はじめに
NHKの福祉キャンペーン「NHKハート・プロジェク ト」では、すべての人が手をとり合い、ともに生きる豊 かな社会の実現を目指し、全国で様々な番組やイベント を展開している。2006年名古屋造形芸術大学は、この 福祉キャンペーンの一環としてNHK名古屋放送局が主 催した「もっと、たすけあい。」に協力することとなっ た。大学が企画の初期段階から積極的に関わり、学生に は作品発表の他、放送局の様々な仕事を知る機会が提供 された。「もっと、たすけあい。」とは、アートを通じて 「たすけあう心の大切さ」を多くの方々に伝えていこう というものだ。私達は、このテーマについて学生が制作 した作品を一冊の本「たすけあいBOOK」にして無料 配布した。掲載した個々の作品などについては、「たす けあいBOOK」を参照していただくこととして、ここ では、半年以上にわたる取り組みを、準備段階も含め大 学側の視点で紹介したい。この取り組みは、学内では 「実技・学外実習」のインターンシップとして単位認定 された。したがって、インターンシップの側面からも、 このプロジェクトを振り返る。そして、本学のような美 術系大学におけるインターンシップの可能性に関わりが あると考えられることについて、時間軸に沿って次のと おり記述する。 (1)人・コラボレーションプロジェクトの目的 (2)「たすけあいBOOK」掲載作品が出来るまで a.インターンシッププログラム交渉 b.福祉フォーラム「ともに生きる」 c.福祉施設などを見学する d.社会貢献の実際を学ぶ e.作品を発表する (3)インターンシッププログラム a.「中学生日記」制作現場を知る b.放送局美術部の仕事を知る c.放送局事業部の仕事を知る d.「たすけあいBOOK」を作成する e.「たすけあいBOOK」掲載作品を展示する (4)大学と放送局の連携、その反省から学ぶこと a.時間調整の難しさ b.インターンシップ事前指導の必要性 c.著作権侵害や営業妨害にならないために d.個人情報の取り扱いと守秘義務 e.共同プロジェクト立ち上げの基準 (5)企業、他大学との連携の可能性(1)人・コラボレーション
プロジェクトの目的
本学建学の精神「ともなるいのちを生きる」を解釈す るとき、立場や考え、経験によって様々な捉え方ができ る。この言葉をめぐる緩やかな集中は、現代を生きる私 達に生きる知恵を教えているように思われる。他者を理 解しようとすること、その過程で物やお金では得られな い豊かさを知ることがある。他者を少しでも思いやると、 そこに新たな価値観が生まれ、力を合わせることができ る。不可能と思われることの中に実現できる可能性が生 まれてくる。社会や組織の一部分がこのように変わるこ とで良い循環が生まれてくる。私達はそのように生きて きたし、これからも皆がそう考えれば、その様に生きる ことができる。 個人主義という言葉があるが、個人で出来ることは本人・コラボレーションプロジェクト
―インターンシッププログラムの可能性―
The Collaboration Project with Person
The Possibilities of Internship programs
日比野ルミ
Rumi Hibino
特別研究 2006年度ての「学び」、「学生」による「作品づくり」、「たすけあ い啓蒙活動」としての「アウトプット」が基本の柱とな っていた。学び、作品づくり、アウトプットの三本柱は、 私などが考えるところでは、「制作」としての一本柱に なる。美術とは、3つの要素が絡み合って不可分である ことが本来の姿だと考えている。とは言え、実例を示さ ないまま、それを伝えることは難しい。また、企画書で 訴えるには、3つに分けたほうが分かり易い。それに NHK担当者の、この企画にかける意気込みは特別なも ののように感じられた。端的に言って、「たすけあい BOOK」掲載作品をプロに頼むと経費が膨らむので、 学生に制作してもらうということだったのかもしれな い。かわりに、学生には学ぶ機会、放送で作品が紹介さ れるなどの機会が与えられれば良い経験になるではない かという趣旨にも捉えられた。そうならば、大学が受け ることは無かっただろう。しかし、後に事業部の方の話 を聞く機会に、むしろ放送局のほうが、一緒に作ってい くことを期待していたのだとわかった。また、以前に協 力した際の反省を踏まえて企画されていたところに誠意 が感じられた。個人的には、前述の「一本柱」の実例を 示したいという思いが片隅にあった。 数年前に、歳末たすけあいのキャンペーン企画として、 ワークショップをお手伝いしたことがあった。その折、 学生がボランティアとして運営に関わった。学生達は喜 んでやっていたことではあるが、大学はまだ後期授業日 程の重要な時期であり、他大学と違って、本学のスケジ ュールは、かなりタイトであったこともあり、学業への 影響が懸念された。 その反省から、本学造形芸術学部の「実技・学外実習」 と短期大学部の「課外実技・演習」でのインターンシッ プとしてNHK名古屋放送局に受け入れてもらうよう模 索した。NHKは通常、このような申し出を断っている そうだ。しかし、何度かの交渉の末、NHK担当者の内 部調整の労もあり、今回限りの受け入れが決まった。 「平成18年度インターンシッププログラム(就業体験実 かし、共存することも、一人ひとりが成長し、豊かに生 きるためには重要な要素である。 「人・コラボレーションプロジェクト」はこのような 考えをベースにしている。学内で活動したり必要な資金 を得るためには、プロジェクトとしての名称や活動主体 がまずは必要になる。何をするか(何を選ぶか)は状況 によるが、「場」を作る必要があった。当時、コラボレ ーションというと、異分野の知恵をあわせ複数の人間が 協力して出来る「結果としての事物」に、どちらかと言 えば注目が集まっていたように思う。しかし、このプロ ジェクトの目的は「人との関わり」である。人が関わり あう過程の中に学生の成長の場(同時にそれは教員の成 長の場)があると思われた。「結果としての事物」は、 どんな内容でもプロジェクトになる可能性があった。 継続的に様々なコラボレーション企画を実施していく 可能性を考慮して、学内でのプロジェクトの立ち上げに 際し簡単な方針を定めた。 1.人との出会いをつくる 2.学内全体に参加のチャンスがあるものとする 3.あまり大掛かりな予算を必要としないものとする 4.学生の授業出席を妨げないスケジュールにする 実際に、これら4つの方針を実行するためには、かなり 周到な準備をしなければならなかった。5番目があると したら、「担当者の準備等が大学業務を妨げないこと」 を加えたい。 2006年の「人・コラボレーションプロジェクト」は、 たまたま3月に打診のあったNHK名古屋放送局との企 画に取り組んだのだが、年度ごとの教育的内容を含む企 画としては、タイムリミットぎりぎりの出発でもあった。 だが、NHK名古屋放送局側としては過去の事例よりも 半年早い打診だった。しかも、内容には相当な教学的効 果が期待できた。ただ、私がこのような前例を知らない こと、学内組織が様々変化していた時期で予測困難なこ となどから、調整で難航することが予想された。覚悟を しなければ踏み出せなかった。
習)実施に関する契約書」を取り交わした。それには、 NHK名古屋放送局が主催するイベント「もっと、たす けあい。」に参加するにあたって、「平成18年度インタ ーンシッププログラム(就業体験実習)」を実施すると 明記されている。つまり、この事例は一年限りであり、 インターンシップを受け入れる理由は「NHK名古屋放 送局主催のイベント参加」のためということだ。それで も、学生にとっては貴重な機会であった。 b.福祉フォーラム「ともに生きる」 7月に、小牧キャンパスD101教室で福祉フォーラム 「ともに生きる」を開催した。町永俊雄アナウンサーの 司会で、東京大学の山本良一教授に、環境や経済で何が 起きているのかを、グローバルな視点から実際のデータ をもとに詳しく話していただいた。 山本良一教授は、著書「+2℃」「世界を変えるお金 の使い方」の内容を、さらに分かりやすく話して下さっ た。最初はクイズ形式で、「100円でバングラディシュ のストリートチルドレン何人がコップ一杯の牛乳を飲む ことが出来るか」(答えは20人)や、「100円で内モンゴ ルのホルチン砂漠に植えるポプラ苗木が何本購入できる か」(答えは10本)などが出題された。環境問題に関し ての、深刻な地球温暖化の状況についての説明には、会 場にいた学生の多くに深い印象を与えたことがアンケー トの結果から読み取れる。 福祉フォーラムの準備は、大学業務の合間に小牧キャ ンパスとNHK名古屋放送局を行き来して行なった。こ の段階では、まだ学生は誰もいない状態だった上、どん な学生が関わるのかイメージできなかった。でも、「た すけあいBOOK」に関わる学生を、この福祉フォーラ ムで集めたいと考えていた。準備のために協力して行っ たことは以下の通りである。 ・講演者候補を決め、資料にあたり、お願いに伺う ・学生周知のための活動 ・会場、スタッフの確保、段取りなどの打ち合わせ ・当日の構成表(タイムテーブル、台本など)の作成 ・パワーポイントなどのプレゼン資料、機材準備 これらを日常の大学業務と両立させようとしたことは、 実際に様々な問題を誘発したものの、NHK事業部の仕 事を知ることができ個人的には学ぶことが多かった。 また、この福祉フォーラムの様子は、TVカメラ、音 響設備を入れて収録していた。放送される可能性があっ たため、特別に学内関係各所に了解を得てチャイムが入 らないように調整していた。ところが、収録中に教室前 の廊下の先で数人の学生が大きな声をあげるという予期 せぬことが起きた。D101教室の廊下は反響しやすい場 所であったため、収録講義中の教室内にも声が響いた。 おそらくマイクが外部の声をひろったことはプロの方々 は、すぐに判ったのだろう。その直後から、司会者は公 共放送では使わない会社名を繰り返し使われた。それは、 この収録は放送しないというサインでもあった。講師の 方のお話が良かっただけに、こちらのミスが悔やまれる。 会場選び、会場付近の管理が行き届かなかった。 他にも企画の失敗が幾つかあったが、講師、司会者と もに素晴らしく、こちらの失敗のフォローまでしていた だいて福祉フォーラムは終了した。この機会に造形芸術 学部と短期大学部、大学院より「もっと、たすけあい。」 に関心を持った21名の学生、院生が集まった。 c.福祉施設などを見学する 8月から10月上旬にかけて、小牧キャンパスで4回 のミーティングを行った。その初回の8月7日午前、私 達は福祉施設などを見学し、午後には「たすけあい」や ボランティアの意味について考えた。 社会福祉施設には児童施設、障害者施設、高齢者施設 がある。私達が最初に訪ねたのは知的障害者の施設であ った。そこは、通所者26名、スタッフ15名の施設で、 知的障害者が働いて自立することを支援している。歳末 たすけあいの義援金から、通所者の送迎や商品の配達に 使うワゴン車を支援してもらったそうだ。 そこでは、パンやクッキーを作る仕事や、屋外で空き 缶を潰す作業が行われている。また、反物の芯や縫製品 を作っている。商品をパチンコの景品にしたり、店にお いてもらうなどしている。平日4時間労働により一ヶ月 で約1万円の収入になる。この施設で受け入れている八 割の人が重度障害である。それまでに雇用支援センター の支援を得て、施設から4名が就労している。なかなか 雇用の機会がないのは、やはり受け入れる場が社会に少 ないことが考えられる。 実際にそこで働く人々に話を聞くなどすると、自分の 生活との違いも多く、自分には何が出来るのかというこ とに学生達は関心を持ち始めた。おそらく、殆どの学生 が、そこは非日常空間と感じたに違いない。もちろん非 日常性を感じるのが悪いわけではないが、そこに社会の 問題が隠れている。 次の目的地までの移動バスの中で、愛知県共同募金会 人・コラボレーションプロジェクト
くりの指標が国民総幸福量なのだそうだ。一般には GNP(国民総生産)などが使われるが、この国は「何 をもって幸福か」を基準としている。具体的には仲良く 暮らすことと文化を守ることだそうだ。 このあたりから、話題は「何がたすけあうことになる のか」を具体的に考える段になっていった。「社会貢献」 というと縦の関係で与えることが多いという感覚を持 つ。「たすけあい」は助け合う相互の役割についての言 葉であり、コミュニケーションが重要だ。相手のことは 聞かなければわからない。具体例としては、聴覚障害者 がカラオケを楽しんだ例が挙げられた。一般的に私達は 聴覚障害者をカラオケに誘うことは殆どない。本人が楽 しめないだろうと思うからだ。ところが、実際に健常者 に混じってカラオケに行った聴覚障害者がいた。カラオ ケの歌詞を見て手話表現を健常者に教えるなどして、み んなが楽しめたのだそうだ。 また、ホスピスで、治る見込みのない患者を介護する 人に質問したところ、何が一番難しいかという問いに、 「何もしないこと」という答えが返ったという。ホスピ スでのボランティアは、相手の役に立つことが自分のや りがいであり、相手の気持ちに添うことを心がける。役 に立ちたくて何でもするつもりで来ているのに、患者は そっとしておいてほしいと考えている。そこにはコミュ ニケーションが必須である。 これらの事例は、すべて障害者や患者に限られること ではなかった。その日の最後に、高橋陽子氏は知的障害 者の作品について語った。「彼らの作品には固定観念が ない。また、彼らは表現手段が限られ、人の評価に興味 がない。」高橋氏は、いわゆるアールブリュットの作者 を「付加価値」をつけるかたちで社会に送り出す仕事を されている。美術系大学とは違う視点に立ち、美術をも うひとまわり広い視野で見ておられる。自信に溢れ、輝 いてみえた。 8月22日の第2回ミーティングでは、「寄付が潤す社 会と人のこころ」というタイトルで、高橋陽子氏に寄付 次に私達は、日本赤十字愛知県支部を訪ねた。日本赤 十字では、海外の救援活動に対する支援を行っている。 共同募金会では主に物資の支援であるのに対し、日本赤 十字では、活動の支援を行うということだった。世界中 のニーズに対して、毎年8千万規模の予算を定め、委員 会を設け、話し合いによって配分を決めている。長期間 継続して支援していかなければならないものがあるた め、その配分は常に難しい問題を抱えている。 実を言えば、私自身、募金活動には懐疑的な思いを持 っている。一つには、それがどのように使われているの か、募金をする側には見えにくい。透明性を持っていて も、遠い感覚は拭いきれず、もっと直接的に見えてくる と良いと感じる。集まった義援金が適切に使われている ことを証明するのは根本的には難しい。だからこそ、公 共放送局がキャンペーン企画を行うのかもしれない。 d.社会貢献の実際を学ぶ 午後のミーティングでは、日本フィランソロピー協会 理事長の高橋陽子氏に、「たすけあい」の意味について 学生と話していただいた。そこでは、学生が福祉施設や 日本赤十字を訪問して得られた率直な感想を述べ、そこ から「たすけあい」や、ボランティアについて考えを深 める話し合いが始まった。 感想の中心は、見学した福祉施設の生活が、自分たち の価値観に照らし合わせると、気の毒に感じるというこ とだった。しかし、高橋氏は、違っていることをどのよ うな工夫で乗り越えているのか実例を挙げて話された。 例えば、障害者が運営するコインランドリーでは、障害 者だからと言って価格を安く設定すると、他の業者に受 け入れてもらえない。したがって、付加価値をつけて価 格を高く設定する工夫がなされている。この例での付加 価値とは、クッキーやお茶のサービスをするとか、衣類 を届ける、ほころびを直すなどのサービスである。また、 受け入れる側の工夫も紹介された。例えば、信楽焼の会 社では、障害者に土をこねる仕事をしてもらっているが、 約10%の材料が彼のいたずらや失敗で使えない。その
についての講義をしていただいた。 アメリカの金融教育では、S(save 貯める)O(offer 提供する)S(spend使う)が美徳とされている。また、 募金が目的のために確実に、信頼を損なわないように使 われることが大切である。ボランティアであっても、維 持するお金、移動のお金は必要である。それらの管理、 経営を含め、組織的に動く必要を高橋氏は語られた。 e.作品を発表する 福祉施設訪問や、社会貢献について調べることは、学 生にとって有意義なことではあったものの、それをきっ かけにして制作するのは、かなり難しいことのように思 われた。参加者に1、2年が多く、ほとんどの学生は、 コンセプトを形にする段階で自分なりの切り口を見つけ ることに慣れていなかった。これまで形あるものを見て 描き、制作してきた学生にとっては、特に難しかった。 何が問題なのか、どんな方法があるのか、そして自分に は何が出来るのかを、それぞれの立場で一生懸命考えた。 しかし、「こと」を形にするのは困難だった。村越昭彦 教授や伊藤豊嗣教授のアドバイスを受けながらではあっ たものの、個々の作品制作は難航した。中間発表では、 どの学生も悩むことが多かった。 夏休みに制作し、10月初旬の芸術祭において、C601 教室で作品を発表した。展示作業の中で、ようやく学生 達にも全体象が見え始め、活気が増してきた。お互いの 作品を眺めながら、学生は何かを感じたらしい。一度展 示したものを持ち帰り、展示期間中も毎晩描き続けた人 がいた。発表最終日の高北幸矢学長の作品批評に勇気付 けられ、「たすけあいBOOK」の作成に向けて学生達の モチベーションは高まった。その翌日に、プロカメラマ ンが「たすけあいBOOK」作成のために展示作品を撮 影した。学生は冊子のイメージを話し合い始めた。
(3)インターンシッププログラム
芸術祭以降、学生はインターンシッププログラムとし てNHK名古屋放送局で「たすけあいBOOK」の編集、 作品展示などに参加した。また、放送局の仕事を見学し た。 a.「中学生日記」制作現場を知る プログラム初日は、「中学生日記」の収録が行われて おり、番組ディレクターに話を聞くことができた。番組 を作るのには、照明設置、セットの組み立て、小道具等 の配置、技術、撮影などの担当者と打ち合わせを行う。 ディレクターにはプログラムディレクターとフロアディ レクターがいるが、プログラムディレクターだけが、番 組の最初から仕上がりまで関わることが出来るそうで、 ご本人が仕事を楽しみ、充実した様子がうかがえた。ま た、番組制作のこだわりなどを話していただいた。さら に、実際に収録中の現場を見学した。スタジオの中は大 道具、小道具、ケーブルなどがあちこちにあり、役者、 スタッフの方々の緊張感が伝わってきた。 b.放送局美術部の仕事を知る 2日目は、美術系大学出身の美術チーフディレクター にお話を伺った。約20年間ドラマなどのセットを制作 してきたそうだ。TV局の美術デザイナーはセット作り の実作業は行わない。計画や企画を担当し、音楽や台本 などを元にしてイメージを具現化するのが役割である。 ファインアートは、それに加えて個性が必要と考えられ ている。この仕事にはスケッチの力が必要だ。アートデ ィレクションに最も必要なことは何かという質問に対 し、「技術よりも、やわらかい発想とプレゼンテーショ ン能力」と答えられたことが印象に残る。 c.放送局事業部の仕事を知る 3日目には「たすけあいBOOK」企画者でもある NHK担当者が、所属する事業部の役割や仕事について 話して下さった。まず、事業部の仕事は演劇、コンサー ト、展覧会などのイベントを企画することが大半を占め る。イベントの目的は、非日常空間を作り日常では得ら れない感動を与えることだ。例えば、のど自慢や紅白歌 合戦などの公開番組(公開収録)を企画する。また、展 覧会や博覧会を企画する。主に価値の定まった美術品や 歴史的意義のあるものを扱う。また、教育テレビ関連の 子供や青少年向けのイベント、スポーツイベントなどを 企画している。 人・コラボレーションプロジェクト 学長による作品批評学生の学びや工夫、制作での挑戦を損なうことは極力避 けたかった。したがって、学生の進捗状況をみながらの 企画運営になった。そこでは辛抱強く待つことが要求さ れる。状況が見え、そこから計画するまでの時間は非常 に短く、プロジェクトの成功を左右する内容が含まれて いるだけに、簡単に済ませることもできなかった。 この状況を受け止め、学生達の表現力を引き出すこと ができたのは、NHKとNZUの信頼と忍耐を前提とした 連携による。また、参加した学生は専門や制作経験が異 なっていたが、自分に出来ることを探して実行する行動 力は実にすばらしく、「たすけあいBOOK」作成に力を 発揮した。つまり、関わったすべての人が「たすけあい」 を精一杯実践したと言える。時間調整の難しさが、たす けあいによって今回は克服された。 b.インターンシップ事前指導の必要性 放送局で仕事をするには、学生でも最低限のマナーを 身につける必要が出てくる。本学は他の企業にもインタ ーンシップを受け入れてもらっているが、その際には、 学生を選考した後、事前・事後の指導を行っている。事 前指導は、挨拶の仕方、敬語の使い方、電話の取り次ぎ 方などを一通り学習するほか、前回のインターンシップ の経験者に受け入れ先での様子を聞くなどの機会を設け る。事後指導は、報告書作成とともに、後輩に経験した ことや学んだことを伝えるというものだ。本学の新カリ キュラムでは、「キャリア開発の基礎、展開、実践」が 予定されている。インターンシップ希望者は一部を履修 するなどすれば、現場で指導することは減少するだろう。 c.著作権侵害や営業妨害にならないために 「たすけあいBOOK」に掲載した作品に、大手飲料 メーカーの自動販売機を使った表現があった。この作品 は缶ジュースと並列して、寄付を意識させるものだった。 学生の考えは、「100円で何が出来るか」という福祉フ ォーラムの内容を温めていたことから展開している。し かし、NHK名古屋放送局主催の企画で冊子に掲載する ためには、著作権などを含め確認が必要と判断した。 く福祉プロジェクト(ハート・プロジェクト)である。 d.「たすけあいBOOK」を作成する 「たすけあいBOOK」の編集作業は放送局の仕事を 知るのと平行して進んだ。学生がアイデアを出しあい、 内容をまとめていった。共同作業として、表紙につかっ た「もっと、たすけあい。」の文字は、文字一つずつに 担当者を決めて形を考えた。後でそれを合成してタイト ルとした。また、最終ページには、この企画に関わった 人々の似顔絵を皆で描いた。お世話になったところの建 物や大学も描いた。 また、11月から12月にかけて「たすけあいBOOK」 の掲載作品がTV放送で紹介された。 こうして、11月下旬に「たすけあいBOOK」は完成 した。12月1日から25日まで、NHK名古屋放送局1階 で作品を展示し、「たすけあいBOOK」を来場者に無料 配布した。 e.「たすけあいBOOK」掲載作品を展示する 実は、NHK名古屋放送局での作品展示は、当初の予 定には無かったことだ。だが、「もっと、たすけあい。」 はNHK内で評価され始めていたようで、新たな展開と なった。C601教室で展示した作品を、NHK名古屋放送 局で再度展示することになり、学生にはインスタレーシ ョンを学ぶ良い機会となった。
(4)大学と放送局の連携、
その反省から学ぶこと
a.時間調整の難しさ 教育機関では事前に授業計画の大部分を整えて臨む。 それでも、ぴったりと計画通りに進めることは少なく軌 道修正を臨機応変に行うのが常である。今回の「もっと、 たすけあい。」では、初めて行うことを計画しながら、 その計画中に何度も軌道修正して進むという状態が、長 期にわたり続いた。大学窓口となる私にとっては重圧の あるものだった。まして、私自身はコース実技担当者と しての仕事を平行して行っている。隙間のないスケジュNHK担当者が企画主旨を説明するとともに、作品写真 をメーカーに送り、回答を待つこととなった。結果、 「企画内容全体については賛同する。ただし、当社商品 はあくまで商品であり、寄付を誘発するものではない。 しかし、学生の作品であるので、NHKの企画であるこ とを尊重し社内周知を行い、そのことが問題にならない ようにする。」との返答だった。 このことを事後に参加学生全員に伝えた。この頃には、 その作品は作者だけのものではなく、皆自分のことと捉 えられるようになっていた。NHK担当者から、郵送し た資料や、やり取りの詳細が説明された。今後、大学で 本プロジェクトのような事例が増えるのであれば、制約 を設けるのではない方向性で、著作権などの基礎知識に ついて学ぶ機会があると良い。 d.個人情報の取り扱いと守秘義務 複数の組織で事業を進めていくためには、情報のやり 取りが必要になる。それぞれに守秘義務によって守られ ている情報もある。学生にその意識が薄いと、悪気のな い行動であっても、問題となる場合が想定される。メー ルによって瞬時に全員連絡が可能になっている今、事前 にこれらに関する学習の場が必要である。 e.共同プロジェクト立ち上げの基準 ありがたいことに、本学には様々な共同プロジェクト の誘いが寄せられる。しかし、全ての組織団体と共同で 事業を行うことは不可能だ。大学は教育研究機関であり、 学生は学ぶために大学に在籍している。共同で事業(授 業)を行う際には、大学にとって教学的な利点があるか どうか慎重に判断したほうが良い。特に実技科目のある 本学のような大学では、学業や研究が妨げられるようで は本末転倒である。「NHK名古屋放送局」とのプロジェ クトは学内では魅力的に捉えられ、多大な協力も得られ たが、本来は実施内容で評価されるものである。