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地域包括ケア研究の動向と今後の課題

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Academic year: 2021

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同朋大学社会福祉学部准教授  (受理 2016.8.23)

特集Ⅱ 医療・介護をめぐる情勢と展望

地域包括ケア研究の動向と今後の課題

鶴田 禎人

要約:本稿では、計量テキスト分析によって、地域包括ケア研究の動向と今後の課題を明らかに

した。まず、地域包括ケア研究が、介護・医療保険制度改革といった政策動向に追従して、量的に 増加していることを指摘した。また、内容的には医療、介護、連携、首都圏の分析に偏っており、 政策的な展開が不十分である低所得者、周辺地域、住まい、生活支援については研究がほとんど進 んでおらず、今後の課題となることを明らかにした。 キーワード:地域包括ケア、介護、医療、CiNii、KHcoder

はじめに

 厚生労働省の高齢者介護研究会が『2015年の 高齢者介護』(2003年)において、地域包括ケ アの構築を政策的なテーマに掲げて以降、研究 領域でも地域包括ケアが一大ムーブメントと なってきた。しかし、これまで地域包括ケアに 関する研究の整理が試みられ、今後の研究課題 を導き出すことについては、ほとんど行われて こなかった。そこで本稿では、地域包括ケアが 理念としても政策としても不可逆的な状況にあ る中で、これまでの研究動向を整理し、現状と 照らし合わせることによって、今後の地域包括 ケア研究の課題を探ることを目的とする。  具体的には、まず第1節で地域包括ケアの定 義やそれが求められる背景を整理した上で、第 2節ではどのような点が現実的に課題となって いるかを指摘する。その上で、第3節では地域 包括ケアに関する先行研究の動向を分析し、そ の特徴を現状と照らし合わせることによって、 今後どのような研究が求められるかについて考 察する。 1.地域包括ケアとは ①定義  まず、地域包括ケアについて整理しておく と、それは「団塊の世代が75歳以上となる2025 年を目途に、重度な要介護状態となっても住み 慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後ま で続けることができるよう、住まい・医療・介 護・予防・生活支援が一体的に提供される」も のとして、厚生労働省によって定義されてい  る(1)。そして、その構成要素である住まい・ 医療・介護・予防・生活支援、それぞれの関係 性については、図1のように表され、「『介護』 『医療』『予防』という専門的なサービスの前提 として『住まい』と『生活支援・福祉サービ

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ス』の整備がある」とされる[三菱UFJリサー チ&コンサルティング株式会社(2013)p.2]。 ②背景  そのような地域包括ケアの構築が必要とされ るのには、短期的、中・長期的な背景がある。 まず、短期的な背景としては、人口構造・社会 資源といった社会的要因から、その構築が必要 とされる。特に首都圏などの都市部では、団塊 の世代が後期高齢者となる2025年に向けて、後 期高齢者人口の絶対数が著しく伸びることが想 定される。それにともなって、慢性期のケアに 対する需要はさらに拡大するが、病院や施設の ベッド数を急増させることは、財政面などから 必ずしも容易ではない。そこから、慢性期のケ アを地域・在宅で完結させるという、地域包括 ケアの必要性が生まれてくる。  一方、中・長期的な背景としては国民のニー ズがある。高齢期に入り慢性的な医療や介護が 必要になった時、多くの国民は病院・施設では なく、可能な限り住み慣れた地域・在宅で生活 を営むこと(地域居住)を望んでいる[厚生労 働省2010]。そういった意味で、地域包括ケア は、高齢者の地域居住という目的を叶える手段 として、中・長期的な視野から推進されるべき ものである。以上のような点から、地域包括ケ アの構築は、不可逆的な政策課題であると考え られる。 2.地域包括ケアの現状と政策課題  前節では、地域包括ケアの定義と背景につい て整理したが、それが社会的要因や国民ニーズ を背景とすることから、すべての国民が必要に 応じて地域包括ケアを利用できることが求めら れる。筆者はそのような普遍的な地域包括ケア の構築に向けて、クリアしなければならない課 題が2つあることを指摘してきた[鶴田2015]。 1つは、すべての地域で必要なサービスが切れ 目なく利用できるかという、多職種・多主体の 存在および連携からなる「横の糸」である。そ してもう1つは、すべての高齢者が経済力に関 わらず、必要なケアを入手できるかという「縦 の糸」である。地域包括ケアは、この縦横の糸 が地域のニーズに応じて確保されることによっ て成立する。  前者については、市町村を中心に、日常生活 圏域ニーズ調査や地域ケア会議などを通じた地 域課題の把握や社会資源の発掘、医療計画など 関連計画との調整を踏まえた介護保険事業計画 の策定と基盤整備、医師会などとの協働に基づ く多職種・多主体の連携の構築などが、先進事 例の共有化などによって積極的に展開されよう としている。  しかし、現状としては、地域包括ケアの構築 は首都圏を始めとする都市部を中心とした動き に留まっており、人材やサービス量の確保、豪 雪等の気象環境などに地域包括ケア構築の困難 さをもつ周辺地域において、それを達成するた めの手段について政策的に十分に意識され、取 り組まれているとは言い難い。  また、特に課題となるのは、後者の「縦の 出典: 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 (2013) 図1 地域包括ケアの構成要素

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糸」である。地域包括ケアの政策理念に目をや ると、その構成要素として、税負担(公助)、 介護保険や医療保険(共助)、マーケットでの 購入を含む個人の対応(自助)、住民主体の サービスやボランティア活動(互助)が挙げら れているが、基本的な考え方として、「公助」 「共助」の「大幅な拡充を期待することは難し」 く、「今後は、『自助』『互助』の果たす役割が大 きくなっていくこと」が想定されている[三菱 UFJリ サ ー チ&コ ン サ ル テ ィ ン グ 株 式 会 社 (2013)p.5]。  現状では、介護保険料や利用者負担の引き上 げ、新総合事業における訪問介護・通所介護に 端を発する「保険外し」の拡大、特養受け入れ や新設の抑制と受け皿となるサービス付き高齢 者向け住宅等の高額な負担など、被保険者およ び利用者の負担は重くなっている。つまり、地 域包括ケアの政策理念や現状からは、「自助」 や「互助」から漏れる低所得層への対応が合わ せて必要になることが分かる。しかし、この点 については、必ずしも十分に政策的な対応が行 われてこなかった。  以上のように、現実の地域包括ケアにおい て、無視される「縦の糸」、周辺地域を置き去 りにする「横の糸」という特徴がみえてくるの であれば、関連する研究としては、縦横の糸を 編み直すためのものが求められるはずである。 そこで、次節ではあらためてこれまでの地域包 括ケアに関する研究動向を整理し、現実と照ら し合わせる中で今後の研究課題を析出したい。 3.研究動向と今後の課題 ①分析の方法  本項では、研究動向を整理する際の分析方法 について解説しておきたい。研究動向を整理す る際には、論文等の内容を読み込み行う研究レ ビューが一般的である。地域包括ケアにおいて は二木(2014)が行っているが[二木(2014) pp.240-241]、研究レビューは特筆すべき文献 の内容や特徴に踏み込んで指摘できることに意 義がある。  一方で本稿では、より多くの文献を対象に地 域包括ケアの研究動向を探ることを目的に、論 文、図書・雑誌などの学術情報が豊富に検索で きる検索サイトCiNiiを使用する。まず、同サ イトにおいて「地域包括ケア」と入力し検出さ れた、タイトルおよび副題、もしくは特集のタ イトルに「地域包括ケア」を含む文献の中か ら、書評の除外を行い、対象となるものを抽出 した。なお、ここでいう文献には、雑誌などに おける学術論文以外の記事も含まれているが、 それも含めて地域包括ケアに関する論壇の動向 を探っていきたい。  研究動向を測る方法としては、それらCiNii で抽出した文献の題名を使用する。必ずしもす べての文献の題名が的確にその内容を表してい るとは言えないが、それでも題名の集積から内 容の傾向を測り知ることができる。そして、題 名に含まれる語句(名詞)を抽出し、それらを グルーピングし、各グループの数や推移から研 究の動向を掴む。グルーピングについては、地 域包括ケアの構成要素に合わせて、それぞれ 「医療・看護」、「介護・リハビリテーション」、 「保健・予防」、「住まい・住まい方」、「生活支 援」とした。また、それらに地域包括ケアの課 題となる「連携」(横の糸)、「低所得」(縦の 糸)、および障がいや児童、難病など高齢者以 外の「他領域」を加えた。  なお分析に際しては、計量テキスト分析ソフ トKHcoderを使用した。KHcoderにおいては、 グルーピングの過程を「コーディング」と呼ぶ が、コーディングルールに関しては表1のよう

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に定めた(2)。次節でその結果を見ていきたい。 ②結果 1)量的な動向について  まず、量的な動向については、図2のとおり である。量的な面で地域包括ケアに関する研究 が、特に2010年代に入ってから急速に伸びてい ることを確認できる。  詳しく見ていきたい。初めて地域包括ケアに 関する文献が登場したのは1992年である。その 後1990年代は低調に推移するが、そのほとんど が広島県御調町(現尾道市御調町)などの事例 に基づく医療中心の研究である。地域包括ケア に関わる文献が増え始めるのは、2000年に介護 保険が導入された後、2003年に前述の『2015年 の高齢者介護』が発表された辺りからである。 そして、2006年の介護保険制度改革において地 域包括支援センターが導入された頃に文献数は 2桁になり、三菱UFJリサーチ&コンサルティ ング株式会社の地域包括ケア研究会が『今後の 検討のための論点整理』(2008年)を皮切りに 継続的に報告書を提出し、今日の政策の下絵が 描かれるようになると、その本数は急速に伸び ていくことになる。  その後、2011年度の介護保険法改正において 地域包括ケアの根拠規定の挿入、2013年社会保 障改革プログラム法における地域包括ケアの法 的根拠の導入、2014年度診療報酬改定における 地域包括ケア病棟の創設などに伴って、数的に は3桁へと急速に伸びを見せ、今日に至ってい る。 2)研究領域  では、そのように量的に拡大してきた地域包 括ケア研究は、どのような内容で行われてきた のだろうか。分析の方法で紹介したコーディン グルールに基づいて、その内容を表したものが 図3である。それによると、最も量的に多く、 伸びも鋭いのが医療・看護、次いで介護・リハ ビリテーションとなっている。これは両制度が 1 0 1 3 1 1 3 2 9 2 2 5 9 20 39 37 24 38 70 160 220 259 555 581 0 100 200 300 400 500 600 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 図2 文献の数

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頻繁な制度改革および報酬改定をともなってい るためと考えられる。一方、地域包括ケア研究 の特徴として、医療・介護を中心とした諸サー ビスの有機的な連携が3位につけていることが 挙げられる。  しかし、そのように相対的に手厚く研究の対 象とされてきた医療・看護、介護・リハビリ テーション、連携と比べて、その他の保健・予 防、住まい・住まい方、生活支援、低所得、他 領域に関しては、あまり研究が伸びていない。 地域包括ケア研究会において、住まい・住まい 方、生活支援については「前提」とされている が、研究の進展状況とはかい離がみられる。ま た、縦の糸として研究の展開が期待されるはず の低所得については、ほとんど研究が行われて おらず、さらに、他領域については研究の広が りは見られない。 3)地域分析の動向  前述のように、現状において地域包括ケア は、都市部を対象にした動きと捉えられてい る。地域をテーマに文献を整理した図4を見て みると、やはり東京都内に関する事例分析・紹 介等が最大となっている。残りの5地域に関し ては、行政と自治体が協働して在宅医療の推進 を図る千葉県柏市、公立病院を中心に医療・介 護・福祉の連携を構築し、地域包括ケアの先駆 けとして注目された広島県御調町(旧)、地域ケ ア会議や自立支援型ケアマネジメントによって 要介護認定率の引き下げを行ったことなどで知 られる埼玉県和光市、府を挙げて地域包括ケア 推進機構を設立した京都府、ネットワークの構 0 50 100 150 200 250 300 図3 研究領域の推移(本数)

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築など認知症支援の枠組み作りを率先して行っ たことで知られる福岡県大牟田市が上位に入っ ている。  それぞれ地域包括ケアの先進事例として注目 すべき取り組みであるが、周辺部における地域 包括ケアの構築や低所得者対策としての示唆を 与えるものはあまりみられない。 ③考察と今後の研究課題  まず、全体的な研究の動向であるが、研究の 数からも分かるように、地域包括ケア研究は、 介護・医療保険制度改革、政策文書の発表等と いった政策動向とマッチしながら伸びてきてい ると言える。  そして、その内容としては、医療・看護、介 護・リハビリテーションといった制度領域、も しくは横の糸であるサービス相互の連携に偏っ ている。また、事例研究についても東京を中心 とする首都圏、および「先進的」とされる地域 に偏っている。もちろん、医療や介護、サービ ス間の連携、進んだ地域に関する研究が地域包 括ケアの広がりに不可欠なことは言うまでもな い。しかし、全体として政策に研究が追従して いる感は否めない。  逆に、政策に欠けている部分、低所得者を対 象にした縦の糸に関する研究、または周辺地域 における地域包括ケアのあり方に関する研究は 必ずしも十分に展開されておらず、政策を補完 もしくは先導することはできていない。また、 地域包括ケアが全人的なアプローチを必要とす るものとして理解されているにもかかわらず、 高齢者以外のその他の領域についてはいまだ研 究がほとんど進んでいないことも分かる。  さらに、研究レビューを含めて、研究動向の 整理を進めて行かなければならないが、今回の 分析によって、今後、特に縦の糸(低所得)、 横の糸(周辺地域)、その他(障がいなどの他 分野等)に関する研究が求められることが明ら かになった。 32 20 15 14 13 11 0 5 10 15 20 25 30 35 図4 地域ごとの文献数

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(1)  http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/ bunya/hukushi_kaigo/kaigokoureisha/  chiiki-houkatsu/ 2016年5月6日アクセス (2)  KHcoderを活用した分析方法については、 樋口(2004)を参照。 参考文献 樋口耕一(2004)「テキスト型データの計量的 分析 :2つのアプローチの峻別と統合」 『理論と方法』19(1)、101-115。 厚生労働省(2010)『介護保険制度に関する国 民の皆さまからのご意見募集(結果概要に ついて)』(http://www.mhlw.go.jp/public/ kekka/2010/dl/p0517-1a.pdf, 2016.5.6)。 鶴田禎人(2016)「地域包括ケアの現状と展望」 介護保険白書編集委員会編『介護保険白 書』本の泉社、94-101。 二木立(2014)「保健・医療部門」『社会福祉学』 55-3、235-245。 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 (2013)『<地域包括ケア研究会>地域包括 ケアシステムの構築における今後の検討の た め の 論 点 』(http://www.murc.jp/ uploads/2013/04/koukai130423_01.pdf   2016年5月6日アクセス)

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表1 コーディングルール *医療・看護 病院 or 医療 or 看護 or 歯科 or 看取り or 診療所 or 内科 or 医師 or 看護師 or 研修医 or  病床 or 患者 or 入院 or 退院 or 訪問診療 or 診療報酬 or 緩和ケア or 有床診 or 在宅医 or  ターミナル or 開業医 or かかりつけ or 日医 or DPC or 医科 or MSW or プライマリ or 医学  or 病棟 or 救急医 or 急性期 or クリニック or 診療料 or ベッド or 療法 or メンタルヘルス *保健・予防 予防 or 健康増進 or 保健 or 保健師 or 公衆衛生 *介護・リハビリテーション 介護 or 寝たきり or 介護保険 or 老健 or 老人保健施設 or ケアマネジメント or ケアマネ ジャー or ケアマネ or 施設 or 地域包括支援センター or 認知症 or 介護支援専門員 or 居宅介 護支援 or アルツハイマー or 小規模多機能 or 訪問介護 or グループホーム or 訪問サービス or  特養 or デイサービス or 在宅サービス or 巡回 or 有老ホーム or 複合型 or 地域密着 or ヘル パー or 24時間ケア or 地域ケア会議 or オレンジプラン or 老人ホーム or ホスピス or リハビ リテーション or リハ or 療法 or リハビリ  *住まい・住まい方 住まい or 住宅 or 高専賃 or 住居 or 居住 or サ高住 or サービス付き高齢者向け住宅 or 住環境  or すまい *生活支援 助け合い or 生活支援 or 支えあい or 有償サービス or 支え合い or 見守り or 地域支援事業  or インフォーマルor ボランティア *連携 ネットワーク or 協働 or 連携 or コーディネーター or 一体的  *低所得 低所得 or 困窮 *他領域 障害者 or 難病 or ひきこもり or 子育て or 障害をもつ人 or 精神疾患  or 障がい or 小児

参照

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