採泥器付きROVによる人工魚礁近傍での底泥試料採取の試み
須藤賢哉・稲葉信晴・伊藤敏朗((国研)土木研究所 寒地土木研究所) 中村知道・松岡央明・吉田侑矢・吉野真史(㈱アルファ水工コンサルタンツ) 1.まえがき 日本の漁業生産量が減少傾向にある中、沖合域で 精力的に進められている人工構造物を活用した漁場 整備 1)による資源量増大が期待されている。人工構 造物による整備効果を評価する上で、漁場環境に及 ぼす構造物の影響の把握は基本であるが、水深が 40m を超えると潜水作業に制約があるため、沖合域 における構造物設置が漁場環境に及ぼす影響は十分 に把握されていないのが現状である。本稿では、北 海道利尻島沖合の水深 90m の人工魚礁において、採 泥器を装着した ROV による魚礁ブロック近傍での採 泥手法および得られた分析結果について報告する。 2.現地観測方法 観測箇所は北海道利尻島の南西約 10km 沖合にあ る水深約 90m の人工魚礁漁場とした(図-1 左)。観測 時期は 2018 年 7 月 25 日〜8 月 9 日である。測点は、 高層鋼製魚礁と魚礁ブロックから成る人工魚礁群体 (2014~2015 年整備、図-1 右)を A 地点とし、中心か ら北側へ A0~A5 の計 9 測点を設定した。このうち 魚礁ブロック近傍の 2 測点(A1*・A2*)を ROV での採泥とし、他の 7 測点をスミス-マッキンタイヤ(S-M)採 泥器(採取面積 0.05 ㎡)での採泥とした。 図-2 は ROV への採泥器の装着状況を示す。ROV は Mitsui RTV.N-Hyper300EXY(潜行能力水深 300m、空中 重量 56 ㎏)を用い、底面にエクマンバージ採泥器 (採取面積 0.02 ㎡、空中重量 4.75 ㎏)を固定した。 ROV への負荷軽減のため、採泥器側面に発泡スチロ ール(□15 ㎝×厚 2 ㎝)2 枚を取付けて水中重量の軽 減を図った。ROV が魚礁ブロックに接近した後で海 底上 1m 程度から自然落下させ、着底時の衝撃力で 開口部が閉じる機構とした。採泥開始当初は後述の 地盤の礫分により開口部が十分に閉じなかったため、 バネの交換で確実に開口部が閉じる改良を行った。 図-1 現地観測位置図 (左:人工魚礁漁場の位置・右:魚礁群体と測点) 図-2 採泥器を装着した ROV 分析項目(分析手法)は、粒度分析(ふるい分析と 沈降分析)、強熱減量(電気炉強熱)、全有機炭素 TOC(燃焼酸化)、底生生物(目合 1 ㎜篩に残った生物 のホルマリン固定)であるが、粒度分析では ROV 採 泥は行わず、S-M 採泥器による 7 測点のみとした。 3.現地観測結果と考察 (1)粒度分布・強熱減量・TOC 図-3 は、A 地点の底泥の粒径加積曲線を示す。な お、ROV 採泥に関しては底生生物等の分析を優先し たため粒度分析は実施していない。粒度分布は粘土 ~中礫と比較的均等で幅広いが、50%粒径は地点間 で D50=0.12 ㎜(A5)から D50=6.2 ㎜(A2’)とやや差があ る。採取試料の観察からは、地盤の表面には細粒分 が多く、深い層ほど礫分が多い傾向が認められた。 図-4 は、A 地点の底泥の有機物の指標である強熱 減量と TOC を示す。地点間の大きな差は無く、平均 図-3 底泥の粒径加積曲線 図-4 底泥の強熱減量と TOC 0 20 40 60 80 100 0.001 0.01 0.1 1 10 100 累積率 (%) 粒径(mm) A0:D50=2.1㎜ A1:D50=3.7㎜ A2:D50=0.89㎜ A2':D50=6.2㎜ A3:D50=0.62㎜ A4:D50=0.35㎜ A5:D50=0.12㎜ 0.005 0.075 0.250 0.850 2 4.75 19 75 粘土 シルト 細砂 中砂 粗砂 細礫 中礫 粗礫 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0
A0 A1 A1* A2 A2’ A2* A3 A4 A5
強熱減量 (% )、 T O C( ㎎ / g) 強熱減量 TOC(全有機態炭素) 測点 緯度 経度 A0 45°02′30.997″ 141°07′54.267″ A1 45°02′32.6″ 141°07′54.368″ A1*45°02′32.4″ 141°07′54.54″ A2 45°02′34.22″ 141°07′55.028″ A2' 45°02′34.517″ 141°07′54.318″ A2*45°02′33.786″ 141°07′54.81″ A3 45°02′35.78″ 141°07′54.608″ A4 45°02′37.519″ 141°07′54.848″ A5 45°02′39.079″ 141°07′54.848″ -105-a) HW b) LW 図5 大潮時(2011.8.31)における CTD の観測結果 4.結論 2011 年 5 月から 2012 年 5 月まで約 1 年間靈光 Gusipo 海水浴場の沿岸海域で観測した潮汐と潮流、 水溫と塩分の資料を用いて当海域の海洋還境的な 特性を把握した。その主要結果は次のようである。 (1) 夏季に4 大主要分潮(M2, S2, K1, O1)の振幅や潮差 が最も大きく、春季または秋季に大体小さかった。 また、潮汐の形態数F(=(K1+O1)/(M2+S2))も夏季が 0.23 で他の季節の 0.22-0.20 に比べやや大きく、全 体的に対象海域は半日周潮が卓越した。 (2) 潮流は季節や水層に関係なく漲潮流は北東方向、 落潮流は南西方向へそれぞれ流れ、冬季を除いて 漲潮流が落潮流に比べやや優勢であった。また、 夏季には他 の季節に比べ最強流及び平均流共に 漲潮流が落潮流似比べ相対的に強い反面、冬季に は落潮流が他の季節に比べ優勢であった。これは 潮流が夏季の南風系列及び冬季の北風系列の風に よる影響を受けたためと考えられた。 (3) 潮流の移動(漂流)速度は底層においても比較的 大きく、潮流は春季には東南東、夏季には東、秋 季には南南東、冬季には南南西の方向へそれぞれ 進行した。また、これらの潮流の移動方向が季節 によって異なるのは観測当時の風の主風向の影響 のためと判断された。 (4) Gusipo 海水浴場の前面では水溫の変化がほぼ満 潮時と干潮時に応じて起きるいわば同調現象 (conformity)を表した。また、Gusipo 海水浴場の前 面 の表 層の平 均水 溫は対 照区の Gyekpo や Daegwang 海水浴場の表層の平均水溫に比べ季節 に関係なく約3-4°C がもっと高く、これは発電 所の溫排水の影響と考えられる。 (5) 夏季 CTD の観測結果、Gusipo 海水浴場の前面海 域は成層を形成し、Gusipo 海水浴場を中心とした 沿岸域の海水は水平的には大体よく混合されてい ると判断された。また、大潮期は小潮時に比べ漲 潮時と落潮時共に水溫と塩分がそれぞれ增加した。 参考文献
Ahn, J.S., Kim, S.W., Park, M.H., Hwang, J.D., Lim, J.W., 2014. Seasonal variation of thermal effluents dispersion from Kori nuclear power plant derived from satellite data. 17(4), 52-68.
Kim, Y.H. and Huh, S.H., 1998. Species composition and biomass of marine algae community in the vicinity of Yonggwang nuclear power plant on the west coast of Korea. J. Korean Fish. Soc., 31(2), 186-194.
水深90mの人工魚礁周辺における付着生物相観測
-再回収型海底係留装置を用いた試験礁の調査結果について-
松岡央明・吉田英雄・吉野真史・中村知道・吉田侑矢((株)アルファ水工コンサルタンツ) 須藤賢哉・伊藤敏朗((国研)土木研究所 寒地土木研究所) 1. はじめに 魚類の蝟集効果による漁場形成を目的に、コンクリ ート構造物等を利用した人工魚礁漁場が日本全国で整 備されている。人工魚礁は、その表面に環形動物やフ ジツボ等の魚類の餌料となる動物が付着することによ り、餌場としての機能を有するとされる1)。これを餌 料培養効果と捉えて魚類の増殖に繋げることができれ ば、水産資源の増大に有効な手段となる可能性がある。 餌料培養効果を明らかにするには、構造物表面の付着 生物相を確認することが有効であると考えられる。 浅海域に整備された人工魚礁では、潜水作業により 付着生物を直接採取できるが、沖合域では潜水作業の 限界により、付着生物相の解明が進んでいないのが現 状である。そこで、北海道利尻島沖合の水深90mに整 備された人工魚礁の近傍において、再回収型海底係留 装置TRBM(以下、TRBMとする)を試験礁として設置 するとともに、対照区として水深10mに設置した試験 礁の付着生物の採取、比較分析を実施した。 2. 調査方法 本調査では、北海道利尻島仙法志漁港の沖合10km に整備された人工魚礁漁場(水深90m)をA地点、対照区 として仙法志漁港近傍(水深10m)をB地点とし、観測地 点を設定した。A地点にはTRBMを、B地点には金属 製架台をそれぞれ試験礁の土台とした(図- 1~2)。 TRBMは、抗トロール測流装置であり、ADCPの海 図- 1 調査箇所位置図 図- 2 試験礁概観(左:A 地点、右:B 地点) 図- 3 試験基質の配置(網掛け箇所が採取基質) 底設置を主な目的としたもので、船上の音響装置にて 信号を送ることで浮上し、潜水作業を必要とせずに回 収が可能となっている2)。漁業活動等の影響を受け難 く、亡失のリスクが低いことが特徴である。 付着基質の材質による生物付着効果の差異を把握す ることを目的として、モルタル、鋼材、木材の試験基 質(10cm角)を各試験礁に取り付けた(図- 3)。なお、こ れらは人工魚礁に一般的に用いられる材質である。 試験礁はそれぞれ2017年5月25日に沈設し、A地点 では2018年8月8日に、B地点では2018年8月9日に揚収 し、試験基質を回収した。A地点の試験礁は440日間、 B地点では441日間沈設したこととなる。試験基質の 表面に付着した生物について、計数・種同定を行った。 3. 調査結果と考察 回収した試験基質における付着生物相の構成種と個 体数の分析結果を表- 1および図- 4に示す。 表- 1より、A地点ではモルタル、鋼材、木材の順に 合計個体数が多く、図- 4よりいずれの材質でも環形動 物の多毛綱が個体数で高い割合を占めた。多毛綱は底 -107-値は強熱減量が 3.7%、TOC が 5.4mg/g である。魚礁 ブロック近傍の A1*・A2*についても他地点との大き な違いは認められない。TOC 値は概ね日本周辺外洋 の 5~10 ㎎/g2)に相当する。内湾域の播磨灘では最 大 18mg/g3)の観測事例があり、今回の TOC 値は、有 機物が湾内で滞留しやすい内湾域とは異なる沖合域 の特徴が表れているものと考えられる。 (2)底生生物 図-5 は、底生生物の 1 ㎡当たりの個体数と湿重量 を示す。ここでは、人工魚礁群体の範囲内にある A0~A2*を魚礁区、それより外側にある A3~A5 を対 照区と定義した。地点間平均では、魚礁区で個体数 1,173 個体/㎡、湿重量 86.9g/㎡であり、対照区の 707 個体/㎡、40.1g/㎡よりも高かった。沿岸域の 調査 4)では、人工魚礁近傍で底生生物の生物量が高 いことが観測されていることから、水深 90m に設置 した人工魚礁についても同様に底生生物の生物量を 増大させる効果が示唆された。 分類群別の割合では、環形動物(ゴカイ・イソメ等 の多毛類)が個体数による全地点平均 80.7%と最も 優占した。底泥の TOC 値が低い方が環形動物の個体 数が多い傾向との報告もあり5)、図-4 の TOC 値より A 地点が環形動物の生息環境として好適であること が推察される。また、多毛類はカレイ類の重要餌料 であることから 6)、魚礁区では少なくともカレイ類 にとって望ましい餌料環境であることが示唆された。 魚礁ブロック近傍の A1*・A2*の環形動物に着目す ると、A1*では 2,150 個体/㎡と A 地点で最大値であ った。一方、湿重量では 32.2g/㎡と魚礁区では比 較的小さく、小さい個体が多いことを示している。 これは A2*も同様である。棲息場所の流速がベント スのサイズに影響するとの報告 7)もあり、魚礁ブロ ックによる流速低減の影響が可能性として挙げられ るが、現時点では詳細は不明である。 図-6 は A1*の魚礁ブロック近傍での ROV 撮影画像 図-5 底生生物の分布(上:個体数、下:湿重量) 図-6 魚礁ブロック近傍の環形動物の棲管 を示しているが、環形動物の棲管が海底面に多く認 められる。これは魚礁ブロック近傍に環形動物が多 く生息することの証左と考えられ、A1*で環形動物 の個体数が最も多い結果とも整合する。今後は構造 物近傍での環形動物の詳細な生息状況の解明ととも に、ROV 撮影画像を活用した生物量把握手法の確立 が重要であると考える。 4.まとめ 今回の観測では水深90mにおけるROVによる底泥試 料採取に成功し、底生生物の分布状況からは人工魚 礁近傍におけるカレイ等の水産有用魚種にとって好 適な餌料環境の形成が示唆された。今後は本手法の 活用により、沖合域の人工構造物における餌料生物 の生息状況をより詳細に解明したいと考えている。 参考文献 1)中村隆・岡貞行・山本竜太郎・柳瀬知之・浅川典敬・中川良文 (2007):沖合漁場整備の政策的意義と技術的課題、平成 19 年度日本水産工学会秋季シンポジウム講演集、講演 9 2)三宅泰雄(1972):堆積物の化学、海洋科学基礎講座 12、東海 大学出版会、pp.357 3)神山孝史・辻野睦・玉井恭一(1998):夏期成層期の播磨灘海底 における栄養塩類溶出量、南西水研研報、No.31、pp.33-43 4)穴口裕司・永松公明・田原実・足立吉宏(2014):人工魚礁に おける生物多様性に関する研究事例、水産工学、Vol.50、 No.3、pp.219-224 5)村上和仁・今富幸也・駒井幸雄・永渕修・清木徹・小山武信 (1998):瀬戸内海における環形動物(Annelida)の生息状況と 底質環境の関係、水環境学会誌、第 21 巻第 11 号、pp.757-764 6)西川潤・園田武・櫻井泉・瀬戸雅文・中尾繁(2000):苫小牧沿 岸域における底生魚類群集の食性とマクロベントス、日 本水産学会誌、66(1)、pp.33-437)Serena Donadi・Britas Klemens Eriksson・Karsten Alexander Lettmann・ Dorothee HodappJorg-Olaf Wolff ・ Helmut Hillebrand(2015):The body-size structure of macrobenthos changes predictably along gradients of hydrodynamic stress and organic enrichment, Marine Biology, 162(3) ,pp.675–685 0 500 1000 1500 2000 2500 個体数(個体 / ㎡ ) ↓魚礁区平均=1,173 ↓対照区平均=707 0 50 100 150 200 250
A0 A1 A1* A2 A2' A2* A3 A4 A5
湿重量( g/ ㎡ ) 環形動物 棘皮動物 軟体動物 節足動物 その他(紐型動物・星口動物・原索動物) ↓魚礁区平均=86.9 ↓対照区平均=40.1 -106-2019年度日本水産工学会学術講演会