1 . はじめに
次期財政検証に併せて、年金制度の改正も検 討されるものと考えられる。そこで、本稿では これからの年金制度のあるべき姿について次の 3つの提案を行う。いずれも多岐にわたる問題 点を有すると思われるが、今後の公的年金にお ける重要な課題になるものと考える。2 . 高齢者の活躍促進
2017年1月、日本老年学会と日本老年医学 会から高齢者の定義を75歳以上とするという 提言が行われた1。 そこで、国立社会保障人口問題研究所の将来 推計人口2を基に、高齢者1人に対し何人の支 え手がいるか計算すると以下の通りである。 〔表 1〕高齢者に対する支え手人口(単位:人) 支え手 高齢者 【A】 20 ~ 59 歳 65 ~歳 【B】 20 ~ 69 歳 70 ~歳 【C】 20 ~ 74 歳 75 ~歳 2015 年 1.9 3.4 5.4 2040 年 1.2 2.1 3.2 2065 年 1.1 1.7 2.4 生産年齢人口は15歳以上64歳以下と定義 されるが、高校進学率が97%を超えている現 状では、支え手人口は国民年金が強制加入にな る20歳以上とするのが適切であろう。表のA は20歳から59歳まで保険料納付義務があり * 年 金シ ニア プ ラン総 合 研 究 機 構。E-Mail:k-fukuyama@ nensoken.or.jp 本稿は私見に基づくものであり、所属機関のものではない。 1 日本老年学会等(2017)。なお、正確には、65 歳~ 74 歳を 准高齢者、75 ~ 89 歳を高齢者、90 歳以上を超高齢者とす るものである。 2 出生、死亡とも中位の場合である。 65歳から基礎年金が支給される現行国民年金 制度の場合、Bは現行厚生年金制度で最大限加 入し、受給を遅らせた場合、Cは日本老年学会 等の提言に沿って74歳までを支え手、75歳か らを高齢者とした場合である。 Aでは2015年で既に2人を割っている。65 歳以上人口がピークになるのは2042年だが、 その直前の2040年には1.2人、2065年には1.1 人とほぼ1人で1人を支える肩車型になる。一 方、Cで は2040年 に3.2人、2065年 で も2.4 人と余裕がある。 これを見ると、日本老年学会等の提言に沿っ て、高齢者を75歳以上、そして、74歳までを 支え手とすることができれば、高齢者と支え手 との人口割合という観点からは、高齢化の問題 は解消するといっても過言ではない。 2018年2月に閣議決定された高齢社会対策 大綱では、年金制度に関しては、70 歳以降の 受給開始を選択可能とすること、在職老齢年金 制度のあり方について検討することなどが記載 された。 これらを踏まえ、次のような制度改正を行う ことを提案する。 (1) 制度改正の内容 ① 老齢年金の繰下げ可能年齢を70歳まで から75歳までに引き上げる。 ② 受給権者の申出による支給停止に繰上 げ減額の回復効果又は繰下げ増額効果を持 たせる。 ③ 65歳以上の老齢厚生年金に係る在職老 齢年金は廃止する。 ④ 厚生年金の被保険者資格に関する70歳 未満という年齢上限を撤廃する。共 通 論 題
制度改正に向けた 3 つの提案
福山 圭一 *(2) 改正内容の説明 本案は、元気な高齢者には74歳までは年金 なしで支え手として頑張ってもらうことを可能 とするものである。高齢社会対策大綱の記述か ら、①が実現する可能性は高いと思われる。 受給を遅らせる繰下げを利用する者は少ない が、受給を早める繰上げを利用する者は多い。 一度繰上げ受給を始めると、撤回はできず、生 涯減額されたままの年金額となる。老後生活を 真剣に考え、後悔する者も多いのではないだろ うか。十分に働ける場合、せっかく繰り上げて も在職支給停止になってしまうこともある。 2004年年金法改正で、申出による支給停止 が規定されたが、今は申し出ても何の見返りも ない。②はこの規定に実体的な効果を持たせよ うというものである。繰上げ受給者が申し出て 支給停止をした場合、繰り上げた期間を事後的 に埋め合わせる効果を持たせることができれば、 早まって繰上げ受給を始めた者の救済につなが るであろう。同様に、65歳から老齢年金の受 給を始めたが、まだまだ年金なしで頑張れると いう者には、繰下げ受給と同様の効果が与えら れることが望ましい。 問題になるのが在職老齢年金である3。年金を 受け取りながら働くことが当たり前になると、 働けば年金が減るという制度は勤労意欲を阻害 するという問題が顕在化する。月額46万円と いう基準は高額なので影響がないという見方が あるが、厚生年金月額10万円とすると賃金は 36万円、年間賃金432万円になる。これは若 手サラリーマンの賃金水準に過ぎない。ここか ら年金の減額が始まる。65歳以降も普通に働 こうとする意欲を失わせる大きな原因になって いる可能性がある。 また、勤労能力の高い高齢者の繰下げを阻ん でいる。同じく厚生年金月額10万円とすると 賃金56万円、年間賃金672万円で年金は完全 支給停止となる。重責の伴う経営管理機能を担 3 特別支給の老齢厚生年金に関するもの(いわゆる「低在労」) は経過的な取扱いであるので、本稿では検討対象外とする。 い、あるいは、長年培った熟練技術を自ら活用 するのみならず後輩の育成も行うといった価値 の高い業務に従事する場合、これを上回る水準 の賃金を得ることは珍しいことではない。せっ かく受給開始を遅らせても、基礎年金は増額さ れるものの、受給したとすれば在職支給停止と なったはずの部分の厚生年金は全く増額されな いのである。 賃金が高い者にも老後不安はある。受給を遅 らせて退職後に受け取る年金額を高くしようと しても、現に受け取る賃金がこれを阻んでいる というのは、働く高齢者から見れば理不尽に映 るのではないか。もし、賃金収入よりも老後の 年金増を優先する結果、能力の高い者が働くの を止めるか大幅に抑制してしまうなら、本人の みならず経済的・社会的にも損失である。 高齢者の労働参加促進が求められる今日的観 点に立って、在職老齢年金は廃止することが望 ましい。なお、このために財源が必要になるが、 厚生年金のマクロ経済スライドによる調整期間 は短いので、調整期間の小幅延長で吸収可能で はないかと考えられる。 70歳未満の者しか厚生年金の被保険者とな らないという規定も、支え手の年齢を拡大する という観点から見直しが必要である。日本老年 学会等の提言を踏まえると、少なくとも、75 歳未満まで引き上げる必要がある。 高齢者は個人差が大きく、75歳以上でも元 気で活躍する人は多い。そのような方には年齢 にかかわらず支え手として頑張っていただくこ とが望ましい。また、年齢上限があると、その 前後で労働需給に不連続の歪みが生じやすい。 被保険者資格に関する年齢上限は廃止すること が適切と考えられる。 日本の高齢化は世界に先駆けている。年金制 度のみならず経済社会の様々な仕組みを、日本 老年学会等の提言に沿って変えていくことに よって、日本が超高齢化の問題を乗り越えられ るのみならず、世界に対し、高齢化に対処する モデルを示すことができるであろう。
3 . 国民年金の厚生年金への統合
4 平成26年財政検証で明らかになった問題点 の1つとして、厚生年金に比べて基礎年金の調 整期間が長引き、基礎年金の給付水準が将来大 きく低下するということがある。 国民年金第1号被保険者は公的年金が基礎年 金だけである。自営業者は老後も自活の手段を 有するとしばしば認識されるが、シャッター街 などに見られるように、今日では自営業でも老 後が安泰とは限らない。また、第1号被保険者 には非正規雇用や無職の者も多い。今の制度の ままでは、第1号被保険者の老後生活が厳し くなり、多くが将来生活保護の受給を余儀なく されると考えられる。このことは、公的年金が、 期待される防貧の機能を十分に果たし得なくな ることを意味している。 国民年金第1号被保険者にも報酬比例年金を 支給することが可能となれば、年金給付はその 分手厚くなる。このためには、国民年金を厚生 年金に統合し、第1号被保険者にも厚生年金を 適用することが考えられる。 統合によって、調整期間が基礎と比例で異な るという問題も回避される。両制度の積立金が 統合され単一の積立金になると、100年後にそ の積立金が妥当な水準になるまで基礎と比例を 同時に同率で引き下げていくことになるであろ う5。 このため、次のような制度改正を行うことを 提案する。 (1) 制度改正の内容 ① 厚生年金保険法第1条(目的)中「労 働者」を「勤労者その他国民」とする。 ② 現厚生年金被保険者を厚生年金の第1 類被保険者とし、現国民年金第3号被保険 者を厚生年金の第2類被保険者、現国民年 金第1号被保険者を厚生年金の第3類被保険 4 詳細は福山(2018)参照。 5 積立金が単一になれば、基礎と比例の引下げ方に関する政 策選択も可能になろうが、以下、これには踏み込まない。 者とする。 ③ 第3類被保険者は、原則として標準報酬 第2級(月額9.8万円)に位置づけ、月々 18.3%の厚生年金保険料(月額17,930円) を納付しなければならないものとする。た だし、本人所得が月額10.1万円以上の者は 第3級以上の該当する等級に位置づけ、そ の標準報酬額の18.3%を納付しなければな らないものとする6。 ④ 第3類被保険者が65歳に到達すれば、老 齢基礎年金及び加入期間に応じた報酬比例 年金を支給する。 ⑤ 第3類被保険者の保険料については、申 請により所得に応じて保険料の全額、3/4、 1/2又は1/4を免除する。学生又は50歳未満 の低所得者は、申請により納付を猶予する。 免除期間に係る老齢年金は、国庫負担分を 除き、免除割合に応じて減額する。 ⑥ 国民年金法は廃止する。基礎年金につ いては厚生年金保険法で規定する。 (2) 改正内容の説明 本案は、国民年金を厚生年金に統合し、全員 を厚生年金の被保険者とするというものである。 統合に当たって厚生年金の制度内容は変えない ことを基本とするが、労働者だけを対象にする ものから広く国民を対象にするものへ対象を拡 大させることは必要である。勤労者には自営業 者を含む。 厚生年金と国民年金の統合については、所得 捕捉の不平等性などの問題が指摘されてきた。 この際、所得捕捉にこだわらず、国民年金保険 料が平成31年度には月額17,000円(平成16 年度価格)に達することを踏まえ、厚生年金の 制度内容は基本的に変えないという観点に立っ て、原則として月額9.8万円の標準報酬に位置 付ける。これは厚生年金保険法第20条に規定 される標準報酬月額表の第2級に該当する。 最低等級である第1級は月額8.8万円である。 6 第 3 級以上にいきなり18.3%では負担が急増するので、施 行後数年間は経過的に第2 級を選択することを認める。この報酬等級は短時間労働者の厚生年金適用拡 大を促進するために2016年10月から導入さ れ、それ以前は第1級が月額9.8万円であった。 8.8万円では保険料率18.3%として月額16,100 円となり、2018年度の国民年金保険料16,340 円や2019年度の16,410円を下回ってしまう。 一方、厚生年金被保険者となることにより、基 礎年金だけでなく報酬比例年金も支給され、障 害年金第3級も支給されるなど、保障はレベル アップする。このため、原則として第2級に位 置付けることが適切である。 厚 生 年 金 保 険 料 率 は2004年 改 正 前 の 13.58%から18.3%へ34.8%上昇したのに対し、 国民年金保険料は13,300円から16,900円(2004 年度価格)へ27.1%上昇した。17,930円とな れば同じく34.8%の上昇となる。なお、いき なり保険料月額17,930円では増え幅が大きい ので、これまで国民年金保険料が毎年280円 ずつ増額されてきたことにかんがみ、数年程度 かけて徐々にこの額にすることは検討に値する。 国民年金保険料は賃金・物価水準の変化に応 じて金額が変わる。標準報酬は名目値で固定な ので、施行時から賃金・物価水準が相当程度変 化すれば、原則の等級を変動させる。 本人所得が月額10.1万円以上の者はそれに 対応するより高い等級に位置付ける。厚生年金 では、報酬比例の年金の他に定額の基礎年金拠 出金があることから、被保険者間で所得再分配 が行われている。このため、高所得者はより高 い等級に位置づける必要がある。 第2類被保険者は現在の国民年金第3号被 保険者を呼び変えただけなので、給付は変わら ない。第3類被保険者の給付を手厚くする。 低所得者等は現行国民年金保険料と同様に、 免除を行い、給付を減額する。 統合により国民年金積立金(2016年度末で 9.0兆円)が厚生年金に移管される。国民年金 の積立比率は6.6年分であり、厚生年金の4.9 年分を上回っている。 財政統合でしばしば問題になるのは過去の加 入期間に係る給付債務に見合う財源である。基 礎年金は完全に賦課方式で実施されていること から、これを考える必要はない。あるとすると 付加年金だが、国民年金の積立比率は厚生年金 を上回っていることもあり、問題視する必要は ないであろう。 国年法は廃止され、基礎年金は厚年法に基づ く給付となるが、基礎年金の給付水準は統合の 前後で変わらない。国年法に基づく寡婦年金や 付加年金は廃止され、付加年金を代行するとい う性格の国民年金基金も廃止される。ただし、 これまで払い込まれた付加保険料や国民年金基 金掛金に対応する給付は、全ての受給者がいな くなるまで経過的に継続する。 (3) 積立金の統合 基礎と比例の調整期間を揃えるためだけであ れば、国民年金と厚生年金の積立金を統合する という簡便法が考えられる。年金特別会計にお ける国民年金勘定と厚生年金勘定を1つに統合 すれば、統合後の単一の積立金が100年後に 妥当な積立水準となるよう、基礎と比例を同時 期に同率で引き下げていくことは正当化される であろう。これは年金の給付や負担には直接関 係しない政府内の資金の管理の話である。ちな みに、GPIFの運用は合同で行われている。 ただし、2つの制度が残ったままで積立金だ け統合すると「どんぶり勘定」という批判は避 けられない。制度が別である以上は仕分けをす るのが本筋である。制度統合なしで積立金だけ 統合することは、本来的にはできないと考える べきであろう。 その場合でも、将来における両制度の統合を 見据えつつ、当面積立金だけを統合して調整期 間を揃えることは考えられるのではないか。制 度の統合はすぐにできる作業ではないので、将 来の方針として明らかにし、それを前提に積立 金を統合するのである。基礎年金だけが劣化し ていくという姿は好ましいものではない。これ を避けるため、もしできるなら、早急に手当て されることが望まれる。
(4) 保険料賦課基準に関する補足説明 両制度の統合一元化には様々な問題が考えら れる。これらについては福山(2018)を参照 願いたいが、保険料賦課基準の問題について は、更に検討を加えた結果、若干変更を加えた 方が適切であると考えるに至った点がある。す なわち、福山(2018)では第3類被保険者を 原則として標準報酬月額9.8万円に位置づける が、これを被用者との均衡から収入と捉え、月 に10万円程度の勤労収入があるものとみなす としていた。ただし、月額所得が9.8万円以上 の者は当該所得に18.3%を乗じた保険料を納 付する。このため原則の収入ベースと高所得者 の所得ベースという木に竹を接ぐような不自然 さがあった。変更点は、原則の9.8万円を収入 ではなく所得とするというものである。以下に 補足説明を行う。 現行の厚生年金被保険者である第1類被保険 者については、厚生年金保険料が賦課される標 準報酬は収入ベースである。これに対し、自営 業者等の第3類被保険者についても、これと平 仄を合わせるという観点に立てば、収入を保険 料賦課基準とすることが一応考えられる。 収入は事業活動や労働などに伴って得られる 金額である。これを得るために必要な経費を差 し引いた金額が所得である。サラリーマンの場 合、税込の給料やボーナスが収入であり、そこ から必要経費とみなされる給与所得控除を差し 引いて、所得税の対象になる給与所得が算定さ れる。 自営業者にとっての収入は売上げに相当する。 これに18.3%の保険料率を乗じると自営業者 の負担は急増するであろう。収入である売上げ から必要経費を除いた所得ベースとすることが、 負担能力の観点から適切と考えられる。 被用者の収入ベースに対し自営業者になると 所得ベースでは、保険料賦課基準が整合的では ないという批判があるかもしれない。これにつ いては海外の事例が参考になるであろう。 ただし、日本語文献の場合、収入と所得の違 いがどの程度厳密に留意されて記述されている のか必ずしも定かではない。そこで、限定的で はあるが、自営業者に所得比例の保険料を賦課 しており、当局の英文ウェッブサイトにアクセ ス可能であった次の国の例を見ていくこととし たい。 ①アメリカ アメリカでは被用者及び自営業者(年間純利 益400ドル未満の者を除く)は連邦社会保障 年金に強制加入となり、費用を負担しなければ ならない。被用者と自営業者で年金制度は共通 だが、費用負担については、被用者は連邦保険 料税7、自営業者は自営業税8と、負担の根拠と なる制度は異なる。なお、両税ともにメディケ ア分を含めて課税されるが、以下に記述するの は年金分についてである。 被 用 者 は、 事 業 主 と 折 半 で 賃 金( 年 間 128,400ドルが限度)の12.4%の社会保障税を 負担する。実際には、事業主が従業員に支払う 賃金からその6.2%を天引きし、事業主負担分 とともに納付する。賃金には給与やボーナスの 他、フリンジ・ベネフィットや従業員が受け取っ て事業主に報告されたチップを含む。必要経費 の控除のようなものは特になく、賦課基準は収 入の概念に相当する。 一方、自営業者又は自営業を兼業する被用 者で年間400ドル以上の純利益があるものは、 純利益の92.35%に相当する額(年間128,400 ドルが限度)の12.4%の自営業税を負担する。 純利益とは営業収入から諸経費を控除した額で あり、所得の概念に相当する。なお、年間の純 利益が5,717ドル未満など一定の条件に該当す る場合は、将来受け取ることができる年金額を 増額するため、純利益を多く算定してより多額 を納税できるオプション方法が認められている。 ②イギリス イギリスでは16歳以上の居住者は原則とし て国民保険に強制加入となる。ただし、低収入
7 Federal Insurance Contributions Act (FICA) 8 Self-employment Tax (SE)
の者は納付義務がない。国民保険は年金の他に 出産や失業などの給付も行われる社会保険制度 である。国民保険料として、被用者はクラス1 保険料、自営業者はクラス2(一定以上の純利 益がある場合はクラス2に加えクラス4)保険 料が賦課される。 被用者が賦課されるクラス1保険料は賃金 のうち週給162ポンド(月給702ポンド)か ら週給892ポンド(月給3,863ポンド)の部分 について12%、これを超える部分について2% である9。賃金には賃金、サラリー、ボーナスの 他諸手当や現物給付を含む(ただし、公共交通 機関の定期券など除外されるものも細かく決め られている)。必要経費の控除のようなものは 特になく、収入の概念に相当する。なお、事業 主は週給162ポンド(月給702ポンド)以上 の部分について13.8%を負担する。 年間純利益が6,205ポンド以上の自営業者に は定額(週2.95ポンド)のクラス2保険料が 賦課される。年間純利益が8,424ポンド以上の 自営業者には8,424ポンドから46,350ポンド までの純利益部分に対し9%、46,350ポンド以 上の純利益部分に対し2%のクラス4保険料が 賦課される。年間純利益とは収入から経費を控 除したものであり、所得の概念に相当する。 な お、週給162ポ ン ド(月給702ポ ン ド) 未満の被用者や年間純利益が6,205ポンド未満 の者は保険料納付義務がないが、保険料の納付 がないため年金の受給権が賦与されないか年金 額が満額に届かない。そこでこれらの者のうち 一定の要件に該当するものは任意に週14.65ポ ンドのクラス3保険料(自営業者はクラス2保 険料も可)を支払うことができる。 ③韓国 韓国では18歳以上59歳以下の居住者(公務 員や軍人等を除く。)は次の区分により国民年金 制度が適用される。①事業所被保険者(被用者)、 ②個人被保険者(自営業者、27歳以上の無業者 9 年金受給年齢に到達している被用者などには別料率が適用 される。 など)、③任意被保険者(被保険者又は受給者の 無所得の配偶者、任意拠出)、④任意継続被保 険者(年金受給年齢到達後の任意拠出者)。 事業所被保険者は事業主とそれぞれ基準所得 月額の4.5%ずつを負担する。個人被保険者は基 準所得月額の9%を負担する。任意被保険者及び 任意継続被保険者は事業所被保険者及び個人被 保険者の基準所得月額の中央値の9%を負担する が、より高い所得とすることも可能である。基準 所得月額は千ウォン単位で、上限及び下限がある (範囲は毎年7月1日に見直される)10。 基準所得月額は毎年7月に前年の所得税法上 の課税可能所得に基づき改定される。そのため 韓国では被用者も自営業者も賦課基準は所得で あるように見えるが、実はそうではない。韓国 国民年金法第3条第1項3.に「所得」の定義 があり、「特定の期間にサービスを提供するこ とによって得られた稼ぎ又は、必要な経費は控 除されるが、ビジネスを運営するか資産を稼働 することによって得られた稼ぎ」と定義されて いる。2つの「稼ぎ」のうち雇用による所得と 考えられるサービス提供による前者は控除が規 定されないのに対し、自営業による所得と考え られる後者には必要経費の控除が規定されてい る。 すなわち、同じ「所得」であっても被用者は グロスの賃金が賦課対象である。これは収入の 概念に相当する。 これに対し、自営業者は必要経費控除後の営 業収入が賦課対象になる。これは所得の概念に 相当する。 ④各国の状況を踏まえた統合後の賦課基準 限られた範囲ではあるが、以上の3か国では いずれも、被用者は収入、自営業者は所得が賦 課基準となっている。日本でも同様とすること が考えられる。 この結果、被保険者という立場からは、被用 10 本稿執筆時点で閲覧した韓国NPSのウェッブサイトには上 限が4,680,000ウォン、下限300,000ウォンと記されている。 これは2018 年 7 月 1 日~ 2019 年 6 月 30 日に適用されるも のである。
者と自営業者等とでは、保険料賦課基準が収入 ベースと所得ベースで異なることになる。しか し、異なるからこそ、被保険者類型が異なるこ ととするのである。被用者の被扶養配偶者であ る第2類被保険者も含めた給付と負担の違い は、表2のように要約することができる。第2 類被保険者を間に挟むと、被保険者類型の違い によって、給付と負担が異なっていることがよ り明らかになる。 〔表 2〕被保険者類型間の比較 第 1 類 第 2 類 第 3 類 給付 基礎+比例 基礎 基礎+比例 負担 収入× 18.3% なし 所得× 18.3% 問題は、第1類被保険者と第3類被保険者 の保険料賦課基準の違いである。第1類被保険 者の標準報酬は、月給や賞与(これらは税込み) だけでなく通勤手当などの諸手当も含む。日本 ではこれが定着しており、この方式を引き続き 続けていくことが適切である。 一方、これまで定額の負担であった自営業者 に新たに応能的な負担を課すことにする場合は、 所得の方が合理的である。個人に対する直接税 は所得を基準にする所得税となっており、社会 福祉の多くの制度における利用者負担も所得を 基準といるように、個人に対する応能負担の基 準として、所得ベースが定着している。 このように、日本では、被用者には標準報酬、 自営業者には所得というのはそれぞれ定着して いる。改めるべき特段の事情に迫られているわ けでもない。海外の例でも、異なった取扱いに なっている。従って、両者で収入と所得という 賦課ベースが違っていることのみをもって問題 とすることの実益は乏しい。 また、現在では自営業者等は月額17,000円 (2014年度価格、2019年度の額は16,410円) の国民年金保険料を負担している。これを、厚 生年金の保険料率18.3%で割り戻すと、92,900 円(2019年度額では89,700円)となる。これ を下回らない現在の厚生年金の標準報酬月額が 9.8万円であるので、そこに位置づけることを 提案している。これを収入と見るか所得と見る かで実質的な違いが生じるわけではない。 負担の基準という観点のみに立てば、収入と 所得で違っていることは不公平のように見える。 しかし、負担は年金給付のうち比例部分の算定 基礎でもあることに留意する必要がある。 標準報酬は通勤手当なども含み、負担の基準 としては広い。しかし、給付の算定基礎として 見た場合は、広い方が、給付が多くなり、被保 険者にとって有利である。 同様の観点に立てば、自営業者の場合は所得 を基準とするとしても、できるだけ広くするこ とが望ましい。このことからは、税のように基 礎控除その他の諸控除を差し引くことなく、所 得そのものを保険料の賦課基準(=給付の算定 基礎)とすることが適切であると考えられる。 一方で負担能力という観点に立つと、経費に準 じる一定の控除を認める考え方も成り立つであ ろう。この点についてはより詳細な検討が必要 であり、今後の課題としたい。 いずれにせよ、保険料賦課基準は給付の算定 基礎でもあることを考慮すると、収入か所得か の違いは根本的な問題とまでは言えない。同じ 保険料なら同じ給付になるなら、相応の公平性 は確保されるからである。 むしろ、現行制度はこの点で重大な問題を内 包している。表3は、表2との対比で現行制 度における給付と負担を要約したものである。 現行制度はまだ統合前なので、国民年金法の 被保険者区分による表示である。ただし、順番 を表2と合わせている。 〔表 3〕現行制度における被保険者間の比較 第 2 号 第 3 号 第 1 号 給付 基礎+比例 基礎 基礎 負担 収入× 18.3% なし 定額(月額17,000 円) 第2号 被 保 険 者 が 仮 に 最 低 等 級 の 第1級
で厚生年金の適用を受けると、保険料は月額 16,100円(8.8万円の18.3%)となり、これで 基礎+比例の年金を受け取ることになる。第 1号被保険者は、これに比べると、負担は重く、 受け取る年金は基礎だけと給付は少ない。また、 負担のない第3号と比べると、負担があるのに 給付は同じである。現行制度では、負担と給付 の関係が逆転又は著しい不整合になっている。 第3号被保険者分の保険料は第2号被保険 者がまとめて支払っているという見方がある。 これに基づくと、格差はより大きくなる。第2 号被保険者は1人分の保険料で自身の基礎年金 +報酬比例の年金と配偶者の基礎年金の2人分 の給付を受けるのに対し、第1号被保険者は1 人分の保険料で1人分の基礎年金を受けるだけ だからである。ただし、現行制度体系上第3号 被保険者をどのように位置づけるかというのは 難しい問題である。本稿で記述する内容とは別 途に、所要の検討が行われる必要がある。 このような自らの保険料負担なく給付を受け られる第3号被保険者は別として、現行制度 では、第2号被保険者と第1号被保険者の間で、 負担が同じなら給付は同じという意味での公平 性が確保されていない。制度統合によって、こ の公平性が確保される。
4 . 子ども基礎年金
高齢化については2.に記したように、高齢 者を75歳以上とすることが問題解決の方向で あることが見えてきている。一方、少子化は年 金制度だけでなく、将来の日本の経済社会の成 立ちにも関わる大問題であるにもかかわらず、 未だ有効な対策の方向は不透明である。 年金が充実すれば老後を自分の子に頼らなく ても済む。その意味で年金制度には少子化を促 進する効果がある。 また、賦課方式の年金は支え手と高齢者の比 率が重要である。少子化対策が進むことは賦課 方式の年金にも裨益する。 年金制度においても、産休・育休期間中の保 険料免除の仕組みが導入されている。また、非 正規雇用が少子化の大きな原因であることにか んがみると、短時間労働者に対する厚生年金の 適用拡大も少子化に対する年金制度の施策と位 置付けることができよう。しかし、先ほど指摘 した少子化の原因者あるいは少子化対策の受益 者ともいえる年金制度としては、より積極的な 対応が必要ではないだろうか。 日本における最大の人口ブロックは戦後間 もなくに生まれたいわゆる団塊の世代である。 1947年からの3年間は年間出生数が260万人 台である。この層は第2次ベビーブームを起 こした。1971年からの4年間は年間出生数が 200万人台であった。しかし、第3次ベビーブー ムは起きなかった。1990年代の出生数は120 万人前後で80年代に比べても顕著に少ない。 1.57ショックが言われた1990年以降数々の 少子化対策が行われたが、今世紀に入り出生数 は年々減少し、2016年にはついに年間出生数 が100万人を下回るに至った。これは1899年 以来の統計のある年で初めてのことである。 合計特殊出生率も低空飛行を続けている。 2005年の1.26からは若干回復したとはいえ、 2017年で1.43と2年連続で0.01ずつ低下し、 ショックといわれた1.57すら遠く届かない。 次の図は出産可能と考えられる年齢にある女性 人口の推移を見たものである。2015年までは実 績、以降は国立社会保障・人口問題研究所「日 本の将来推計人口(平成29年推計)」における出 生中位・死亡中位の数値をもとに作成した。 〔図〕出産可能年齢にある女性人口の推移 どの年齢層をとっても、出産可能な女性人口は今後減少が加速する。これを見るともはや一 刻の猶予も許されないところまで来ていること が分かる。早急に思い切った対策を講じる必要 がある。 年金シニアプラン総合研究機構(2010)で は子ども基礎年金構想を明らかにしている。年 金制度としての対応策として、再度以下のとお り提案する。これによって子育て世帯に対する 経済的支援の飛躍的充実を図る。 (1) 制度の内容 ① 年金制度として少子化対策に寄与する 観点から、老齢年金の支給開始年齢引上げ を財源として、子ども基礎年金を創設する。 ② 老齢年金の支給開始年齢は、3年ごとに 1歳ずつ70歳まで引き上げる。 ③ 子ども基礎年金として給付する額は、 老齢基礎年金満額の半額相当とする。 ④ 厚生年金の標準報酬の上限を健康保険 に合わせ、139万円とする。 (2) 制度内容の説明 本案は児童手当を年金制度の枠組みの下で社 会保険方式化するとともに、給付額を大幅に引 き上げるものである。本案には様々な論点が考 えられるが、年金シニアプラン(2010)でそ の多くについて一応の説明は記載されている。 2010年度当時は特老厚の定額部分の引上げ が終了間近だった。そこで、年金シニアプラ (2010)では老齢基礎年金の支給開始年齢引き 上げを財源とするとしていた。今回案では、前 節に記述した国民年金の厚生年金への統合を前 提とし、報酬比例部分の引上げも財源とするこ ととした。 当面は老齢基礎年金の支給開始年齢を引き上 げるが、報酬比例部分の引上げが65歳に到達 後は引き続き同じペースで引き上げていく。 また、年金シニアプラン(2010)では「国 民年金加入年齢を 64 歳に引き上げ、老齢基礎 年金を満額で月額7万円とする」ことも提案内 容に含まれていたが、平成26年財政検証オプ ション試算Ⅲと重なるので、除外した。 給付額についても、当時子ども手当として構 想されていた月額2万6千円を念頭に、当面 は児童手当と合わせて月額2万6千円とする が、数年後には老齢基礎年金満額の半額相当と することとしていた。これは支給開始年齢引上 げに時間がかかることが主な理由である。しか し、一刻の猶予もない状況に至った今日、早急 に対策を講じる観点から、当初から老齢基礎年 金の半額とする。このためにある程度の積立金 の取崩し(年金シニアプラン(2010)では27 兆円程度と試算)が必要である。 そこで、年金シニアプラン(2010)にはなかっ た④を提案する。支給開始年齢が引き上がるま でのつなぎを高収入被保険者の保険料収入で賄 うというものである(足りなければ積立金を取 り崩す)。 本案が実現すれば、将来的には児童手当制度 は本制度と統合されることが想定される。その 場合、児童手当の事業主拠出金率(平成30年 度は千分の2.9)相当分を厚生年金保険料の事 業主負担率に上乗せし、厚生年金保険料率は本 人分が9.15%に対し、事業主分は9.44%程度 となる。 ただし、事業主拠出金は、児童手当という現 金給付だけの財源ではなくなっており、地域子 ども・子育て支援事業のうち放課後児童クラブ、 病児保育、延長保育の他、2016年度から、事 業所内保育業務を目的とする施設等の設置者に 対する助成及び援助を行う事業(仕事・子育て 両立支援事業)も対象事業になっている。その ようなことから、当面児童手当制度は存続する ものとした上で、児童手当の現金給付(0~3 歳児未満月額15,000円、3歳~小学校修了ま で第1子・第2子は月額10,000円、第3子以 降15,000円、中学生は一律月額10,000円、た だし、夫婦と子ども人で年収960万円程度と いう緩い所得制限があり、所得制限以上は当分 の缶の特例給付として一律5,000円)にどの程 度上乗せできるかという観点から検討を進める ことが現実的であろう。
(3) 支給開始年齢引上げを財源とすること について 本案の最大の特徴は年金支給開始年齢の引き 上げを財源としていることにある。このため、 既に年金を受給している者は負担しない。 年金加入者は子育てをするか、する可能性が あり、本制度が実現すれば給付の対象になり得 る。また、本制度の給付は(現在ではなく)将 来の支え手を育成することにつながることから、 将来の老齢年金受給者がこのような形で負担す ることを提案した。 しかし、研究発表会のシンポジウムではフロ アから、このことに疑問が呈された。また、年 金支給開始年齢引上げに対する国民理解が進ん でいない状況では、本案をそのままの形で実現 しようとすることには若干無理があるかもしれ ない。 少子化の状況にかんがみると、何らかの対応 策は必要である。3.で記した公的年金の統合 一元化を前提として、18.3%の保険料率を若干 引き上げて財源とすることなども含め、代替案 を考える必要があるだろう。
5 . おわりに
以上、次期財政検証に併せて行われるべき制 度改正に向けて3つの提案を行った。これを きっかけに検討が進められることを期待したい。 なお、3.及び4.に記載した事項については、 筆者としても今後さらに研究を重ねていく所存 である。そのため、本稿の提案内容の細部は今 後変化する可能性がある。 3つとも法律改正を伴う事項である。国会の 議決がなければ実現しないが、このためには、 大方の国民の理解と納得が不可欠である。内容 の深化と併せて、実現に至るためにはどのよう な条件が必要かといったことも、考察していく 必要がある。 また、3つの提案は更に細かなパーツに分か れるが、これらの案をより具体的に検討するた めには年金財政にどれだけの影響が及ぶかにつ いての精緻なシミュレーションが前提になる。 財政検証のオプション試算の対象になるものが あれば、誠に幸いである。 【謝辞】 権丈善一会員から研究発表会後に丁寧なコメ ントをいただいた。3.(4)に記述した内容 はこれを契機とするものである。また、柳在廣 会員から、韓国の被用者に係る基準所得月額は グロスの賃金から計算されることを教示いただ いた。記して謝意を表したい。ありうべき誤り 等は筆者の責に帰すことは言うまでもない。 <参考文献> [1] 日 本 老 年 学 会 等(2017) ,「 高 齢 者 の 定 義 と 区分に関す る、日本老年学会・日本老年医学 会 高齢者の定義検討ワーキンググループから の提 言( 概 要 )」, http://geront.jp/news/pdf/top-ic_170106_01_01.pdf5. [2] 年金シニアプラン総合研究機構(2010),『公的 年金制度のあり方に関する研究と提言』,財団法 人年金シニアプラン総合研究機構,1-18. [3] 福山圭一(2018)、「今こそ国民年金を含む公的 年金一元化を」、『年金調査研究レポート』2018 年度[4] Gov.UK, “National Insurance” 及びそのリンク先資 料, https://www.gov.uk/national-insurance
[5] Internal Revenue Service (2018)-1, “Publication 334, Tax Guife for Small Business”, https://www.irs.gov/ pub/irs-pdf/p334.pdf
[6] Internal Revenue Service (2018)-2 “Publication 15
(Circular E), Employerʼs Tax Guide”, https://www. irs.gov/pub/irs-pdf/p15.pdf
[7] National Pension Act, http://english.nps.or.kr/jsp-page/english/act/act_01.jsp
[8] National Pension Service, “Coverage”, “Contribution” http://english.nps.or.kr/jsppage/english/scheme/ scheme_01.jsp 及び同02.jsp
[9] National Pension Service,“Contribution”, http://english.nps.or.kr/jsppage/english/scheme/ scheme_02.jsp