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<原著> 拡散テンソルMR 画像:中枢神経領域における臨床応用の検討 利用統計を見る

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拡散テンソル MR 画像:中枢神経領域における臨床応用の検討

石 亀 慶 一

1)

,荒 木   力

2)

,青 木 茂 樹

3)

吉 川 健 啓

3)

,柳 下   章

4) 1)秋田県立脳血管研究センター放射線医学研究部,2)山梨大学医学部放射線科, 3)東京大学医学部放射線科,4)東京都立神経病院神経放射線科 要 旨:我々の研究目的は等方的拡散に加えて異方的拡散を表現可能な拡散テンソル画像(diffu-sion tensor imaging: DTI)の正常像の把握と臨床応用である。DTI では Fractional anisotropy(FA) 画像を中心に検討を行った。頭部 MRI を施行した 492 例(正常 76 例,頭部各種疾患患者 416 例) でルーチンの撮像に加えて DTI を得た。 正常例では主要構造の FA 値を決定し,また加齢に伴う変化を検討した。 各種疾患(脊髄小脳変性症,脳腫瘍,多発性硬化症,ワーラー変性など)での DTI の所見を検 討した。脊髄小脳変性症の検討では,小脳白質の定量的評価を行い,障害の病理的な知見に一致し た FA 値の変化を認めた。脳腫瘍例では全例で腫瘍部の FA 値の低下を認め,腫瘤効果による白質 の偏位が観察された。脳卒中に伴う錐体路の二次変性を検討し,通常の MR 画像で所見のない時期 で FA 低値となる症例を認めた。 DTI は定性的および定量的検討において,様々な疾患で異常所見を呈し,特に髄鞘化の評価,両 側対称性の白質病変を有する疾患,変性疾患で有用であると考えた。 キーワード 拡散テンソル MR 画像,拡散異方性,大脳白質 緒  言 MRI を用いて,拡散現象を対象とした画像 を 拡 散 強 調 像 ( Diffusion-weighted imaging: DWI)と呼び,中枢神経系特に急性脳梗塞の診 断を中心として,様々な領域で臨床応用されて いる1–9)。拡散強調画像での多くの検討は拡散 の方向を問わない方法(拡散の等方性:Diffu-sion isotropy)で行われているが,生体内での 水の拡散現象は様々な構造物により拡散方向が 制限されている。拡散傾斜測定用の傾斜磁場 (Motion probing gradient: MPG)の方向によ り画像のコントラストは変化することが報告さ れていたが10),その正確な方向や定量化につ いての評価は行われていなかった。最近,多方 向に拡散傾斜測定用の MPG を印加して元画像 を得て,テンソル解析などを行い,拡散の異方 性を対象とした画像を得ることが可能となって き た 。 こ の 画 像 は Diffusion-tensor imaging (DTI)と呼ばれており,最近になって臨床応 用が検討されつつある。脳内での,白質の解剖 の把握11),白質病変12–15)で有用性が報告され ている。正常成人で脳の領域により拡散の異方 性が異なることや11),小児での成長による拡 散 の 異 方 性 の 変 化 に つ い て も 報 告 さ れ て い る16,17)。従来の画像診断法では得られない,白 質などの拡散の異方性を表現可能な新たなコン トラストの画像として注目されている。ただし これらの報告の対象となっている症例数および 〒 409-3898 山梨県中巨摩郡玉穂町下河東 1110 受付: 2004 年 2 月 18 日 受理: 2004 年 4 月 20 日

原  著

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疾患はいまだ少ない。また MRI では数少ない 定量可能な理論的背景の確立したものであるの にも関わらず,正常像について詳しく検討した 報告はない。 本検討は,頭部領域における拡散の異方性の 表現が可能な画像である DTI の基礎的検討お よび臨床応用である。基礎的検討としては,多 数例で正常像や加齢性変化の把握を行った。臨 床応用としては,多くの臨床症例に DTI を施 行して,疾患別にその所見の検討を行った。 材料および方法 Ⅰ.FA 値の正常値および加齢による変化 対象は,正常健常者 3 例と脳疾患疑いまたは 除外目的で頭部 MRI を施行され,正常と判断 された 73 例である。男性 39 例,女性 37 例で あり,年齢は 0 歳から 79 歳で,平均年齢は 36 歳である。これらの対象は,軽度の臨床症状 (頭痛,頭重感,難聴,めまい,頭部打撲,下 垂体疾患疑い,小脳橋角部腫瘍疑い),もしく は無症状でスクリーニング目的により MRI を 撮像となった症例であった。検査時の MRI 上 で異常所見を認めず,また,その後の経過を追 い,神経学的に症状を呈さなかった症例のみを 検討対象とした。その対象選択の結果,76 名 を対象として,正常像の把握,加齢性変形の検 討を行った。小児例では,出産時期に応じて, 修正した年齢を用いて,検討を行った。 撮 像の パル スシ ー クエン ス は single-shot spin-echo echo-planar imaging(EPI)を用いた。 撮 像 条 件 は Repetition time(TR)/Echo time (TE)を 5,000/97 msec,撮像面は水平断とし た。Field of View(FOV)は 30 × 20 cm,スラ イス厚を 5 mm,マトリクスを 128 × 128,拡 散 測 定 用 の 傾 斜 磁 場 の 強 さ で あ る b 値 を 1,000 sec/mm2とし,スライス枚数は 24 スライ スとして,スライス間隔をなくすために,2 回 の撮像回数とした。拡散傾斜磁場方向は,(x, y, z)= 1/

¤¤2(1, 0, −1)(1, −1, 0)(0, −1, 1) (1, 0, 1)(1, 1, 0)(0, 1, 1)とした。撮像時間 は 70 秒とした。 得られた画像より,拡散異方性の指標である, Fractional anisotropy(FA)画像18)の作成を行 った。FA は,0 から 1 の値をとり,拡散の異方 性の強い方が 1 に近づき,0 に近い方が拡散の 異方性が弱くなる指標である18)。Region of In-terest(ROI)を両側中小脳脚,両側大脳脚, 両側内包後脚,両側放線冠,脳梁膨大部,皮質 に設定して,その FA 値を得た。ROI の voxel 数は 9 ∼ 25 とした。1 voxel の大きさは 2.5 × 2.5 × 5 mm である。 そこで得られたデータにより,正常値を決定 するために,年齢群毎の平均と標準偏差を計算 した。また年齢と FA 値をグラフにプロットす ることにより,年齢による変化を明らかとする とともに,髄鞘化および加齢性変化においては, それが FA 値として反映されているか,ピアソ ンの相関係数検定(両側検定:危険率 5 %)で 検討した。 Ⅱ. 中枢神経領域における臨床応用 対象は脳疾患を疑われ,頭部 MRI を撮像さ れて,前述の正常群とは判定されなかった 416 症例(0 ∼ 91 歳)である。これらの症例は, いずれも DTI の撮像を施行した。撮像条件は 検討 1 で用いられたと同様である。また通常の 撮像として,通常のプロトコールに準じて,水 平 断 の EPI を 用 い た 拡 散 強 調 像 , Fast spin-echo 法を用いた T2 強調像を頭部全体の範囲で 施行されており,また疾患に応じて,T1 強調 像,プロトン密度強調像,造影 T1 強調像など を任意の断面で施行した。このうち本稿では, 脊髄小脳変性症,脳腫瘍,多発性硬化症,早期 に画像上の異常を同定できたワーラー変性,興 味ある白質病変を呈したシンナー中毒について 記載した。 A.脊髄小脳変性症 対象は,遺伝子診断された遺伝性脊髄小脳変 性症 10 例と,臨床的診断された多系統萎縮症 1 2 例 で あ る 。 遺 伝 性 小 脳 変 性 症 の 内 訳 は , spinocerebellar ataxia 2(SCA2)が 2 例,SCA3

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が 4 例,SCA6 が 3 例,dentatorubral-palli-doluysian atrophy(DRPLA)が 1 例である。多 系統萎縮症(Multiple system atrophy: MSA)は 臨床診断されたものであり,その小脳症状が前 面に出ているものを olivopontocerebellar atro-phy(OPCA)type,錐体外路徴候が小脳症状 より強く出ているものを striatonigral degener-ation(SND)type と分類した。Trace 画像, FA 画像上で両側中小脳脚に ROI を設定し,FA 値を得た。今回中小脳脚に ROI を設定した理 由としては,小脳萎縮の原因の一つである橋核 小脳求心系に対応していると考えられたためで ある。中小脳脚の FA 値を用いて,疾患群ごと の値の検討を行った。 B.その他疾患 その他,日常臨床で白質病変を疑われた症例 を個別に DTI を施行して,FA 画像の定性的ま たは定量的評価および通常の画像所見と対応 し,検討を行った。 脳実質内腫瘍で,手術,放射線治療,化学療 法などの治療が施行されていない症例 12 例 (11 ∼ 83 歳)を対象とした。症例の内訳は, 転移性脳腫瘍 4 例,多形膠芽腫 2 例,退形性星 細胞腫 1 例,星細胞腫 2 例,混合性悪性神経膠 腫 1 例,悪性リンパ腫 1 例,神経節膠腫 1 例で ある。これらは,定性的に FA 画像の検討を行 った。また,通常に撮像された画像につき検討 も行っている。 典型的な臨床症状で多発性硬化症と診断され た 3 例(28 ∼ 35 歳)では,定性的に FA 画像 を評価し,通常撮像された画像についても評価 を行った。 興味ある画像所見を呈した発症 16 日後のワ ーラー変性の 1 例とトルエン中毒の 1 例につ き,その FA 画像所見につき,検討を行った。 トルエン中毒の症例では FA 値につき,正常例 における年齢に相当する群(14 ∼ 25 歳: 7 例) と比較した。 結  果 Ⅰ.FA 値の正常値および加齢による変化 年齢と主要構造の FA との関係を図 1 に示す。 年齢と FA 値の関係は,2 歳までは主要白質構 造の FA 値は急激に上昇した。その後,緩やか に 30 歳程度まで上昇傾向を認めた。 30 歳以下の群の年齢と各構造の FA 値の相関 係数は,中小脳脚: 0.6841,大脳脚: 0.4436, 内包後脚: 0.5378,放線冠: 0.601221,脳梁膨 大部: 0.4826 であり,ピアソン相関係数検定 で,いずれも統計学的に有意な相関を認めた。 皮質: 0.26315 で有意な相関を認めなかった。 中年以降での加齢による FA 値の変化は軽度で あり,40 歳以降,50 歳以降,60 歳以降でのピ アソンの相関係数検定で,明らかな有意差を認 めなかった。 年齢群別の FA 値について表 1 に示す。皮質 と主要な白質構造では,明らかな FA 値の違い を認めた。主要白質間の関係では脳梁膨大部が 大きく,中小脳脚,内包後脚,放線冠はほぼ同 程度の値であり,大脳脚はやや低値を示した。 また脳梁膨大部,大脳脚は他の構造に比し,標 準偏差が大きかった。 Ⅱ.中枢神経領域における臨床応用 A.変性疾患(多系統萎縮症,遺伝性脊髄小脳 変性症) 疾患群の中小脳脚の FA 値(平均値±標準偏 差)であるが,SCA2 : 0.51 ± 0.10,SCA3 : 0 . 5 8 ± 0 . 1 2 , S C A 6 : 0 . 7 1 ± 0 . 0 4 , M S A (OPCA): 0.50 ± 0.06,MSA(SND): 0.54 ± 0.06,DRPLA : 0.76 ± 0.00 であった。FA 値は SCA6 および DRPLA が他の疾患群に比し高く, 拡散の異方性が保たれていた。SCA2,SCA3, MSA の FA は,SCA6 や DRPLA に比し低下し ていたが,これらはほぼ同程度の値をとった。 B.他の疾患

脳腫瘍症例では全例で,病変部に一致して FA 画像での FA 値の低下を定性的に確認ができ た。また腫瘤効果による白質構造の偏位につい

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図 1.正常例における,年齢と主要構造の FA 値(A :全年齢 B : 30 歳以下)

2 歳までは主要白質構造の FA 値は急激に上昇する。その後,緩やかに 30 歳程度まで,上昇 傾向を認める。中年以降での加齢による FA 値の変化は軽度である。

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ても,観察可能であった。腫瘤周囲の浮腫また は浸潤を思わせる造影効果を持たない T2 強調 画像での高信号域に一致した領域では FA 値の 低下を認めたが,浸潤もしくは浮腫を鑑別する ような所見は明らかでなかった。 多発性硬化症では,全例で T2 強調画像での 白質の異常信号に一致した FA 値の低下を認め た。また 1 例では,T2 強調画像では明らかで はない領域に ovoid 状の FA 値の低下領域を指 摘でき,病変が疑われた(図 2)。 発症 16 日目に,撮像された DTI において, ワーラー変性に対応する FA 低値の所見を認 め,これは通常の画像では,指摘困難であった (図 3)。 トルエン中毒の 1 例では,T2 強調画像では 両側中小脳脚における異常信号域は指摘できた が,テント上の大脳深部白質での異常信号は不 明瞭であり,診断に苦慮した。FA 画像を作成 し,両側の中小脳脚および放線冠の FA 値を測 定し,正常例でのデータより得た正常群の中小 脳脚の FA 値の正常値(0.66 ± 0.06),放線冠 (0.65 ± 0.06)との比較では,両構造で 2SD 以 下の FA 値の低下(中小脳脚: 0.43,放線冠 0.46)を認めた(図 4)。 図 2.多発性硬化症の DTI A : T2 強調画像 B : FA 画像 右半卵円中心には,T2 強調画像での高信号域を認め,プラークと考えられる。それに一 致して,FA 画像での低値を認める(矢印),左半卵円中心にも ovoid 状の FA 低値の領域 を認め(矢頭),T2 強調画像上では同定されないプラークを疑わせる所見である。 表 1.各年齢群と主要構造の FA 値 FA 値は平均値±標準偏差を表している。皮質と主要な白質構造では,明らかな FA 値の違いを認めた。 主要白質間の関係では脳梁膨大部が大きく,中小脳脚,内包後脚,放線冠はほぼ同程度の値であり,大 脳脚はやや低値を示した。また脳梁膨大部,大脳脚は他の構造に比し,標準偏差が大きかった。小児で は髄鞘化を示唆する小児期の FA 値の上昇,中年以降では加齢性変化を思わせる FA 値の軽度の低下傾向 を認める。 n 中小脳脚 大脳脚 内包後脚 放線冠 脳梁膨大部 皮質 infant (0 ∼ 23 m) 9 0.52 ± 0.05 0.50 ± 0.07 0.54 ± 0.07 0.54 ± 0.07 0.63 ± 0.09 0.10 ± 0.02 child (0 ∼ 12 y) 11 0.59 ± 0.04 0.55 ± 0.05 0.56 ± 0.04 0.57 ± 0.04 0.65 ± 0.06 0.18 ± 0.06 adolecents (13 ∼ 18 y) 3 0.67 ± 0.07 0.58 ± 0.09 0.64 ± 0.04 0.66 ± 0.05 0.72 ± 0.02 0.13 ± 0.03 adult (19 ∼ 44 y) 18 0.66 ± 0.04 0.59 ± 0.05 0.65 ± 0.05 0.65 ± 0.05 0.76 ± 0.08 0.16 ± 0.05 middle age(45 ∼ 64 y) 26 0.65 ± 0.04 0.60 ± 0.07 0.66 ± 0.07 0.65 ± 0.06 0.72 ± 0.08 0.16 ± 0.05 seniors (65 ∼ 79 y) 9 0.62 ± 0.04 0.61 ± 0.08 0.64 ± 0.07 0.60 ± 0.06 0.65 ± 0.06 0.13 ± 0.05

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考  察 I.FA 値の正常値および加齢による変化 正常の MRI における加齢性変化は,白質に 注目した場合には,小児(2 歳以下)の髄鞘化 過程における T1 強調画像および T2 強調画像 による,コントラストの変化と,高齢者で認め る生理的加齢による白質の変化が挙げられる。 それらは,定性的評価であり,診断はある程度 主観的である。また機種や撮像条件により画像 は変化する。また,1 軸の MPG を印加した, 拡散強調画像で異方性を評価した報告は多い が,この撮像では撮像スライス断面の変化によ り,異方性の指標が変化することが報告されて いる12) DTI では,FA 画像により,白質に相当する 図 3.右被殻出血症例 A :発症 16 日後 T2 強調 画像 B :発症 16 日後 FA 画像 C :発症 285 日後 T2 強調画像 発症 16 日目では右大脳脚に明らかな異常 所見を認めないが,FA 画像では同部位は FA 低値となっている。発症 285 日後では 右大脳脚に T2 強調画像での高信号域が出 現しており,Waller 変性に対応しているも のと考える。

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拡散の異方性を,神経線維方向によらず,ほぼ 客観的に評価が可能である。また定性的評価に 加えて,定量的な評価が行える。既に新生児, 乳児における髄鞘化の評価では有用性が示唆さ れている16,17) DTI による拡散の異方性の評価を行うために は,正常例の値および生理的変化を知ることが 必要である。本検討では,DTI を用いた異方性 の評価が行われていない正常例の乳児以降の症 例も検討し,正常値および生理的変化を決定し た。生後 2 歳程度までは加齢に従い主要白質の FA 値の急激な上昇を認め,従来の報告17)と同 様であった。画像の定性的評価でも,通常の撮 像と異なり,コントラストの変化がなく,定性 的な画像も小児の髄鞘化の評価に有用であると 考えた。小児から青年期にかけては,FA 値の 定量的評価では,30 歳程度まで,緩やかでは あるが,上昇傾向を認めた。組織学的な髄鞘化 は 30 歳∼ 40 歳台まで進むことが報告されてお り19),これに相当するものと考えた。また定 性的にもある程度評価可能であった。60 歳以 降では,統計学的に有意差を認めなかったが, FA 値の軽度の低下傾向を認め,加齢に伴う白 質の変化を見ているものと考えられた。加齢に 伴い,通常の T2 強調画像では,主に大脳深部 白質に高信号域を認める。今回の対象症例はそ れらの軽微なもののみを対象としたために, FA 値の年齢による変化が軽度であった可能性 があると考える。 II.臨床応用 A.変性疾患 遺伝性脊髄小脳変性症と多系統萎縮症は,小 脳失調を主訴の一つとする疾患群である。画像 所見としては,小脳の萎縮を認めるが,その小 脳の萎縮の背景としては様々な領域の障害が示 唆されている20)。小脳の萎縮の原因としては, 主に皮質性病変による萎縮,橋核小脳求心系に 対応する中小脳脚から小脳白質の障害による萎 縮,歯状核遠心系の障害による萎縮が挙げられ る21) 最近では遺伝子解析の進歩により,遺伝性脊 髄小脳変性症の中で,遺伝子診断が可能となっ ているものもあり,本検討ではそれらの疾患も 含めて,その病理学的背景も含めて考察した。 遺伝性脊髄小脳萎縮症と多系統萎縮症の剖検に よる病理所見では,SCA2 では高度の橋核小脳 求心系の障害を認め,SCA3 では,その程度は 中程度であり,SCA6 や DRPLA では認めない。 MSA では橋核小脳求心系の高度な障害を認め 図 4.トルエン中毒の DTI A : T2 強調画像 B : FA 画像 本症例はテント上の病変が T2 強調画像で明ら かでなかったが,FA 画像で両側放線冠が正常 群に比し,2SD 以下の FA 低値を認め,定量的 に異常が示唆された症例である。

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る20,21)。この所見と今回我々が検討した DTI に おける FA 値との関係は,よく一致していた。 障害程度を定量的に評価することは,従来の MRI では困難であるが,DTI では可能であり, 有用性を示唆する結果と考えた。 B.他の疾患 脳腫瘍に関して,現在まで,DTI を用いて拡 散の異方性につき検討された報告はない。今回 の検討では,脳腫瘍症例では,全例で病変部に 一致した FA 値の低下を定性的に観察しえた。 これは,腫瘍による正常構造の破壊や浮腫によ り,拡散の異方性が失われたためと考えられた。 また腫瘤効果による白質の偏位が観察された。 通常の MR 画像でも観察は可能であるが,形態 的な診断に加えて,拡散現象という機能的側面 で,白質の偏位を観察できることは,診断的な 付加価値となる可能性があると考えた。今後の 課題としては,浮腫と腫瘍の浸潤の鑑別があげ られるが,これは病理所見と画像所見の対比が 必要であると考える。 多発性硬化症では,DTI を用いた報告がすで にあり,病変の活動性との関連も示唆されてい る13)。また多発性硬化症での FA 値低下の原因 としては,脱髄による異方性の低下と考えられ ている。本検討では症例が少なく,また活動性 の乏しい症例の撮像であったために,それらの 傾向は明らかではないが,病変の感度が高い傾 向がある可能性が示唆されたと考える。 2 次変性である錐体路の Waller 変性の MRI 所見としては,脳幹部における,プロトン密度 強調画像での低信号,T2 強調画像での高信号 化 , 患 側 に 一 致 し た 萎 縮 な ど が 知 ら れ て い る22–24)。これらの変化は,最短で 25 日と報告 されている23)。また 25 日で認めた,プロトン 密度強調画像での低信号化は,その後経時的に 信号が上昇し,“fogging effect”として,所見 が明らかでなくなることが知られている22–23) 拡散の異方性を利用した 2 次変性の観察で,異 常所見を呈することは知られているが25),そ の時期についての詳細な報告はなされていな い。我々の結果では,従来の MR 所見よりも早 く(発症 16 日目),FA 画像で Waller 変性の所 見を定量的にとらえることができた。拡散の異 方性には軸索流が関与している可能性が考えら れている25)。我々の検討では FA map での異常 所見を発症早期に認めなかったことは,当院で の撮像条件では,軸索流を検出できていないと 考えた。 トルエン中毒の 1 例では,通常の撮像法では 明らかではない白質病変を FA 画像での定量的 評価により,指摘できた。これは,FA 画像の 病変の検出感度の高さを示唆するものと考え た。 本検討では,DTI を用いた拡散異方性の評価 を,492 例で検討を行った。これにより,FA 画像での正常像および正常値を把握し,加齢性 変化を明らかにした。また,脊髄小脳変性症に おける拡散異方性の定量的評価の有用性,脳腫 瘍,多発性硬化症,シンナー中毒における拡散 テンソル画像の定性的,定量的変化を明らかと した。その結果として,DTI は定性的および定 量的検討において,特に髄鞘化の評価,両側対 称性の白質病変を有する疾患,変性疾患で有用 であると考えた。 文  献

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application of three-dimensional anisotropy con-trast magnetic resonance axonography. Techni-cal note. J Neurosurg 1999; 90: 791–795.

(10)

Diffusion-tensor MR Imaging: Clinical Application in Central Nerve System

Keiichi ISHIGAME1), Tsutomu ARAKI2), Shigeki AOKI3), Takehara YOSHIKAWA3)and Akira YAGISHITA4)

1)Department of Radiology and Nuclear Medicine, Akita Research Instool of Medicine, Tokyo University and 2)Department of Neuroradiology, Tokyo Metropolitan Neurological Hospital

Abstract: Our goal is to establish a normal standard and show the clinical usefulness of diffusion tensor imaging

(DTI). Brain DTI and routine MR imaging were performed in 492 cases. The fractional anisotropy (FA) of normal in-tracranial structures and lesions was calculated. In normal cases, we assessed the standard values and aging changes of FA in normal structures. In patients with spinocerebellar degeneration, we identified FA changes matched with pathological knowledge. In all patients with brain tumor, a decline in the FA value was shown, and displacement of white matter structure by a mass effect was observed. In patients with wallerian degeneration, the FA map was more sensitive than conventional MR images. Additionally, FA was abnormal in various brain diseases (multiple sclerosis and toluene poisoning) that showed subtle/no changes on routine MR images. DTI was clinically useful in diagnosis of myelination, symmetrical white matter and degenerative diseases in particular.

参照

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