要旨 我が国では、多様化する子どもの課題やその家庭への支援のひとつに「子ども食堂」があり、全国的 な広がりをみせている。一方で、資金難、ボランティアの不足、受け入れ人数の課題等により、子ども 食堂の継続的な運営が困難になっていることが指摘されている。そこで本研究では、子ども食堂の持続 可能な運営方法及び子ども食堂が社会的に担う役割について明らかにすることを目的とした。 所沢市の子ども食堂8施設の運営者を対象にインタビュー調査を行った。そして、逐語データを、 M-GTAを用いて分析した。 子ども食堂の持続可能な運営方法について分析した結果、6つのカテゴリーが生成された。スタッフ それぞれが役割分担をしながら適材適所で運営をすることが継続的な運営に重要であることが明らかに なった。また、スタッフと参加者が楽しみながら積極的に参加することで、お互いが学びあえる居場所 としての役割が生まれていた。 キーワード: 子ども食堂、子どもの貧困、持続可能な運営、役割、M-GTA
1.研究の目的・背景
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、 2015年の子どもの貧困率は13.9%であり、7人に 1人の子どもが貧困状態にあるとされている(厚 生労働省、2016)。2012年と比較すると、2.4ポイ ント減少しているものの、依然高い水準であると いえる。また、経済協力開発機構(以下OECD) の報告によると、2010年の日本における子どもの 相対的貧困率は15.7%で、OECD加盟国34ヶ国中 ワースト10位であり、OECD平均(13.3%)を上 回っている(内閣府、2014)。このことから、日 本における貧困の状況は非常に深刻であるといえ る。2014年には「子どもの貧困対策の推進に関す る法律」が施行されるなど子どもを取り巻く環境 の改善が急務とされている。 こうした状況の中で、地域で子どもを育てる取 り組みのひとつとして、子ども食堂が注目されて いる。子ども食堂の定義はさまざまあるが、湯浅 は「子どもが一人で安心して来られる無料または 低額の食堂」と定義している(湯浅、2017)。子 ども食堂の始まりは、「気まぐれ八百屋・だんだん」 を営む近藤博子氏が、2012年に子どもだけでも来 られる食堂を始めたこととされている。前述の社 会的要請を背景にして、全国で急速に広まってお り、2018年4月時点で全国に2,286ヶ所の子ども 食堂があるとされている(こども食堂安心・安全 向上委員会、2018)。 子ども食堂は、それぞれの地域の要請に応える 形で急速に拡大している一方で課題も多く指摘さ論
文
子ども食堂の役割および継続的な運営
に関する研究
岩 垣 穂 大 長 瀬 健 吾 扇 原 淳
早稲田大学人間総合研究センター 早稲田大学人間科学部 早稲田大学人間科学学術院れている。運営面での課題について、資金難・ボ ランティアの不足・受け入れ人数の制限等が問題 となっている(農林水産省、2018)、(島根県社会 福祉協議会、2019)また、役割に関する課題とし て「子ども食堂は経済的弱者のみが利用する場所 である」といった偏見も報告されている(濱田、 2019)。子ども食堂は貧困を解決するためのツー ルであるという側面が大きく取り上げられるが、 貧困そのものを解決することは難しく、孤立への 対策としての意味合いが強いことも指摘されてい る(和田、2016)、(室田、2016)。 子ども食堂に関する先行研究では、子ども食堂 の実践報告が多く行われている(柏木、2017)、(島 村、2017)、( 成、2017)、( 濱 田、2017)、 一 方、 持続的な運営に関する要因の分析や役割の明確化 を行う研究はあまり見られない。そこで、本研究 では、所沢市における子ども食堂を対象にして、 継続的な運営に関わる要因や食堂の役割について 検討することを目的とした。
2.研究方法
⑴ 調査期間・対象・項目 所沢市の社会福祉協議会が把握している市内全 10ヶ所の子ども食堂に調査の依頼を行った。そし て、協力の得られた8ヶ所の子ども食堂の代表も しくは副代表10名を対象として、半構造化面接法 によるインタビュー調査を行った。インタビュー において聞き取った内容はICレコーダーに記録 後、逐語化したデータとした。質問項目は、①子 ども食堂を始めたきっかけ、②運営方法、③運営 していく上で大変だったこと、④スタッフや子ど も達の変化、⑤運営のやりがい、⑥今後の方針や 目標の計6つとした。調査期間は2018年10月14日 から12月20日であった。図1に、今回の調査で対 象とした8ヶ所の子ども食堂について詳細を示し た。また、表1にインタビューを行った10名の代 表もしくは副代表について詳細を示した。なお、 本研究では、企画運営者・専門職・ボランティア など食堂に関わる全ての大人を「スタッフ」と定 義した。 ⑵ 分析方法 分析方法は、木下の修正版グランデッド・セオ リー・アプローチ(M-GTA)を用いた。M-GTA はデータの解釈から説明力のある概念の生成を行 い、それらの概念の関連性を高め、まとまりのあ る理論を創出する方法である。この研究法は人間 を対象に、ある“動き”を説明する理論を生成す ることが可能である。本研究においても、子ども 表1 所沢市内の子ども食堂の詳細(平成30年3月現在) 開催日・時間 場所 平均参加人数 ボラ人数 参加費 対象 運営の主体 開始時期 A 毎月第3火曜日 17:00~20:00 店舗 子ども:15人 大人:15人 5人 中学生まで100円 大人300円 誰でも お店の店員 平成28年4月 B 毎月第4金曜日17:30~19:00 介護施設 子ども:10人大人:20人 7人 小中学生100円大人300円 誰でも 地域のボランティア介護施設の職員 平成30年3月 C 月3回 18:00~20:30(月2回) 11:30~14:00(月1回) 公民館 子ども:4人大人: 5人 子ども100円 大人300円 経済的困難な 方 民生委員 地域のボランティア 平成29年3月 D 毎月第2・第4水曜日18:00~20:00 店舗 子ども:15人大人:4人 7人 子ども無料大人300円 誰でも 原則大人は子 どもの保護者 NPO職員 地域のボランティア 平成29年12月 E 毎月第3金曜日 17:30~19:00 店舗 子ども:10~14人 大人:5~8人 8人 中学生まで100円 大人300円 誰でも 地域のボランティア 平成29年4月 F 18:00~20:00月2回 個人宅 子ども:10人大人:10人 7人 子ども無料大人300円 一人親家庭引きこもり等 民生委員 平成27年12月 G 毎月第3金曜日17:30~19:00 介護施設 子ども:15人大人:25人 10人 中学生まで100円大人300円 誰でも 地域のボランティア介護施設の職員 平成29年3月 H 毎月第2・第4木曜日 17:00~19:30 集会所 子ども:14人 大人:25人 20人 子ども100円 大人300円 誰でも 社会福祉協議会 地域のボランティア 平成29年2月食堂を運営していく上で、運営者や子ども達にど んな変化があったのか、運営を持続可能なものと していくためにどのような工夫をしてきたのか、 変化や“動き”に着目しながら分析を行った。 本研究では、子ども食堂の持続可能な運営に関 わる要因を逐語データの文脈から判断し、定義を 決定した。そこから概念を生成し、複数の概念の 関係から成るカテゴリーを生成した。その後、結 果図、ストーリーラインを作成した。概念、カテ ゴリーの妥当性は分析者の主観的な解釈を避ける ため、経験豊富な複数の研究者とともに解釈が一 致するまで議論し客観性を確保した。 ⑶ 倫理的配慮 倫理的配慮として、インタビュー調査への協力 は本人の自由であること、協力しない場合にも一 切の不利益を受けないこと、個人を特定できない よう匿名化を行うことを口頭および書面にて説明 し同意を得た。また、本研究は、「日本地域福祉 学会研究倫理規程」に基づき、個人情報の保護と 人権の尊重に配慮して行った。
3.結果
子ども食堂の持続可能な運営方法について分析 した結果、6つのカテゴリーと45の概念が抽出さ れた。分析結果である全体的な流れ(ストーリー ライン)をカテゴリー及び概念を用いて示す。こ こでは、カテゴリーを【 】、概念を< >を用 いて表す。なお、本研究の分析にはM-GTAを採 用し、人間を対象とした感情や行動の“動き”の 生成を試みている。感情や行動の変化を太い矢印、 それらの変化に影響を与えたと思われる要因を点 線の矢印で示した。 図1では、食堂を始めたきっかけである左下の ⑴から、食堂の役割を示す右上の⑹に至るまでの 感情や行動の変化を表している。⑴から⑹に至る までの過程の中で、食堂における課題や工夫、継 続に影響を与える要因などを明らかにしている。 表3 生成した概念のリスト カテゴリー 概念名 具体例(ヴァリエーション) 【 子 ど も や 保 護者を支援し たいという思 いの芽生え】 <子育てに困難を抱え る保護者> お母さんの大変さとか、家庭の大変さとか、闇の深さっていうか、問題っていうのが、大きいねっていうことで <複雑な親子関係> お母さんに言えばいんじゃないの?って言ったら、お母さんには言えな い、やっぱりそこが一番の問題だと思う <コミュニケーション が苦手な子ども> 小学生が増えれば増えるほど、中学生の子ども達は、いづらくなっちゃう、うるさいって、落ち着いてご飯食べれないって <子どもや保護者の抱 える課題を把握> 経済的に厳しい方々っていうのは、子どもに限らず、若い世代や高齢者ももちろん同じように、格差があるというのがまず気づいたというか <貧困の実態> 子ども達がお昼をどうやら食べてなかったって所に遭遇したのね <子ども達を支援した いという使命感> 大人ができることをしないと、その子ども達の将来がやっぱりなかなかね、住みづらくなってしまう、生きづらくなってしまうと思いますね <個別のケースを支援 したいという思い> どうにかその子達(個別のケースで支援している家庭)の居場所ができないかってことで 【 運 営 上 の 課 題】 <スタッフの人手不足> 自分一人でやんなきゃいけない時もあるので、そういう時は大変ですね<運営資金の不足> えっとー、基本(収支については)赤です 表2 インタビュー対象者の基本属性 対象 年齢 性別 所属・職業 A 50代 女 民生委員 B 30代 女 飲食店オーナー C 30代 女 医療施設職員 D 50代 女 NPO職員 E 20代 男 医療施設職員 F 60代 女 ボランティア G 20代 男 社会福祉協議会職員 H 70代 女 生活協同組合職員 I 70代 女 民生委員 J 50代 女 栄養士受け入れ人数の限界 キャパシティーもやっぱり今よりはちょっともう、増やせないので <子ども食堂に対する 社会的認知度と実情の 違い> ボランティアさんの中にもやっぱり子ども食堂のイメージがあってそれ ぞれ、そのイメージっていうのはどうしてもテレビで見るとか、新聞で 読むイメージになっていて <個人情報の課題> 全然私たちはそういう困ってる子どもの話とか聞いても、会うことがで きないんですね.誰から情報聞いた?ってことになるので <保護者と連絡を取り 合うことの困難> 連絡をしても、連絡がこないとか、まあ来るって言って来ないとか、あとなんか約束したのにお母さんが忘れてるとか <家庭の事情がそれぞ れ異なる上での対応の 難しさ> 何をどう支援して、この人に(何を支援)してあげたら幸せになれるの かなっていうのは時々思うことあるね.何を求められてるのかなあって 【 子 ど も や 保 護者と関わる 上での対応の 工夫】 <参加者が来やすくす るための工夫> 送迎も一緒にしてくれる高齢者のおじいちゃんがいて <子ども達のルールを 規定> 子ども食堂でみんなすごしやすいルールっていうのを考えて、汚い言葉を使わないっていうルールが1個できたのね <別の形での支援> まあ違う形でもいいから、会いたいということで、会ったんですけど <個別に応じた対応の 工夫> 大勢が苦手な親子について1対1で月1回、調理をする、調理の仕方を教えて自分の家でやってもらうために、特別の日をやっています <信頼関係の構築> まあうまく対応してくれて、そういう関係も密になりながらも 【 持 続 可 能 な 運営スタイル を確立してい くためのプロ セス】 <運営で中心となるス タッフの確立> ボランティアは、完全に地域の(方々)、まあ少なからず、まあここの医療機関に縁のある方が中心になって、ボランティアをしてくれてますね <スタッフの共通の目 的や思い> やっぱ親子を支援するというのが、あの多分ここでね、皆さんの思いだと思うんですね <スタッフの主体性の 欠如> 自主的なイメージがあんまりないなっていうのがちょっと、まあ大変っていうか苦戦してる所でもあるかなと思います <適材適所でのスタッ フの活躍> あのそれぞれがこう、お互いに思いやりというか、できること、できないことを、あのあれして(助け合って)、できる範囲でというところで <スタッフの意識を変 える工夫> こういう風にやったらうまくいくんじゃないかとか、子ども達の気になる所があったら教えてくださいっていうのを、今取り入れてるんですね <スタッフ内でのルー ルを明確化> 会則が個人情報の守秘義務については盛り込んでるということが、あの特徴かもしれませんが <試行錯誤しながらの 運営> どっかで反省じゃないですけど、あの必ず振り返って、それをまた次の糧にしようっていうような感じでやってますね <スタッフの意識の変 化> 今度は自分たちが企画してみようっていう時に、学生が動き出したのは、やっぱり変化かなっていうのと <スタッフが元気にな った> まあそういったことですごくやっぱ楽しいのか、元気になったり体調良くなったり、スタッフから具体的にそういう声がよく挙がるんです <継続させることが最 大の目標> 継続がやっぱ大事なのかなって.どっかに、お客さんが一人でもきてるのなら、やめてしまったとしても、簡単に閉めてはいけない 【 関 係 機 関 や 地域で連携し た取り組み】 <地域の関係機関と連 携しながらニーズをキ ャッチ> (支援が必要な家庭を)発見できるっていうのは、社協に相談に行った 人のもあるし、学校と情報交換会っていうのを、だいたい6月頃開くん ですね <民生委員という立場 だからできる連携> これが民生委員じゃなければ、うーん、結構他との連携、市とか社協とか、学校との連携は難しいんじゃないかなっていうのはやってみてすご い感じました <専門職との連携を通 した支援> (カウンセラーの方から)どのように支援していったらいいかっていうのをちょっと話し合って、アドバイスもらったりして
<地域の関係機関の連 携> 一応学校から(個人情報を)聞くのと、子ども相談センターの方が、あの、案内を出してくれたんですね.地域にこういうの(子ども食堂)が ある <助成金の活用> あと今助成金をいただいてます.社協の赤い羽根共同募金の方から <食材や運営資金の寄 付> (米を)10キロとか20キロくれる.30キロくれる人もあって <地域で子ども達を見 守る> 全体で見守る目はできるので、その子の親御さんの顔もわかりますし 【 子 ど も 食 堂 の役割】 <参加者とスタッフの両方にとって楽しみな 場所> 子どもが今度いつあるの?って聞いて、いついつやるよって言って、や ったー!みたいな感じですごい楽しみにしてくれてるんだなーっていう のがあって <子どもや保護者の居 場所> やっぱりその子どもの居場所っていうのが安心して過ごせる居場所っていうのがやっぱり必要なんじゃないかって当時のCSWが感じた所で <多世代が交流できる 場所> 子ども世代とその親と、それから我々みたいにババ世代、あのそういう3世代が食卓を囲むというそれが図らずも、実現しちゃったんですね <地域の人とのつなが りを作る場> まあこういう風に子ども達がここで出会って、そのおじいちゃんと出会う場面とかを目の当たりにすると、「あっ、こういう出会いの場所って 大事だよな.」って思いますね <近所で顔の見える関 係> 子ども食堂以外のとこでもね、道とかお店とかで会った時に、わー!とか言って、ぶっきらぼうの女子も、道で会ったりするとすごい手振って くれたり <子どもの態度の改善 > やっと1年かけて、なんとなくその自分の物は用意するようにはなってきたし <子ども達が積極的に なる> ずっとみんなの輪に入らないで、一人で食べてた子がいたんですけど、その子もね、なんか徐々に、顔見知りの子が来るようになったから、そ の子のとこ行って、一緒にそっち側で食べるようになって <みんなで食べるとた くさん食べる> うちだと全然食べないのにとか、すごいここに来るとご飯を食べるとか、けっこう残さず食べるとか、そういう声は親御さんから聞きます <生きる力を養う> ご飯の炊き方とか、お米の洗い方から始まって、だいたいできるように なったよね 図1 子ども食堂の持続可能な運営プロセス
⑴ 子どもや保護者を支援したいという思いの芽 生え 子ども食堂のスタッフとなるボランティアは、 これまで地域で活動してきた中で、<子育てに困 難を抱える保護者>、<複雑な親子関係>、<コ ミュニケーションが苦手な子ども>など様々なケ ースに遭遇し、<子どもや保護者の抱える課題を 把握>するようになった。また、<子育てに困難 を抱える保護者>の背景には、経済的な貧困や社 会的孤立で苦しむ人もおり、<貧困の実態>を認 知するようになった。このことから、<子ども達 を支援したいという使命感>や、<個別のケース を支援したいという思い>が芽生えた。このよう に、【子どもや保護者を支援したいという思いの 芽生え】が、子ども食堂において活動を始めたき っかけとなっていた。 ⑵ 運営上の課題 実際に子ども食堂を始めてみると、様々な【運 営上の課題】に直面した。毎回スタッフの人数が 安定せず、必要な数人以下で運営しなければなら ない日もあった。<スタッフの人手不足>に悩ま されたり、食材費や場所代などの費用がかかり、 <運営資金の不足>に悩まされたり、開催場所の 広さに起因した<受け入れ人数の限界>に悩まさ れたりしていた。またメディア等の影響で、子ど も食堂は貧困家庭の子どもが参加するものだと認 知されていることで、社会的孤立の解消といった 他の目的を果たしたいという思いで悩んでいた。 そのため<子ども食堂に対する社会的認知度と実 状の違い>を感じていた。他にも、<個人情報の 課題>のため、支援したい<保護者と連絡を取り 合うことの困難>を感じていた。このようなこと から、<家庭の事情がそれぞれ異なる上での対応 の難しさ>を感じていた。 ⑶ 子どもや保護者と関わる上での対応の工夫 子ども食堂を運営してきた中で様々な課題に直 面したが、運営者はそれらの課題に対して様々な 工夫をしていた。【子どもや保護者と関わる上で の対応の工夫】として様々な取り組みをしてきた。 例えば、開催場所から家が遠い参加者には送迎を して、直接保護者と話す機会を作り、<参加者が 来やすくするための工夫>を行った。また、子ど も全員が過ごしやすくするために、乱暴な言葉を 使わないなどの<子ども達のルールを規定>する 場を設けていた。他にも、何らかの理由で子ども 食堂への参加が困難になった場合、<別の形での 支援>をした。例えば、コミュニケーションが苦 手な参加者に対して、別の日程で子ども食堂を開 催するなど<個別の事情に応じた対応の工夫>が 行われていた。このような様々な工夫を通して、 少しずつ子ども達や保護者との<信頼関係の構 築>をしていた。 ⑷ 持続可能な運営を確立するプロセス 子ども食堂の【持続可能な運営を確立するプロ セス】に関わる最初の取り組みは、<運営で中心 となるスタッフの確立>であった。そして、その スタッフがどんな思いを持って運営をしているの か、<スタッフ共通の目的や思い>の共有をする ことであった。 しかし、単純に<スタッフ共通の目的や思い> を共有するだけでは、モチベーションの向上には 結びつかず、義務感から参加しているスタッフも いた。そのため、<スタッフの主体性の欠如>と いう課題もあった。そこで、調理が得意な人には 調理、子どもと接する事が得意な人には遊び・宿 題を担当してもらうなど、<適材適所でのスタッ フの活躍>に配慮していた。他にも、子ども食堂 終了後にスタッフ全員で反省会を行ったり、他の 子ども食堂の見学に行ったりするなど、<スタッ フの意識を変える工夫>や<スタッフ内のルール の明確化>を行っていた。このように、<試行錯 誤しながらの運営>によって、これまでは受け身 の姿勢が強かったスタッフが自分で子ども食堂で の企画を考えるなど、<スタッフの意識の変化> が現れた。また、ボランティアに参加するため、 自分が健康に気を付けなければならないという意 識や気持ちの張りで<スタッフが元気になった>
という変化も現れた。このようなプロセスが、持 続可能な運営スタイルの確立につながり、<継続 させることが最大の目標>となった。 ⑸ 関係機関や地域で連携した取り組み 持続可能な運営をしていくなかで、【関係機関 や地域で連携した取り組み】も行われていた。本 当に支援が必要な家族を子ども食堂につなげるた めに、<地域の関係機関と連携しながらニーズを 把握>していた。子ども食堂の運営には現役の主 任児童委員も参加しており、潜在的なニーズを把 握するために<民生委員として可能になった連携 >があった。また、元教諭や元学校カウンセラー などにボランティアとして参加してもらい、支援 についての助言を受けるなど、<専門職との連携 を通した支援>にも取り組んでいた。また子ども 食堂の周知には、児童館や町内会など、<地域の 関係機関と連携>して子ども食堂を周知してい た。また、運営資金の不足という課題には、社会 福祉協議会が運営する<助成金の活用>によって 対応した。さらに、子ども食堂を間接的に支援し たいという人から、<食材や運営資金の寄付>や、 <地域で子ども達を見守る>などの支援を受けて いた。 ⑹ 子ども食堂の役割 子ども食堂への参加を通して、<参加者とスタ ッフの両方にとって楽しみな場所>となっていっ た。一つ目の【子ども食堂の役割】として、<子 どもや保護者の居場所>が挙げられた。また、子 どもだけでなく高齢者も参加している食堂も多 く、<多世代が交流できる場所>という役割につ ながった。二つ目は、<地域の人とつながりを作 る場>になっていた。子ども食堂を通して地域の 多くの人とつながったことにより、<近所で顔の 見える関係>になることができていた。三つ目は、 子ども達の変化が見られたことである。これまで 乱暴な言葉を使っていた子どもが、継続的な参加 を通してそのような言葉を使わなくなるなど、< 子ども達の態度の改善>が見られた。また、最初 は一人で食べていたが今ではみんなで食べるなど <子ども達が積極的になる>様子が見られた。さ らに、普段は食事を残す子どもが<みんなで食べ るとたくさん食べる>などの変化が見られた。加 えて、子どもが自分でご飯を炊いたり、一人でオ ムライスを作ったりするなど、自立して身の回り の家事が行えるようになり、<生きる力を養う> ことにつながった。
4.考察
本研究では、活動を始めたきっかけ、課題の発 見、運営における工夫など様々な視点から、子ど も食堂の継続的な運営に重要な影響を与える要因 と子ども食堂に求められる役割について分析し た。考察では分析結果から得られた⑴から⑹の項 目について、その背景や先行研究との相違などに ついて省察し、継続的な運営や子ども食堂の役割 に影響する要因について検討する。 ⑴ 子どもや保護者を支援したいという思いの芽 生えにおける子ども食堂の継続性と役割 本研究の結果、子ども食堂のスタッフは、実際 に<保護者が子育てに困難を抱えている>ケース に遭遇したり、<貧困の実態>を認知する等、地 域課題を解決する当事者意識を持つことが食堂を 始めたきっかけとなっていた。NPO法人豊島子 どもWAKUWAKUネットワーク理事長の栗林ら も、子ども食堂を始めたきっかけは、「毎晩ご飯 を家で、一人で食べているという子どもに遭遇し、 孤食の子どもがいるという実態を知ったこと」で あると述べていることから(川越、2016)、活動 のきっかけとして、課題への“気づき”が重要で あると考えられる。 また、インタビューからは「大人ができること をしないと子ども達が将来、生きづらくなってし まう」、「(お昼を食べていない子どもに遭遇し) どうにか子達の居場所ができないかって(考えて いた)」といった語りも聞かれたことから、問題 解決のために主体的に活動に取り組みたいとの思 いが活動を始めるきっかけや継続性に影響を与える可能性が考えられた。 町田らは、子ども食堂スタッフの活動主体性と 活動満足感との関連について、主体性が高いほど 満足度も有意に高いことを示している(町田、 2018)。今後、学校の教員や主任児童委員といっ た専門職と子どもに関する問題を共有したり可視 化したりするなどの工夫で、ボランティアがより 主体的活動に参加できるようになるのではない か。 ボランティアの動機づけについて小野は、「他 人の利益になる」、「特定の目的を果たす」、「理想 を実現する」といった動機づけが必要になると述 べている(小野、2013)。子ども食堂のボランテ ィアにおいても、子どもを支援したいという思い が他人の利益、特定の目的を果たすこと、理想を 実現するといった動機づけに影響を与える可能性 が示唆された。 ⑵ 運営上の課題における子ども食堂の継続性と 役割 本研究の結果から、<スタッフの人手不足>が 子ども食堂の運営において大きな課題であること が明らかになった。子ども食堂において、スタッ フは食事を作るだけの役割のみでなく、親でも学 校の先生でもない地域の大人として、子どもの成 長に関わる役割を果たす。インタビューからは「子 ども食堂は(大人の)自己実現だったりとか、自 分の可能性だったりとか叶えられる場である」、 「ずっと同じ子に関わっているから、自分達も子 育てしている気分になる」といった語りが見られ た。子どもとの関わりを自分の子育て経験と重ね、 自己の経験を活かしたり、やりたいことを実現し たりすることが子ども食堂で可能になっていると 考えられる。 高齢者の自己実現に関連する要因について竹之 下らは、社会参加活動を通じて、「生活に充実感 ができた」、「お互いに助け合うことができた」、「地 域社会に貢献できた」などの思いが高齢者の自己 実現を形作っていると報告している(竹之下、 2013)。このような思いが子ども食堂の運営にお いても、持続的な運営に影響することが考えられ る。また、町田らは、子ども食堂は参加する子ど もに対する効果だけでなく、保護者や地域/地域 住民への効果もあることを示している(町田、 2018)。子どもへの支援を保護者・学校・地域が 協力して行うことが、より活動の価値を高め、地 域全体の豊かさにつながってくるのではないか。 ⑶ 子どもや保護者と関わる上での対応の工夫に おける子ども食堂の継続性と役割 本研究の結果から、子ども食堂のスタッフ達は、 様々な【子どもや保護者と関わる上での対応の工 夫】をしていた。そして、スタッフだけでなく、 参加者も継続して参加しやすい環境や仕組みを配 慮していくことが重要だと考えられた。インタビ ューの中で「集団が苦手な親子について1対1で 月1回、調理の仕方を教えて自分の家で実践する ことを目標に、特別の日を設けてやっている」と いう話が聞かれた。このような個別対応をとるこ とで対象とする子どもや親と密接に信頼関係を築 くことが可能となり参加者も継続しやすい仕組み になるのではないか。 ⑷ 持続可能な運営を確立するプロセスにおける 子ども食堂の継続性と役割 本研究の結果から、子ども食堂の運営に特に影 響を与えるのが、<適材適所でのスタッフの活 躍>であることが示唆された。インタビュー調査 からも「お互いに思いやって、できることできな いことを助け合う」という語りや、「分野に分けて、 得意なところをカバーしてもらう」といった語り から、スタッフそれぞれの得意分野を生かしなが ら<適材適所でのスタッフの活躍>となっている ことが明らかになった。子ども食堂の運営におい ても、調理が得意な人、子どもや保護者と関わる のが得意な人、地域でたくさんの関係者と繋がっ ている人などがそれぞれの役割を発揮しながら活 動を展開するプロセスが子ども食堂の運営に影響 を与える可能性が考えられた。そして、<適材適 所でのスタッフの活躍>が、スタッフの負担にな
らずに、結果的に<スタッフが元気になった>と いうプロセスが生じたと考えられる。 ボランティア活動の継続要因について青山らは、 「技術・知識の活用動機」が重要であると述べて いる(青山、2000)。したがって、各ボランティ アが技術や知識を活用して協力し合いながら子ど も食堂の運営を行い、スタッフが健康で意欲的に 活動できる循環をつくることが持続可能な運営の 上でも重要であることが示唆される。また、吉田 は子ども食堂の機能について次の3つを挙げてい る。1つ目は、子どもに対する食事の提供機能(「食 を通した支援」機能)、2つ目は、参加する子ど も一人ひとりが想い想いにありのままの姿で過ご すことで自らの居場所を感じることができる機能 (「居場所」機能)、3つ目は、子ども食堂に参加 する一人ひとりの子どもが参加の機会を通じて、 食事や他者との交流を図ることができる機能(「情 緒的交流」機能)である(吉田、2016)。これら 3つの機能を分担できるスタッフの適材適所の配 置、スタッフ同士の協力が重要であると考えられ る。 ⑸ 関係機関や地域で連携した取り組みにおける 子ども食堂の継続性と役割 本研究の結果から、カウンセラーと連携して子 ども支援のアドバイスをもらうなどの<専門職と の連携を通した支援>や、社会福祉協議会の<助 成金の活用>など、【関係機関や地域で連携した 取り組み】が行われていた。所沢市では、社会福 祉協議会が主催で「こども食堂ボランティア連絡 会」を実施し、ボランティア同士が連携・協力で きるように意見交換をしたり、悩みを共有したり している。また、埼玉県では、子ども食堂や無料 学習塾など、「こどもが一人で安心して来られる 居場所」の実態を把握するため、市町村等を通し アンケート調査を実施している(埼玉県、2018)。 他にも、子どもの貧困の連鎖の解消に向け、社会 貢献活動等を行う団体・企業や個人の会員による、 「こども応援ネットワーク埼玉」を実施している (埼玉県、2018)。所沢市においても、「子ども食 堂の持続可能な運営」をしていくためには、行政 などの関係機関が継続的にバックアップをして連 携していくことが重要であると考えられる。 また、子ども食堂の運営において関係機関との 連携に力を入れている事例は、高知県の取り組み が知られている。高知県における生活保護世帯・ 児童養護施設・ひとり親世帯の環境下にある子ど もの割合は12.4%であり、全国の8.0%に対して高 い割合になっている(高知県、2016)。そこで高 知県では、「高知県の子どもの貧困対策推進計画」 を2016年3月に策定した。具体的には「子どもの 居場所づくり推進コーディネーター」を配置し、 子ども食堂の開設から継続までを切れ目なくサポ ートすること、また、民間団体等による子ども食 堂の開設・運営を資金面でバックアップする補助 金制度の立ち上げを行った。2017年度には約 1,300万円を予算計上し、行政として積極的な支 援を行った。 さらに、コミュニティソーシャルワーカー(以 下、CSW)との連携も盛んにおこなわれている。 所沢市でも、11行政区にCSWが配置されおり、 子ども食堂との連携が図られていた。加藤は、子 どもサロン「もりもり元気食堂」の実践において 住民とCSWが協働することにより個別支援と地 域支援を円環的に相互作用させる事が重要である と述べており、今後CSWとの連携によってます ます子ども食堂の活動の展開が盛んになることが 期待される(加藤、2018)。 ⑹ 子ども食堂の役割 本研究の結果、【子ども食堂の役割】として、 <子どもや保護者の居場所>、<多世代が交流で きる場所>、<地域の人とつながりを作る場>等 の役割が明らかになった。また、最初は一人で食 事をしていた子どもが今ではみんなで食事をする など、<子ども達が積極的になる様子>が見られ た。さらに、子どもが自分でご飯を炊いたり、一 人でオムライスを作ったりするなど、自立して身 の回りの家事が行えるようになり、<生きる力を 養う>ことにつながった。このような<生きる力
を養う>ことは、今後の子ども達の将来に影響を 与える可能性が考えられる。文部科学省が定める 学習指導要領では、子ども達の「生きる力」をよ り い っ そ う 育 む こ と を 目 指 し て い る( 藤 田、 2011)。生きる力について高橋は、①基礎的な学 力と学習習慣を身につけること。②多様な大人と 関わること。③最後までやり続ける力が重要であ ると述べている(高橋、2017)。「豊かな心」につ いては、子ども食堂においても、地域の大人や子 どもなどと関わるなかで、協調性を身につけなが ら豊かな心を育むことが可能である。「健やかな 体」については、子ども食堂で栄養面について考 慮されたご飯を食べることで、健やかな体を育む ことが可能である。また、「確かな学力」につい ては、子ども食堂と同時に学習支援も行う工夫や、 地域で学習支援を行っているボランティアと連携 するなどの工夫により実現することが可能にな る。このように、子ども達が「生きる力」を身に つけるための支援を展開・継続していくことが今 後の課題として示唆された。 湯浅は、子ども食堂を共生食堂とケア付き食堂 に分類している。共生食堂とは、対象者を限定せ ず、広く子どもを受け入れ、地域づくりを主な目 的としている(湯浅、2017)。共生食堂のメリッ トは、多様な大人・子どもとの交流を通じた多様 な価値観の提供ができることや地域の人々の理解 を得やすいため、スティグマ(恥の意識)がつき にくいなどである。一方ケア付食堂とは、貧困家 庭など対象者を限定し、個別の支援を主な目的と している。ケア付き食堂のメリットは、子どもと 一対一のより深い信頼関係を築けることや、子ど もおよびその家庭の課題の解決につながりやす い。他の相談機関等との連携がしやすいなどであ る。今後、子ども食堂の運営形態も考慮しながら、 子どもと運営スタッフの信頼や関係性について捉 え、子どもが生きる力を獲得していく過程を支援 していくことが求められる。 ⑺ まとめ 今回の研究結果から、「子ども食堂の持続可能 な運営」において、次の6つの要因を抽出し、相 互の関連を検討した。具体的には、①「当事者意 識」や「問題意識」を持って運営をすること、② 担い手を確保していくこと、③参加者が継続して 参加しやすい環境や仕組みを作っていくこと、④ スタッフが役割分担をしながら適材適所で運営を すること、⑤関係機関と継続して連携していくこ と、⑥「生きる力」を身につけるための支援をす ることであった。 今後、これらの視点を踏まえつつ、子ども食堂 の継続的な運営を支援していく。加えて、研究の 対象範囲を広げ、全国で行われている子ども食堂 の実践事例について分析を行い、継続的運営に資 する重要点を明らかにしていく。 謝辞 本調査にご協力をいただきました子ども食堂運 営者の皆様に感謝申し上げます。 参考文献 青山美智代・西川正之・秋山学・ほか(2000)「老人福祉 施設における介護ボランティア活動の継続要因に関する 研究」『大阪教育大学紀要』48:343 ‐ 358. 小野奈々(2013)「地域環境保全ボランティア活動の対外 閉鎖性と活動の非継承性」『滋賀大学環境総合研究セン ター研究年報』10:27-36. 川越正平・栗林千絵子(2016)「地域包括ケア対談-医療の 言い分・介護の言い分-子ども食堂は地域の人をつなげ る拠点になった」『医療と介護』2 (6):542 ‐ 547. 加藤昭宏(2018)「コミュニティソーシャルワーカーによ る子どもの支援の展開可能性について : 子どもサロン [もりもり元気食堂]の実践の軌跡から」『人間発達学研 究』9:43 ‐ 55. 柏木智子(2017)「[子ども食堂]を通じて醸成されるつな がりの意義と今後の課題─困難を抱える子どもの参加と 促進条件に焦点をあてて─」『立命館産業社会論集』53 (3):43-63. 木下康仁(2007)『ライブ講義M-GTA 実践的質的研究法-修正版グランデッド・セオリー・アプローチのすべて』 弘文堂.
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Study on the Role and Continuous Operation of Children’s Cafeterias
Takahiro Iwagaki, Kengo Nagase, Athushi Ogihara
Summary
In recent years, support for children living in poverty and their parents through Children’s Cafeterias is increasing in Japan. However, it is pointed out that it is difficult to achieve sustainable operation for Children’s Cafeterias due to shortages in funding and manpower, as well as problems regarding accepting capacity. The purpose of this paper was to clarify solutions for the sustainable operation of Children’s Cafeterias.
The study targeted staff members in 8 Children’s Cafeterias in Tokorozawa City. Semi-structured interviews with 10 staff members were conducted on operational solutions for Children’s Cafeterias. Transcript data was analyzed by using M-GTA (Modified Grounded Theory Approach).
As a result, 45 concepts and 6 categories were clarified. The following 6 categories were generated: 1) formation of the idea to support children and their parents, 2) operational problems, 3) structure of relationship building between staff and children and their parents, 4) process of establishing sustainable operation, 5) initiatives for collaboration with agency and community stakeholders, 6) Children’s Cafeteria agency roles. The results of this study indicate that the idea of the right person being in the right place influences the sustainable operation of Children’s Cafeterias.