大学生における過剰適応が進路選択に与える影響 ――日中比較研究――
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(2) 62. 青年心理学研究 第32巻 第 2 号. め,周囲にいる重要な他者の期待や顔色が過剰に. てきた子どもが,青年期に至って過剰適応の問題. 気になり,自分の意見や主張を相手に伝えられな. を起こす恐れがあると述べている。. い大学生は少なくない(藤元・吉良,2014;後. このように過剰適応傾向の強い大学生が進路選. 藤・伊田,2013;侯・陈・陈,2005;李,2010)。. 択に直面する時,自分の意志より,親をはじめ,. このように関係性の崩壊を恐れるあまり,過度に. 周囲にいる重要な他者との関係の崩壊を恐れるた. 環境からの要求や期待に従い,内的な欲求を無理. め,過度に外の期待や意見に従い,進路を選択す. に抑圧する状態を表す概念として,過剰適応が挙. る場合がある。しかし,今までの先行研究では,. げられる(石津,2006)。. 過剰適応と進路選択との関係を扱った研究はほと. 適応は社会的・文化的な環境への適応を表す. んど見られない。そこで,本研究では,過剰適応. 「外的適応」と,心理的な安定や満足といった適. の観点から,大学生の進路選択に及ぼす影響を明. 応を表す「内的適応」という 2 側面から構成され,. らかにすることを目的とする。さらに,日中比較. この 2 側面のバランスが取れた状態を指す(北. 研究によって,過剰適応と進路選択との関係をよ. 村,1965)。 適 応 の 構 造 と 定 義 を 踏 ま え, 桑 山. り一層明確にしていく。. (2003)は過剰適応を「外的適応が過剰なために 内的適応が困難に陥っている状態」と定義した。. 過剰適応と進路選択との関係. 適応と異なり,過剰適応は外的適応の過剰と内的. 前述したとおり,過剰適応は対人関係などの環. 適応の低下という 2 側面から構成され(益子,. 境要因における外的適応の過剰と,個人の内的適. 2013),心身の健康に不利をもたらすという意味. 応の低下という 2 つの側面から構成されている. で,不適応や異常な適応と考えられている(北村,. (益子,2013)。多くの実証研究によれば,過剰な. 1965)。そこで,本研究では過剰適応を以下のよ. 外的適応は個人にとって,ある程度の適応を維持. うに捉える。第一に,過剰適応を適応とは概念や. する可能性があると示唆されている。例えば,過. 構造において質的に異なっているものであり,異. 剰な外的適応は友人適応や,学校適応感,家庭で. 常な適応として捉える。第二に,過剰適応の「過. の居場所感などと正の関連がある(石津・安保,. 剰」を,周りの人からの期待に過度に応え,自己. 2008;後藤・伊田,2013)。一方,内的適応の低. の欲求を過度に抑制するものとして解釈する。第. 下は,ストレス反応や不適応を蓄積させている。. 三に,過剰適応について,環境への適応に過剰に. 例えば,内的適応の低下は自尊感情,対人恐怖心. 努力しようとすることによって,精神内界の安定. 性,適応感にネガティブな影響を及ぼす(藤元・. が得られず,内的な欲求が満足できない状態とし. 吉 良,2014; 益 子,2009;2010; 石 津・ 安 保,. て捉える。. 2008)。. これまで,対人関係上の適応を過剰に重視し,. 過剰適応と同様に,進路選択も環境要因の対人. 自分自身の欲求や願望の充足を我慢している子ど. 関係と個人内要因の自己効力や自己評価との間に. もが,急に不登校や心身症,非行などを起こすこ. 密接な関連がある。対人関係から見ると,周囲に. と が 問 題 視 さ れ て き た( 益 子,2013; 舩 津,. いる重要な他者,特に親との関係が,大学生の進. 2010;王,1994;李,2010)。児童期までは外的. 路選択に深く関わっている。鹿内(2015)の調査. 適応に重きが置かれているが,青年期には内的適. によると,両親と相談する人は相談しない人より. 応の重要性が高まっていく(藤元・吉良,2014)。. も,自己効力感が高く,就職先を決められないと. 児童期に形成された適応方略を見直さず,そのま. い う 職 業 未 決 定 状 態 の 割 合 が 低 か っ た。 高 橋. ま青年期まで引き継ぐと,過剰適応に陥ることが. (2008)では,お互いの思考や感情を尊重する親. 危惧される。桑山(2003)は児童期には, 「模範生」. 子関係を持つ青年は,進路選択に対する積極性に. などと言われながら,一見何の問題もなく過ごし. 富むことが明らかにされている。日本人大学生と.
(3) 任 玉洁:大学生における過剰適応が進路選択に与える影響――日中比較研究――. 63. 同様に,中国人大学生の就職に対する期待も本. は自己効力感を媒介に,進路選択に間接的な影響. 人,学校,社会,家庭などの要因に影響を受けて. を及ぼす場合がある(松田・前田,2007)。例え. いる(蒋,2015)。進路選択の時に積極性が高く,. ば,男子の場合は親からのサポートが,女子の場. 自発的に行動する大学生は,両親から受けるサ. 合は友人からのサポートが自己効力感を高め,さ. ポートや理解が多かった(梁,2016)。. らに自己効力感を介して,職業選択に積極的に関. 前述したように,過剰適応も他者と深く関わっ. 与する(松田・前田,2007)。また,厚生労働省. ている。特に過剰適応の下位尺度である「外的適. (2008)の調査によれば,新入社員の多くは個人. 応の過剰」には他者の意見をきちんと参考にした. の能力や技術,興味を重視し,自分の能力や個性. いと思う気持ちや,他者の期待や要求に応えたい. を生かせる職業を選んでいた。そのため,個人の. と思う気持ち,他者に認められたいと思う気持ち. 内的適応が得られることは日本人大学生の進路選. が強く表れている。このように他者との関係の中. 択にとって重要な要因であり,「内的適応の低下」. で,適応したいと思う強い気持ちが進路選択に関. の得点が低いほど,進路選択意識・行動の得点は. する行動を促進すると推測できる。そのため, 「外. 高いと予想される(仮説 3 )。. 的適応の過剰」は,進路選択に正の影響を及ぼす. それに対して,中国人大学生の進路選択に対す. ことが予想される(仮説 1 )。. る効力感が乏しいと指摘されたが(沈,2009),. 個人内要因では,自己に対する評価や自己効力. 親との関係が進路選択に重要な役割を果たしてい. が高いほど,進路選択行動が積極的であることが. る(梁,2016)。『中国青年报』の調査によると,. 示されている。例えば,浦上(1995)は,進路選. 親の期待に応えて就職した大学生が46.3%を占め. 択に対する自己効力が強い人は進路選択行動を活. ている(孙,2018)。また,友人と一緒に大学院. 発に行い,努力もすると述べている。富永(2010). に進学することを決め,受験の準備を行う人も少. も進路選択行動を大きく規定するのは進路選択に. なくない(叶,2019)。つまり,親や友人の意見. 対する自己効力であると指摘している。. に従えば,自己主張をしなくても,あるいは内的. 中国の研究でも類似した結果が得られている。. 適応の状態が低くても,うまく進路選択を行うこ. 沈(2009)は客観的な自己評価の能力,職業に関. とは,中国人大学生にとっては可能である。その. する情報を得る能力,目標を立てる能力とキャリ. ため,内的適応よりも対人環境の中で得られる適. アプランニングの能力といった 4 つの側面から,. 応が中国人大学生の進路選択における重要な要因. 中国人大学生の進路選択に対する自己効力を測定. となり,他者の気持ちをよく考え,人の期待や要. し,就職後の状況との関連を検討した。その結果,. 求に応えようと努力することを表す「外的適応の. 進路選択に対する自己効力が,就職地域(都市部. 過剰」は,進路選択意識・行動を促進すると予測. か,農村部か),給料,仕事に対する満足度に大. される(仮説 4 )。. きく影響を与えることが明らかにされた。また, 李(2013)によれば,中国人大学生の自己評価は,. 日中比較研究の意義. 就職恐怖や面接不安との間に有意な負の相関が見. 本研究では,日中比較の観点から,大学生の過. られた。. 剰適応が進路選択に与える影響を検討する。以下. 以上のことから,自己効力や自己評価などの個. には,本研究の 2 つのキーワードである「過剰適. 人内要因に深く関わる進路選択は,個人の心理的. 応」と「進路選択」から,日中比較研究の意義を. 安定の低さを表す内的適応の低下から負の影響を. 論じていく。. 受けることが予想される(仮説 2 )。. 過 剰 適 応 の 類 似 概 念 と し て,「over-. 他方で,日中の大学生との間には差異が見られ. achievement」と「よい子」という 2 つの概念が. る。日本人大学生では,親や友人からのサポート. よくあげられている。過剰適応は日本における独.
(4) 64. 青年心理学研究 第32巻 第 2 号. 自の概念と認知されている(益子,2013)一方で,. に辞めるという問題もよく見られる。 『京华时报』. 「over-achievement」は欧米の先行研究において. の調査によれば,就職後すぐに辞める原因の 1 つ. よ く 言 及 さ れ て い る(Aurel, 2014; Jones &. は,親の要求に従ったため,実は自分に合わない,. Berglas, 1978; Maria, 2004 な ど )。 過 剰 適 応 と. 興味がない,やりがいがないなどと思っていたこ. 「over-achievement」はいずれも必要以上に努力. とである(周,2011)。そのため,他者の意見に. するということが示されているが,行為する対象. 過度に従い,自己を抑制する「乖孩子」は,就職. が異なっていると考えられる。過剰適応は,対人. 後に困難に陥る恐れがあると考えられる。しか. 関係に対して,他者の期待に過剰に応えたり,自. し,「乖孩子」は学術的な用語ではなく,明確に. 己の主張を無理やり抑制したりすることに捉えら. 位置付けられていない状況の中で,中国において. れている(石津,2006)。それに対して,「over-. の実証研究は極めて少ない。そこで,過剰適応と. achievement」は,課題や業績に対する自分の知. いう心理的概念を用いて,中国の「乖孩子」の問. 能,能力以上に努力することに捉えられている. 題を検討する必要がある。さらに,過剰適応の形. (Jones & Berglas, 1978)。以上のことから,一見. 成は文化・社会的な要因に深く関わっていると指. 欧米でよく検討された「over-achievement」は過. 摘されている(桑山,2003)。そのため,日中比. 剰適応と似ているが,実は質的に異なっていると. 較研究を行うことによって,過剰適応に関する研. 考えられる。. 究を発展させられる。. 「over-achievement」に対して,中国の先行研. また前述したように,進路選択に影響を与える. 究 で よ く 言 及 さ れ た「 乖 孩 子 」(guai children,. 要因について,日中の大学生との間に,共通点と. よい子)」は過剰適応の特徴と共通している。中. 相違点がある。例えば,日中の大学生がいずれも. 国の研究者たちは,「乖孩子」の特徴を以下の 2. 親や友人など重要な他者からの影響という環境要. 点にまとめた。第 1 に,人の顔色や気持ちを気に. 因(高橋,2008;梁,2016)と,自己評価や自己. して,権威に従いやすいという点である。第 2 に,. 効力などの個人内要因(富永,2010;沈,2009). 自分の感情を隠し,本音がなかなか口に出せない. が進路選択に影響を及ぼすという点で共通してい. と い う 点 で あ る( 林,2015; 郭,2017; 石,. る。一方で,中国人大学生は個人内要因より,環. 2010;. ,2013など)。その 2 つの特徴が過剰適. 境 要 因 か ら の 影 響 を 多 く 受 け て い る が( 梁,. 応の「外的適応の過剰」と「内的適応の低下」に. 2016),日本人大学生は個人内要因から直接に影. それぞれ対応すると考えられる。日本の先行研究. 響を受けているものの,環境要因から個人内要因. でも,過剰適応を「よい子」の対人場面における. を介して,進路選択に間接的な影響を及ぼす(松. 心理的な問題として捉えている(石津・安保,. 田・前田,2007)という点で異なっている。. 2009; 鈴 木,2007; 益 子,2008; 桑 山,2003な. さらに,キャリア観において,日中の大学生と. ど) 。そのため,過剰適応という問題は日本人だ. の間にも差異がある。例えば,リクルートワーク. けではなく,中国人の中でもよく見られると考え. ス研究所(2013)が行ったアジア 8 カ国の20代,. られる。. 30代大卒者の入・転職に関する調査によると,日. 近年,中国における「乖孩子」の心理的な問題. 本人が他の 7 カ国の人より,「自分の希望する仕. が徐々に注目されてきている。李(2010)によれ. 事内容」を最も重視しているが,中国人は他の 7. ば,「乖孩子」は他者から見た理想的な子を演じ. カ国の人より,「高い賃金・充実した福利厚生」. ることで,きちんと自分を理解する機会を放棄. が最も重要だと思っていることが明らかにされ. し,自己意識や自信を失う恐れがある。このよう. た。そのほかに,森田・石津・髙橋(2013)によ. な人は,進路選択の時に,自分より両親など重要. ると,日中の大学生の働く目的から見ると,日本. な他者の期待を優先して考える結果,就職後すぐ. 人の場合は,周囲から非難を受けたくないという.
(5) 任 玉洁:大学生における過剰適応が進路選択に与える影響――日中比較研究――. 65. 「非難回避」の動機で働いているが,中国人の場. 過剰適応尺度 石津(2006)によって作成され. 合は,家族を養っていくことを重視しているとい. た尺度である。この尺度は「他者配慮」(自分が. う「家族との調和」の動機で働いていることが明. 少し困っても,相手のために何かしてあげること. らかになった。. が多い,などの 8 項目),「期待に沿う努力」(自. 以上のように,過剰適応の特徴や問題につい. 分の価値がなくなってしまうのではないかと心配. て,日本人と中国人は共通しており,過剰適応傾. になりがむしゃらに頑張る,などの 7 項目),「人. 向の強い大学生が進路選択の時や就職後に問題に. からよく思われたい欲求」(人から褒めてもらえ. 陥る恐れがある。一方,進路選択を規定する 2 つ. ることを考えて行動する,などの 5 項目),「自己. の要因の影響力やキャリア観に関して,日中との. 抑制」(自分の気持ちを抑えてしまうほうだ,な. 間に差異が見られる。大学生の過剰適応が進路選. どの 7 項目),「自己不全感」(自分のあまりよく. 択に及ぼす影響を検討する際に,日中比較研究を. ないところばかり気になる,などの 6 項目)の 5. 行うことによって,異文化の視点から新たな知見. 因子からなり,計33項目であった。原版に準拠し,. が得られ,過剰適応と進路選択との関係について の理解を深めることができる。. 「以下の質問に対して,あなた自身に最もあては まると思う番号に○をつけてください」と教示し た。 5 件法(「全くあてはまらない:1 」∼「と. 研究目的. てもあてはまる:5 」の 5 段階)で回答を求めた。. 本研究では,過剰適応が進路選択に与える影響. 進路選択意識・行動尺度 都筑(2014)によっ. を明らかにすることを第一の目的とする。さらに. て作成された尺度である。「進路や将来のことを. 日中の大学生の過剰適応が進路選択に与える影響. 真剣に考えている」,「進路についてよく調べる」. の相違点を検討することを第二の目的とする。. など計 6 項目を使用した。原版に準拠し,「卒業 後の進路について,あなたはどのように考えた. 方 法. り,準備したりしていますか。自分に最もあては まると思う番号に○をつけてください」と教示し. 調査時期と対象者. た。 4 件法(「全くあてはまらない:1 」∼「と. 日本での質問紙調査は,2016年 6 月下旬∼7 月. てもあてはまる:4 」の 4 段階)で回答を求めた。. 中旬に実施した。関東地方にある 3 つの大学に在 籍する大学生308名(男性164名,女性143名,不. 手続き. 明 1 名)を分析対象とした。 1 年生が99名, 2 年. 中国における調査を実施する前に,全ての尺度. 生が92名, 3 年生が86名, 4 年生が30名,不明 1. を中国語に翻訳した。尺度翻訳のプロセスは以下. 名,平均年齢は19.57歳(SD=1.94)であった。. の通りである。段階 1 では,原著者の許可を得て,. 中国での質問紙調査は,2019年 1 月下旬∼2 月. 心理学専攻の在日中国人留学生 2 名がそれぞれ尺. 下旬に実施した。北京市,四川省,山東省にある. 度を中国語に翻訳した。段階 2 では,社会学専攻. 3 つの大学に在籍する大学生278名(男性140名,. と日本語専攻の在日中国人留学生 2 名によって,. 女性138名)を分析対象とした。 1 年生が108名,. 順翻訳の内容を日本語に再翻訳した(バックトラ. 2 年生が93名, 3 年生が41名, 4 年生が36名,平. ンスレーション:逆翻訳)。段階 3 では,原著者. 均年齢は20.51歳(SD=1.37)であった。. によって,バックトランスレーションの内容と原 版尺度を比較し,元の尺度との等価性を確認し. 調査内容. た。段階 4 では,中国語を母語とする大学生を対. フェイスシート 性別,年齢,学年について尋. 象者に,少人数調査を行い,認知的等価性を検討. ねた。. し,わかりにくい項目や誤解がある項目がなかっ.
(6) 66. 青年心理学研究 第32巻 第 2 号. たかを確認した。. 析では,「期待に沿う努力」( 7 項目,日本:α. 日中いずれの調査も大学教員に依頼し,授業の. =.78,中国:α=.81),「他者配慮」( 4 項目,日. 開始時および終了後に実施した。また,本研究で. 本:α=.65,中国:α=.79),「人からよく思わ. は,日中の調査対象者の同質性を確保するため,. れたい欲求」( 7 項目,日本:α=.85,中国:α. 大学所在地,国内ランキング(偏差値),規模な. =.83),「自己抑制」( 7 項目,日本:α=.87,中. どの側面で,ほぼ同等のレベルの大学で調査協力. 国:α=.85),「自己不全感」( 6 項目,日本:α. 者を募集した。さらに,対象者の学部や専攻に. =.79,中国:α=.82)の 5 因子,計31項目を使. よって,進路の多様性や競争率が異なることを踏. 用した。下位因子ごとにすべての項目を用い,そ. まえ,日中いずれも文学部の授業で調査を実施し. の合計を得点として,点数が高いほど,各下位因. た。. 子で表れる特徴,あるいは過剰適応の状態が顕著 であると考えられる。モデルの適合度は日本:. 倫理的配慮. AGFI=.942,CFI=.931,RMSEA=.039; 中 国:. 第一に,質問紙の表紙で「どうしてもやりたく. AGFI=.941,CFI=.958,RMSEA=.034であった。. ない場合は,そのまま提出しても構いません」と. 進路選択意識・行動尺度(都筑,2014)は単因. 明示しており,調査を実施する前に同じことを繰. 子構造で,尺度の信頼性を確認した( 6 項目,日. り返し説明し,調査への参加は強制ではないこと. 本:α=.88;中国:α=.89)。すべての項目の合. を伝えた。第二に,収集されたデータを厳重に管. 計を得点として,点数が高いほど,進路選択に対. 理し,回答は個人が特定されない形で統計的に処. する意識や行動が積極的であると考えられる。. 理されるため,個人の傾向が明らかにならないこ とを事前に伝え,プライバシーの保護に配慮し. 過剰適応,進路選択意識・行動の属性差. た。第三に,分析した後に,研究結果を研究協力. まず,各尺度における日中間の均質性を検討す. 者に報告し,結果のフィードバックを行った。. るため,日本と中国の 2 集団を対象として,多母 集団同時分析を行った。その結果,過剰適応尺度. 結 果. で は, 配 置 不 変 モ デ ル の 適 合 度 は CFI=.912,. 本研究では,日中の比較を行うため,仮説を検. =.910,RMSEA=.061となった。進路選択意識・. 証する前に,日中の大学生を対象とした過剰適応. 行動尺度では,配置不変モデルの適合度は CFI. 尺度の因子構造が一致することと,各尺度におけ. =.956,RMSEA=.037,弱測定不変モデルの適合. る日中間での切片レベルの比較ができることを先. 度は CFI=.949,RMSEA=.050となった。いずれ. に確認した。以下には,各尺度の内的整合性の確. の尺度も,ΔCFI<.010,ΔRMSEA<.015のため,. 認,各尺度における日中間の均質性と属性差の検. 弱測定不変モデルの当てはまりが良いと認められ. 討,仮説 1 と仮説 2 の検証(結果 1 ),仮説 3 と. た。日中間の均質性が確認され,日中間での切片. RMSEA=.059,弱測定不変モデルの適合度は CFI. 仮説 4 の検証(結果 2 )という順番で,分析の結 果を述べていく。. (平均値)レベルの比較が可能となった。 次に,対象者の国,学年,性別という 3 つの属 性における差異を確認した。国( 2 )×学年( 4 ). 各尺度の因子分析と内的整合性の確認. ×性別( 3 )の 3 要因分散分析の結果(Table 1),. 過剰適応尺度(石津,2006)の原版に準拠し,. 過剰適応のすべての下位因子と,進路選択意識・. 5 因子の確認的因子分析を行った。因子負荷量. 行動において,国,学年と性別の 2 次の交互作用. が .40未満の項目と日中の因子構造の不一致の項. は見られなかった。 1 次の交互作用では,「自己. 目を除外して,因子分析を繰り返した。以降の分. 抑制」における国×性別のみに見られ(F(1,569).
(7) 過剰適応の概念と機能に基づき,本研究では. 「外的適応の過剰」と「内的適応の低下」という. 2 つの潜在因子が存在する高次因子モデル(石. 津・安保,2008)を用いて,過剰適応と進路選択. との関係を検討した。さらに,日中間の差異を検. 討するため,多母集団同時分析を行った。Figure. 1に示したように,以下の 2 つの結果が得られた。. 「外的適応の過剰」が進路選択意識・行動に正の 第一に,共分散構造分析の結果,日中いずれも. 影響を有意に与え(日本:β=.21,p<.01;中. 国:β=.25,p<.01),「内的適応の低下」が進路. 選択意識・行動に負の影響を有意に与えることが. 示 さ れ た( 日 本: β=−.23,p<.01; 中 国: β. =−.17,p<.01)。第二に,パラメータの一対比. 較の結果,「外的適応の過剰」が進路選択意識・. 行動に及ぼす影響に関して,日中間のパス係数の. 差の検定統計量 z は0.53となり,「内的適応の低. 下」においては,1.40となった。いずれも標準正. 規分布において 5 %水準で有意と判断される基準. は な か っ た と 示 さ れ た。 モ デ ル の 適 合 度 は,. AGFI=.900,CFI=.912,RMSEA=.042であった。. 過剰適応の 2 側面の組み合わせと進路選択意識・. 行動との関係(結果 2 ). 前節の結果から,過剰適応の「外的適応の過剰」. と「内的適応の低下」は,進路選択に有意な影響. (z≧1.96)を満たさなかったため,日中間の差異. 3.28(0.69) 3.43(0.75) 3.44(0.70) 3.49(0.74) 3.89(0.78) 4.00(0.71) 3.14(0.88) 3.46(0.90) 3.30(0.84) 3.29(0.75) 2.67(0.72) 2.62(0.61). 3.48(0.66) 3.42(0.79) 3.69(0.68) 3.69(0.66) 4.03(0.65) 3.96(0.61) 3.10(0.77) 3.24(0.76) 3.27(0.68) 3.25(0.83) 2.95(0.55) 2.76(0.52). 3.30(0.60) 3.41(0.56) 3.49(0.51) 3.46(0.47) 3.87(0.68) 4.28(0.55) 2.70(0.98) 3.04(1.06) 3.37(0.89) 3.47(0.75) 2.93(0.50) 2.92(0.81). 3.34(0.64) 3.25(0.72) 3.39(0.52) 3.38(0.53) 3.69(0.58) 3.77(0.51) 2.85(0.82) 2.71(0.74) 2.60(0.84) 2.52(0.78) 2.81(0.51) 2.70(0.50). 3.15(0.53) 3.07(0.56) 3.26(0.52) 3.38(0.48) 3.67(0.53) 3.65(0.57) 2.73(0.88) 2.82(1.11) 2.61(0.77) 2.79(0.68) 2.68(0.72) 2.78(0.58). 2 年生 n=93. 3.24(0.44) 3.33(0.55) 3.35(0.37) 3.26(0.60) 3.75(0.45) 3.81(0.59) 3.00(0.66) 2.81(0.79) 2.94(0.65) 2.75(0.76) 2.78(0.45) 2.80(0.49). 3 年生 n=41. 3.29(0.57) 3.29(0.67) 3.37(0.53) 3.38(0.51) 3.75(0.65) 3.68(0.56) 2.89(0.89) 2.59(0.65) 2.73(0.74) 2.69(0.56) 2.93(0.71) 2.79(0.39). 4 年生 n=36. **. **. *. 16.18 28.16 05.06. 1.35. 1.03. 1.83. 0.52. 0.04. 0.26. 1.52. 0.60 **. 0.27. 0.96 20.46. 12.04. 1.03. 2.19. 性別. **. 学年 **. 14.44. 国. 国× 学年. *. 国× 性別. 1次. べての下位因子と進路選択意識・行動において,. 3.38(0.66) 3.54(0.67) 期待に沿う努力 3.45(0.61) 3.56(0.63) 人からよく 3.88(0.62) 思われたい欲求 3.96(0.53) 自己抑制 3.11(0.66) 3.20(0.80) 自己不全感 3.09(0.76) 3.16(0.62) 進路選択意識・ 2.82(0.73) 行動 2.86(0.71) Note1: 上段:男性 ,下段:女性 Note2: * : p<.05,** : p<.01. 過剰適応と進路選択意識・行動との関係(結果 1 ). 1 年生 n=108. 性別における差異はなかったことが示された。そ. 4 年生 n=30. 以上のことから,本研究の対象者には,学年と. 3 年生 n=86. 日本人大学生の得点は中国人大学生より有意に高. 過剰適応 他者配慮. とに全体のデータを処理して分析を行う。 2次 学年× 性別. 交互作用. =5.10,p<.05),日本の女子大学生の得点は男子. 2 年生 n=92. かった(Table 1) 。. 主効果(F 値). 果,国の主効果のみに確認された。過剰適応のす. 中国. 見られなかった。単純主効果の検定を行った結. 日本. より高かったが,中国の男女大学生との間に差が. 1 年生 n=99. のため,以降では学年と性別に関わりなく,国ご. Table 1 各尺度における国ごとの各学年の平均値(標準偏差)と 2 要因分散分析の結果. 任 玉洁:大学生における過剰適応が進路選択に与える影響――日中比較研究――. 67.
(8) 68. 青年心理学研究 第32巻 第 2 号. ᮇᚅ䛻ἢ䛖ດຊ㻌. ⪅㓄៖㻌. ே䛛䜙䜘䛟ᛮ䜟䜜䛯䛔ḧồ㻌. ⮬ᕫᢚไ. ⮬ᕫឤ. .75***. .42***. .67***. .44***. .51***. .70***. .68***. .52***. .52***. .70***. .25** .35** እⓗ㐺ᛂ䛾㐣㻌. ෆⓗ㐺ᛂ䛾పୗ㻌. .21**. -.23**. .25**. -.17**. Noteˍ:к⇥˖ᰕᵜˈл⇥˖ѝഭ. 㐍㊰㑅ᢥព㆑䞉⾜ື㻌. Noteˎ: **: p<.01ˈ***: p<.001 Figure 1. 過剰適応が進路選択に与える影響の日中比較モデル. を及ぼすことが明らかになった。しかし,日中の. クラスターの特徴を把握するため,「外的適応. 大学生の間で,影響の差異は見られなかった。そ. の過剰」と「内的適応の低下」の得点を用いて,. こで,以下の 2 点を目的として,「外的適応の過. 国ごとに分散分析を行った(Table 2)。その結果,. 剰」と「内的適応の低下」の組み合わせパターン. 日中いずれも「外的適応の過剰」と「内的適応の. が進路選択意識・行動に与える影響を検討した。. 低下」の得点に群間の差が見られた(「外的適応. 第一に,過剰適応の特徴が進路選択意識・行動に. の過剰」:日本:F(3, 304)=112.98,p<.001;. 与える影響をより詳細に捉えるためである。第二. 中国:F(3, 274)=127.16,p<.001;「内的適応. に,日中の大学生の過剰適応が進路選択意識・行. の 低 下 」 日 本:F(3, 304)=261.04,p<.001;. 動に与える影響の相違点を詳しく検討するためで. 中 国:F(3, 274)=146.52,p<.001)。Tukey 法. ある。. による多重比較の結果,各得点の群間の差は 5 %. 「外的適応の過剰」と「内的適応の低下」の組. ∼0.1%水準で有意であった。. み合わせパターンを明らかにするため,クラス. 以上のクラスター分析と分散分析の結果を踏ま. ター分析を行った。また,Table 1に示したよう. え,各クラスターに対して,以下のように解釈・. に,過剰適応の得点では,日中の大学生の間に有. 命名した。日本人大学生の場合,クラスター 1 は,. 意な差が見られたため,日中それぞれクラスター. 「外的適応の過剰」と「内的適応の低下」の得点. 分析を行った。そのうち,「外的適応の過剰」に. がいずれも平均に近いため,「過剰適応平均群」. 所属する18項目の合計と,「内的適応の低下」に. と命名した。クラスター 2 はいずれの得点も低い. 所属する13項目の合計を得点として投入した。得. 群であった。この群は過剰適応の 2 側面の特徴が. 点が高いほど,「外的適応の過剰」と「内的適応. いずれも目立たないため,「過剰適応微弱群」と. の低下」の状態が顕著である。K-means 法により,. 命名した。クラスター 3 は「外的適応の過剰」の. 抽出するクラスターを 2 から 7 まで 1 つずつ増や. 得点は低く,「内的適応の低下」の得点は高い群. して分析を行った。その結果,解釈可能性や適合. であった。この群は過剰適応の 2 側面の特徴と一. 度の観点を踏まえ,日中いずれも以下の 4 クラス. 致しておらず,「過剰適応微弱群」とも異なって. ターの類型化を採用した(Figure 2,Figure 3)。. いる。この群の人は周りからの期待を気にしない.
(9) 69. 任 玉洁:大学生における過剰適応が進路選択に与える影響――日中比較研究―― 1.5. 1.5. 1 0.5 0. 1. 2. 3. እⓗ㐺ᛂࡢ㐣. 1. እⓗ㐺ᛂࡢ㐣. ෆⓗ㐺ᛂࡢపୗ. 0.5. ෆⓗ㐺ᛂࡢపୗ. 0. 4. -0.5 -1 -1.5. 1. 2. 3. 4. -0.5 -1 㐣㐺ᛂ ᖹᆒ⩌. 㐣㐺ᛂ ᚤᙅ⩌. ⮬ᕫෆ㛢㙐⩌. 㐣㐺ᛂ 㢧ⴭ⩌. -1.5. Note1䠖ᩘ್䛿 z ᚓⅬ䛷♧䛧䛶䛒䜛 Note2䠖Tukeyἲ䛻䜘䜛ከ㔜ẚ㍑䛾⤖ᯝ䠈ᚓⅬ䛾⩌㛫ᕪ䛿௨ୗ䛻䛚䛔䛶䠈1䠂ࠥ5䠂Ỉ‽䛷᭷ព 䛷䛒䛳䛯䚹እⓗ㐺ᛂ䛾㐣䠖4䠚1䠚2䠚3 䠗ෆⓗ㐺ᛂ䛾పୗ䠖4䠚3䠚1䠚2. 㐣㐺ᛂ ᖹᆒ⩌. 㐣㐺ᛂ ᚤᙅ⩌. ෆⓗ㐺ᛂ⩌. 㐣㐺ᛂ 㢧ⴭ⩌. Note1䠖ᩘ್䛿 z ᚓⅬ䛷♧䛧䛶䛒䜛 Note2䠖Tukeyἲ䛻䜘䜛ከ㔜ẚ㍑䛾⤖ᯝ䠈ᚓⅬ䛾⩌㛫ᕪ䛿௨ୗ䛻䛚䛔䛶䠈1䠂ࠥ5䠂Ỉ‽䛷᭷ព 䛷䛒䛳䛯䚹እⓗ㐺ᛂ䛾㐣䠖4䠚1䠚3䠚2 䠗ෆⓗ㐺ᛂ䛾పୗ䠖3䠚4䠚1䠚2. Figure 2. 各クラスターの特徴(日本). Figure 3. 各クラスターの特徴(中国). Table 2 各群における過剰適応の各下位因子の平均値(標準偏差)と分散分析の結果. 日本 中国. 1. 2. 3. 4. 外的適応の過剰. 3.88(0.32). 3.33(0.51). 3.14(0.32). 4.19(0.35). 112.98. F値 ***. 4>1>2>3. 多重比較. 内的適応の低下. 3.08(0.34). 2.28(0.36). 3.49(0.41). 4.00(0.36). 261.04. ***. 4>3>1>2. 外的適応の過剰. 3.62(0.45). 2.72(0.43). 3.22(0.52). 4.02(0.48). 127.16. ***. 4>1>3>2. 内的適応の低下. 2.37(0.40). 1.96(0.39). 3.48(0.42). 3.35(0.38). 146.52. ***. 3>4>1>2. Note1: *** : p<.001 Note2: 1:過剰適応平均群; 2:過剰適応微弱群; Note2: 3:日本:自己内閉鎖群;中国:内的不適応群; 4:過剰適応顕著群. と同時に,自分の主張も他者に伝えられないタイ. 討するため,χ 検定を行った。その結果,有意. プと推測されるため,「自己内閉鎖群」と命名し. な 偏 り が 見 ら れ た(χ =18.163,df= 3 ,p. た。クラスター 4 は「外的適応の過剰」と「内的. <.001)。「過剰適応平均群」において,日本人大. 適応の低下」の得点がいずれも高く,過剰適応の. 学生のほうが多かった(期待度数:83.6;実測度. 状態が著しいと考えられるため,「過剰適応顕著. 数:106)。一方,「過剰適応顕著群」において,. 群」と命名した。. 中 国 人 大 学 生 の ほ う が 多 か っ た( 期 待 度 数:. 中国人大学生の場合,クラスター 1 は日本人大. 59.3;実測度数:69)。. 学生と同様に,「外的適応の過剰」と「内的適応. 最後に,国とこれらのクラスター群を独立変. の低下」の得点がいずれも平均に近いため,「過. 数,進路選択意識・行動の得点を従属変数とし. 剰適応平均群」と命名した。クラスター 2 も日本. て,国( 2 )×クラスター( 4 )の 2 要因分散分. 人大学生と同様に,いずれの得点も低いため, 「過. 析を行った(Table 3)。その結果,国と群の交互. 剰適応微弱群」と命名した。クラスター 3 は,日. 作用が見られた(F(3, 578)=5.49,p<.01) (Figure. 本人大学生と異なり,「外的適応の過剰」の得点. 4)。また,単純主効果の検定を行い,以下の結果. 2. 2. は平均に近いが,「内的適応の低下」の得点は平. が得られた。第一に,日本人大学生における,群. 均より高い群であった。この群の人は「内的適応. の単純主効果が有意であり(F(3, 578)=7.41,. の低下」という状態が非常に目立つため,「内的. p<.001),「過剰適応微弱群」は他の 3 群より,. 不適応群」と命名した。クラスター 4 は日本人大. 進路選択意識・行動の得点が有意に高かった。第. 学生と同様に,「外的適応の過剰」と「内的適応. 二に,中国人大学生における,群の単純主効果も. の低下」の得点がいずれも高いため,「過剰適応. 有意であり(F(3, 578)=3.73,p<.05),「過剰. 顕著群」と命名した。. 適応顕著群」と「過剰適応平均群」は他の 2 群よ. さらに,国とクラスターごとの人数の相違を検. り,進路選択意識・行動の得点が有意に高かっ.
(10) 70. 青年心理学研究 第32巻 第 2 号 Table 3 国,群ごとの進路選択意識・行動の平均値(標準偏差)と 2 要因分散分析の結果 国 群. 進路選択 意識・行動. 日本 1 n=106. 2 n=72. 中国. 3 n=74. 4 n=56. 2.85 3.21 2.60 2.73 (0.68) (0.61) (0.69) (0.68). 1 n=53. 2 n=72. 3 n=84. 4 n=69. 2.82 2.67 2.60 2.84 (0.60) (0.60) (0.58) (0.58). 主効果 (F 値) 国 3.08. 交互作用. 群 5.75. **. 5.49. **. Note1 : ** : p<.01 ,*** : p<.001 Note2: 1:過剰適応平均群; 2:過剰適応微弱群; Note2: 3:日本:自己内閉鎖群;中国:内的不適応群; 4:過剰適応顕著群. 3.50. ᪥ᮏ ୰ᅜ. 3.00
(11) 2.50 1. 2. 3. 4. 1RWH㸸㐣㐺ᛂᖹᆒ⩌㸹 㸸㐣㐺ᛂᚤᙅ⩌㸹 㸸᪥ᮏ㸸⮬ᕫෆ㛢㙐⩌㸹୰ᅜ㸸ෆⓗ㐺ᛂ⩌㸹. 㸸㐣㐺ᛂ㢧ⴭ⩌. Figure 4. 進路選択意識・行動に対する群と国の交互作用. た。第三に,「過剰適応微弱群」における国の単. 第二の目的は日中の大学生における過剰適応が. 純 主 効 果 が 有 意 で あ り(F(1, 578)=10.98,p. 進路選択に及ぼす影響の差異を明らかにすること. <.001),中国人大学生よりも,日本人大学生の. であった。結果 2 では,日本人大学生の場合, 「外. 進路選択意識・行動の得点が有意に高かった。. 的適応の過剰」と「内的適応の低下」の得点がい ずれも低い「過剰適応微弱群」は,他の 3 群より. 考 察. 進路選択意識・行動の得点が有意に高かった。一 方で,「外的適応の過剰」の得点が低い「自己内. 以上の結果 1 と結果 2 によって,本研究におけ. 閉鎖群」と, 「外的適応の過剰」の得点が高い「過. るすべての予想が検証されたことがわかった。以. 剰適応顕著群」との間には差が見られなかった。. 下にはこの 2 つの結果に対応した目的と仮説に対. そのため,個人の内的適応が得られることは日本. して,それぞれ考察を行っていく。. 人大学生の進路選択に重要な役割を果たすことが. 本研究の第一の目的は,日中の大学生の過剰適. 示唆された。それに対して,中国人大学生の場合,. 応が進路選択に与える影響を検討することであっ. 「外的適応の過剰」と「内的適応の低下」の得点. た。結果 1 では,日本と中国の大学生においてい. がいずれも高い「過剰適応顕著群」と,両方の得. ずれも「外的適応の過剰」が進路選択意識・行動. 点が平均に近い「過剰適応平均群」の進路選択意. を促進し,「内的適応の低下」は進路選択意識・. 識・行動の得点は,「外的適応の過剰」の得点が. 行動を妨げることが示された。そのため,仮説 1. 低い「過剰適応微弱群」や「内的不適応群」より. と仮説 2 が支持された。. 有意に高かった。そのため,外的適応が得られれ.
(12) 任 玉洁:大学生における過剰適応が進路選択に与える影響――日中比較研究――. 71. ば,内的適応の状態が低くても,進路選択を活発. る自己効力との間に高い相関があり,自尊感情が. に行えることが中国人大学生にとって可能である. 高まることによって,進路選択に対する自己効力. と推測された。さらに「過剰適応微弱群」では,. も高まる。また,進路選択に対する自己効力が進. 日本人大学生の進路選択意識・行動の得点が中国. 路選択行動を促進することが先行研究ではよく指. 人大学生より高かったという結果も以上の推測を. 摘されている(浦上,1995;冨安,1997;富永,. 支持し,内的適応が得られる日本人大学生は,外. 2010, 安 達,2001; 沈,2009; 李,2013な ど )。. 的適応が多く得られていない中国人大学生より進. そのため,インターンシップ体験やキャリアガイ. 路選択意識・行動が積極的である。以上のことか. ダンスによって,自己効力感を増大させる対策が. ら,結果 2 は仮説 3 と仮説 4 を支持したと言え. 各学校段階において始められている(城,2007;. る。以下では, 2 つの結果に応じて,過剰適応と. 下村,2007)。以上のことから,自信がない,自. 進路選択との関係と,日中の大学生の差異に関し. 分のよくないところばかり気になるなど自尊感情. て考察を行った。. の低さが反映される自己不全感は進路選択にネガ ティブな影響を及ぼすと考えられる。その点も結. 過剰適応が進路選択に与える影響. 果 1 で検証され,日中の大学生いずれも,自己不. 結果 1 から,過剰適応が大学生の進路選択を促. 全感が内包される「内的適応の低下」の得点が高. 進するか,妨げるか単純には言えないことが明ら. いほど,進路選択意識・行動が消極的であると示. かになった。過剰な外的適応は個人にとって,あ. された。. る程度のポジティブな影響があると考えられる。 その点について,益子(2009)は過剰適応者が他. 日中大学生の相違点の検討. 者からの承認を得ることで,心理的適応感を補償. 結果 2 から,日中の大学生の過剰適応が進路選. している可能性があると指摘した。親や教師の期. 択に与える影響の差異が明らかになった。個人の. 待に応えることで,外的適応感を高め,進路選択. 内的適応が得られることは日本人大学生の進路選. も順調に進めると指摘されている(蒋,2015;梁,. 択に影響を与える重要な要因であり,対人環境の. 2016)。さらに,家族,友人など身近な他者を始. 中で得られる適応が中国人大学生の進路選択にお. め,多くの人,様々な価値観に接触することは大. ける主要な要因であることが新たに確認された。. 学生の進路選択に役立つ貴重な経験であると言わ. さらに,国×クラスターの人数の偏りによって,. れている(小杉,2007)。そのため,外の期待や. 過剰適応傾向の高さによる人数の分布には,日中. 要求に応えたり,他者の意見を積極的に参考にし. 間の差異もあることが示唆された。過剰適応の傾. たりすることは進路選択にポジティブな影響を与. 向が一定程度あり,日常生活において,相手の気. えると考えられる。これは本研究における結果 1. 持ちを考えて行動する日本人大学生が多くいると. の結論とも合致し,日中の大学生いずれも「外的. 推測できる。それに対して,過剰適応の傾向が顕. 適応の過剰」の得点が高いほど,進路選択意識・. 著にみられ,周囲にいる人の顔色や気持ちをよく. 行動が積極的であった。. 考慮し,相手のために自分の欲求を無理やり抑制. 一方,内的適応が低下していると,ストレス反. する中国人大学生が多くいると示唆された。. 応 や 不 適 応 が 蓄 積 さ れ て い く( 石 津・ 安 保,. 以上の差異が生じる原因の 1 つとして,日常生. 2008;益子,2009)。特に自信のなさや自尊感情. 活における対人関係の親密さや幅広さに関して,. の低さなどを表す「自己不全感」は不適応に影響. 日中の大学生には相違点があると考えられる。. すると考えられ,過剰適応の不適応性を決定する. 親子関係から見ると,日中の大学生との間に差. 因子であると言われている(益子,2009)。長谷. 異がある。例えば,日本の現代青年の親子関係は. 川(1999)によれば,自尊感情は進路選択に対す. かつて想定されていたような険悪な関係ではな.
(13) 72. 青年心理学研究 第32巻 第 2 号. く,むしろ対立の無い,良好な親子関係が見られ. よって多彩な経験を積み,付き合いや視野を広. ることが示されている(白井,1997) 。特に2000. め,自分のスキルも高められると考えられる。. 年代以降,権威を振りかざすよりも,子どものこ. 以上の先行研究から,ゆとりがある親子関係や. とを理解し,尊重しようと努める方が,多くの親. (白井,1997;榎本,2012),互いの領分を侵さず. たちの目指す親としてのあり方となっている。. 友人関係を持ち(和田,1999;岡田,2010),多. (榎本,2012)。それに対して,子どものことを優. 彩な日常生活を送っている日本人大学生は,自分. 先するという親の養育態度が中国の一人っ子の家. の居場所をうまく見つけることができ,心理的な. 庭教育においてよく指摘されている(侯,2002)。. 安定や満足など内的適応を重んじる傾向が高いと. つい子どもに対する期待度が高くなり,支配的な. 考えられる。そのため,内的適応の状態は日本人. 養育態度になる親も少なくない。『中国青年报』. 大学生の進路選択に強く影響を与え,内的適応が. における2002名の中国人青年を対象とする調査の. 得られる人は,進路選択行動も積極的であると考. 結果によると,84.9%の人が親からの考えややり. えられる。. 方を押し付けられたことがあると回答していた. それに対して,依存性や親密性の高い親子関. (孙,2018)。子ども側から見ると,家庭の中に自. 係,友人関係を維持しつつ(高木・黄,1994;候,. 分以外の子どもはおらず,大人ばかりの中で育て. 2002;王,2009),アルバイトをせず,勉強を中. られたため,親との関係は非常に重要なものにな. 心とした単一な生活を過ごす中国人大学生は,周. る。そのため,中国の青年の親子関係は日本の青. 囲にいる重要な他者から強く影響を受けているた. 年よりも密接であり,親からの精神的独立性が低. め,過剰適応傾向が高い人は多くいると推測でき. いと指摘されている(高木・黄,1994)。. る。さらに,親の要求や,友人の意見をよく参考. 友人関係から見ても,日中の大学生との間にも. にして,進路選択をすることが少なくないと考え. 差異がある。日本人大学生の居住状態に関する調. られる。例えば, 4 割以上の中国人大学生が親の. 査によると,学生寮を利用する人は5.5%しかい. 要求に従って,職業や勤務地を決めていた(孙,. ない(独立行政法人日本学生支援機構,2014)。. 2018)。また,進学を決めた中国人大学生には,. 一方,中国人大学生のほとんどは入学してから卒. 友人や大学の先生の意見はとても重要であると思. 業するまで大学構内の寮に住み, 4 ∼ 8 名の人と. う人が約 7 割を占めていた(童・丁・陈,2019)。. 共に大学生活を送る。そのため,円滑な関係や,. そのため,外の環境から得られた適応は中国人大. 表面的な関係を志向し,希薄化していると言われ. 学生の進路選択に強く影響を与え,外的適応が得. ている日本人大学生の友人関係(和田,1990;岡. られれば,内的適応の状態が低くても,進路選択. 田,2010)と比べ,中国人大学生は友人を家族の. を活発に行えると考えられる。. 次に大切な存在だと認め,親密的,情緒的な友人 関係を求めていると指摘されている(王,2009)。. 限界と今後の課題. 最後に,日常生活上の人間関係の幅広さにおい. 本研究は今後解決すべきいくつかの課題を含ん. ても,日中の大学生との間に差異が見られる。就. でいる。第一に,本研究では,バックトランス. 職みらい研究所による大学生の実態調査(2016). レーションを通して,中国語に翻訳した項目内容. によると,73.7%の日本人大学生がアルバイトを. の適切さを確認した上,日中の大学生の過剰適応. している。一方,中国ではアルバイトをしている. が進路選択に与える影響と,その影響の相違点を. 大学生は21.0%に止まり,その内,夏休みや冬休. 明らかにした。前節で述べたように,日中の大学. みのみにアルバイトをする大学生が多い(青团. 生の対人関係における差異があると示された。今. 社・浙江大学,2016)。このことから,中国人大. 後は,インタビュー調査や自由記述など多様な手. 学生と異なり,日本人大学生の方はアルバイトに. 法を用いて,中国人大学生の親子関係や友人関係.
(14) 任 玉洁:大学生における過剰適応が進路選択に与える影響――日中比較研究――. 73. などの対人関係上の諸要因を含めて検討し,過剰. 年度学生生活調査 独立行政法人日本学生支. 適応の実態を把握することで,大学生の過剰適応. 援 機 構(JASSO)Retrieved from https://. に関する日中比較研究を深く進めていくことが求. www.jasso.go.jp/about/statistics/gakusei_. められる。. chosa/__icsFiles/afieldfile/2017/06/16/. 第二に,調査を行った授業,学校の都合によっ て, 1 , 2 年生が多かった。各尺度において,学 年の差異は見られなかったが,日中いずれも,進. data14_all.pdf(2019年11月20日) 榎本博明(2012).青年心理学(おうふう心理ラ イブラリー)おうふう. 路について真剣に考えたり,就きたい職業を調べ. 藤元慎太郎・吉良安之(2014).青年期における. たりするのは 3 , 4 年生であろう。そこで,今後. 過剰適応と自尊感情の研究 九州大学大学院. は 3 , 4 年生を中心に調査することによって,よ. 人間環境学研究院紀要,15,19-28.. り精緻に大学生の進路選択意識・行動を検討して. 舩津 愛(2010).青年期過剰適応に関する一考. いくことが求められる。. 察――尺度の再検討とストレスコンピングと. 第三に,本研究では過剰適応を異常な適応とし. の関連―― 日本青年心理学会大会発表論文. て捉えているため,質的な観点から, 「内的適応. 集,18,30-33.. の低下」の得点が低い場合を,内的適応が良好で あり,「外的適応の過剰」の得点が低い場合を, 外的適応が良好であると想定している。しかし, 量的な観点から考えると,「内的適応の低下」に 関する質問を「全くあてはまらない」と回答した 人のうちに,内的適応が非常に高い,あるいは過 剰になる可能性は否定できない。同様に,「外的. 後藤明梨・伊田勝憲(2013).大学生における過 剰適応と居場所感の関連 北海道教育大学釧 路校研究紀要,45,9-16. 郭 利(2017).太乖的孩子很“危险”.女子世界, 9 ,19. 長谷川龍彦(1999).中学生の自尊感情と進路選 択能力の関連 進路指導研究,19,35-43.. 適応の過剰」の得点が低い人のうちに,外的適応. 侯 桂芳(2002).中国における一人っ子青年の. が非常に低い可能性もある。このような状態は過. 性格特性と認知された親の養育態度 性格心. 剰適応の量的に正反対になり,不適応の可能性も. 理学研究,10,85-97.. 考えられる。そこで,適応状態を測定する尺度を. 侯 静・陈 会昌・陈 欣银(2005).中国家庭. 合わせて使用し,大学生の適応状態をより明確に. 中的亲子互动行为与儿童行为抑制性的发展 . 把握した上で,大学生の過剰適応あるいは適応状. 心理科学,28,820-825.. 態が進路選択に与える影響を検討することは,今 後の課題として研究を進めていきたい。. 石津 憲一 郎(2006) . 過剰 適応尺 度作成 の試 み 日本カウンセリング学会第39回大会発表論文 集,137.. 引用文献. 石津憲一郎・安保英勇(2008).中学生の過剰適 応が学校適応感とストレス反応に与える影響 . 安達智子(2001).大学生の進路発達過程――社 会・認知的進路理論からの検討―― 教育心 理学研究,49,326-336.. 教育心理学研究,56,23-31. 石津憲一郎・安保英勇(2009).中学生の過剰適 応と学校適応の包括的なプロセスに関する研. Aurel, I. C (2014). School achievement, personality. 究――個人内要因としての気質と環境要因と. and interest at gymnasium and college levels.. しての養育態度の影響の観点から―― 教育. Procedia – Social and Behavioral Science, 187,. 心理学研究,57,442−453.. 364-368. 独立行政法人日本学生支援機構(2014).平成26. 蒋 海彬(2015).大学生就业期望及影响措施分 析 辽宁工业大学学报(社会科学版),17,.
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