地域在住自立高齢者夫婦の生活特徴
全文
(2) 要 旨 目 的 本研究は,地域在住自立高齢者夫婦の生活特徴を明らかにし,地域での健やかな生活が継続できる ための看護支援方法を考える際の示唆を得ることを目的とする。 方 法 研究協力の得られた3組の地域在住自立高齢者夫婦にこれまで共に過ごしてきた過去を現在どのよ うに生かし生活を営んでいるのか,特に日常生活での工夫や夫婦間での協力と配慮などについて半構 造化面接を行った。面接内容は質的統合法(KJ 法)を用いて分析した。. 結 果. 地域在住自立高齢者夫婦の生活特徴は,まず【元気だからこそ好きなことを行いながら日々の満足 した生活への享受】が中心に浮かび上がった。また,このように満足した生活を送る土台として【思 いやったり,家事などの手伝いをしたりする定年退職後の夫に対する妻の感謝】と【自由に話し合っ たり各々の時間と空間を確保したりすることでのストレス回避】が根底にあることが明確になった。 さらにより良い状態になることで満足が得られており,また,満足した生活を継続するために,【年 をとることによる身体面,経済面,環境面での変化に適応するための工夫】及び【主体的な健康の創 出のために必要に応じた健康への気配り】も伺えた。 考 察 地域包括ケアシステムの構築が進められている中,地域で生活する高齢者夫婦の絆及び,高齢者夫 婦ならではの強み,高齢者夫婦のこれまでの生活の中で培われた知恵を今後の自立した生活の継続に どう活かすかを考え,高齢者夫婦の主体性を重視しつつ,文化的視点を用いた看護支援を提供する必 要性が示唆された。. Ⅰ.緒 論 少子高齢社会の現在,平成 29年の高齢化率は 27.7%. となり,今後もますます老年人口は増加し,年少人. では健康への取り組みに慎重になり過ぎていて地域交 流の希薄化がみられ,孤立しやすい環境にあることを 明らかにした。 一方,介護者は介護開始当初から介護負担や困惑,. 口・生産年齢人口は減少していくと推測されている。. 不安を抱いているが,老老介護は多くが就労や育児を. また,65歳以上の者のいる世帯も増加傾向にあり,平. 終えており,外的要因による生活の制約が少なく介護. 成 29年には全世帯の 47.2%と世帯全体の半数近くを占. 者の裁量を振るうことができると同時に,介護への充. めている。その中で夫婦のみの世帯は 32.5%であり,. 足感や要介護者への愛情も明らかになっている(寺尾. 65歳以上の者のいる世帯の中で最も多い状況に置かれ. ら,2010)。また,大倉ら(2008)は老老介護を夫婦. ている。さらに,要介護認定者も増加しており,介護. 関係の延長と捉え,夫婦の一体感を築きながら肯定的. 保険制度が開始された平成 12年は約 218万人であった. に介護を受け止めることができており,老老介護には. のが,平成 29年には約 633万人と約 2.9倍となっている. 負担が大きい反面,高齢者夫婦ならではの強みもある. (国民衛生の動向,2018) 。これらのことから,高齢者. と述べている。. 夫婦での老老介護が今後増加していくと考えられる。. さらに,堀田ら(2010)は,老老介護世帯における. 堀田ら(2010)によれば,老老介護の主介護者の8. 要介護者の ADL 自立度は主介護者の介護負担感,健. 割以上が配偶者であり,約4割が別居家族からの支援 がない世帯であった。主介護者と被介護者の年齢が近. 康関連 QOL,睡眠時間,主観的健康観に少なからず. 関連があることを明らかにし介護予防の重要性を主張. い 夫 婦 間 の 老 老 介 護 は 特 に 負 担 が 大 き く, 川 西ら. した。これらのことから老老介護についての問題点や. (2004)は,高齢夫婦世帯における介護者の健康状態. 困難さなどへの理解が深まる一方,高齢者夫婦をはじ. では対象者の9割が不健康な状態にあり,生活満足度. めとする老老介護における良きところ及び長い歳月の. 60. 文化看護学会誌 11巻1号(2019).
(3) 地域在住自立高齢者夫婦の生活特徴. 中で培った夫婦ならではの強みについても再認識でき た。. 3.データの分析方法 分析方法は実態から論理の抽出を行い,構造的に示. 日本では団塊世代が 2015年には 65歳以上となり,. すことが可能な質的統合法(KJ 法)を用いて行った. 2025年は 75歳以上になることから,高齢者夫婦のみ. (山浦,2012)。まず,逐語録から“地域在住自立高齢. 世帯における老老介護及び超老老介護世帯は今後も増. 者夫婦の生活はどんな特徴があるか”という主題に基. 加が見込まれ,対策の強化が急務とされているため. づく内容を抽出し,1ラベルには1つの意味が表現さ. (小林,2018),老老介護になっていない段階の,地域. れるように元ラベルの作成を行った。次に,元ラベル. での自立した生活を送られている高齢者夫婦の生活状. の内容の類似性に着目し,グループ編成を行った。グ. 況を予め把握しておくことが重要であると考える。. ループに集めた元ラベルの全体から,そのグループの. したがって,地域在住自立高齢者夫婦がこれまで共. 内容を表す記述を行い,それを表札とした。以降同様. に過ごしてきた過去を現在どのように生かし生活を営. のステップを踏みグループ編成が最終的に数個の表札. んでいるのか,また,老化や疾病等による心身の変化. になるまで行った。さらに,最終表札の性質を象徴的. にどのように対応しているのかを明らかにすること. に表すシンボルマークをつけた。最終的にこのシンボ. で,自宅での生活を一日も長く継続するための知恵の. ルマーク間の関係性に着目し,分かりやすく理解でき. みならず,高齢者夫婦の強みや持っている力を生かし. るように全体像を示す空間配置を行った。. た看護支援の示唆も得られると考え,本研究に取り組. 4.倫理的配慮 本研究の実施にあたり,高齢者福祉センターが併設. むこととした。. されている公民館館長に研究協力の依頼及び対象者の. Ⅱ.目 的. 推薦を行った。研究対象者に対しは,研究の目的,方 法,匿名性の保持,データ内容を研究以外に使用しな. 本研究は,地域在住自立高齢者夫婦の生活特徴を明. いこと,面接の際,答えたくない質問には答えなくて. らかにし,地域での健やかな生活が継続できるための. もよいこと,研究協力を中断,撤回することが出来る. 看護支援方法を考える際の示唆を得ることを目的とす. ことを書面及び口頭で説明し,同意書に署名を得た。. る。. なお,本研究は筆者所属大学の倫理委員会の審査を受 け,承諾を得て行った。. Ⅲ.方 法 Ⅳ.結 果. 1.研究対象者の選定 地域高齢者の健康増進,教養の向上,レクリエー ションのための便宜を総合的に提供する施設としての. 1.研究対象者の概要 3組の高齢者夫婦の平均年齢は 73.3歳であり,結婚. 高齢者福祉センターに通っている,現時点で介護保険. 歴は 46年∼48年であった。最終学歴は中卒が2名,. 制度を使用していない高齢者夫婦のうち,研究協力の. 高卒が4名であった。趣味はゴルフやおしゃべり,読. 同意が得られた3組を対象とした。. 書,書道,古典文学,散歩,畑仕事,フィットネスな. 2.データの収集方法. どであった。居住形態は全員が一戸建てであり,子供. 3組の研究対象者に対し,プライバシー保護のでき. が2人ずつ有していた(表1)。面接の平均所要時間. る個室において,インタビューガイドに基づく 30分∼. は 46分であった。. 60分の半構造化面接を1組あたり1回実施した。面接. 2.面接内容の分析結果. では,年齢や学歴,居住状況,趣味などの基本属性及. 研究協力の得られた高齢者夫婦3組の面接内容の逐. び,現在の生活状況,日常生活での工夫,夫婦間での. 語録から『地域在住自立高齢者夫婦の生活はどんな特. 協力や配慮に関することについて尋ねた。また,研究. 徴があるか』という主題に基づいて 101枚の元ラベル. 対象者が自由に語れるように配慮した。面接内容は対. を抽出し,4回のグループ編成を行った。分析の結. 象者の同意を得て IC レコーダーに録音し,逐語録を. 果,地域在住自立高齢者夫婦の生活の特徴は,図1の. 作成した。作成した逐語録を分析データとした。デー. ように5つのシンボルマークで構成される全体像で示. タ収集期間は 2014年9月であった。. された。つまり,地域在住自立高齢者夫婦の生活の特. Journal of Cultural Nursing Studies, 11(1), 2019. 61.
(4) 表1 高齢者夫婦の基本属性 年齢 A組 B組 C組. 学歴. 夫. 77歳. 高校. 妻. 70歳. 高校. 夫. 74歳. 高校. 妻. 76歳. 高校. 夫. 72歳. 中学. 妻. 71歳. 中学. 結婚歴. 子どもの数. 居住形態. 世帯状況. 48年. 2人. 一戸建て 2F. 夫婦のみ. 46年. 2人. 一戸建て 1F. 夫婦のみ. 48年. 2人. 一戸建て 2F. 夫婦のみ. 趣味 ゴルフ おしゃべり 読書 書道,古典文学 散歩 フィットネス. たり,昔から好きなものだったから未だに楽しみで毎 年をとることによる身体 面・経済面・環境面での 変化に適応するための工夫 相まって. 関 係 あ り. 主体的な健康の創出の ために必要に応じた健 康への気配り. 関係あり. 関 係 あ り. これらを土台にして. 思いやったり、家事などの 手伝いをしたりする定年退 職後の夫に対する妻の感謝. 一方で. カーをやったりしていたが,今は体に合った散歩をし ている」という発言があり,「趣味は昔からやってい. 相まって. 元気だからこそ、好きな ことを行いながら日々の 満足した生活への享受. 日暇なくやっています」,「昔は野球をやったり,サッ. 自由に話し合ったり各々 の時間と空間を確保したり することでのストレス回避. るものもあれば,今の身体の状態に合った新たなもの をやっています」という好きなことや現在の自分に 合った趣味を持ち,活動していた。また,「腰の手術 を受けた後は健康人と歩くとついていけなくなっちゃ うから一人の方がいい」という発言から,活動の内容 も自分に合うように工夫されていたことが示された。. 図 1 地域在住自立高齢者夫婦の生活特徴. さらに,「ボランティアで毎朝子供たちのパトロー ルをしています」,「ボランティアでふれあい喫茶で使. 徴は,まず【元気だからこそ好きなことを行いながら. う使い捨てのごみ入れをよそ様の広告を頂いて作って. 日々の満足した生活への享受】が中心に浮かび上がっ. は持ってきています」等,ボランティア活動を積極的. た。また,このように満足した生活を送る土台として. にされていて,「ボランティアは大変な思いしても時. 【思いやったり,家事などの手伝いをしたりする定年. 間的に自由に動けるっていうのが一番いいよね」,「ボ. 退職後の夫に対する妻の感謝】と【自由に話し合った. ランティアは自分の体力に合わせて活動できるからい. り各々の時間と空間を確保したりすることでのストレ. い」と,ボランティア活動の良さを感じつつ,現在の. ス回避】が根底にあることが明確になった。さらによ. 生活に満足することが伺えた。また,「今の生活に大. り良い状態になることで満足が得られており,また,. 満足なのは元気だから」という発言があり,健康は満. 満足した生活を継続するために,【年をとることによ. 足感の要素の一つであることも言及していた。. る身体面,経済面,環境面での変化に適応するための. 2)【思いやったり家事などの手伝いをしたりする定. 工夫】及び【主体的な健康の創出のために必要に応じ. 年退職後の夫に対する妻の感謝】 . た健康への気配り】も伺えた。. 年をとるにつれて夫婦で助け合うことが多くなる. 以下に,地域在住自立高齢者夫婦の生活の特徴の全. 中,妻は家事の手伝いをしてくれる定年退職後の夫の. 体像を構成るシンボルマークの内容と,その内容を象. 優しさや思いやりを感じ,感謝しつつ,一緒の時間を. 徴する元ラベルの内容を示す。本稿では,【 】はシ. 大事にしていた。. ンボルマーク,「 」は元ラベルの内容を表す。 1)【元気だからこそ好きなことを行いながら日々の. 具体的には,ご夫婦のお話の中では「どっちも思い やりが出てきて,年取ってそれが一番いいんじゃない. 満足した生活への享受】. のかな」 ,「声かけはお父さんの思いやりなんだと思. 高齢者夫婦は,現在元気で,好きなこともでき,さ. う」,「今まで声かけや洗濯物の手伝いのようなそんな. らに自分の時間を自分の体調やライフスタイルに合わ. 優しいことってなかったからさ」等,年をとるにつれ. せて過ごすことが出来ていて満足している。. て思いやりが出てきたと語っていた。また,「毎日家. 具体的には,現在の生活について,高齢者夫婦は 「お茶を教えていて,絵手紙をやったり,書道をやっ. 62. 文化看護学会誌 11巻1号(2019). 事をやってくれるのはありがたくて感謝しています」, 「結婚してから勤めもなく,主人の働きで生活させて.
(5) 地域在住自立高齢者夫婦の生活特徴. もらっていたから,感謝しています」,「昔から男は女. の友達が亡くなる等,環境や自分自身の変化がある中. 房が美人は3日すれば飽きるっていうけど,40年経っ. で自分なりの工夫をしていた。. ても飽きないっていうのに感謝している」等,妻は夫. 生活についてのお話の中で,「不安なのは年金暮ら. への感謝の気持ちを抱き,ありがたいと感じていた。. しで生活が大変になってくることだね」や「食生活や. さらに, 「食事が終わって片づけてくれるときもある. 生活の面だと,お金で我慢することがあるのでそれが. し,お互いにやるって感じですね」 「毎日私が洗濯物. 辛いです」という発言があり,年金生活で経済面での. を干して,とりこみは主人がやってくれる」 「仕事辞め. 不安や大変さを感じていた。さらに「年金暮らしで制. てからはお互いにふたりでやっていることが多いです」. 限があるから病気したら困る」という何かあったとき. 等,ご主人が定年退職してからは家事を一緒に行って. に対応していく余裕がない状況があった。それらの問. いる状況があった。またその中では「私が腰が痛いか. 題に対して「お金をかけて趣味をするってことは昔か. ら,主人にお掃除をやってもらっています」という助. らやらないんです」という地道な工夫をされていた。. け合いや, 「主人が手術で入院していたとき私は働い. 身体面では, 「散歩に行っても腰が悪いからすいす. ていたのだけど,洗濯物を持って行ったりして毎日通. い歩けないの。ゆっくりゆっくり」 , 「前は主人の姉の. いました」という夫婦間での支え合いが語られた。. いるデイケアに行っていたんだけど,自分も年とって. なお,「主人がパトロールをしている間に家事をし. くるとくたびれちゃって,行く回数が減った。 」等の. て,帰ってきてから一緒に食事をします」,「たまに友. 体調の変化を感じるようになり, 「突発性難聴になっ. 達と話が長引くときがあるけど,食事に間に合うよう. て眠れなくて睡眠薬を飲み始めて,今も飲んでいま. に帰ってきます。」という食事の時間等,夫婦で一緒. す」 , 「肋骨ぶつけるのよね,肋骨は一ヶ月はかかるし,. に過ごす時間を設けている状況も伺えた。. もう痛くて動けない,息できない」と,年をとるにつ. 3)【自由に話し合ったり各々の時間と空間を確保し. れて病気になりやすくなり,病気が多くなったという. たりすることでのストレス回避】. 状況があった。それらに対し, 「杖ついて歩いてたら,. 高齢者夫婦は,各自の好みを尊重し干渉せずに適度. たまたま民生委員の方にちょうど会って市役所に連絡. な距離を取りながら自由に過ごしたり,互いに遠慮せ. してくださり要介護認定1を受けたことがあった」と. ずに自由に言い合ったりすることで,ストレスを溜め. いうように社会資源等を活用して適応していた。. ないようにしていた。 インタビューの中から高齢者夫婦は「お互いに言い. また,「友達もあんまりいないし,昔の人がいなく なったよ」と,年を重ねるにつれての環境の変化を感. たいことを言い合って生きています。そうしないとス. じていた。. トレス溜まるから」,「お互いに喧嘩してね」等,言い. 5)【主体的な健康の創出のために必要に応じた健康. たいことを自由に言い合うようにして夫婦間でのスト. への気配り】. レスを溜めないようにしていた。また,「口喧嘩とか. 高齢者夫婦は,健康なときも病気であるときも運動. はあるけど,その場で終わってありがたいよね」とい. や食事に気を遣ったり病院に通ったり健康になるため. う発言があり,口喧嘩が夫婦間での大きなトラブルを. の配慮と努力をしていた。. 防ぐための方法の一つとなっていた。. 日々の生活の中で病気や怪我をしたとき,「骨折し. さらに, 「夫婦で一緒にいてもパソコンゲームや読書. たときは自分でやっぱり我慢して静かに過ごしてい. をしていて会話がないが,会話がない方が喧嘩になら. た」,「鬱になったとき,医者に外に出たほうがいいと. ずいい」 , 「夫婦二人で家にいないことで好きな事をし. 言われ,最初は階段の上がり下りをして外に出るよう. て各自で自由に過ごすことができている」等,喧嘩の. にした」等,克服するために自分で努力する姿勢がみ. 良さを感じながらも喧嘩にならないために適度な距離. られた。また,「やっぱり疲れてくるとめまいとか耳. をとったり,互いを干渉しないで自由に過ごすようにし. 鳴りがあるけど,そういうときは病院へ行くので大し. たりして,上手に夫婦生活を営んでいる状況があった。. たあれじゃない」,「足腰は少し痛いけれど,整骨院に. 4)【年をとることによる身体面,経済面,環境面で. 通えば治ります」という身体の不調が起きたときの対. の変化に適応するための工夫】. 処法を獲得していた。「鬱のとき,友達もよく心の支. 高齢者夫婦は,年金暮らしで経済的に厳しく,自身. えで電話をしてくれました」「鬱のとき,公園で歩け. の健康状態にも問題が生じるようになり,また,周囲. るようになってから友達が食事に誘ってくれました」. Journal of Cultural Nursing Studies, 11(1), 2019. 63.
(6) 等,周囲の助けを借りながら回復へ向けての努力を. いるという充足感や満足感を重要とする考え方を〈自. 行っていた。. 己実現〉とし,健康でありたいという願いから健康へ. また, 「ヨガは健康のためにやっています」, 「フィッ. の取り組みまで発展していき,またそれらの行動が実. トネスに通うと痩せないんだけど,体が軽くなりま. 現出来て,健康を維持・増進出来ていることに満足感. す」,「趣味でゴルフを一日おきにくらいにやってい. を得られていると考えられる。この満足感と健康への. る」等,健康のために定期的にさまざまな運動に取り. 取り組みというセルフケアの良循環を維持できるよう. 組んでおり,「健康食品を飲んでいる方のサークルに. 現状を維持していく支援が必要であると考えられる。. 行っていて,健康のことを聞いて自分に役立てていま. マズローは,人間のニードを5つに分類し,それら. す」,「健康のために,朝青汁を飲んでいます」等,知. を階層として示した。生理的ニーズはその他の欲求に. 識獲得のために努力したり,食事についても工夫した. 対して優先性を持つことを示し,安全と保障のニーズ. りして健康に配慮していた。. は次に満たされるものとさせる。その次のニーズとし. さらに,「何度も転倒したので転ぶことだけは気を. て愛情のニーズ,尊重のニーズを挙げ,最も高いレベ. 付けたいと思う」と,怪我をしないように意識して生. ルの欲求として自己実現のニーズを示した。これは,. 活していた。. 自己の能力や資質を十分に生かしたい,自分の可能性 を 最 大 限 に 実 現 し た い と い う 欲 求 で あ る( 佐 藤,. Ⅴ.考 察 1.満足感が持てる高齢者夫婦の強みを活かす看護の. 2011)。高齢者夫婦は,この最も高いレベルの欲求が 満たされており,満足という思いを大切にしているこ とが認識できた。看護としては,この現状を理解した. 重要性. うえでの関わりが必要であり,満足感がもたらす力を. 本研究では,高齢者夫婦の生活の中で最も中心とな. 強めていくような支援をしていくことが大切であると. ることは現在の自立した生活に対する満足感であった。. 考えられる。. 夫婦それぞれが自分の嗜好や身体状態に合わせた趣味. 2.地域高齢者の自立した生活を維持させるためのヘ. や活動を行い,老後という時間を自分のために,社会. ルスプロモーションの必要性. のために有効に使っている様子が伺えた。これは本人. ヘルスプロモーションとは,人びとが自らの健康を. の望んだ自分で出来る活動であり,自己実現につなが. コントロールし,改善することができるようにするプ. るものであると考える。島田ら(2007)は,高齢者の. ロセスである(島内,2000;奥野,2000)。本研究で. 健康を捉える観点として,生理的機構が正常であり,. は,高齢者夫婦が毎日の生活の中で,病気や怪我に対. 環境と適応し,生活機能が自立し,個々の健康の側面. 処したり,健康を維持するために食事や運動に気を. がトータルに調和している状態である〈安定性として. 遣って生活したりする等,自主的に健康のための取り. の高齢者の健康〉 ,その人が目指す方向を持ち,自己. 組みを行い,また夫婦でもストレスを溜めないように. の可能性を実現する性質である〈実現性としての高齢. 工夫して関わっていた。なお,老化現象に対しても,. 者の健康〉 ,その人自身の価値や信念に関わる人生の. その進行がなるべく遅くなるように,生活に影響が起. 意味と一致することで得られる全体的感覚である〈全. こらないようにさまざまな対処を行っていた。これら. 体性としての高齢者の健康〉を挙げている。 〈実現性. のセルフケア行動により,自立した生活を維持し,ま. としての高齢者の健康〉では, 《願いとしての健康》や. た健康を維持・増進することが出来ていたと考えられ. 《自己実現》 , 《可能な限り良好で快適な状態と環境を. る。オレムは,セルフケアを個人が自らの機能と発達. 創る》という性質があり,満足感は〈実現性としての. を調整するために毎日実施している個人的なケアとし. 高齢者の健康〉に関連するものであると考えられる。. ている(堀内,2011)。個人的な取り組みだけでなく,. 正木ら(2008)は,高齢者の健康を捉える文化的視. 長年一緒に生活してきた中で,健康を維持していくた. 点として〈大いなるものの感受〉〈人との関わり〉〈自. めの夫婦でのセルフケアをも獲得し,生活の中で実践. 己実現〉〈健康・経済の安定〉を挙げている。趣味が. していた。健康への取り組みのためには,個人だけで. 出来ることや自分の夢や希望を実現すること,現在の. なく夫婦,家族,地域という集団での取り組みによ. 生活に満足して生きることなど,自分の中に抱いてい. り,より効果的でポジティブなアプローチが可能にな. る目標や目的に向けての意欲,またそれが達成されて. ると考える。ヘルスプロモーションの理念に基づき,. 64. 文化看護学会誌 11巻1号(2019).
(7) 地域在住自立高齢者夫婦の生活特徴. 看護職者は対象の自主性や強みを活かしたセルフケア. など多くの困難に直面しながら生活する高齢者夫婦の. 支援を行っていくことが必要であると考えられる。. 生活の特徴,特に夫婦間の助け合い,上手な付き合い. 3.地域での自立した生活の継続につながる高齢者夫. 方,生活への満足感,『老い』への適応,健康志向が. 婦の適応の大切さ. 明確になったため,地域で生活する高齢者の家族レジ. 高齢者夫婦は,現在の生活に満足している一方,老. リエンス強化に寄与できると考える。. 化現象による身体面,経済面,環境面での変化を体験. 5.地域在住自立高齢者夫婦の生活様式. していた。年金生活になり収入が減る,通院や服薬が. 約 50年という長い夫婦生活の中で,夫は定年退職. 必要になる,友達がいなくなっていくことは,今まで. をして家での時間が増え,また夫婦ともに老化現象に. あったものを失うという喪失を体験しており,老年期. よる変化が生じ,一緒に家事をしたり,夫婦での時間. は主に健康の喪失,経済力の喪失,親しい人を失うと. を大切にしたりという営みの変化が見られた。. いう喪失体験がある(堀内,2011)。. 定年退職以前は,夫は家計のために働き,妻は家事. これらの喪失体験に対し,身体状態の変化を受け入. や子育てをして互いに家族や家庭を支えており,現在. れつつ,変化が出来るだけ緩やかになるような工夫を. は家事での身体的負担を軽減できるような助け合いや. したり,疾病等で医療受診等の出費をなるべくかけな. 満足感の持てる生活ができるよう自由に生きていくこ. いよう健康に気を遣い,趣味にはお金をかけない等の. とを互いに受容して生活してきた。これらの加齢に伴. 工夫をしたりしていた。また,積極的に交流の場へ訪. う夫婦間の営みの変化が老化現象を遅らせ,一日も長. れ,同じ地域の方々と関わり合いを持つようにしてい. く自立した自分らしい生活ができるようになると考え. た。ハヴィガーストは,老年期は職業からの引退,収. られる。また,長年寄り添って生きてきた中での感謝. 入の減少,配偶者の死,病気や事故等の変化を経験す. の気持ちから,互いに想い合い支え合う関係性が生ま. る時期とし,老年期の発達課題として,体力と健康の. れたのであると考えられる。一方,定年退職の夫の家. 衰退への適応,退職と収入の減少への適応,配偶者の. 庭関与は妻の結婚満足度を高め,また,夫婦のコミュ. 死に対する適応,自分の年齢集団の人と率直な親しい. ニケーションや共同活動の増大は夫婦双方の結婚満足. 関係を確立する,柔軟なやり方で社会的な役割を身に. 度を高めるとされる(伊藤,2015)。. 付け,それに適応する,満足のいく住宅の確保を挙げ. なお,日本では明治時代に制定された家制度があり. ている(舟島,2011) 。本研究では,高齢者夫婦は,. 「家督相続によって引き継がれてゆく戸主権を持つ戸. これらの発達課題を成就し,地域での自立した生活の. 主によって統率される家族集団」として戸主である父. 継続につながる適応が出来ていたと考えられる。. 親が財産管理や家族の存続と統制に絶対的権力を持っ. 4.地域で生活する高齢者の家族レジリエンス強化へ. ていた。しかし,昭和 22年にこの民法は改正され,. の寄与. 夫婦での人格的な統合や親子の愛情に基づく関係に改. 川口ら(2018)によると,日本は 2025年,高齢者. められた(鈴木,2011)。法が改正され,夫婦の関係. が住み慣れた地域での生活の継続を可能にする,地域. もすぐ改められるということは難しいが,社会の変化. 包括ケアシステムの構築を目指している。地域包括ケ. や,夫婦自身の変化に伴い,支え合い方の変容が見ら. アシステムの中で高齢者が家族の支えや社会資源の支. れていると考えられる。. 援を受けながら地域での生活継続と将来起こりうるあ らゆる困難な状況からの回復を円滑にする支援を考え. Ⅵ.研究の限界と課題. る上で,高齢者個人のみならずその家族という集団の レジリエンスを強化していくことが重要である。ま. 本研究では,1施設のみで実施したため,研究対象. た,困難状況を乗り越えるためには,健常なうちから. 者のサンプル数が少なかった。今後,複数施設からの. 現在地域で自立して生活する健常高齢者の家族レジリ. サンプル数を増やして,地域文化を考慮しつつ,地域. エンスが高齢者の生活にいかなる影響を与えるかを明. 在住自立高齢者夫婦の生活状況を探索していく研究が. らかにし,高齢者を含む家族が困難な状況に直面した. 望まれる。. 際にその危機を乗り越え,さらに回復力を高めていく ための支援を継続していくことが重要となる。本研究 においては,加齢による身体の衰えに加え,喪失体験. Journal of Cultural Nursing Studies, 11(1), 2019. 65.
(8) 謝 辞 本研究にあたり,インタビューに快くご協力いただ きました高齢者夫婦の皆様ならびにご支援いただきま した公民館の館長様に厚く御礼申し上げます。. 利益相反 本研究における利益相反は存在しない。 文 献 舟島なをみ(2011).看護のための人間発達学.p49-57,東京: 医学書院. 堀内ふき,大渕律子,櫻井美代子,他(2011).ナーシング グ ラ フ ィ カ 26老 年 看 護 学 ─ 高 齢 者 の 健 康 と 障 害. p33-37,大阪:メディカ出版 . 堀田和司(2010).老老介護世帯における要介護者の ADL と 主介護者の介護負担感及び QOL との関連.平成 22年度 奨励研究報告書 堀田和司,奥野純子,深作貴子,柳久子(2010) .老老介護の 現状と主介護者の介護負担感に関する要因.日本プライ マリ・ケア連合学会誌,33 (3) ,256-265. 伊藤裕子(2015).夫婦関係における親密性の様相.発達心 理学研究,26(4),279-287. 川口めぐみ,東間正人,田中悠二,水上喜美子(2018).地 域で生活する高齢者の家族レジリエンス.福井大学医学 部研究科雑誌,第 18巻,21-31. 川西恭子,官澤文彦(2004).高齢夫婦世帯の介護者の生活 満 足 度 と 情 緒 的 支 援 . 日 本 看 護 福 祉 学 会 誌,10(1), 40-41.. 66. 文化看護学会誌 11巻1号(2019). 小林紗織,白谷佳恵,田高悦子他(2018).高齢夫婦のみ世 帯において認知症高齢者を介護する配偶者の経験.日本 地域看護学会誌,21(1),32-39.. 国 民 衛 生 の 動 向(2018). 厚 生 統 計 協 力,65(9),11,50, 257. 正木治恵,山本信子(2008.高齢者の健康を捉える文化的視 点 に 関 す る 文 献 検 討. 日 本 看 護 学 会 誌 ),13(1), 95-104. 大倉美佳,織田初江,佐伯和子,浅川真裕子,穴見麻希,高 田貴子,中村仁美,山本育美(2008).山間地方で暮ら す妻の老老介護の受け止め.金大医保つるま保健学会 誌,32(1),85-92. 奥野茂代(2000).高齢者のヘルスプロモーションと看護. 日本老年看護学会誌,5(1),7-16. 佐藤登美,箕浦とき子,奥原秀盛(2011).新体系看護学全 書第 10巻 基礎看護学①.p114-115,東京:メヂカルフ レンド社 . 島内憲夫,助友裕子(2000).ヘルスプロモーションのすす め ─ 地球サイズの愛は,自分らしく生きるために!. p1-22,東京:垣内出版. 島田広美,谷本真理子,黒田久美子,田所良之,北島美奈, 高橋良幸,菅谷綾子,正木治恵(2007).高齢者の健康 の特質に関する文献検討.日本老年看護学会誌,11(2), 40-47. 鈴木和子,渡辺裕子(2011).家族看護学 ─ 理論と実践(第 3版).p45-47,東京:日本看護協会出版会. 寺尾幸恵(2010).老老介護を継続する介護者の特徴 ─ 実態 調査とインタビュー調査からの考察 ─ . 日本福祉大学大 学院社会福祉学研究科『社会福祉学研究』,(5),19-27. 山浦晴男(2012).質的統合法入門 ─ 考え方と手順(第1版). p15-21,東京:医学書院 ..
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