ミツバチ科学15(2):75-80 HoneybeeScience(1994)
熱帯養蜂の現状 と問題
最近20年 ほどは熱帯地域の養蜂が注 目を浴 びている.養蜂の観点か らみた熱帯 は4つに区 分でき,それぞれ非常に異なった事情をもって いる (図 1).熱帯 アフ リカはセイヨウ ミツパテ が原産 している地域である.熱帯 アジアにはセ イ ヨウ ミツバチは原産 せず, トウヨウ ミツバ チ,オオ ミツパテ, コミツバチの3種が知 られ ていた. より最近 になってアジアの ミツバチの 研究が進むようになると,倍の6種の存在が明 らかになって きた (小野, 1992). その程度 に 知 られていなか ったのである. また, アメ リカ 大陸にはヨーロッパか ら持 ち込 まれたセイヨウ ミツパテ以外 には ミツパテ属 は生息せず,貯蜜 性のハ リナシバチがいるが,- リナシパテでは 産業 としての養蜂 は成 り立 たない.4
つの目の 区域 はポ リネシア諸島であ り,セイヨウ ミツバ チの移入の歴史が浅いところである. 熱帯地域には発展途上国が多 く, これ らの国 の産業を発展 させ るために,国際連合の食糧農 業機関(
FAO)
をは じめ,先進諸国が援助 に乗松香 光夫
り出 して いる.養蜂 は初期投資が少 な くてす み, かつ高度 な技術 を必要 と しない産業 であ り,そこか らの生産力が高 いとはいえないが, 当該地域住民の基礎生活力をっけるのに格好な 分野 として注目されるのである.初めはセイヨ ウ ミツパテによる養蜂技術の移転が試み られる ことが多か ったが, ことはそう簡単 にはいかな いことがわか り,最近ではやや慎重 に運ばれる ようになっている. 日本では, これ らの熱帯養蜂 に対する関心 は 薄 く,その現状や問題点 についての認識が少な いと思われるので, これ らについて簡単 な レビ ューを試みたい. 熱 帯養 蜂 にかか わ る情報 源 IBRA (国際 ミツバチ研究協会) は比較的早 くか ら熱帯地域の養蜂に関心を もち, 1976年 には第1回(Crane,1976),その後4年毎 に国 際熱帯養蜂会議を開催 してお り (後述),その間 に熱帯 養蜂 に関 す る文 献集 を刊 行 して い る ▼一 塾 L. ∴ ∴二 ・、tttL ;・' tt、、了 卑 _二.I-- l・ ::ltl
I.:
. _ 二三 :I ト ノ \ト ・r
L _-d・ ) き 図1 世界の熱帯地域.I:アフリカ,Ⅱ:
アジア,Ⅲ:中南米,Ⅳ:ポリネシア(Crane,1978;1987).主宰者であった Crane の最近の著作 (1990)は ミツバチ科学および養 蜂を広 くカバー しており,この本の第 7章が熱 帯および亜熱帯の養蜂にあて られている. 1984年 には FAO の後援 で, アジアにおけ るセイヨウ ミツバチ導入 による養蜂の検討会が あり, これには玉川大学か らも参加 した (佐々 木,1984).また,FÅo (1986)による 「熱帯 および亜熱帯養蜂」という283ページのタイプ 印刷誌 では,開発途上国 での養蜂 の利点 と し て, 1. 辺地での食料確保 2. 報酬のある雇用創出 3. 外貨の獲得 4. 少ない投資 5. 花粉媒介による作物増産効果 6. 独 自の耕地面積が不要 を挙げ,いかに して養蜂開発計画を立てるか, 先進諸国の援助をとりつけるか, また,その実 例 などを挙 げている. 国際熱帯養蜂会議の歴史 は,第1回が ロン ド ンで,55名の うち約半数 が ヨーロッパ諸国に 属す る参加者 という状況で開催 された.熱帯養 蜂 の問題点の列挙を含む 23項 目の声明文を採 択 して,以降の継続を IBRA に託 している.第 2回は, 1980年 にイン ドで行われ,22か国か ら 178名の参加者, 82編 の報告で定着 し, ケ ニア, エジプ トに続いて第 5回は 1992年 に ト リニ ダー ド トバ ゴで行 わ れ て い る (IBRA, 1994). ェ ジブ トでは 14のセ ッションに分 け て,飼育技術,生産物管理,病害管理 などの共 通点の他,熱帯あるいは発展途上国に特に関わ りの深 い問題 として, ミツバチ種の特性, ミツ バチの移入,訓練 ・教育 ・婦人問題,適正技術 などの諸問題 について論 じられている. IBRA で熱帯養蜂問題を主 として担当 してい た Bradbear 博士 は, 最近 になって独立 し, Bees for Development を興 してニュース誌 「BEEKEEPING AND DEVELOPMENT」 を 発行 しで情報を提供 している (末尾参照). 玉川大学が事務局を もっているアジア養蜂研 究協会が発足 したの も, このような状況 に呼応 するものといえよう (Verma ほか,1991). 熱 帯環境 の特 性 一口に熱帯 といって もその環境 は同一ではな いが,Crane(1990)は熱帯養蜂の特徴 として 次のような点を挙げている. 1. 太陽が高いので,蜂群 は涼 しい日陰に配置 す る. 2. 太陽の動 きに合わせて,蜂群の成長が年 2 サイクルを示す ことが多 い. 3. 流蜜が途切れるようなところでは,逃去, 移動が起 こる.充分な温度があるので,逃去 群 も生存可能である. 4. 群 は小 さい傾向があり,貯蜜 は少ない.分 蜂が小群で起 こる. 5. 採餌活動 は花に合わせ,朝晩,時には夜間 に行われる. 上記第3項 について補 っておきたい.温帯で は蜜源や花粉源が途切れるのは冬に対応 してい るが,熱帯では温度条件 はいっで もミツバチの 活動を支えることがで きる.む しろ,雨期 ・乾 期の交代 によって養蜂植物の開花に季節 リズム があった り,植生 によって蜜源 となる植物の不 在期がある.私たちの感覚では年中花が咲いて いるのが熱帯のような気がするが,開花 して も 蜜を出さないものは ミツバチにとって意味がな いのであるか ら,蜜源切れの認識 には注意を要 す る.得 られる食料資源が不十分になると,よ り良 い環境を求めて季節的に移動を したり,一 時的な逃去を起 こす.特 にタンパ ク質源が不足 す ると, 目巣の幼虫を共食 いす ることが頻繁 に 見 られた後,逃去が起 こりやすい.熱帯ではそ の よ うな状 況 は平 常 なの で あ るか ら, 中村 (1993a)は,ミツバチの群 が小 さくて貯蛮性が 低 く,分蜂性が高いのは,む しろそのような環 '境条件 に対す る適応だと解釈 している. 熱 帯 の ミツバ チ と養蜂 1. 熱 帯 ア フ リカ の セ イ ヨ ウ ミ ツ パ テ
(
A
pisme
l
l
i
f
e
r
a)
Ruttner(1988) は,8亜種 に分類 している (他 に2亜種が地中海側 に分布 している).代表的なものは A.m.scutellataで,後述す る南米 に持ち込 まれた亜種である.地域によって飼育 形態 も異なるが,巣枠を利用 した可動式巣板巣 箱がいっ も成功す るとは限 らず,多 くの援助プ ログラムでは上桟式巣板を使 った巣箱を推奨 し ており,丸太巣箱を木に吊るしてお く場合 もあ る(Townsend,1982).分蜂性の強いものが多 く,年間に20-40%が失われるという.自然 に 営巣す る群では,貯蜜性が低いこともあってハ チ ミツの収量 に対 して蜂 ろうの収量が8-10% にもなるので,採 ろうも大 きな目的となり,ア フ リカは世界の蜂ろう生産量 に占める比率が高 い. 2.アフ リカ蜂化 ミツバチ アメ リカやオース トラ リアなどの新大陸で は,人為的に持 ち込 まれたセイヨウ ミツバチを 利用 した養蜂が盛んで,その収量 は原産地を し のいでいるのが現状である.南米の ミツバチを 改良 す る目的 で, 熱帯 に よ り適 応 して い る scuteLlata亜種を導入 したのは, 1956年のこ とであった. これが逃 げ出 して周辺の ミツバチ と交雑 し,大変気性の荒 い-チとなって,強い 分蜂性によって南米大陸か ら北上を続 け,パナ マに1981年,メキ シコに1986年 (Dietzand Vergara,1990), つ い に米 国 に達 した の は 1990年 の こ とで あ った (Winston,1992a; Rinderereta1.,1994).ブラジルの養蜂 はこ の蜂のために一時的に非常 に沈滞 したが,現在 では馴化 して きた ミツバチを用いて回復 してき ている.途中までの経過 は竹内 (1990)が紹介 しており,最近では,3冊の本が出されている
(Needham eta1.,1988;Spivaketa1.,1991; Winston,1992b).日本で も,この蜂のことが killerbeesの名の もとに報道 され, 問い合わ せをいただ くことがあるが, 日本の ミツバチは まった く無関係 であ ることを付言 してお きた い. 3. その他の熱帯地域に導入 されたセイヨウ ミ ツノヾチ 養蜂援助が盛んになると, これまでセイヨウ ミツバチの分布 していない地域 (主 としてアジ ア)への導入が試み られ るようになった.熱帯 肋 には後述す るよ うに,各種 の制 限要Eqがあ っ て,新規の導入 は必 ず しも容易ではないが,イ ンド, タイ,イ ンドネシアなどでは見 るべ き成 果が上が りつつあるといえよう (松香 ・榎本, 1993). 4. トウヨウミツバチ (Apiscerlana) 東∼東南 アジア地域 に広 く分布 し,セイヨウ ミツバチに類似 した複数 の巣板か らなる巣を作 るので,原産地で もあることか らアジアの養蜂 資源 として期待 されている.ただ し,セイヨウ ミツバチのような家畜化 は進んでいないので, 野生味が強い.特に熱帯地域のものは小型群で 貯蛮性が比較的弱 く,分蜂性 (あるいは逃去性) が強いので,飼 いに くい し生産性が低 い.今後 の品種改良が必要である.同様のことは近縁の サバ ミツバチ (Apiskoschevnikovi)にも言え るはずであるが,後者 はまだ限 られた分布 しか 知 られていないので,養蜂上の重要性 は不明で ある. 5. オオ ミツバチ (Apisdorsata) 東南 ア ジア原産 の 1枚 の巣板 を樹上 あ るい は崖などに作 る野生大型種で,分蜂群を捕捉す る試みはあるが(Craneetal,1993)飼育 は困 難で,野生の群か ら採蜜することになる.従 っ てハチ ミツ収量 は不安定である.それで も,セ イ ヨウ ミツパテによる養蜂 が局地 的であ った り, トウヨウ ミツバチの飼養技術が低い,例え ばイン ドやイ ンドネシアでは,前
2
種か らの生 産量 を上 回 る ものが市 場 に出 る ことにな る (Crane,1990).近縁種 ヒマラヤオオ ミツパテ (Apislaboriosa) はヒマラヤ地域 にのみ知 ら れ,特定の部族がハチ ミツを採集 している (吉 田,1993). 6. コ ミツパテ (Apisflorea) 低木 の枝 な どに直径20cm程度 の小 さな1 枚の巣を作 る種で,-チ ミツ生産量などは統計 に出て くることはないが,東南 アジアの市場で は巣 ごと売 っているのを見か けることは多 い (吉田,1993).最近 にな って確立 された近縁種 であるク口コ ミツバチ (Apisandreniformis)もほとんど区別 されていない.
7
.
その他の貯蜜性の-チ蓑 1 世界の-チミツ・蜂ろう生産および輸出入量 (t) (Crane,1990より.主なデータは1984年現在) ハ チ ミ ツ 生産量 輸入量 輸出量 蜂 ろ う 生産量 輸入量 輸出量 ヨーロッパ 旧ソ連邦 北米 中米 メキシコ
*
その他 南米 アルゼンチン+チリ*
その他 オセアニア 豪州+NZ*
その他 アジア 中国+台湾*
,*
*
熱帯+インド その他 *アフリカ 0 0 0 0 2 7 6 3 0 0 8 4 0 5 2 8 9 4 4 1 9 5 2 3 4 2 . 1 1 7 0 7 0 2 2 5 1 5 0 7 9 6 9 4 6 7 4 1 1 5 0 7 8 2 3 9 1 4 7 ) 7 0 8 0 8 2 0 0 2 8 2 7 0 2 5 7 0 6 9 0 2 4 8 7 6 0 1 3 0 2 5 8 0 6 L . 8 へへ 9 . L ウ叫 ー り 2 3 8 3 1 ( 3 6 3 0 3 7 4 6 1 8 2 1 9 7 2 1 3 0 2 2 1 1 1 6 9 3 4 2 8 0 8 4 8 6 -. 6 5 2 6 4 1 4 0 0 1 1 5 2 5 2 2 5 2 3 1 4 4 0 1 0 3 0 4 5 1 6 4 5 5 4 1 4 6 7 6 2 2 5 3 7 8 1 6 4 8 1 7 7 8 7 7 2 5 5 3 日H 0 O 8 5 6 0 2 1 6 2 2 3 9 6 0 9 9 4 0 1 8 5 5 3 3 3 2 0 2 0 6 0 3 7 3 8 8 5 . 1 5 3 8 7 9 0 7 0 3 9 2 5 6 9 1 6 1 4 1 3 6 1 6 9 日 u = HH HU *熱帯地域 計 152,285 10,887 23,539 11,350 545 合計 993,104 262,098 269,833 47.604 7,421 **熱帯アジアのうちインドの-チミツ生産量は,オオミツバチ蜜13,500tを含めて18,000t. 熱帯地域ではハ リナ シパテ (Meliponaある いは Trigona属 の ものが ほとんどである) を -チ ミツ ・蜂 ろう生産 に供す るため,野生群を 採集 した り,あるいは一部 は飼育 している.大 きな群では10kgもの-チ ミツをとることがで きるが,一般的なあるいは共通の技術 とはいえ ない (Crane,1990). 熱 帯養 蜂 の難 点 とそ の改 善1
. 飼育方法 と蜂群の特性 近代養蜂 は,可動式巣板,人工巣礎,遠心分 離器の3大発明に支え られている. しか し,熱 帯地域 の養蜂 レベルはそれを適用で きる状況 に ない.一部では成功 しているものの,巣板が動 くことがその間隔を不定 に して,かえ って ミツ バチの活動 を妨 げることがある.適正 な巣板間 隔 の存在 に無知 なわ けで,改善 のためには教 育 ・訓練が必要である. 熱帯の ミツバチは前述 のよ うに小群 で分蜂性 が高 い ものが多 く,人為 的 な管理 には不 向 き で,手入れを しようとす ると逃去 して しまう傾 向が強い.特 に温帯で定着 しているセイ ヨウ ミ ツバチと比較 されやす い トウヨウ ミツバチで大 きな問題 となる点である.種 自体 の性質 に加え て,管理技術の低劣 なことも逃去などに輪 をか けて いる. この種 によ る養蜂 の問題点 は既 に Wongsiri(1989)が論 じている.基礎研究の充 実 とともに,選抜育種や,巣箱 の最適構造 など の研究が必須 となる. また飼育上の心得 と して,熱帯の高温 に対 し て巣箱内の温度 を下 げるためにかな りの水 を使 うことが理解 されてお らず,蜜源の少 ない時期 の給餌 とともに,給水 の配慮が必要である. 2. 外敵 熱帯 は種の多様度 が高 く, ミツバチの外敵の 種類 も多 い.病気 を含 めて外敵 に関す る一般的 な総説 としては,Morse and Nowogrodzki(1990)が優れている. ミツパテへギイタダニ (Verroajacobsoni) I は初 め トウヨウ ミツバチで発見 された ものであ り, そこに持 ち込 まれたセイ ヨウ ミツパテを通 じて現在では全世界 に分布す るようにな り,温 帯 での養蜂 に も脅威 を与 えている. トウヨウ ミ ツバ チ 自体 は この ダニの寄生 に抵抗性 が強 い が, セイ ヨウ ミツバチは大 きな被害を受 けるこ とが多 いか らである.熱帯 ア ジアに導入 された
セイヨウ ミツパテにとっては, このダニの他 に ミツバチ トゲダニ (Tropilae
l
a
ps
clareae)の害 や,高温多湿 とも関係 してチ ョーク病が蜂群維 持を困難 にす ることが多 い. この他 に,一般 に熱帯で大 きな被害をもた ら す ものにア リがあり, アジアでは-チノスッヅ リガや,ウイルス病 による被害 も大 きい (竹内, 1993). 3. セイヨウ ミツバチの導入にともなう問題 養蜂を産業 として導入 しようとす る場合,確 立 した技術を移転す るのが簡単だと考え られ, これまでの養蜂 も,例えば新大陸への移入 はヨ ーロッパ人によるものであった. ところが, ミ ツバ チへギイタダニが全世界 に蔓延 した事例 や,アフ リカ蜂化 ミツバチ, また一般の帰化生 物の例などか ら,安易に新 しい生物を持 ち込む ことが危険であることは自明である.特に,荏 来の同種の ミツパテがいる場合には交雑にとも なう予期 されない問題がおこる可能性があり, 専門家による小規模な試験研究を先行 させて, 影響評価を充分に行なわなければな らない.最 近のように遺伝子工学的なDNA組み換え技術 による形質導入 も同様の観点か らの検討が必要 である.また,異種の ミツパテがいる場合にも, 生態的な (採餌,配偶)競争や,病気の伝播に よる在来種への悪影響 についての評価等 も同様 に重要である. これ らの ことか ら, ミツバチの 輸入を規制す る法律 を持 っている国は 60か国 以上 に達す る (Crane,1990). 4. 生産物の品質 と販売 ルー ト -チ ミツ,蜂 ろうの生産量を表 1に示 した. 熱帯地域ではアフ リカの存在が大 きいことがわ かる.脚注に示 したイ ン ドのオオ ミツバチ蜜, メキ シコを除 く中米の-チ ミツ輸出量, アフ リ カの蜂 ろ う輸 出量 の大 きさなどが 目立 って い る. 湿度の高 い熱帯では-チ ミツ中の水分含量が 高 いことが多 く,そのままでは発酵 しやすい. 輸出までを考えるには,技術的にあるいは衛生 的に品質管理上 の問題 も多 く,当面 は地域での 消費を考えるのが適当であろう. この点 は熱帯 に特有ではな く,発展途上国に共通す る問題で ある (Verma,1990). 今後の方向 上記のように,熱帯地域では自然環境条件が ミツバチの貯蛮性 に好適 とはいえず,開発途上 国が多いこともあって,産業 としての養蜂の見 通 しはかな り厳 しい ものであ る. しか しなが ら,後者の状況があるか らこそ,農村開発計画 の第 1段階 と して養蜂を振興す ることは必要 で,今後 も色々な試みが続けられるであろう. 自由競争的原理 に基づいては良 い状況を達成す ることはできないので,各国の政府が主体 とな り,それを先進諸国が援助す る形になることは 否めない. このこと自体 は熱帯地方 に限 られる ものではない. 前章の諸問題を考慮 しなが ら,実施可能性の 調査の後 に,現地 に適 した ミツバチ種 または品 種を選んで,初期投資が少な くてすむ養蜂の利 点を生か しなが ら,先進技術の移転でな くいわ ゆる中間技術あるいは適正技術 レベルの養蜂を 導入す るところか ら始めることになろう. もし ち,養蜂 に親 しみのない地域であれば,飼養者 に対す る直接 の見返 りであ る- チ ミツのはか に,周囲の人々にも花粉媒介による農作物の増 収 に結 びっ けなが ら啓蒙 す ることも重要であ る. イン ドネシアで続け られて きたボーイスカ ウ トなどを通 した養蜂活動 も,成功へ結ぶ地道 な活動 として評価できる. 定着 してきたなら, さらにその技術を向上 さ せ,広 げてゆ くために訓練 セ ンターのような拠 点が必要 となる.拠点ができれば, トレーニ ン グコースの実施などを通 して組織的な教育が可 能 となり,一方で,現地 により適 したより高度 の技術 に移行 してゆ くことが可能 になるし,改 善の方向 としての養蜂植物の調査か ら植栽にい たる計画 も立てやす くなる.生産力が向上すれ ば,生産物の品質管理 に到 るルー トの整備をす ることも必要になるであろう. イン ドネシアの 例では, 1992年 に養蜂セ ンターの設立など組 織 が整備 され,今後 の発展 が期待 で きる (松 香 ・榎本,1993). もう一段 レベルを上げるには,研究セ ンター80 が設置 され ることが望 ま しい.各地域 に適 した ミツパ テ種 あ るいは品種 の選抜 ・育種 を中心 テ ーマに して, それ らの性能 の評価法 と, その性 能 を よ りよ く発揮 させ る飼 養 ・保護技術,環境 状況把握 と改善, そ して周辺分野 へ と広 が って い くべ きもので あろ う. イ ン ドで は, Central Bee Research and Training lnstituteが比 較的早 くか ら設置 され,一 定 の成 果 を上 げて き たが,研究 レベルで は展望 が開 けてお らず不満 が残 って い るよ うであ る (松香 ・榎本,1993). この点 につ いて は Verma (1993) が国際的 な 研 究 セ ンターの設置 を提案 してお り,具体化 の 機 が熟 しつつ あ るよ うに感 じられ る. 熱帯 の養蜂 は低所得国民 の生活 向上 のために 大 いに役立 っ技術 であ り, その振興 のために何 が問題 とな るかを中心 に述 べて きた.熱帯地域 が,世界的 な レベルで ミツバ チ生産物 の生産基 地 にな ることは, それがあ ると して も遠 い将来 の よ うな気 がす るが,上記 の状況 が一定 の レベ ルに達 した ところで,現在 の中国 がそ うであ る よ うに,需要側 の要求 に合 わせ る形 で発展 して い くことは不可能 で はないか も しれ ない.
*
*
*
*
この小論 は国際農林水産 業研究 セ ンターの委 託 によ る調査 に基 づ くもの であ る.BEEKEEPING AND DEVELOPMENT購 読 の申込みはBees for Development,Troy, Monmouth,NP5,4AB,UK まで.
主な参考文献
Crane,E.ed.1976. Apiculturein tropicalcli -mates. IBRA 207pp
Crane.E.1978.BibliographyoftropicalapICul -ture. IBRA. 24parts,380pp.
Crane,E.1987.Bibliographyoftropicalapicuト ture. Satellite bibliogra phies. IBRA. 14 parts,238pp.
Crane,E.1990. Beesandbeekeeping.science,
practice and world resources. Hei nemann-Newnes,0Xford. 614pp.
Dietz,A.andC.Vergara. 1990.ミツバチ科学 15 (3):113-116.
FAO. 1986. Tropicalandsub-tropicalapicul -ture. FÅo. 283pp.
松番光夫,榎本ひとみ,1993.アジ7の養蜂 (国際農
林業協力協会編ト 50-113.
Morse, R. A.and R.Nowogrodzki. 1990,
Honeybeepests,predators,anddiseases. 2nd ed. CornellUniv.Pr.,Ithaca.474pp. 中村 純.1993a.玉川大学博士 (農学)学位論文.
pp.181.
小野正人 1992.アジアの ミツパテ. ミツバチ科学 13(1)二19-22.
Rinderer,T.E.etal. 1994.日経 サ イエ ンス24 (2):70-78.
佐々木正己.1984.ミツパテ科学 5(3):133-136. Spivak,M.,etal. 1991 The"African"honey
bee Westview Pr. pp.435. 竹内一見 1990.ミツバチ科学 11(3):105-112. 竹内一男.1993.アジアの養蜂 (国際農林業協力協会 編).34-44. Townsend,G.1982 ミツバチ科学 3(2):49-54. Verma,L.R.ほか.1991. ミツバチ科学12(1):1 -4.
Winston,M,L.1992a.Annu.Rev.Entomol.37: 173-193. WlnStOn,M.L.1992b Killer bees. Harvard Univ.Pr.pp.162. Wongsiri,S.1989.ミツバチ科学 10(4):160-164. 吉 田忠晴.1993.アジアの養蜂 (国際農林業協力協会 編).12-28
MATSUKA,M汀SUO.Situation and problems ln tropicalbeekeeping.HoneybeeScience(1994)15 (2):75-80. Inst.Honeybee S°i.,Tamagawa
Univ.,Machida-shi.Tokyo194Japan.
On the basisofthe first(1976)to the5th (1992)conferencesonapicultureintropicalcli一 mates held by IBRA,and other information sources,characteristics and problems in the tropICalbeekeepingaredescribed.
Tropicalbeesandbeekeepingareitemizedon: African Apis melliferla. Africanized bees in America.introducedA.melliferatoothertropi -calreg10n,A.cerlana,A dorsata,A.fiorea.and stinglessbees.
Maindifficultiesarediscussedas1.beeke ep-3ngtechnologyincludingresearchonbeebree d-ingandbehavior,andtraining;2.controlofbee enemiesanddiseases;3.geneticalandecological probelmsaccompanied by introduction offor -eign speciesorstrains;and 4.quallty COntrOl andmarketingofbeeproducts