 活 動 を 行 って い る。 次 に,危 険 の 内 容 そ の もの の検 討 に移 る。 大 前 提 と して,そ れ が 一 般 的 な 有 害 化 学 薬 品 や 器 具,作 業 工 程 な ど を含 む こ と は明 らか で あ る。 そ こで 問 題 とな るの が,「 認 識 され た危 険 」の 中 に,使 用 者 が 労 働 者 に強 制 した雇 用 上 の 方 針(employer'spolicy)が. 含 ま れ るか 否 か で あ る。 この点 にっ い. て の リー デ ィ ング ケ ー スで あ る有 名 なAmericanCyanamid社 一102(477)一. 事件連邦.

(25) ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)に. お け る労 働 者 権 の検 討. 巡 回 区 裁 判 所 判 決 ㈱ は,次 の よ うな 事 案 を 審 査 した も ので あ る。使 用 者 が 出産 可 能 年 齢 に あ る女 性 を 一 定 の 職 務 か ら排 除 す る方 針 を 打 ち 出 した た あ,自. ら避 妊 手 術 を受 け て な お現 職 場 に とど ま ろ う とす る者 が続 出 した。. これ に は,職 場 の転 向 に よ り労 働 者 の減 収,場 合 に よ って は解 雇 が避 け ら れ な い こ と,避 妊 手 術 を使 用 者 側 が 勧 あ た こ と,な ど の事 情 が作 用 して い る。 そ こで労 働 組 合 はOSHAに. 申立 を行 い,労 働 長 官 は一 般 的 義 務 条 項. 違 反 を 根 拠 と して 使 用 者 に通 告 書 を発 行 した。 しか し,通 告 書 の記 載 内容 に は,な ぜ そ の雇 用 方 針 が 本 条 項 違 反 に問 わ れ る のか の明 確 な理 由付 け が な され て い なか っ た た めi使 用 者 は これ を争 う旨通 知 した。 そ こで本 件 の 審 理 に当 た っ た安 全 衛 生 審 査 委 員 会 爾 は,一 般 的義 務 条 項 にい う 「認 識 さ れ た 危 険 」 は あ くまで 労 働 者 の従 事 す る 「労 働 過 程 や 資 材 」 を指 す こ と, 使 用 者 に は経 済 的 期 待 可 能 性 が なか っ た こ と な ど を理 由 に通 行 書 を無 効 と した 。 そ の 後 の司 法 審 査 にお いて も裁 判 所 は委 員 会 裁 決 を肯 定 した。 本 判 決 は,そ の 判 断 の 根 拠 と して,① 本 方 針 受 諾 につ き労 働 者 側 に選 択 の 自 由 が あ った こ と,② 既 出 の連 邦 最 高 裁 判 決 ㈹ が 「雇 用 に お け る危 険 」 を 直 接 的 な 「身 体 的 危 険 」 に制 限 して いた こ と,な どを 挙 げて い る。 本 判 決 に対 して は そ の後 学 説 か らか な りの批 判 が な され た もの の(36),何らの 修 正 を受 けず に 今 日に 至 って い る㎝。 以 上 の点 か ら,「 認 識 さ れ た危 険 」 と は,「 使 用 者 あ るい はそ の 産 業 の 構 成 員 に よ って 合理 的 な調 査 の上 客観 的 に認 め られ た,職 場 の 雇 用 方 針 を 含 ま な い危 険」 を指 す もの,と い え よ う。. 〈災 害 発 生 の 蓋 然 性 〉 一方 cause…. ,「 災 害 発 生 の(現. 実 性 ま た は)蓋. … で あ り,文 言 解 釈 上 は50%以. OSHA17条(k)の. 定 め る. 然 性 」 は,原. 語 で は1ikelyto. 上 の 災 害 発 生 確 率 を さ す 。 これ は,. 「重 大 な 結 果 が 発 生 す る 実 質 的 蓋 然 性(substan一 一103(476)一.

(26) や、曝 抽. 近畿大学法学. 第49巻 第2・3号. tialprobability)」. に相 当 し,「重 大 なOSHA違. 反(seriousviolation)」. の構 成 要 件 とな る。 こ こで 「重 大 な違 反 」 とは,OSHA基. 準の違反程度 と. して は,故 意 に よ る違 反 お よ び 反 復 的違 反 に次 い で最 も重 い もの で あ り, 一 般 的義 務 条 項 の 蓋然 性 要 件 はそ れ だ け厳 格 で あ る こ とが分 か る。 しか し な が ら,そ の定 義 の 明確 な 確定 を巡 って は,こ れ ま で に も裁 判 所 と委 員 会 の双 方 で活 発 な論 争 が な され て きた。 先 ず,前 掲1973年NationalRealtyCo.v.OSHRC事. 件 巡回区裁判所. 判 決 は,建 築 業 者 の職 長 を務 あ る従 業 員 が,部 下 の運 転 す る ロー ダ ー(石 炭 ・砂 利 を運 搬 す る機 械)の 踏 み 台 に乗 って い た と ころ,そ の 横 に設 置 し て あ った タ ラ ップ が倒 れ て生 じた死 亡事 故 に っ き,使 用 者 がOSHA違. 反. に 問 わ れ た事 案 に っ い て下 され た もの で あ る。 本 事 業 所 で は,そ の よ うな 危 険行 為 を事 前 に禁 止 す る方針 が と られ て お り,使 用 者 は この事 故 に関 し 自 らに予 見可 能 性 が な か った と主 張 した。 判 示 は,一 般 的 義 務 条 項 の 蓋 然 性 判 断 を委 員 会 の専 門 家等 に託 し,そ の 識 見 か ら災 害 発 生 の可 能 性(possibility)が 指 摘 さ れ れ ば十 分 で あ り,裁 判 所 は そ れ を尊 重 す べ き(以 降 こ の判 断基 準 をpossibilitytestと. 呼 ぶ),と. した。. し か しな が ら,翌 年 の1974年 に下 さ れ たBrennanv.OSHRC(Vy Lactos)事. 件 連 邦 巡 回 区 裁 判 所判 決㈱ で は,別 個 の判 断 基 準 が 採 用 され る. こ と とな った。 本 件 は以 下 の よ うな事 案 で あ る。 サ ル フ ァ酸 入 りの 粘 土 状 の魚 肉 が,積 み卸 しの 際 に タ ン クか らあ ふ れ た た め,労 働 者 が そ の 処 理 の たrり. 出 され た。 しか しそ の 時点 で何 ら安 全 上 の 指 示 も呼 吸 器 具 も提 供. され な か った た め,水 素 系 サ ル フ ァガ ス中毒 で 死 者 が 発 生 した 。 一 般 的 義 務 条 項 を根 拠 に通 告 書 を発 行 され た使 用者 は,技 術 的 理 由 か ら本 事 故 は合 理 的 に予 測 不 可 能 で あ った,と. して これ を争 った。 そ こで判 示 は使 用 者 の. 主 張 を採 用 し,次 の よ うに述 べ て い る。. 一104(475)一.

(27) 1  一. ア メ リカ労 働 安 全 衛 生 法(OSHA)に. 「一 般 的 義 務 条 項 違 反(含. むOSHA基. お け る労 働 者 権 の 検 討. 準 違 反)が. 生 じ る た め に は,. (専 門 家 以 外 か ら も)「 合 理 的 に 予 見 可 能(reasonablyforeseeable)」. な. 4. 危 険 が 存 在 し,使 必 要 で あ る(以. 用 者 が 労 働 者 を 保 護 す る適 当 な 予 防 措 置 を 怠 る こ と が 降 こ の 判 断 基 準 をreasonablyforseeabilitystandard. と呼 ぶ)」。. 「災 害 発 生 の 蓋 然 性 」要 件 を あ ま り緩 や か に 解 す る と,既. に生 じ て し ま っ. た 災 害 と い う結 果 か ら本 条 項 違 反 を 導 き や す い 。 こ れ は使 用 者 の 危 険 行 為 自 体 に 目 を 向 け な い 誤 っ た 傾 向 を 助 長 す る。 こ の よ う な 理 由 か ら も,い ゆ るreasonablyforseeabilitystandardは,そ よ っ て 踏 襲 さ れp9),1982年. わ. の 後 の 複 数 の判 例 に. に労 働 長 官 が 発 行 し た. 「一 般 的 義 務 条 項 に基 づ. く通 告 書 発 行 に 関 す る ガ イ ド ラ イ ン(OSHAInstructionCPL2.50)」. も. こ の 基 準 を 採 用 し た 。 し か し な が ら,た. な. しか に 「possibilitytestは,単. る理 論 上 の 可 能 性 で 使 用 者 に絶 対 責 任 を課 す 傾 向 を有 す る点 に短 所 を有 す る が,reasonablyforseeabilitystandardに seeableと1ikelytocauseが,全. っ い て も,reasonablyfore・ く同 義 で あ る か,が. お 絶 対 的 な も の と は 言 い 得 な い 鯛 。 た と え ば,ご 接 触 に よ り 労 働 者 が ガ ン に 罹 っ た 場 合,思. 明 確 で な い点 で な. く少 量 の 発 ガ ン物 質 へ の. 慮 分 別 の あ る 使 用 者 で あ れ ば,. あ ら ゆ る 接 触 が 何 らか の 危 険 を も た ら す で あ ろ う こ と はreasonablyforeseeableで causeと. あ る が,本. 来 そ の 可 能 性 は 少 な か っ た 訳 だ か ら,1ikelyto. は な り 得 な い の で あ る ω。学 説 の 中 に は,こ. 単 な る数 学 的 な 可 能 性 で は な く,人 る,と. こ で 基 準 と な る の は,. 間 の 常 識 的 判 断(plausibility)で. あ. す る も の も あ る が(42),こ れ を も っ て 法 的 基 準 と す る に は 不 十 分 と い. わ ざ る を 得 ず,一 し た が っ て,現. 般 的 な支 持 を 得 る に は至 って い な い 。 在 の と こ ろ,一. 性 」 要 件 に っ い て は,そ. 般 的 義 務 条 項 の 定 め る 「災 害 発 生 の 蓋 然. の 解 釈 が 一 定 し て お ら ず,reasonablyfore一 一105(474)一.

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