実 践 報 告
認知症のある大腿骨近位部骨折患者に対する看護
——
自宅へ帰りたいと願う患者への退院支援——
Nursing for patients with dementia after proximal femoral fracture:
Discharge support for patients wishing to return home
船越 美香
11 独立行政法人地域医療機能推進機構横浜中央病院
Mika Funakoshi1
1 Japan Community Health care Organization Yokohama Chuo Hospital
要旨 高齢者の転倒は大腿骨近位部骨折を起こし,寝たきりや術後せん妄,認知症の発症につながることもあ る.今回入院中に認知症の症状が強くなり,自宅に帰りたいと希望した患者の看護をした.術前は疼痛コ ントロールと廃用症候群予防に努め,術後は早期離床,認知症ケアやアクティビティに参加できるように した.患者の意思を尊重し,無理に在宅介護を勧めず,意思決定を急かさないように家族の思いを傾聴し た.家族が患者と共に自宅で過ごすことを選択し,介護サービスを調整して,患者の希望した自宅退院が できた.退院支援には,看護師が入院時から退院支援のアセスメントの視点を持ち,患者・家族の意思決 定を確認しながら,主体的に多職種と,地域の中での支援体制を整える連携や,患者・家族の不安を軽減 するための退院指導をする必要がある.またファシリテーターの役割や,退院調整でのリーダーシップも 求められ,認知症ケアを行いながら,患者の QOL が低下しないような幅広い知識・技術が必要である. キーワード > > > 大腿骨近位部骨折,認知症,高齢者,退院支援
Key words > > > proximal femoral fracture, dementia, the elderly, discharge support
は じ め に
高齢者数は増加し,転倒および骨折の問題は,高 齢者の健康および社会保障問題の観点からさらに重 要性を増す(1).大腿骨頚部転子部骨折治療ガイドラ インでは,大腿骨近位部骨折の年間発生数は2020 年 には約25 万人,2030 年には約30 万人,2042 年には約 32万人に達する(2)と予想されている.大腿骨近位 部骨折は椎体骨折とともに典型的な骨粗鬆症性骨折で ある(3).この骨粗鬆症により,高齢者の転倒は大腿 骨近位部骨折を起こし,骨折を機に寝たきりになり, 手術の侵襲も大きく,術後せん妄を起こし,認知症の 発症につながることもある.篠田(4)は,「これから の超高齢社会における医療提供体制を考えるとき,医 療や介護がうまく連携し,その役割をそれぞれが発揮 して,地域の中で患者の療養生活を支えていくことが 重要となる」と述べている. 今回,認知症があり一人で生活していた患者が, 手術後に自宅に帰りたいという希望が強く,家族の協 力を得て退院調整を行い,退院後に自宅での生活に戻 ることができた事例を通し,生活の質(以下,QOL) を下げずに,本人の望む「もとの生活を送りたい」と いう願いを叶えるための看護について学ぶことができ たため報告する. 連絡先:船越美香(独立行政法人地域医療機能推進機構横浜中央病院 〒231–8553 横浜市中区山下町268 番地)(受理2020 年3 月2 日)事例の概要
1. 事例紹介 A氏80 代女性,主病名は右大腿骨頚部骨折.自宅 内で転倒受傷し,2 日後に長男夫婦に発見され,1 日 経過をみたが体動困難となり,手術目的で緊急入院し た.既往歴は50 代に右肘頭骨折,60 代に両下肢静脈 瘤の手術,詳細は不明だが認知症と骨粗鬆症の診断を 受けていたが治療は中断していた.発症前の日常生活 動作(以下,ADL)は杖なし歩行で一人暮らし,認知 症高齢者の日常生活自立度判定はレベル I であった. キーパーソンは長男夫婦で週に2 日訪問していた.介 護保険は未申請であった. 2. ケア体制 主治医は整形外科医であり,手術および手術後の 創傷処置や運動器リハビリテーション(以下,運動 器リハ)の指示などを担当した.理学療法士(以下, PT)は術後から退院までの運動器リハを担当した.管 理栄養士は食事メニューや栄養状態を管理し,医療 ソーシャルワーカー(以下,MSW)は,介護老人保 健施設への申し込みや,ケアマネージャー(以下,ケ アマネ)との連絡や社会資源の調整を担当した. 病棟の看護体制は,固定チームナーシング方式を とっており,A 氏の状態に基づいた看護を行うととも に,薬剤師,栄養士,PT・MSW とそれぞれ週1 回, 支援の方向性を検討するためにカンファレンスを行 い,情報を共有した.倫理的配慮
本事例報告は,筆者が本事例への看護実践報告に 取り組む際に,所属病院の倫理審査委員会の承認を得 た.また,家族へ電話で承諾を得て,A 氏・家族へ, 退院後の外来受診時に説明し,事例報告の目的以外で 使用しないこと,匿名性を図りプライバシーを守るこ とを口頭と書面で説明し,事例報告の承諾を得た.看護の実際
看護の実際については表1 に入院経過を,また看護 目標と評価については表2 に示した. 1. 術前 患者は認知症の既往があり,入院時から脱衣・オ ムツ外しがみられた.高齢者が緊急入院をした場合, 環境の急激な変化などでストレスを受けて急性混乱を 起こす可能性がある.認知症は危険因子になり,急 性混乱リスク状態であることを念頭に,せん妄リスク 因子の直接因子(脱水,低酸素,薬物など)や誘発因 子(ストレス,環境など)に配慮し,せん妄の初発症 状の錯覚・幻覚・妄想・興奮の有無を観察した.せ ん妄は認知症の人にしばしば合併し,せん妄が示すさ まざまな症状は,認知症の BPSD(行動・心理症状, Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia) とよく似ており,区別が困難である.A 氏の脱衣・オ ムツ外しなどの症状を,急性の発症・症状の変動につ いてカンファレンスで検討した.時間に関係なく起 きており,せん妄の特徴である「突然発症する・適切 な処置により症状は回復する・1 日のうちで症状の変 化がある・意識障害がある」には該当しないと判断し た.そして認知症は「徐々に症状が出る・症状は回復 しない・1 日のうちで症状の変化が小さい・基本的に 意識ははっきりしている」ので,認知症による症状と 判断し,環境変化への不安の軽減と疼痛緩和が重要と 考えた.高齢の患者は痛みを言葉で表すことができな い場合もあり,表情や食事摂取状況,睡眠の状態など を観察する必要がある.そこで,①疼痛コントロール し,安楽に過ごせる.②認知症の症状が悪化せず,ま たせん妄を起こさずに落ち着いて手術を受けることが できる.また手術まで床上安静となったため,③廃用 症候群を予防できる.入院時に介護保険が未申請だっ たため,④介護保険を申請し,安心して退院するため の準備ができる.の4 つの看護目標を立てた.①につ いては,ポジショニングと鎮痛剤投与で疼痛をコント ロールした.②では,せん妄出現も考慮し,できるだ け訪室して関わった.③については,足関節の底背屈 運動を見守りながら促し,廃用症候群予防に努めた. ④については,本人は自宅に帰りたいと述べており, 自宅退院の場合やそれ以外へ退院する場合でも,退院 後は介護サービスが必要と考え,介護保険について家 族へ説明した. 手術まで鎮痛剤の内服とポジショニングにより, 疼痛を訴えることなく安楽に過ごすことができた.ま たせん妄を起こさずに手術することができた.術後早 期に歩行器歩行ができたことで,廃用症候群は予防で きた.また介護保険については,手術当日に申請する ことができ,退院の準備を開始できた. 2. 術後 手術は入院3 日後に全身麻酔下で施行された.手術 は問題なく終了し,術後に医師より退院後の独居は難表 1 A 氏の入院経過 病日 1 3 4 7 9 15 18 23 術後日数 手術当日 1 4 6 12 15 20 治療・退院支援 疼痛コントロール ・ ポジショニング ・ ADL 援助 ・足関節 底背屈運動 人工骨頭置換 術・後方アプロー チ・家族へのイン フォームドコンセ ント・ MSW 紹介 離床 ・リハビリ開 始 長男の嫁がリハビ リ見学できるよう に調整 ・家族の意 思確認 多職種カンファレ ンス 多職種カンファレ ンス ・家族への IC ・ MSW との面談 退院指導 ・退院前 カンファレンス ・ 在宅調整 (ケアマネ との連携) 自宅退院 退院に関する患者 ・ 家族の様子 ・カン ファレンス結果 本人は自宅へ帰り たい 医師より施設入所 を勧められる 本人は自宅へ帰り たい ・家族は長男 宅で同居したい 本人は自宅退院希 望・家族は長男宅 での同居希望があ る・認知症もあり , もう少し経過をみ る必要がある 入 院 の長 期 化で 認 知 症 の症 状 が 進ん で き て い る・ も と の 生 活 に 戻 る の は ど う か・ 本 人 は 自 宅退 院希 望 だが 長 男宅 へ の退 院 も 可 能・ 多 職 種 カ ン フ ァ レ ン ス で在宅 へ の 退 院検討 ・ 家族 へ の IC で 長 男宅 へ 退 院が 決 定 本人が自宅へ帰り たいと希望してい るので ,自宅退院 をして ,しばらく 長男の嫁が付き添 うことにした ・自 宅退院が決定 ・退 院後の生活上の注 意事項を知りたい 介護プランはデイ サービス週 2 回・ 低床ベッドとシャ ワーチェアのレン タル 表 2 看護目標と評価 術前 術後 看護目標 1. 疼痛をコントロールし,安楽に過ごせる. 1. 脱臼や転倒を起こさず,離床・リハビリができる. 2. 認知症 の 症 状 が 悪 化せ ず, ま た せ ん 妄 を 起 こ さ ず に 落 ち 着 い て 手 術 を 受 け る こ と が で き る . 2. 認知症の症状や術後せん妄の症状が強くならずに生活できる. 3. 廃用症候群を予防できる. 3. 自分の意向に沿った退院ができる. 4. 介護保険を申請し,安心して退院するための準備ができる. 評価 1. 疼痛の訴えはなく,食事も全量摂取し,夜間も良眠できたことから,疼痛はコントロール でき, ポジショニングも適切で安楽に過ごせた. 1. 外転枕外しがみられたが,看護師が繰り返し説明して装着し, できるだけ一緒に行動した ことで,脱臼や転倒を起こさずに過ごせた. 2. 看護師ができるだけ訪室し,声がけや清潔ケアなどを行い, せん妄は起きなかった.落ち 着いて手術を受けることができた. 3. 看 護師 と 共 に 足 関 節 の 底背 屈運 動 を 行 い , 術 後 も 早 期 歩 行で き , 廃 用 症 候 群 は 予 防で き た . 4. 手術日に家族が介護保険の申請をした.退院のための準備が開始できた. 2. 手術後に外転枕外し ・ベッド柵外しがあったが ,せん妄症状はなく ,術後 12 日目にオム ツ外し ・独歩がみられ ,入院期間の長期化により認知症の症状が進行した可能性が考え られた.しかし, それ以上の症状はなく経過することができた.生活リズムを整え, アク ティビティに参加できたことは有効的であった. 3. 患者は自宅退院を希望しており,術後は施設への退院も検討されたが,本人のリハビリ状 況を家族が観察し ,もとの生活に戻れるのではないかと考えが変化した .看護師は意思 決 定を 急 かさ な い よう に 家族 の 思い を 傾 聴し た . それ に よ り家 族 が自 然 な形 で 自 宅へ の 退院を考えることができた .多職種カンファレンスも行い ,在宅調整をして ,患者の希 望通りに術後 20 日目に自宅退院をすることができた.
しく,施設入所を検討するよう説明があり,MSW と の面談日を設定した.術式は後方アプローチによる人 工骨頭置換術であったため,看護目標①脱臼や転倒を 起こさず,離床・リハビリができる.を掲げ,脱臼 予防に配慮しながら,疼痛コントロールと早期離床 を図った.運動器リハは術後1 日目の運動器リハでも 歩行器で40 メートルを歩行でき,意欲的に行ったた め,同じ時間で行うように調整した.ベッド柵外し, 外転枕外し,車椅子安全ベルト外しがみられたため, 看護目標②認知症の症状や術後せん妄の症状が強くな らずに生活できる.を掲げた.カンファレンスで,術 後せん妄か,認知症の症状によるものなのかを話し合 い,外転枕外し・脱衣・オムツ外しは,日内変動がな く,錯覚・幻覚・妄想・興奮がないため認知症による ものと考えた.術後1 日目から脱臼と転倒転落の予防 もあり,車椅子でナースステーションへ移動し,看護 師が話し相手になった.脱衣や外転枕外しに対しては 必要性を説明し,繰り返し装着した.その他,認知症 ケアに有効であるといわれているユマニチュードの方 法を参考に,尊厳の保持ができるよう,否定しない・ ふつうに接する・笑顔でやさしく・相手の視野に入っ て話すなど,本人のペースに合わせた対応を心がけ, A氏が一人にならないようにした.カンファレンスで 情報を多職種で共有し,車椅子に乗車する時間を多く した.また時間外面会を許可し,家族と話す時間を持 てるように配慮した.気分転換のために,テレビを見 る時間を作り,折り紙をした.これらにより自然とア クティビティに参加する機会が得られた.折り紙をし たり,家族と語らい,テレビを見たりする時間が増え て,刺激が増えたことで生活リズムが整い,生活の質 を高めることにつながった.転倒転落防止のため体幹 抑制を使用したが,できるだけ使用する時間を短くし た.夜間は入眠できるよう医師と相談して,睡眠剤を 投与し入眠コントロールを図った. 退院については,看護目標③自分の意向に沿った 退院ができる.を掲げた.術後4 日目,長男の嫁が運 動器リハの見学を行い,長男宅で同居しようと考えて いると情報があり,医師へ報告した.看護師は無理に 在宅介護を勧めず,患者・家族の思いに気負うこと なく,傍にいて傾聴,承認するだけでもいいと考え, 意思決定を急かさないように家族の思いを傾聴した. 時々独歩がみられたので,できるだけ看護師と行動し た.術後12 日目にオムツ外し,独歩などが多くなり, 入院期間の長期化により認知症の症状が進行した可能 性が考えられ,多職種カンファレンスを行った.看護 師は,入院時に患者が自宅に帰りたいと希望していた こと,家族が長男宅で同居も考えていることから,介 護サービスを調整すれば在宅への退院も可能ではない かと提案した.PT からも歩行能力は問題ないことが 説明され,医師より在宅への退院について長男夫婦へ 説明された.家族と MSW の面談を行い,介護サービ スを整えて退院予定となった.術後15 日目に長男夫 婦より,退院後は自宅に退院して長男の嫁がしばらく 泊るようにしたいと話があった.また看護師に退院後 の生活上の注意事項について質問があり,(1)脱臼予 防(2)転倒予防(3)筋力低下予防のための食事などに ついて退院指導した.家族からは「トイレに行く時は 注意します」「気をつけることがわかって安心しまし た」と言葉が聞かれた.その後,退院前カンファレン スを開催し,大腿骨近位部骨折をした場合は,対側を 骨折する危険が高いため,常に誰かが見守る必要があ ることや,デイサービスを利用し,その間に家族は休 息をとることを提案した.また転倒転落を考慮して, ベッドの高さについては低床ベッドを準備すること や,脱臼予防としてシャワーチェアも40 cm 以下にな らないように福祉用具の手配を依頼し,週2 回のデイ サービス利用も決定した.術後20 日目に介護サービ スの調整ができたため自宅退院となった.
考
察
今回の事例への看護からさまざまなことが考えら れた.そのため,人工骨頭置換術を受けた大腿骨近位 部骨折認知症高齢者の看護・退院支援の視点・チーム 医療における看護師の役割から考察する. 1. 人工骨頭置換術を受けた大腿骨近位部骨折認知症 高齢者の看護 大腿骨近位部骨折した認知症のある A 氏に対し, 大きな看護方針として患部の治療が円滑に進むこと, 認知症悪化・せん妄の予防,合併症予防を掲げて術前 術後を通して,看護を提供した.その結果,オムツや 外転枕外しなどの認知症の症状と思われる行動はなく ならなかったが,回復の遅延,合併症が発症すること なく退院することができた. これは,まず,疼痛による苦痛を緩和することが適 切にできていたこと,また,患者のコンプライアンス のない行動の原因をせん妄によるものか認知症による ものか適切にアセスメントし,それに合った対応をし たためと考える. A氏の場合,術後に外転枕外しがみられ,認知症の症状と判断した.この行為は,患者が外転枕の必要性 を理解できない,また理解してもすぐ忘れてしまうと いう認知症の中核症状である「記憶障害」が原因であ ると考えられた.しかし今回の術式は,後方アプロー チであるため,脱臼予防のために外転枕を使用する必 要があった.そのため必要性を伝えて,毎回根気よく つけ直した.脳に伝わる情報の9 割が「視覚」であり, 視覚的刺激を活用することは有効である.したがっ て,言葉がけの他に,「外さないでください」と外転 枕に表示をつける,またベッドサイドにわかりやすく 絵や写真,注意事項を書いて貼るなどの視覚的アプ ローチも必要である.また認知症の患者にとっては, 外転枕をつけることが慣れないことで,不安や緊張, 恐怖,混乱を起こすとも考えられるため,術前オリエ ンテーションの工夫が必要であると考える. 転倒や脱臼などの合併症を予防でき,遷延するこ となく退院できたのは,本人のペースに合わせた対応 を心がけ,A 氏が一人にならないようにし,カンファ レンスで多職種と情報を共有し,車椅子に乗車する時 間を多くしたことにより自然とアクティビティに参加 する機会が得られたことによると考える.折り紙をし たり,家族と語らい,テレビを見たりする時間が増え て,刺激が増えたことで生活リズムが整い,昼間に 活動することで,夜間は睡眠するという睡眠-覚醒パ ターンにも良い影響をもたらしたと考える.対象者の リハビリテーションや身体的苦痛などの影響を考慮し て,アクティビティケアの時間や内容を工夫する必要 があり(5),生活意欲の向上に結びつくようなプログ ラムを検討して,心身の状況に合わせた参加方法を考 えて日常の看護に取り入れていく必要がある. さらに A 氏は,入院前は独歩可能で,術後1 日目 の運動器リハでも歩行器で40 メートルを歩行できた. リハビリテーションにかかわる専門職として,看護師 は医師とともに患者の健康管理をし,病棟での生活の 場における患者の自立を援助する.訓練室でできた ことが生活の場でできるようにするのが看護師であ る(6).A 氏のように術後早期から歩行できる場合に は,入院による運動機能の低下を防止し,できるだけ 早く自立して生活できるように,病棟で個別に運動器 リハを取り入れる必要がある.床上や車椅子乗車時に 大腿四頭筋訓練や膝関節伸展運動などを取り入れ,歩 行器で歩行訓練をするなど,訓練室での運動器リハと 病棟の継続したケアを検討していくことが重要であ る. 2. 認知症のある患者の意思を尊重した退院支援 独居で認知症の患者が自宅退院を希望した場合, 介護サービスを充実させないと自宅退院は厳しい現状 がある.水島ら(7)は,入院から退院までを3 つの段 階に分けて,「各段階において,看護師の有効な介入 は,第1 段階では家族関係を再構築していく事,第2 段階では家族の精神状態に沿い退院指導を行う事,第 3段階では具体的な退院カンファレンスにより,家族 の不安を軽減していく事であった」と述べている.A 氏の家族は協力的で,術後4 日目には退院後しばらく 長男の家で一緒に過ごす意向があった.看護師は,意 思決定を急かさないように家族の思いを傾聴した.皮 居ら(8)も,思いを傾聴する重要性を述べている.そ して退院前に退院指導・MSW と家族の面談・退院前 カンファレンスを行ったことは,家族の不安を軽減し て,有効的な退院支援につなげることができたと考え る. 看護師は,患者・家族の気持ちや身体状況を身近 に観察しているので,状況を冷静に判断・把握し,家 族の意向を踏まえた上で,多職種カンファレンスで積 極的に情報提供し共有していくことが求められる.入 院後早期から退院支援を意識して,患者・家族の希望 や気持ちの変化に合わせて退院先を共に考え,自宅退 院の場合はできるだけ早く介護サービスが整うよう, 看護師が主体的に患者の願いを叶えるために協働する ことが必要である. 高齢者は,特に認知症のある高齢者は「退院に向け た自己決定権」を持つことは難しい.しかし,患者の 意思を尊重し,無理に在宅での介護を看護師が強く 勧めたりせず,患者・家族を見守る姿勢が重要であ る.医療者側が見守ることで家族は,患者にとって一 番良い方法,また自分たちの生活も大きく変化させる のではなく,自然な形で在宅介護を受け入れる方法を 検討することができる.「そういう状況だったら連れ て帰ってみようかな」などの気持ちがあれば,その思 いを大切にして退院の受け入れができるように,家族 だけでは介護が難しい場合は,多職種と連携して支援 することが必要である.認知症がある患者の退院支援 では,最終的に患者・家族が納得して退院できるよう に,地域の中での支援体制を整えるための連携が必要 である. 3. チーム医療を推進するための病棟看護師の役割 退院支援・調整には,スクリーニングとアセスメン ト・受容支援と自立支援・サービス調整の3 段階方式
を推奨する.この3 段階方式は急性期病院において, 主治医や病棟看護師の能力差や気づきの違いによる不 利益を受けずに,公平に,効果的に,患者に退院支援 を提供できるプロセスである(9).今回,認知症があ るため最初は施設への退院を検討された.これは大腿 骨近位部骨折をした高齢者は反対側を骨折する危険が 高いので,家族との同居や施設への退院が安全ではな いかと考えることもあるだろう.しかし術後の経過や 本人・家族の意思を確認しながら,在宅への退院を考 え多職種カンファレンスで検討した.看護師が,「本 来のその人の姿」とはどのようなものであり,退院 後にどのように過ごしたいのかを伝え,医師・PT・ MSW・看護師とそれぞれの立場で話し合うことがで きた.今後は認知症のある高齢者も増加するので,施 設への退院を検討したとしても,術後の状況や患者・ 家族の意思を尊重し,在宅へ退院する可能性があるこ とも考慮して,多様な退院支援をすることが必要であ る.そのために看護師には,毎日の患者の状況を観察 し,家族と相談しながら,カンファレンスでファシリ テーターの役割と,多職種と退院支援・調整を進めて いくリーダーシップが求められる.