私たちの身の回りには急激に有機光デバイスが目につく ようになってきた.液晶ディスプレイや有機 EL ディスプ レイ,有機太陽電池,高分子光ファイバーなど,光機能と かかわる有機・高分子材料の果たす役割はますます大きな ものとなっている.分子や素材を作ることのできる化学者 にとって,これらのデバイスの基本的な知識を得ることは 重要である.有機分子そのものの光反応過程を扱った「光 化学」に関する成書は多い.しかしながら,物質を実際に 用いる際に必要となる「光学」は化学者にとって敷居が高 いし,液晶デバイス分野を除けば,分子と機能デバイスへ の具体的なイメージを結びつける著作はなかなか見当たら ない. その状況において,本書「化学者のための光科学」は, おもに化学系の研究者や学生を読者として想定し,光学の 基礎に触れながら,分子を多様な機能デバイスへ展開する うえでのエッセンスをコンパクトに凝集させた,新しい視 点でまとめられた好著である.著者の長村利彦教授(九州 大学名誉教授,北九州工業高等専門学校特命教授)は長年 にわたり光機能有機デバイスの研究分野で日本を先導され てきた研究者である.自ら広範な産学のメンバーを中心と する有機デバイス研究会を立ち上げ運営され,当該分野に おける深い知見と洞察をおもちで,本書は長村教授でなけ ればまとめることができない内容が盛り込まれている.本 書は,教授の長期にわたる九州大学と静岡大学での講義 ノートを中心としてまとめられているとのことであるが, 最新のトピックスも含めたエッセンスがまとめられてお り,いつまでも新しさが感じられる内容となっている.ま た,本書の装丁は B5 判のハンディな厚みであり,気軽に 手に取って読むのにとても便利であることもありがたい. 本書の内容は,光と物質の相互作用,波としての光の特 性とその制御といった基本事項に多くのページが割かれ, さらに光化学にもとづく情報処理とエネルギー変換,生体 系の光化学まで言及されている.基本事項といっても,色 素会合,電荷移動,化学発光,電場発光,各種クロミズ ム,フォトリフラクティブ効果,プラズモニクス,構造色 といった,研究現場において頻繁に遭遇する事項が多く扱 われ,これらに対して模式図や写真を多用しながら,具体 例を挙げて理解しやすいように工夫されている.各々の現 象や原理に関して,その発見者や創案者の名が頻繁にあげ られ,種々のエピソードもちりばめられており,各現象や 原理とその先達者とが生き生きと身近に感じられるような 工夫もなされている.参考図書や参考文献も数多く挙げら れているので,より詳しい発展学習も容易に可能である. 光化学や光学のおさらい,そして最新の多様な光機能有 機デバイスへの道筋がわかりやすくまとめられた好著であ り,種々の有機光機能デバイスにかかわる方々,あるいは 当該分野に興味をもたれる方々にぜひ一読をお薦めしたい 一冊である. (名古屋大学大学院工学研究科 関 隆広) 490(32) 光 学
「化学者のための光科学」長村利彦著
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