2021年,104–113 1)本研究は、第1著者の所属機関における倫理委員会の承 認を得て実施された(承認番号: 筑29-87)。 2)現所属は沖縄国際大学総合文化学部である。 3)現所属は白鷗大学教育学部である。
[資料論文]
マインドワンダリングの内容と創造性および精神的健康との関連
1)山 岡 明 奈
2)(筑波大学大学院人間総合科学研究科)湯 川 進太郎
3)(筑波大学人間系)Revealing the feature of mind wandering as related to creativity and mental health
Akina YAMAOKA (Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba) Shintaro YUKAWA (Faculty of Human Sciences, University of Tsukuba)
Previous research has shown that mind wandering improves creativity while it may simultaneously lead to mental illness. However, it has also been shown that some kinds of mind wandering are not related to negative mood or mental illness, and such mind wandering seems to improve creativity while maintaining good mental health. Therefore, our study examined what kinds of mind wandering are generated in highly creative people with a high level of mental health, focusing on daily life. Seventy-eight undergraduate and graduate students participated in the study. We measured indicators of creativity and mental health in the experiment room and measured the situation and features of mind wandering using an experience sampling method over three days. Results showed that highly creative people with a high level of mental health do not think much about social-related and future-related thought. In the future, we need to examine whether evoking MW that does not include things about others actually enhances creativity without inhibiting mental health.
Key words:mind wandering, creativity, mental health, experience sampling method キーワード:マインドワンダリング、創造性、精神的健康、経験サンプリング法 問 題 人生100年時代を迎えた現代社会を豊かに生き抜くた めには、多様な人々と協働しながら新たなモノやサー ビスを生み出すなど、一人ひとりが創造性を発揮して いくことが求められている(文部科学省,2018)。こ のような中、創造的な問題解決に行き詰まった後の期 間であるあたため期に、マインドワンダリング(mind wandering; 以下MWとする)を行うことで、その解 決が増進される可能性が複数の研究で示されている (Baird, Smallwood, Mrazek, Kam, Franklin, & Schooler,
2012; Tan, Zou, Chen, & Luo, 2015; 山岡・湯川,2016)。
MWとは、現在行っている課題や外界の環境から注
意がそれて関係のないことを考える現象である(
Small-wood & Schooler, 2015)。2006年頃からMWに関する 研 究 が 急 増 し た が(Callard, Smallwood, Golchert, & Margulies, 2013)、近年では、課題に無関連である思考 (task-unrelated thought)、刺激に独立な思考(
stimulus-independent thought)、課題に無関連でかつ刺激に独立 で あ る思 考(stimulus-independent and task-unrelated thought)、 非 意 図 的 な 思 考(unintentional thought)、 とりとめのない思考(meandering, unguided thought)
など、厳密には定義が異なるこれらの思考をMWに含
めるか否かで研究者間の意見が対立していた。このよう な中、Seli, Kane, Smallwood, Schacter, Maillet, Schooler, & Smilek(2018) は、MWは こ れ ら の思 考 を 包 括 す る概念であるという枠組みを提唱し、個々の研究にて MWのどの側面(どの思考)を扱っているのかを明示 することの重要性を主張した。以下でレビューするよう に、MWは創造性との関連が示される一方、精神的健 康とも正の関連や負の関連が示されている。これらの 結果はMWの異なる側面を反映している可能性があり、 MWのどういった側面と創造性や精神的健康が関連す るか検討の必要がある。 先に述べた通り、先行研究において、あたため期に MWを行うことで創造的な問題解決が増進されること
が示されているが(Baird et al., 2012; Tan et al., 2015;
山岡・湯川,2016)、特性的な創造性の高さとMWの
関連についても複数の先行研究で検討されており、日
頃MWを頻繁に行っている人ほど、創造性が高いこと
が示されている(Agnoli, Vanucci, Pelagatti, & Corazza, DOI: http://dx.doi.org/10.14966/jssp.1929
2018; Baird et al., 2012; Fox & Beaty, 2019; Preiss, Cos-melli, Grau, & Ortiz, 2016; Zedelius & Schooler, 2015)。
活性化拡散仮説に従うと、日頃からMWを頻繁に行う
人は、脳内の多様な情報が活性化しやすく、より多く の情報を手がかりとして利用できるために高い創造性 を発揮できると考えられる(Baird et al., 2012; Yaniv & Meyer, 1987)。また、MWを行うと、デフォルト・モー ド・ネットワークと、実行制御ネットワークが共同し て活 性 化 す る こ と や(Christoff, Gordon, Smallwood, Smith, & Schooler, 2009; Fox, Spreng, Ellamil, Andrews-Hanna, & Christoff, 2015; Golchert, Smallwood, Jefferies, Seli, Huntenburg, Liem, Lauckner, Oligschläger, Bernhardt, Villringer, & Margulies, 2017; Smallwood, Brown, Baird, & Schooler, 2012)、この2つのネットワー クの共同は高い創造性をもたらすことが報告されている (e.g., Beaty, Benedek, Kaufman, & Silvia, 2015)。これら の知見を踏まえると、特性的な創造性の高さを支える一 因としてMW傾向の高さが考えられ、創造性が高い人 が行っているようなMWをあたため期に行えば、より 効果的に創造的な問題解決が増進される可能性がある。 しかしながら、MWは創造性と正の関連が示されてい ると同時に、精神的不健康さをもたらす可能性も指摘さ れている。例えばMWを頻繁に行うことでネガティブ
気分が高くなることや(Killingsworth & Gilbert, 2010)、 持続することが報告されている(Stawarczyk, Majerus, & D’Argembeau, 2013)。また、反対にネガティブ気分 を喚 起 す る こ と でMWが頻 繁 に生じること(Poerio, Totterdell, & Miles, 2013; Smallwood, Fitzgerald, Miles, & Phillips, 2009; Smallwood & O’ Connor, 2011; Stawarc-zyk et al., 2013)も報告されていることから、Ottaviani, Shahabi, Tarvainen, Cook, Abrams, & Shapiro (2015)
は、MWの生起頻度と、ネガティブ気分や抑うつが双 方向的な因果関係にあることを指摘した。したがって、 MWを行うことで、創造的な問題解決が増進されると 同時に、ネガティブ気分が喚起されたり、精神的不健康 さが悪化してしまう可能性が考えられる。 一方で、近年の研究ではすべてのMWが精神的不健 康さと関連する訳ではないことが示されている。Ruby,
Smallwood, Engen, & Singer(2013)は、MW中にネガ ティブなことや、過去・他者に関することを考えてい る時はネガティブ気分と関連するが、ポジティブなこと や自己・未来のことを考えている時は、ポジティブ気分 と関連することを示した。また、大うつ病患者は健常 群よりも特にネガティブな内容や、過去、自己に関連 したMWが多いという特徴があることや(Hoffmann,
Banzhaf, Kanske, Bermpohl, & Singer, 2016)、 興 味 の
あること、有用なことに関するMWはポジティブ気分
と関連することが報告されている(Franklin, Mrazek,
Anderson, Smallwood, Kingstone, & Schooler, 2013)。
さらに、MWの生起頻度も、ネガティブ気分との正
の関 連 を 示 し た 研 究 も あ れ ば(Franklin et al., 2013; Killingsworth & Gilbert, 2010)、むしろポジティブ気分
と関連することを示した研究もあり(Welz, Reinhard,
Alpers, & Kuehner, 2018)、 知 見 が 割 れ て い る。 し た
がって、必ずしもすべてのMWが不適応的なものでは なく、その思考内容や気づきの有無などによっては、ネ ガティブ気分や精神的不健康さと関連していない可能性 が考えられる。 以上の知見から、精神的不健康さと関連していないよ うなMWであれば、ネガティブ気分を喚起したり、精 神的健康を悪化させずに、創造的な問題解決を増進す ると考えられる(山岡・湯川,2019)。そこで本研究で は、精神的不健康さと関連せず、創造的な問題解決を増 進するようなMWを特定するために、特性的に創造性 が高く精神的に健康な人が行っているMWを明らかに することを目的とする。 創造性が高く精神的に健康な人がどのようなMWを 行っているかについては、唯一、山岡・湯川(2019) にて検討が行われている。この研究では、MWの特徴 を従属変数、創造性や抑うつ傾向などの個人特性を独立 変数とした階層線形モデルで分析を行っており、創造性 が高く抑うつ傾向が低い人は、過去に関するMWをあ まり行っていないという結果が示されている。しかし、 山岡・湯川(2019)は、実験室内での検討にとどまっ ており、より日常生活に近い状態での検討が必要だと考 えられる。したがって本研究では、経験サンプリング法 を用いて、日常生活中のMWを測定することとし、「今 行っていることと関係のないことを考えていた」(課題 無関連思考をしていた)場合に、MWをしていたと操 作的に定義することとする。 ま た、 先 行 研 究(山 岡・ 湯 川,2019) で は、 日 頃 のMW傾向をDaydreaming Frequency Scale( Giam-bra, 1993)で測定して、統制変数として分析に用いてい るが、本研究では、創造性が高く精神的に健康な人の日
頃のMW傾向(MWのし易さ)についても検討するこ
ととし、MW傾向を従属変数の1つとして扱う。なお、
Daydreaming Frequency Scale(Giambra, 1993)は、経 験サンプリングで測定した「今行っていることと関係の ない思考」(課題無関連思考)だけではなく、特定の課 題がない時に思考をする(自発的思考)傾向も測定して いる点には注意が必要である。 さらに、同先行研究では、MW傾向に加えてワー キングメモリ容量も統制変数として分析に用いられ て い る。 ワ ー キ ン グ メ モ リ 容 量 とMWの関 連 に つ い て は多くの研究で検討されてきたが、Rummel &
荷のかかる課題中においては、ワーキングメモリ容量 が小さいとMWが多く生起することが報告されている。 これはワーキングメモリ容量が小さいとMWを制御す ることができないために(思考制御の失敗)、MWが多 く生じるためだと考えられる。したがって創造性が高く 精神的に健康な人におけるワーキングメモリ容量の大き さを検討することで、MWの制御の失敗の生じ易さを 検討できると考えられることから、本研究では、ワーキ ングメモリ容量も統制変数ではなく、従属変数として分 析に用いることとする。 精神的健康の指標としては、MWとの関連が指摘 されており、主要な精神疾患の1つである抑うつの傾 向と、多くの精神疾患に見られる症状の1つである不 眠の傾向(内山・鈴木・今野・降籏・大嵜・金野・高 橋,2010)に着目した。本研究の参加者は一般大学生 であり、精神疾患を抱えている人は少ないと予想される ため、参加者にうつ病や不眠障害に関する自己評価尺度 に回答を求め、この得点が低いと精神的に健康な状態で あるとみなすこととする。 方 法 参加者 関東圏内の国立大学に所属する大学生および大学院生 78名(男性26名、女性52名、平均年齢20.38±2.26歳) が実験に参加した。 手続き 実験室に来室後、研究の目的、手続きの概要、参加の 自由、参加同意後の撤回の自由、個人情報の保護につい て十分な説明を行い、同意書への署名を求めた。 次に質問紙によって、参加者の創造性、抑うつ傾 向、 不 眠 傾 向、 日 頃 のMW傾 向 を 測 定 し た。 続 い て、ワーキングメモリ容量を測定するために、短縮版 Operation Span Task(以下、OSPANとする)と短縮版 Symmetry Span Task(以下、SSPANとする)を実施し た(Oswald, McAbee, Redick, & Hambrick, 2015)。 そ の後、経験サンプリング法に関する詳細な説明を行い 3日間の測定日を決めると共に、参加者IDを付与した。 不明点などがないことを確認し、実験謝礼として2,000 円分の金券を渡した。後日、決めた日程に従って3日間 の経験サンプリングを実施した。 なおこの研究は、著者の所属機関の倫理審査委員会の 承認を得た上で実施した。 質問紙の構成 創造性 創造性の指標には、典型的な拡散的思考
課 題 で あ るUnusual Uses Test(以 下UUTと す る: Guilford, 1967)の成績を用いた。参加者は、日常で使 う「モノ」の通常とは異なる使い方をできるだけ多く挙 げるよう求められた。例題には「レンガ」を出題し、本 題には「靴下」と「缶詰の缶」をランダムな順番で出題 した。回答時間は、例題が30秒、本題は各3分間とし た。 得 ら れ た 回 答 は 先 行 研 究(Guilford, 1967; 岩 崎, 1971; Silvia, Winterstein, Willse, Barona, Cram, Hess, Martinez, & Richard, 2008; Wallach & Kogan, 1965; 山
岡・湯川,2017)に基づき、流暢性、柔軟性、独自性 という三つの観点からそれぞれ採点された。流暢性は思 考の滑らかさを意味し、本研究では2刺激(靴下と缶詰 の缶)通しての平均回答数を流暢性得点の指標として用 いた(Guilford, 1967)。柔軟性は視点や発想の柔軟さを 意味し、本研究では2刺激通しての平均回答カテゴリー 数を柔軟性得点の指標として用いた(岩崎,1971)。例 えば「レンガ」であれば、「文鎮」と「漬物石」という 回答は、重りという1つのカテゴリーに分類されて1点 となるが、「文鎮」と「沸騰石」という回答は、異なる 2つのカテゴリーに分類されるため2点となる。カテゴ リーの分類は大学生2名(男性1名、女性1名)が行っ た。一致率として相関係数を算出したところ、「靴下」 はr=.80(p=.00)、「缶詰の缶」はr=.87(p=.00)で あった。独自性は発想の稀さを意味し、本研究では先 行 研 究(Chermahini, Hickendorff, & Hommel, 2012; Guilford, 1967)に従い、全参加者の全回答のうち、あ る回答の占める割合が5%未満ならば1点、1%未満なら ば2点を与え、刺激ごとに合計点を算出し、2刺激通し た平均値を独自性得点の指標として用いた。 流暢性、柔軟性、独自性間の相関係数を算出したとこ ろ、非常に高い正の相関を示したため(r=.87–.92)、こ れらを標準化して合成した得点を「創造性」の指標に用 いた。 抑 う つ 傾 向 抑 う つ 傾 向 を 測 定 す る た め にThe Center for Epidemiologic Studies Depression Scale (Radloff, 1977) の 日 本 語 版(島・ 鹿 野・ 北 村・ 浅 井,1985)を使用した(項目例: 普段はなんでもないこ とが煩わしい)。一般的な抑うつ傾向を測定するために、 教示文の一部を「日常生活におけるあなたのからだや 心の状態についてお聞き致します。」と変更し、「A: 全 くない」「B: 少しある」「C: かなりある」「D: よくある」 の4件法で回答を求めた(大谷,2004)。Aを0点、Bを 1点、Cを2点、Dを3点として、全20項目の回答の合 計点を抑うつ傾向の得点とした。本研究のデータで算出 したCronbachのα係数は.85であった。 不 眠 傾 向 不 眠 傾 向 を 測 定 す る た め にAthens Insomnia Scale(Soldatos, Dikeos, & Paparrigopou-los, 2000)の日本語版(Okajima, Nakajima, Kobayashi, & Inoue, 2013)を使用した(項目例: 夜間、睡眠途中
で目が覚める。回答選択肢例:0. 問題になる程のこと
いる、3. 深刻な状態、あるいは全く眠れなかった)。全 8項目について、0点から3点の4件法で回答を求めた。 全8項目の回答の合計点を算出し、これを不眠傾向の得 点とした。本研究のデータで算出したCronbachのα係 数は.63であった。 MW傾 向 日 頃 のMW傾 向 を 測 定 す る た め、 Daydreaming Frequency Scale(Giambra, 1993)の日本
語版(梶村・野村,2016)を使用した(項目例: 私は空 想することが…。回答選択肢例:A. ほとんどない、B. 週に一回ほどある、C. 一日に一回ほどある、D. 一日に 数回ある、E. 一日に何回もある)。全12項目に対して A–Eの5件法で回答を求めた。Aを0点、Bを1点、Cを 2点、Dを3点、Eを4点として、全12項目の回答の合 計点を日頃のMW傾向の得点とした。本研究のデータ で算出したCronbachのα係数は.91であった。 デモグラフィック変数 性別および年齢について回答 を求めた。 ワーキングメモリ測定課題 ワーキングメモリ容量を測定するために、実験用ソフ トウェアInquisit 4 Labを用いてOSPANとSSPANを実 施した(Oswald et al., 2015)。OSPANでは、参加者は
画面に提示される計算式(例:5×2−3)の暗算を行い、 その後に提示されたアルファベット1文字(「F」「K」 「P」「S」「H」「L」「Q」「T」「J」「N」「R」「Y」のいず れか)を記銘するよう求められた。そして計算式の暗算 とアルファベット1文字の記銘を、設定したスパンの回 数だけ繰り返した後、記銘したアルファベットをすべて 再生するよう求められた。SSPANでは、8×8の格子状 のマス目の一部を黒く塗った画像が提示され、参加者 は、黒いマス目の左右対称性判断と、4×4の格子状の マス目のうちの赤いマス目(1か所のみ)の場所を記銘 するよう求められた。そして左右対称性の判断と赤いマ ス目の場所の記銘を、設定されたスパンの回数だけ繰り 返した後、赤いマス目の場所をすべて再生するよう求め られた。山岡・湯川(2019)と同様に、OSPANではス パン4–7を2試行ずつ、SSPANではスパン3–5を2試行 ずつランダムな順番で行い、部分加点法によって採点し た(小林・大久保,2014; Oswald et al., 2015; Unsworth, Heitz, Schrock, & Engle, 2005)。OSPANの最大得点は 44点、SSPANの最 大 得 点24点 で あ っ た。OSPANと SSPANの得点を標準化し合計したものを、ワーキング メモリ容量の指標として分析に用いた。 経験サンプリング法 朝8時から夜10時の間に、1日8通のメールをランダ ムなタイミングで送信した。なお、メールを送る間隔 は少なくとも1時間以上設けた。参加者はメールを受信 してからできるだけ早く(5分以内に)本文中のURLか らGoogleフォームにアクセスし、直前の思考や状況に ついて回答するよう求められた。これを3日間連続して 行った。
質問項目の詳細 先行研究(Engert, Smallwood, & Singer, 2014; Hoffmann et al., 2016; Ruby et al., 2013; Rummel & Boywitt, 2014; 山岡・湯川,2019)の項目 (課題無関連、自然発生的、過去、現在、未来、自己、 他者、ポジティブ内容、ネガティブ内容、ポジティブ気 分、ネガティブ気分)に加え、どのような状況でサンプ リングされたかを確認するため、状況に関する問い(集 中、リラックス)を加えた。具体的な質問項目をTable 1に示した。手続きとしては、まずQ1「今行っている ことと関係のないことを考えていましたか」が提示さ れ、「はい」という選択肢を選んだ場合は、思考に関す る質問(Q2–Q9)と、現在行っていることの自由記述 (Q10)および現在の状況に関する質問(Q11–Q14)に 回答するよう求められた。「いいえ」を選択した場合は、 Q10–Q14のみに回答するよう求められた。なおQ2に 関しては「1: 意図的–9: 自然発生的」の9件法で回答を 求め、その他の項目は「1: 全くあてはまらない–9: 非常 によくあてはまる」の9件法で回答を求めた。 分析計画 本研究のMWの特徴や生起状況に関するデータは、 特 定 の 個 人(レ ベ ル2) に 対 し て 最 大24回(1日8回 ×3日間)の測定(レベル1)を繰り返し行っている ため、マルチレベルモデルの階層線形モデルを採用す る。本モデルでは、MWの特徴や生起状況に関する変 数の個人ごと(レベル2)の平均を、創造性や精神的健 康といった個人レベル(レベル2)の変数によって説明 する、平均に関する回帰モデル(Means-as-Outcome Regression)を採用した。 2 0 0 00 01 02 03 0 0 00 (0, Level 1 Level 2 ) ~ (0, ) ij j ij ij j j j j j j Y β r r N σ β γ γ γ γ u u N τ = + = + + + + 創造性 精神的健康 創造性 精神的健康 (式1) レベル1におけるYijは、個人jにおける時点iの経験 サンプリングで測定したMWの特徴や生起状況に関す る変数である。βはレベル1のモデルにおける切片、rは レベル1のモデルにおける残差、γはレベル2のモデル おける切片および回帰係数、uはレベル2のモデルにお ける残差である。なお、σ2はrijの分散、τ00はu0jの分散 である。レベル2における「精神的健康」には、抑うつ 傾向あるいは不眠傾向を投入した。また、本研究の目的 は創造性が高く精神的に健康な人に特有なMWを検討
することであるため「創造性×精神的健康」の交互作用 項を用いた。交互作用項が従属変数を有意に予測した場 合、創造性が高い場合における、精神的健康の高低の違 いによるMWの思考内容を検討するために、単純傾斜 分析では、創造性の平均値±1SDの各値における精神的 健康の効果を検討することとする。なおレベル2に投入 した変数はすべて全体平均で中心化した。 MW傾向とワーキングメモリ容量については階層的 なデータではないため、創造性と精神的健康、創造性× 精神的健康を独立変数、MW傾向とワーキングメモリ 容量をそれぞれ従属変数とした重回帰分析を行うことと する。 結 果 データの基礎的検討 経験サンプリング法によって1,140件のデータが回 収された(一人当たりの平均値は14.62件、標準偏差は 5.66であった)。このうち「Q1.今行っていることと関 係のないことを考えていましたか」に「はい」と回答 したデータ(424件、37.19%)をMW中とみなして分 析に用いた(一人当たりの平均値は5.44件、標準偏差 は3.63であった)。サンプリング時に何をしていたかの 自由記述(Q10)をまとめたところ、特に多かったもの は、授業中(n=60)、飲食中(n=57)、パソコンで作 業や課題中(n=28)であった。 まずデータの基礎的検討として、MW傾向、ワーキ ングメモリ容量、創造性、抑うつ傾向、不眠傾向およ び経験サンプリングによって測定した変数の平均値と 標準偏差、級内相関、デザインエフェクト(DE)を 算出した(Table 1)。測定レベルの変数の級内相関が いずれも0.1を超えて有意な値であることや、DEの値 (1.58–2.69)が2を超える指標を含むことから、本デー タの階層性が示された。また、経験サンプリング法に よって測定した測定レベルの変数と、個人レベルの変数 についてそれぞれ相関係数(Table 2)を算出した。 抑うつ傾向に関する検討 式1に従って「精神的健康」に抑うつ傾向を投入し、 階層線形モデルによる分析を行ったところ(Table 3)、 創造性と抑うつ傾向の交互作用項が他者と集中すべき状 況を有意に予測したため、創造性の平均値±1SDの各値 における抑うつ傾向の主効果を検討するために単純傾斜 分析を行った(Figure 1)。その結果、他者に関して有 意な結果が認められ、創造性が高い場合は、抑うつ傾向 が低い方が、他者に関する内容が少ないことが示された (b=0.08, t=2.79, p=.01)。集中すべき状況については、 有意傾向にとどまったが、創造性が高い場合は、抑うつ 傾向が低い方が、集中すべき状況でのMWが少なく(b =0.06, t=1.82, p=.07)、創造性が低い場合は、抑うつ 傾向が比較的高い方が集中すべき状況でのMWが多い (b=−0.08, t=−1.87, p=.07)傾向が示された。 Table 1 各変数の記述統計量 変数名 平均値 標準偏差 級内相関 F値 DE MW傾向 1.77 0.67 OSPAN 31.21 6.23 SSPAN 19.89 3.18 流暢性 6.01 2.17 柔軟性 4.68 1.48 独自性 6.59 3.40 抑うつ傾向 16.38 8.07 不眠傾向 4.17 2.62 Q2 自然発生的 6.24 2.83 .25 2.75** 2.11 Q3 ポジティブ内容 5.28 2.41 .25 2.73** 2.11 Q4 ネガティブ内容 4.03 2.57 .17 2.12** 1.78 Q5 過去 3.27 2.84 .38 4.21** 2.69 Q6 未来 5.33 3.10 .20 2.33** 1.90 Q7 現在 5.71 2.61 .13 1.78** 1.58 Q8 自己 6.37 2.77 .19 2.21** 1.83 Q9 他者 4.67 3.05 .22 2.47** 1.98 Q11 集中 4.61 2.85 .14 1.88** 1.62 Q12 リラックス 5.52 2.61 .20 2.39** 1.91 Q13 ポジティブ気分 5.46 2.30 .23 2.68** 2.05 Q14 ネガティブ気分 3.87 2.38 .21 2.41** 1.92 注)** p<.01
また、創造性、抑うつ傾向、創造性×抑うつ傾向を独 立変数、ワーキングメモリ容量およびMW傾向をそれ ぞれ従属変数とした重回帰分析を行ったところ、抑うつ 傾向がMW傾向を正の方向に予測したが(b=0.41, t= 3.84, p=.00, 調整済みR2=.14)、交互作用項に有意な結 果は見られなかった。 不眠傾向に関する検討 抑うつに関する検討と同様に、式1に従って「精神 的健康」に不眠傾向を投入し、階層線形モデルによる 分析を行ったところ(Table 4)、創造性と不眠傾向の 交互作用項が未来と他者を有意に予測したため、創造 性の平均値±1SDの各値における不眠傾向の主効果を 検討するためにそれぞれ単純傾斜分析を行った。その 結果、他者に関する内容(Figure 2)と、未来に関する 内容(Figure 3)で有意な結果が認められ、創造性が 高い場合は、不眠傾向が低い方が、他者に関する内容 Table 2 各変数間の相関係数 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 14 15 16 17 1. 自然発生的 .01−.01 .10 −.11 −.01 .05 −.07 −.07 .02 .02 −.04 2. ポジティブ内容 ̶ −.81** −.17** .06 −.07 −.05 −.03 .06 .09 .51** −.48** 3. ネガティブ内容 ̶ .22** −.06 .10 .07 −.02 .01 −.13* −.46** .53** 4. 過去 ̶ −.34** −.20** −.11* .14* .02 −.08 −.23** .23** 5. 未来 ̶ −.31** .22** .03 −.06 .07 .04 −.04 6. 現在 ̶ .01 −.02 .04 .04 .06 −.04 7. 自己 ̶ −.38** −.07 .06 .00 .00 8. 他者 ̶ −.01 −.04 −.05 .05 9. 集中 ̶ −.58** −.09 .09 10. リラックス ̶ .40** −.29** 11. ポジティブ気分 ̶ −.76** 12. ネガティブ気分 ̶ 13. MW傾向 .07 .11 .40** .30* 14. ワーキングメモリ容量 ̶ .01 .06 −.04 15. 創造性 ̶ −.02 −.04 16. 抑うつ傾向 ̶ .57** 17. 不眠傾向 ̶ 注)** p<.01, * p<.05.表の上部は測定レベル(N=424)、下部は個人レベル(N=78)の相関係数を示す。 Table 3 創造性および抑うつ傾向と、マインドワンダリングの内容と生起状況の関連 自然発生的 ポジティブ内容 ネガティブ内容 過去 未来 現在 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 固定効果 γ00切片 6.28** 0.21 5.25** 0.18 4.09** 0.17 3.29** 0.23 5.37** 0.22 5.62** 0.17 γ01創造性 0.05 0.07 0.13* 0.06 −0.11* 0.05 −0.07 0.07 0.09 0.09 0.09 0.05 γ02抑うつ傾向 −0.01 0.03 −0.04 0.02 0.04 0.02 0.04* 0.02 0.01 0.02 −0.01 0.02 γ03創造性×抑うつ傾向 0.00 0.01 0.01 0.01 0.01 0.00 0.01 0.01 0.01 0.01 0.00 0.01 変量効果 u0j切片(分散成分τ00) 1.85** 0.53 1.26** 0.37 0.88** 0.33 2.70** 0.64 1.70** 0.55 0.70** 0.32 rij残差(分散成分σ2) 6.13 0.48 4.35 0.34 5.42 0.42 5.02 0.39 7.80 0.60 6.20 0.48 自己 他者 集中 リラックス ポジティブ気分 ネガティブ気分 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 固定効果 γ00切片 6.35** 0.19 4.69** 0.22 4.61** 0.18 5.44** 0.18 5.40** 0.16 3.94** 0.16 γ01創造性 0.02 0.07 0.07 0.06 0.08 0.07 −0.05 0.07 0.04 0.05 −0.08 0.04 γ02抑うつ傾向 −0.02 0.02 0.02 0.02 −0.01 0.03 −0.04 0.03 −0.06* 0.02 0.05* 0.02 γ03創造性×抑うつ傾向 0.00 0.00 0.02** 0.01 0.02* 0.01 0.00 0.01 0.00 0.01 0.01 0.01 変量効果 u0j切片(分散成分τ00) 1.35** 0.44 1.76** 0.55 0.96** 0.39 1.23** 0.40 0.87** 0.29 0.78** 0.28 rij残差(分散成分σ2) 6.22 0.48 7.32 0.57 6.84 0.53 5.46 0.42 4.10 0.32 4.50 0.35 注)** p<.01, * p<.05.
や(b=0.17, t=2.16, p=.03)、未来に関する内容(b= 0.23, t=2.10, p=.04)が少ないことが示された。また、 ポジティブな内容については有意傾向にとどまったが、 創造性が低い場合は、不眠傾向が比較的高い方がポジ ティブな内容が少ない(b=−0.15, t=−1.71, p=.09)と いう傾向が見られた。 創造性、不眠傾向、創造性×不眠傾向を独立変数、 ワーキングメモリ容量およびMW傾向をそれぞれ従 属変数とした重回帰分析を行ったところ、不眠傾向が MW傾向を正の方向に予測したが(b=0.92, t=2.75, p =.01, 調整済みR2=.09)、交互作用項に有意な結果は見 られなかった。 Figure 1 創造性と抑うつ傾向における他者に関す る内容の単純傾斜分析 Table 4 創造性および不眠傾向と、マインドワンダリングの内容と生起状況の関連 自然発生的 ポジティブ内容 ネガティブ内容 過去 未来 現在 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 固定効果 γ00切片 6.27** 0.21 5.26** 0.18 4.06** 0.17 3.30** 0.23 5.41** 0.21 5.63** 0.17 γ01創造性 0.05 0.07 0.12* 0.06 −0.11* 0.05 −0.09 0.06 0.07 0.08 0.08 0.05 γ02不眠傾向 0.04 0.08 −0.05 0.06 0.12 0.07 0.09 0.09 0.03 0.08 −0.05 0.07 γ03創造性×不眠傾向 0.00 0.02 0.04* 0.02 −0.01 0.02 0.03 0.03 0.07* 0.03 0.01 0.02 変量効果 u0j切片(分散成分τ00) 1.87** 0.53 1.27** 0.37 0.88** 0.33 2.83** 0.67 1.48** 0.51 0.68** 0.32 rij残差(分散成分σ2) 6.13 0.48 4.35 0.34 5.44 0.42 5.02 0.39 7.80 0.60 6.20 0.48 自己 他者 集中 リラックス ポジティブ気分 ネガティブ気分 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 推定値 SE 固定効果 γ00切片 6.35** 0.19 4.71** 0.22 4.59** 0.18 5.45** 0.19 5.40** 0.17 3.95** 0.16 γ01創造性 0.02 0.06 0.04 0.06 0.06 0.08 −0.05 0.08 0.04 0.06 −0.09 0.05 γ02不眠傾向 −0.03 0.08 0.02 0.08 0.12 0.07 −0.06 0.08 −0.08 0.06 0.14* 0.06 γ03創造性×不眠傾向 0.01 0.02 0.05* 0.02 0.04 0.02 0.00 0.02 −0.01 0.02 0.03 0.02 変量効果 u0j切片(分散成分τ00) 1.39** 0.45 1.86** 0.57 1.01** 0.40 1.32** 0.41 1.07** 0.32 0.82** 0.29 rij残差(分散成分σ2) 6.21 0.48 7.31 0.57 6.87 0.53 5.45 0.42 4.09 0.32 4.51 0.35 注)** p<.01, * p<.05. Figure 2 創造性と不眠傾向における他者に関する 内容の単純傾斜分析 Figure 3 創造性と不眠傾向における未来に関する 内容の単純傾斜分析
考 察 本研究の目的は、創造性が高く精神的に健康な人が日 常生活中にどのようなMWを行っているかを明らかに することが目的であった。 階層線形モデルによる検討の結果、創造性が高い場合 は、抑うつ傾向および不眠傾向が低い人の方が、比較的 高い人よりもMW中に他者に関することをあまり考え ていなかったことが示された。創造性の高い人は日頃か らMWを頻繁に行うことで、脳内の多様な情報にアク
セスしやすく(Baird et al., 2012; Yaniv & Meyer, 1987)、 またデフォルト・モード・ネットワークと実行制御 ネ ッ ト ワ ー ク が活 性 化 す る こ と で(Christoff et al., 2009; Fox et al., 2015; Golchert et al., 2017; Smallwood et al., 2012)、高い創造性を得ている(Beaty et al., 2015) と考えられるが、本研究の結果から、その中でも抑うつ 傾向や不眠傾向が低い人はMW中にあまり他者に関す ることを考えていないということが推察される。これ は、過去・他者に関するMWがネガティブ気分と関連 する(Ruby et al., 2013)という先行研究と整合性のあ る結果だと言える。 山岡・湯川(2019)では、創造性が高い場合に、抑 うつ傾向が低い人の方が、過去に関する思考が少なかっ たという、本研究と異なる結果が示されているが、この 違いはデータの収集状況の違いに起因すると考えらえ る。山岡・湯川(2019)では、参加者を一人ずつ実験 室に招き、映像視聴をさせることでMWを生起させる という手法をとっていたが、本研究では、経験サンプリ ング法を行い、日常生活中のMWを測定したため、実 験室内よりも、他者との交流など社会的刺激の多い状況 であったと考えられる。したがって、実験室内で、1人 でMWしているよりも他者に関する思考が生じ得る機 会が多く、他者に関する思考で顕著な結果が得られたと 考えられる。Linz, Pauly, Smallwood, & Engert(2019)
でも、実験室内のMWの思考内容と日常生活中のMW の思考内容を比較し、特に過去に関する思考の一貫性が 低いことを報告されている。 また、創造性が高い場合は、不眠傾向が低い人の方 が、不眠傾向が高い人よりもMW中に未来に関するこ とをあまり考えていなかったことが示された。不眠は、 過去のことを考える反すう傾向だけではなく、未来のこ とを考える心配とも正の関連があることから(Pillai & Drake, 2015)、創造性が高い人の中でも、不眠傾向が低 かった人の未来に関する思考が少なかったことは、妥当 な結果だと考えられる。一方で、未来・自己に関する思 考はポジティブ気分と関連する(Ruby et al., 2013)こ とを示した知見もあることから、心配などのネガティブ な内容ではなく、ポジティブな内容の未来に関すること であれば、必ずしも不眠や精神的不健康さと関連しない 可能性がある。したがって未来に関する思考について は、その内容がポジティブなものであったか、ネガティ ブなものであったかという感情価を踏まえた上で詳細に 検討する必要があると考えられる。 本研究の結果から、創造性が高い場合、抑うつ傾向 や不眠傾向が低い人、つまり精神的に健康な人は、共通 して他者に関するMWが少ないことが示された。した がって、因果関係は明確ではないものの、少なくとも他 者に関することが少ないMWを行った時に、精神的健 康が悪化する可能性や創造性の増進が阻害される可能性 は低いと考えられる。今後、精神的健康を悪化させずに 創造性を増進する方法を考案していくために、実際に創 造的な問題解決に行き詰まった後に、他者以外のことに 関するMWを誘発し、創造性が増進された程度や感情 状態について詳細に検討していく必要がある。 最後に本研究の限界を述べる。本研究は一般大学生を 対象に実験を行ったため、サンプリング状況が、授業中 や課題・勉強中といった学生に特有な状況に限られてい た。また、得られた経験サンプリングのデータは、参加 者が回答できる状況にいた時のものしか回収できていな いという限界がある。創造性や精神的不健康さの高さ・ 低さに関しても、あくまで一般大学生における相対的な 比較であり、突出して創造性に優れた者や、重度の精神 疾患を抱える者については検討できていない。今後は、 大学生以外の年齢層の一般人を対象に広く検討していく ことや、創造的な職業に就いている人、精神疾患を抱え る人に関しても詳細な検討を行っていく必要があるだろ う。 引 用 文 献
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